シナリオ詳細
<ヴィーグリーズ会戦>全ては我の手の内に
オープニング
●
幻想中部にある『ヴィーグリーズの丘』。
その周囲へと続々と様々な部隊が集まる。
例えば、大奴隷市なる催しに便乗して幻想へとやってきた奴隷商人。
幻想が国上げて行った『勇者総選挙』に便乗して私欲を満たそうとする偽勇者達。
様々な理由で集められたモンスターの群れ。
それらは主に、とある者達が扇動し、あるいは直接率いられている。
丘を臨むウーミド湿原に夕日が差し、周囲は暮れなずむ。
ぴしゃ、ぴしゃ、ぴしゃぴしゃ……。
水を跳ねながらやってきた1台の馬車。
停車した車両部から降りてきたのは、シルクハットを被り、燕尾服を纏った中年男性だった。
「まさか、私が直々に出張ることになろうとはな」
明らかに不快感をにじませたその男は、幻想においてミーミルンド派に属する貴族である。
彼は足場が少しぬかるんでいるのにも眉を潜めながらも、前方に揃う集団に小さく声を漏らす。
「おぉ」
そこには、鳥獣に死霊、巨人を従えた悪徳商人があった。
「イェルド卿、お待ちしておりました……」
その目からは光が失われており、もはや自らの思考を持たぬことが窺える。すでにイェルドの操り人形と化した哀れな者達だ。
イェルド本人はそれらの態度に少しは気を良くしたらしい。
「おぉ、今日は存分に力を振るってもらうぞ」
イェルドはこの場に、同じ派閥であるミーミルンド派の者達が集っているという。
現状の幻想王国に不満を持つ彼らは、ミーミルンド男爵に好感を抱き、あるいは自らの野心を膨れ上がらせるなどそれぞれの目的でこの場にいる。
イェルドの目的は後者だ。
「ここで成果を出せば、私はより強大な力を得ることができる……」
小さな笑いが零れるイェルドから解き放たれる強き力。全てを得ようとする彼はもはや人間を辞めてしまっているらしい。
それに……と、イェルドは頭上を仰ぐと、商人の1人が手なずけた巨人の姿があった。
身長5mもある緑色の肌を持つ単眼の巨人サイクロプス。
そいつは巨獣をもあっさり殴り倒せそうな巨大な棍棒を手にしていた。
「巨人の力があれば、騎士団もローレットもおそるるに足りん」
歪んだ笑顔を浮かべるイェルドは自らの下につく商人や魔物達へと告げる。
「ゆくぞ。愚かしい三大貴族の犬どもをねじ伏せてやるのだ……!」
「「オオオオォォォォ!!」」
活気づく自らの部下に、イェルドは機嫌を良くしたようだった。
●
幻想、ローレット。
このところ幻想で起こっている事件……魔物の大量発生にレガリア盗難、奴隷市、イレギュラーズの領地襲撃。
いずれも、幻想貴族ミーミルンドの差し金であったことが判明した。
「悪徳貴族は幻想王国に大きなダメージを与え、王権簒奪を目論んでいた様ですね」
アクアベル・カルローネ(p3n000045)は神妙な面持ちで、集まるイレギュラーズ達へと状況を説明する。
ミーミルンド派に属する貴族らは現在、ヴィーグリーズの丘周辺を中心に決起し、幻想王国の騎士団やイレギュラーズを迎え撃とうと戦力を固めているようなのだ。
「これまで、表に出てこなかった者達まで動きを見せており、一網打尽にするチャンスです」
ただ、悪徳貴族もなりふり構わずこの戦いに身を乗り出している。この戦いにはそれだけのものを賭ける必要があると判断していたのだろう。
さて、アクアベルが依頼したいのは、イェルドなる悪徳貴族の率いる集団の掃討。最大の目的は魔種となったイェルド本人の討伐だ。
「悪徳商人を幻想へと呼び込んで奴隷売買を行い、さらにいくつか皆さんの領地を襲わせたと思われる形跡があります」
このイェルドは我欲を満たすべくミーミルンド派の決起に加わったようで、これまで自身が裏から手を回した死霊や鳥獣を集め、己の力の一部を宿した悪徳商人に操らせているらしい。
それだけではない。イェルドの手勢の中には巨人の姿もある。
「巨人もまた悪徳商人の意のままに動くようです。その巨体から繰り出される破壊力はすさまじいの一言につきます」
その軍勢を相手に、イレギュラーズも1チームで相手にするのはかなり苦しい状況ではあるが、やるしかない。
「ですが、現地に向かえば、思いもよらぬ援軍が皆さんを助けてくれるはずです」
弱いながらも、予知の力を持つアクアベルの言葉もあり、イレギュラーズは準備を整えて現地へと急行するのである。
●
ウーミド湿原へとたどり着いたイレギュラーズ一行。
彼らは目の前で待つイェルドの軍勢が数十の規模であり、どうしたものかと作戦を練る。
倒すべきは当然魔種イェルド。
しかしながら、そいつと交戦する為にはに、悪徳商人が率いる軍勢は避けられない。
頭を悩ませる彼らの後方からやってきたのは……。
「『Eir自警団』、救援に参りました!!」
まず、アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)の領地『Eir』に住む若者達で編成された自警団10名。彼らは気合十分に湿原を駆けてくる。
その傍には、倍の人数でバリスタを運んでくる者達の姿が。
どうやら、領地の木々を使い、組み立てたものらしい。
「蒼秘で汗水たらす俺達の力、今こそ見せてやるぜ!」
「おお!!」
加えて、労働者達はスリングショットを用意しており、それで敵を狙い撃つ構えのようだ。
さらに、駆けつけたのは、美しい幻想種の一団。
「今こそ、子供達を助けていただいた恩に報いるときです」
彼らがわざわざ遠い深緑の地からやってきたのは、奴隷商人に連れ去られた子供達を助けてくれたイレギュラーズを助ける為。
しかも、相手が奴隷商人と関わった悪党であれば、幻想種達の戦意も嫌が応にも高まろうというものだ。
幻想種の編成は精霊術や人形使い、ルーン使いなど。
前線に呼び出した精霊や泥人形等で戦線を持たせ、ルーン魔法で敵を攻撃するといった戦法で戦ってくれるとのことだ。
これだけの救援があれば、イレギュラーズとしてもかなり戦いやすくなる。
各部隊を率いる悪徳商人を倒せば部隊は壊滅し、救援メンバーで掃討はできそうだ。
後は、魔種イェルドとの直接対決に臨むことができれば……。
「ふん、こざかしい奴らめ。……行け、我が軍勢よ!!」
鼻を鳴らすイェルドが自らの軍勢へと命令を出したことで、夕暮れの中、湿原での戦いが始まったのだった。
- <ヴィーグリーズ会戦>全ては我の手の内にLv:15以上完了
- GM名なちゅい
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年07月06日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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ヴィーグリーズの丘。
夕日を浴びながら、幻想に巣食っていた悪徳貴族、奴隷商人に多くのモンスターが続々と集まっていく。
巨人の姿もちらほらと見受けられることもあり、様々な者の思惑が絡み合っているのが窺えた。
そいつらの目的は、幻想という国の転覆。
自分達で王権を勝ち取り、この幻想という国を乗っ取ろうとすら考えているのだろう。
その中の1人に、これまでイレギュラーズの解決していた事件の幾つかの主犯だった人物がいる。
「あいつらが例の奴隷事件の親玉達なんだって!」
純度100%の森ガールである『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)は前方を指し示して仲間達に見るよう促す。
丘を臨むウーミド湿原。時期もあって足元が若干ぬかるむ地面に立っていた悪徳貴族『傲慢』のイェルドである。
「ここで成果を出せば、私はより強大な力を得ることができる……」
その笑みはあまりにも醜悪。この中年男性はもはや権力にしか目がないようだ。
「現世でも貴族の腐敗、ね……経験はしてきたけど嫌なものよ」
傍らに戦乙女の魂を宿す吸血鬼、『Red Like Roses』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)が依然いた異界もそうだったらしいが、この混沌においても同じ状況を目の当たりにして溜息をつかずにはいられない。
「貴族やら商人が腐れているのはいつもの事過ぎて、なんとも思わないでごぜーますね」
飄々とした態度をした糸目の放浪者、『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)は達観した物言いで隊を率いる悪徳貴族について語る。
「我欲を滾らすは人の在り方ですが、一線を越えては人でなしでしかない」
男の死体をベースに頭部がモニタとスピーカーを供えた匣となった『激情のエラー』ボディ・ダクレ(p3p008384)は、イェルドが人を辞めた存在であることを指摘する。
実際、相手は『傲慢』の魔種となり果てている。己を弁えず、過ぎた権力を求めるだけの醜い存在でしかない。
「アレを放っておいたら、きっとまた何処かの誰かが悲しい思いをすると思うの」
クルルが呼びかけていたのは、10数人の幻想種の集団。
彼らはわざわざ深緑の森林の奥深くからこの場へと馳せ参じていた。
「だから皆、力を貸してね。『あの子達』みたいな目に遭う人を一人でも無くす為に!」
「当然です」
「よくも、私の子供を……許すわけにはいきません」
「新たな被害を防ぐべく、力になりましょう」
この幻想の状況を受け、奴隷とされた子供達を助けてくれた恩義を返す為。彼らはクルルの呼びかけにも力強く頷く。
「おんやまあ、前回のわっちの領地の時と言い、今回と言い……。阿呆なんでごぜーますかね? 貴方達は……」
エマは自分の領地である蒼秘地区、蒼秘湖の畔にある廃墟に住み着いた労働者達がこんなところにまで出張ってと呆れ果ててしまう。
しかも、以前の襲撃から学んだのか、スリングショットやバリスタなどといった遠距離武器を作成しており、それをこの戦場にまで持ち込んできている。
「命が危ない事ぐらいわかっているでありんしょうに」
エマは如何に危険な場所に身を置いているかを説くが。
「もちろんでさあ」
「ここで踏ん張らねば、俺らの仕事にも響くってもんだ」
ここでこの悪徳貴族を野放しにすれば、またいつ領地を襲われるかわからない。まして、彼らが権力を手中に収めれば、治安の悪化だけでなく、重税を課せられたり、最悪退去を要求されかねない。
労働者らが馳せ参じたのは、自分達の生活を守る為。労働者らも命の危険があれども、今回の事態は国の在り方を揺るがしかねぬ事態とあって、命を駆けねばならぬと判断したようだ。
「仕方ないでごぜーますね」
エマもこれ以上の説得は無駄だと感じたようで、小さく首を振って。
「貴方達の命を最優先に行動するんでごぜーますよ?」
「「任せておくんなせえ!!」」
その威勢の良さは守るべき領民であるはずだが、頼もしさも感じるエマである。
「私達だけの戦ではない、幻想の未来も掛かっている」
アリシアはスピーカーボムも使いつつ、自身の領地『Eir』の自警団を中心に声をかけていた。
それを一緒になって聞いていた『傍らへ共に』アイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159)は、ん~と唸って。
「貴族絡みの依頼なんて私にとってはどうでも良いんだけど~、領地荒らされたりしたら嫌だしな~」
アリシア、エマと領地を守らねばならないと奮起するメンバーがいる。それもあって、アイリスもちょっと頑張ろうかな~とやる気を出していた。
「だが……、それと同じ位大切なのは此処に居る皆が1人も欠けず勝つ事。全員でこの戦を制すわ!!」
「「おおおおおお!!」」
アリシアの呼びかけも締めに入り、皆決起の声を上げる。
「意思の輝きも何もあったものではごぜーませんし、日常に埋もれた輝きになど興味はごぜーません。さっさと壊してしまいんしょう」
今後また同じことを起こされてもたまったものではごぜーませんからねえと、エマはいつもの調子で語り掛ける。領地襲撃、人身売買など、この場の誰もがこれ以上繰り返させはしないと気合十分だ。
「力を持たない人たちのために戦うことはもちろん大切。でも、みんなの家族や友達は、みんなが帰ってくるのを待ってる」
さらに、小柄なロボ魔法少女、『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)が周囲へと呼びかけると、自軍メンバー達が注目する。
「だから、勝ってみんなで生きて帰ろう。明日おいしいご飯を食べるために」
オニキスの言葉に銘々が頷く中、ボディが周囲にいる者達へと声をかける。
「ここに立ったのならば、貴方もまた英雄です。たとえ無名だとしても」
近場にいたのは、『Eir』自警団や幻想種のグループ。なお、蒼秘地区住民は後方射撃に徹すべく、すでに距離をとってバリスタの固定や陣形の整えに当たっていた。
名前すら知らない協力者達に響く声も、心震わす言葉もありはしないとボディは自認しているのだが。
「……だから生きて戦い抜きましょう。必ず、生きて」
「「はい!」」」
人でないボディではあるが、その言葉は協力者達の心にしっかりと響いていたようだった。
「では行きましょう、守るためにも撃滅です」
ボディの一言で、隊を率いるイレギュラーズはイェルドの率いる部隊へと距離を詰めていく。
「ゆくぞ。愚かしい三大貴族の犬どもをねじ伏せてやるのだ……!」
「「オオオオォォォォ!!」」
イェルドの陣営も気合十分。種族の違うモンスターの叫びが合わさり、一層不気味な雄叫びが湿地に広がり、地面に溜まる水溜まりの水面を揺らす。
そこに、ローレットの軍勢もまた近づいて。
「カード『勇者』インストール! 魔法勇騎セララ参上!」
赤いうさ耳リボンが特徴的な『魔法勇騎』セララ(p3p000273)が高らかに名乗りを上げれば、イェルドも「来たか」と言葉を漏らして。
「来おったな、ギルドという名の犬が……」
ローレットは依頼人の要望に沿って動く何でも屋であるはずだが、彼にとっては所属するイレギュラーズは現状の幻想の支配層に飼い馴らされた者達という認識なのだろう。
相手がどうイレギュラーズに感じていようが、メンバー達にとってイェルドら悪徳貴族は倒すべき敵であるのが共通認識なのは違いない。
「引き際を誤ったわね」
長い薄紫の髪を靡かせ、『騎戦の勇者』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)がその敵へと言い放ったが、イェルドはフンと鼻を鳴らす。
「違うな。今こそ我らにとって好機。私は全てを手に入れる。富も名声も、権力までもな……!」
それに、今度はイーリンがやれやれと嘆息して。
「私腹を肥やすのなら、もう少し遠巻きから見ていればよかったでしょうに
その腹の油、燃えるわよ」
――神がそれを望まれる。
身構えるローレット勢に領地民や幻想種達。
対するモンスターらも臨戦態勢に入っており、瞳を煌めかせ、汚らしい叫び声を上げる。
「ほざけ。貴様らのその体、骨の髄まで貪り喰らってやろう」
仮に死んでも、イェルドはアンデッドまで従えることができる。まさに彼はイレギュラーズ陣営の心身全てを利用する気なのだろう。
「私欲のために人々を傷つける悪いやつ」
オニキスは接地アンカーを射出し、砲撃形態へと移行しながら告げる。
「野望はここで終わり。覚悟してもらうよ」
「幻想の平和はボク達が守る!」
バレルを展開するオニキスの傍、セララは聖剣を携えて敵陣へと切り込んでいくのである。
●
おおおおおおおおおおおお!!
夕暮れの湿地に響く雄叫び。それは、幻想の未来を位置づける戦いの始まりの合図となる。
さて、イェルド陣営の編成は大きく3小隊に分かれる。
いずれも小隊長格となっているのは奴隷商人だが、魔種となったイェルドの発する呼び声の影響を濃く受けており、やや自我を失いつつあるようだ。
1人目はマミー、グール、レイスといったアンデッド集団を率いる。不死集団は30体ほど。耐性が異なる点に加えて状態異常と合わせて体力気力にダメージを与えてくる厄介な連中である。
「マミーは神秘、レイスは物理が効きづらい敵です」
「食人鬼グールは毒や痺れにご注意を!」
『Eir』自警団にとっては因縁のあるアンデッド集団。彼らは対処法も得手おり、それを皆に伝達していたようだ。
2人目は鳥獣の群れを率いる。群れの8割を占める赤い鳥カーマインビークは鋭いくちばしで獲物の体を貫き、残りの錯乱の鹿は怪しいステップを踏んでこちらの思考を乱してくる。
「まさか、また同じモンスターを相手取るとは思いもしなかったでごぜーますね?」
以前、自身の領地が襲撃された際、対した敵と同じだと、エマは多少なりとも驚いていた。同時に、その首謀者も同じだという証左にもなっていると彼女は考えていたようだ。
そして、3人目はたった1体のみを率いるが、それが一つ目の巨人サイクロプスというから驚きだ。巨大な棍棒を手にするそいつは力任せに叩き付けて敵対する者を叩き潰さんとしてくることだろう。
イェルドは動かず、奴隷商人の率いる小隊が一斉に攻めてくる。
対するローレット勢。
先程砲撃形態へと移行していたオニキスが、敵陣へと照準を定めて。
「8.8cm大口径魔力砲マジカル☆アハトアハト、発射(フォイア)!」
オニキスのバレルから発射された砲弾は丁度アンデッドとモンスターの部隊中央に着弾する。神秘攻撃に耐性の薄いレイスを中心に、グールも併せてその爆炎、爆風に飲まれていた。
「くくく、私の力を見よ!」
笑うイェルドが呼び寄せるさらなる集団。
一時的ではあったが、地響きを立てて現れる商人の群れはおぞましさを感じさせる。
金の為なら何をしようと厭わない連中の幻影。それらはこの場の人々全てを利用しようと君の悪い笑い声を上げて戦場にいる者を蹂躙せんと暴れようとする。
「くくく……」
魔種となったイェルドは圧倒的な力を見せつけ、加えて原罪の呼び声によって敵対するローレット陣営をも狂わせようとしてくる。
「皆、気を強く持って!」
それに対し、セララが大声で自軍メンバーへと叫び、呼び声に対する力を皆に与えようとする。
「呼び声なんかに負ける理由は無いよ。だってこの場にいる皆は勇者なんだから! さあ、行くよ皆!」
先程、ボディも協力者達を英雄と称したが、セララもまた勇気ある者なのだと説き、皆を奮い立たせる。
そして、セララとアリシアはこのウーミド湿原で最も目を引く巨人サイクロプスの抑えに回っていく。
オオオオォォォォ!!
その巨体から発せられる野太い声は湿原の空気を震わせ、さらにものすごい勢いで巨大な棍棒が空中で薙ぎ払われる。
直撃を喰らわぬよう立ち回りつつ、セララは頭上に呼び寄せた雷雲から雷を聖剣の刃へと落とし……、サイクロプスの巨体へと振り下ろす。
刹那、駆け巡る雷光。巨人の体に稲光が走るが、相手はさほど気にする素振りもなく2撃目をと棍棒を振り下ろしてきた。
そのセララのカバーにアリシアが当たり、細剣「ノクターナルミザレア」に紫電を纏わせて一閃し、巨人を牽制する。
「さあ、お前の力を見せてやれ」
奴隷商人は下卑た笑いを浮かべて指示を出すのみ。自分が出るまでもないと考えているのだろう。
相手が舐めた態度をとるなら、イレギュラーズは自軍の戦意を高めてできるだけ有利に立ち回るのみ。
「前に出すぎないように。皆で協力して戦うのよ」
アリシアも指揮を高めるべく、協力者達への呼びかけを怠らない。気を抜けば呼び声が自軍を侵食してくる。それによって戦意が低下するのは避けたい。
「幻想の興廃この一戦にあり!」
全体の指揮は漆黒の牝馬に跨るイーリンが担う。
彼女は旗印となる『見果てぬ先に』に神秘攻撃特化の支援強化を籠め、周囲にいる仲間や協力者達に呼びかける。
「勝者が正しいのであれば、其れは我らである!」
「「うおおおおおおおお!!」」
幻想の危機における戦い。イーリンは戦略眼をもって戦場を見通し、広範囲に響く声で自軍メンバーを統率する。
「敵に的を絞らせるな! 徹底的に面で攻撃しなさい!」
大声で方針を一喝するイーリン。『Eir』自警団メンバーはともかく、あまり争いごとには慣れぬ幻想種達や労働者らには指針があるのはありがたいところ。
「肉薄する者はとどめを確実にさせ! 貴方達が立つ時間が長いほど私達に勝機が生まれると! 腹を括りなさい!」
勇ましくも優しいイーリンの言葉は、戦う自軍メンバーに力を与える。
それぞれ、敵集団と協力者達がぶつかり始め、交戦が始まる。
イレギュラーズとしては、小隊を率いる奴隷商人やイェルド叩きたいところだが、敵の数が多すぎて直接狙うのは難しい。
この為、協力者らと共に敵軍の数を減らすことが最初の作戦となる。
「戦い終わったら美味しいもの食べたいね~。だから、頑張ろ~、お~」
敵集団と交戦し始めたアイリスは近場で前線に立つ『Eir』自警団、少し後ろに立つ幻想種らにのぼぼんとしながら告げる。
自警団は比較的淡々とした連携プレイを見せる。
「たあああ!」
「すまん、思考が……回復頼む」
「はい! これで大丈夫!」
普段とは違って大勢での共闘なれど、10名は近接、遠距離、支援と自分達の陣形を保って鹿や鳥と交戦していた。
「生き残る為にも頑張ろうね~。目の前をしっかり集中していこ~」
そうして声がけするアイリス個人はヒット&アウェイで動き回り、アンデッドやモンスターの集団へと速力を生かして突撃し、蹴りかかっていく。
戦いが長引くのは必至。それもあって、アイリスは序盤のタイミングは気力を使わずに攻撃を続ける。
しかしながら、弱った敵を見つければ、アイリスは彗星の如くそいつ目掛けて飛び掛かる。カーマインビークの体を貫き、水溜まりへと落としていた。
それらモンスターを、後方に位置取る蒼秘部隊と共にエマが攻撃を仕掛ける。
「貴方達の馬鹿な輝き、私が無駄に散らせはしない」
自身の領地に対し、さほどこだわりを持ってはいなかったはずのエマ。
そもそも、彼女は仮住まいする場所を得る為にとある廃墟を預かっただけだった。
ただ、いつしか廃墟は湖や林で働く人々が寝床として利用されるようになり、たまに帰るエマも呆れながらもそれを放任していたのだが……。
先日の領地襲撃時、エマも彼らを守るべく戦った。
労働者達もその恩に報いようと、この決起に参加してくれていたのだ。
「貴方達のような馬鹿者がいるからこそ、私達イレギュラーズは戦える! 貴方達を守れる!」
基本、冷めたように人を見ているエマだが、その輝かしい意志は自身のものとして見なし、それを叶えようとすら感じて。
「胸を張りなさい! そして安心して戦いなさい! そして、引き際を間違えるな! 返事は!?」
「「おおっ!!」」
蒼秘地区の労働者達が大声で吠える。
戦闘に長けているわけではない彼らだが、体力作業に従事している彼らは接近戦ですぐ倒れはしないと考えている。
ただ、それは最後の手段。自分達の居場所を守るには、敵を領地に入れぬようにすべきと彼らは考え、自衛の為の手段をこうした射撃武器に求めたのだ。
「撃てえええ!」
一斉にスリングショットから放たれる岩石、そして、バリスタから撃ち出される大型の矢。
それらは前方へと飛来していたカーマインビークの体へと命中し、強く体や翼を打ち付け、あるいは穿つ。
敵も一撃で落ちるほどやわではないが、2、3発と攻撃を重ねればさすがに落下して動かなくなっていく。
エマもこの朱鳥は最優先に撃破すべきだと考え、仲間を巻き込まぬ位置まで移動してから殺傷の霧を展開して敵陣へと解き放つ。
ピーヒョロロロロロ……。
キエエエエエエェェェェ……!
鳶のような鳴き声を上げるカーマインビークに合わせ、錯乱の鹿も狂ったような頭を振り回して鳴き叫ぶ。
痛みに苦しむモンスターらは死に物狂いで特攻してくる。下手にぶつかれば一般民である協力者達は一溜まりもないだろう。
「幻想種スピリット! 的な団結力で、怪物達をやっつけよう~!」
そこで、クルルが意気揚々と短弓で矢を射かけていくと、幻想種の人々も得意とする術で向かい来る敵を迎撃する。
その術は一種類ではない。精霊を操るのが得意な者もいれば、空中に刻んだルーンを起点に発動させる術を得手とする者もいる。
また、人形遣いと主張する者も、小型の人形だけかと思いきや、土塊をゴーレムとして呼び出すものまでおり、その力量は決して侮れない。
「皆、ありがとう」
そんな協力者を頼もしく感じるクルルは仲間と同様、強敵との相手を見据えて気力を温存しながら戦いを進めるが、鳥や鹿が纏まっている状況であれば、惜しげもなく泣き叫ぶマンドレイクを投げ込む。
アアアアアアアアアアアアアア!!
耳をつんざくようなマンドレイクの叫びに、モンスターらは身を竦め、敵によっては神経がマヒして動けなくなる個体も出始めていたようだ。
クルルの作った隙をボディがつき、錯乱の鹿目掛けて駆け抜け、すれ違いざまに手にする鉈で切り裂いていく。
何せ、鹿はこちらのメンバーを惑わす。仲間のイレギュラーズはともかく、協力者達が惑わされては非常に厄介なことになる。
また、ボディはアンデッド部隊の方にも攻撃を仕掛ける。とりわけ、彼が目をつけていたのは、神秘攻撃に耐性を持つマミーだ。
逆に言えば、物理攻撃は効く相手。ならばこそ、ボディの相手にはうってつけだ。
マミーが包帯を伸ばそうとすれば、ボディはその間に入って身を盾にする。
「死者は頑丈ですので問題はありません。死なせませんよ、生者は」
死体同士の対決であれど、匣に人工知能が内蔵されたボディの方に分があったようである。
●
戦況は徐々に、ローレット陣営がイェルド陣営を押している。
「布陣を整えるわ。協力しなさい」
侵攻を進める間、イーリンはイレギュラーズが囲まれぬように協力者達に翼端を作らせていた。
現状、こちらの被害は大きくない一方で、敵は徐々にその数を減らしてきている。
「フン、思った以上にやるようだが……」
この事態を見たイェルドは鼻を鳴らす。
「だが、我が物になれば、さぞ優秀な手駒として働いてくれることだろうな」
自らの敗北など全く想定にないイェルドは、奴隷商人らに目配せし、自身も新たな群れを呼び寄せるべく言葉を紡ぐ。
やむなく、拳銃での応戦を始める奴隷商人達。まだ隠し玉があるようだが、牽制を行うべく銃弾を放つ。
パン、パンパン!
拳銃を発砲させる奴隷商人。その腕も一般人レベルのものだが、小隊を率いる力があるはず。必ず隠し玉があるはずだ。
なお、イェルドはもはや人ならざる力を隠してはいない。
今度は一時的に鳥獣の群れを呼び起こし、ローレット陣営を痛めつけようとしてくる。
「ボク達が立ち上がるのは背負うものがあるから。剣を振るうのは守りたいものを守るため!」
セララは協力者達が負けぬようにと戦いの間鼓舞する。
「イレギュラーズだけが勇者じゃないんだよ。この場にいる皆が幻想という国を、そこに住む人々を守る勇者なんだ!」
呼び声に抵抗する力を与えるには十分だが、それでもイェルドをこれ以上自由にさせるわけにはいかぬと、セララは巨人の抑えをアリシアに託して自ら当たることに。
相手の属性は傲慢。相手はこちらを見下しているのは間違いないとセララは事前から確信していて。
「偉そうに振る舞うのは自分に自信が無いからかな?」
「フン、偉そうじゃなくて偉いのだ」
己の立場を勘違いしたイェルドは、自身が正しいと疑わず、全てを支配できると本気で考えている。それだけの力を持ってしまったが故の傲慢だろう。
敵の数は減っているが、イレギュラーズの戦いはここからが本番といったところ。
前衛に出るアイリスは単騎で巨人を抑えることとなり、剛腕から繰り出される棍棒の殴打を一身に受け止めつつ、自軍メンバーへと呼びかける。
「いいわ、このままいくのよ!」
傍にいる協力者を鼓舞し、イーリンはレイス、グールの撃破を進めるべく背に生み出す光翼を羽ばたかせる。
それは舞い踊る光刃で敵陣を切り刻むと共に、多少の味方の傷を癒やしてくれる攻防一体の技。
敵陣が崩れかけると同時に、こちらは態勢を立て直せる一石二鳥のスキルだ。
少なからずその恩恵を受けるオニキスは、数発魔力弾を撃った後は「天穿つアーカーシャ」で矢を射かけ、残る錯乱の鹿やアンデッドを個別に射貫いていた。
錯乱の鹿が全て崩れ落ち、カーマインビークも半数あまりが落ちている。そちらの残りをエマや彼女の領地、蒼秘地区の労働者が撃ち落とす。
多少残る分はエマが後詰めして再度ロベリアの花で霧を展開し、残る鳥を仕留める。協力者らだけで交戦できるようになるのも時間の問題だろう。
「アンデッド部隊に照準を合わせ!」
こちらは幻想種達。彼らはまだ勢力の残るアンデッド集団へとゴーレムでっ守りを固める後ろから、現れた聖なる精霊が敵へと飛んでいき、敵陣に眩い光を放つ。加えて、頭上に現れた魔方陣より光の雨がアンデッド集団に降り注ぐ。
穏やかな暮らしを好む幻想種達だが、隠れた地域にはこうした人々は多数住んでいるのだろうか。
その光に焼かれて、レイスやグールが姿を消していく。
マミーは包帯に編み込まれた霊力もあって神秘攻撃に対する防御力が高かったようだが、ボディが彗星の如く攻撃を仕掛けて相手を呆けさせる。その隙に仲間や協力者らがマミーを仕留めてくれていた。
ただ、皆に全く傷がないわけではない。
前に出る自警団や幻想種達は少なからずダメージを受けており、ボディは人助けセンサーで彼らのピンチを察してカバーにも当たり続けていた。
「おおぉおおおおぉおぉおおお!!」
そこで、アンデッドを率いていた男が吠える。
見る見るうちにその体が朽ちていくそいつは下半身が幽体となり、上半身を包む包帯を伸ばし、さらに鋭い牙を鈍く光らせる。
一時的にその力を得ることのできるスキルのようだが、呼び声の影響もあり、放置できぬ状態であるのは明らかだ。
「私達がやるから、皆下がってね~」
協力者達に呼びかけたアイリスが異形化した奴隷商人へと強く蹴りかかる。
アイリスの蹴りは大きく敵を蹴り上げてから連打を叩き込むもの。
さらに、攻勢を強めて彼女は無形の術によって、敵の周囲を回りながら様々な型で蹴撃を見舞う。
元のアンデッド達の耐性はバラバラだったが、こいつはそれぞれの長所を取り入れている。ただ、奴隷商人が生身で受けたダメージもかなりのもの。
「ニク、よこせえええ!!」
体力を回復しようとする敵は食人鬼を思わせる言葉を吐き、大きく口を開けて喰らいかかってくる。
しばらくアンデッドと対していたクルルは仲間の攻撃を重ねることを意識し、魔光を叩き込んで相手の動きを大きく乱す。
「こいつも受け取ってね!」
クルルがイレギュラーズの攻撃の合間に飛ばしたのは、甘く蕩けさせる、アルラウネの接吻。
死へと誘う一撃に、奴隷商人は白目をむいて崩れ落ちる。意識を失った彼は元の人間の姿に戻っていた。
これでアンデッド集団はほぼ壊滅。モンスターも大半が撃破されている。
「――悪いんだけど、貴方達を頼らないと勝てないのよ。勇者はね、信じてくれる人たちで成り立つのよ、ね」
そこで、協力者達へと呼びかけ、残る敵を抑え込むよう願うと。
「ええ、任せて」
「ここは私達がやります」
「アンタ達はあいつを、あの貴族とデカブツを……!」
『Eir』自警団に幻想種達、そして後方の蒼秘の労働者が口々にイレギュラーズ達を労ってくれる。
今度はこちらが貰った力をイェルドらにぶつける番。
「いくよ、親玉達に裁きを~!」
クルルは皆の思いを背負い、強敵に向けて短弓に矢を番えるのである。
●
追い込まれてきていたイェルド陣営だが、まだ奥の手を隠し持っている。
「「「お、おおおぉぉ……」」」
モンスターを率いる奴隷商人はその頭に鹿の角と、背に真紅の翼を生やして羽ばたく。錯乱したような顔でイレギュラーズを見定めて鋭いくちばしとなった口を煌めかす。
そして、巨人を率いる商人はその体を大きく膨れ上がらせていた。
「ぐうう、うおおおおおお!!」
巨人ほどではないが、身長3m近くまで大型化したそいつは大声て吠え、どこからか取り出した棍棒で巨人同様に殴り掛かってくる。
ただ、従えていたモンスター共々攻撃を受けていた奴隷商人の息は荒く、最後の力を振り絞ってっ突撃してくる。
そいつを冷静に見定めていたボディは、仲間の攻撃の直後に承認が大きく態勢を乱したところで一気に仕掛ける。
「あの方々を死なせはしません」
一瞬で超新星を思わせる加速を見せたボディは目にも止まらぬ動きで敵の背後へと回り込み、鉈を振り下ろす。
「が、あぁっ……!」
大きく目を見開いた商人の背から、真紅の翼がもげる。
周囲に散らばる朱鳥と同じように、そいつもまたぬかるみに顔をツッコミ形で地面に落ちていった。
またメンバーによる巨人への攻撃も加速していて。
それまで支援していた協力者達の呼び掛けは、イレギュラーズ達にこの上ない力をくれる。
中盤からずっと巨人を抑えていたアリシア。
彼女も折を見て皆の回復も交えて支援しながら盾となっていたが、彼女は自らの体にも温かい光を感じて。
「大丈夫ですか?」
「負けないでください!」
自警団や幻想種が遠方から回復の手を差し伸べてくれる。
もちろん、仲間達からはオニキスやクルルが回復に回っており、疲弊してきた戦線の維持に努めてくれている。
後は目の前の強敵を打倒すのみだ。
「そろそろ、大人しくしてもらおう」
力任せに棍棒を振り回す巨人は気を抜けぬ相手ではある。ただ、仲間達の支援を受けるアリシアが紫電の一撃をその巨体へと刻み込めば、一つ目の巨人は苦しみ悶えて。
「グォ、グアアアアオオオオオオオ……」
その巨体が倒れれば、激しい地響きが起こる。
「ぐうっ、ぐおおおお!!」
残る奴隷商人は巨人の力こそ得てはいるが、巨人と比べればベースが人間なだけに劣化コピーでしかない。
見れば、援護射撃と蒼秘の労働者達が投石にバリスタの矢を飛ばしてくれている。
アリシアはそんな協力者達の支援をありがたく受けながら冷静に敵の棍棒を見定め、巨人同様に地へと沈めたのだった。
万全の戦力をもって決起したはずの悪徳貴族イェルド。
そいつの元へと進路を切り開くべく、イーリンは全身の魔力を燃え上がらせたイーリンが溜めていた魔力塊を前方へと撃ちだす。
紫の燐光が尾を引くそれは敵のみを呑み込む。並みの相手ならその一撃に耐えることすらできないだろう。
ただ、今戦っている相手は世界をも破壊する力を手にした魔種だ。
「くくく……」
薄暗い笑みを浮かべたそいつの体はさほど傷ついていないように見えた。
「私も傲慢でね――勇者を名乗らせてもらっているわ」
イーリンは跨る馬の上から倒すべき下衆な男へと旗印を差し向けて。
「討ってみせなさいよ。逃げる覚悟もないならね!」
「そうさせてもらおう」
配下が倒れてもなお、イェルドは自身たっぷりに立ちはだかる。
そして、死霊の群れを呼び寄せて。
「さあ、存分に目の前の敵から生気を奪いつくすがいい」
オオオォオオオォオオォオ……。
通りすがるアンデッドの群れはこの場の蹂躙してくる。
協力者としてこれまで戦ってきた者達は巻き込まれぬようにと下がっていたが、彼らを下がらせていたエマはただでは済まない。
また、イェルドへと攻め入っていたアイリスもまた死霊に巻き込まれ、体力を奪いつくされてしまう。
「なかなか強烈な攻撃でごぜーますね?」
「絶対、生き残るよ~」
死霊の群れが通り過ぎた後、エマもアイリスも、パンドラの力を少しだけ砕いて食いしばり、さらに戦闘態勢をとり続ける。
エマは領民を守ろうと彼らの前に立って遠距離攻撃。アイリスは蹴撃をと間合いをはかりながら攻撃を仕掛けようとする。
「貴様らさえ無力化せればどうとでもなる。この私が直々に屈服させてやるぞ」
協力者達など、イェルドは眼中にない。明らかに相手はイレギュラーズの身を敵視している。それ以外は簡単に自分の手駒になると確信しているのだろう。
「倒れたらだめ。みんな、生きて」
オニキスは倒れかけた仲間の回復の為、自身を中心にしてサンクチュアリを発動して癒しに当たる。
攻勢のきっかけが欲しいところだが、イェルドはなかなかそうさせてはくれず。
「くくく……」
多彩な攻撃を仕掛けてくるイェルドは、その身を鳥獣へと変えてみせる。
「この程度の変身、あやつらの専売ですらないぞ」
もちろん、その威力は魔種化に伴って高まっている。
素早く翼を羽ばたかせたイェルドは瞬時に馬に乗るイーリンへと追いすがり、鋭いくちばしで彼女の胸部を穿ってみせる。
イーリンは馬に乗ったままで運命の力と共に手綱を握りしめ、気を強く持つ。
「このままでは……」
自分だけいれば、問題ないと豪語していたイェルド。
大言壮語と思いきや、実力に伴った発現にはイレギュラーズも舌を巻いてしまう。
「口だけじゃ強さの証明にならないよ。形だけの貴族だったから剣の腕に自信が無いんだよね?」
ただ、そこでセララが諦めることなく前に出て挑発して見せる。
「悔しかったら、ボクを負かしてみせなよ!」
「いいだろう。くくく……」
今度は死霊の力をその身に纏うイェルド。
両腕から包帯を伸ばし、セララを強く縛り付けようとする。
彼女が耐えている間、メンバー達は態勢を整えて。
「死を賭けて護りたい者達が居る、それが私の『願い』だ!!」
いの一番に団長であるセララを護ろうと飛び込んだアリシアは、紫電を纏わせた細剣で切り込み、さらに全身の魔力を腕に籠めて強くイェルドの体を殴りつける。
「悪い事なんてするものじゃないよ、わたし達はそれを許さないもの!」
そして、クルルは幻想種の人々と協力し、敵の動きを止めようとして。
「因果応報! さあ、お覚悟~!」
術式を構築し、クルルは組み上げた魔光を撃ち込んでイェルドの動きを制しようとする。
思った以上に動きの速い魔種はそれを喰らいながらも、押さえつけたセララの生命力を奪いつくしてしまう。
だが、セララも気合で持ち直して自らを拘束する包帯を引きちぎってしまう。
「さあ、今だよ!」
セララが身を呈して作ったイェルドの隙。
「一斉に撃ち込んでおくんなまし!」
自身の領地民と共に、エマは遠距離からイェルドへと攻撃を仕掛ける。
『Eir』自警団も負けてはいない。できる限り距離を詰めてから剣戟と魔術を目の前の魔種に叩きこんでいく。
さらに回復の手を止めたオニキスとアイリスが至近にまで飛び込み、持てる全ての力をイェルドにぶつける。
これだけの数の攻撃を受ければ、さすがの魔種もただでは済まない。
「くく、私を倒せると思っているのか?」
そこに、ボディが当然と回り込んで。
「お前の野心も、ここで、終わりだ」
彼はその傲慢ごと、魔種の頭をかち割って見せた。
「く、くく、見える。見えるぞ。我がエル・ドラード。私の、求めた、世界……!」
最後まで己の在り方をぶれさせることなく、その貴族は朽ち果てていったのだった。
●
ウーミド湿原における戦いで勝利を収め、ローレット所属のイレギュラーズを始め、彼らの領地民、そして幻想種達は喜びに沸き立つ。
気づけば、すっかり周囲は日が暮れており、夜空には星が瞬いていた。
笑顔を見せるメンバー達だが、アイリスはお腹を押さえてちょっとだけ浮かない顔。
「お腹空いた~。ね~、みんなでご飯食べに行こ~?」
先程まで緊張した戦いであったのにと、あちらこちらから笑い声がこだまする。
とはいえ、まずは皆の怪我の治療からとオニキスが治療を始める。
この場の皆がある程度万全な状態となるまで、アイリスの晩御飯はおあずけのようだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは馬に跨って全軍の指揮に当たった貴女へ。
今回はご参加、ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。なちゅいです。
<ヴィーグリーズ会戦>のシナリオをお届けいたします。
●目的
『傲慢』の魔種となった悪徳貴族イェルドの討伐
●敵
○『傲慢』イェルド
幻想在住の50代の悪徳貴族。すでに反転しており、魔種となり果てております。
多数悪徳商人を幻想へと呼び寄せ、イレギュラーズの領地へと攻め入らせていた張本人でもあります。
一時的に幻影の商人、死霊の群れ、鳥獣の群れを呼び寄せる他、死霊、鳥獣の力を使った攻撃を使うようです。
○奴隷商人3体
いずれも4~50代の人間種男性。
商人の中で、イェルドに力を与えられた者達です。呼び声の影響を色濃く受けております。
フリントロック式の拳銃を所持。それぞれ以下の部隊を率いており、率いる部隊(巨人)の力をその身に宿す力があります。
・巨人、サイクロプス×1体
全長5mもある単眼の巨人。
さほど知能は高くありませんが、奴隷商人の指示によって攻撃を仕掛けてきます。
手にする巨大な棍棒を叩き付け、あるいは薙ぎ払う他、地面を揺らして敵軍を壊滅させようとしてきます
・アンデッド部隊×30体
「<ヴァーリの裁決>平和に忍び寄る死の影」で登場。
マミー、グール、レイス各10体で編成。ワイトキングの代わりに奴隷商人の1人が統率しています。
・モンスター部隊×30体
「<ヴァーリの裁決>鳥獣の審判」で登場。
クリムゾンビーク25体、錯乱の鹿5体で構成された部隊。こちらも奴隷商人の1人が率いています。
●NPC
〇Eir自警団×10人
「<ヴァーリの裁決>平和に忍び寄る死の影」に登場。
『Eir』領地内の若者男女を中心に編成された自警団です。
レベルは10程度。4名が剣や斧など近距離特化。4名が弓や攻撃術式など遠距離中心、2名が支援、回復をメインに立ち回る集団戦を想定したメンバーです。
○蒼秘地区住民×20人
「<ヴァーリの裁決>鳥獣の審判」で登場。
元は力を持たぬ住民達でしたが、今回の話を受け、スリングショット、バリスタといった武器を調達して後方から援護に当たってくれます。
●士気ボーナス
今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。
○幻想種×15人
「<ナグルファルの兆し>金に瀕する奴隷商人」で助けた子供達の親など関係者である大人達がこの戦いを聞きつけて駆けつけてくれています。
精霊術師や人形遣い、ルーン使い等がおり、使役した存在で敵を食い止めつつ後方から強力な一撃を見舞ってくれます。
●状況
夕暮れ時、ヴィーグリーズの丘を見上げる事の出来るウーミド湿原で、イェルドの率いる部隊とぶつかることになります。
多勢に無勢といった状況ですが、OPの展開の通り、これまでの依頼の関係者達が力を貸してくれます。
やや情報に乏しい部分はありますが、隊を統率する強化した3人の悪徳商人、及び、魔種イェルドの討伐を願います。
●魔種
純種が反転、変化した存在です。
終焉(ラスト・ラスト)という勢力を構成するのは混沌における徒花でもあります。
大いなる狂気を抱いており、関わる相手にその狂気を伝播させる事が出来ます。強力な魔種程、その能力が強く、魔種から及ぼされるその影響は『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』と定義されており、堕落への誘惑として忌避されています。
通常の純種を大きく凌駕する能力を持っており、通常の純種が『呼び声』なる切っ掛けを肯定した時、変化するものとされています。
またイレギュラーズと似た能力を持ち、自身の行動によって『滅びのアーク』に可能性を蓄積してしまうのです。(『滅びのアーク』は『空繰パンドラ』と逆の効果を発生させる神器です)
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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