シナリオ詳細
<神通麓>雲雨、翻して覆して訪ねゆく
完了
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オープニング
⚫︎再び巡る、雨の季節に
あめのかみさま ねぼすけさん
あめのきせつに やってくる
くろくものって やってくる
ごーごー ざーざー じゃーじゃーじゃー
たくさん あめをふらせては
やまに かわに まちに みどりに
たくさん みずをとどけてくれる
けれども あんまりながいあめ
あまおとばっかり きいてると
うっかり すやすやねむくなる
すーすー ぷーぷー ぐーぐーぐー
あめのかみさま ゆめのなか
たいへん みずがあふれちゃう
どうかとどいて ゆめのなか
みんなでともそう ひよりごい
表で泥を蹴る幼子達の歌は束の間の陽光に似合いの穏やかな色で響き渡る。ぱしゃん、ぱしゃん、思い切りの良い音に清々しさと同時に苦々しさを覚えるのは大人だけだろう。追い掛ける母親らしき声がそれを代弁してくれた。こら、着物が汚れてしまうから、と——
「遊びたい盛りの子らにとって、この季節は退屈でしょうな」
対面に座る男の苦笑で、ひと月後に控えた祭りの相談中であったという現実に返ってくる。例年の確認程度のものとはいえ、わざわざ悪路を出向いてくれた者に対してとる態度とは到底言えない。
「申し訳無い。集中力に欠いていたようだ」
「とんでもない。職人として誰よりも実直な御仁だと知っているからこそ、むしろ心配していたのです。何か、気掛かりなことでも?」
言葉の通りの視線を向けられて戸惑う。考えていることは、沢山ある。しかし伝えるための形を未だ持っていなかった。
——きゃあきゃあ、と喧騒はいつの間にやら母を鬼役にした遊戯に変わり、自由な足音達は悩むより先に遠く遠くへ走り去っていく。
「そういえば、小さい子供は苦手でしたかな?」
「いや……今は、そうでもない」
繰り返すばかりだと思っていた行事に色が差したのは昨年のこと。勿論、『職人』という自らの生業に飽いていたのでも、手を抜いていたのでも無い。ただそこから繋がり、広がっていくものに気が付いていなかっただけだ。
「おや。変わられましたな、提灯職人殿」
そう、これは変化だ。そして変化とは終わりも含まれるのだ。
「退屈に耐えてくれた分、楽しんでもらえるよう尽力しよう」
『職人』の業は神様のためにあり、それは巡って人のためでもある。信仰が力となるなら逆もまた然り。ならば、もう少しくらい人に寄っても罰は当たるまい。
「それでは、今年もよろしくお願いしますね」
実行委員の男が立ち上がる。ちらりと戸口から雲行きを窺いながらその手を伸ばしたのは立て掛けてあった傘だ。行きに浴びた雨粒で出来た水溜りに、庭で見頃を迎えた紫陽花よりも鮮やかな紫が映り込んでいる。久方振りの晴れ間のおかげで帰路はこの花が咲くことも無さそうだった。
「今年も、か……」
遠ざかる背中が角を曲がるまで見送った後、文机に向かう。右手に筆を、左手は便箋に添えて。
拝啓 霖雨の候、いかがお過ごしでしょうか——
⚫︎日和を乞えば
「——ごたぼーと、はいさつ? いたしますが、ごけんとーくださいますよう、おねがいもうしあげます……けい、ぐ……であってる? あってる? よし、読めた!」
読み上げた手紙すら放り投げそうな勢いで万歳したのは案内人・Lächeln(レッヘン)だ。差出人の性格そのままの丁寧な文字で綴られた、どうにも堅苦しい文面に四苦八苦しながらもやり遂げた彼は満足げな顔で言った。
「難しい言葉ばっかりで疲れちゃったし、初めましての人もいるだろうから手短にまとめるね!」
その世界では『職人』と呼ばれる業を継いだ者達が神様と人間との仲立ちをしているのだという。
火の神様のご加護なくして火が扱えないだとか、人間が生きる上で神様は切り離せない存在であるが故に職人とは大変重要な役割なのである。
神職に相当するものとも言えるだろう。
さて、今回の手紙の主である提灯職人。
イレギュラーズに危機を救ってもらった縁を頼りに、依頼という名のお誘いをしてくる初老の男性だ。
昨年の梅雨に彼が腕を痛め、提灯が作れなくなったことが危機の発端だった。
雨の神様との橋渡しをする彼が作る提灯は雨避けの加護が宿り、雨を降らせたまま眠り込んでしまう神様を起こす『日和乞い』の祭りに使われるのだ。
それが足りないとあれば祭りは行えず、世界が水没するのも時間の問題、というところにイレギュラーズが助太刀した訳である。
「そんな提灯職人さんからの3つのミッション!」
その1。傘職人から傘を借りよう。
梅雨の時期であるため、傘がなければ何をするにも支障が出る。持ち込むのも良いが、折角だから何かと共通点の多い職人仲間と交流して欲しいそうだ。
彼の作る『移ろいの傘』は紫陽花のように持ち手の雨に対する感情によって色を変えるのだとか。それを差して少し散歩するのも楽しいだろう、とのことだ。
事前に用意しておきたかったが、提灯職人は彼に嫌われているため難しかったのだという。
その2。竹取嫗(たけとりのおうな)から竹を譲り受ける。
竹林に棲む神様とも妖怪とも言われる嫗は気難しい存在である。無闇に踏み入る者を脅かしたり、気に入らない者は迷わせたりするらしい。
そんな彼女から提灯や傘の材料となる竹を分けてもらって来て欲しいそうだ。複数人で組めば荷車で一気に運ぶことも出来るし、体力勝負だが何度も往復しても構わないので、多めにお願いしたい、とのこと。
その3。和紙職人から和紙を受け取ろう。
これまた提灯や傘の材料の運搬であり、提灯職人と縁のある職人との交流を含めたものだ。
こちらは傘職人とは違って懇意にしており、彼が漉いて作った便箋を融通してもらったりしているので特に心配は要らない。和紙を運ぶの自体も難しいことはない。
頼めば紙漉き体験などが出来るよう話を通してあるそうだ。気が向いたら是非。
「以上! もっと詳しく知りたかったらこっちの案内状も見てみてね? それじゃあ、いってらっしゃーい!」
- <神通麓>雲雨、翻して覆して訪ねゆく完了
- NM名氷雀
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年07月20日 21時10分
- 章数3章
- 総採用数14人
- 参加費50RC
第3章
第3章 第1節
「この水が、紙になる、する?」
白濁した水槽の中身を覗き込むカルウェット コーラス(p3p008549)に人好きのする笑みを浮かべた和紙職人は手本を見せてくれる。
簾と木枠を足した簀桁で掬っては揺すること数回。丁寧に剥がせば白い膜状のものが出来上がる。おお、と一部始終を見届けた桃色の瞳がきらきらと輝いた。
次は自分の番だと袖を捲り簀桁を動かすカルウェット。職人が後ろから支えても不慣れと緊張でぎこちなく、けれど厚さも疎らな初めての1枚に満足げだ。
「ものづくり、好き。難しい、でも、自分で、作るもの、さらに気持ち込められる」
職人、憧れ。そう言われて喜ばない者がいるだろうか。
「これで、お世話になる、した、みんな、お手紙、書く!」
それじゃあ頑張らないとねえ。職人は早速、次の準備に取り掛かった。
漉いた和紙を乾かす間、お茶を啜るふたり。
「一賀に、いつもありがとう、お仕事お疲れ様って」
傘職人には素敵な傘とお話、竹取嫗には竹細工と竹のお礼を——これから綴られるだろうたくさんの感謝の言葉達。出来上がった手紙が自分にも差し出されるとはまだ知らずに職人は微笑ましそうだ。
「和紙と一緒に、一賀渡す。
暇なる、した時に、皆に届けてって」
カルウェットは悪戯っ子の顔。
「ひっひー、そしたら、逃げる、出来ない、でしょ? ボクの秘策」
しーっ。内緒だと言う人差し指に、おやまあ、と頷く職人も同じ顔をしていた。
成否
成功
第3章 第2節
次々と届けられる竹や和紙に、彼らの携えた傘に、知人友人達の息災を知る。何れもそう遠い訳ではないが度々訪れるようなことも無い。多忙な時期ともなれば人伝に聞くかどうか、それこそ周囲を気にする余裕も心算も無かった以前ならば自ら知ろうとはしていなかったかもしれない。
「……全く、有難いことだ」
間もなく日が暮れる頃になってようやく人心地付き、本来の業務に取り掛かる。竹を組んで和紙を貼り、乾くのを待ちながら次を組む。そうして乾いた順に絵を入れていく。
優雅に昇る鯉。何年も描き続けてきたものでも、大勢の手で集められた資材や進められた段取りの全てが、最後は己の業に懸かっていると思えばひと筆ひと筆に力が宿る。
「今年も必ず、届けてみせるとも」
屋根を叩く雨音に負けじと声にする。重く閉ざされた雲の向こうへ届くよう、祭りの日まで手を休めることは無かった。
NMコメント
人の心は移ろいやすい。悪くもなれば、良くもなるものです。
雨もきっと憂鬱なだけではありません。
三章構成、おおよそ1週間毎に次章へ移行予定です。
期間中であれば何度プレイングを投げていただいても構いません。
どうぞ目一杯楽しんでいってくださいませ。
⚫︎世界<神通麓>
神話が色濃く根付いている、日本の江戸時代に似たところ。
職人の技が神様と人間を繋いでいます。
ざっくり説明ではありますが、OPを読んでいただければシリーズは知らなくとも大丈夫かと思います。
⚫︎提灯職人
雨避けの提灯の作り手で、人と雨の神様の橋渡しをする役目を担う。
イレギュラーズに恩を感じており、祭りを案内してくれたり、温泉へ招待してくれたりする堅物だけど優しい人物。
本当なら各所へ共に向かいたいが、この時期は多忙なため自身の作業場に留まっている。
彼と交流したいなら、資材を運んでくれた者を出迎える余裕はあるようなのでその際にどうぞ。
【第一章】
傘職人との交流
傘を借りて雨の中を散歩
紫陽花を見て回る
雨に想いを馳せる、など
⚫︎傘職人
『移ろいの傘』の作り手で、最近先代から継いだばかりの青年。
同じ雨の時期に活躍する職人でありながら祭りで重役を任され注目される提灯職人を嫌っている。
提灯職人はそうと知っているから苦手意識はあるものの、自分から嫌う理由は無いと思っているため複雑な関係。
作業場兼自宅の庭いっぱいに咲く紫陽花は周辺では最も色も数も豊富で有名。
そのため見頃のこの時期は誰でも出入りできるよう開放してあり、駆け回る子供達や傘を並べて歩く人達もちらほら。
⚫︎移ろいの傘
雨に濡れると、差した者の『雨に対する感情』によって紫陽花のように色が変わる紫色の傘。
穏やかなら青紫、乱れれば赤みを帯びる他、特別な感情が強ければ強いほどそれに応じた色になる。
【第二章】
竹取嫗の機嫌を損ねないよう端っこから少量だけ、もしくはきちんと筋を通し彼女の協力を得て一気に竹を得る
→提灯職人(または傘職人)の所まで運ぶ
鉈などの刃物、運搬用の荷車は自由に使用可能
荷車は力自慢でなければ重くなるので、数人で力を合わせるなど工夫が必要
⚫︎竹取嫗(たけとりのおうな)
月の神様が降り立ったことがあるといわれる竹林を守ってきた老婆。
彼女に嫌われる(気に入られる)と大量の筍が生えたところまで誘い込まれ(教えてくれ)、(結果的に)それを踏み抜いて痛い思いをしたりするらしい。
声を掛けるとあちこちの竹を光らせて脅かしてもくるとか(度胸試し)。
(※以下の情報はPCが推察したり、体験することで真実として知ることができるPL情報です。)
カッコ内の通り、嫗に関する噂はちょっとした行き違いが発生していますが、礼儀と恐れない心があれば悪いようにはなりません。
光る竹を切り倒せば嫗が作った竹細工のアクセサリーが入っており、身に付けると彼女からの目印となって迷っても案内してくれる度胸試しの戦利品です。
アクセサリーは鈴入りの竹玉ネックレスや根付け、櫛やバングルなど様々。
元より竹林は月の神様の影響でとても迷いやすくなっているため、嫗でなければ正しく進めないのです。
つまり彼女は竹林を守るのと同時に、人間が迷い込まないよう見守ってくれていたのでした。
(※PL情報、終わり。)
【第三章】
和紙職人との交流
紙漉きを体験
コウゾ畑を見て歩く
提灯職人(または傘職人)の所まで和紙を運ぶ、など
⚫︎和紙職人達
中心となっているまとめ役の物腰柔らかい初老男性は提灯職人とは茶飲み友達。
頻度こそ高くはないが、たまに顔を出し合っては世間話をしたりする仲。
作業場や畑には彼の仲間や弟子らが数人動き回っている。
イレギュラーズが出向く頃には今日の漉き作業を終えているので、お茶をご馳走になりながら雑談したり、紙漉きを教えてもらえる。
裏のコウゾ畑(和紙の材料の木)を散歩するのも良い。
このコウゾは昨年の日和乞いの際に雨の神様から授かった種子を提灯職人から受け取った和紙職人らが育てたもの。
気になった方はこちらをお読みください。
『本日、提灯日和』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3907
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