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シナリオ詳細

<ヴィーグリーズ会戦>毒により欺かれ、毒により報いて

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●裏切りの末に
「貴様、気でもふれたか!?」
 フレイス姫の腕が、テーブルの上のゴブレットや皿を払い退けた。料理は床にぶちまけられ、果物は床をゴロゴロと転がっていく。
「父上……!? 貴様等よくも! イミルの民よ、直ちに武器を取れ!」
 姫の命に従い剣を手にしようとするが、身体の痺れはそれを許さない。何だ、これは――もしや。
「貴様、貴様等……毒を盛ったな!?」
 姫の叫びが、否定したかった痺れの正体を言い当てた。何故だ? 勇者アイオンを仲立ちとして、クラウディウスとは講和したのではなかったのか? もう奴らと戦うことはないのではなかったのか?
 動かない身体と相反するかの様に、思考、と言うよりも疑念がぐるぐると頭の中を渦巻いた。その間にも、長の胸を暗殺者の刃が貫く。
「――では者共、蛮族共を皆殺しにせよ」
 長が殺されたことに呆然とし、我を喪っていたが、クラウディウスの長の声が意識を現実に引き戻した。待て、ここには娘がいるのだ。せめて娘の命だけでも――。
 そう言葉を発しようとした瞬間、やはり毒によって動けなくなっている娘の胸に、刃が突き立てられた。娘はごぼりと口から血を吐き、ぜいぜいと苦しげな呼吸をしながら、救いを求める眼差しを此方に向けてくる。
 父親としてその眼差しに応えてやれない無念が、こんな場に娘を連れてきてしまったと言う悔恨が、講和の宴で毒を盛り裏切るクラウディウスの奴らへの憤怒が、そして娘を喪いつつあると言う悲哀が、ぐちゃぐちゃと混じり合って胸の中を掻き乱す。
 そこから如何したかは、ほとんど覚えていない。ただ確かなのは、多少身体の自由が効く様になったのかその場からは逃れ得たことだった。
 我々を欺いたクラウディウスの奴らとアイオンに報いを与えるためならば、命など惜しくはない。愛娘がもういないのに、ただ生き存えて何になると言うのだ。……故に私は、姫の秘術に身を任せた。

●剣さえも、交えられず
 幻想の王位簒奪を狙うミーミルンド派と、幻想の騎士団及びイレギュラーズ達は、ヴィークリーズの丘で雌雄を決するべく激突していた。その一方であるミーミルンド派には、『古廟スラン・ロウ』から出現した巨人達が味方している。

 巨人達のうちの一体である緑色の巨人が、ウォーゥ、ウォーゥと咆哮を発しながら幻想の騎士達に迫っていた。その咆哮は、聞く者に何故か哀しみを感じさせる。過去の伝承を知っている者が聞けば、愛娘を喪ったユミル部族の戦士があげる悲哀の叫び声だと言うことだろう。
 だが、どんな咆哮を放とうが、敵である以上は食い止めねばならない。騎士達は馬を駆り、巨人達を迎撃しようと接近する――が。
「ぐ……うぐっ。何だこれは……!」
 巨人の周囲に漂う、巨人達の色と同じ緑色の霧に触れた途端、苦しみ悶えながら落馬した。馬の方も、歩くことさえもままならなくなりガクリと膝を突いたり、ドウと横倒しになっていく。
 動くのもままならなくなった騎士達や馬達の運命は、二つに一つ――いや、どちらをたどっても最終的には一つでしかなかった。巨人に叩き潰されるか、毒に苦しんで息絶えるか、どちらにしても死ぬことには変わりないのだ。
 その様を見て、騎士達は怖じ気づいた。剣を交えて死ぬのならば、まだ武人の誉れと受け容れることも出来よう。だが、剣を交える事さえも出来ずに、苦しみのたうちながら死ぬなど、騎士達の精神には受け容れられるものではなかった。

●崩れかけの戦線を守れ
「……まずいことになりました」
 イレギュラーズ達を前にして、開口一番、『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)が告げた。
「戦場に出現した『猛毒の巨人』グリュンギフトによって、戦線が崩されかけています。
 このままでは、グリュンギフト以外の敵によっても戦線を崩され、味方が大被害を受けることに……いえ、それですめばいいのですが、味方が敗北する可能性さえあります」
 事実、グリュンギフトの進撃に乗じてミーミルンド派の騎士達が戦線の綻びを拡大しにかかっていると言う。
「そんなわけで、幻想軍高官からグリュンギフトを討伐しつつ、戦線がこれ以上崩れるのを阻止して欲しいと依頼が来ました」
 つまり、グリュンギフトと戦うと同時に、それに乗じようとするミーミルンド派の騎士達を防がなければならない。ただし、その全てをイレギュラーズだけでやらねばならないわけではない。依頼人の幻想軍高官は、グリュンギフトの相手は無理だろうがミーミルンド派の騎士なら相手出来るだろうと、数十人の騎士を勘蔵の元に派遣していた。
「それだけ、この依頼が重要と見なされている、と言うことでしょう」
 ただし、派遣された騎士達には一つ問題があった。どうも、今一つ士気が高そうに見えないことだ。直接不満そうな様子を見せているわけではないが、おそらくグリュンギフトによってもたらされた惨状を聞いて、恐怖や不安を覚えてしまったのだろうと勘蔵は推察している。
「ですから、最終的に如何するかは皆さんの判断にお任せしますが、出来れば一人ないし二人は彼らの指揮に回った方がよいのではと思われます。
 ――それでは、この会戦を勝利に導くためにも、どうかよろしくお願いします」
 話を締めくくった勘蔵は、イレギュラーズ達に向けて深く頭を下げた。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回も<ヴィーグリーズ会戦>のうちの1本をお送りします。
 はるか昔、クラウディウス氏族の裏切りに端を発して生まれた『猛毒の巨人』グリュンギフトを討伐しつつ、戦線がこれ以上崩されない様にして下さい。

●成功条件
 『猛毒の巨人』グリュンギフトの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 ヴィークリーズの丘です。時間は夕暮れ時、天候は晴天。
 環境による戦闘へのペナルティーはありません。

●初期配置
 グリュンギフトを中心として、そこから40メートル以上離れた左右にミーミルンド派の騎士達がいます。
 イレギュラーズ達は騎士達の指揮を担当する者を除いて、グリュンギフトの正面40メートルの位置にいます。
 幻想の騎士達は、左右に分かれてミーミルンド派の騎士の正面40メートルの位置にいます。

 ミ騎✕20←40m→グ←40m→ミ騎✕20
   ↑       ↑       ↑
  40m    40m     40m
   ↓       ↓       ↓
 幻騎✕20←40m→イ←40m→幻騎✕20

●『猛毒の巨人』グリュンギフト
 クラウディウス氏族の裏切りによって娘を喪い、復讐を誓ったユミル氏族の戦士の怨念が乗り移った巨人です。その裏切りの手段が毒であったためなのか、毒が特徴の巨人となりました。このことは別に知らなくても、何らかの伝承で知っていたことにしても構いません。
 全高10メートルで、緑色のドロドロと溶けた様な肌をしています。
 攻撃力と生命力が高く、回避や防御技術は低いいわゆるパワー型です。復讐心によって生まれたためか【怒り】は通じやすいのですが、それ以外の状態異常に対しては高い抵抗力を持ちます。
 グリュンギフトの毒は、行動を阻害するものとダメージを与えるものを兼ねています。このうち前者は、【麻痺】【呪縛】で表現されます。

・攻撃手段など
 拳/脚 物至単 【弱点】【災厄】【毒】【猛毒】【致死毒】【廃滅】【麻痺】【呪縛】
 毒ブレス 物中扇 【鬼道】【毒】【猛毒】【致死毒】【廃滅】【麻痺】【呪縛】
 溶けた皮膚 物超単 【鬼道】【毒】【猛毒】【致死毒】【廃滅】【麻痺】【呪縛】
  ブン、と腕を振って、ドロドロに溶けている皮膚を遠心力で飛ばします。

・毒の霧
 グリュンギフトの周囲には、グリュンギフトの体内からにじみ出た毒が気化した霧が漂っています。
 これは、グリュンギフトの周囲40メートル以内に充填しており、この霧の中にいるキャラクターに対し毎ターンの最後に各BS毎に特殊抵抗判定を行わせます。
 特殊抵抗判定に失敗した場合、それぞれ【毒】【猛毒】【致死毒】【廃滅】【麻痺】【呪縛】のBSを受けることになります。

●ミーミルンド派の騎士達 ✕40
 グリュンギフトの進撃に乗じて、戦線の綻びを拡大しようとする敵の騎士達です。
 グリュンギフトの進撃によって士気が非常に高くなっており、そのため能力にバフがかかっています。
 このバフを【ブレイク】で打ち消すことは出来ません。一方、グリュンギフトが倒された場合、このバフは強烈なデバフに転じます。
 能力傾向は攻撃力、生命力、命中、防御技術が高めとなっています。回避は低めで、特殊抵抗はバフによってやや高目となっています。
 装備は主にロングソード。遠距離武器は携行していません。

●派遣された幻想騎士達 ✕40
 ミーミルンド派の騎士を阻止するべく、勘蔵の元に派遣された騎士達です。ミーミルンド派の騎士達を食い止めるのは、彼らが主となるでしょう。
 ただ、OP本文でも描写していますが、士気は高くなく、と言うよりもはっきり言って低い水準にあります。そのため、能力にデバフがかかっています。このデバフをBS回復で消去することは出来ません。
 基本の能力とその傾向は、ミーミルンド派の騎士とほとんど同じです。ただし特殊抵抗は、デバフによって低くなっています。
 イレギュラーズのアプローチ次第で、このデバフをバフに転じることが出来ます。一番いいのは、左右共にイレギュラーズ1人ずつがついて指揮に専念することでしょう。ですが、指揮に専念する場合は当然グリュンギフトとの戦闘から外れることとなります。
 仮に戦力の問題で誰も指揮に専念出来ないとしても、騎士達を励まして士気を高める様なプレイングがあれば、その内容に応じて最低でもデバフが緩和され、上手く行けばバフに転じさせることが出来ます。

 なお、領地から兵を連れてきて参戦していたという態で、騎士達を領地の兵士達と入れ替えることが出来ます。最大40名。
 予めイレギュラーズ達への信頼があるため、騎士達の様なデバフはかかっていません。一方、バフの程度、影響は騎士達と変わりません。要は、不利になる部分が無くなると言うだけです。
 また、この場合、能力傾向と装備は領主であるイレギュラーズが決めることが出来ます。
 別々のイレギュラーズが連れてきた兵士達を混成部隊とすることや、連れてきたイレギュラーズと指揮するイレギュラーズを別にすることについては、特に何のペナルティーも発生することなく可能であるとします。
 領地から兵を連れてきて参戦させているとする場合は、特に人数と配置をはっきりと明記しておいて下さいます様お願い致します。

●幻想の騎士、兵士達
 上述の騎士達とは別の、幻想軍の騎士達や兵士達です。士気は極めて低いところまで落ちており、辛うじて全面壊走こそ発生させずに戦場に残っていますが、グリュンギフトが進むに応じて距離を取るべく後退しています。
 OP本文では描写していませんが、部下を無理矢理グリュンギフトに突撃させようとした指揮官が「じゃあお前が行け」と毒の霧の中に突っ込まされたり、後ろから斬られたり射られたりと言った状況も発生しています。
 そのため、グリュンギフトが討伐されるまでは基本的に戦力として役に立ちません。
 グリュンギフトが討伐されれば、大いに沸き立ちながら反撃に出て奮戦することでしょう。戦線を立て直すどころか、押し戻すことも可能かも知れません。
 しかし逆にイレギュラーズが敗れれば、逃げずに耐えようという意志は折れてしまい、全面壊走してしまいます。周囲一帯の戦線も、それに巻き込まれる様に崩壊してしまうでしょう。 

●士気ボーナス
 今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <ヴィーグリーズ会戦>毒により欺かれ、毒により報いて完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月05日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

朝長 晴明(p3p001866)
甘い香りの紳士
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
源 頼々(p3p008328)
虚刃流開祖
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ジェームズ・マクシミリアン(p3p009897)

リプレイ

●猛毒の巨人を前にして
 ウォーゥ、ウォーゥと、緑色の体表がドロドロに溶けている『猛毒の巨人』グリュンギフトが、哀しげな咆哮を上げる。ここが戦場でなければ、その声は橙色に染まった空と相まって、見る者に哀愁を感じさせたことだろう。
 だが、グリュンギフトに迫られる幻想の騎士達からすれば、とてもそれどころではない。勇気を振り絞って挑みかかったとしても、グリュンギフトの周囲に漂う緑色の猛毒の霧によって剣さえも交えられずに死に追いやられると言う惨状に、ただただ後退を余儀なくされるばかりだ。
(溶けたカラダ、声、怒りや憎しみ……ずっとずっと昔、大事なものを亡くしたきもちが、今もずっと、そこにあるのですね)
 グリュンギフトが生まれたのは、講和の宴で毒を盛ると言うクラウディウス氏族の裏切りによって愛娘を喪ったユミル氏族の戦士が、報復のためにフレイス姫の秘術に身を任せたからだ。その伝承を知る『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)は、グリュンギフトを遠目に眺めながら、胸の内に抱える苦しみに思いを致す。だが、同情してばかりもいられない。ニル達イレギュラーズは、戦線の崩壊を防ぐためにグリュンギフトを討伐すると言う依頼を受けたのだから。
 ニル自身は、この猛毒の霧には何らの影響も受けない。だが、何の手立ても無しにこの霧の中に飛び込みたくないと言う騎士達の感情は理解出来る。
「グリュンギフトをなんとかできたら、騎士の人たちも動けるのですよね。ニルは、がんばります!」
 グリュンギフトを遠巻きに囲む騎士達をぐるりと見回すと、ニルはそう意気込んで見せた。
(武人の誉れに騎士の誇りに貴族の面子……そんな窮屈なモノ抱えたがる気は知れないが、だからこそギリギリで耐えてんだな)
 ジェームズ・マクシミリアン(p3p009897)は、士気を落とし後退しつつも壊走に至っていない幻想騎士達の心情をそう慮る。
「しばらくの間、黙って見てな。あのデカブツは、俺達で何とかしてやるからよ」
「うん、絶対に勝つから、見てて! ――行ってきます!」
 いくら騎士とは言え、勇者にして英雄であるイレギュラーズの戦闘能力からすれば、常人の域は出ない。それだけに、グリュンギフトの様な化け物を相手に壊走せずに踏みとどまっているだけでも上出来と言えた。後は、勇者たる自分達イレギュラーズがグリュンギフトを討伐し、それに応えるだけだ。
 その意を込めてジェームズがグリュンギフトを討つと騎士達に告げると、『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)が明るく快活な笑顔を見せつつ続き、大きくぶんぶんと手を振ってその場を発った。
 前線へと向かいながら、フランはグリュンギフトの毒について考える。かつてフランは、過去に食べた植物の実の毒で腹を壊したことがあった。そうした植物の毒は、食害を避けるための護身のための毒と言えよう。
(でも、この人の毒は『傷つけるための毒』だ。悲しい声は可哀想って思うけど……もう、終わりにしよ!)
 フランも過去の伝承を知る故に、グリュンギフトに同情するところはある。だが、『傷つけるための毒』を撒き散らすグリュンギフトを放っておくわけにはいかなかった。フランは決然とした意志を込め、視線をグリュンギフトに向けた。
(……混沌にジュネーブ条約を期待するのは無理がある、か)
 『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)は、内心でふぅ、と溜息をついた。美咲の元の世界のような戦時条約が締結されるには、『無辜なる混沌』の文明は程遠い。
「毒殺暗殺は英雄につきものだけど、伝承も含めてコレジャナイなぁ」
 さらに美咲は、何処か残念そうにぼやく。
「毒霧何するものぞー、無効化出来なくてもへっちゃらだよ!
 ってとこを、ボクが身を張って見せてあげて、味方の騎士さん達を安心させてあげたいな!」
「……ヒィロは毒霧に耐えられても、騎士達には無理ね」
 その美咲の横で、『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が満面の笑顔を浮かべながら明るく言った。だが、そもそも状態異常への耐性をほぼ完璧に高めているヒィロと、そこには到底遠く及ばない騎士達とは、同様というわけにはいかない。仮にヒィロが毒の影響を受けるとしても、生命力も騎士達とは桁違いのレベルであるから、やはり同列で比べられるものではなかった。
 ヒィロの言に可笑しさを感じた美咲は、ヒィロの笑顔に釣られたこともあって、クスリと笑いながらその点を指摘する。同時に、この大切なパートナーが物憂げにしていた自分を気遣ってくれたのだと察した。

「おいお前ら! ビビってんじゃねぇ!」
 そう幻想の騎士達に檄を飛ばすのは、『至槍の雷』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)。エレンシアが檄を飛ばしている騎士達は、グリュンギフトの相手は無理でも、グリュンギフトに乗じて戦線の綻びを拡大しようとするミーミルンド派の騎士なら相手出来るだろうと派遣されてきた騎士達だ。
「こちらからも援護を回す! しばらく気張って戦線を維持してろ! アタシらがあのデカブツを仕留めるまでな!」
 エレンシアによって告げられた、幻想において勇者にして英雄たるイレギュラーズから援護があるとの言葉、そしてエレンシア達がグリュンギフトを討伐するとの言葉は、騎士達の心に希望を灯した。
 後は実際に指揮を担当する仲間に任せることにしたエレンシアは、グリュンギフトに意識を切り替える。
(やれやれ……怨念の宿った毒の巨人ってか)
 姉の持っていた書物の記述が本物であったことに、エレンシアは驚きを禁じ得ない。だが、討伐の依頼を受けて戦場で対峙したならやることは一つだ。
(ま、安らかに眠らせてやるよ)
 好戦的な笑みを浮かべつつ、エレンシアは大太刀『白銀麗刀・白鴉』の柄に手をやった。

(俺の領地は海洋だが、他人事でいられない時期がきっと来る。今のうちに貸しを作らないテはねぇぜ!)
 『大奴隷市』からこの会戦に至るまで、幻想に領地を持つイレギュラーズの領土は、様々な事件に見舞われた。海洋に領地を持つ『甘い香りの紳士』朝長 晴明(p3p001866)は、似たような状況が海洋でも発生すると予測している。ならば幻想に貸しを作っておこうと、このヴィークリーズの丘での決戦に騎兵十名を引き連れて参加していた。
 この十名は晴明の幼い頃の遊び仲間で、今では晴明の私兵となっている。さらに派遣されてきた幻想の騎士十名を加えて、右翼としてミーミルンド派の騎士に当たる予定だ。
 一方、左翼としてミーミルンド派の騎士に当たることになっている『神は許さなくても私が許す』白夜 希(p3p009099)も、領地から『魔女の楽団』大隊のうち五名の女性を引き連れてきている。
 グリュンギフトの伝承は、希も聞いたことがあった。当人への復讐であるのならば、気が済むまでやればいいと希は思う。
(――でも、当人以外への八つ当たりや、未来永劫を呪い続けているのはいけない。それはもう復讐ではない。
 ならば、せめて天上へ行けるように、罰として焼き尽くす。貴方を。その罪を)
 咆哮を上げながら前進するグリュンギフトを、何処か憐憫の篭もった眼差しで希は見やった。

●イレギュラーズ達の攻勢
「ひとつ、ふたつ……」
 そう数えながらグリュンギフトの側まで一息に駆け寄る『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)の頬には、涙が伝っていた。『誰もが笑顔の国』から混沌に来たラヴにとっては、人同士が争う様が、何だか悲しく感じられる。
 それでも、ラヴは真っ先にグリュンギフトへと駆けた。言葉ではなく、行動で騎士道の何たるかを示すために、誰よりも疾く。
「おお……!」
 少女のように小柄でありながらも、先陣切ってグリュンギフトへと駆けていくラヴの姿に、周囲を取り巻く幻想の騎士達から感嘆の声が漏れた
「――おやすみ、おやすみ、おやすみ」
 グリュンギフトに肉薄したラヴは、幾多もの夜から創られた拳銃『Bonne nuit .;+*』の引金を立て続けに引いて接射する。パン! パン! と言う銃声と共に、輝く星のような弾丸が放たれ、グリュンギフトの溶けた皮膚の下に突き刺さっていった。
 ウォーゥ! 悲哀ではなく、憤怒を込めた咆哮を放ちながら、グリュンギフトは頭をラヴへと向けた。
「傍迷惑な存在である。居るだけで禍を齎すとは、まるで鬼よ。
 ……ともあれ明らかに此奴が、この巨人が敵将であるな。奴らの要であり、然して急所よ」
 ラヴに続いて、『虚刃流開祖』源 頼々(p3p008328)がグリュンギフトへの距離を詰めにかかる。
「将を射んと欲すれば先ず将を射よ!
 此度は的が大きければ、此方の矢も大きいぞ。我が虚刃流のなんたるか、その腐った体で存分に味わうが良い!」
 まずは一当てと、頼々は漆黒の大顎を召び、グリュンギフトへと放つ。大顎はグリュンギフトの太股にガブリと食らいつくと、牙を深々と突き立ててから、その肉を抉り取った。グリュンギフトの巨体からしても、その傷は深い。
 頼々の目論見は、早期に「あの巨人共はワレらがいれば十分戦える」と武威を以て味方に示すことにあった。それは正しく、成功しつつある。
「過去に縛られた怨念の塊に、今を生きるボク達の邪魔はさせない! ボクと美咲さんの未来のために!」
 さらに、ヒィロが一息にグリュンギフトの側へと駆け寄り、『星天』で斬りつけた。驚異的な速度と強い意志を乗せた斬撃は、グリュンギフトの脛を横一文字に深く斬り裂く。グリュンギフトの脛にパックリと大きな傷口が開くと同時に、ヒィロはグリュンギフトの側から離脱した。
「伝承の巨人とやらなら、『新技』の相手に不足もないわね――受けろ紅ノ双極、赤妖!」
 ヒィロと同時に、美咲も動いていた。ラヴや頼々とブレスで一網打尽にされないよう斜め前に出つつグリュンギフトとの距離を詰めると、十四色の魔眼のうち明るい紅と暗い紅の魔眼を連続して発現させる。ほぼ同時に発現した陰陽対極の魔眼の力は、ヒィロが刻んだ脛の傷の辺りで衝突し、プラズマを発生させる。プラズマはジュウ、とグリュンギフトの脛に開いた傷を灼き、苦痛に悶えさせた。
「綺麗なおねーさんには、『棘』があるんだから!」
 ラヴを追ってその背後に寄り添ったフランは、ラヴに不可侵の聖なる護りを降ろす。フランが『棘』に例えたように、この護りは侵した者に相応の報いを与える。これで、盾役たるラヴはより長くグリュンギフトからの攻撃に耐えられるようになりつつ、グリュンギフトから受けた傷のいくらかを返せるようになった。
「わりぃな。てめぇの巻き散らす毒は、アタシにゃ効かねぇぜ! このままてめぇの恨みやらごと押しつぶしてやらぁ!」
 仲間達を追うように低空飛行しながら、エレンシアもまたグリュンギフトとの距離を詰める。そして瞬時に、太股、膝、脛の三カ所を突いた。『白銀麗刀・白鴉』の刀身が、グリュンギフトの脚の肉を深く抉っていく。同時に三カ所を襲う激痛に、グリュンギフトの咆哮は苦しげなものへと転じていった。
(目は、難しそうです……でも、脚ならいけそうです)
 ニルはグリュンギフトの行動を少しでも阻害しようと、既に仲間達の攻撃を受けている脚を狙って、相手の命を吸い上げる術を発動する。術はグリュンギフトの脚にさらなる傷を負わせつつ、そこに宿る活力を吸い上げる。傷ついた上に活力を吸われた脚は、巨体を支えるのが辛いのか、ガクガクと震え始めた。
「畳みかけるか……上手くいって倒れてくれれば、もうけもんだ」
 毒霧の中でも煙草を咥えながら、ジェームズがグリュンギフトの足下へと走った。既に仲間達の攻撃によってグリュンギフトの脚は大分傷ついているが、さらに畳みかけて肉を削げば、倒れるまではいかずともバランスを崩すぐらいはするかもしれない。
 それを狙いつつ、ジェームズはブンと大きく腕を振るった。すると拳に嵌めているグローブから伸びている糸が、爪のような刃となってグリュンギフトの脚の肉を斬り裂き、削ぎ落とす。
 だが、ダメージは明らかに脚に来ているものの、ジェームスが半ば想定していたようにまだバランスを崩すところまではいかなかった。

「待たせたなぁお前ら! やる事は昔と同じだ。指示したら突っ込む。誰一人死ぬな!
 戦略は以上だ。行くぜ!」
 戦略と言うにはあまりにもざっくりとした号令を下しつつ、晴明は生命力と引き換えに右翼の私兵十名と騎士十名を強化した。同時に、まずサーベルを持った晴明の私兵九名が馬を駆って突撃し、それに戦旗を持った一騎と晴明が続く。騎士達も、遅れじとその後を追った。
 晴明らの突撃を、ミーミルンド派の騎士達が迎え撃つ。数はほぼ同数であるが、晴明や戦旗の騎兵による支援の分だけ、晴明らの方が優勢であった。
 左翼では、希が深呼吸して意識を集中し、超集中状態とでも言うべき状態に入っていた。その状態で希は、携行するマスケット銃を始めトランクの中の小剣や小銃など数多の武器を意のままにコントロールし、ポルターガイストのように飛び回らせてミーミルンド派の騎士達を攻撃させた。
 飛び交う武器達による攻撃は、ミーミルンド派の騎士達を困惑させ傷つけていくのはもちろんだが、的確な牽制で以てその行動を封じていく。
「全軍、進撃開始。まさか騎士の皆様方は、動けない相手に臆して婦女子達に後れを取ったりはすまいな?」
 挑発するような希の言であったが、グリュンギフトが相手ならともかく、ミーミルンド派の騎士達を相手に遅れを取るつもりは騎士達にはない。ましてや、相手は希によって行動を封じられており、さらに『魔女の楽団』の女性達が一緒にいるとなればなおさらだった。
 女性達に格好悪いところは見せられないと、騎士達は我先にと突撃し、ミーミルンド派の騎士達を防戦一方に追い込んでいく。騎士達の士気を上げるための希の仕込みは、見事に当たったのだ。

●復讐の終焉
 イレギュラーズ達の脚を狙った猛攻に――これは、互いのサイズ的に自然とそうなった部分もあるが――グリュンギフトは長く立っていることは出来ず、早々にガクリと膝を突いた。そうなると、イレギュラーズ達は近くなったグリュンギフトの胴体や、頭を狙い始めていく。
 一方、グリュンギフトはラヴを拳やブレスで攻撃し続け、強かに傷を負わせていたが、その都度フランによって癒やされていった。だが、美咲が回復に回っても、徐々にラヴの傷は深いものとなり始めていく。
 右翼と左翼の戦闘は、騎士達の士気を上げ支援体制を整えたこともさることながら、晴明と希が直接戦闘に加わり範囲攻撃を行ったこともあり、もう少しでミーミルンド派の騎士達を押し切れるところにまで至っていた。

「ラヴさん、大丈夫!? 今、治すから!」
「ちょっと、厳しい……かな。そろそろ、交代の頃合いね」
 身体中に傷を刻まれて満身創痍となったグリュンギフトの拳を受けてしまったラヴを、フランは福音によって癒やしていく。ラヴの傷は深く、フランによる癒やしを以てある程度が塞がってもなお、ヒィロと交代すると決めていたラインを超えていた。
「随分とタフだったな! だが、そいつもそろそろ終わりだぜ!」
 バサリ、と背中の翼を羽ばたかせると、エレンシアは『白銀麗刀・白鴉』を真っ直ぐ中段に構えたまま、グリュンギフトへと突き進んでいった。『白銀麗刀・白鴉』の刀身がグリュンギフトの胴体を貫き、背中から血に濡れた刃先を覗かせる。臓腑を傷つけられたグリュンギフトは、カハッと大量の血を吐いた。
(まだ、復讐を諦めないのですね……)
 それでもなお暴れようとするグリュンギフトにニルは複雑な想いを抱きながら、エレンシアが突き立てた刃の痕を狙い、命を奪う術を発動する。術によってさらに傷つき、生命力を削られたグリュンギフトだったが、倒れるには至らない。
「いくら毒霧に耐性があるとは言っても、煙草の味がわからねえのはな……迷惑な野郎だ」
 ジェームズはそうぼやきながら、速やかに決着を付けようと、腕を振るい糸を操る。糸は既に刻まれている傷をさらに抉って、グリュンギフトを痛苦で苛んでいった。

「こいつで、仕舞いだ!」
「これで、終わらせる」
 右翼では晴明が背中に生やした光の翼を羽ばたかせ、輝く羽根を舞い散らせた。そして左翼では、希が白銀の十字架『メサイア・ダブルクロス』を格にして創り出した杖を握り、マスケット銃などの武器を縦横無尽に操る。
 右翼左翼共に、残るミーミルンド派の騎士達はわずかであり、いずれも満身創痍であった。晴明の前にいる騎士達は光の刃となった輝く羽根に斬り刻まれ、希の前にいる騎士達は武器達に撃たれ、あるいは斬られて力尽きて、全滅した。

「お願い、ヒィロさん。どうか油断なさらないでね」
 ヒィロに盾役の交代を頼みながら、ラヴは敵を蝕む術でグリュンギフトを攻撃した。紅い血に染まった、ドロドロに溶けた皮膚が術によって侵食され削り取られて、さらに新たな血を流させていく。
「ただひたすら復讐のためだけに在るなんて、心が擦り減って擦り切れて、疲れちゃうでしょ?
 ボク達が解き放ってあげるから、そろそろ休んでいいんだよ!」
 ラヴの要請を受けてグリュンギフトの直前に躍り出たヒィロが、グリュンギフトに語りかけつつ、湧き出る闘志を叩き付けた。ヒィロの闘志に反射的に意識を向けたグリュンギフトだったが、それは同時に行動している美咲に対する致命的な隙となる。
「これが紅色型雷放電・レッドスプライト――貴方を死へ送る妖精よ」
 連続して発現された明るい紅と暗い紅の魔眼の力が衝突してプラズマを発生させ、グリュンギフトを包み込む。ヒィロに意識を奪われて無防備となっていたグリュンギフトはプラズマの直撃を受けて身体中を灼かれ、虫の息となった。
 それでもなおグリュンギフトは身体をグググと動かして反撃を試みようとするが、既に想像力で創り出した空想の刃を手にした頼々が、グリュンギフトの首を落とすべく最大の一撃を振るっていた。
 頼々が空想の刃を振り下ろしてから数瞬遅れてグリュンギフトの首にピッと真っ直ぐに傷が迸り、ズズズ、と少しずつ下にずれていく。そして最後にはズン! と落下した。
「巨人グリュンギフト、我が虚刃流が討ち取ったり!」
 空想の刃を握る右腕を高く天に掲げて、頼々は勝ち名乗りを上げる。その頼々の姿と、首を落とされたグリュンギフトの姿を目の当たりにした周囲の幻想の騎士達は、おおおおおおっ! と大歓声を上げて頼々とイレギュラーズ達の勝利を称えた。

 イレギュラーズの勝利によって勢いを得た幻想の騎士達は、押し込まれていた戦線を押し戻すべく反撃に出た。やがては、戦線を押し戻すだけではなく逆に押し込んでいくことだろう。それほどまでに、イレギュラーズ達の勝利は騎士達の士気を高めた。
(悲しい切欠の毒も、色んな思いも、全部雨に流れてもう一度生まれ変われますように――)
 グリュンギフトの遺体を前に、フランはそう祈りながら雨を乞うた。その祈りに応えるように周囲の空を暗雲が覆うと、最初はポツ、ポツと、次第にザアザアと激しく雨が降りしきっていく。
(巨人さん、せめて天国で娘さんと再会して、安らかに瞑せるといいね……)
 全てを洗い流そうとするような雨の中で、ヒィロはそう願わずにはいられなかった――。

成否

成功

MVP

フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘

状態異常

ラヴ イズ ……(p3p007812)[重傷]
おやすみなさい
源 頼々(p3p008328)[重傷]
虚刃流開祖

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によってグリュンギフトは討伐され、幻想の騎士達は士気高らかに戦線を押し返しはじめました。周囲の戦線は、きっとこれで安定することでしょう。
 MVPは、盾役のラヴさんのHP、そして周囲の仲間達のAPと状態異常を回復し、ヒーラーとしてしっかりと仲間を支え続けたフランさんにお送りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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