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シナリオ詳細

【黄昏小町】今日は楽しい、七夕祭り

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●願いよ、天の星に届け

 今日この日、黄昏小町のお寺は騒がしい。
子供達が色とりどりの小さな紙を手に、列を成しているのだ。
列の一番前にいる子供が、柔和に微笑む住職にそれを手渡せば、住職はそれを大きな笹へと飾り付け、代わりにその子に駄菓子を一つ渡す。
駄菓子を受け取った子は待っていた両親のもとに駆け寄ると、そのまま手を握り、柿の木通りへと歩いていく。

 そこには、『たこ焼き』『焼きそば』『落書きせんべい』『りんご飴』……等と書かれた屋台が立ち並び、子供はあれが食べたい、これも食べたいとありとあらゆる所を指差していく。
母親は『そんなに食べれるのお』と唇を尖らせ、父親は『残った分は俺が食うよ』と歯を見せて笑う。

そうやってはしゃぐ親子がいる一方で、目当ての景品を狙ってコルク銃を撃ったり、輪投げを握りしめる少女の目は真剣そのものだ。
その子の妹都謂われる少女は、その背後で綺麗なスーパーボールに目を輝かせている。

 屋台に賑わう柿木通りを抜け、しばらく歩いたなら、そこは子供達が大好きな公園。
しかし、今は平素ほどの賑わいはない。むしろ、誰もが静かに空を見上げている。
空に浮かぶは、まさにミルクを零したように一面に煌めく、満天の星々。
しかしその背景、星が泳ぐ空はオレンジ色で。この世界の住人以外が見たら、違和感がある風景かもしれない。

「彦星はどこだろう」
「あれが織姫じゃない?」

それでも、そんな空に疑問を持つことなく、ここに集う男女が、ささやくように、そんな会話を繰り広げる。

そう、ここは黄昏小町、延々と永遠に夕焼け空が続く町……だけれど、今日この日は特別だ。
だって、今日は七夕祭りなのだから。


 
●一足早く、祭りへ行こう

「黄昏小町は朝も昼も夜も永遠に夕焼け空で、日が暮れない所……って聞いていたけど。七夕祭りの日だけは、お星様が見えるのね」

夕焼け空に一番星が光るとこならあたしも見たことあるけれど、真っ暗な空じゃなくってオレンジの空にお星様が広がるって……なんだか不思議な感じ。

境界案内人は、実直にそういう感想を呟くけれど、それ以上に、なんだかとても楽しそうで。

「……ね、不思議な空の七夕祭り。あたしも見てみたいな。一緒に行ってみない、イレギュラーズ?」

マチネからのこの誘いに、貴方は……。

NMコメント

どうも、なななななです。
学生時代、通っていた所の一駅隣で七夕祭りが開かれていたのが、なんとなく記憶にあります。

それはそれとして、詳細は以下の通りです。

●黄昏小町
 
 永遠に夕方が続く、古き良き日本のような光景が広がる世界です。
空模様や天気はいつまでも変わりませんが、一応『夜』という概念があるらしく、毎日決まった時間に放送が流れます。

 遊ぶのはここでやめにして、今日はもうお休みしよう……という意味もあるようですが、この黄昏小町には、『夜』になってもいつまでも遊んでいると、『大化けおばけ』にどこかへ連れて行かれてしまう……という伝承があるようですが……今日だけは特別。

夕焼け空はそのままに、空に天の川や星々が輝き、子供達も「けして一人にならないように」という条件付きで、夜の外出が認められています。

●目的
『七夕祭りを楽しむこと』。

 黄昏小町での『七夕』は、織姫と彦星が年に一度再会する日、そして普段と変わらぬ夕焼け空が、唯一星に包まれる日として認識されています。
加えて、子供達が願い事を書いた短冊を笹に吊るしたり、(子供達の見守りも兼ねて)町の各所に屋台が設置されたりと、大変にぎやかになっているようです。
祭りの喧騒から離れて、大切な人と、見晴らしの良い公園で星を眺める者も多いようです。

主に以下の行動が行なえます。

・お寺の笹に短冊を飾る
毎年、七夕祭りの日には、子供達が願いを書いた短冊を笹に飾るのが風習になっています。
また、短冊を飾ってくれた子供には、住職さんが駄菓子をくれるようです。
子供(もしくは、子供に見える)PCの皆様も、もちろん貰うことができます。
また、子供だけでなく、大人にも願いを飾る人が少なからずいるようです。

・柿の木通りの屋台を楽しむ
『たこ焼き』『焼きそば』『落書きせんべい』『りんご飴』『射的』『輪投げ』『スーパーボール掬い』などなど、食物から遊びまで、多種多様の屋台があります。
同じ看板を掲げていても味が微妙に違ったりもするので、屋台料理を食べ歩くのも、ゲームを制覇するのもいいかもしれません。

・公園で天体観測
人々が休憩したり、空を眺めたりしています。
空がオレンジ色なので、普段の混沌の夜空よりは見にくいかもしれませんが……それでも、多くの星を見ることができます。
特に、普段と違う空に浮かぶ天の川は、とても幻想的な風景かもしれません。

●NPC
・マチネ・ソワレ・ゲネラルプローベ

 OPにも登場しました境界案内人です。
彼女もこっそり、この七夕祭りを満喫しに来たようです。
リプレイ中には基本登場しませんが、プレイングにてお誘いがあれば、ご一緒させていただきます。

●その他
一章構成、リアル七夕の頃まで運営する予定です。
合わせプレイング、もとい同行者がいらっしゃる場合は、同行者の方のお名前、キャラクターIDの記載をお願いします。

例:マチネ(p3pxxxxxx)と一緒に屋台を食べ歩こう!

どなたでもどうぞ、ご参加ください。

  • 【黄昏小町】今日は楽しい、七夕祭り完了
  • NM名ななななな
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月08日 21時40分
  • 章数1章
  • 総採用数20人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

天閖 紫紡(p3p009821)
要黙美舞姫(黙ってれば美人)

 やきそば・お好み焼き・たこ焼きに、落書きせんべいに林檎飴。
祭りの風物詩をこれでもかと集めて、石段に座すのは紫紡だ。帯のような蝶の羽が、美しく彼女に寄り添う。
今まさに彼女は、祭りの収穫、その一つに、柔らかい口付けようとして……。

「ン゛ッあふい!!!」

たこ焼きの熱が、彼女の口内で反逆を起こす。腕をブンブンさせながら、キンキンに冷えた瓶コーラで口直しだ。

 その時、彼女の脇を風が抜けていく。見れば、赤い紙片をぎゅっと握りしめた幼い少年が石段を駆け上がる所だ。

気になってその背を追えば、あの子が笹に目一杯に腕を伸ばしていて、しかしギリギリのところで届かない。
彼の目元にじわり星が光るのを、紫紡は見過ごせなかった。紫紡は優しく、その背に触れる。

「私も手伝うから、一緒に飾ろ?」

その子は力強く頷き、その身を紫紡へと託す。
『ヨイショー!』の声と共に彼を持ち上げれば、目当ての枝に手が届いた。彼にとっては、星を掴むのに等しい喜びだったろう。

 再び地に足をつけた時、彼は『ありがとう』を口にする。そして『次はお姉さんの番だよ、だって今日は七夕祭りなんだから!』と笑う。
折角だから、と手にした短冊に、彼女はこんな願いを託した。

【また来年もこの黄昏小町で、お祭りを楽しめますようにっ】

異世界の七夕祭り。けれど耳馴染みのある響きに、自ずと紫紡の胸が踊る。
新たに飾られた紫の短冊と紫紡が見上げたのは、オレンジの星空だった。

成否

成功


第1章 第2節

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器

 七夕祭りに誘われ、柿の木通りを歩くのはヨゾラ。
祭囃子。人の流れ。不思議な空。そして立ち並ぶ屋台が、彼の興味の道標となる。
だって、7月7日の七夕祭り。同じ誕生日の自分には、つい親近感が湧いてしまう。
既に熱々のたこ焼き、キャベツたっぷりの焼きそばに、オレンジの瓶ジュースとお祭りグルメを幾つか堪能した彼だが、彼の視線は、ある屋台へと止まった。

「スーパーボールすくい……?」

 よってみれば、色合いと大小様々なボールが、楕円形のプールをぐるぐる回っている。
『お兄さんもやるかい』と親父さんに声を掛けられたなら、当然力強く頷く。
小さめのボールを狙ったつもりのヨゾラだが、水に濡れたポイは容易く破けてしまった。だけどまだ一回、チャンスが残ってる!

 次に彼が訪れたのは、らくがきせんべい屋。大きなせんべいに、思うがままに筆を走らせる。
最後にさあっとカラフルな砂糖がまぶされればそこに浮かぶのは。

「できた、にゃんこだ!」

『かわいいねぇ』と屋台のおばさんは笑うが、その言葉にきゅっと胸が締め付けられる。しまった、にゃんこだから食べるのが心苦しい……!

 『夜空』でもある不思議な夕焼け空の下、しゃくり、ヨゾラが齧るのは、買ったばかりのりんご飴だ。
右手にはりんご飴。左手にはスーパーボールの詰まったビニールの巾着。せんべいは、さっき美味しくいただいた。

「こういう世界も良いよね」

そう言って、彼は静かに微笑んだ。

成否

成功


第1章 第3節

祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー

 現地の子供の輪に混ざり、真っ白な短冊を手に取ったのは祝音だ。短冊とペンがたくさん用意された特設コーナーで、周囲の子供達は『何を書こう』『これに決めた!』と賑やかにしている。
その中で祝音も自らの願いを書き留め、笹の前の列に行儀よく並んだ。

「大きい……!」

既に色彩豊かな願いに飾られた笹は、列の後ろで待っている祝音から見てもとても背が大きく、子供を肩車したり、彼や彼女の代わりに短冊をつけてやったりと、大人達も大忙しだ。
長いように思われた行列もあっという間、やがて祝音の番がやってきた。
彼の背丈で届く範囲の、最も手近な枝。そこに祝音が掛けたのは、こんな願いだ。

『僕も皆も、幸せになれますように。
  癒し癒されますように
        祝音・猫乃見・来探』

少し丸い字で書かれた、純で真摯な願いだった。
自分の短冊を飾り終えた祝音に、住職が柔和に微笑み手招きをする。
キョトンとした顔で来てみれば、彼の手に渡されたのは、麦チョコの小袋だった。

「お菓子……くれるの? 本当に、ありがとう……!」

住職にキラキラ笑顔でお礼を言い、祝音が列を去った後も、次から次へ、多くの子供達、たまに大人が、自分の願いや祈りを、次々に笹に、星に託していく。

皆の願いが叶いますように。
幸せを見つけられますように。
……猫さんを愛でるように、癒せたらいいな。

真っ白な心で、祝音はまた、皆の為にと願うのだった。

成否

成功


第1章 第4節

もこねこ みーお(p3p009481)
ひだまり猫

「見ておっかあ、猫ちゃんがいるよぉ」
「あらあら、あの子もお祭りに呼ばれたのかしら」

 親子が微笑み指差すのは、雉白ハチワレの猫。その正体はみーおだ。
七夕祭りの珍客に黄昏小町の住人達は皆喜んで駆け寄り、彼(女?)の額を、お腹を、しっぽの付け根を優しく、ときにトントンと撫で回した。

そんなみーおが一休みしようと訪れたのは、公園にあるぞうさんの滑り台、その物陰だ。
そこにこてんと横たわれば、その目に映るのは。

「……オレンジ色のお空、綺麗ですにゃ」

今、遊具で遊ぶ子はいない。それも手伝い、つい感激の言葉が漏れてしまう。

(確か……七夕が晴れてたら、織姫さんと彦星さんが会えるはずですにゃ)

そんな伝説を、誰かが口にしていたのを、ふとみーおは思い出した。今日の黄昏小町は、晴れも大晴れ。雲一つなく、星々が輝いている。

「2人で久々に会えて、一緒にのんびり過ごせてると良いですにゃ。……2人からみーお達は見えますにゃ?」

星には声はないけれど、それでもキラキラ輝いて。

「お空に可愛い猫いたらいいですにゃ。織姫さん彦星さんもたまに撫でて癒されてほしいですにゃ!」

耳を澄ませても猫の鳴き声は聞こえないけれど、夏の大三角形。そこに寄り添うように、小さな小さな星が、そっと動いた気がしたのだ。

猫にとっては果てなく遠い空。それを見ている内に、うとうと、ねむねむ。

(ちょっとだけおやすみにゃさい、にゃー……)

星物語の続きは、夢の中で。

成否

成功


第1章 第5節

セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)
一番の宝物は「日常」

 遠い昔に、離れ離れになってしまった、織姫様と彦星様。
だけど、今日は特別な日。二人が天の川を渡って再会できる、年に一度の大事な日!

町民から七夕祭りについてそう聞かされるセリカ。
しかし、お互いを大切に思っている二人が、その日にしか会えないなんて。

「きっと、辛いよね……」

そんな風に思いを寄せるけれど、今日は祭りだ、頼まなくては。
何より二人の再会を祝す星の下、暗い顔で居るのは勿体無い!

 年に一度の再会を果たす二人にあやかってか、寺に飾られた笹は、多くの短冊と共に風に揺られていた。
セリカもまた、短冊を手に、何を書こうかうんうん悩む。
ふと空を見上げれば、眩い程の天の川。きっと今頃、二人寄り添い尊い時間を過ごしているに違いない。
そう思った途端、セリカの願いはここに決まった。

『世界のみんなが、それぞれの大切な人たちと、いつでも、いつまでも、一緒に仲良く、笑顔で過ごしていけますように……』

だって、いつでも一緒にいられる事は、とっても素敵で、かけがえのない事だから。
本当にいつまでも続いてほしいから。

 黄昏小町の空に似たオレンジの短冊。それを笹へと掛けたのなら、セリカは再び空を見上げて祈る。
これは短冊にも書かない、彼女だけのもう一つの願い事だ。
どうか、彼等の逢瀬が、年に一度きりのものでなく。

『……織姫さんと彦星さんも、いつかきっと、いつでも、いつまでも、一緒に笑顔でいられるようになりますように……』

成否

成功


第1章 第6節

オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女

 ジュウジュウ、じーっ。
ハートの視線は、先程からずっと、鉄板の上で踊る茶色い縮れ麺に釘付けだ。
『お嬢ちゃんも一つどうだい?』と聞かれたなら、そっと人差し指を立て、定番ソース味を注文する。
ホカホカの出来たてを手に再び歩き出せば、再び『焼きそば』の屋台。しかし今度は、その前に『塩』とついている。
先程自分が買ったものと、何が違うのかと見てみれば、今度は鉄板の上で黄色い麺が焼かれている。しかも具材はイカにエビと、海鮮中心だ。

 たこ焼き。焼きそば。チョコバナナ。フランクフルト。ベビーカステラ。
七夕祭りのグルメ全てを制覇する勢いで、ハートは柿の木通りを練り歩く。

 そうしているうちにたどり着いたのは、子供達で賑わうお寺の境内。
彼女の来訪を歓迎するかのように、笹の葉がさらさらと揺れていた。
その風景にほうと息をつくと、ニコニコ笑顔の住職が、ハートに語りかけてきた。

「皆、自分の願い事をここに飾ってるんだよ。君もどうだい」
「私の願い……は……」


『いろんな国のおいしいものをたくさん食べたい』

真新しい真っ赤な短冊が、笹を鮮やかに飾り付ける。

「うん……これでよし」

満足気に笑って、ハートは境内を後にする。
これもとても素敵な夢だけど、彼女の真の願い事、それは胸のうちに秘めておく。

『力を持たない人たちを守ること』。

これは、誰かに『願うこと』じゃなくって。
他でもない、『私の力』で叶えるものだから。

成否

成功


第1章 第7節

カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)
グレイガーデン

 黄昏。昼ではなく、夜でもなく。
その狭間にあって、そのどちらでもあり、どちらでもない、黄昏。
白でもなく黒でもなく、YESでもNOでもない。僕には、どちらも選べない。

強いて言うなら、僕は夜なのかもしれない。
ちょうど永遠の夕焼け空に、今まさに、きらきらと星々が灯っているように。

黄昏小町と自分は、どこか似ているのかもしれない。
何者かが手を引き案内したかのように、カティアは迷わず、この町に辿り着いた。
今日の黄昏小町はお祭りだ。日常でない特別だ。

沈みゆく夕日、その色にも似たりんご飴に、呼ばれるように導かれ。僕にも一つ、と注文する。

「はあい、りんご飴よぉ」
「ありがとうございます」

『これに書いてあるのと同じ星が、公園に行けば見られるわよ』。屋台の女性はそう教えてくれた。りんご飴を受け取ったカティアの足は、そのままその場所を目指していた。

 公園のジャングルジムには、今は誰もいない。そのままそこに足をかけ、あっという間に頂上へ。
最も星に近いそこへ座したなら、りんご飴を包んでいたビニールをそっと外し、さくり、一口味わって。
外したビニールは捨てはしない。そのまま、目当ての星を探す標とする。

けれどカティアが探すのは、ベガとかデネブとかアルタイルといった、今夜の主役の星じゃなくって。

眩しく輝く一等星よりも、他の星の輝きにすら眩む、居るか居ぬかもわからぬような暗い星。
自分とそっくりの、曖昧な星。

成否

成功


第1章 第8節

一条 夢心地(p3p008344)
殿

「見ろよアキ……お殿様がいるぜ!」
「もうリキ、人を指で差しちゃダメだって……本当だわ!?」

 あれは何だと問われれば、誰もが答える『殿様』と。
事実そうとしか形容しようのない姿で祭りを征くのは一条夢心地。
しかしここは城下町等でもなく、ただの平和な田舎町だ。

「かっかっか、たまにはこうした庶民的な祭りも悪くはないかの」

殿が現れ一瞬大人達も唖然とするも、すぐに料理を焦がさぬよう、めいめいの仕事に戻る(否、やはりチラチラ見てる。めっちゃ殿を気にしている)。熱々出来たての素晴らしい匂いは、庶民ばかりでなく殿の胃袋をも掴んだらしく。

「これそこの店主」
「はっ!」
「そこのたこ焼きを3舟ほど包んでくれぬか。マヨはたっぷりじゃ」
「仰せのままに!」

 殿様マネーの力は素晴らしく、このような調子であっという間に、彼の目の前にホカホカと湯気を立てた料理が並んだ。

たこ焼き三船。
普段のすっかり冷めきった毒味済みの料理ではけして味わえない、アツアツでハフハフな一品に、殿のテンションはまだ上がる。

紅生姜たっぷりぷりんぷりんの焼きそば。
祭りの場で食べるジャンクな料理こそ、最高の贅沢なのだ。

りんご飴に綿飴は、同時にいただく。
だって、こうして食うのが一番美味い。

さてさて満腹、これにて一件落着、かと思いきや。

「む、『ちょこばなな』とな? そこなおなご、持って参れ!」
「承知しましたぁ!」

祭りはまだまだ、終わらない。

成否

成功


第1章 第9節

御子神・天狐(p3p009798)
鉄帝神輿祭り2023最優秀料理人

 パンパン、と拍手をし、笹に祈りと願いを捧げるのは天狐だ。
ふさふさ狐耳と尻尾。彼女のそんな装いも、きょうはお祭りの日だからと、誰も不審に思わない。

「ふっふーん、わしの願いは決まっているのじゃ!」

彼女が願うはズバリ、『無病息災』。

一年365日。風邪や怪我で遊べなかったらもったいない。今日だってお祭りを、目一杯楽しむ気で来たのだ。

 石段を元気に駆け下りて、顔を上げたならば、通りの遠く遠くまで屋台が連なる。
彼女にとっては、ここからが祭りの本番と言っても過言ではない。

星に包まれる黄昏小町は、今日だけの、特別な空間。
だから、今日しかできないことを、めいっぱいに楽しむのだ!

 ポイを破くことなく、大物を無事にすくい上げたスーパーボールすくい。
身をギリギリまで乗り出して、目当ての景品を狙い続けた、射的の屋台。
屋台の兄ちゃんが、「焼きたてを作ってあげるよ」と笑ってくれた、歯ごたえたっぷりの、肉の串焼き。
定番の肉とキャベツたっぷりのソース焼きそばか、塩ダレたっぷりの海鮮焼きそばか、ぎりぎりまで迷った焼きそば屋台。

そして今は、ふわふわ綿あめを食べながら一休み中だ。

ふと袂の中身を思い出せば、「元気がいい子だね、これを食べてもっと元気に過ごしてね」と笑う住職から受け取った駄菓子。

「ふふふ、わしはまだまだ遊び足りないぞ!」

それを見たら、疲れも一気に吹き飛んだ。
天狐の次なる遊びの舞台は、一体どこになるのだろう?

成否

成功


第1章 第10節

郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール

 しゃぎりの音と人波に誘われるように、七夕祭りに呼ばれてきたのは京だ。七夕の黄昏小町は、毎年とても賑やか。そして京自身も、賑やかで楽しい事は大好きだ。

 ふと、彼女の目の前を、初々しそうな若いカップルが、手を繋ぎ歩いていく。二人はそのまま、星のよく見える公園へ。遠目に見ると、他にも夫婦や、恋人同士と思しき人物がそちらに向かっているのが伺える。……なんだか、公園には近寄り難い。

「彼氏ってどーしたら出来るんだろ……???」

溜息を大きくついた所で、ふわっと美味しい匂いを鼻腔がキャッチする。

「お? おおお? この匂いは……!」

 公園に背を向け駆け出せば、そこにあるのは、あるいは使い込まれた鉄板、あるいは今まさに生地を流し込まれている型、あるいは果物に飴やチョコを纏わせている風景。
これらは、ズバリ。

「やったー、屋台だー、京ちゃん大好きー!」

彼女の思考は、一気に色気から食い気へと切り替わる。
よし決めた、ここの屋台を全部制覇してやるぞ!

「おっちゃん、たこ焼きひとつ!」
「あいよ!」

「お姉さん、チョコバナナちょーだい!」
「はあい、好きなのを持っていってね」

「おばさん、かき氷、ブルーハワイで!」
「ふふ、舌が真っ青になるわよぉ」

「お兄さん、焼きそば!」
「へいお待ちぃ!」

「おじさん、綿あめくーださいっ!」
「ははは、今作るねぇ」

こんな風に、買っては食べ、食べては買って。京は今宵、柿の木通りの風になるのだった。

成否

成功


第1章 第11節

ノア・ブラン(p3p009924)

 ドンチャカドンチャカ、賑やかに響く祭り囃子。それにピコンと、長い耳が立ち上がる。
さらに、ヒクッと鼻が動き、その正体を追いかけようと、ぴょこんぴょこんと跳ねた。

そこにあった看板には『わたがし』の4文字が記されている。しかし、それは一体何なのだろう?
表から呼んでも、恐らく彼にノアの姿は見えまい。屋台の後ろに回って、そっとその足をつんつんと。

「おじさま、おじさま。私にもお一ついただけるかしら」
「おやまあ、うさぎのお客さんかね!」

 うちの綿菓子に命が宿ったかと思ったよ、そう笑いながらも、すぐに新しいものを作り始める。
はむっと噛んだそれは、ふわっと甘く口どけて、なんとも不思議な味わいだった。

 次に彼女が訪れたのは、ぬいぐるみやお菓子の景品がズラリと立ち並ぶ射的の屋台だ。
両手をしっかり使い、キリッとした目つきで狙いを定めて。

「大丈夫かい? 手伝おうか?」
「なんの、これしきっ……!」

ーー撃つ!

 残念賞の10円ガムを手にノアが辿り着いたのは、笹の揺れるお寺の境内。
『きみもお願いをしに来たのかな』と住職に問われれば、柔らかい手で、そっと短冊を差し出した。

『これからの道行きに幸がありますように』。
純白の短冊は、夕日に照り、オレンジに染まっている。

その光を見上げて、ノアはそっと目を細めた。

「夕空に溶けるような天の川もいいですね……」

石段にちょこんと座り、ノアはいつまでも、黄昏小町の空を眺めるのだった。

成否

成功


第1章 第12節

冬越 弾正(p3p007105)
終音

「フッフッフ……まさに宝の山だな!」

 ホクホク顔の弾正は、休憩スペースに『あるもの』を広げていた。

 はじまりは、お面の屋台で見つけた、紅に蒼に黄に桃に緑の、忍者戦隊のお面だった。
彼は元々忍者を愛する者。この黄昏小町でも、それらをモデルとしたヒーローグッズが多く扱われており、それを手にした事で、彼のコレクター魂に火がついたのだ。

例えば、何度も射的に挑んで、ようやっと手に入れたフィギュアの数々。
例えば、戦隊のロゴが大きくプリントされた、わたあめの包み等々。

そんな宝の山を眺めていると。

「お兄さん、すごいですね!」
「そんなにいっぱい、よくあつめたね!」

 幼い声に振り返れば、眼鏡の少年と茶髪の少年がキラキラと弾正に尊敬の眼差しを向けている。

僕は射的、外しちゃったんです。
ぼくはおこづかい、まだたまってなかったから。

二人して、しょんぼり顔になる少年達。
その様に、弾正は黙ってフィギュアを少年達へとずずいと押した。

「お兄さん?」
「いいの?」
「フッ。好きに持っていけ!」

ただし、と、弾正は指を一本立てて。

「友達同士で奪い合いの喧嘩はするなよ? お祭りというのは、仲良く楽しむための物だからな!」
「ありがとうございます……!」
「だいじにするね!」

ぺっこりお辞儀し、去っていく少年達。
自らの行い、それに後悔などあろう筈もなかった。
何故なら、彼等も同じ者を好む同志なのだから。

夏の爽やかな風が、通りを抜けていった。

成否

成功


第1章 第13節

築柴 雨月(p3p008143)
夜の涙

 既に町の子供達の多くが願いを飾ったのだろうお寺は、少しずつ人の流れも落ち着き始めていた。

屋台へ向かう子供達の流れに逆らうように、石段を上がるのは雨月だ。そこから見上げる空は、オレンジの中に小さな輝きを幾つも浮かべていて。七夕祭りの名に相応しく、美しい空模様を見せてくれる。

「叶雨も一緒に来たらよかったのに……」

ぽつり、片割れの名を呟く。今日は年に一度の、離れ離れの二人が会う日だというのに。今の自分は、一人ぼっちだ。
辿り着いた境内は、丁度誰もが席を外していて、笹だけが風にさあさあ鳴っている。

……今なら、誰も見ていない。
俺はもう子どもじゃなけれど、まだ子どもでいたいから。切なる願いを、誰もいないうちに、そっと飾り付けて。

 今の夢は何だと問われれば、『医者になること』だと答えるだろう。
けれど、それは『夢』或いは『目標』であって、『願い』ではない。
自分の力ではどうにもならないこと。それでも叶ってほしいこと。それを『願い』と言うならば。

『叶雨と仲良くなれますように』

誰も知らない内に増えた短冊には、青の短冊に黒いペンで、そんな願いが綴られた。

叶雨。たった一人の弟。

彼と最後に笑いあったのはいつだろう。
今の彼は、何を考えているのだろう。
……わからない、けれど。

「お願いだよ、どうか、昔みたいにまた笑い合える日がきますように」

その願いが、叶う時は来るのだろうか。
天の川は、何も答えてはくれない。

成否

成功


第1章 第14節

シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者

 永遠の夕方の世界。昼間ほど眩しくはないけれど、転ばぬ程度に明るくて。夜ほど暗くはないけれど、どことなくやすらぎを覚える、そんな不思議な世界、黄昏小町。

 シルキィにとっても居心地の良い世界なのか、その表情は穏やかだ。
実際、ここは初めて来る場所だというのに、何だかとっても、落ち着くような心地がするのだ。

本日、この黄昏小町は七夕祭り。故に普段の様子とは多少異なるのかもしれないけれど。ならば、それを楽しまなくては、損というものだろう。

 さて、そんな彼女は今、小さな短冊を握りしめて、笹の前に立っている。
この世界の人から見ても、自分は『大人』なのかもしれないけれど、それでも願わずには居られない。

『大切な人たちが、幸せでいてくれますように』

たったそれだけの、大雑把で大層な願い。
けれど、本当にそう思うのだ。
大事な友達も、想ってる人も、みんなみんな幸せでいて欲しい。

「わたしも頑張るけれど、星に願いをかけたって良いよねぇ?」

 そう言い、空を見上げる。
その時、飛行機雲とも違う、白く長い一線。今まさに紡ぎ上がった絹糸のような流れ星が、夕焼け空を横切っていった。
星が彼女を励ましたのかもしれない。願いの叶う吉兆なのかもしれない。或いはそんな事は関係なく、ただ星が流れただけかもわからない、けれど。

「……ふふっ、いいものが見られたねぇ」

今日この世界の星空は、とても美しい。
それだけは、誰にも変えがたい事実だった。

成否

成功


第1章 第15節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
傲慢なる黒

 夕焼け空がずっと続いているだけにわかりにくいが、黄昏小町の賑わいはまだまだ収まりそうにない。クロバもまた、七夕祭りの賑わいに惹かれるようにして訪れたイレギュラーズの一人だ。

彼の目に付いたのは、射的の屋台だ。

「おっカッコいい兄ちゃん。どうだい、やってくかい?」
「ああ、やらせてくれ!」

クロバにとっても貴重な経験に、思わず思わずテンションが上がってしまう。
親父の指導通りに銃を構え、引き金を引く。

「はい!」
出ない。
「はい!」
出ない。
「はい!」
飛ばない。

「どうなってんだオヤジ、弾が出てこないぞ!」

クロバの猛抗議に親父はコルク銃の調子を確かめるが、壊れたわけではなく、今度は普通に射出される。
仕方ないと換えの銃を手渡され、今度こそとクロバは息巻いた。

狙いは、決まったーー!

「……お兄さん、注文は?」
「あー、もう少しだけ待って!」

 所変わって、今度は祭りグルメの並ぶ屋台。たこ焼きをくるりくるりと返す動き。そこにクロバと、背負われた(射的の景品の)大きいテディベア、その視線がいやに突き刺さる。

単に食べていくだけでは足りない。
『こういうものの作り方、なんとなく気になるだろ?』というのが彼の談だ。

「おっさん、こういう型はどこに売ってるんだ?」
「んー、専門店に行けばあるんじゃないかなー……?」

この調子で、お好み焼き屋、りんご飴屋も、クロバから質問攻めに会う。
妹達への土産話としては、充分な収穫になるだろう。

成否

成功


第1章 第16節

わんこ(p3p008288)
雷と焔の猛犬

 わんこが座るのは、黄昏公園の、ペンキの褪せたベンチ。そこで一人、空を見上げていた。

笹と短冊が、風でサラサラと鳴る音。祭り屋台の、食べ物をジュウジュウ焼く音や、時折打ち鳴らされる、ドンドン大きな太鼓の音。

それも良いけれど、どうせなら、この世界だけで見られる特別な景色を見に来たのだ。
それは即ち、この黄昏小町の最たる特徴である、永遠に続く夕焼け空の風景。しかも今日は、そこに星まで散りばめられている。

 確かに、普段見る星空、その背景をまるっとすべてオレンジに塗り替えてしまったかのような夜空は、なかなか見られない珍しいものに違いない。

 この幻想的で美しい空模様を、カメラに収めるのも悪くないけれど。
空を見つめるわんこの瞳。その奥で、密かに光補正をかけて、ピントが調整される。
そう、何を隠そう、彼女の正体は人型アンドロイド。
彼女の目を通して見た世界は、実質カメラ越しの世界と同じ!……と、言われれば、そうなのかもしれない。暴論と言われればその通りなのかもしれないが……。

 何れにせよ、祭りや屋台の喧騒から離れ、誰にも邪魔されることなく、一人ゆったり、星空を眺める。何とも贅沢な異世界旅だ。

ーーここのところは忙しかったデスカラ……もうちょっとだけ、この時間を楽しみマショウ。

ただただ、記録するばかりではなく。彼女はできる限り、この空の美しさを記憶しようとすることだろう。

成否

成功


第1章 第17節

ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人

「はろーっ! じゅてーむっ! ごきげんようっ!」

 黄昏空を急に朝日にする勢いで、元気にご挨拶するのはヨハナだ。
さて、祭り屋台はゲームも充実しており、金魚すくい、スーパーボールすくい、千本引きに型抜きもあったりするのだが、その中で彼女の目に留まったのは。

「亀レース、亀レースじゃないですかっ!」

そう、どの亀がレースに勝つか掛けて当たったら商品がもらえるというあれそれだ。

「お嬢さんもやるかい!」
「勿論ですとも! ケンタウロスホイミに全財産とそこの子供の魂を賭けちゃいますっ!」
「えっおれ?」

 彼女の頭の中には、既にケンタウロスホイミがウィニングライブするビジョンが描き上がっていた。
何故なら、彼女は(自称)未来人なのだから!

ーーかくして、レースの幕は上がった。

先行はケンタウロスホイミ。圧倒的なスタートを切り、他を寄せ付けない。出遅れたのはハーピールーラ。二番手はアルミラージメラだが、すでに三亀身差がついている。

王者ケンタウロスホイミの力は圧倒的。
そのまま、ゴールを切るかと思いきや。

……コースを、外れた!

「……あ、ああっ!!」

その間にアルミラージメラをハーピールーラが差し切り、一着ハーピールーラ。二着アルミラージメラ。ケンタウロスホイミは文句なしの失格だ。

「やったーおれ当たったー!」
「残念だったねぇお嬢ちゃん」
「あ……ああ……亀券がただの紙切れに……」

異世界でもレースの世界は厳しいのだった。

成否

成功


第1章 第18節

ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
竜の狩人

 黄昏小町の空を切り取ったような髪をした少年が、柿の木通りを駆けてゆく。

「七夕のお祭りね。いいじゃん俺、祭りは好きだぜ!」

元の世界にも似た景色に、思わずテンションが上がるミヅハ。

「へへっ、皆一舟、あっという間にペロッと食っちまうんだぜ!」
と店主が言っていた、プリッとした具の入ったたこ焼き。

「青海苔と紅生姜、マヨネーズはサービスっすよ!」
と言われたなら、どれだけトッピングをするか迷ましい焼きそば。

「ふふふ、どうもありがとねぇ」
りんご飴はパリッ、しゃりっとした口当たりが楽しく、控えめな酸味が甘さを一層引き立てる。

 混沌に呼ばれてからも美味しいものは数多く味わってきたけれど、やはり彼の胃と舌は食べ慣れた味を求めるのだ。
すると、まだまだ食べたりない腹に、これまた懐かしい匂いが、風にのって届く。

「おっ、この炭火の香りは……」

当然、それを逃すミヅハではない。目に入った文字が、更に彼の食欲を煽った。

「ビンゴ!『焼き鳥』までやってるじゃんかよ。おっちゃん! 焼き鳥1パック頼むぜ!」
「あいよっ、塩とタレ、どっちにする?」
「ん〜塩で!」

齧りついた肉は至上の焼き加減で、噛み付いた口内に程よい塩味と肉の脂が伝わってくる。率直に言ってうまい!

「まだあっちにも屋台は沢山出てるな……よーし、今日は片っ端から制覇していってやるぜ!」

まだまだ、黄昏小町は彼の目と味を楽しませてくれるに違いない。

成否

成功


第1章 第19節

すみれ(p3p009752)
薄紫の花香

 仲睦まじいカップルが笹に手を伸ばして、何事か願いを飾り付けていく。その姿は微笑ましく、手を繋ぎ境内を去っていく彼らの薬指、そこに輝くものがあるのを、今しがたすれ違ったすみれは見逃さなかっただろう。

ーー彼らもきっと、新婚のカップルなのだろう。

契の証。彼女の心の支え。そこに思わず右手が触れた。……本来なら自分も、彼らのように幸せな新婚生活を送っているはずだった。

 けれど、その日は訪れなかった。
何故なら、自分は互いの将来を誓いあった『あの日』に『呼ばれて』しまったから。運命の相手と、世界までも隔てて、離れ離れになってしまったから。
人生最高の日が、人生最悪の日へと反転してしまったから。

かくして、花嫁ではなく、イレギュラーズとして歩む事になった第二の人生。
会う人会う人皆良い人で、異文化にも、少しずつ慣れてきたところではあるのだけれど……ただただ、寂しさが募るのだ。

ああ、故郷の空はこれ程に遠かっただろうか。
こんなに、グロテスクに赤く光っていただろうか?

 そこまで考えてから、一人静かに首を振る。今自分がすべき事は、見知らぬ世界に呪いを振り撒くことでも、傍らに運命の人が居ぬ事を嘆く事でもない。

菫色の短冊に託す想いは唯一つ。

『元の世界に戻れますように』

その願いをかけた後、すみれは寺を去っていく。
空では今まさに愛しき片割れを求めて、織姫と彦星が寄り添わんとしていた。

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第1章 第20節

朔(p3p009861)
旅人と魔種の三重奏

「祭り、ねぇ。何だか懐かしいな」

 そう言って周囲を見渡す朔。地域の人々が集まり出店を出したり、客として楽しんだり。そのような光景を見ていると、近所の夏祭りなどを思い出す。

 食べ物屋台も多く並ぶ中で、彼がまず手を付けたのは、焼きそばとりんご飴だ。
黄昏小町の住人に倣い、ビール箱とベニヤ板で作られた簡易的な休憩スペースで食事を取る。
ソースのしっかり絡んだ麺、そしてカリッと甘い食感は、どちらも懐かしい記憶を思い起こすだろう。

遠目には、同じ「焼きそば」と書かれていても目玉焼きをトッピングしていたり、姫リンゴのりんご飴の屋台も見えた。

「食べ比べんのもいいな、後で行ってみるか」

とはいえ、食べてばかりじゃつまらない。
腹ごなしに他の屋台も見回れば、目に止まったのは金魚掬い。朔は当然、これにも挑む。

しかし、慎重すぎたのか水気と金魚の重みに耐えきれず、ポイはあっさり破れてしまった。……なかなかに難しい。

毎年上手に掬っていたアイツは、どうやってたっけ?
確か、壁際をよく狙って……ポイに角度をつけていた?
今度は水を切るよう、手早く頭から掬い上げる。

「よし、うまくいった……!」

羽衣のように尾びれを靡かせ、椀の中を泳ぐ金魚。
彼女の泳ぐ水面は、屋台の明かりと星光を照り返して、小さく揺らいでいた。

「……まるで、天の川を泳いでるみたいだな」

その姿は、まるで織姫のようでもあって。
朔は、星空と彼女を何度も見比べるのだった。

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