シナリオ詳細
<濃々淡々>雨響
オープニング
●しと、しとと
雨音が響く。きらきらと煌めく雫が、空から舞い降りる。
ぴちゃん、ぴちゃん。街に降り注ぐ其れは、世界性故か舗装されることはない土の道を汚し、水たまりを生み出して。街の暖簾に、着物の裾に、茶色い染みをつける。
大抵の人は洗うのが面倒だからと、雨を好むものはいない。洗濯物も乾かないし、遠出だってできない。
けれど。そんな梅雨の長雨を、好む者がいた。
「雨の日はいい材料が手に入るから好きなんだよね」
そう、飴屋こと絢である。
彼にとっては飴の材料が手に入る貴重な日なのである。ファンタジックだと言われればその通りなのだが、彼の世界では其れが『当たり前』なのだから致し方あるまい。
彼にとっては雨の季節は飴を作るいい材料が取れるいい季節だ。だから、飴の時期になると何処どなくソワソワしてしまうのだ。
さて、彼が今年向かうのは、飴の森に在る紫陽花のエリアである。
普段は普通の紫陽花の元へ向かうのだが、せっかく見つけたならそこにいくのもいいかもしれないと思ったのだ。
飴の森に降り注ぐ雫は、鮮やかな色彩を纏って。
(今年は雨粒が大きいから、甘みも強そうでいいな)
ぽとり、ぽとり落ちる雫を眺め、絢は薄く笑みを浮かべたのだけれど。
(でも、これを全部落としちゃうのは勿体ないから……そうだ)
●ひらめきは誰が為か
「……ってことで、今回はおれからの依頼です」
『ごめんね』と、しかし反省はしていなさそうな、どことなく楽しげな様子で絢は笑った。なんたって、今回は戦うこともなく平和な依頼なのだ。どうせなら沢山楽しんでもらえた方がいいに決まっている。
「でね、今日取りに行くものの話なんだけどね」
絢曰く、少し採集が難しいのだという。
「雫を潰さないようにとることがだいじなんだよね。其れがまた、おれにとってはこう、むずかしくて……」
はぁぁぁぁ、と肩を落として。絢にとっては其の最終の作業が飴つくりのかぎになるのだとかなんとか。本当に得意ではないのだろう、頭を抱えてしっぽをびたんびたんさせて唸っている。素直だ。
「……はぁ、まあそんなわけだから。今年はたくさんあって、いろんな人に手伝ってもらえると嬉しいなって思って、おしごとにしてみたんだ」
平静を取り戻したのか、絢は申し訳なさそうに頬をかいて笑って。
「そういうわけだから、おれは先に向こうに行って待ってるね」
- <濃々淡々>雨響完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年07月04日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
●
「雨の時節に飴の素が採れるとは、中々しゃれが効いておるの」
『殿』一条 夢心地(p3p008344)は扇子を広げくっくっと肩を揺らして。『麿もあめちゃんは大好物じゃ』と付け足せば、其のかんばぜに笑みを浮かべ、お気に入りの一つを想起して。
「鼈甲飴のあの美しき黄褐色、素朴であり飽きの来ない甘味……旅の道中の必需品とさえ言えよう」
国は違えど、世界は違えど。こうして飴を好み、それを作る者がいる。それはとても素晴らしいことだと、夢心地は微笑んだ。
「民の期待に応えるのは殿たる者の責務。大船に乗ったつもりで、この麿に任せるが良い。なーーーーーーっはっはっは!」
「あ、あはは……うん、それじゃあ安心して。お願いします」
花の種類は数あれど、紫陽花ほど雨の似合う花もないだろうと夢心地は思っていた。
(陽が落ちて、静寂が訪れた森に揺れるその姿も、また風情があるものよ)
露に濡れる花弁、淡い紫、それから青に薄氷。雫を吸って煌めく姿は、得も言われぬ美しさがある。
飴の作り方こそ知らないけれど、やはり季節に寄り添った素材、というものがあるように感じて。
(そんなわけじゃし、麿は紫陽花の周囲を散策しつつ、雫と花弁を集めようかの)
夏の爽やかな空を感じさせる青、確かな存在感をもった紫も好ましい。が――――夢心地が最も好む紫陽花の色はなんといっても白、だ。
(手鞠に咲いた白き紫陽花は、なんとも愛らしく、見るだけで頬が緩むものよ。
うむ、うむ。良い季節になったものじゃ)
雫をぽとり。それから、花も優しく手折る。きらきらと煌めきながら、花は夢心地の掌の中で輝き続ける。
「ほう。これは見事じゃのう……」
「ふふ、そうでしょう。気に入ってもらえるだろうか」
「勿論じゃ」
おとぎ話にも似た世界だ。不思議な心地でふと見上げれば、空の青が美しく、陽光が夢心地を照らして。
「わあ、夢心地さん、あれ……!」
「……なるほどのう」
世界は違えど、見ている空は同じ。
美しいものを美しいと感じるこころも、また同様に。広がった世界は、誰にとっても等しく、輝いて。
――紫陽花や 落ちる雫は 誰が為に――
●
「わぁー……ホントに全部飴で出来てるのですよー…!!」
ぱっと目を輝かせながら周囲の様子を眺めては感嘆の息を漏らしたのは『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)。
「どうかな、楽しんでもらえそう?」
「はいなのですよー、とっても楽しみ……!」
わくわくとした表情を見せたルシアに、微笑ましいと笑みを浮かべた絢。のんびりとした時間が二人を包む。
「たくさんのお花が咲いてるのでして、どのお花から取ろうか悩むのですよ……」
「何か好きな花があったら、それから摘んでみるのもいいかもしれないね。何かある?」
「ぱっと浮ぶものは特にないのですよ……」
「なら、紫陽花と……あとは、向日葵なんかも見に行ってみようか。きっと楽しめると思うから」
「はいなのですよ!」
絢が提案したふたつは、梅雨、夏とそれぞれ続けて咲く花だ。梅雨から夏を辿っていくのもまた趣がある。ルシアと絢は二人で花を摘みに出かけた。
「えーと……茎のところをもって?」
「ここです?」
「うん、そこ。そこをくるって……あ、そうじゃなくて。くるって回してみて?」
「こうやって……、こう、ですよ?」
「そう! 上手だね。じゃあとは、花びらを回収してくれるかい?」
「わかったのですよ!」
ぷつり、ぷつりと取っていくうちに、ルシアはあることに気が付く。
「ん……蜜?」
「どうしたんだい?
「雫から甘い香りがするのでして、…やっぱり甘いのですよ?」
「気になる?」
「はいなのです。飴の葉っぱもいわゆる普通の飴なのですよ? ……もしかして木の葉の味でして…?」
「ふふ、気になるなら食べてごらんよ」
「い、いいのですよ?」
「勿論」
ルシアが恐る恐る口に運ぶと、その飴は木の葉の味では無くて、抹茶の味だった。
「ふ、不思議なのですよ……!」
「ふふ、そうでしょ」
くすくすと笑った絢。ルシアはふと閃いて、絢に提案を。
「ルシアの分の雫も欲しいのでして、もうちょっとだけお願いしたいのですよ」
「ん? 採集をかい?」
「はい! ルシアは雫の飴を作ってみたいのでして!」
「うん、いいよ。それじゃあ、もう少しだけ取ってから帰ろうか」
「はいなのですよ!」
●
境界図書館に訪れたのは、初めて其処が見つかり、特異運命座標がが図書館内の探索をした時以来、だっただろうか。
(ライブノベルの世界自体は確か初めてだったでありんすかな……まあ、それはともかく、せっかく来たのでごぜーますから、楽しまないと嘘でありんすな?)
『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)はくっくっくと笑みを浮かべながら、世界へ一歩足を踏み入れた。
和風の世界なら和服で向かうとしよう、と決めて纏った和装。黒髪であることからなかなか様になっている。いつもは旅装束であるからと着飾ってみた。悪い気は、しない。からころと下駄をならすのは楽しいし、まず身軽だ。旅装束も身軽ではあるのだけれども、だ。
さて、目的地へと向かうとしよう。
(これが飴の森、でごぜーますか。なるほど、ファンタジックな場所でありんすな?)
桜の神様がいると聞き及んでいるが、そちらは縁がある時にでも。
飴屋の材料収集を手伝う傍らに、森の散策と洒落込むとしようか。
「わっちも混沌世界を旅して長いでごぜーますが、やはりここは異世界なのだと実感してしまいんすな」
「そうかい? おれにとってはここが元の世界だから、よくわからないけれど……」
「いえ、こっちの話でありんす。わっちにとっては新鮮なものが多いんでごぜーますよ」
「へぇ、例えば?」
「まずはこの森でごぜーますね」
「……それは、まぁ、同感かなあ」
境界案内人たる絢の表情もまた、ライブノベル特有のものであろう。
たまにはライブノベルの世界を渡り歩くのも悪くはないやもしれない。混沌とは違う空気が、エマの頬を撫でた。
「どれ、飴の一つもちょろまかしてもバチは当たらないでごぜーましょう」
「ああ、うん。食べたいなら食べてあげて?」
「ええ、勿論。飴屋の手伝いもやっているのでありんすから、少しばかり味見でごぜーます」
「…なるほどなるほど、これは確かに美味。これを材料に、と言う事は、商品がごぜーますよね?」
「ああ、うん。あるよ」
「ではそちらも一つ、買っておきんしょう。この材料がどうなるか、些か興味がごぜーます。
この花弁がどう使われるかも見てみたい…もちろん代金は支払いんすよ?」
「あはは、そんなこと疑ったりしないよ。毎度あり」
はい、と差し出された淡い青の飴玉。
しゅわしゅわとはじけて、いやな甘みを残さずにすっと消えていく。彼が飴屋をしている理由が、なんとなくわかったかもしれない。
●
「しとしと、雨の後の大地が湿った匂いは好きよ。水に濡れた世界は、いつもと違うお顔をして迎えてくれるから」
「蜻蛉がそう言ってくれると安心するよ」
「絢くんかて、雨は嫌いやないんやろ?」
「まぁね」
『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)は絢の隣に立って、雨上がりの森を眺める。飴がつやつやと濡れて、煌めいている。光に満ちた世界だと、改めて感じた。
「それにしても、いつ来ても…この世界は綺麗やねぇ……今日は、よろしゅうお願いします」
「うん、こちらこそ」
親しき中にも礼儀あり。お互いにお辞儀を、それから紫陽花にも。
「絢くんの飴作りの為にも、よおけ集めんとね…甘い甘い雫さん」
「あはは、助かるよ。おれがうっかりしてなかったら、もう少し作れるんだけどね」
「うっかりさんでもええんよ。うちらが手伝いにくるさかい」
「……まったく、蜻蛉には敵わないよ」
蜻蛉が選んだ花は紫陽花。花弁の姿をした宝石は、今にも落ちてしまいそうな涙をたたえていた。絢は幸せそうに目を細めて、紫陽花を眺める。その表情から、どれほど大切にしているのかがわかるくらいに、愛おし気に。
「これが…絢くんの言うてた雫。ほんに綺麗やのね…」
「でしょ? おれ一人で見るのは勿体ないくらいに」
小さく頷いた蜻蛉は、しゃがみ込み、そっと手を伸ばした。
「貴女の涙、集めさせてもらってもええやろか?きっと素敵に生まれ変わらせてくれる…やから、大丈夫よ」
袋を下にあてながら、指先で揺らしてみると雫が袋に零れ落ちていく。
「ちゃんと摘まなあかんのやったね」
「耳が痛い話だなあ」
「ふふ、気ぃつけなあかんね」
青に紫、白にピンク。様々な色をした紫陽花を、ゆっくり順番に巡っていく。
様々な花が咲いている中で、紫陽花は特に美しい色彩をしていた。色に溢れた世界であるというのに、自分が一番美しいのだと言いたげな顔をして。だからこそ、蜻蛉を蝶のように誘ってしまうのだろう。
「ほんの…ちょーっと…だけ」
甘みは強いのに、不思議とあとに残らない味。その味は。なぜか。
「……嗚呼でも、絢くんの優しい飴の味を思い出すわ」
「……そう?」
「そやよ。ふふ、美味しいわ……っと、はい」
「嗚呼、有難う。すっかり忘れていたなぁ……」
「もう……でも、今日で絢くんの美味しい飴ちゃんの秘密、少しだけ知れた気ぃします。ふふ」
くすくす笑う蜻蛉に、絢は照れ臭いようで背を向けて。
「……今日は此処に来られてよかったわ。有難うね」
「ううん。手紙をしたのはおれだからね……と、そうだ。よかったら、もう少しだけ奥の方に行ってみないかい? 紫陽花畑があったはずなんだ」
「そうなん? ほんなら、行ってみましょ」
――からんころん。下駄の音は、鳴り止まない。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
梅雨の長雨、湿気パンチにやられています。
どうも、染です。夏が近づいていますね。
●目標
雨の雫を集める
●雫について
採集はいたってシンプルで簡単。
雫を袋の中に注いで、その雫がついていた花弁を採集しておくだけでおしまい、なのですが。
依頼人たる絢はついうっかり花弁の採集を忘れてしまうそうなのです。
よければ、サポートしてあげてくださいね。
また、その雫は少しだけ甘い香りがします。
●花
沢山、どんな花でもあります。
その花は全て飴でできているため、食べることもできるようです。
●ロケーション
時刻:夜
ところ:飴の森
飴の森に関して、詳しく知りたいかたは此方(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4316)を。
群生した木。其の葉が飴になっており、様々な花のかたちと色をして咲くことから飴の森と呼ばれております。
●世界観
和風世界『濃々淡々』。
色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。またヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神です。
昔の日本のイメージで構いません。
●絢(けん)
華奢な男。飴屋の主人であり、濃々淡々生まれの境界案内人です。
手押しの屋台を引いて飴を売り、日銭を稼いでいるようです。
屋台には飴細工やら瓶詰めの丸い飴やらがあります。
彼の正体は化け猫。温厚で聞き上手です。お呼びがあればご一緒します。
●サンプルプレイング
はあ、とりあえず。
今日は紫陽花からみていこうかな。きらきらしていて、きれいなんだよね。
えーっと……あ、あった。ようし、今日こそは失敗せずにがんばろう……!
以上となります。ご参加をお待ちしております。
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