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シナリオ詳細

慟【こく】のネバーランド

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●"鉤の手"の慟哭
 その島は、夢と冒険の宝石箱だ。
 約束された楽園『ネバーランド』。
 妖精が空を飛び、インディアンが陽気に踊る。
 棲まう人魚は美しく、迷い込んだ少年たちは、やがて永遠を得るだろう。

 誰もが憧れる“理想の世界“でーー男はひたすら、虚な日々を過ごしていた。

「ジェームズ。今夜はそこまでにしておいた方がいい。船長が連日二日酔いじゃ、部下に示しがつかないぞ」

 カロン、と氷が揺れた。ロックグラスを右手のフックで引き寄せ、忠告された男ーージェームズ・フックは卑屈に笑う。

「示しも何も。俺を船長と慕っている変わり者は、側近の君しか残っていないだろう。
 残りの奴らが従っているのは、私が恐ろしいからだ」
「それなら、回りくどい言い方を止めるまでだ。……もう、飲むのを止めてくれ。これ以上、アンタが堕落していく姿を見るのは耐えられない!」
「……Mr.スミー」

 スミーと呼ばれた男は、真っ直ぐフックを見つめ返した。己が無力さに唇を噛み、震える声で絞り出す。

「昔はそうじゃなかっただろう!
 ピーター・パンと戦う事に心血を燃やしていた頃は、アンタの目は輝いていて……俺にとってはそれが、どんなお宝にも勝る輝きだった!」

『水夫長。この船に不満があるなら俺について来るといい。海賊はいいぞ! 金もスリルも悪名も、力さえあれば何でも手に入る!』

 最初は強引に巻き込まれて、なし崩しに海賊になった。それでもフックの腹心としてスミーが健気について来たのは、人間性に惚れ込んだからだ。
 海賊ながら学があり、甘いマスクで紳士的。完璧に見える様で、自分の右手を食らったチクタクワニを怖がる人間臭い一面もある。

「目を覚ましてくれ、ジェームズ……いや。フック船長!!」
「目ならとっくに覚めてるさ。ピーター・パンはもういない。チクタクワニも殺して皮を剥いだ。
 この世界に永遠はない。時計の針も戻らない」

 輝かしい日々は過ぎ去り、慟哭した心はやがて涙すら枯れ果てた。

「君が慕うジェームズ・フックは死だ。ここにあるのはーー燃え尽きた後の灰塵だ」

●黄色ではいられない
「強敵と書いて友と読む。君達には、ライバルと呼べる相手はいる?」

『境界案内人』神郷 黄沙羅(しんごう きさら)は深緑色の本を手にして、表紙を細い指先で撫でた。
 妖精の粉で金の装飾が施されたそれは、かの有名な物語『ピーター・パン』から派生した異説なのだという。

「この異世界はピーター・パンが死んでしまった世界線。主人公が物語の舞台から弾き出された結果、宿敵だった海賊ジェームズ・フックにスポットが当たる様になった……のはいいんだけれど」

 死力を尽くしてピーター・パンを倒したフックは燃え尽きてしまい、ネバーランドに侵攻した目的さえも投げ出して、廃人同然になってしまったらしいのだ。

「僕たち境界案内人は、物語を完結させて図書館に本を収蔵するのが仕事だ。何の展開も無いまま、ダラダラ話が続かれても困る。
 この黄色信号みたいなどっちつかずの状況から、完結に向けてのテコ入れをするために……ちょっと君達、フックと殺しあってきてよ」

 ピーター・パンなみの強敵が現れたと、フックがやる気を出しさえすれば、物語は完結に向けて進むだろう。
 戦いの最中でフックが死んだとしても、物語はその場で完結。境界案内人の目的は果たされる。

 どちらに転んでも、黄沙羅には旨味があるという訳だ。

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董です。
 永遠の少年は死をもって永遠となりました。それでも物語は続きます。

●目標
 フック海賊団の討伐

●世界(本)説明
異説『ピーター・パン』
 有名な物語から派生したIFの異世界です。主人公ピーター・パンが死に、宿敵のフック船長が主人公に成り上がりました。
 フック船長が死亡した場合、彼に並ぶカリスマ性の登場人物が物語に存在しないため、この物語は完結となります。

●戦場
 戦場となるのはネバーランド島の沖に浮かんでいる大きな海賊船。その甲板の上です。

 時刻は夜ですが、月明かりがあり視界ペナルティはありません。
 船の帆柱や外に向かって設置された大砲など、身を潜められそうな遮蔽物があります。

●エネミー
フックの手下×15
 カットラスという湾曲した刀を持ち、フック船長の周囲に配置されています。これといったBSは与えて来ませんが、数が多いため油断は禁物です。

スミー
 フック船長の腹心。平和主義なので彼の銃は直接ダメージを与えてきませんが、当たると【痺れ】てしまうようです。

フック船長(ジェームズ・フック)
 ボスエネミーです。黒髪のイケメン。元貴族で本来であれば紳士的ですが、開戦時は気怠げです。
 前主人公を倒したというだけあって、それなりに強力なはずです。
 右手の鉤の手(義手)は鋭く、【毒】に濡れています。

●その他登場人物
『境界案内人』神郷 黄沙羅(しんごう きさら)
 謎多き女性の境界案内人。男装の麗人で、白い中折れ帽と白いジャケットがトレードマーク。
 ポーカーフェイスの奥底には何か秘めた思いがあるようで、皆さんに協力的です。
 仕事の傍ら、魔術師グリムという人物を探し、異世界を渡り歩いています。

●アドバイス
 フック船長の討伐において、生死は特異運命座標に委ねられています。四人で意思統一しておくと話し合いがスムーズになるかもしれません。

 説明は以上です。それでは、よい旅路を!

  • 慟【こく】のネバーランド完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月09日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

チェル=ヴィオン=アストリティア(p3p005094)
カードは全てを告げる
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
首塚 あやめ(p3p009048)
首輪フェチ

リプレイ


 眠れぬ夜は目を閉じて、チェスの盤面を頭に描く。対峙するのはかつての宿敵、永遠の少年。
 ピーター・パンは頭が回るが学はない。仮初めでも奴がルールを覚えたらどう出るか。気休めにもならない事を考えては、浴びるようにラム酒を煽る。
「フック船長!」
「あまり騒ぐな、頭に響く」
 ガンガンと乱暴に船長室の扉を叩かれ、酒瓶片手にフックは立ち上がった。緩慢な動作で扉へ近づき、次いだ手下の言葉に目を見開く。
「ウェンディが現れました!」
「魔女(ウェンディ)だと……?」


 フックが甲板に出る頃には、船上は地獄と化していた。新たに敵が増えた事を確認し、『首輪フェチ』首塚 あやめ(p3p009048)がチェシャ猫のようにニンマリと唇を緩める。
「クヒヒ! フック船長にスミーさんも首輪が似合いそうなイイ男ですねぇ!
 是非とも首輪をチョイスさせてくださいよォ! 勿論、他の海賊の方でもOK!さあさあさあ!」
 それがあやめの名乗り口上だと気付かずに、海賊達は手にした剣ーーカットラスを振り上げる。
 刹那、物陰から黒い影が飛び出した。その姿を海賊達が視認する前に、甲板の上へ"夜"が降る。
「響き渡れ。英霊残響……!!」
 無念を抱えた英雄の怨念達が『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)の姿を隠し、不協和音を響かせる。呪縛で脚を縫い留められた海賊に、『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)がすかさず叩き込むヴェノムジュエル!
「終わり所を忘れた物語。こんなに心がざわつく依頼は久しぶりです」
 少年少女が不死を得て、人魚や妖精が歌い踊る――永遠の楽園、ネバーランドの輝きはここに無い。くすんだ灰色の空と、色を失った孤島が寂しく遠くにぽつんとあるだけだ。
 果たしてこれは試合なのか、それとも死合と言うべきか。
「大丈夫か、睦月殿」
 アーマデルに声をかけられ、睦月は微笑みを返した。
「えぇ。揺れた心では勝負に挑むわけにはいきませんから」
 どんな地獄の果てにも、自分の帰りを待ってくれる人がいる。揺れ動く心には蓋をして、死合へ臨むべきなのだ。油断は一ミリたりとて許されない。
「それにしても、凄いですね」
 と睦月が呟いたのは、足元に転がる海賊達だ。戦闘不能の男達は一律キッチリ首輪が付けられている。種類は様々、ひとつも同じ物はない。
「お二方もいかがですかァ? 好きな人の気を引く首輪、ご用意しますよ……ヒヒッ!」
 あやめの甘言に睦月とアーマデルが詳しい話を聞きかけようとした所で、パン! と銃声が響いた。
「クソッ、外したか!」
 甲板の端の方から麻酔銃を構え、スミーがアーマデル達を狙っている。まるで人を撃つのが怖いとばかりに、その手は恐怖で震えていた。
「いい子だから当たってくれよ! でなけりゃお前ら、マジで殺されちまうぞ!」
「あら。こんなに叩きのめされても、まだわたくし達の心配ですの?」
 争いの前線から更に奥。雲の切れ間から差し込んだ月光が『カードは全てを告げる』チェル=ヴィオン=アストリティア(p3p005094)の姿を闇夜から浮き上がらせる。その身は既にカードの加護で強化され、遮蔽物に隠れながら応戦しているスミーの姿を透視で捉えていた。
「示されたのは嘆きと滅びの青い星。このカードの示す意味は――身体で感じて戴きましょうか」
 チェルのアストリティア式カードが光を帯び、衝撃の青が炸裂した。近づく海賊を衝術で海へと弾き飛ばし、静かに笑う様はまさしく魔女そのもの。
「船長! やっぱりウエンディだ! あいつら"ロスチャイルド"を連れて、ピーター・パンの弔い合戦に来ちまったんだ!」
「この間抜けども、奴らがピーター・パンの仲間の筈があるか! 背丈をよく見てみろ!」
 ロスチャイルド――ネバーランドの不老の子供と言い切るには、平均年齢が少しばかり高い。襲撃者の正体を見定めようとフックが視線を彷徨わせると、白い触覚に気を取られた。
「今のあなたをピーター・パンが見たらなんというでしょうね」
 睦月の瞳が淡く輝き、無辜なる混沌から与えられた恵み『幽世の瞳』を発動する。フックの過去に潜り、深層から引き上げた一握りの記憶。
「これは……!」
 彼女の目が見開かれるとほぼ同時、甲板の上に人が倒れる音がした。フックの片腕であるスミ―がついに倒れたのだ。
「フック船長、逃げろ……アンタには、まだやるべき事…が……」
「海の上に逃げ場などあるものか。泳げばすぐにワニの餌だ」
 フックは手にしていたラム酒のボトルを放り、細剣を腰から引き抜いた。手はアルコールで震えているが、瞳に力強い輝きが宿る。
「ごきげんよう、船長。貴男、死相が出ていましてよ?」
 ひらり、月に照らし出されるチェルのカード。占術の力が宿るその一枚は『崩壊』を示した。それは異世界すらも崩れ去る不吉な力――
「ピーター・パン最愛の女……ではない様だが、お前は確かに魔女(ウエンディ)だ!」
 フックの放った剣撃とチェルが放った衝撃の青が打ち消し合う。間髪入れず蛇腹の剣がフックの剣を絡め取った。力ずくで引き合いながらフックとアーマデルが睨み合う。
「こそこそ闇に紛れているかと思えば、ようやく姿を現したか!」
「……あんたが食い荒らした『強敵(とも)』は、勝手に育つものじゃない。誰かが見出し、育て、そこへ至るものだ」
「なんだと?」
「あんたにはまだ、後進を育てるという役割が残っているはずだ」

 ここに来る前、境界案内人から特異運命座標は二択を突きつけられていた。フックを殺すか否か――
 アーマデルは最初、その時次第だと思っていた。死ぬべき運命にあればそうなるだろう。違うならば生き残るだろう。
 なのにフックの荒んだ目を見た瞬間、心はひとつに定まった。届かない希望、見えない未来。そういったものは、ヒトの身と心を倦ませ腐らせる。

……そうして堕ちていった者を、知っている。

 撚り合った運命の糸を解いて、あの時はひとり助かった。助かってしまった。
 ならば今回も死なせてやるのが慈悲なのか?

――違う。俺は……生きて欲しかった!!

「チッ。身勝手な事を!」
 悪態の裏で心が揺らぐ。金色の瞳にえも言えぬ力を感じ、フックはギリリと歯噛みした。その頬を猛毒の魔石が掠め、足元に着弾する。
「いいえ、フック船長。あなたのネバーランドは終わってしまったのかもしれないけれど……託された筈です、ピーター・パンに!」
 睦月はこの目で見たのだ。記憶の中、ピーター・パンとフックの最期の戦いは、事故により終わりを告げた。

『ネバーランドを頼んだよ』
『黙ってろ、今止血する! こんな終わり方で勝ち逃げのつもりか、ピーター・パン!!』

「貴方は最初、ネバーランドに宝を求めて来ただけの部外者だったかもしれません。けれど今は貴方もこの島の仲間なんです!
 帆を揚げましょう。航海へ出ましょう。この島にはいまだ未知が眠っています!!」
「……やめてくれ。どのツラ下げて、今更」
「そう。では……ここで終わりに致しましょうか」
 ふいに横っ腹に一撃が叩き込まれる。ドッとフックが倒れ込み、睨みあげた先にはチェルがいた。占術のカードを差し向け、冷静に告げる。
「彼の死で物語は終わりを迎えるそうですけれど、亡き船長を慕う海賊団というのもドラマティックではなくって?
 それは一つのエンディングとして成り立つと思いますの」
 彼女は手を緩めない。星々の力が一枚に集約され深い青に染まり、放たれた渾身の一撃は――しかし。

「っ!! ……あァ、いい一撃ですねぇチェルさん。これは私も、すまし顔じゃいられません」
「あやめさん、あなた……」
 フックの代わりに攻撃を受け止めたあやめは、唇の端から血を零しながらもキヒヒと笑った。
「疼くんですよぉ、この身が! 人も奴隷も幸せであるべきだ。その為に可能な限り尽力する事こそ奴隷商人の務め!
 フック船長は目標を見失い、惰性で生きてるようですが……その状態のままで生を終える事は見過ごせません」
「我々という再び来ることのない敵を生き甲斐にさせるのは酷だと思います」
「来ますとも! 何度でも……私は私の矜持に従い、彼が"満足ある生"を終えるまで!
 黄沙羅さんはこの選択…どう思いますかね?」
 話を振られ、境界案内人が虚空から現れる。闘志が燻りはじめているフックの目を見た後に、彼女は肩を竦め。
「僕に裁量はない。どうせなら彼自身に直接決めて貰えばいいじゃないか」
 フックに特異運命座標の視線が集まる。ここで望めば死闘の果て、安らかな死を迎える事もできるだろう。
「俺は――」


 その日、キャプテン・フックは死んだ。

 長い髪をばっさり切って船を降りた彼は、この異世界にして半年後――島のあらゆる場所で信頼を勝ち得、今ではロスチャイルドに剣の稽古を付ける鬼教官となっている。
 彼の名はジェームズ。"ただの"ジェームズ。

「俺は強欲な男だ。後任は欲しいが、シノギを削る宿敵(とも)がなくば生きられん。お前達もそうであれば嬉しい」
 アーマデルが、睦月が、あやめが。各々の武器を手に飛びかかり、ジェームズもまた、好戦的な笑みで細剣を引き抜いた。
 砂浜で始まった激しい殺し合いの音をBGMに、黄沙羅とチェルはビーチパラソルの下で観戦しながらお茶を飲む。
「魔女(ウェンディ)、アンタも来てくれたのか」
 スミ―が運んできた焼き立てのパンケーキをつつき、チェルは目を細める。
「黄沙羅さんに呼ばれたからですわ」
「物語が終わるかもしれない時に、君だけ立ち会えいないのは不公平だろう?」
 仕事でないのなら興味はないが、境界案内人と仲良くするのは仕事を続ける上で重要な事だ。
 魔女(ウェンディ)と呼ばれたって舞台にあがるつもりはないが、彼が再び絶望の縁に立った時は、眠る手伝いくらいしてやろう。

――わたくしは卑怯な魔女ですもの。

成否

成功

状態異常

なし

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