シナリオ詳細
<Liar Break>ハーメルンの笛吹き男
オープニング
●魔笛
何十匹にも至る大群で構成されたドブネズミ、そして十数人の子供達を引き連れた男が不気味に笛を鳴らしながら平原を歩いていた。
「アァ、マッタク。ローレットの奴らとは実に不愉快デス。ワタシ達は皆を楽しませ、自分のキモチに正直にさせてあげただけなのに……」
一旦笛を吹く事をやめて、そう愚痴をこぼす笛吹き男。彼のイデタチは赤や緑のまだら模様が付いた衣服を身に纏い、道化の化粧を施した不気味な顔からもヒト目にピエロのソレだと分かる。
おそらくは、『シルク・ド・マントゥール』の一員なのだろう。ノーブル・レバレッジ作戦の成功により貴族や民衆は味方となった事で、彼ら一座はこの幻想より逃げ出す事を選択したらしい。
しかし引き連れられた子供達はどうにもサーカスの一員ではないらしく、普通の幼子にしか見えない。――あからさまに目が虚ろな事を除いて。
男は長く細い溜息を吐いたのち、後ろに振り返って子供一人一人の顎を撫で始めた。
「伝承に倣って100人以上集めてみたかったんデスガ、まぁ。今はコレで我慢しときマショウ」
撫でる手付きはイヤに艶かしく、それを見ているだけでもぞわぞわする。
偶然その時に正気を取り戻した子供がハッと驚き、「きゃあ!」と声を挙げながら男の手を乱暴に振り払う。
鼠もその動作に興奮し、暴れ始めた子供へとわらわらと群がり、その柔らかい肉を貪るのである。
「アライケナイ。ワタシったら笛吹くのを忘れてイマシタ」
男はその悲惨な光景に対してまるで無感情に振る舞いながらも、手に持っていた笛を軽快に鳴らす。
その音色と共に子供に群がっていた鼠達一匹一匹は、まるで糸の付いた操り人形の様に子供から遠のく。悲鳴をあげていた子供もピタリと泣き止んだかと思うと鼠にかじられた傷を痛がる様子はなく、胡乱だ目をしながら立ち上がった。
やはり、子供と動物は正直だから良い。男はそんな事を言いながら、薄ら気味の悪い顔を歪める様にほくそ笑む
「サァ、参りましょう。嘘つきや意地悪なオトナがいない幸せで楽しい国へ」
●つまんだ酢漬けの唐辛子はどこにあるか?
「皆さん、緊急事態です!」
ギルドに駆け込んできた少年、『若き情報屋』柳田 龍之介(p3n000020)が大慌てでテーブルへ地図を広げ、何事か早口で説明し始めた。
「近隣の村から15名の子供が連れ去られました。犯人は幻想の迷宮に歩を進めており、その所属は――」
「サーカス一座の団員か」
その場に居合わせた『狗刃』エディ・ワイルダー(p3n000008)が静かに頷いた。少年もそれを肯定する様に大きく頷き返す。
「ノーブル・レバレッジの件以来、サーカスの公演は取りやめとなり幻想貴族や民衆は一丸となって彼らを封じ込めようとしました」
しかしサーカス一座も無能ではない。少年はそう言って、幻想領域の大山にあるダンジョンを指し示す。
「団員達はそれに勘付いて方々へ逃げ、各々の方法で検問を突破し幻想外へ逃げようとしています。その内の一人であるピーターという道化は自らを『ハーメルンの笛吹き男』と自称し、その伝承通りに子供達を引き連れてダンジョンへと立てこもろうとしている様です」
連れ去られた子供達の状態や引き連れられた鼠達の様子から、何かしら支配的な様な能力を持っているに違いない。自分たちの使命は子供達を出来る限り多く、無事に助け出す事だ。
無論、魔種とそれに連なるもの『終焉(ラスト・ラスト)』の勢力とおぼしきサーカス団員を見過ごすわけにも絶対に行かない。
「今回の件はオレも力を貸そう。幻想が一丸となっている今、子供たちが人質に取られては厄介な事になる」
逃げ切れられればもっと大規模な誘拐を引き起こすかもしれない。エディはそう危惧もあってイレギュラーズへの同行を申し出た。
龍之介は狗刃と呼ばれる彼とイレギュラーズが揃って戦う事に頼もしさを感じると共に、何処か不安げに一言忠告を述べる。
「ピーターの逃走経路は明らかに憲兵や我々が追いつく事を想定している様に思えます。……あの道化が伝承を模範しているのも、きっと何かしら目眩ましに違いありません。どうか御武運を」
- <Liar Break>ハーメルンの笛吹き男完了
- GM名稗田 ケロ子
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年06月30日 21時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●早期発見
「さぁ、皆さん頑張って。残酷なモンスター達が跋扈する楽しく可笑しいパレヱドのダンジョンはもうすぐデスヨ」
おちゃらけた、または馬鹿にする様な態度で操られた子供達を先導する道化姿の男。
それはまさしくハーメルンの笛吹き男を自称するピーターだ。彼は行進を続ける合間、ピタリと笛を吹くのをやめる時がある。
イレギュラーズの接近に気づいた、という訳ではない。そもそも今居る山林において、早期に相手の接近に気づくのは容易ではない。
では何故笛を吹くのを度々やめるか。それはひとえに、暇潰し代わりに子供が正気に戻って怯えたり泣き叫んだりするサマを見たいからだ。
周囲に怪我だらけの友人が立っていたり、血に塗れた鼠の大群が近くに居ればどんなに勇気がある子でも泣き叫んだり、あるいは悲鳴をあげたりするものだ。
「ほぉら、泣かないで。楽しい笛をキキマショウ」
ピーターが愉しげに笛を鳴らせば、子どもたちは糸が切れた様に力なく泣き止むのである。
「あぁ、泣いたりしていては悪いオトナ達に見つかってしまうというのに。悪い子デスネ」
悪い子にはおしおきをしなければ。ピーターは嗜虐的な笑顔を浮かべながら、その子供の頭を打ち据えようとした。
「勇者様の参上だぜ! おらぁ!」
それを遮る様に、何者か突如が鉄パイプを両者の間に振り下ろす。『異世界転生勇者少女(おっさん)』ツカサ・カルデローネ(p3p001292) だ。突然の一撃に少々驚いたピーターは、身を大きく翻してそれを避けた。
他の仲間達もそれに続いて、ピーターとの戦闘区域に入る。
「……此処を通ればある程度は時間が稼げると思っていたのですが」
「そんな風に笛の音を鳴らしていれば、遠くからでも聞こえるわ! 投降するというなら、このまま連行を考えても良くってよ!」
「それにへったくそな演奏の笛なんて効かないのです!」
ピータに向け、言い放つ華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864) と『希望を片手に』桜咲 珠緒(p3p004426)。瑞稀の聴力と、大量に残った子供達の足跡を見つけて捜索が早まったのもあるか。
「あと一つ。オレみたいなヒーローは子供の泣き叫ぶ声と、お前みたいな外道には敏感なんだよ!!!」
鉄パイプを構え、そう啖呵を切ってみせるツカサ。笛吹き男は冷静に彼らを見返す。表情が全く揺らいでないとみるに……成る程、魔笛に対する防備は完璧らしい。他のイレギュラーズも何人かは同じか。
「ふふふ、予定ではダンジョンに居る魔物を使ってサーカスでもやる予定でしたが……まぁ良いデショウ。可愛らしい鼠と子どもと、そしてこの美しいワタクシがおりなすパレヱドを御覧アレ!」
彼はそう言ったのち、魔笛を軽快に鳴らし始めた。
●奏者達
戦闘が本格的に始まり、一番早く動いたのは『蒼焔のVirtuose』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155) である。
彼は回復の術式であるエンゼルフォローを奏でる様に詠唱し、真っ先に子供の一人に放った。
ピーターはそれに対抗しようと笛を吹くも、ヨタカの演奏に競り負けたという事か。その子供は正気に戻った様にオロオロとし始めた。
ピーターの顔がやたが悔しげに歪む。続けざま、遠方から第二のエンゼルフェローが飛んできてまた一人子供を正気に戻した。
「耳を塞ぎながらあのブルーブラッドのヒトの元まで走って!」
正気へ戻った子どもたちへ、そう呼びかける『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375) 。二人の子供は怯えながらも頷き、エディの元まで駆けていくのである。
鼠の一集団が逃げた子供を食い殺そうと追いかけるのだが、エディは間合いに入った鼠を瞬時に切り払い、あるいは踏み潰した。
「此方は大丈夫だ。残りの子供とピーターは頼んだぞ」
難無く二人も助けられた事に、舌打ちするピーター。彼は鼠の幾らかをヨタカと四音に死角へと差し向けようとした。しかし回り込もうとした鼠達の一、二集団の動きが止まる。
どうした事かと注視してみれば――それらは血の泡を吹いて震えていた。何事か? ピーターが目を細めてみると、瀕死の鼠は霧の様なものに囲まれている事に気づいた。
「ねずみさん ねずみさん どこですか こかげの ねかたで ふるえてる ぷち ぷち ちゃぷ ちゃぷ らん らん らん♪」
毒の霧を撒いたのは『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)である。鋭敏な彼女は毒の霧を撒くと共に、味方を強化する魔力が込められたものを歌い始めていた。
「……まったく、本当に意地悪なヒト達デスネェ」
認めよう。やはり貴方達とマトモに戦うのは分が悪そうだ。
そんな事を呟いた後、軽快な動きで子供へ近寄ってから、懐に入っているナイフを取り出した。
●卑怯者
子供の方へ近寄ったピーターへ向け、ツカサは再び啖呵を切ってみせる。
「厄介な笛だが! 魅了させられねぇんじゃ意味ねぇよなぁ! 手も足も出ないとみたら、今度は子供を盾にするってか!?」
その挑発にピーターの口元が大きく歪みかけたが、彼は咄嗟に張り付けた気味の悪い笑みを取り繕った。
「ふ、くく。えぇ、そうです。貴方達は強い。前評判から、そして先程の迅速さからもそうなのでしょう」
そうして、彼は艶めかしい手付きで操られている少年の首筋にナイフを突きつける。
「その為の人質です。私に指一本でも触れさえすれば、この子を殺します」
まぁ少数の犠牲で多くを助けるナンテやられたら私もお手上げですが。いやらしくそう笑うピーター。
イレギュラーズがそんな手段に出たのなら、彼は出来る限り子供多く殺し、隙を見て何処かへ逃げるつもりに違いない。会って間もないイレギュラーズでも、そんな外道さが伺え知れた。
「何処までも”古典的”な事を……ヒヒヒヒヒ……!」
「予想通り、玉砕覚悟の嫌がらせ志願者だね」
それを理解してか『膿より不快な』狩金・玖累(p3p001743)と『闇之雲』武器商人(p3p001107)が、笑みを浮かべながらピーターを取り囲む。
子供達を助けるのが作戦のであるから、彼らは動けない。しかしピーターとてそれは同じだ。三人に取り囲まれた以上、この子を殺してしまうと後は純粋に彼らと戦うしかない。それはあまりに分が悪い。
ピーターは笛を片手で器用に演奏し、少年にナイフを突きつけている。
「きゃあ!!」
後方から珠緒の悲鳴。何事かと仲間達が見れば、数人の子供達と大量の鼠達が彼女に集中して群がっているではないか。
鼠を薙ぎ払おうにも、子供達が混じっていては彼らを巻き込んでしまう。カタラァナの毒霧も同様に。
「胸糞悪ぃな! おい! 気に食わねぇ……」
ツカサの罵りを聞いて、ピーターはやはり不敵に笑う。
「ふふ、選びなさいな。仲間を見捨てジワジワ倒されるか、子供一人見殺しにして大義をなすか。……貴方達ローレットがいつもやっている事デショウ?」
●後方にて
対応にたじろんでいると大きな鼠達に寄ってたかられる様に足指、脛、太腿の肉をかじりつかれ、珠緒の顔が苦痛に歪む。
振り払おうにも、胡乱だ目をした子供達が抱きつく様にしてそれを邪魔するのだ。しかも、獰猛な鼠達は珠緒と子供の見境無く噛み付いるのである。
――このままではまずい。そして、痛みに思わず足をつきそうになる珠緒。子供達の体も、もう限界に近い。鼠の一匹が、最後のトドメとばかりに大きく口を開いた。
しかしそれを、寸前に叩き付ける拳の一撃。
「後衛がっ……とでも思ったのかしらお馬鹿さんっ!」
華蓮が助けに来た様だ。その後すぐに、彼女や子供達へ向けて回復の魔法が届けられる。
「大丈夫、皆さんも助けてくれます。落ち着いていきましょう」
「あぁ……子供達を助けるのは……任せろ」
それを行使したのはヨタカと四音だった。比較的冷静な人物である二人であるが、彼らの言葉は何処かしら怒気を孕んでいる。
特に演奏者であるヨタカは、同じ音色を操るものであるピーターに度し難い怒りを感じていた。腸が煮えくり返るとはこう言う感情か。内心ではそんな事を考えて。
そうした混戦でまた一匹倒され、あるいはまた一人救い出され、珠緒と華蓮の手足が噛み傷だらけになって倒れる寸前になった頃合い。取り囲んでいた子供達の全員が正気に戻った様にたじろいで、足元の鼠から退く様に距離を取った。
「やりますねぇ。でももう一度駆け直せば――」
そうして、ピーターは子供達へ向けもう一度魔笛の音を効かせようとした。しかし、その音色をかき消す様に何者かのケタタマシイ声が鳴り響いたのである。
なんだ!? そう驚いて、周囲を見るピーター。
「ラララ、らぁな、カタラァナ~♪」
声の主はディープシーの歌姫、カタラナであった。その声色は魔術か何かで増幅しているのか、ヤケに大きい。
「珠緒さん!!」
ピーターの支配に隙が生じ、周囲を取り囲むのは薄汚い鼠達だけ。華蓮がその場から咄嗟に飛び退く。珠緒は頷き、武器を構えた。
いつ死ぬとも知れぬ身を召喚され、ここまで永らえた。だからこそ未来を得ることの大切さを、それを奪うことの下劣さを彼女は理解している。
「――この子達をはじめ、多くの方々の未来を好き勝手に汚そうとした非道。身をもって償うがよいのです!!」
万端の思いをその一撃に込める様に、目の前に集る鼠達を一薙ぎの駆逐したのである。
●心理戦
鼠達の殆どがやられてしまってギリギリと歯軋りをするピーター。あぁなってしまっては、残りの鼠達に回復手段の豊富なイレギュラーズ達を倒せる余力など無いに等しい。
他の子供達も次々に魅了から解き放たれていく。
「こうなれば、この子を人質に逃げるしかアリマセンネェ……」
ダンジョンまで行けば、其処に居る魔物を操って戦力の補充は利く。余裕を持ってそう考えたピーターはジリジリと後ずさるが、目の前に立ちはだかっている武器商人がくっくと喉を鳴らした。
「キミ、その子を大事に抱えてれば我(アタシ)が手を出さないとでも思ってるのかい?」
「えぇ、もちろん。ソッチの正義の勇者サマの様に、イレギュラーズはお優しいカタガタだと聞いてイマス」
舌打ちをするツカサを横目に、ピーターは不敵に返す。
「マサカとは思いませんが、人質を見殺しにするダナンテ。そんな非道な事をナサルノデ?」
「そう。そのまさか」
武器商人はまるで見せつける様に術式を目の前で展開し、それを人質の子供へ向け撃ち放った。
「なっ……!!」
周囲の仲間達は驚き、ピーターも人質が役に立たないと見て子供を捨てる様にバっと飛び退いた。
飛び退いた彼の視界に入ったのは、術式を当てられた子供。しかしそれは死に様ではなく、単に軽い衝撃でその場に倒れ込む程度であった。
――――非殺傷術!?
ピーターはその光景から相手が撃ち放った術式の性質を察する。
「そのままじゃ当たらなそうだからね。ヒヒヒ」
即座にピーターは子供を刺し殺そうとナイフを振り翳すのだが、玖累が間に割って入り、彼が召び出していた有刺鉄線に軽々と阻まれる。
「ざんねん、キミは、ウソツキで、イジワルな、ボクみてーなモノに、負けるんだよ」
「くっ……」
ピーターは玖累が子供を庇った隙に、どうにか逃げようと素振りを見せたが、それを見てツカサが攻撃を加える寸前に言い放った。
「どうした、手詰まりかオカマ野郎!!」
そうして、鉄パイプが顔面に突き刺さる。ここまで保っていた彼の卑しい笑顔が、ストンと落ちた様に掻き消えた。
「誰がオカマだこのチビクソガキがァァァッー!!!!!!!!」
そうして、破れかぶれにツカサにその凶刃を振り翳そうとするのである。
周囲の味方がこれを食い止めようと、味方は攻撃を撃ち放つ。しかしそれを受けながらもピーターは一太刀ツカサに加えようと止まらない。
そうして、ツカサの眼前に血だらけで憤怒の表情を浮かべるピーター。そのまま、彼はナイフをツカサの胸元めがけて振り下ろそうとした。背後にヨタカが何かを呼び出したとは気づかず。――いいや、気づいてもツカサを殺そうとする事を優先したか。
「さぁ……、貴様に奏でよう……生き尽く間もなく響く……魂の嘆きを……!」
この男を許してなるものか。ヨタカはそんな想いを音色に込めながら、蒼炎のドレスを身に纏いし骸骨を操る。
その骸骨は社交場に舞う様にしてピーターの短剣を振りかざした手を軽く取ったかと思うと、それは肉が溶ける様な音を立ててひしゃげた。
玖累が更にそれに対して、『あり得たかもしれない可能性』を引き出す魔術の様な代物を重ね合わせ、これまで加えられた傷痕を広げるが如く改竄した。
「贋作、御伽は無しってね。子供を連れ去る笛吹き男は、居なくなっちゃた方が御伽はハッピーエンドだよ」
「そんな、わたくしのパレヱドのはずなのに……なんでこんな奴らに……なんでわたくしが……死ぬ……? 嫌だ、わたくし一人で暗い底に堕ちるなんて……子供を、慰めの為に、子供は……」
うわ言の様に繰り返す瀕死のピーターに対して、四音はツカツカと歩み寄る。
「子供と一緒に死のうなんて、とっても素敵な悲劇ですね。悪くないです」
冷淡にそう言いながら、ピーターの頭蓋に魔力環を突きつける。
「でも、あなたはここで一人死んでください」
アァ、こんな意地悪でウソツキなオトナになるなんて。死んでも御免だ。
ピーターは武器商人を筆頭に彼らを憎々しげに睨んでいたが、その顔を吹き飛ばす様にして四音の魔法は放たれた。
●全員救出
「皆……此処まで……勇敢……だった」
残った鼠たちを処理し終え、子供達にそう言うヨタカ。
いくらかの子供達は足首の辺りに鼠にかじられた後の様なものが見受けられる。
痛ましい事を。そんな風に思いながら、回復魔法が使えるもの達は子供達をそれぞれ治し始めた。
「私達が居るから、街まではなのだわっ。……って、あいたた」
子供達は元より、集中的に狙われた者、特に華蓮は随分と深手を負ってしまった様である。
「まったく、鼠のど真ん中に飛び込むなんて無茶しやがって」
そう言うツカサであるが、その顔は妙に心配そうである。女が傷だらけというのは、彼の性格上あまり快い事ではないのかもしれない。
「おねーちゃん、だいじょーぶ……?」
子供の一人にも、心配そうに尋ねられる華蓮。
「心配ないのだわ。貴方達や仲間も守れたんだし」
彼女は笑顔でそう返した。エディは、それに関心した様に頷く。
「名誉の負傷というヤツか。ともかく、皆もよくやってくれた」
皆もその言葉に頷く。
「さぁ、御伽噺の様に洞穴から魔物が出てこられては敵わない。早く帰りましょう。そこの旦那の演奏を聞きながら凱旋といきましょう」
話を振られ、子供達へ聞かせようと静かにヴァイオリンを構えるヨタカ。
子供の一人がそれを見て「劇場に居た吟遊詩人のヒトだ!」と叫んだ、どうやら、過去に彼が劇場に出演したのを観た子が混じっていたらしい。
怯えていた子供達の目が様変わりする様に、期待の色に変わり。仲間達の興味も彼一身に注がれた。余談だが、彼はその状況下で難無く演奏しきったらしい。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
稗田ケロ子GMです。
まず真っ先に思った事は、魅了耐性が皆様とても万全で魔笛による魅了は付け入る隙が無かったです。
ピーターは重傷負わせてから戦線崩壊を狙った様ですが、復活宣言や回復も完備。
華蓮さんは復活処理によりパンドラ-3(報酬別)となりましたが、それを使わなければもう一人の味方に全て攻撃が注がれていました。そうなったら、どうなったかは分かりませぬ。
傷については痕が残ったか完治出来たかについては全て当人にお任せします。
報酬については全員救出したので微増しています。彼らの親や本人達からお礼のお手紙も来たかもしれません。
なお、武器商人さんの霊魂疎通についてですが、彼の魂と会話しようとする前に気配が掻き消えたしまったそうです。
単純にピーターがイレギュラーズを拒絶したからなのか、それとも彼ら魔種がそういった代物なのかは判然としませぬ。
GMコメント
■情報制度:B
オープニングで描写された事に嘘の情報はありません。
しかし何故対象が追走しやすい道を選んだのかは現状不明です。
オープニングと以下の詳細情報から作戦の判断をお願いします。
■成功条件:
「ピーターの撃破及び殺害」
「子供を10名以上救出する事」
子供達全員を無事に救出した場合、報酬に若干のボーナスが加算されます。
■NPC
エディ・ワイルダー:
基本的にはイレギュラーズの指示に従います。特に指示が無い場合、負傷を受けた子供やイレギュラーズの保護に集中します。
なお、彼自身の特殊抵抗はそれなりに高めですが、接近戦主体なのでピーターと相性が悪いです。(理由後述)
龍之介:
情報屋である彼は現場に同行はしません。
しかし追跡用の馬や簡易的なものであれば、出発前に用意してくれるでしょう。
■立地
大平原:
乗用馬を全速力、あるいは何かしら素早い乗り物を走らせればこの立地で追いつけるでしょう。
この立地には特に目立った障害物はなく、驚異的なモンスターも生息していないので小動物が多く生息している安全区域です。
森林:
草木生い茂る事場所は乗用馬を走らせるには向いておらず、空から観測・追跡する事も難易度が高いです。
それといったモンスターは生息しておらず、また小動物の生息も少ないですがとにかく悪路。障害物も多いです。ほぼ強制的に徒歩となる事でしょう。
大山(ダンジョン入り口):
相手は子供を引き連れて行軍速度が遅い事から、此処に先回りして待ち構える事も出来ます。
待ち構えるという都合上不意打ちはまず受けず、逆に奇襲も可能かもしれません。
しかし周囲や内部には複数の魔物が確認されているのでそれには注意。
■エネミー情報
子供:
その数15人。便宜上エネミーの項目に分類されていますが、救出対象です。
一般人の子供という事でステータス値はかなり低い扱いとなり、大抵は攻撃一発で死亡してしまいます。
強力な【魅了】のBSに陥っており、イレギュラーズが攻撃を回避し辛いように妨害してくるものと思われます。
【不殺】の付いた攻撃で無力化、あるいはBS回復などそれらで救出が可能でしょう。
BS回復の場合は、イレギュラーズが行動回数を使わずに彼らへ逃げる事を指示出来ます。
(マークやブロックを受けていない限り、耳を塞ぎながら安全圏へ逃げ去る扱いとなります)
鼠の群:
数十匹から構成される大きな鼠の群。支配の魔術で強化されており、一挙に集中して群がられるとイレギュラーズですら大きなダメージを受けます。
システム上は5匹ごとに一体と扱い、HPも5匹で共有する扱いとなります。
代わりに範囲的な攻撃に対して非常に脆弱で、特殊抵抗も殆どありません。(複数対象のダメージは5倍の値として扱います)
ハーメルンの笛吹き男『ピーター』:
シルク・ド・マントゥールの一員。見た目通り狡猾かつ残忍、追い詰められれば人質の子供に手をかける事をためらわないかと思われます。
軽業師の様に身軽で、反応や回避の値が高め。
魔笛:
特殊レンジ。自身を中心とした広範囲にBS【魅了】を付与します。これ自体にはダメージ無し。
この魅了は強力で、後述するナイフのダメージが跳ね上がります。
距離が遠くなるにつれ、あるいは音色を妨害されると段階的にBS確率は下がります。
至近の場合、特殊抵抗がよほど高くなければBSにかかる事でしょう。
ナイフ:
切れ味の鋭いナイフです。ただそれだけなのですが、BS【魅了】にかかった対象は彼の攻撃に対して無防備扱いで命中時は確定で殺害、もしくは戦闘不能にします。
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