PandoraPartyProject

シナリオ詳細

All is well that ends well――

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 夜の帳が下りた頃。
 細やかな装飾が散りばめられた鏡の前で、赤毛の侍女が葦色の馬の毛で作られたブラシで、金糸を丁寧に梳く。
 貴重品の石鹸を使い、花の香りを漂わせたその金糸で私の服に刺繡をすれば、どれ程華やかになるだろうか――尤も、不用意にその金糸を引き抜くことなどあれば簡単に自身の首が飛ぶだろうと、心の中で溜息をつく。

「終わりましたよ、姫様」
「ありがとう、アン。ねえ、もう少しお話をしましょうよ」
 鏡越しに後ろを見る彼女の瞳は、青く美しくて。そんな目でくすんだ煉瓦色の瞳を見つめないでほしい。綺麗で、だからこそ自身の醜さが浮き彫りになってしまうのだから。
「ダメですよ、明日は誕生日会ですもの。私もまだ準備がありますし、主役が睡眠不足では顔向けできない方もいらっしゃいますでしょう?」
「……! そうだったわ、王子に顔色が悪いなんて、心配されるわけにいかないもの」
 ふわりと、幸せそうに笑うその顔に息が詰まる。
 嗚呼、きっともうすぐ彼女は少女の殻から飛び出して女になるのだ。
「いつかアンも、好い人に巡り会って出て行ってしまうのかしら。そんなの悲しいわ!」
「……出ていくなんて、有り得ませんよ」
 搾り出す声の調子など、この純粋な姫には気付く筈もない。その言葉に「本当?」と振り向く彼女は優しく、それでいて残酷に笑うのだ。
「私がこの家を出る時も、アンはついてきてちょうだいね」

――ねえ、ねえ、そこに『語り手』がいるのなら。
 どうして私を『お姫様』にしてくれなかったの?
 私は『メイドA』で。なのに王子様を愛してしまった。
 こんなにもおぞましい気持ちを恋と呼ぶならば、そんなもの知りたくなんてなかった。
 この物語が、身分違いの恋を描く話ならどれだけ幸せだっただろう。
 けれどこの物語は『王子様とお姫様は二人仲良く暮らしました』で終わる世界なのでしょう。
 いやよ、いやだわ。
 せめて私がお姫様になれないなら――せめて、お姫様が幸せにならないように。

「こんな物語、終わってしまえばいい」
 一人の女の呪いは、じわじわと世界を蝕んでいき――物語は、腐り落ちていく。


 その日、境界図書館を訪れたイレギュラーズは鼻をくすぐる腐臭に眉を顰めた。
 ずぼらな案内人が食べかけの物でも放置していたのか――放っておくのも憚られるとその腐臭が強い方へと、嫌々ながらも足を進める。
 一際臭いの強い本棚の角を曲がれば、そこに待っていたのは、境界案内人であるシーニィ・ズィーニィであった。
「ああ、この臭いかしら。ごめんなさい」
 彼女の手には、じゅくじゅくと腐り落ちるように溶けていく一冊の本が握られている。
「お姫様と王子様には、ハッピーエンドの裏側で泣くその他大勢なんて見えてないのよね」
 この物語はその性質を変えてしまった。けれど、主人公が変わることはないのだとシーニィは言う。
 彼女達が生きる世界が、本の中ではなく混沌ならば。アンは嫉妬の呼び声に身を委ね、全てを手に入れ、自分の手で壊していたかもしれない。
 けれど、この物語は混沌の外の話。アンにはこの物語を変える力などなかった。
 
 だから、貴方達が幕を引いてほしい――シーニィはそう告げて、頭を下げた。

NMコメント

 ハッピーエンドの世界が全員幸せなんて、決まってないですよね。
 飯酒盃おさけです。
 システム上悪名は付きませんが、性質は極めて悪依頼に近いものとなります。ご注意ください。

●目標
『お姫様』の殺害

●舞台
 童話らしいメルヘンな世界の、ある屋敷

●登場人物
・お姫様
 この物語のヒロイン、柔らかい金髪の心優しい姫です。
 アンに対しては使用人でありながら良き友として接し、恋の相談も沢山してきました。
 いずれ伴侶となる事が定められた王子への恋を謳う姿は、じわじわとアンの心を蝕んだでしょう。
 護身程度の神秘の術は心得ていますが、レベル1の皆さんでも簡単に倒せる程度です。

・王子様
 銀髪の麗しい青年です。友好国の王子であり、度々姫の屋敷を訪れていました。
 親の決めた許嫁でありながらも、姫とは良好な関係のようです。
 アンと言葉を交わすことはありますが、彼女のことをどう思っているかは不明です。

・アン
 またの名を『メイドA』――お姫様に仕える、赤毛の若きメイドです。
 お姫様を訪ねて城へ来る王子様に、いつの間にか恋をしていました。
 そして、恋を自覚した瞬間。彼女はこの世界における自分の役割を知ったのです。

●シチュエーション
 その日は、お姫様の誕生日。
 お城の広間ではパーティーが開かれ、使用人達も大わらわ。
 こんな日は、きっと賊が紛れ込んでしまうかもしれませんね!

●行動
 皆さんは【昼】【夜】のパートごとに自由に動けます。

・【昼】
 メイド、執事、招待客を装い過ごしましょう。偏っても大丈夫です。
 ボロが出そうになっても、アンがフォローをしてくれるのでバレる心配はありません。
 姫や王子、アンと話をしたり、自身の恋に思いを馳せたり。ただ運動前の腹ごしらえとしてパーティーのご飯を堪能してもよいでしょう。

・【夜】
 アンが付き添い、2階の自室で姫が寝る準備をしています。
 1階裏手の窓を開けて居るので、そちらから侵入できます。勿論潜入に適したスキルがあれば、使ってみるのもよいですね。
 部屋へのルートは事前にアンより聞いており、迷うことはありません。
 襲撃に気付いた姫は、叫び使用人たちを呼ぶでしょう。多少腕の立つ使用人もいるかもしれませんが、皆さんにとっては簡単 に殺せる程度の強さです。

 姫を殺した後は、物語が終わる(腐り落ちる)まで多少の猶予があります。
 アンと最期の話をするもよし、屋敷の人を殺して回るもよし。残り時間はご自由に。
 だって、終わってしまう物語ですから。

●プレイング
 存分にお姫様を嬲りたい方は、どうぞ戦闘重視に。
 心情重視、戦闘は「殺す」の一文でも問題ありません。
 プレイング内の心情を口に出す無粋がないように努めますが、どうしても台詞にしたい箇所や口に出したくない箇所は「」や()等の活用を推奨します。

●備考
 シナリオの性質上、残虐な表現が入ったり、後味が悪くなったりする可能性があります。
 ご参加の際はご注意ください。

 アンの気持ちが解ってしまう恋する貴方も、殺せる事を楽しみたいだけの貴方も。
 どうか、この物語の結末を見届けてください。
 よろしくお願い致します。

  • All is well that ends well――完了
  • NM名飯酒盃おさけ
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月14日 22時06分
  • 参加人数4/4人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ワルツ・アストリア(p3p000042)
†死を穿つ†
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
シルヴェストル=ロラン(p3p008123)
デイウォーカー

リプレイ


「えと……お飲み物は、いかがですか?」
『神翼の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)が、淡紅色の瞳を貴婦人へと向ける。給仕の衣装に袖を通し、ジェックはせっせと招待客の世話に走りながら、頭の片隅で『恋』を想う。
(苦しいね、苦しいよね……それが、誰かを殺していい理由にはならないけど)
 それでも、解ってしまう。恋とも呼べない、ガスマスク越しに見た淡い思い出だったけれど――声も、表情も覚えている。
 だからこそ、自らの手で終わらせるこの世界も、人々の重さも理解している。
「その、何かお困り……ですか?」
 辺りを見回すドレス姿の少女に尋ねれば、少女はうっとりとジェックに語りかけるのだ。
「アン様と王子様ってば、本当にお似合いで――貴女もそう思うでしょう?」
「あ、わたしはメイドなので……!」
 目を逸らした先には――イエロードットの淡き薔薇が飾られていた。

「いかにもって感じの純真で幸せなお姫様ね。流石は物語の主役、越えられない壁を感じるわー」
 真紅のドレスに身を包んだ『紅き弾道は真実に導く』ワルツ・アストリア(p3p000042)がグラスを掲げる。
 殺すべき対象である姫や使用人、ついでとばかりに王子をひとしきり観察する横で、タキシード姿の『デイウォーカー』シルヴェストル=ロラン(p3p008123)が息を吐く。
「だからこそ、だよ。だから、この物語は甘美で美しい。見ていて飽きないよ」
 恋というものはつくづく面白い。人を殺す原動力にもなって、挙句にこうして世界も殺す――まあ、当事者になるのは御免だけれど!
「楽しんで頂けておりますか?」
「まーね。しかしあれは相当強敵ね」
 赤毛の侍女――終わりを願ったアンは、努めて自然に二人へと語りかける。
 呼び声と同じだけの想いを持った彼女を、ワルツはふぅん、と一瞥する。混沌ならば討たれるのは彼女であり、姫ではない。きっとこの物語は、アンを討ったとて終わらないのだろう。
「お嬢様とお話なさいますか?」
 アンの問いにワルツは首を振る。今から殺す相手の気分を伺うなど、ナンセンスにも程がある。それに、いざという時――引き金が引けないとなれば、任務は失敗なのだから。
「僕も遠慮しておくよ。それより面白い選択をした君と話す方が楽しいから」
 面白い、の言葉に眉を僅かに顰めるアンにシルヴェストルは続ける。
「ああ、ごめんね。面白いというより、好ましいかな。何も変わらないと嘆いて終わるよりか、余程いい」
 ところで、とシルヴェストルは前置いて「君はどうする?」と問いかける。
 やるべき事を僕達が終えた後、君は物語が完全に終わるその瞬間までどうしたいのかと。
「今は忙しいだろうし、また夜に見せてくれ。……君の為したいように為すのが、良いと思うよ?」
 その言葉に、アンは何一つ返さず。二人はそのまま、宴の輪に消える。

(生まれた日に世界が終わるというのも、因果な物だ)
『名を与えし者』恋屍・愛無(p3p007296)は壁に寄りかかったまま、取皿に盛ったパイを雑に握ったフォークで刺す。貴族の子息かのような装いの愛無を「個」として認識するものはなく――故に、その手付きがこの場にそぐわないとて誰も咎めない。
 愛無は食欲(ほんのう)旺盛なれど、殺しには正直な所気乗りはせず。けれどもう、これは「是非も無い」段階だった。
(世界がなければ我も通せまい。終わるというなら速やかに終わらせるのが、まだマシというものだろう)
 眼前に持ち上げたパイからは、腐った臭いも無く――齧り付けば、中から蜂蜜が溢れ出す。
「悪くない」
 遠い屋敷に待つ子や『彼』に土産だと渡せば、きっと喜ぶだろう。
 けれど、これから行うことは――諦めと共にパイを飲み込み、口の端の蜂蜜を拭う。

 窓の外の陽は、少しずつ低くなっていく。
 仕事までは、もう少し。


 宴の喧騒が過ぎ去り、夜の帳が下りる頃。
 「ついて来て」
 足音一つ立てないワルツが先導し、アンの手筈通りに廊下を進む。壁に備え付けの燭台に微かに灯る炎は、辛うじて一行が互いを視認できる程度のもので。
「止まって。向こうに人がいる」
 階段を上り、標的が過ごす部屋を見つけたと同時。最後部より暗がりを見通すジェックの瞳が、一人の使用人を捉える。若い男だろうか、こちらには気付かないまま近付いてくる。
 引き返し物陰に隠れれば、あるいは暗がりに潜めばこの場はやり過ごせるか。逡巡の後響いたのは――ジェックの撃った、一発の銃声だった。

「……ねぇ、アン。何か音がしなかった?」
 何かが弾けたような聞き慣れない音に、柔らかな淡いベージュのナイトドレスを纏った姫が不安気に蒼い瞳を揺らす。
「ホールの装飾の片付けが続いていたのでしょう。後で見て参ります」
 毎夜、風呂上りに髪を梳かしながら他愛もない話をする僅かな一時。それは二人にとって当たり前の日常だった。
 それも、これがきっと最後だ――扉が開いた音に、アンはブラシを置いて振り返る。

「お待ちしておりました」
「災難と言うべきかな。変わらないはずのものを捻じ曲げられるなんて、ね」
 四人の侵入者に対し招待客を出迎えるかの如き挨拶を返すアンに、姫と同じ蒼き瞳の青年が柔和に微笑む。その侵入者達が、昼間ホールにいた者とは姫が気付く由もなく。椅子から慌てて立ち上がると、アンの背へと隠れ、怯えきったかんばせを覗かせる。
「だ、誰!? 何しに来たの!?」
「名乗る名前などない。通りすがりの怪生物だ」
「ごめんね。キミ達の幸せを、壊しに来たんだ」
 人の姿のままの愛無は、姫の問いには答えない。与えられた役割を演じているに過ぎないこの女に、今更何を言ったとて通じないのだから――異邦人であり異物である己は、殺すのみ。
 傍らでライフルを構えたジェックの骨ばった手は青い筋が幾重にも浮かんでいて――その白き肌を、ワルツが練り上げる紅き魔力が照らしていた。
「ちょっとだけ眠っててね。いい?」
 それは、ワルツの優しい嘘。
「まあ、君よりも気持ちの強い人がいただけだよ。残念だけど、それに勝てなかったということだね」
 シルヴェストルの言葉の意味も、姫は解る事はなく――アン、と名前を呼ぶ。
 それは、世界で一番頼れる名前。
 けれど、返ってきたのは――

「さようなら」
 その一言と、背中を押された感触だった。

「やだ、来ないで、来ないでってば!」
 押し出された姫は、床にへたり込んだままがむしゃらに衝撃波を放つ。大勢に囲まれ、祝われ、朗らかに笑っていたその美貌は今は恐怖に震え涙でぐずぐずと濡れ。無論、その状態の彼女が放つ術など明後日の方向に飛んでいく。
(戦いたまえ。抵抗したまえ。それが生きるという事だ)
 頬を掠める魔弾すら、愛無は厭わず。抵抗される方が余程気が楽だとすら思うこの気持ちは何なのだろうか。
 慌しい足音が幾つも聞こえる。騒ぎを聞きつけた使用人や護衛が来るのだろう。
 誰ともなく頷いて、そして――

 ワルツの放った紅の穿光が、額を貫き金糸を赤黒く染め上げる。
 無慈悲で不可避なジェックの弾丸は、恋に躍り、恐怖に逸る心臓を射止め。
 全てを無に帰すシルヴェストルの衝撃と、愛無の黒く禍々しい粘膜が――その心臓ごと、胴体を薙ぎ払った。

「貴様等、何者だ!」
 銃声を聞きつけてか、簡易な武装をした使用人が五人。
 しかし、目の前に広がる光景に彼らは後ずさる。そこにあったのは、この屋敷の姫『だったもの』なのだから。
 雷撃と弾丸の雨と、何か――黒いモノの叫びと。
 それを浴び、土に葬られて。そうして屋敷はまた、静けさを取り戻した。

(彼女が立ち去るのならば、探してでも見届けようかと思ったけれど……)
 シルヴェストルは足元の鼠を拾い上げると、指の腹で撫でつつアンを見やる。彼女は、四人が部屋に入ったその瞬間から一歩たりとも動いていなかったのだ。
(今度は首を飛ばす覚悟で物語へ喧嘩を売って、玉砕しようとか……ダメか……)
 姫の亡骸をぼんやりと見つめるアンに、ワルツは手を伸ばし――虚空を握ると、その手を引いた。好きになった事。それはどうしようもなく、仕方がなかった。ならば、いつか――いつか幸せになりたいと、願う外なく。
 すん、と愛無が鼻を鳴らす。血肉の匂いの中でも香る王子の匂いを嗅ぎ取る。
 死後の世界があったとして、例え殺したとてそこでアンが王子と再会出来る筈もない。ただケジメをと――己の主義たるそれに、喰らわんと足を踏み出すのをジェックが制止する。
「ん」
「……僕は殺したモノは喰う主義なのだが」
「決めてもらおう」
 アン、と名を呼べば。ぼんやりと姫を見つめていたくすんだ赤茶の瞳が、四人を捉える。
「ねぇアン。どっちがいいと思う?」
 王子を殺すこと。そして、アン自身も殺すこと。
 見渡せばもう、部屋は端から変色し腐り落ち――朝日は昇ることなく、世界は、物語は終わる。
「わたし、は」
「キミが望んだんだ。キミが決めて」
 望むならば、物語より先に終わらせるから。そう続ける前に、アンは割り入って。
「王子は、そのままで。わたしを、殺してください。
 それにきっとまずくはないと思うので、食べたかったらどうぞ」
 目を丸くした愛無は「考えておく」とだけ呟いて、空腹の腹をさする。
 そうして、アンは目を閉じて全てを受け入れて――


 ある所に、優しいお姫様と、彼女に仕えるメイドがいました。
 お姫様は隣国の王子と幸せには――暮らせませんでした。
 誕生日の夜、姫も、屋敷の皆も、不幸にも命を落としてしまったのです。

 世界中が腐り落ちる中、王子様はあたたかいベッドで夢を見ていました。
 それは、深紅の薔薇が散る中眠るお姫様を抱き締め、幸せそうに笑うメイドの姿。
 本当の二人が真っ赤な血溜まりの中にいて、もう息絶えている事を知ることはないでしょう。
 だってこの物語は、ここでおしまいなのですから。

成否

成功

状態異常

なし

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