シナリオ詳細
<ヴィーグリーズ会戦>果樹園再戦! 麦わらを吹き鳴らす巨人を倒せ!
オープニング
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「なんということでしょう。巨人が麦わらで息を吹きだすと、みんな吹き飛んでいくのです。巨人は邪魔するものを飛ばしてしまうと、ネズミをストローで吸い込んでもぐもぐと食べ始めました。巨人はネズミをお豆のように食べるのが大好きだったのです。だから、ネズミは麦わらがぷぴーとなると逃げて行ってしまうようになったのです」
童話「麦わらを鳴らす巨人」より
バルツァーレク領にある商人ギルド・サヨナキドリの領地。
乙女の一閃とともに、オオタビネズミは地に伏した。
「片付きましてよ」
それは、塵も積もれば山となる、研鑽の結果だった。
「ええ、もう、私達だけでもある程度はしのげるようになりましたわね」
「せめて、勇者様のご負担を軽減して差し上げなくては」
男子にあらねども、志持ちたる者と三日会わずんば刮目せよ。
挺身隊のお嬢さん達は、彼女たちなりの成長を遂げていた。
散発的に表れるオオタビネズミの集団をある程度は蹴散らすことができるようになったのだ。がんばった。
「よもや、ミーミルンド派の策とは思いもしませんでしたわ」
「学友」の中にも幾人かはそこに属する者たちがいた。そういえば、みな、やけにおとなしくしていた気がする。
「とにかく、ローレットの皆様に微力でもお力添えができることは幸いです」
「ここまで王都からわき目も降らずにいらしたのですもの、しばしの休息の時間をお守りしなくては」
「この大きなネズミがやってくるのには意味がありましたのね」
「おとぎ話だと思っておりましたわ。『麦わらをくわえた巨人』なんて」
「ストローでネズミを吸い込んで豆のように食べる巨人がいるから、ネズミは世界中の建物の隅でそっと隠れているのです――本当のおはなしだったなんて」
風に乗って、細く細く、口笛のような音が聞こえた。
「巨人です!」
物見の塔から衛視が叫んでいる。
「手にストローを持った巨人です! オオタビネズミを食べています!」
さすがに、豆のように吸い込んだりするほど大きな巨人ではなかった。だが、パンを食べるくらいの気軽さでオオタビネズミをかじっている。
技量が上がるということは、自分の手に負えないことも当然わかるようになるということでもある。
「ローレットの皆様にご出座を願わなくては。あの土煙、ただ事ではありませんわ。確実に私たちの手には負えません。残念ですけれど」
ぴぷーと、麦わらを吹き鳴らす音がした。
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「ミーミルンド派が反旗を翻したぞー」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、棒読みだ。何しろウォーカーなので国家への帰属意識がない。
「皆の働きによって首謀者一派を特定できた。さあ、日頃いがみ合ってる連中が手に手を取って逆賊狩りに邁進するぞ。貢献度でケーキのピースが大きくなったり小さくなったりするから必死だね。みーんな味方だから、ありがたいよな。勇者様陣営としては」
ミーミルンド派の既得権益を貴族たちが分け合うのだ。今頃とらぬ狸の皮算用している向きもいるだろうが、なにはともあれ勇者を支持するのが大前提だ。
「そういう訳で、悪徳貴族やら古代獣やら巨人やらの対応でみんなには一層励んでもらうからそのつもりで」
というか、励まざるを得ないよな。と、情報屋は言う。
「これが災難の打ち止めになるといいな、バルツァーレク領。はぐれ巨人が来るぞ。好物のオオタビネズミにつられて。いや、巨人を恐れてオオタビネズミがごそっと逃げたのかもはや判断つかないんだけどさ。いや、そうだったら、いったいどのっ位前からミーミルンド派が暗躍してたのかっつう話で――」
やめよう、今更、言っても詮無いことだ。
「で、なんだ。『麦わらを鳴らす巨人』っておとぎ話があるんだって? 麦わらでこうネズミを吸い上げて豆みたいに食べる巨人。いや、その麦わらどんだけぶっといんだよって話なんだけども」
巨人がいた頃って麦もでかいの? と、ウォーカーに聞かれて答えられる者もそういない。
「まあ、とにかく。巨人は目撃されてるわけで。身長8メートル。オオタビネズミだからさすがにストローでは吸えないってさ。パンかじるくらいの気軽さみたいだけど」
昨今現れている巨人の傾向をお知らせします。と、情報屋は仕事をし始めた。
「8メートルだと太刀打ちできないように感じるかもだけど、やりようはあるから。こっちの方が小さいんで、小回り効かせて蓄積ダメージ威を与えて倒すのがお勧めかな。5メートル・大理石にはこれが有効だった。足から潰せってやつ」
作戦に参加したローレット・イレギュラーズは、くるぶしやら膝やらスネやらを攻撃して擱座させた後、頭部を落としたりカチ割ったりしていた。
「オオタビネズミを食いながら移動してるから、ここを通過するんだよ。あ~。なんつうか、こないだ頑張って損害計上なしで行けたから、このままキープしたいよなってことで――悪いんだけど、強行軍でお願いできる? オオタビネズミくらいならどうにかできるお手伝い部隊が行ってるから、息を整えるくらいの余裕はあるよ。相談もそのタイミングですり合わせて――大丈夫? これ、気持ち落ち着くやつ」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)に、情報屋はとりあえず気付けの薬湯を勧めた。
- <ヴィーグリーズ会戦>果樹園再戦! 麦わらを吹き鳴らす巨人を倒せ!完了
- GM名田奈アガサ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年07月05日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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「また随分とでかい相手だな」
巨躯にして隆々たる『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)が「随分とでかい」と言っているのだから、巨人はでかいのである。
とりあえず、広葉樹林的森の木々に隠れない。背の高い針葉樹林ならワンチャンあったかもしれない。
手にストローを持ち、ネズミを吸い込んで手に取るともちゃもちゃと噛みしだいているのが遠めから見える。スナック感覚。
「とりあえずネズミにご執心のようだが……俺達を食おうとかはしないよな?」
「おうおう! 巨人の相手たぁ豪気じゃねぇか! やっぱり相手はでっけぇほうが気分が乗るってもんだ!」
『暴風』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)は、森の木を揺らす大きな背中を見ながら笑った。
「ここは景気よくブッ倒して果樹園を安全にしてやるぜ! ガハハ!」
「や、お嬢さん方。随分と見違えたねぇ。エヴァーグリーンの旦那もお嬢さん方にここまで尽くしてもらえて果報者というやつだこと。ヒヒ!」
『不死身ノ勇者』武器商人(p3p001107)は、実際感心していた。
この間は主戦場から退陣いただくためにはぐれのオオタビネズミ掃討を促したのだが、今回は「本気で」同じことをお願いすることが出来そうだ。
嘘がまことに。いやはや、努力は美しいものである。お頼みいたしますよ。という武器商人の言葉に挺身隊のお嬢さん達は承りましたと優雅に礼をした。
「哀しい……ご主人様の大事な果樹園にまたも脅威が及ぶなどと」
出陣していく挺身隊を見送る武器商人に、『観劇家』クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)は憂い顔を見せた。
「約束しました。ご主人様と。この身も魂も全ては貴方のものだから――危機を迎えたその時に、必ず力になりますと」
武器商人は、ゆっくりと頷いた。
「もちろん。我(アタシ)の眷属、フォルネウス。キミにきっちり働いてもらわないと困ってしまう。粉骨砕身で頼むヨ!」
主人の言葉に忠実な眷属は否も応もない。
「さあ、どう絶望を味わって戴きましょうか。とりあえず百回殺します?」
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「……一体何がどうしてあんなものを使役するに至った、敵方は」
異世界から召喚され、あれよあれよと絶賛巻き込まれ中の『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は、解説を求めた。やたらと早口の情報屋は猛省してほしい。
手短に、オオタビネズミをめぐる一連の流れと果樹園の悲劇が語られた。
「俺も国家帰属意識がない上に、幻想とか正直どうでもいいんだけどな」
こんな腐り切った国。と、『死の痛みを知る者』クロバ・フユツキ(p3p000145)は小さく付け加えた。誰かに聞こえていないことを祈るばかりだ。
「ま、頑張る人たちもいるし、果樹が潰れたらおいしい菓子が食えなくなるし、俺が頑張る理由はそういうところにあった、ってわけだな」
「実を言えば一度食べたことがあるよ、ここの菓子」
『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は、並べられた菓子を見て、これこれ。と呟いた。
「果物が宝石みたいにきらきらしていて、とても美味しかった。帰省の手土産にいい奴あるかなと思ってたんだが、仕事が無事終わったら店を覗いても?」
菓子職人は無言で、帽子を脱いでクロバとラダに首を垂れた。
クロバは、当たり前のように何気なくおいしい菓子と言った。
ラダは、おいしかった。また欲しい。そして、彼女の仕事は無事に終わり、のぞける店が普通にあり、菓子を売ることができるのだと職人に告げたのだ。
無意識だったかもしれない。しかし、再度の襲撃に神経をすり減らした職人にとって何よりの言葉だった。何もかもが終わるかもしれない恐怖を払い落としてくれる一言だ。
「政治のことは素直によくわかんないんだよな……ひとの欲望や悪意がそうさせるんだろうか、そればっかりじゃないのかな」
きれいな水が何よりのオオサンショウウオの淡水生の海種である『微睡む水底』トスト・クェント(p3p009132)は思いを巡らせる。良くも悪くも閉鎖的で安全な集落出身のトストには国を巻き込む野望は正直言って埒外だ。
「3度目の果樹園となるわけだが、って脅威に晒されすぎじゃないか?」
「2度目だヨ」
武器商人は、まだリターンだヨ。と冗談めかして付け加えた。
実際、クロバがオオタビネズミに関わるのは3度目だが、最初はここからもう少し離れた牧草地帯だったので、2度目だ。
「ああ、そうか。数え間違えたな。それはそれとして、大丈夫なのか、商人……ここ、もうちょいセキュリティどうにかした方がいいんじゃないだろうか、これ」
ついでにお祓いとか厄払いをした方がいいかもしれない。モフモフのオオタビネズミの毛で土地は肥えそうだが。
「ともあれ。土地やヒトに災難として降りかかるのなら、振り払う他ないよ」
のほほんとしたトストがきっぱりとそう言ったので、クロバと武器商人はなんとなく気おされながら頷いた。
閉鎖的で安全というのはつまりそういうことなのだ。お話を聞くといいかもしれない。
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「それにしてもネズミが主食の巨人とかなんというかみみっちぃ連中だな!」
ルウは、笑う。
「放っておくとそのうち人間にシフトしそうだから、その前にネズミごと駆除しちまわないとなぁ!」
「一匹残るだけでも果物への被害は無視できないものとなる。俺たちは巨人への対処で手一杯だ。頼りにしているぞ、ご婦人方」
挺身隊のお嬢さん方は、異郷の御仁であるエーレンに、一人前の淑女相当の「ご婦人方」とかしこまった呼び方をされるとは思っていなかったようだ。まんざらでもない様子。
「君らの準備ができ次第、なるべく多くの敵輪巻き込むように掃射予定だ。誘導を任せた」
クロバは、上空から自分たちを俯瞰している視点を意識できる。そこから得られる情報が対局を決するひらめきを呼び込むのだ。過去に何度もあったという裏打ちがよりその制度を底上げする。
後衛に陣取ったラダは前を見据えている。
「緩衝地帯にいる間に決着をつけよう。果実は実るようになるまで何年もかかる、一度傷ついたら後が怖い」
乾いた土地に育った砂漠の民には、のどを潤す果樹は守るべきものだ。
「そうですね。では、連中の最後の晩餐を用意しましょう」
まだかなりの距離があるので、クロサイトという鮫は絶望の海を歌う。
オオタビネズミの旅の終焉と言われるところ。帰ってこられないとわかっていて目指すところ。
どこまでも冷たい呪いは飢えた獣を魅了する。
「見てごらんなさい。これはとてもおいしいんですよ」
稀代の菓子職人、ジェイル・エヴァ―グリーンがジュエリーフルーツ化させた太鼓の果物が、クロサイトの手によってオオタビネズミたちの前に差し出される。どこかの世界の黄金のリンゴのよう。
「ほんとうのほんとうにおいしい……」
クロサイトは声を詰まらせた。
オオタビネズミが濁った高音の鳴き声を上げる。
それを食わせろ。他でもない、それを食わせろ。口に入るなら親兄弟の肉もくらうオオタビネズミにえり好みさせる菓子職人に誉あれ。
「ついてらっしゃい。果樹園のものは――一口だってかじらせるものか」
巨人の進行を止めるため、クロサイトはオオタビネズミを引き付けて移動を始める。どこかの世界のどこかの国のどこかの街を救った笛吹き男のように。
「冴えない私にだって、守りたいものがあるんだ!」
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巨人たちは辺りを見回す。
肉の粒はよく動く。
肉の粒で腹ごしらえをしたら、今度はヒト共を引きちぎって歩くのだ。あんなろくでもない奴らを腹に収めるのはごめん被る。誰が食ってなどやるものか。
あいつらは地面を赤く染めるくらいしか役にたたないのだ。
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後衛の尽力により、オオタビネズミの鼻先が変わり、それにつられた巨人どもが前衛に側面をさらしている。
「とりあえず、巨人にある程度近づかなけりゃ攻撃もできんわけだしな」
エイヴァンは忍ばせた護符を鎧の上からポンポンと叩いた。風を蹴ることができるようになる護符はこういう時とても便利だ。
「先ずはあいつかな。目が合った不幸を嘆くがいい」
斧に艦砲をつければ最強だろうが、普通は実行に移さない。ましてや、もろもろの不都合を重甲とリンクさせてどうにかする力技を実践しない。生身がもたない。しかし、それを可能にできてしまうのがエイヴァンなのだ。
砲で加速される弾丸は万物を凍てつかせる定めを帯びている。決して果樹園の方に向けてはいけない。霜の害は馬鹿にできない。
遥か前方の巨人に着弾する絶対零度。きらきらと輝石は光を反射する。
声にならない咆哮。冷たさは度を越せば痛みである。凍ったところから血が噴き出す。
言い知れない痛みは目についた対象に叩きつけずにはいられない。敵味方の別もなく。
軍馬に恵まれたエーレンは幸いである。彼は戦場で独りにならずに済むだろう。
十分に果樹園から巨人が引きはがされたのを確認すると、もはや不確定要素を生かしておく理由はない。
眼下を走るオオタビネズミを通り過ぎ様一閃する。爆ぜる紫の電光に辺りは一瞬紫を帯びたしろに爆ぜた。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。お前たちも使役されて気の毒と思うがやられてやるわけにはいかん」
虚を突かれた中に現れ、馬から下りた小さきヒトが巨人の前に立ちはだかった。
頭を真っ赤に染め上げる怒りに巨人が身を投じ掛けたとき、トストが放つ淡水域から湧き上がる絶望の蒼がその頭の中身を塗り替える。常識改変、事実誤認。あふれかえる絶望は死に至る歌なのだ。ああ、絶望のうちにみな死ぬ定め。ならば、この手にかけるのは同胞でなくてはならない。
ラバは凪げない府の毒の量を確かめた。これだけ塗れば巨人と言えども何も感じないとはいくまい。
威力は巨人にとっては蚊に刺されたほどにも感じないだろう。しかし、宙を飛ぶさまが獰猛な肉食魚のようとたとえられた一撃は一撃で巨人の正気を殺した。
狂人の指が自分の顔面に突き立てられ、バリバリとかきむしった。顔の肉がそげ、血涙を流し、爪がはがれても止まらない。
「巨人の攻撃、狙われてはひとたまりもないが敵へ向かえば頼もしい限りだ!」
「ご主人様はお前たちの対応で夜も満足にお休みになっていない……」
クロサイトは巨人に無造作に近づくとこれ以上はないほどその足を冷やした空気中の水分が二溶出し凍り付き、分厚い氷が巨人の足そのものを楔にして地面に縫い留める。
「私よりもご主人様の心に居着く者は、一族以外全て滅べばよいのです……!」
正しく呪う言葉は、美しい破滅の呼び声の面目躍如。無差別でないだけ、クロサイトはとても優しい。
「やァ、やァ。力強き隣人、御伽噺の巨人。キミたちと戦うことになるとはね、因果なものさ」
ご主人様たる武器商人は、巨人のただ中に進み出た。懐に忍ばせた手折る暴食は囁く。
『友愛には友愛を、悪意には悪意を』
ゆえに、蹂躙には蹂躙を。
一歩踏み外せば炎獄に真っ逆さまの危うさがダンス・マカプルの真骨頂だ。ギルド謹製の概念重装の裾が翻るたび、重ねられた魔術の気配がこぼれる。
「でもまァ、戦うことになったなら仕方ない。楽しもうじゃないか、ねぇ? ヒヒヒ!」
ひらひら閃く、手にした朱の旗は進撃の旗印だ。
その端に呼ばれたようにルウが吶喊してくる。
年々肥大する巨剣と刃を追って仕立てた短剣。栄枯盛衰、あるいは鋼の命のサイクルのようなそれを一対のように扱って、巨人のむこうずねに巨剣を叩き込みその峰を探検でしたたかに打ち込んで連撃とする。
巨人の絶叫に森の鳥たちが空が黒くなるほど飛び立っていった。
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もちろん、巨人同士が殺し合うのを高みの見物とはいかない。
術中にはめるにはある程度の距離に寄らなくてはならないし、それは巨人目線では目と鼻の先だ。
ストローで吹きつけられる息は、どこかの世界では神の息吹、嵐と等しいものだったらしい。 簡易飛行で御するのも難しく。たびたびローレット・イレギュラーズは連携を崩されることとなった。虫を払うように振り回される手足はかすっただけでも洒落にならないダメージをイレギュラーズにもたらした。
それでも、イレギュラーズは巨人たちの隙を縫うように魅了と混乱と狂気をばらまき、巨人を無力化していった。
「前回の教えに習い足元から狙ってこう。膝をついたら頭を狙え!」
ラダが叫んだ。
足を砕かれて、なお魅了の中にいる巨人たちは這いずりながら互いにつかみかかり合う。
ローレット・イレギュラーズ達はより弱った方の足をつぶした。
「その幹のような足だとしても、膂力が並外れたとしても。果たして両足を潰されて立ち続ける事はお前らにはできるかな?」
クロバの神が銀になり、黒く侵食されていた左目の瞳の色は赤になる。黒炎と殺意を外套のように身にまとい、執拗に巨人の足を切り刻む。ばちんと爆音のように腱がはじける音がする。この巨人はもう歩けない。
殺す順番は決めていていた。
次の弱った巨人はどこだ。その次はまだ正気でいる巨人、最期に魅了や狂気や混乱に侵されている巨人。
「まぁ……出てくるところを間違えたよ、お前らは」
今期、最もオオタビネズミにまみれたクロバは総括した。
いっそ、最初のオオタビネズミ大発生辺りで出てきてくれたら、腹いっぱい食べてもらうような方策が取れたのに。ちまちまちまちまわいてくるオオタビネズミは本当に面倒だったのだ。
あるいは、この果樹園近辺なぞではなくどこかの大平原にでも現れてくれれば、近隣のオオタビネズミを底に追い込み以下同文。
「どうせネズミを食い漁ってくれるならもうちょい知恵を使って追い込んでくれ、って来世で覚えておいてくれよ!!」
いつかまたオオタビネズミが大量発生したら経験ありとして呼びつけられる未来、巨人によるバキューム作戦の是非が検討されるかもしれない。
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「最後の最後まで油断しないようにするぜ!」
ルウが几帳面にとどめを刺して歩いている。突出することなく、無理はせず、コツコツと巨人の足をぶん殴り続けていた。
巨人たちが完全にこと切れたのを確認したイレギュラーズはすっかり巨人の血をかぶってガビガビになっていた。
「しかし倒した後も難儀そうだな。墓穴ひとつ掘るにも苦労しそうだ!」
墓を作ってやろうと思うラダも優しい。
「いるだけ、動くだけで害をなしちまうって存在はどうしてもいる」
エイヴァンの脳裏に去来するそういうものは数知れず。
「話が通じるなら話し合えば良いが、そうじゃないことの方が往々にして多い」
そもそもその段階でどうにかなるなら、軍人であるエイヴァンの出番はないのだ。
「だったら、俺達にできるのは切った張ったするしかねぇわけだ」
軍とは国家の暴力装置である。仇なすものは蹂躙するのがお仕事だ。
「まぁ、巨人も商人も互いに運が悪かったってことで、この先は少しは楽しいことはあるんじゃねぇか?」
何とか鼻先で果樹園は無事だった。巨人が歩いた振動や暴風の影響で幾分実は落ちたが自然現象の域内だ。
「やれやれ……ひとの思惑が背後にあると思うと、いつもよりなんだか疲れるや。そういえば果樹園が近いんだっけ、寄らせてもらおうかなぁ」
青息吐息のトストの呟きに、武器商人は満面の笑みを浮かべた。
「ここでおもてなしもしないで帰らせたら領主の名折れだヨ。ぜひとも堪能してあちこちで話してくれれば言うことなしさ。サヨナキドリの農園に一切の瑕疵はなし。あるのは宝石のような甘味だったってね、ヒヒヒッ――まずは手当てが必要だネ」
ご主人様、体はともかくお商売には意気軒昂。
果樹園を守り切った忠義者の『フォルネウス』――満身創痍のクロサイトはようやく強張っていた頬に、弱弱しくも確かな笑みを受かべた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。果樹園はオオタビネズミからも巨人からも守られました。営業に一切の支障なし! ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。
GMコメント
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田奈です。
オオタビネズミの旅は、命を懸けた逃亡だった。
オオタビネズミをむしゃむしゃする巨人が来るぞー。
<フィンブルの春>宝石果実の果樹園、危うし! の経緯をさらっておくとより深くお楽しみいただけるかと存じます。
簡単に言うと、餌につられて本命が来たね! 聞いてない!
●地形・ジェイル・エヴァーグリーンの果樹園に至る領地緩衝地帯・東南地区。
薄曇り。天気の心配はいりません。
ゆるやかな起伏はありますが、戦闘に影響がある程ではありません。遠距離攻撃で視界が妨げられることもないでしょう。
ただし、モフモフが密集しているので通常より著しく移動速度が低下します。臨機応変に仲間のもとに駆け付けるのは何らかの手段を講じない限り無理です。
背後は、家屋、生産施設、果樹園です。ここに入られたら最後、甚大な被害が予想されます。
オオタビネズミが散発していますが、それは別動隊が処理してくれるので駆除に関しては一切気にしなくて大丈夫です。
●敵の情報
ストローを吹き鳴らす巨人×5人
身長8メートル。平均的イレギュラーズと同程度の速度です。カオスシードに換算するなら30代男性。古代めいた服装をしています。お察しの通り、膂力はすさまじいです。手足を振り回し殴ってきます。遠くからでも麦わらでフーされると転んでゴロゴロっとなったり、吸い込まれるとよたよたっとなったりしますので、姿勢を安定させるのに留意が必要です。
領地に入られたら、壊滅的な打撃を受けることになります。
レンジ4外の間合いからスタートです。
そのまま、ローレット・イレギュラーズの至近距離に入ってきます。
(参考情報)
オオタビネズミ×まばら
とてもよく食べるモフモフした見た目はでっかいレミングです。<ヴァーリの裁決>膝を守りつつ、薙ぎ払え! <フィンブルの春>宝石果実の果樹園、危うし! を参照ください。
数が少なくなったので、脅威度が非常に下がっています。
今回は、これの駆除については何も考えなくていいです。ただ、利用することは可能です。
●お嬢さん達による挺身隊他別動隊の皆さん。
善意とやる気で内的性をカバー。一人で二、三匹駆除できるくらいになりました。オオタビネズミは任せて大丈夫です。
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麦わらを吹く巨人の民話
幻想出身者は普通に知っている民話です。が、口伝えなので詳細はぐちゃまぜです。ハッピーエンドだったり、ほんとは怖い系だったりします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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