シナリオ詳細
Memories Journey:永遠回りの歯車
オープニング
●セカンド・ジャーニー
「皆さん、集まってくださってありがとうございます」
練達の街外れにある、とある古びたビル。その一階ロビーに、ミルヴィ=カーソン (p3p005047)をはじめとするローレットのイレギュラーズ達は集められていた。ミルヴィたちを呼び出したのは、練達で映像関係の技師をしているという、年若い男、ティーノ・ライナルディである――ここまでは、前回の物語と同じくする。
単純に経緯を放そう。練達の隅にある廃ビル。その地下にあったものは、おそらく練達の歴史の中でもかなり昔にまでさかのぼるであろうと目される、古い建物、いわば『練達の遺跡』であった。
その内部にあったのは、古い映写機。中に映像が保存されているものの、データの吸出し方法は不明。目下中のデータを確認するためには、映写機そのものを直した方が速い、と言う寸法だ。
だが、それにも一つ手間がかかる。練達の技術でも初期の頃に作られたこの映写機は、科学技術はもちろん、魔道技術もふんだんに利用されており、現在の練達の技術力をもってしても、容易には修復できない。
そこで、映像技師ティーノにより、各国に存在するという修復素材を集めることを依頼されたミルヴィたちローレット・イレギュラーズは、前回、幻想の古城にて、『白き水連の剣』と呼ばれる魔力の塊を入手することに成功したのである――。
「これは、そうですね。洗浄液と言うか、保護液と言うか。とにかく、部品を組み込む前に魔力になじませるものです」
白い魔力の剣を手にしながら、ティーノが言う。
「結構苦労したんでね。丁重に扱ってほしいな」
アト・サイン (p3p001394)が肩をすくめる。
「……でも、楽しかったよ。綺麗なお城だった……ああいう所で結婚式挙げたいねぇ、アトさん……!」
フラーゴラ・トラモント (p3p008825)が目を輝かせながら言うのへ、アトはやれやれと頭を振った。
「まだ思考が切り替わっていないのか? なんというか、随分とあの古城にも魔力があったものだ」
「乙女としては一大事っすからね!」
ウルズ・ウィムフォクシー (p3p009291)がうんうんと頷いて言う。そんな様子に咲々宮 幻介 (p3p001387)は苦笑しながら、続けた。
「まぁ、それはさておき、他にも部品が必要と言う話で御座ったな? 今回もまた、その依頼で御座ろう?」
幻介の言葉に、ティーノは頷いた。
「はい。今回は、時期的に鉄帝にむかってほしいのです。この時期に、ヴィーザル地方にある鉱山から、『永遠回りの歯車』と呼ばれる特殊な歯車が採掘されるんです。これが不思議なものでね、周囲の鉱石から鉄分が集まって、まるで歯車みたいなぎざぎざの鉱物が取れるんですよ」
「ヴィーザル地方……たしか、ノーザン・キングスの領土だったはず。そんな所に鉱山があるのか?」
皇 刺幻(p3p007840)の言葉に、ティーノは頷いた。
「はい、確かに、はるか昔には……ですが、結局需要がなくなって、鉱山は放棄されました。ですが、この機械はだいぶ昔のものなので、そのパーツが必要なんです」
「と言う事は、今回はヴィーザル地方の鉱山での冒険になるわけだね」
ミルヴィの言葉に、ティーノは頷いた。
「鉱山の場所自体は解っていますが、道中でノーザン・キングスたちに遭遇しないとも限りません。ですので、皆さんの力を借りなければ……と言う事なんです」
「ま、この話を最初に受けた時点で、最後まで付き合うのは予定の内だよ」
ミルヴィの言葉に、仲間達は頷いた。さて、此度の冒険は鉄帝、ヴィーザル地方。
さっそくイレギュラーズ達は、冒険のための作戦を練り始めた……。
●歯車廃坑・ダルムマイン
かち、かち、かち、かち、と、その鉱山では音がするという。
それは、歯車の鳴らす音。天然自然の軌跡が産んだ。無数の歯車が鳴らす音。
かちかち、かちかち、歯車が鳴る。かつての鉱山夫たちは、その音に合わせて、リズムよくつるはしを振るったのだそうだ。
今は、誰からも必要とされなくなっても、歯車はかちかちと音を鳴らし続ける。
壁から生まれた歯車が、こつんと落ちて、地に転がった。
- Memories Journey:永遠回りの歯車完了
- GM名洗井落雲
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年07月04日 22時05分
- 参加人数6/6人
- 相談8日
- 参加費200RC
参加者 : 6 人
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参加者一覧(6人)
リプレイ
●歯車を巡る冒険の始まり
ヴィーザル地方。鉄帝北部、ノーザン・キングスが領土とする地。そこには、かつて永遠回りの歯車を産出していた鉱山がある。
その鉱山の入り口へとやってきたイレギュラーズたちは、入り口を臨む茂みの中で、一息をついた。
「やれやれ、随分と遠くまで来たものだなぁ」
『傷跡を分かつ』咲々宮 幻介(p3p001387)が言う。
「前回の古城もそうであったが、なんとも、旅行記でも書けそうな程に御座るな……いっそ一筆したためてみるか?」
「幻介先輩の旅行記っすか! 楽しみっす、あたしのこともいっぱい書いてほしいなぁ……!」
『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)がそう言うのへ、幻介は目を丸くした。
「ウルズ殿のことを、たくさん、で御座るか……? いやいや、ただの旅日記のようなもので御座るよ、楽しみにするようなものでも御座らんよ」
「なるほど、つまり新婚旅行記のようなもの……?」
「いやいや?」
小首をかしげる幻介。目をキラキラさせるウルズに、『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が声をかける。
「今回もいっぱい活躍すれば、幻介さんの旅行記に、いっぱい登場できるかもだよ……!」
「なるほどっす! 幻介先輩の隣を走りたくて鍛えたこの足、披露する時が来たっす!」
「二人とも、本当にこの間の古城の魔力にでもあてられたのかい?」
苦笑するように言う『観光客』アト・サイン(p3p001394)に、フラーゴラは、むぅ、と唸った。
「古城に魔力があると言うかアトさんに魅惑の魔力があると言うか……」
「僕は観光客であって、淫魔の類じゃないぞ……それはともかくとして、真正面から殴り合うのは苦手だなあ、どうにかしてしまうか」
「さすが観光客。何か策でもあるの?」
『子供達のお姉ちゃん』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が言うのへ、ふむ、とアトが唸る。
「いや、まずは調査からだね……見たところ、入り口に見張りがいるわけでもない。あまりハイエスタの戦士たちも、本腰を入れてここを守っている、と言うわけではない様だ」
「こんな土地だ。まさか攻撃されるとは思っていないだろうからな」
『廻世紅皇・唯我の一刀』皇 刺幻(p3p007840)が言った。
「そう考えれば、侵入することは容易いだろうな。流石に中をうろつくのを黙って見過ごしてくれるわけではないだろうが。ま、魔物の次は生身の人ってか。これはさすがに腕が鳴……ンンッ、いや失礼」
ミルヴィの方へ視線をやりながら、刺幻は咳ばらいを一つ。
「なぁに、刺幻? 言ってごらん?」
ミルヴィが目を細めて笑うのへ、刺幻はバツが悪そうに目をそらした。
「いや、なに……それより作戦を考えようか。幻介、アト」
「作戦と言われてもな。拙者は斬ったはったしたかできぬで御座るからなぁ」
「それを言ったら、僕は観光しかできないよ。適材適所と行こう。
作戦だけど……鉱山にはつきものの奴を使おう。
そのためには、まずは調査だ。フラーゴラ、手伝ってくれるかい?」
「うん……!」
ぴん、と耳を立てて、尻尾を振らんばかりの勢いで、フラーゴラが頷く。
「ふふ、頑張ってね、ゴラちゃん♪」
ミルヴィが笑ってそう言うのへ、フラーゴラがこくこくと頷いた。
「おいおい、君にも頑張ってもらうだんぞ? まぁ、いいけれど……まずは話を詰めよう。いいかい、まずは――」
アトがそう言うのへ、仲間達は顔を寄せた。
そう言うアトの提案したものは、些か過激ともいえるものだった。
●
この鉱山に響き渡るかちかちと言う音は、鉱石内の鉄分が、歯車のような形となる際になるのだそうだ。
どうしてこの鉱山の鉄分が歯車みたいな形になるのかは、誰にもわかっていないらしい。
自然の奇跡か、神のいたずらか。或いは、大昔の魔術師が、歯車を生成するために魔法をかけたのかもしれない。
結局出自は解らないけれど、今もこの鉱山では、かちかち、かちかちと音が鳴って、新しい歯車を生み出す。
かちかち、かちかち。変わらぬサイクルを続けるのは、確かになんだか、歯車らしい。
――ある旅行者の手記より。
●鉱山冒険
かちかち、かちかち、と鉱山に音が響く。それは耳障りなものではなく、どこか落ち着くような感じもする優しい音色だ。
その鉱山内を、大剣を腰に差した男が歩いている。ハイエスタの屈強な戦士だ。男が暗がりに視線を移すと、そこに一人の女性が立っている。女性は妖艶に笑うと、ため息をつくように、小さくいった。
「ふふっ、アタシお兄さんと二人っきりで、お話してみたいナ……?」
少し胸をはだけながら、そう言う。はて、こんな女がここにいたか――男は些か不信感を抱いたが、しかしこうした担当をしているものが、居ないわけではない。それが男であっても、女であっても。
「なーんて、ちょっと恥ずかしいな……」
女がそう言うのへ、男はつまり、彼女はそう言う担当の女性なのだ、と認識した。随分と積極的に誘ってくるものだが、まぁ、それはそれでよい。
男は別段、見張りと言う見張りをしているわけでもない。この鉱山にいるハイエスタの戦士たちは、おおむねみんな、そうピリピリしているわけではなかった。此処は重要拠点と言うわけではない。ほとんど休憩所と言うか、仮宿に近いような場所だったから、男の気も相応に緩んでいた。
「そうかい? お前はやる気のように見えるが」
男はにやり、と笑うと、女性の肩に手をやった。ふふ、と女性が笑う。
「ねぇ、ここじゃなくてサ……こっち。こっちに休める所があるから、ネ?」
そう言うと、女性が男の手を引いて、通路の影へと誘っていく。男は誘われるがまま、手を引かれ、通路の影に誘い込まれ――。
「動かないで」
と、背中にナイフを当てられていることに気づいた。背中に誰かいる気配を感じる。
「動いたら刺す。声をあげても刺す。この位置からなら、心臓を突き上げられる。ワタシは本気。分かったら、両手をあげて」
声の主はまだ若いように思えたが、しかしその言葉に込められた意思は本物だった。男はゆっくりと手をあげる。気配の主が頷いたのが分かった。
「そのままゆっくり、こっちを振り向いて」
言葉通りに振り替えると、眼鏡をかけた小柄な少女の姿があった。その目が怪し気に光るや、男の身体から力が抜けて、両手をだらり、と脱力させる。
「ふぅ……これで、よし」
少女――フラーゴラが息を吐くのへ、女性――ミルヴィが笑った。
「ごめんね、アタシは肉食系だけど硬派なヒトが好きなの♪ さて、ゴラちゃん、引き続き尋問お願い♪」
「ん、まかせて……!」
フラーゴラがそう言うのへ、幻介が感嘆の声をあげる。
「さすがフラーゴラ殿、鮮やかな手並みに御座るな。魔眼はもちろん、大男を前に啖呵を切るのも見事で御座った」
「えへへ、ありがとう。ね、アトさん、ワタシ、褒められたよ」
にこにこと笑うフラーゴラに、あとはきょとんとした様子を見せながら、
「ん……それは良かった。じゃあフラーゴラ、引き続き頼むよ」
「むー……了解」
少しだけ残念そうに、フラーゴラが頷く。それから男にかかりきりになるのを見て、ウルズは呟いた。
「頑張っすよ、フラーゴラ先輩……! うう、あたしも褒められたいっす……!」
「なんというか、ウチの男どもは鈍いものだねぇ」
ミルヴィが言うのへ、刺幻がぼやいた。
「そう言ってやるな……色々と事情があるものだ」
「へぇ? 刺幻も事情もち?」
「どうだろうな……?」
肩をすくめてみせる刺幻。一方、フラーゴラがふぅ、と一息をつきつつ、
「大体、聞き終えたよ。敵の大体の位置。それから、坑道について」
「よし、フラーゴラ。じゃあ、ここにメモしておいてくれ。地図ほど正確ではないけれど、大雑把な指標は出来る」
アトが言うのへ、フラーゴラが頷いた。ちょこん、と地面に座って、メモをさらさらとかいていく。
「幻介、ウルズ。此処からが二人の出番だ。思いっきり引っ掻き回してくれ」
「承知したで御座るよ」
「はい! 先輩の背中はあたしに任せて!」
幻介とウルズが頷くのへ、アトもまた頷いた。
「ミルヴィと刺幻はいったん外に出て、動きがあったら突入してくれ。なに、そう待たせはしないよ」
「おっけー!」
「分かった。くれぐれも気を付けてくれ」
ミルヴィと刺幻が頷く。アトはフラーゴラへと視線を移すと、
「君は僕とだ。この情報で、水脈の確認はできた。作戦開始と行こう」
「うん、わかったよ、アトさん……!」
フラーゴラが片手をあげる。
「ウルズ、カットを連れて行って。何かあったら合図して!」
ミルヴィがそう言って、ネズミ型のホムンクルスを差し出す。ウルズは両手でそれを受け取ると、
「ありがとうっす! お互い気を付けるっすよ!」
そう言って、カットを肩にのせる。
かくして、イレギュラーズ達の作戦はここに開始された。
かち、かち、かち。
その音に混じって、なにか、ごう、ごう、と言う音が聞こえる。
坑道に響く音に、ハイエスタの戦士たちが不審げなまなざしを向けた。
「何の音だ?」
「かちかち言う音には慣れたが、こんな音は初めてだが……?」
男たちが疑問符を浮かべながら周囲を警戒し始める。ごう、ごう、と言う音は次第に大きくなってきて、やがて足元に何か冷たいものが流れていることに気づいた。
「水だ……」
男が言う。それは、水だった。冷たい、おそらく地下水の類。男たちの顔が青ざめる。
「馬鹿な! 何でこんな所に水が流れてるんだ!?」
男が叫んだ。隣にいた男が、ハッとした様子で続く。
「地下水脈が流れ込んできてるんじゃあ」
「まずいぞ! おい、元を探せ! 塞げるなら塞がなければ!」
男たちがあわただしく動き出すのを、幻介とウルズは物陰から見つめていた。
「……ううむ、しかし、えげつない手を思い付くもので御座るな」
「でも、おかげで皆混乱してるっすよ!」
ウルズがそう言うのへ、幻介は突入前の作戦会議のことを思い出していた。
「つまり、鉱山には水が流れている所がある。当然だ、地下水脈があるからね」
アトがそう言うのへ、刺幻が声をあげた。
「水攻めにするのか?」
「半分正解。別に坑道を水浸しにしてやるわけじゃない。そうしたら、僕たちも中へ入れなくなるからね。要は、水攻めにされると思い込ませればいいんだ」
あとは棒切れを手に、地面に絵を描き始めた。単純な坑道内の図である。
「外から見た限りだと、水脈のありかは行動の東側だ。詳しい事は、適当な敵を捕まえて確認するとして、ここをふさいで内部に水を流す。もちろん、そんなに大量じゃなくていい。ただ、このままでは水浸しになるんじゃないか、と思わせる程度だ」
「難しい匙加減だね」
ミルヴィが言うのへ、
「そこは僕とフラーゴラでやろう。適当に川の流れをせき止めれば、多少は水が流れるはずだ。続いて、幻介とウルズで、敵を引っ掻き回してほしい。混乱に混乱を重ねるんだ。フラーゴラ、君もだ。魔眼か何かで催眠状態になった敵を、暴れさせるか、何か誤情報でも叫ばせてやれ」
「拙者らは囮役で御座るな。ふむ、足には自信がある。やり遂げて見せよう」
「あたしも頑張るっす! えへへ、こういう時のために鍛えてきたっすよ!」
幻介とウルズが頷いた。
「よし、まずは敵を捕まえて情報収集と行こう……」
――。
「思い出せば思い出すほど、やはり恐ろしいものであるな。今やハイエスタの戦士たちは、自然に殺されるのではないかと戦々恐々としている……となれば」
幻介が嘆息する。中々に恐ろしい手を考え付くものであるが、今のところ敵の動きは乱れている様だ。
「後は、あたし達がもっと敵を混乱させてやればいいっすね……幻介先輩、行くっすよ!」
「承知した。ウルズ殿、くれぐれも無理はされぬよう」
二人は頷くと、一気に飛び出した。あえて、ハイエスタの戦士たちの目に映る様に。
「誰だ!?」
「見知らぬ奴がいたぞ!」
「くそ、この水害も奴らのせいか……!」
次々と声が上がるのへ、ウルズはべぇ、と舌を出してやった。
「奴らを追え! 半分は残って水害の元を探れ!」
果たして、大剣を構えた戦士たちが突撃してくる。幻介は刀を抜き放つと、迎え撃った。振るわれる大剣を、刀でいなす。一撃、二撃。重い斬撃は、受け止める幻介の手に衝撃を走らせた。
「ふむ……さすがは戦士の部族。狭い坑道であっても、過不足なく大剣にて技を繰り出せるか……!」
感心半分、幻介は刀を構える。振るわれた大剣をはじき、受け流す。するり、とその隙をついて接敵し、斬撃を繰りだした。男の身体に傷口がひらき、男がうめき声をあげる。
「今回の拙者らは寝込みを襲ったようなものでな……無益な殺生は避けたい」
「ちっ、舐めるな!」
男が再び大剣を振り上げるのへ、ウルズの速度の乗った、まさに光撃のごときタックルが、男を吹き飛ばした。
「幻介先輩には指一本触れさせないっすよ!」
「かたじけない!」
「いえいえ! 先輩のためなら、っす!」
構えつつ、ウルズが言う。前方から迫る、ハイエスタの戦士たち。その数は少しずつ増え、あちこちからやってきているように見える。
「充分でござろう。このまま引き付けて退くで御座るよ」
「了解っす! さ、先輩! 一緒に走るっすよ!」
二人は背を向けて、一気に走り出す。二人の機動力に追いつける戦士はいないが、しかしドルイドが放つ炎が、二人の周囲に着弾する。それを避けながら、二人は坑道をひた走る――。
一方、ミルヴィと刺幻は、坑道の奥目指して疾走を続けていた。ほとんど的とは出くわさないが、しかしそれでも、出会い頭に遭遇することはある。
「お前達は――!?」
今もまた、通路の先から現れたハイエスタの戦士が、誰何の声をあげる。
「刺幻!」
「ああ」
ミルヴィの声に刺幻は頷くと、その手を前方へと突き出す。
「おや、戦士ともあろう者がどこへ行こうと言うのかね? 魔王の旋律から、逃れようなどと思ってくれるなよ!」
途端、放たれた魔力の砲撃が、坑道を照らして戦士へと迫る。光が戦士を打ち貫き、灼熱がその身体を強かに叩く。
「ぐ、うっ!? 魔術師か!?」
戦士が大剣を抜き放ち、砲撃を受けながらも迎撃にうつる。だが、遅い。すでに懐に入り込んでいたミルヴィが、踊るような動きで曲刀を振るう。曲刀の峰で叩かれた男が昏倒して、その場に倒れ伏す。
「ナイスだよ、刺幻!」
「そっちもだ。と、たたえあっている場合じゃない。早く歯車を回収するぞ」
最奥に到達した二人が、壁へと視線を移す。ひときわ大きな、かち、かち、かち、と言う音。その方を見れば、今まさに、岸壁からいくつかの輝く歯車のような物体が零れ落ちて、地に落下していった。
「これが、永遠回りの歯車……! 前回の剣もそうだったけど、なんだかロマンティックだよね……!」
目を輝かせながら、ミルヴィが言う。
「感激するのは後だ。早く拾うぞ……所で、何個拾って行けばいいんだ?」
「一応、持ってくるのは一個だけど……予備に何個か貰って行こ!」
「了解だ!」
手にした袋に、永遠回りの歯車を入れていく。数個入れたところで口に封をし、カバンへとしまい込んだ。
「ミルヴィ、幻介たちに連絡を! このまま離脱するぞ!」
「うん! 今、カットで伝えた! 速く逃げよ!」
二人は走り出す。
一方、アトとフラーゴラは、水脈より少し離れた場所で、事の成功を確認していた。ハイエスタ戦士たちの動きがあわただしい。先ほどせき止めた水脈の方にかかりきりになっているのだろう。それに、内部から裏切り者が出たとか、外から侵入者が来たとか、そう言った情報があちこちから飛び交う。とことんまで混乱している様だ。
「よし、上手くいっているな。ナイスだ、フラーゴラ」
「えへへ……でも、少し悪い事しちゃったかな。
あとで、ワタシの領地から、特産品とか送ってあげようかなぁ……」
嬉しそうに目を細めるフラーゴラ。アトは窘めるように言った。
「喜ぶのは後だぞ……もう充分時間も稼いだだろう。此処で水害に巻き込まれたらそれこそ間抜けだ。すぐに逃げよう」
アトの言葉に、フラーゴラは頷く。二人は一気に坑道を駆けだした。幸いにして敵とは遭遇しなかった――それはそうだろう、敵は水脈、裏切り者の捜索、侵入者の捜索、とあちこちに手を割かれているのだ――二人は、そのまま一気に坑道入り口へと抜けだす。とはいえ、そこで待っているわけにはいかない。来たときに隠れていた茂みに身を隠して、仲間達の帰りを待つ。
「あ……アトさん、ミルヴィさんと刺幻さんだよ」
フラーゴラが声をあげるのへ、アトは頷いた。飛び出してきた二人に姿を現して、こちらに来るように誘うと、二人は茂みの中に飛び込んでくる。
「首尾は?」
アトが尋ねるのへ、
「完璧!」
ミルヴィが笑う。間髪入れず、今度は幻介とウルズが飛び出してくる。
「やれやれ、やはり御天道様の下が一番で御座るな……!」
「あ、幻介先輩! 皆あそこっす!」
ウルズが指さし、茂みに飛び込む。
「よし、全員揃ったな」
刺幻が言った。
「用が済んだら、こことはオサラバだ。追手がかかる前に、逃げるぞ」
その言葉に、仲間達は頷いた。かくして一行は坑道を後に、撤退の路へと着く。
その懐に、輝く歯車を抱いて。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
第二の旅も無事完了。
次の旅まで、ゆっくりとお休みください。
GMコメント
リクエストありがとうございます。洗井落雲です。
此方の冒険は、イレギュラーズ達への依頼(リクエスト)により生じた旅路になります。
●成功条件
『永遠回りの歯車』の回収
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
練達の遺跡に存在する、古びた映写機。その修復を巡り、旅をつづけるイレギュラーズ達。
此度の旅路は、鉄帝はヴィーザル地方。ハイエスタたちの領土に、その鉱山は存在します。
かつては栄えた鉱山も今は昔。現在は、ハイエスタの戦士たちが小さな拠点としているのみです。
鉱山までは、妨害なく到達出来るものとします。鉱山入り口から、ハイエスタの戦士たちを退け、入り組んだ鉱山内部を突破し、最奥にある発掘跡地から、永遠回りの歯車を回収するのが、今回の任務です。
●エネミーデータ
ハイエスタ戦士 ×???
高山部族、ハイエスタの戦士たちです。主に大剣を持った屈強な戦士たちが多いですが、魔法を得意とするドルイドなども存在します。
総数は不明です。全滅させて安全を確保するのも手ですが……相当被害が発生するかもしれません。
以上となります。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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