PandoraPartyProject

シナリオ詳細

死霊たちの宴

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 ――船長ぉ! もうダメだぁ、退路を塞がれてやがる!
 ――うっさいね。男が泣き言言ってんじゃないよ、全く。総員武器を取りな!
 ――面舵いっぱぁぁぁい! ヨーソローー!!

●とある女船長の悩み
 そこはどこかの兎に角大きな部屋。
 出入り口の大扉正面、歩いて一番奥の酒棚があるカウンター席をはじめ、群がるように設置された木製の机と椅子。床にはお洒落な絨毯が敷いており、極めつけにカウンター席隣の小さなステージとアップライトピアノ。
 内装の雰囲気はまるで酒場を思わせる大宴会場だ。
 だが、同時に恐ろしいほどボロボロだった。チークフローリングの床は至る所に穴が開き、絨毯は破けたものばかり。酒棚の酒瓶は多くが割れているし、机と椅子はよく見ればすぐに足が折れてしまいそうな程に使い潰されていた。
 そして、恐らく部屋中央の天井に吊るされていただろう巨大なシャンデリアは見るも無残に地面に落下し、消灯した蝋燭がバラバラ地面に散乱している。
「確か、百年前の明日頃だったか。時間が経つのは早いねぇ……」
 そんな誰も使わない、使う筈のない廃墟のような部屋のカウンター席内側で、独りの女性が頬杖をつきながら過去を懐かしむように呟いた。
 不意に部屋全体が小さく傾き、床に落ちた蝋燭がころころ転がる。
「ホント、まさかアタシがこんなふうに黄昏る日が来るなんて思っちゃいなかったよ」
 今度は部屋が反対に傾き、蝋燭も反対へ転がる。
「アイツら、まだこの船にいんのかね……?」
 そう、ここはただの宴会場ではない。
 大海原を漂う大きな船、その中に存在する宴会場だ。
 では何故ここまで廃れてしまったのか。それも簡単な話である。
「ええ、居ますよ。過去を想うのは貴女だけではありません」
「ああそうかい、そりゃとんだバカタレ共だね。もうこの船が幽霊船になっちまってから百年も経つってのに未練タラタラこんな船に残るなんて。あたしゃここから動けないから無理だが、もし動けてたらさっさと成仏しろって尻引っ叩きに行ってるとこだよ」
 かつてこの船は、とある海賊団を運ぶ大きな海賊船だった。
 もう随分昔の話になるが、圧倒的な統率と力を持ち合わせていた海賊団は当時海の覇者とまで呼ばれていたそうな。まあ滅んだ時は本当にあっけなく滅んだらしいが。
 それはそれとして――
「……いや、アンタ誰?! アタシが見えてるってのかい!!」
 過去を想うは既に亡霊と化した女船長。彼女はいつの間に対面する様にカウンター席へ座っていた生ける女性に目を見開いた。
 驚くのも無理はない。死んで亡霊になってから生者がこの船に立ち寄るなんて滅多になかったし、財宝目的や好奇心から船に乗り込んだ愚者に姿が見えた例が無かったからだ。
「ええ、勿論。でなければ会話が成立するわけないでしょう?」
 女性は澄ました表情で、中身が無事な酒瓶の栓を開く。
 比較的綺麗なグラスに注がれる強いアルコールの香りを楽しみながら、女性は続けた。
「居ますよ、貴方のお仲間。百年も経っているので虚ろな方もおられますが……例えば掃除をし続ける方だったり料理をし続ける方だったり、死んだことに気付かず船員として仕事をしているのか、あるいは――」
「やっぱり未練が邪魔をして成仏できないってのかい?」
 女船長の言葉に女性は小さく頷いた。
 呪縛霊になってしまった女船長は知る由も無かったが、この船は百年の間幽霊船として広い海を漂い続け、今も沢山の船員が亡霊として彷徨っていたのだ。
 女性の話を聞いた彼女は、ため息を吐く真似事と少し考える仕草をしてから、再び女性の方を向いて一つ尋ねたのだった。
「――少し頼まれてくれないか?」
「ええ、良いですよ。私もその為にここへ来ましたから……」

NMコメント

 終わりを受け入れられない亡霊たちにどうか安らぎを……。
 初めましての方は初めまして、そうでない方はお世話になっております。
 牡丹雪です。

●オーダー『幽霊船の大宴会場で宴を開く』
 とある世界の大海原で巨大な幽霊船が見つかりました。
 かつては海上を暴れ回っていた大海賊の船だったらしいのですが、全滅してから既に百年が経ち、船員は亡霊として船の中を彷徨いつつあります。
 境界案内人の話によれば、船員はみんな宴が好きだったとの話です。
 楽しい賑やかな宴を開いてあげれば、船員たちは自然と集まり成仏するでしょう。

●ロケーション『巨大幽霊船、大宴会場』
 ステージとピアノのある大宴会場。
 基本的にはオープニング通りの内装、かなりボロボロです。
 百年も海を漂っていたのでまともな食材はない筈ですが、酒は無事なものもあるそうです。
 また、すぐ隣の部屋に比較的綺麗なキッチンがあります。
 全体的に薄暗いですが、各所の蝋燭を灯せば最低限の光は確保できます。

●幽霊船の亡霊
 宴会中、貴方はふと気配を感じることがあるかもしれません。
 ですが姿は見えず、ただ気配を感じるだけに留まるでしょう。
 ただしそれを強く望む、あるいは役に立つスキルがあれば……。

●NPC
 案内人キャラの詳細はNMページのものをご覧ください。

・『境界案内人』イヴ=マリアンヌ
 基本的に居るだけです。
 指名が無ければ描写はされず、カウンター席で独りごとを呟きながらお酒を飲みます。
 ちなみにOPで船長と話している女性は彼女で、亡霊が見えているらしいです。

・『境界案内人』ラナード
 何故かイヴに連れてこられました。
 指名が無ければ描写はされず、端の方で雑用でもしているでしょう。

・『女船長の亡霊』メアリー
 宴会場カウンター席の内側から動けない地縛霊の女船長。
 基本的にイレギュラーズが見えることはありませんが、見える場合もあります。
 つまるところプレイング次第です。

●アドリブについて
 本シナリオではアドリブが多めに含まれることがあります。
 アドリブがNGの場合、通信欄かプレイングに一言ご記載いただければ幸いです。

 では、亡霊の宴へ……。

  • 死霊たちの宴完了
  • NM名牡丹雪
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月07日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
雪梅(p3p008787)
特異運命座標
豪徳寺・芹奈(p3p008798)
任侠道
ハク(p3p009806)
魔眼王

リプレイ

●死人に口あり
 亡霊というのも甚だ曖昧な存在である。
 行き場をなくした、あるいは未練のある魂が亡霊という形でその場に残り続け、それは魂としての自我が朽ちたとしても本能のまま動き続ける言わば“迷える魂”――の筈だが、『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は目の前の光景に苦悩した。
「うあああああん、お頭顔だけは良いのに性格鬼なんだもおおおおおん!!!」
「まあまあ、落ち着くさね。あんまり泣いてると悪酔いするよ」
「アンタはお頭のことをよく知らないからそんな事言えるんだぁ!」
 広めのカウンター席の端では元船員と思われる男が号泣していた。
 どうやら『任侠道』豪徳寺・芹奈(p3p008798)が酒の席で愚痴の一つでも聞いているらしいが、亡霊のくせにこの男は凄く生き生きしている様に見える。
「さっきからうるさいね。ちょっとそこのバカ黙らせてくんないかい?」
「ほーらまたお頭そんな酷いこと言う。百年ぶりだってのに!!」
 亡霊なのに生き生きしているのはこの男だけじゃない。
 船長だったメアリーの亡霊を含め、この船にいる元海賊の亡霊が全員こんな感じなのだ。
「だからどうしたって言うんだい、あたしゃずっとここに居たってのに――」
「うおおおおんおんおん、だってこの姿でお頭の前行ったらまた殺されるじゃん」
「落ち着け、もう死んでるから!」
 多分、久しぶり過ぎる再会に涙腺が崩壊しているのだとアーマデルは思う。
 きっと、この海賊は生前もずっとこのノリでやってきたのだろう。
「なんか、皆様割とあっさり集まられた上に思った以上に元気ですね。どうして百年も会うのを躊躇ってたりしたのです?」
 少し離れた席に腰を下ろしていた『お残しはしません』ハク(p3p009806)は、首を傾げながら同席していた片目の無い男の亡霊に問いかける。
「そりゃぁ、一度別れを済ませたらそう簡単に会うもんじゃねぇのさ。あの鬼船長だって、死ぬ前は“アンタらと航海できてあたしゃ一生の幸せ者だったよ”なんて言ったんだぜ?」
 確かにそんなこと言った後に会うのは何処か恥ずかしいものだとハクは頷く。
 それはそれとして、彼女はいつの間に隻眼の男の背後に居たどす黒いオーラをそっと指差すと同時に、目配せを送った。
「聞こえたよ。よくもまあ、言いふらしてくれたものじゃあないか」
「ヒェッ、お頭ぁ――」
 既に死んでるけれど、メアリーに連れていかれた亡霊へ合掌。
 何はともあれ最初からうるさいほどの賑わいで始まった宴にハクは微笑んだ。
 この様子ならきっと、変える場所へ還してあげることができるから……――。

●生者と死者の宴会
「やっぱり百年も経っているとなれば、ここにあるものはダメそうですね……」
 騒がしかった宴会場の隣、静かな厨房で『特異運命座標』雪梅(p3p008787)は宴会に出す料理の準備をしていた。亡霊が食事を必要とするかは分からないが、宴会で飲み物だけというのも確かに味気ない。
 一応、“そう”である可能性が高かった為、食材の持ち込みはしていたのだが、雪梅は食料が入っていただろう大きなボックスの蓋を閉めて何も見なかったことにした。
「やっぱりお酒のつまみになるものが良いでしょうか……あら?」
 持ってきた食材と睨めっこして、何を作ろうか悩みを漏らした時に違和感に気付く。
 厨房に立っていたのは雪梅一人だけの筈だったが、気付けば同じ空間に気配を感じるようになったからである。
「――!」
 雪梅にはその存在が見えていなかった。
 見えていなかったが、まずに隅に置いてあったモップが勝手に動き出す。
 水で濡らされたモップが長い年月をかけて生えた苔を綺麗に落とすと、次は食材が宙に浮いて食材の選別をするように回ったり傾いたりした。
 幽霊船なのだから、きっとそんなこともあるだろう。
「あの……何か手伝いましょうか?」
 雪梅は気配の主がいるだろう場所を向いて、首を傾げながら問いかける。
 果たして亡霊が食材を持っているのか、それとも神秘的な力で浮かせているのか、ともあれ暫く宙にあった食材は元の場所へ戻ると、一枚のメモ紙がひらひら飛んでくる。
「料理のメモ……でしょうか?」
 メモ紙に書かれていたのは、料理のレシピが描かれたものだった。
 トマトにタマネギ、にんにくにオリーブオイル、そしてパスタ。全て絵で描かれていたが、紛れもなくトマトスパゲティを示している。
「なるほど、では私にお任せください!」

「ほら、イヴ殿もメアリー殿もまずは一献。飲まなきゃ損損!」
 船員の一人にお灸をすえて戻ってきたメアリーを呼び寄せながら芹奈は酒を勧める。
「面白いことを言うね、死人が飲食をするってのかい?」
 芹奈に何か似たようなものを感じたメアリーは愉快そうに笑いながら言った。
 死人に口無し、飲食も必要無しなのは何処の世界も大体同じだ。
「ま、そんなこと言ってもあたしゃ飲むんだけどね」
「この世界の亡霊って、みんなこうなのでしょうか……?」
 亡霊がグラスのお酒を飲む不可思議な光景にイヴは怪訝な顔でそんな疑問を漏らす。
 混沌世界で不思議な力が働いているように、もしかしたらこの世界でも別の不思議な力が働いているかもしれない。
「とにかく今は楽しく盛大にやろうじゃないか! 何ならコイバナでもなさるか?」
 “研究材料として――”なんて言うイヴの言葉を遮るように芹奈はメアリーへ唐突に距離を詰める。
 修学旅行にお泊り会、飲み会に加えて宴会と、コイバナが盛り上がるのは万国共通だ。
「――船長のコイバナだとぅ?!」
「なっ……」
 コイバナという単語を聞いて反応したのは、後ろの方にいた男船員の亡霊の一人。
 その男が叫ぶや否や、“なんだって!?”とか、“興味しかないんだが!”とか、挙句の果てに“俺の初恋船長ぉだったんやが!!”とか、いつもメアリーに弄られている船員が仕返しをするがの如く、囲むように酒の席を取り囲んだ。
「逃げられなくなったさね?」
「ああもう、男っけのなかったアタシがコイバナなんてあるわけないだろう! ほら散った散った!」
 そう言い切って、何とか退路を作ろうとするメアリー。
 しかしこんな絶好の機会を男船員たちが見逃す筈もなく……。
「なーにが男っけが無かっただ! 隙があれば敵の船の船長を――」
「わああああああああ?! わかった、わかったって、アタシが悪かったから――」
 R.I.Pメアリー……。悪気の無かった芹奈は、合掌しながらそう思うのだった。

●鳴り響く、魂の音楽
「生前もこんな感じだったのか?」
 哀れにも船長がコイバナの餌食になり公開処刑されている頃、アーマデルはその様子を静かに眺めながら、比較的静かな船員に問いかける。
「興味があるのか? ……そうだな、確かにいつも皆うるさかったよ」
 男の話によれば、航海中は毎日のようにここで騒いでいたらしい。
 それはもう強い海賊団だった。欲しいものは他の船から奪って手に入れてたし、その度にここで浴びる程の酒を飲んで過ごしていたという。
「嫌なことを聞くかもしれないが、どうして全滅なんてしたんだ?」
「ああ、宴会で騒いで飲みまくってるところを急襲されてな?」
 全滅の理由は思っていたよりうんとあっさりしたものだった。
 財宝の山々が手に入って浮かれ、宴会をしている途中に敵襲。そのまま天から地へ墜ちるが如く、全滅してしまったらしい。
「――だから、この宴会はその時の続きなんだ」
 つまり、この宴会が終われば全員成仏する筈。
 かつての様子を知ることができれば未練を晴らせるかもしれない。そう考えていたアーマデルの思惑を見抜いていたかのように男がそう言えば、アーマデルは肩を竦めた。
「安心してください! もしそれでも成仏できない方がいたらハクが送ってあげます!」
 近くで話を聞いていたハクが男の考えを見抜いていたのも然り。
 ここまで鮮明に残った亡霊が、宴会が終わって“はいさよなら”と全員成仏できるとは限らない。少なくとも男は成仏したいと考えているのだから、怖いのは当然だろう。
「むふー、ハクは皆様を輪廻の輪に還してあげることができるのですよ!」
 まだお酒が飲めないハクは、牛乳を飲みながら自信満々に男と約束した。
 だから決して独りにならない。気の遠くなるような輪廻の中で、きっとまた一緒になれるから――と。
「……そういえば、ピアノが置いてあるな?」
 どこか安心して、泣きそうになっている男へアーマデルはピアノを指差しながら言う。
 宴会に涙は似合わない。だから、せめて最期まで楽しい宴会であってほしいと。
「……ああ、あれは俺がずっと引いてたピアノだ」
「では一曲お願いしよう、俺は擦弦楽器ならいくらか心得がある。
 彼らの望む馴染みの曲か分からないが、幾らか合わせることができるかもしれないぞ?」
 海賊はよく歌う。
 新入りへ掟を教える教訓歌。
 作業と共に口ずさむ歌。
 獲物を威圧し、剣持つ手を鼓舞する戦歌。
 死者を送る弔いの歌。
 そして……酒を掲げて歌う、宴の歌。
「歌が得意な奴がいる、演奏が始めれば勝手に歌い出すだろうな」
「酒蔵の聖女、そういうの得意だろう? いや、今更聖女ぶられても――」
「宴会で演奏会とは、楽しみなのです!」

 かつてない騒がしさの演奏会。
 その頃には霊気も高まり、トマトスパゲティとデザートのベッツィータルトを運んできた雪梅にも騒がしい様子が鮮明に見えるようになっていた。
「雪梅印のスパゲティです! 沢山召し上がってくださいね!」
 アーマデルはピアノの音に弦を鳴らし、芹奈は歌うメアリーを真似する様に口ずさむ。
 楽しい時間はあっという間だ。演奏は聞き入れば一瞬だ。
 長くて短い宴会が終わりを迎えたその時、空っぽになったグラスが小さく音を立てながら地面へ落ちるのだった。
「またいつか、生まれ変わったら――!」

成否

成功

状態異常

なし

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