PandoraPartyProject

シナリオ詳細

転がる石は苔生さない

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 崩れた壁。錆び付いた扉。木製の祭壇は腐り落ち、床には曇ったステンドグラスの欠片が散らばっている。廃棄されて久しい聖堂を、屋根から差し込む月明かりが皓皓と照らしていた。
 折れた窓枠越しに外を覗き込めば、この聖堂が雲に乗るようにして浮かんでいるのが分かるだろう。
 遥か下、遠い地上に見えるのは町だろうか。暗闇に紛れるようにして並ぶ家々に明かりはなく、誰もが深い眠りについている。

 月が沈み、太陽が昇れば人々が姿を現す。ある者は森へ、ある者は川へ。水を汲み、畑を耕し、子を成し、老いて死んでいく。
 朝日と共に起き、夕日と共に眠る。何千、何万年もの間の変わらない暮らし。これから先、何千何万年と変わらない未来。同じ一日を繰り返すだけの日々。
 戦争も諍いも不幸な事故もなく。欲を掻く者も、貧困に喘ぐ者もおらず。親を亡くした孤児も、赤子を亡くした親も存在しない。
 誰もが幸せな毎日をただ暮らすだけのユートピア。ひとつの発展性もない理想郷。ただ回るだけの完璧な歯車。
 そんな日々がこれからも永遠に続いていく──筈だったのだ。

 永遠に同じものなど存在しない。変化しないものなど存在しない。変化を厭うものは、やがて変化によって淘汰されていく。
 その対象が、例え世界だとしても。

 朽ちた聖堂の中、月夜に照らされるように佇む青年が一人。
「主は望まれた。この世界が、この世界の民が、自ら停滞を打ち破ることを」
 白い翼を風に揺らしながら、深い悲しみを湛えた表情で呟く。

「けれど、主は──もう、待つのに疲れてしまわれた」


「你好。初めまして、皆さん」
 境界図書館を訪れた運命特異点座標を待っていたのは一人の境界案内人。
「ねぇ、何の変化もない物語をどう思う? 山もなく谷もなく、終わりすら存在しない。登場人物は皆幸せで、不幸な人間は誰も存在しない。そんな物語」
 春玉と名乗った案内人は、片手に持った本を捲りながら問いかける。
「この世界はそんな何の変化もない物語。そしてアナタ達には、その世界を変えてもらいたいの」
 謂わばスパイスの役割ね。微笑を湛えながら話す口ぶりは、造作もないことのよう。
「実際に足で歩き回ってもらう必要はないわ。空の上から、ただ灰を撒いてくれれば良い」
 ね、簡単でしょう、と。何てことのないように言って。
「あぁ、灰には素手で触らないように気を付けて。戻ってきたら治っているとはいえ、手が融けたら痛いでしょうから」
 境界図書館の中を風が吹くと同時に、本から白紙のページが舞い散った。

「ねぇ。停滞を打ち破るのに、変化を促すのに。最も効果的なものは何だと思う?」
 異世界へ赴く貴方達の背へと、彼女はそう問いかけた。

NMコメント

 こんばんは。てんと申します。
 初めてのライトノベルですので、お手柔らかにお願い致します。
 行動パターンは一つだけ。心情マシマシだとプレイングが書きやすいと思います。

●目標
 死の灰を世界中に降り注がせること

●世界
 何の変化もない幸福な日常が何万年と続いている世界です。
 創造主や神と呼ばれるような存在は、この世界の住民がいつか自分達でこの状況を打破してくれると待っていたようですが……待つのに疲れてしまいました。
 神は変化を望んでいます。
 その結末が発展であれ、衰退であれ──もうどちらでも良いのです。

●行動
 皆さんの物語は、夜明け、雲の上に佇む「朽ちた聖堂」の中から始まります。
 やることは単純です。一人一袋ある「灰」を地上へ降り注がせてください。

 聖堂の乗った雲は世界中を風に流されるように浮いています。聖堂の中からでも降らせることはできますし、聖堂を出て雲の下を覗き込みながら降らせても構いません。
 或いは全く別の雲に乗って灰を降らせて頂いても、自力で空を飛びながら降らせて頂いても問題ありません。
 このシナリオに限り、飛行手段を持っていなくても空を飛ぶことができます。

 灰を顔や体にかけないようにだけご注意ください。とっても痛いですし、描写が全年齢(G)に抵触しかねません。
 なお、灰は袋を逆さにしても尽きることはありませんし、袋ごと落としても気が付いたら手の中に帰ってきています。

●登場人物
 朽ちた聖堂の中には天使や御使いという形容が似合う人物が佇んでいます。
 この世界の人物が海を渡り、空を飛び、やがてこの聖堂までやってくることを、何千、何万年と待っていました。
 青年のような容貌をしており、話しかければ応えてくれるでしょう。
 この状況を憂いているようですが止める心算はありません。彼は忠実は主の従僕ですから。

●プレイング
 ・死の灰を降らせること
 ・地上へは下りないこと
 以上2点を守って頂ければ、何をしても構いません。
 制約のない空の旅を楽しんで頂いても、滅びた故郷に思いを馳せて頂いても。どうそご自由にお楽しみください。
 心情はなるべく声に出さないよう気を付けますが、「どうしてもこれだけは口にしたい」「これだけは心に秘めておきたい」といった箇所がございましたら括弧()「」を活用頂ければ幸いです。

●他
 このシナリオは後味の良さを約束致しません。
 また、相談期間が4日と大変短くなっております。
 ご参加の際はご注意ください。


 灰が降り注いだ地上はきっと、凄惨たる状況に陥ることでしょう。
 生き延びるために発展を選ぶのか、運命と受け入れ衰退していくのか。この世界の結末は、この物語で最後まで見ることは叶わないかもしれませんが──混沌ならぬ世は、得てして神の気紛れで様相を変えるのです。

 それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

  • 転がる石は苔生さない完了
  • NM名てん
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月14日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る
クレイシュ(p3p009941)

リプレイ

 崩れた壁。錆び付いた扉。木製の祭壇は腐り落ち、床には曇ったステンドグラスの欠片が散らばっている。廃棄されて久しい聖堂に、今──陽が昇ろうとしていた。

●相反する道理
「……考え直す気は、有りませんか?」
 静かな声。聖堂に佇む青年へクレイシュ(p3p009941)が声をかけた。白い翼を畳んだ彼が黙って首を横に振るのを見つめる視線には、元より灯る仄かな諦念。仕事を果たすため、背を向け足を踏み出す。
(どうか安らかに。もう日が昇る……だから)
 太陽が昇る。瞳の色が、切り替わる。
(ここからは、アタシの時間だ)

 数千、数万年の永きに渡った平穏が撃ち破られる。

●終わる平穏
(死の灰を降り注ぐことがオーダーなんて……)
 意地悪! 空を飛び回りながらスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は頬を膨らます。せめてもの反抗に、自由な空の旅をうんと楽しんでやるんだから! だって、すぐにやらないといけないなんて言われてないでしょう?
 美しい景色を気ままに飛び回る。鷹と共に山を越え、海豚と共に海を渡る。色とりどりの屋根。朝露に光る草原。風にさざめく森。底まで見えるほど透き通った湖。人は眠り、魚は跳ね、鳥は啄み、虫は奏でる。長い年月をかけ、自然と人とが一体となった世界。
 夜が明ける前の世界、朝が訪れる間際の世界を目に焼き付ける。歩き回れないのはちょっぴり残念だけれど、それもオーダーだから。
(そろそろ、お仕事……しなきゃかな)

 スティアの灰が聖堂を、教会を溶かす。神に繋がるものを狙って灰を降らす。昇った日に照らされながら、世界が溶けて朽ちていく。
(滅びが望みということであれば一人で滅びれば良いとは思うんだけど……)
 それはできないと言うなら仕方ない。未だ姿を現さない神に口を尖らせ、神を象ったであろう像を見つけてはえいやと灰をかけていく。
 美しかった景色、輝いていた景色が褪せていく。水は淀み、森は枯れゆき、鳥は落ち、自然が静まっていく。死んでいく。残されたのは人々の悲鳴。おぉ、神よ、神よ。何故我らに試練を与え給うのか。世界に木霊し、飽和する。
 美しい景色が焼きついた瞼に、耳に、新たな世界がこびりつく。溶けていく世界がどれほど見るに堪えない様相だろうと、彼女は決して瞳を逸らさない。
 依頼と言えど、これは私が行ったことだから。

●堕ちた翼
(変化を望まない者も居れば、変化を待っていた者もいる)
 分からない訳でない。どちらの思考にも理解は示そう。
(この世界の人々は前者で、この世界の神々は後者だった。それだけの話だ)
 そう、それだけの話。けれど、それを打ち壊す方法にはもっと選択肢があるべきだ。
(……仕事はするさ。だが、私なりの『手』は加えさせてもらう)
 機械の翼が、朝日を跳ねて地を照らす。

 ルクト・ナード(p3p007354)は背面の翼で空を飛びながら灰を撒く。まずは人のいない所から。家々に当てぬよう、集落や街の周りへ落とすように──逃げ場を塞ぐのではない。逆だ。それは人々の逃げ場を、そして叛逆の意思を持った時の拠点を残すため。
 はらり、はらり。灰が舞う。草木へ、鳥へ、人へ、死を運ぶ。
 はらり、はらり。一粒、また一粒と地に落ちる。早起きな住人が疎らに姿を見せ、戸惑い、驚き、恐怖する。混乱が人から人へ、家から家へ、村から村へ伝播する。
 はらり、はらり、ごとり。世界が変わるには余りにも軽い音に紛れ、時折重い物が地へ落ちる。それは空を飛ぶための道具(翼)──【偽翼】。せめてものルクトの願い。逃げ道を塞がれた彼らへ、彼女が与えた選択肢。

 怯えた目で空を見上げる彼らに私の姿は映るだろうか。恨まれるだろうか。憎まれるだろうか。いいや、そんなことはどうだって良い。ただ、ここで終わって欲しくない。だから先に繋がる物を撒いたのだ。空へと向かっても良い。自分だけ逃げようとしても良い。死を受け入れ滅びを享受せぬよう、諦めず、抗い、生にしがみつけるよう。
 気付いてくれ、気付いてくれよ。これ以上の手は貸さないから──自らの意思で、生きることを選んでくれ。

●邪悪な安寧
 太陽に照らされながら、空に浮かぶ雲に乗るのは一つの大きな水まんじゅう。否、ロロン・ラプス(p3p007992)だ。
(変化のない世界、ボクにとってはある種馴染みのあるものだけれど──)
 それを自身が良しとするかと言われれば……どうだろう。考える水たる己は、感情よりも知性よりも先に進化(暴食)を獲得した(命じられた)のだから。

 家々の扉が開く。日の出と共に起きたこの世界の住人が、一人、また一人と顔を出す。
 ぽつり、ぽつり。雨のように頬を濡らす感触に人々が顔を上げ、次いで響くのは絶叫。頬が、アア、頬が! 畑が、溶けて……! 何が起こったの!? お父さん、お母さん! 早く家に入るんだ! 叫び声が上がる。ロロンの体から切り離された水と灰が溶け合い、死の雨となって降り注ぐ。
 ロロンの視線は悲鳴と混乱をマジマジと観察していた。この興味深い社会実験によって何が起こるのか。ある程度の予測はあるけれど……。
(ヒトに有害であるだけなら、変化としてはまだ弱い)
 死の雨は雲と共に移動する。風に吹かれて流れゆく。
(食糧への汚染を本命とするなら……)
 地上には未だ収まらぬ混乱。その間にも、雨は平等に死を撒き散らす。それが人であろうと獣であろうと、作物であろうと変わらない。
(食糧生産能力が低迷するなら、奪い奪われの争いになるのは必定)
 そして争いは技術を、文明を、倫理を鍛え高める金床の役割を持つと、ロロンは識っている。多くのウォーカーが故郷とする『地球』では、人類の科学技術は戦争によって飛躍的に発展し、人類の倫理は戦争によって禁忌を知ったのだから。

●空への叛逆
 スティアの灰が地の聖堂を穿つ。ルクトの偽翼が空への道を作る。ロロンの雨が変化を促す。そして、天の聖堂では。

「よォ、吉報だ。アタシはどうやら勤勉だったらしい」
 再び青年へと相対する影。クレイシュのギラついた瞳が未だ動かぬ天使を射抜く。
「予測出来ない未来がご所望だったかもしれねェが、お生憎。まだ足掻いてるだろうけど、遠からず滅ぶぜ」
 それは紛れもない事実。このまま行けばこの世界は滅ぶだろう。数千、数万の月日を安穏に費やしたこの世界ならば。あのままだったならば、滅びて腐って朽ちていくだろう。
「…………そう、ですね」
 青年の目は伏せられたまま。ただ奥歯を噛み締める。
「ハハッ、どうした? アタシはオーダーを遂行しただけだぜ?」
 気に食わない。嗚呼、気に食わない。例え今を乗り越えたとて、こんな依頼をする奴が上にいるなら──いつか地上は、気紛れに滅ぶ。必要なのは神様とやらへのご機嫌伺いなどではない。だというのに。
「このままじゃ地上波終わるだろうな。……で、次は? 数万年後、また神様が退屈になった時……次は誰が、ドロドロに溶けながら踊るんだろうなァ?」
 拳を握りながらも未だに伏せた目を上げないコイツなら、受け入れるんだろう。ご立派なことに。神のため、自罰のため、世界のためってか? アア、アア、この腑抜けた面が気に食わねェ!
「遠い未来。みィんな溶けて……神様を無限に退屈させんのが、アンタの忠義かよ」
 そんなモン、クソ喰らえだ。そう言わんばかりに吼える。
「何かが出来るのに、何もしねェアンタは……一番退屈だ」
 アンタみたいな野郎が、神様とやらを疲れさせたんだろうがよ。

 その声が何を齎したのか。それを目にしたのはきっと、異世界よりの使者たる彼らだけ。
 けれどその時、確かに世界には一つ、道が生まれたのだ。

 ──翼が開かれる。白い羽根は空を舞い、宙に浮かび、地へと降る。
 それは決して救いではない。安易な救済は再び停滞を生む。そんなものでは救われない。
 それは決して希望ではない。差し伸べられた手は、垂らされた蜘蛛の糸は縋られ集られ千切れていくだけなのだから。
 それは決して贖罪ではない。そんなものは誰の命も、誰の気持ちも救わない。
 それはただ、訳も分からず追い詰められたこの世界の住人に、一つの道を示すもの。

●そして世界は
 その日、世界は滅びの危機に瀕した。理由も分からず脅威に晒された人々は、藁にも縋る思いで武器を手にする。
 恐れるべきは灰に留まらない。溶けた畑は飢えを呼び、飢餓は争いを呼ぶ。降り積もる灰はただの一方的な虐殺であり、やがて降り止めば次に始まるのは人同士の食い合い。昨日まで笑い合っていた隣人が明日には敵となる。強い者が弱い者を淘汰する。纏まりもなく、統率もなく、未来もなく。ただ生きるためだけに。
 何を恨めばいいのか、どこを目指せばいいのか。どうすれば自分達は未来へ進めるのか。落とされた偽翼が、何処よりも無残に溶け落ちた聖堂が、そして。この日から雲間より現れるようになった白い翼の青年が、何よりも雄弁に道を示す。

 ──人よ、空を目指せ。倒すべき敵は、此処にいる。

成否

成功

状態異常

なし

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