シナリオ詳細
崩壊世界のディーヴァ
オープニング
●独唱
崩落。
落ちていく世界は止まらない。
崩壊。
壊れていく世界を見つめていた。
崩――。
瓦解していく世界は寄る辺なく。
縋るように手を伸ばした、意味はないと知りながら。
この”音がなくなった世界”に残った唯一の音は私の声だけだ。
その声ももう間もなく枯れはて潰れてしまうだろう。
そうなればもう何者も世界を救えない。
音楽だけがこの世界の崩落を留めるたったひとつの楔であるのだから。
夢も、希望も、運命も。
消えゆくように、カウントダウンは止まらない。
『――ッ』
力を振り絞っても、喉の奥からは掠れた吐息が漏れるばかり。
音楽が鳴れば地は轟くのを止めるだろう。歌が響けば天は堕ちるのを止めるだろう。
奏でてくれ。
響いてくれ。
届いてくれ。
切なる願いが誰かに届きますようにと、透明な声で叫んだ。
まだ、まだ、まだ。
私は歌える。
――なぜ、そうまでして歌うのだ?
”神様”が問うた。
なぜ? そんなの決まっている。
夢も、希望も、運命も。
消えゆくように、けれどまだ、消えてはいないからだ。
●神様と音楽
「音楽が得意な子達で向かってほしい世界がある。……急いで。残された時間は多くない」
『境界案内人』カストル・ポルックスが焦りを含んだ声で告げる。
その手には一冊の本が握られていた。楽譜のような様相ながら、重厚な装丁。
「この本の世界は元々音楽が溢れる美しい世界でね。けれど、ある時を境にどんどん音が消えていったんだ。……そして音が消えるのに伴って、世界は壊れていっている」
残った音はひとりの少女の歌声のみ。
重ねることも出来ない独唱は世界をどうにか繋ぎとめていたが、その歌声ももうじき潰えてしまうだろう。
「君たちにはこの世界で音楽を奏でてほしい。音楽があれば崩壊は一時的にでも止まるはずだ」
時間はない。
世界の運命が今にも決まろうとしている。
それでも、あえて「どうしてそんなことに?」と尋ねるならば――。
「神様が音楽に飽きたからだよ」
溢れる音楽が単調に聴こえて、繰り返されるだけのつまらないものに感じた時。
神様は酷く身勝手に、玩具でも壊すみたいに世界を壊した。
自分勝手だが神様とは往々にそういった存在なのだ。
けれど、だからこそ。
「そんな神様にこそ音楽が必要さ」
そうは思わない? と。カストルは特異運命座標たちを見据えた。
●世界が君に問いかけた。
――なぜ、そうまでして歌うのだ?
- 崩壊世界のディーヴァ完了
- NM名凍雨
- 種別リクエスト(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年07月22日 22時06分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
●世界の終わりと希望の歌
世界が堕ちていく、その事実にすらも音はない。
そのはずなのに歌が聴こえた。足音が聞こえた。
一定のリズムを刻む繰り返しのような軍歌の音色。
単調だろうか? そうかもしれない。けれど単調さが故に歌うのだとでもいうように。
「なぜ歌うのか、なぜ思うのか。まるで思春期のような疑問を持つ神様でありますね」
届いた声はほんの少しの呆れを含んでいて。
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は、崩壊した世界で蹲る少女を見下ろした。
「誰……?」
「自分はエッダ・フロールリジ。鉄帝の騎士(メイド)であります」
そう自己紹介を挟むと、エッダは再び軍歌を再開させる。
力強く、一定に、勇壮に。
エッダにとって魂を込めて歌える歌といえば軍歌だ。他の歌も嗜みとしては合わせられるが、今この場において大事なのは”それ”ではないのだろうから。
エッダが歌う軍歌のリズムを、メカ子ロリババアが正確な調子で刻む。
その隙にと『テント設営師』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)が少女に声を掛けた。
「もう大丈夫! 助けに来たよ! 貴女の歌が私達を呼んだから! だから世界の崩壊を止めるために私達に貴女を助けさせて!」
崩壊する世界をたった一人の誰かが支えている。そう聞いてしまえば力になりにいかずには居られない。その想いのままにこの世界に降り立ったフォルトゥナリアは真っ先に少女の介抱に走ったのだ。
「ひとりで世界を支えるのは大変だったよね……よかったら休んだ後に貴女の歌を教えてくれないかな」
「私の歌を?」
「うん!貴女の一番好きな歌を教えて? 私達で歌って世界を救おう!」
だからここで少し休んでてね、というとフォルトゥナリアは少女を守るように立った。
フォルトゥナリアの得意とする歌も行進曲。
リズミカルに、勇ましく。勇気を与えるような歌だ。
そしてそういう歌は総じて、ロバの蹄でリズムを取るのがよく似合う。
唇を開いて、歌を紡いだ。
メカ子ロリババアの踏み鳴らす蹄の音に合わせて心を奮い立たせるような行進曲(マーチ)を!
少女を庇おうとするフォルトゥナリアの様子を見て、神様が手をのばす。
それがまるで壊そうとしているように思えて、フォルトゥナリアはキッと神様を見据えた。
「……どうして庇おうとする」
「私には女の子の本当の気持ちはわからないけれど、それでもわかることはあるからだよ」
少女の想い。少女の覚悟。
彼女の歌を聴いたなら、この神様にはどうしてそれがわからないのだろう。
こんなにも雄弁に、こんなにもありありと。
歌にのって伝わってくるでしょう?
「崩壊の淵で彼女にとってできることがこれだったんだろうって。だから私達が来た。私達も歌う。貴方に世界を壊させたりしない」
エッダとフォルトゥナリア、ふたりの声が一定のリズムを刻んで響く。
天は少しずつ堕ちるのを止め、大地の地響きは少しずつ押し戻されていく。
「……何故?」
訝しむように神様はそういった。
「何故?」
エッダが繰り返すように問い直した。
紡ぐは軍歌。ただ歩き続ける為の歌。
歩く。
只管歩く。
止まるまで歩く。
人が人として生きる限り止められない歩み。
止まれないことを人は嘆くだろうか。では、もしも「今ここで止まれ」と言われたら?
それこそ奪われてはならない人の「生」だろう。
酷く不器用で、不自由で、それでも。
それこそが、そこに「在る」という証左に他ならないのだから。
「不自由な生に意味があるか?」
神様が問いかけた。
「そう思うなら、あなたも不自由な存在になってみればいい。きっと、歌でも歌っていないとやっていられなくなるであります。……楽しいでありますよ?」
青い瞳がまっすぐに神様を見た。
驚いたように瞳を瞬かせて、神様が呟く。
「……考えたこともなかった」
●世界の終わりとあなただけの歌
(音楽が好きだったのに、飽きちゃったのはなんでかしら)
『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)の疑問を代弁するように、『お茶会は毎日終わらない』有栖川 卯月(p3p008551)は神様に問いかけた。
「ねぇ! 神さま。あなたはなぜ飽きたと感じたの?」
有栖川 卯月という偶像(アイドル)は知っている。
音楽を形作るもの。それがそれに至るまでのこと。なにより、そこに込める想いにだって。
何一つとして同じものなんてない事を。
そして、それら全てが複雑に絡み合い、ひとつの音楽となるならば。
「この世に同じ音楽はひとつとしてないの」
長い年月を音楽と共に過ごした神様なら、誰より解っているはずなのに。
うーん、と悩まし気にうなっていたキルシェが、あ、と声を漏らした。
「飽きちゃったのは、もしかして聞くだけだったから? なら神様も一緒に歌えばいいのよ!」
そうだ、それがいい。そうすればきっと”神様だって一緒に”楽しいはずだ!
「初めまして! キルシェです! お名前、教えてください!」
そして一緒に歌いましょう! そうぐいぐいと神様ににじり寄るキルシェ。
対して神様はたじろぐように数歩、後ろに下がった。
「……名を、教える気はない」
「それならまず、私達の歌を聴いて? 教える気になったら教えてよ」
卯月が笑った。輝くように、花咲くように。
完璧な偶像(アイドル)の笑顔で。
まずは一音。
卯月の小さな唇から零れた音が歌になる。
アップテンポなリズムに合わせて、明るい音色が溢れだす。
ひとつひとつの音を丁寧に、大切に。
この音は私にしか出せない。この歌は、私にしか歌えない!
そう信じているから歌うんだ。世界で一つだけの私の歌を。
まずは、卯月自身が楽しむように体を揺らした。くるくるとステップを踏んで、胸に手を当てて。
紡がれた歌はなくならず、揺蕩うように空気を泳ぐ。
世界を救う歌を歌うのだ。
――終わりへと向かう世界に神聖なる救いの音色を、崩壊を止める旋律を!
やがて歌い終わった卯月の後を継ぐようにキルシェの歌声が重なる。
それは大好きなリチェとの定番のお散歩ソング。
道を跳ねながら歩くような、きらきらした宝物を探すような。
そんな明るく楽しい歌を歌う。
「リチェもいっしょに歌ってくれる?」
キルシェの愛モルのリチェも、鳴きながらお尻をふりふり。愛らしい仕草に思わずキルシェも笑みが零れる。
「ねぇ神様、お散歩の楽しいところって知ってる?」
まるで秘密でも教えるような、楽しげな声音でキルシェが言う。
あのね、お散歩の楽しいところはね――。
「歩きながら、いろんなものを見つけることなのよ!」
いつもの歩きなれた道が、たったひとつの”発見”でがらりと姿を変えるように。
知り尽くしたと思うことにも、新しい出会いがあるかもしれない。
(だから、飽きたなんて言わないで)
想いを込めてキルシェは歌う。
素敵な物を見つけたら立ち止まって、歌が止まっちゃうこともあるけれど。
でもまた歩き始めたら歌が始まるのだから、大丈夫。
空は天に帰り、地は静寂に凪いでいた。
歌い手の少女がうめく。
乾いた声で何かを囁くのを察して、キルシェが大慌てでギフトで出した水を差しだした。
「もうやめよう。神様」
少女がそう、呟く。
「世界を壊すの、やめよう」
その声に神様は答えない。
ただ迷いを帯びた瞳で少女を見ていた。
訴えかけるかのように少女が再び歌を紡ごうと唇を開く。
迷いを振り切るように、神様は少女の最後の声を――。
「させないよ」
それは、4人の特異運命座標(ディーヴァ)の意思で。
●世界の始まりと君の名前
「神様だとしても、この子の歌を邪魔させたりはしない。最高の歌を聞かせてあげる!」
フォルトゥナリアが皆の意思を代弁するかのように言った。
ひとりぼっちの神様に捧げる最後の歌は?
そんなの決まっている。
「一緒に歌おう」
少女と、神様と、リチェと、山口さんと、メカ子ロリババアと……全員で!
歌うは少女が歌い続けた歌。
救世の詩、あるいは人類賛歌。
最初にエッダが足踏みを鳴らしてリズムを取る。
そこにフォルトゥナリアが声を合わせて
キルシェが楽器と共に声をもらす。
卯月が光る声でフレーズに思いを込めた。
最後に、少女がそっと歌声を乗せる。
こんなの、意味はないのかもしれない。神様は一緒には歌ってくれないかもしれない。
それでも。
(楽しく歌って、神様に音楽がとっても楽しくて素敵だって思って貰うのが大切なのよ!)
キルシェは歌う。
一人ぼっちの神様が、もう寂しくないように。
(まったくもって、強情な神様であります)
エッダは相変わらず呆れも少し。けれど。
不自由な存在。どうにもならないことばかり。
それが人間ならば、神様にだって少しくらい味わってもらってもいいだろう。
「……どうして、歌うのだ?」
神様が問いかけた。
そんなの簡単だ。
卯月には積み重ねてきた軌跡がある。
夢を見て、足掻いて、背中を押されて。そうやってここまで歩いてきた。
それを裏切ってしまうなんて”嘘”でしょう?
なによりも。
「私は、歌うこと、奏でることが大好きで、楽しくて、他の人に聞いて欲しいから!」
そうしていつか誰かが、卯月の大好きなそれらにほんの少しでも手を伸ばしてくれたなら。歩み寄ってくれたなら。
それ以上の幸いがあるだろうか。
だから卯月は歌うのだ。
それが例え、理に背き、神さまに反逆することであっても。
それは、手を伸ばしたいという意思だった。
「――……」
神様の唇からほんの僅か、零れた歌声。
それは、必死に伸ばした4人の手が神様の心に届いた証しであったに違いない。
救世の詩。あるいは人類賛歌。最期に彼女らが歌った歌。
その曲名は誉れある神様の名を戴いて――『ディーヴァ』というのだそうだ。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
こんにちは、凍雨と申します。
この度はリクエストありがとうございます! 私も大好きなテーマです。
それでは良い旅を。
●世界説明
平時であれば、住民たちはみな音楽が好きで常に美しい音色に溢れた世界です。
けれど今は神様が世界から音を奪ってしまい、崩壊の危機にあります。
●目標
音楽を奏で世界の崩壊をとめる。(楽器や歌、その他種類は問わない)
音楽で神様の気を変える。(努力目標。これはできなくても依頼成功です)
●敵?
・神様
もとは住民たちが奏でる音楽が大好きだった神様です。
永い永い時間の中で、音楽に飽きて世界を壊そうとしています。
攻撃は通りません。
壊れていく世界を眺めながら問いかけてきます。
――なぜ、そうまでして歌う(奏でる)のだ? と。
●味方
・少女
この世界で唯一声が残っている少女です。もうじき彼女の声も潰れます。
優れた歌い手ですが、独唱では世界を繋ぎとめるので精一杯でした。
他の住民に関しましてはいますが、今回は出てきません。
●特殊ルール
この世界では、音楽は重ねれば重ねるほど効力を持ちます。
『一緒に奏でる』ことで最大の効力を発揮するでしょう。
●サンプルプレイング
歌うよ! 世界は壊させない。
神様にだって届けてやる。
以上になります。
神様への反逆。どうぞお気をつけて。
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