PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴィーグリーズ会戦>大義なき復讐

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悪辣と復讐と妬みと
 ゲイヤ家は地方の弱小貴族であった。
 かつてはもう少し広い領地を持っていたこともあったがフォルデルマン二世崩御の際に他の貴族たちとの喰い合いに負けてささやかな財しか残らなかった。
 しかし、ゲイヤ家の一族が残された僅かな領民たちと手を取り合って生きて来たのかと言えば、そうではなかった。
 逆に失われた財を取り戻そうとするかのように税と人を搾り取り、悪戯に虐げて来た。
 悪夢のような日々に怯えるだけの領民たちが変わったのは<幻想蜂起>でのローレットの活躍だ。
 次いで、その逆恨みとも言える戦いにも負けた。
 現在の当主、ゼルジアは臍を噛む。
 ローレットの勇姿に影響された領民たちは今までのようにただ従うだけではなくなって来ており、これまでのような傲慢な振る舞いを続けることができなくなっていた。
 そんな最中、ゼルジアは王家簒奪を目論む幻想貴族ミーミルンド家の派閥の隅に入り込むことに成功した。
 子飼いの冒険者たちを『勇者』として支援し、ブレイブメダリオン・ランキングにも介入した。
 けれども、それすらローレットの面々によって潰された。

「申し訳ありません……」
 ブレイブメダリオン・ランキングに介入して不正にメダルを稼いでいた偽勇者ことグーシラがゲイヤ家当主ゼルジアの前に跪く。
 その顔は青く身体は細かに震えていた。
 それもそのはず、彼の前には拷問を受けたらしい領民が無残な姿で転がっていたのだから。
「愚民どもがなにやら騒いでいるらしい。今度こそ勘違いした凡夫どもへ立場の違いをわからせなければ」
 四十前の美しい横顔に残忍な表情が浮かんでいる。
「ひぃっ!」
 突然、側に控えていた兵士たちに拘束され、グーシラとその後ろに居た仲間の二人が悲鳴をあげた。
「我が家は慈悲深い一族だ」
 毒々しい瓶を持った別な兵士たちが拘束された三人に近付く。
「これからまた戦いに向かうお前たちに祝福をやろう。なに、我が家への忠誠を篤くし力を授けるものだ」
 解放された三人の男たちは喉を掻き毟り、床の上をのたうち回る。
 顔色はどす黒くなり、やがて大きく身体が跳ねはじめた。
「世知辛い現世に別れを告げるがいい。これから、我が家の忠実なしもべとなる栄誉を喜べ」
 ゼルジアのブーツがグーシラの背中を踏みつけた。
 三人の冒険者たちは苦しむのをやめて、ただ涎を垂らして床を見つめていた。
「我が一族が衰退したのも元はと言えば王家がしっかりしていなかったからだ」
 そして、何より……現王に覚えの良いローレットに一矢報いるチャンスだ。
「忌々しいローレットめ! 現王家と共に今度こそお前らに報いを受けさせてやる」


●ヴィーグリーズ会戦
 これまで幻想王国に大量発生した魔物事件、レガリアの盗難、奴隷市。イレギュラーズの領地襲撃……それらはいずれも幻想貴族ミーミルンド派が引き起こした策謀であった。
 ミーミルンド家に従う悪徳貴族たちは幻想王国に大きなダメージを与え、王権簒奪を目論んでいたのだ。

 ────いよいよ野望を打ち砕く時がきた。ヴィーグリーズの丘に進撃だ!
 イレギュラーズは幻想の騎士団と共に、イレギュラーズは悪徳貴族や魔物の軍勢と戦うぞ。
 悪徳貴族と大量の魔物共を成敗せよ! 幻想王国に平和を取り戻すのだ!
 いざ決戦。総員剣礼! 全軍突撃!


●襲撃
 風光明媚なゴッドレイクにぽつりと影が落ちた。
 汚すようなその黒は徐々に大きくなってくる。
 土埃を上げて進軍してくるのはゲイヤ家の兵士たち。
「ローレット共の領地を蹂躙しろ! 奴らをヴィーグリーズの丘へ行かせるな!」
 どす黒い顔色のグーシラが叫ぶ。
 続く兵士たちも魂の篭らない雄叫びを上げた。

GMコメント

●ステージ:ゴッドヴィレッジ ほのぼのゴッドレイク周辺
湖のほとり樹や花などが美しい景色を彩っている。
水道橋や家屋、各種施設や伐採場などがある。
敵はその周囲を囲んでおり、今にも踏み込もうとしている。


●敵

前→後
武闘家隊―戦士隊―アーチャー隊―ゼルジアの順に扇状に並んでいる。

A隊:武闘家隊(×20) 猪鬼
B隊:戦士隊(×20) グーシラ、
C隊:アーチャー隊(×10) パパーラ
・全員が武器に軽いしびれ薬を塗っていてヒットごとに特殊抵抗で判定、一回有効となるとそのPCは一回行動不能となる(BS回復スキル等で解除可)
隊長三人は素早さが高く並みの冒険者×3の強さだったが魔法薬の投入により強化されている。
また、部隊を指揮する力が異様に高いため、イレギュラーズたちの行動は主にこの三人を倒すことになる。

・ゼルジア・ゲイヤ
四十前の美しい女領主。冷酷無残で独善的、救いようもないほどの自分本位。
大盾を持った剣士。強さはそれほどではないが守備力が高く、護衛によって守られている
逃げ足が速い

・ゼルジアの騎士
剣のみの戦士
特殊技能は無いが守備力が高くゼルジアを攻撃から身を呈して守る


●味方
・ゴッド領領民×10
ゴッド信仰力に篤いゴッド領の領民たち
残りの領民たちは家屋や一般人の避難、事故の対応などに一致団結して行っている。

・ゲイヤ領領民×10
隊長:エリオ(元虐待されていた少年兵)
ついに反旗を翻したゲイヤ領の領民たち。
密かに訓練を積み、団体戦でならば一般兵に近い強さを身に着けた。
ローレットに恩を返す為、ゴッド領民たちと共に戦う。


●GMより
<幻想蜂起>押しひしがれた反逆に参加した御堂・D・豪斗(p3p001181)さんの存在をゼルジアは感知しました。
豊かなゴッドヴィレッジは、ゼルジアにとって羨ましく妬ましい存在だったのでしょう。
開戦に先駆けて襲撃をしかけました。
ゲイヤ家は「<幻想蜂起>押しひしがれた反逆」「<ジーニアス・ゲイム>悪として」、
偽勇者グーシラたちは「<フィンブルの春>いいえ、わるいゴブリンではありません」に登場していますが、
参照する必要はありません。

・士気ボーナス
 今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。

  • <ヴィーグリーズ会戦>大義なき復讐完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ
葛籠 檻(p3p009493)
蛇蠱の傍
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方

リプレイ

●それぞれの領民
「ほんと、清々しい程典型的な幻想貴族サマねぇ」
 手を翳し眠たげな眼を眇めて敵を観察していた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)がぼやくと、『神は許さなくても私が許す』白夜 希(p3p009099)もぽつり。
「……なんか顔色悪いね?」
 部隊を率いる『勇者』たちに違和感を覚える。どこかの世界か何かで見た中毒症状のような姿に見えると希が指摘すれば仲間たちは顔を顰めた。
「貴族や勇者になりたい人ってつくづく何がしたいのかわからないと思ってたけど、人をこうまでしても欲しいものなのかな……」
「もし、これがわたしたちの土地だったらと思うとぞっとしないよ。でも……無理しないようにね」
 吐露した希へオイリは案じるような視線を投げかけた。その行動を止めるつもりは無い、彼女の思う通りにして欲しいが心配は尽きない。
「すでに個の力は思い知ったはずなのに……全く、そろそろキツイお灸を据えましょ!」
 アーリアは幻想蜂起と呼ばれる一連の出来事を思い出していた。

 そこにはゴッド領民と、敵であるゲイヤ家に迫害され反旗を翻したエリオたちかの領民も集まっていた。
「諸君! ゴッドである! フレンズ、そしてフレンズよ!」
 美しいゴッドレイクの湖畔に朗々と響き渡るのは『例のゴッド』御堂・D・豪斗(p3p001181)の声だ。
「よくぞスタンドアップした! ゴッドウィズユー、共にある限り諸君のビクトリーをプロミスだ! 此度のコマンダーはゴッドである! ビッグシップに乗ったつもりでいたまえ!」
 ゴッド信頼感によりゴッド喝采を博するゴッドヴィレッジの民に対し、戸惑いを隠せないエリオたち。すると、彼らへ現地天使(ゴッデス)と呼ばれる女性、ニネット・ハーシェが解説を添えた。
「フレンズとは領民、そしてあなたがたのことです。ゴッドはこの戦いを指揮し共に戦うので心強くいろと言っています」
 なるほど、とエリオたちは領主を見た。
 堂々たる彼の姿も生き生きとした領民たちの面付きも、暗鬱なゲイヤ家の在り方とはあまりにも違う。
「そうよぉ、私達にはなんていったってゴッドがついてるんだもの!」
 声を上げたのはアーリアだ。その指先が離れた豪斗の輪郭をなぞるとバーバ・ヤーガによって彼にゴッド光輪が浮かびゴッド後光が差す。
(神や信仰は人の心の支えになるって、私は故郷の天義で知っているもの!)
 『神仕紺龙』葛籠 檻(p3p009493)は巨大な龍の姿でその身を伸ばす。
 ──ゴッドとは、即ち神である。ならば、愛を叫ぶのに問題はないであろう。
 琥珀色の目を伏せ、神への愛を高めた檻のらぶ♡ふぁいあの光が戦場を照らし出す。
「ゴッドの背に続くのである!! ぞ!!」
 続く龍の咆哮。
 ゴッドを讃える歌を歌う『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)の魔砲が雲を割る。
 気勢をあげる領民と共にエリオたちも熱気を纏ったのがわかった。
 豪斗は叫んだ。
「ヴィレッジに残る者はパーティ、フェスティバルの準備だ! ゴッデスよ、そちらの指示は任せる! ゴッド達の勝利を信じて待つがよい!」
 討って出る者、後方支援に回る者──すべてがひとつとなって、ゴッドとこの地を讃える歓声が沸き起こる。


●開戦
「ははは、美しい土地だ。領民も健やかで使えそうだ」
 騎士に囲まれ進軍するゼルジアは機嫌良く笑った。
 この地の領民は領主を信奉しているようだと彼女は知っている。
「なあ。あれらの前で領主の身体を吊るせば、この土地は我らのものになるかな」
 ミーミルンド派がそんな勝手を許しはしないだろうとは思っているが、それでも働き如何によっては……などという甘い考えが離れない。それこそ、ゼルジアの抱くローレットへの逆恨みを凌駕するほどに。
「恐怖は民をよく躾ける──ん?」
 戦場を走る小柄な白に行軍が止まる。
 ──聞こえるだろう、聴こえなくとも感じるだろう、彼らが『止まれ』と言っているのが。
 まっしろな髪が跳ねた。
「何だ!? ローレットか!」
 希の心なき魔女の兵隊によって小剣などの無機物が敵軍中央のアーチャー部隊へと降り注ぎ、ゲイヤ軍の陣形が乱れる。
「怯むな! ローレットは一部だ! 一人でも首を吊るして領民の気勢を削げ!」
 しかし、ゼルジアのひび割れた声は、男の朗々とした声に阻まれた。
「H&A(ヒーローズ&エンジェルズ)よ、この地を守るのだ!」
 響く豪斗の言葉に応える大海のうねりのような鬨の声。

 兵たちを伴って先陣を切る細身の少女に猪鬼は眉を顰めた。ローレットに関して外見とその実力が釣り合っていないという常識はあったが、それはあまりにも普通の少女だった。
 その不躾な視線に気付いた『正義の味方(自称)』皿倉 咲良(p3p009816)は声を張り上げる。
「よっしゃー! 正義の味方! 見参! 行っくよぉっ!」
 嚆矢の如く放たれた少女の名乗りに、応、と従う兵たちが一気に敵兵へと組み付いて行く。
 差し出された剣を避けた猪鬼の目は少女の明るい青い瞳に奪われたままだ。
「ほらほら! かかっておいでよ!」
 弾丸のような猪鬼の突きと、敵兵たちの連撃を、奥歯を噛みしめ受け止め躱した少女は流れる汗も拭わずに朗らかに笑ったみせた。
「か弱いように見えても、腕っぷしには自信あるんだから! 幻想王国も、ゴッドヴィレッジも、ちゃんと守ってヴィーグリーズの丘に行かなきゃね」
「生意気言うな、小娘ッ──くっ!」
 逆上した猪鬼へ、闘志を燃やした周囲の兵が攻撃を仕掛ける。
 だが、同時に敵も咲良へ向かって拳を向ける。
 ──。
 騒がしい戦場の中で小さな吐息が耳元を擽った気がした。いつの間にか場違いなファビュラスな雰囲気を纏った麗人が佇んでいた。
「咲良さんの在り様は頼もしいものですね。元気な事は良い事です」
「おい!」
 マグタレーナの謡うディスペアー・ブルーが咲良に集る有象無象の敵兵を冷たく裁く。攻撃を受けた一部が魘されたように仲間を打ち出した。
「ならば、若い子に群がる悪い虫を追い払うのもまた役目でしょうか、ふふ」
 すると暗い影が落ちた。
「あら」
 全長三メートルほどの紺青の龍が首を擡げていた。
「いやはや、嫉妬とは。美しく、醜く、愚かしい」
 ゲイヤ兵たちは突然現れたそれに息を飲む。
「小さきひとの子らの、いかにちいさなものよ。然し人人にとってはそんな訳にはゆかぬのだろうな。ゆえに小生らはそんな弱く、そしてかよわい子らへの愛を叫ぼう。そう。愛である。愛なのだ」
 誦経のような穏やかな声音に、「あい」と反芻する敵兵へ、檻は琥珀色の瞳を一拍、緩めてから続けた。
「それはそうとして、つまるところ殲滅だ」
 カッとその口が光る。
 唸るような声、打ち合う重い音、武具を振り抜く風の音。
「行くぞ!」
 武闘家隊へ続く、戦士隊を率いるグーシラたち。その前へ現れたのは武闘家隊を抜けた盗賊風の少年率いる一団だ。
「ゴッドのローレットか!」
「はい、かな。ご指名頂いたわけだし……カミサマなんぞマトモに信じたことはねーんだよな。ねーんだけどさ──」
 『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は叫ぶ。
「奴はゴッドだからセーフ!!!」
「はぁ!?」
 間抜け面を晒すグーシラを指したサンディ叫ぶ。
「泣く子も黙る大怪盗、サンディ・カルタここにゴッドのご指名により見参! そこの大将に一騎打ちを申し込むぜ!」
「ふざけるな! ユウシャであるオレが盗賊などに」
「ふはっ、三下にはゴッドの加護が怖いんだろう!」
「さん……ユウシャに向かって盗賊風情が!」
 ゾンビのようだったグーシラの顔色が変わったのを見て、サンディは密かに笑った。
 更に後方にて、周囲の様子を伺いつつ『銀月の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)が優雅に進み出る。
「領民の皆様も前に向かって進んでいるのでしたら、その道を照らすのが月の舞姫たる私の役目」
 殺気立って乾いた空気に湖畔の涼やかな風が流れ込んだようだった。揃えた指先が滑ると大気が色づいたように変わってゆく。舞い始めた弥恵の肢体が艶美に描く急の段・月華繚乱が敵兵たちの思考をあまく捕らえ奪い、同時に味方たちへは鼓舞する言葉を投げかける。
「生きて明日を迎える為に全力を尽くしましょう。さぁ、月の舞姫たる私がその道を照らしてみせます!」

 するりと敵軍へと身を滑りこませたアーリアが敵兵たちを蠱惑的な夢寐世界へと誘う。
「ほらほら、敵は私達じゃないでしょう?」
 弥恵の急の段・月華繚乱やアーリアのパルフェ・タムールの囁きは敵側の理性をぐずぐずに溶かしてゆく。そこからの、なまじ痺れ薬を刷いた武器を持った敵の同士討ち。前線が崩れるまでさほど時間はかからなかった。
 水を垂らした砂の城のように戦線が壊れてゆくのに敵兵たちは震えた。
 しかも、痺れ薬が仲間たちの同士討ちでしか効いてないように見える。ローレットはともかく、一般兵まで痺れ転がる者が見えないのだ。
「ゴッド領を守るためのプラチナムゴッドビームでゴッドするのだ!」
 檻のらぶ♡ふぁいあが眩しい光を放つ。重ねて鋼の驟雨、プラチナムインベルタが敵兵のみを選んで降り注ぐ。
「ご、ゴッドは神はチカラを与えるのか!?」
 たまらず猪鬼が叫ぶと動揺が敵兵に広がる。
「小生は神に仕えるものであるからな」
 豪斗とは言っていないが、なんとなく雰囲気で呟いた龍の一言に敵の動揺は更に深まる。
「神に挑むのは無謀だったと言うのか」
 相対していた咲良が猪鬼に叫ぶ。
「いくらゴッドヴィレッジが栄えてて妬ましいからって、やって良いことと悪いことがある。何かしら恨みもあるんだろうけど、それは罪のない人たちを巻き込む理由にはならないよ!」
 味方を鼓舞するための演技もあったが、咲良の真っ直ぐさは彼女に従う領民たちだけではなくエリオたちの胸も貫いた。
「そうだ! 不幸に抗うことも意思を持つことも、幸せを守ろうとする姿勢も踏みにじられるべきではないんだ!」
 エリオたちが叫び踏み込むと敵兵たちが怯み下がる。
「お前ら──!」
 残された猪鬼の隙を見逃すことなく、鋭く踏み込んだ咲良の肉薄戦が対象を沈める。
 少女が力強く頷く姿に兵士たちは活気づいた。
「前線はOKだね! この調子でいこう!」

「なぜだ!?」
 グーシラは焦っていた。
 勝負は時間をかけずに決まると思っていた。
 ゲイヤ軍の兵士たちの武器には軽いものであるが痺れ薬が塗ってある。低確率ではあるが回数を重ねればいつかは相手の動きを奪うものだ。だが、サンディにはそれが効く様子が無い。
「ん? 勇者は盗賊ごときに負けないんだろう?」
 嘯く相手はどう見ても少年だというのに。
 けれど、一方でサンディも汗ばむ掌で得物の弓を握り直した。脳裏には開戦時の豪斗の姿が浮かぶ。
『ヒーロー・サンディ。ユーはロングタイムをアタックに晒される故、まずは聖骸闘衣(ゴッドホーリーウェア)を授けよう!』
 授けられた敗れざる英霊の鎧は敵軍の痺れ薬を無効化していた。
 さらに見た目に反して己には呪刻奪命剣と不撓の再生力がある。
 だが、彼はこの一騎打ちでグーシラだけでなく背後の戦士たちも引き留めなければならない。幸いゲイヤ軍の兵士たちは薬でもヤっているのか隊長の言いなりだ。目の前で動揺しているグーシラが我に返ってこの一騎打ちの不毛さに気付くのを少しでも長く誤魔化したい。
「こんなの、『戦争』ではない。そうだ、このままではゲイヤの姫君が疲れてしまうからな」
 グーシラが周囲の戦士たちに目をやる。
 ……そろそろ限界そうだ。
(ガンガン粘って時間稼いでやるつもりだったが、でもまあ、そこそこイケたな)
「そろそろ一騎打ちらしく、ドカンといくぞ」
「茶番は終わりだ! お前ら──」
「喰らえ、最後のゴッド切り札だ!」
 放った崩滅呪王が油断していたグーシラを打つ。万死の一撃に自称勇者は目を剥いたまま吹き飛ぶ。同時に、サンディも唸り声を漏らして激しい反動を耐える。
「……ちょっと自信がある程度の奴にゃ、千年経っても俺は倒せねーぜ!」
 将を失った周囲の戦士たちが一瞬呆けた後、その目をサンディへと向けた。


●ゴッドと悪
 戦場を駆ける豪斗は味方へと力を振るう。
 ゴッドオムニッセンス、クェーサーアナライズは痺れを癒し、僅かに傷も癒してゆく。
「H&Aたちよ、怯むな! ゴッドがここにいる!」
 豪斗の力により回復した兵士たちがまた戦場へと戻ってゆく。
「ゴッド!」
 兵士が敵から回収を命じられた武器を豪斗へと献上する。どうやら痺れ薬を発動させる仕組みがあるらしくこちらで使うことは叶わないらしい。
 だが、戦場は明らかにこちらが押している。

「こんなもの、戦じゃない!」
 激昂するゼルジアは踵を返した。一度退却するつもりなのだろう。
 ゼルジアの動向を探っていた檻が敵の逃亡を知らせる一際大きな咆哮をあげた。
 気付いた希がゼルジアへと向きを変える。
「駄目!」
 その背を射貫こうとするパパーラの視界で衣が翻った。
「まだまだ、この舞を止めてなんてやりません!! 今この瞬間が最高なのよ!!」
 神代に名を連ねる舞の神をその身に宿した弥恵の終の段・天鈿女命。顕わになったその身を炎に焦がし、恍惚を乗せた炎獄と八寒の舌を伸ばしてくる。
「な、な──」
 呆けたアーチャーへ、続けざまに繰り出されるフレンジー・ステップが止めを刺す。

「栄えればこそ領民もまた頼もしくなるというものですね。ゴッドの威徳と威光が行き届いている証でしょうか……ならば光を絶やしてしまう訳には行きませんね」
 マグタレーナの魔砲が道を切り拓く。
 ゼルジアと騎士は顔に差した影に気付いてはっと空を見上げる。
 咄嗟に掲げた大盾を鳴らして地に転がったのは、あろうことか──彼女が配った武具だった。
 目を見開くゼルジアに希の姿が映った。
 背後でオイリがスタンロッドを振るい回収した敵の武器を下ろす。
「……禍根は残さない──元凶はアレでしょう」
 言うが否や、希が繰り出す無口な魔女の超広域総攻撃が始まる。
「くそ、こんなっ──うっ」
 倒れることは無い、だが逃げることも叶わず。
 身じろぐゼルジアの四方に壁が出現した。アーリアのリアルインパクトだ。埋もれるゼルジアと騎士の悲鳴。
「貴女が領民に付けた傷は、もっと痛いわ」
 いつの間にか鋼の雨が、止んでいた。
 復帰した騎士が素早く構えるその陰から、ゼルジアは見た。
「侵略もまた人のデザイア。ゴッドは否定せんよ!」
 土埃に汚れ這いつくばるゼルジアと対峙するのは、この地の主たる豪斗と、彼がH&Aと呼ぶ者たち。
「冒険者風情が!」
 ゼルジアが吼える。
 豪斗もまた戦場を駆けた時に付いたのであろう砂埃にまみれた姿をしていたが、その様相がはゼルジアのそれと全く違って見えた。
「否定はせんが、それに抗う姿の方がゴッドの好みというだけだ! ジャスティスを示せ、人の子よ! ウィナーだけがそれを名乗る事ができるのだ!」
「クソっ! 黙れ、ローレット!」
 剣を振りかぶる騎士を。その後ろからゼルジアもまた剣を突き出した。
 悠然と構える豪斗から神気閃光が放たれ、壁とした騎士が体勢を崩した。それを踏みつけ、前進するゼルジア。
「尊大なカミを倒せば、勝機は──」
「そんなものは、ありません」
 静かに佇むマグタレーナのダーティピンポイントが傲慢な領主を止めた。


●ED
「さあ、フレンズが用意したゴッド宴だ。立ち向かった者も守りに徹した者も、レッツ、スレレブレイト! ビクトリーを祝おう!」
 歓声が大気を揺らす。
 誰が撒いたのか紙吹雪のような花びらがふわふわと流れている。
「ゴッド宴だ! 酒! 酒! それと酒! 小生は酒が飲みたいぞ!」
 戦場で光を放っていた龍から人化した檻は一際大きなジョッキを掲げる。
 酒を飲む! 酒を飲んで酒を飲まねば!
 あらゆる意味での変容に慌てる兵士たちなどは目に入っていない。
「頑張ったからね! アタシはお酒は飲めないけど、よーし、ご飯はいっぱい食べるぞー☆」
 咲良が色とりどりの料理が乗った大皿を前にはしゃぐと、おずおずとエリオがジュースの乗ったカップを差し出した。
「ありがとー! 腹が減っては戦は出来ぬって、昔の人は良く言ったよね。遠慮なくいただきまーす!」
 頬張る咲良を幸せそうな顔で見るエリオ。
 その姿に檻はピンと来て、スススとエリオへにじり寄る。
「コホン、小生は僧であってな。生涯修行中とは言えど相談などに乗ったりもするのだ」
 咲良に見とれていたエリオは突然の僧侶の出現に肩を跳ねさせたが、檻はその肩を抱いてさらに続ける。
「小生はビッグ♡らぶを届けるのもラブを聞くのも大好きだぞ~~!! さあさきかせるがいい! さあ! さあ!!!!」
「わ、待って、お酒ならあっちにあります!」
 真っ赤になって叫ぶ少年が慌てて檻を酒樽の並ぶテーブルへと押してゆく。
「?」
 突然騒ぎ出した仲間たちを不思議そうに見て、咲良はあちこちの兵士たちから届けられたケーキの一つにフォークを刺した。
 マグタレーナはたおやかに微笑んだ。
「恋は素敵ね。わたくしも新婚ですのよ?」
 ガシャン、と周囲の男性陣がなぜか同時に皿を落とした。
 会場の隅で飲み物片手に笑顔の並ぶ宴席を見ている希の横にフルーツサンドが乗った皿が差し出された。
「食べない?」
 逆の手にフルーツ盛りの籠も掲げてオイリは尋ねるオイリに、希はこくりと頷いた。
「いーい、お酒ねぇ!」
 アーリアが盃を空けると、次から次へと誰かそこへ注ぐ。お近づきになりたいのだろうがとろんと酔ったようなアーリアにふんわりと見つめられるとついつい酒が進んでしまって、すでに周囲は死屍累々である。
「うん、美味しい」
 それでも、笑顔と勝利のお酒はとても心地よいのだ。
「私の舞台を楽しんでくださいね。皆さんの歓声が何よりの音楽です! そして、これが皆の歓びになって素敵な明日を迎えて欲しいです」
 煌びやかな衣装を着た弥恵が朗らかに笑っている。戦場でついバーニングしてしまい、『どうしていつもこうなるのー!?』と涙目になっていたが立ち直ったらしい。
『笑したければ笑っていいわ、綺麗ごとだけで生きてる訳じゃないんだから!!』
 開き直って叫んだ彼女の凛々しさに密かにファンが増えたという。
 しっとりとした音楽が始まって、領民に贈られた衣装を纏った舞姫がくるくると回り始める。
 熱い頬を冷ますために、サンディは高い建物のバルコニーに退避していた。
 眼下にははしゃぐ人々の平和な光景と領民に囲まれているローレットの姿ちらほら。
 さっきまでサンディもまた英雄だと担ぎ上げられてつい飲まされてしまった。
「飲み過ぎたな」
 そして、手すりに置いた腕の後でくすりと微笑んだ。

 ニネットは落ち着く間もなく宴席の手配に奔走していた。ゴッドを信じた領民たちが既に用意してくれたものがあるので、指示さえ飛ばせば不足なく滞りなく。
「このゴッドヴィレッジ、地味に狙われやすくないです?」
 しかし、ゴッデスと呼ばれることも慣れてしまったし、この領地経営を手伝うのも、もうニネットは「悪くない」と思っているから、不満はない。
「あ、ゴッドのことは心配する必要ないんでどんどん進めてください。イレギュラーズの人をねぎらうのもそうですけど、復興ってお金かかるんで。市井に金流すには公共事業が一番なんです」
 勝利の報に浮かれつつも領主を案じる領民たちを宥めながら、ニネットは別の事に頭を痛めて嘆息した。
「復興だけじゃなくて……どうせ襲ってきたとこの領民もなんとかしろって言ってきますから、あのゴッドは」
 でも、そんなゴッドの国を彼らは愛している。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

各自の痺れ薬対策がばっちりすぎて、逆に敵の同士討ち時に効果抜群でした。
皆様の戦い、文字数に収まらないほどでした。
ローレットの皆様はもちろんのこと、ゴッドヴィレッジの優美さと領主との関係はとても素敵ですね。
ご参加ありがとうございました。
お疲れさまでした。

PAGETOPPAGEBOTTOM