PandoraPartyProject

シナリオ詳細

貴族のメイド、再募集

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ノージィ家の緊急事態
 よく磨かれた希少木材の机が陽光に照っている。
 スタンドに羽根ペンをさした男は、金色の髭をすいっと撫でた。
「メイドたちがいないと、屋敷も静かだね」
 窓のそとを見れば、いつもはメイドが世話をしている庭ががらんと広がっていた。見えるは蝶と鳥ばかり。
 本格的な夏を前に雑草が随分と背を高くして、一日や二日放った程度でも随分なものだった。
 ここは幻想の王都に建てられた貴族ノージィ家の大屋敷だ。金色の髭をした男が、その主人であるところのノージィ氏である。
 机を挟んだ向かい側で、眼鏡をかけたメイド長カチュウが肩をすくめた。
「このやりとりも、また久しぶりですね」
「あの時は随分お世話になったよね、ローレットには」
 半年ほど前になろうか。
 家中のメイドに一斉休暇を与えたところに周辺貴族とのパーティーが入ってしまい、急遽ローレットに助っ人を依頼したことがあった。
 だが今回は、事情がちょっとだけ違う。
「メイドの皆は、無事にしているかな」
「悪い知らせは来ていないようですが……なにぶん、未曾有の事態でございますから」
 カチュウはため息と共に窓辺を見た。

 幻想国家に襲来した狂気のサーカスはいくつもの事件を副次的に引き起こし、あちこちで混乱を産み落とした。
 しかし王の采配と四大貴族の動きによって今や彼らは袋の鼠。しかし窮鼠はネコを噛むもので、どんな恐ろしい反撃をするか分かったものではなかった。
 それゆえノージィ氏はメイドたちに特別休暇を与え、家に戻り家族を守り助けることを言いつけたのだった。むろん、何かあるとすれば『ここらでも一段と人の良さそうな弱小貴族』であるところのノージィ邸なので、ていのいい避難勧告である。
 幻想貴族にしては珍しいくらい、下向き姿勢だった。
「カサドラ様やベーナス様は、フィッツバルディ様への成果献上のために動いているというのに……」
「ダメかな」
「貴族としてはダメですが……人としてはとても、おっと」
 カチュウは出過ぎたことを言ったという顔で口元を覆った。
 からからと笑うノージィ氏。
「いいよ。僕は放っておくとすぐにそんをするから、誰かが言ってくれないと」
「では、そうですね……ひとつだけ、提案しても?」
 カチュウは窓辺に歩み寄り、縁を指でなぞった。
 目に見えるほどにホコリがつもり、窓の外は雑草だらけ。
 それだけではない。
 商路も封鎖されたせいで最近は保存食料理ばかりだ。
「メイドを呼べないのであれば、お金を出してでも『彼ら』を呼びませんか」
「……いいのかな? 今『彼ら』はとても忙しい筈だけど」
「戦う者ばかりがローレットじゃないのは、私たちの知るとおりですよ、旦那様」

●メイドと執事を募集中
 かくして、血なまぐさい依頼書が沢山貼り付けられたローレットの掲示板に一枚、なんだかフツーな依頼書が貼り付けられた。
 『臨時のメイドもしくは執事を募集中。貴族ノージィ氏より』

GMコメント

 なにかと大変な昨今ではございますが、人はいかなる時も生きているもの。人を斬る者がいる横で、草を刈る者がいるのが世の中というものなのかもしれませんね。

 さて、こちらの依頼では貴族の大屋敷でメイドor執事のお仕事をして頂きます。
 ただするだけじゃなく、軽く一週間分は後回しにされた仕事を一気にかたづけねばならぬので、とってもタイヘンな労働になるようです。腕が鳴りますね!

 やるべきお仕事は沢山あります。
 例えば……お家のお掃除、お庭のお手入れ、遠くまで行って荷馬車いっぱいに買い出しをしたり、それを使ってお料理をしたり、噂では隣領を収める貴族カサドラ氏(妙齢の女性)が尋ねてくるとも言われていて、なかなか大変です。
 一人で全部こなすのは、万能メイド長のカチュウさんが諦めたくらい物理的に不可能ですので、集まった皆さんで分担してこなしましょう。
 得意分野や、好きな分野や、なんとなーく興味のある分野に割り振ってみるとよいでしょう。

 プレイングは大まかに分けて
・自分に割り振られた作業のこなしっぷり
・カサドラ氏がやってきた時の振る舞いかた(プラス、なんかしらしたいことがあれば追記)
 といった具合になることでしょう。

【おたすけキャラ】
・カチュウさん
 ノージィ家に古くから仕えるメイド長です。
 変な話ですがノージィ家には執事や秘書といったものがおらず、メイド長がその役目を担っています。ノージィ氏が地味に有能な証拠なのですが、それはさておきまして……。
 礼儀作法、家事全般、ある程度までの料理、その他お家に必要な作業は大体こなすことが出来、そして教えることができます。
 もしPCがメイドっぽい技能をなにも持っていなくても、カチュウさんに教わることで今回限りではありますがちゃんと振る舞うことができるでしょう。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 貴族のメイド、再募集完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年06月25日 22時00分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

レンジー(p3p000130)
帽子の中に夢が詰まってる
リオ・ムーンリバー(p3p000237)
新米死神少女
フェスタ・カーニバル(p3p000545)
エブリデイ・フェスティバル
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
アグライア=O=フォーティス(p3p002314)
砂漠の光
サブリナ・クィンシー(p3p002354)
仮面女皇
飛騨・沙織(p3p004612)
アンジェリーナ・エフォール(p3p004636)
クールミント
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人

リプレイ

●メイド服を着てみよう
 広がる裾。モノクロカラーの布をあわせたメイド服で振り返る『大賢者』レンジー(p3p000130)。
「前もそうだったけれど、これは新鮮だ」
「ですよね!」
 『新米死神少女』リオ・ムーンリバー(p3p000237)がフリルのついたカチューシャを装着して頭の上でふりふりしていた。
「わたしは人を治すことは得意だけど戦うのは苦手だからね、こういった依頼があるのは嬉しいよ」
「他にもあるんでしょうか。私、メイドのお仕事は初体験なのでプロの人に教わっておきたいです。礼儀作法とかはなんとか……」
「作法わかるんだ。うーん、すごい」
 『エブリデイ・フェスティバル』フェスタ・カーニバル(p3p000545)は長いスカートの裾をつまんでなんだか落ち着かなそうにしていた。
「口調も気をつけないとだよね。どうしたらいいのかな?」
 話をふられて、『仮面女皇』サブリナ・クィンシー(p3p002354)は何気ない具合で振り向いた。
「いつもは使う側でしたから一口には……強いて言うなら、控えめに振る舞うことでしょうか」
「控えめ! よし、がんばるぞー!」
 と言いながら拳を突き上げるフェスタ。
「……あれ、ちがう!?」
「それにしても、気楽にお仕事できる依頼はありがたいですね。もっと増えるといいのですが……」
「お帰りなさいませご主人様」
 本当に言いたいだけのことを言って現われる『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)。
「えっと」
「おいしくなーれ☆」
 文脈を大胆に無視したエリザベスにサブリナが困っているとフォローという名の追い打ちをかけはじめた。
「フフ、言ってみたかったのです。服は用意できても環境は用意できませんからね。萌え萌えじゃんけんします?」
「ごめんなさい、言葉の意味が……わかりますか?」
「いえ、ぜんぜん」
 首を振る『砂漠の光』アグライア=O=フォーティス(p3p002314)。
 ふと窓の外を見ると、雑草がもりもりはえた光景が広がっている。
「それにしても、随分放っていたんですね。草木の手入れは好きなのですが、流石に重労働になりそうです」
「確かに……うまく分担してかたづけてしまいましょう」

 メイドのお仕事を受けたはいいが家の作法の決まりは知らぬもの。そのあたりはメイド長であるところのカチュウさんに聞くことになっていた。それはプロメイドとて避けられぬ道ではあるが、近道はできるものだ。
「困ってるのねっ! 仕方ないなー、助けてあげないとね! 仕方ないなー仕方ないなー♪」
 『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が肩を振るようにして割烹着を装着しはじめた。
「私はお客様やノージィ氏のお部屋のベッドメイキングをしたり、飲み物を運んだり、ちょっとした御用聞きをしたり……身の回りのお世話をしようと思うのだわー」
「わかった。そっちは任せるよ」
 『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)はソックスの縁を指で引っかけるようにして直すと。スカートを叩いて姿勢を整えた。
「ローレットの依頼はなんだかんだで戦闘力を求められるものが多かったからね。こうしてメイドとしての技能を振るえる機会を用意してくれたノージィ殿には感謝しなくては。それを示すためにも今日は全力で仕えさせてもらおう」
「それ以前に、メイド達の安全の為に態々特別休暇を出したというのは感心です。我が主が『その意志は尊敬に値する』と私が派遣されました」
「ふふ、腕が鳴ります。いい仕事ができそうですわね」
 『クールミント』アンジェリーナ・エフォール(p3p004636)が自前のキュッとしたメイド服を整え、リボンをきっちりと結んだ。
「それにしても冒険色の強いローレットにも随分とメイドがいるものですわね」
「本職はともかく、心得のある方は多いでしょう。華蓮さんもその手の……?」
 沙織がちらりと扉を見ると、カチュウさんがノックをして入ってきた。
「準備はできましたか? ノージィ様のところへ挨拶に行きましょう」
 こっくりと頷く華蓮。
「いつでも大丈夫、なのだわー」

 場所は変わってノージィ氏の執務室。
 十人それぞれ趣の異なる自己紹介を終えた所で、ノージィ氏はにっこりと笑って金色の髭をつまんだ。
「今回は来てくれてありがとう。大変な時期なのに、助かるよ。ここまではお客さんだったけど、ここからは家族として接するから、暫くよろしくね」
 ナチュラルに下働きのことを『家族』と表現するノージィに、サブリナは静かになるほどと頷いた。これが恐らく彼の美点であり武器であり、そして弱点なのだろうと。

●血は流れても日常は止まらない
 舗装された幻想街の道を、馬が進む。
 すれ違う者は少なく、見かけても皆帽子を深く被り目を伏せていた。
 家々は窓やカーテンを閉じ、市場も殆どがテントを畳んでいた。
「サーカスの影響がこんな所にも現われるとはね」
 レンジーはつけなれないカチューシャの位置を直しながら、馬の手綱を握っている。
 流石貴族の馬車というべきか、御者席の座り心地のよいこと。
 馬も大人しく、ゆっくりと進む。
 穏やかな川のように流れてゆく町の景色は、本来あるはずの賑わいを消していた。
「まだ良いほうなのかもしれません。サーカス団の入り込んだ町は惨劇に見舞われていると聞きますから……」
 馬車の荷台に腰掛けて、サブリナは折りたたんでいた羊皮紙のメモを開いた。
 人手がなかったせいで滞っていた買い出し品のメモだ。
 依頼期間が終わってサブリナたちが引き上げてもしばらくはノージィとカチュウだけで回せるようにと保存の利く食品や細々とした道具もリストに入っている。
 馬車の荷台いっぱいに積んで帰るくらいの量はあるだろう。
 しかしそれらを買いそろえるのにピッタリの市場は、今は休業状態だ。
「わりィな、今は仕入れを止めてるんだ。暫く家に籠もっていろって、旦那の言いつけでさ」
 スキンヘッドの果物売りが弱ったように額をなであげる。
 彼の言う『旦那』というのはノージィ氏のことだろう。
 メイドたちを自宅に帰すだけでなく、流通のルートまで止めて領民を保護しているらしい。過去、ローレットの行なった喧伝活動のおかげで(すくなくともノージィ領民には)サーカスの危険は民衆に知れ渡ったようだ。
 しかし生活をしなければ死んでしまう貧困層はかわらず仕事を続けていたことだろう。それをサブリナが尋ねると、果物売りは苦笑いをした。
「旦那が在庫を末値で買い上げたのさ。今頃全部腐っちまってるだろうに」
「…………」
 んー、と小さく唸って空を見るサブリナ。
 ノージィ氏は人が良すぎて財を失うタイプらしい。民には好かれるが政治は下手とみた。
 メモを覗き込むレンジー。
「困ったな。食料が無いでもないけど……カサドラ氏のもてなしが貧しくなってしまう」
「そうですね。もてなしに必要な物資の殆どがなくなってしまいます」
 サブリナも色々と思案してみるが、代用や隠蔽で誤魔化しても貴族はすぐにそれを見抜くだろう。彼らは政治のプロ。果物売りが一目でリンゴの品質を見抜くように、他貴族の状況を見抜いてくる。
「なんだって? そりゃいけねえ。旦那がナメられちまう!」
 何気なく喋っただけなのに、果物売りは家の奥にとって返し、近くの地図をよこしてきた。
「ここへ行けば贅沢品が手に入るはずだぜ。けどこんな時だ、危ない奴が居たら……」
「なあに、大丈夫だよ」
 レンジーはサブリナと顔を見合わせてから、にっこりと笑った。
「こうみえて結構やるんだ。わたしたちは」

 買い付けの馬車が屋敷をたってから随分たつ。
 鋭い日差しをうけて青々と揺れる雑草のなかに、麦わら帽子を被ったアグライアがいた。
 といっても、手には土にまみれた軍手をはめ、作業着に身を包んでの姿である。彼女本来の鮮やかな美しさは随分と隠れてしまっていた。
 首にかけたタオルで汗をぬぐい、籠にむしった雑草を放り込んでいく。
「夏場の雑草は本当すぐこうなるから、気が抜けません」
 ノージィ氏の庭は貴族らしくというべきか、手入れが大変な代わりにとても美しく栄える植物が多く植えられ、土にも栄養が行き渡っていた。
 そんな場所なので雑草の生え具合も大変なものだ。
 アグライアは剣を手に草という草を華麗に刈り取っていくさまを想像したが、すぐに首を振って雑念を払った。
「雑草は根から抜く、でしたね」
 楽をすればしたぶんだけ見抜かれる。カサドラ氏来訪の際に『ノージィ領が弱っている』なんて思われれば大変だ。幻想貴族のえげつなさは慣用句にすらなっている。
 アグライアは気合いを入れなおして、草の根を抜く道具を手に取った。
 と、そこへ。
「わあっ、綺麗になったね!」
 洗濯籠を抱えたフェスタがやってきた。
「……じゃなかった。なりましたね?」
「無理して丁寧な口調にしなくていいんですよ?」
「そ、そうかな。メイドっぽくなくなっちゃうんじゃ」
 フェスタは形から入りたいのか、カチュウさんのまねをして背筋を伸ばしてみせた。
「お洗濯は進んでますか?」
「うん、もうばっちり!」
 籠いっぱいの洗濯物を小さく上げて見せるフェスタ。これから外にまとめて干す予定らしい。
「この世界って洗剤入れてピッてやる洗濯機ないから、洗濯板で根性出すしかないと思ってたんだけど……あるところにはあるんだねー」
 ノージィ氏の屋敷には、電気じゃないなんかの力で動いてる大きな洗濯機械があった。電子の機微が分からぬフェスタにはにたよーなもんだが、作業が楽ちんで助かった。洗い物もノージィ氏とカチュウさん二人のものだけだったので、全面的に楽である。
 余談だが、ノージィ氏が『メイドたちが楽になるし』と練達の商人からホイホイ買っちゃった品らしい。
「後でサンドイッチ作るんだ。差し入れに持ってくるね!」
 フェスタはぱたぱたと手を振って、日当たりのよい裏庭へと歩いて行った。

 布をはたく音と、白いシーツが照り返す日の光。
 窓からそんな風景を見ながら、アンジェリーナは手早くベッドメイキングをこなしていた。
「こう見えてもちゃんと本職のメイドですので、どこのお手伝いでもきちんとこなしてみせますわ」
 手際を褒められてこんな風に語るアンジェリーナ。
「それでは、ここは任せますね。私は表を見てきますので」
 カチュウさんもプロがいるなら後は大丈夫だろうとアンジェリーナに部屋を任せて出て行った。
 入れ替わりにモップを持ったリオがやってくる。
「この部屋はいちだんと広いんですね……」
「主人の寝室ですからね」
 リオはきょろきょろとして、あちこちに飾られた高そうな壺だか鏡だかにおそるおそる近づいた。
「軽くはたきをかけるだけで大丈夫ですよ。ホコリを落として、床を磨いてしまいましょう」
「わかりましたっ!」
 壺を割ったら大変だ、とぷるぷるしつつ、リオは掃除籠からちいさな布のはたきを取り出した。

 リオが廊下やら玄関やらのお掃除を終えた頃、薪をとってくるように言われ裏庭へとやってきた。
「おや。お掃除はもういいのですか?」
 斧を担いで謎のポーズをとるエリザベス。
「薪をとってくるようにって……でも」
 リオが薪のはいった小屋のほうを見ると、まんまるくて大きな状態のまま積み上げられていた。
「そういうことならお任せください。今割ってしまいますからね」
 エリザベスは薪用の木材を丸太の上に置くと、さっきまで担いでいた斧を振り上げた。
「ところで」
 真顔のまま、振り上げたまま振り向くエリザベス。
「メイド文化には『おいしくなーれ』という呪文があるとか」
「え、そうなんですか?」
「これも様式美――もえやすくなーれ!」
 薪に斧を振り下ろし、キリッとした顔をした。
「ふむ。悪くない……ですが頃がイマイチですね。ハッ、そうです、きっとこのときのための台詞!」
 天恵を受けたように目を開くと、新しい木材を丸太に乗せた。
「もーえもーえきゅん!」
 振り下ろす斧。割れる薪。感想を求めて振り返るエリザベス。
 リオは『なんか違う』とは思ったが、黙って首だけ降っておくことにした。

「皆さん、経験を補ってしっかりこなしているようですね」
 広いキッチンに入った沙織は、腕まくりをして食材を並べていった。
 遠い土地の果物や入手の難しい魚や野菜。レンジーたちが若干危険な橋を渡りつつ買い付けてきた贅沢品の数々だ。
 サーカスの動乱が及ぶ中、これだけの食材を揃えるのは難しかったろう。
「これだけあれば、充分な料理が作れそうですね」
「沙織さんはお料理の心得が?」
 カチュウが運び込んだ食材の点検を済ませると、沙織は『もちろん』とでも言うように包丁と野菜を手に取った。
 一通りのことができるという意味では、沙織はカチュウと同じような能力を持っていた。野球の助っ人に他チームのエースプレイヤーがやってきたようなものだ。
「心強いですね。ここは任せても?」
「いいですよ。しっかり仕上げて見せます――旦那様やお客様に喜んで貰えるように、愛情を込めて」

 アンジェリーナや沙織は言うに及ばず、様式こそ違えどプロ並のメイド技術をもったメートヒェンや華蓮たちはたまった雑務をてきぱきとこなし、いよいよカサドラ氏への対応に取りかかることになった。
「ふむふむ……消耗品も一通りそろっていますねっ!」
 手帳を開いてあちこちを確認し終えた華蓮が、改めて食堂へとやってきた。
 リオたちが念には念を入れてといった具合に隅々まで掃除をしている。
 貴族を一人迎えるくらい、わけのない体勢は整ったといえるだろう。
 中指で眼鏡の位置を直すカチュウさん。
「皆さんのおかげで助かりました。むしろ、必要以上にこなしてくださいましたね」
「まだまだお仕事は終わってないのだわっ!」
 この後は隣領貴族のカサドラ氏が尋ねてくる。
 カサドラ氏はフィッツバルディ派の貴族で上昇志向が強いらしい――と華蓮の手帳には書いてある。
 今はサーカス狩りに忙しい筈の彼女がノージィ氏を尋ねてくる。まさか顔を見たいだけなんてことはあるまい。隙を見せればつけ込まれると思った方が良さそうだ。
「皆の様子を改めて見てくるのだわっ!」
 華蓮がはねるように食堂を出て行く。
 入れ替わりに沙織やメートヒェンが食堂へとやってきた。
「カサドラ氏をお迎えするための御食事と、お茶とお菓子だ。いつでも出せるようにしてあるから、一度見て貰えるかな」
 メートヒェンが出してきたのは純正まんじゅうひよこ。幻想でお土産として愛される品だが、一ランク上のプレミアム版である。
「無難にクッキーやスコーンを焼くのも考えたけど、良いものを仕入れてくれたからね。ここぞとばかりに使ってみてはどうだろう」
 そう言いながら出してきたお茶は見事なものだった。
 茶葉の良さもさることながら、適切な温度と手順で抽出し、プロが唸る腕前だった。
「素晴らしいですね。私はノージィ様のおそばにつきますから――カサドラ氏の対応をお任せしても?」
「流石に少し緊張するね」
 けど、任されたよ。メートヒェンは穏やかに笑って見せた。

 やがて、約束の時はきて――。
「「「ノージィ邸へ、ようこそ」」」
 馬車を降りたカサドラ氏。
 ずらりと並ぶ個性豊かなメイドたちの姿に、一度目をぱちくりとしたあとノージィの顔を見た。
「私が探った限りでは、メイドは殆ど出払ってる筈ではなくて?」
「ははは、隠し球ってところかな」
 諜報活動を隠しもしないカサドラ氏に笑って返すノージィ氏。
 それから暫く、カサドラ氏はメイドたちの作法を値踏みするように観察したり、庭や屋敷の廊下を鷹のような目で見て回ったりとどこか忙しそうにしていたが……。
 メートヒェンたちプロメイドもさることながら、礼儀作法に通じたサブリナやリオやアグライアといった面々の振るまいは見事なもので、所詮助っ人と粗を探していたサブリナも冷や汗を流し扇子で口を隠す始末である。
「やるわね。いいメイドたちだわ」
「ありがとう。もう少し楽しんでいくだろう?」
 ノージィ氏は家族を褒められたといった風な笑みで、食堂へと案内した。
 美味しそうな料理やお茶が運ばれてくる。
 素敵な時間は、まだまだ暫く続くだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お帰りなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 皆様の活躍でノージィ氏の面目は保たれ、同時に善き領民たちも守られました。
 当初想定していた以上に素晴らしい働きをしてくれたということで、ノージィ氏からボーナスが出ております。報酬のゴールドをご確認くださいませ。

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