PandoraPartyProject

シナリオ詳細

風の如く、歪な連理

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 美しき白色の月はちょうど雲に隠れ、松明の日は風に揺らいでいる。
 凍てつく木々が天を突くように空に伸びている。
 凍樹の突っ切って走る街道の先に、その砦は存在していた。
 木々の間を滑るようにして彼らは砦に取り付くと、一気に壁面を駆け上がった。
「ふわぁぁ」
 大あくびを立てた見張りの鉄騎種へ、飛びこむようにして姿を現した影。
 口と鼻を抑えられ、首を絞められたその兵士は、だらりと床へ落ちる。
 それをこなした飛行種は同じように他の兵士を黙らせた同胞へ頷きあい、火矢を砦の内側目掛けて射かけた。
 その間に別の飛行種が城門を開け放ち――鬨の声が響き渡る。
 ――その日、その城塞が落ちるまで、殆ど時間はかからなかった。


 暖炉の音がパチパチと音を立てている。
 報告書にさらさらとサインを記したユリアーナは、ぐぐっと身体を伸ばす。
 次の文書に目を通そうと視線を机に戻した時、外からノックの音が聞こえてくる。
「入ってくれ」
 告げればすぐに1人の部下が顔を出す。
「緊急か?」
 その部下が報告してくるような内容が思い当たらず、思わず立ち上がって出れるよう準備しかけたところで、部下がそれを否定する・
「団長にお客様がいらっしゃいました」
「……そんな予定はなかったと思う――が」
 訝しむ言葉は入ってきた影を認めて尻すぼむ。
 深めの青がかった黒髪をゆらめかせ、女性が笑みを浮かべた。
「姉さん。元気してた?」
 そう言って女性は笑い、腰に手を当てて軽く立っている。
 血のつながりはない。けれど、そう自身のことを呼ぶ彼女のことをよく知っていた。
「あぁ、もちろん。久しぶりだな、イルザ」
 ハグを交わして、本人だと実感すると、肩に手を置いて顔を見た。
「それより、今までどこで何をしてたんだ? お前が報告を寄越さないのはいつものことだが」
「うん、ちょっと色々とね……」
 少しばかり驚いた様子を見せる女性――イルザはその言葉に苦笑いを浮かべ、直ぐに顔を真剣そのものに戻す。
「っと、それより。姉さん、ちょっと前にイレギュラーズに手を貸してもらったって言ってたでしょ?
 口添えしてほしいんだ。僕その辺良く分からないし……」
「彼らなら依頼すればすぐに納得してくれると思うが……まぁ、たしかに初めて依頼するとなったら緊張するか。それで、何を相談するんだ?」
「うん、実は――――」
 イルザは小さく頷くとより詳細の情報を話し始めた。


「諸君、よく集まってきてくれた。
 私の妹分から諸君らに仕事を頼みたいと言われてね。
 助けてやってほしい」
 スチールグラードにあるローレットの支部で依頼を受けた君達に、ユリアーナが語りかける。
「イルザだよ、よろしくね」
 ウインクを一つ。柔らかく笑ったイルザというらしい青みがかった黒髪の女性は、直ぐに表情を真剣なものに変える。
「実は、ヴィーザル地方へ向かう街道沿いの城塞の1つに、ノーザン・キングスの兵が侵攻するっていう情報があるんだ。
 ……いや、正確には『あった』だね。既にノーザン・キングスの兵は砦を夜襲、陥落させたみたいだから」
 ノーザン・キングス――ゼシュテル鉄帝国の覇権に異を唱えて剣を取ったヴィーザル地方の部族が糾合され生み出された国。
 彼らは一枚岩とは言えないながらも、乗り気ではない鉄帝国へと反抗を続けている。
「……正直、砦が陥落したことはさほど重視する問題じゃない。はっきり言って、気を抜いてた現地の守将の落ち度だから。
 問題は、今回の事件に『ノーザン・キングス以外にも関与している者達がいる可能性が高い』ことなんだ。
 今回、攻城戦を行なった者達は『あまりにも戦慣れしてた』っていう話でね」
「ノーザン・キングスを軽視するわけではない。
 今回はハイエスタの将兵がシルヴァンスの将兵と手を組み行動していたらしい。
 そして、シルヴァンスの飛行種が城門を開いたところを面制圧に長けたハイエスタの歩兵が雪崩れ込んだ。
 これがその守将が言う敵の戦術だったらしい。あまりにも効率的で自分達の長所を心得た分担方法だとは思わないか?」
 イルザに続けるように、ユリアーナが結ぶ。
 ノーザン・キングスという、1つの国になったのである。
 多少いがみ合うこともあろうが彼ら同士で連携だって取れるだろう。
「――だけど、それにしたって限度がある。事実、彼らは一枚岩ではないわけだしね。
 ……だから、彼らを『効率的に運用できるように教えた奴らがいる』――かもしれない。
 それって、厄介なことになるかもだろ? だから、その調査をしたいんだ。
 あぁ、僕が砦まで案内するよ。こう見えても腕には自信があるからね」
 そう言ってイルザが再びウインクする。
 鉄帝の軍人、というにはどことなく軽い調子が見え隠れした。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。
ノーザン・キングスに関連するシナリオとなります。
それでは早速詳細をば。

●オーダー
【1】砦の奪還
【2】砦内部に残った敵の情報を収集する。

【2】は努力目標です。

●フィールドデータ
 街道沿いに建てられた城塞です。
 皆様の到着時、一時的に城を占領していたノーザン・キングス軍は既に主力が撤退。
 殿のみが現在も城塞に残っています。

●エネミーデータ
・『氷剣』アナトール
 ハイエスタ出身の守将。屈強な体躯をした人間種の男性で、やや細身で剣身が長めの長剣を持ちます。
 体躯と武具から想像できる通りの武闘派ですが、母方が魔女の系譜であるため、魔術的感性を持ちます。
 HP、物攻、命中、防技が高め。【氷結】系列のBS、【ブレイク】を持ちます。
 剣を使用しての近距離戦闘が基本ですが、剣圧に冷気を乗せての遠単攻撃も可能です。
「――さあ、来なイレギュラーズ! アンタらが腕利きばっかだってのは知ってるぜ!」

・ハイエスタ兵×6
 両手剣や槍、斧などを持つハイエスタの兵士達です。
 HP、物攻、命中に秀で、中距離戦闘に秀でています。

・『飛翔する』シーラ
 シルヴァンス出身の守将。線の細いノハラツグミの飛行種。
 スチパン風のパワードスーツに身を包んでいます。
 鉄帝軍が捨て置いた熱線を放つライフルと剣身が熱を持つと共に赤く光る曲刀を持ち、
 ライフルを用いての【貫通】属性の超遠距離攻撃、曲刀を用いての至近距離攻撃の二刀流です。
 神攻、命中、反応、EXAが高め。【火炎】系列のBSを有しています。
「おそろしい、恐ろしいです。恐ろしいですが……ただ退くのも愚かです。
 さぁ、参りましょう!」

・シルヴァンス兵×6
 複数種の鳥類で構成される飛行種です。
 鉄帝軍から鹵獲したであろうナイフと銃を用います。
 スチパン風のパワードスーツに身を包んでいます。
 HP、物攻、反応に秀で、至近~遠距離戦闘に秀でています。

・『???』ユアン
 城塞に残るノーザン・キングス殿隊に同行する人間種。
 筋肉質ですが隆々とまではいかず、物静かな雰囲気の一方でどことなく怜悧な雰囲気を覗かせます。
 武器はやや長めの片手剣。魔術の心得もありそうです。皆さんの様子を観察しているようにも見えます。

●友軍データ
・『壊穿の黒鎗』イルザ
 青みがかった黒髪をした人間種の女性です。穂先を魔力で延長させる特殊な槍を振るいます。
 物神両面に加えて反応が高めのパワーファイターです。皆様と同程度の実力を有します。
 皆様に対して好意的で、共闘できることを心の底から喜んでいます。
「ま、僕は鉄帝軍人ってわけでもないけど、役得だよね。
 音に聞く英雄と肩並べて戦えるってのは」

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 風の如く、歪な連理完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月30日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
リズリー・クレイグ(p3p008130)
暴風暴威
雑賀 才蔵(p3p009175)
アサルトサラリーマン
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き

リプレイ


(ノーザン・キングスの戦士達を効率的に運用できるように教えた奴らがいる……
 味方なら大変心強い状況だけれど彼らは一枚岩ではないと、やや楽観的に構えていた鉄帝にとっては看過できない事ですよね)
 辿り着いたと砦の寸前、『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は拳を握る一方で肩に乗っていた烏に視線を向ける。
「セス! 僕の戦うところ見ててね! セスが応援してくれたらボク物凄く気合が入るよ!」
 烏――もとい烏に変じたセスの鳴く声が響いた。
「特に、ボク達の事を遠くから見てる人の特徴をよく見てほしいな!」
 もう一つ声をかければ、セスの声がして羽ばたきが聞こえた。
「ノーザンキングス如きに城を取られるとは、怠慢でありますな。
 騎士(メイド)として、ここはあるべき姿をびしっっと見せてやるでありますびしっっと」
 腕を突き出して素振りするようにみせる『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は、その一方で視線を別の方に向ける。
「うん? どうかしたかい?」
「やー、今のところはなんでもないでありますよ。
 それでは……おーい、ケンカしようぜでありまーす腰抜け共ー」
 視線を向けた相手――イルザが不思議そうにこちらを見て声をかけてきたのを何気なくスルーして、エッダは走り出す。
「鉄帝を共通の敵とする奴等がノーザン・キングスと繋がりましたか?
 ……だとすると厄介ですね。そうなる前に対処しておきたかったのですが」
 武骨な長剣を抜き、敵――特に飛行種を鋭く見据える『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)はノーザンキングスへの嫌悪感を見せる。
 鉄帝人として――鉄帝に弓引く者は許せない。
(……どうあれ、今回は味方にサリーシュガーさんとフロールリジさんがいます。情けない戦いは出来ませんね)
 剣を握る手に力が入る。視線はちらりと先に立つ2人に向いていた。
「キナクセぇ依頼だ。導火線に火が着いたみてーな臭いがプンプンしやがる」
 拳を握って掌と打ち付け『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)はそう言った。
 口調の割にはどことなく機嫌が良さそうだ。
「……ハッ! まぁいいさ、なんせったって美人が同行するんだからな! ゴキゲンだぜ!
 ちらりと視線を向けたのは同行人のイルザ。
「僕のことかい? だとしたらありがとう。 ……そろそろ行こうか」
 その言葉とともにイルザが走り出す。
「裏事情や以前の状況はともかく、現状の敵は『とても戦慣れして』いて『長所を活かした役割分担と効率的な連携をしている』ってわけよね?」
 司桜を御桜、それぞれを取り出した『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)は戦意にを昂らせる。
「ノーザン・キングスに先入観を持たないボクは、目の前の敵をある意味客観的に認識できる。だから、皆の調整も出来ると思うわ」
 手甲へと姿を変えた司桜で桜色を湛えた剣を振り抜いた。
「さて、一枚岩では無いノーザン・キングスがこうも上手く連携し砦を落としたとなるとなんともきな臭く厄介ではあるな」
 レンズの越しに砦を見据え、『同じ傷跡』雑賀 才蔵(p3p009175)は情報の再確認がてら口に出していた。
「あっはっは! 連合王国ノーザンキングス、なーんて謳っちゃあいるが、奴らの中の悪さは筋金入りだからね!」
 そんな才蔵の言葉を聞いて、『厳冬の獣』リズリー・クレイグ(p3p008130)は豪快に笑い飛ばすと、愛剣を担いで敵の方を見た。
「まぁ、でも……誰だか知らないが、利用する側も大変だろうよ。
 仲良く砦攻め落としたってだけで他所の介入を疑われちまうんだからさ」
 すぅ、と視線を鋭くして砦を見据えればこちらを警戒するような敵の布陣。
「実際、作戦行動を取ること事態は不思議じゃ無いさ、ただそれぞれの長所を生かした戦術となると話は別だ。
 何者かの介入があったと見て良いだろうし、砦の奪還も一筋縄ではいかないだろうな」
 ライフルを構え、見据えるは城壁の上でこちらを待つ飛行種達。
 身を潜めながら、才蔵は静かにその時を待つ。
(ノーザン・キングスというと、各部族がただそれぞれの好きなように動いてるんだと思ってたけど……)
 仲間達の会話に耳を貸しながら『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は思考する。
 敵の様子を見るに、確かに連携して動いているように見える。


「ボクが相手よ! ボクの業炎の桜吹雪で、貴方の『氷剣』、見事散らしてあげるわ!」
 両手剣や槍、斧と言った武器を構える人間種の一団へと走り抜けた蛍は、そのまま桜色の剣を振り抜いた。
 吹雪を散らし、桜に燃える炎が、伸びてきた冷気纏う長剣とぶつかり合う。
 衝撃の瞬間、桜色の炎が周囲を焼き――舞い散る炎に周囲にいる数人さえも巻き込んでいく。
「――はっはぁっ! いいねえ! やってみせな、嬢ちゃん」
 楽しげに笑ったアナトールが体重を押し付けるように一歩前に出来た。
 向こう側、城壁の上に赤い点が見えて――刹那。
 音を立てた熱線が戦場を駆け抜ける。その砲撃はリュカシスを捕らえていた。
「殿として残っているだけあって精鋭達みたいです! 気合いを入れて! 行くぞ、力こそパワー!」
 浴びた熱線を受け止めて、リュカシスは自らを鼓舞するように声を上げた。
 握りしめた拳をそのままに、そちらに向かって走る。
 続けるように放たれるほとんどの砲撃を受け止めながら、近づいて立ちふさがる。
「砦の奪還、必ずや果たしますよ!」
 リュカシスが見せた不屈の猛牛を思わせる闘志に満ちた金色の瞳におびえるように、シーラが震えていた。
「おそろしい、おそろしいですよ、さぁみなさん、彼から倒しましょう!」
 そこに向けて次ぐように走るのはオリーブ。
 武骨なりし長剣を引くようにして走りぬけ、シーラへと到達するその瞬間、踏み込みと同時に剣を放つ。
 それは栄光を掴むべく放たれた牽制の刺突。
 真っすぐに撃ち込まれた刺突が彼女のパワードスーツに傷を入れた。
「くぅぅ……な、何故私から!?」
 腹部を抑えたのを見ながら、空いた隙目掛け、もう一度剣を振るう。
 防御さえ間に合わぬ軌道の剣が強かにシーラを撃つ。
「何故って……貴女が見るからに一番面倒そうですから」
 自分以外にもシーラを落とさんとする気配を察しながら、オリーブは剣を引いて構えた。
 細剣を握り締め、魔力を籠めたイズマが一気に駆け抜ける。
(裏に何かあるかもしれないし、なるべく迅速に倒してトドメは殺さないように……)
 思い描きながら駆け抜ける。
 そのまま細剣を用いて指揮でも奏でるようにイズマは剣を払っていく。
 不規則な剣先は複数の敵を巻き込み、傷を与えていった。
 引きずり出され始めたシルヴァンス兵達とシーラをスコープ越しに見据え、才蔵は息を潜めていた。
(パワードスーツを身に着けていることを鑑みて……狙うべきは――)
 普段通り落ち着いて引き金を引けば、引きずり出されたシーラ目掛け弾丸が放たれた。
 死の凶弾は才蔵の持つ高い命中センスもあって真っすぐにシーラの翼の一部を貫いた。
 羽毛が爆ぜて舞い散り血に濡れるのを視認する。敵の視線が微かにこっちを向いたのを見て一度息をひそめていく。
(不確定要素への警戒役は既に決まってる、盾役もいる――なら、俺の担当は)
 ブライアンは真っすぐに走り抜けた。
 視線の先には銃撃で受けた翼を庇うように飛ぶシーラ。
 踏み込み、収めていた斬鬼を握り――振り払う。
 大鎌による刈り取りの如き軌道は導かれるようにシーラの翼めがけて刈り取らんとばかり駆け抜ける。
 走り抜けるリズリーは真っすぐに駆け抜けると、ある程度のところで大きく踏み込んで跳躍する。
「落ちなァ!」
 重量で殴りつけるように振り下ろしたベアヴォロスの衝撃に、で防ごうとしたシーラが地面目掛けて落下する。
 低空であったこともあってダメージは期待できないながら、ぐらつきながら落ちたその身体には新たに傷が刻まれている。
 エッダが見るのはシーラの後ろ、未だに城壁の上でこちらに照準を向ける2人のシルヴァンス兵。
 こちらを見る敵の瞳の動き――撃ち込まれた銃弾を体捌きで退け、踏み込む。
 城壁を駆け抜けてたどり着いた敵の首根っこを抑え――城壁から飛び降りた。
「「うわぁ!?」」
 悲鳴が2つ。空中で身をくるりと翻して、彼女らを地面に叩きつけんばかりに振り下ろした。
「流石に飛行種、着地する前に起き上がったでありますか?」


 リュカシスは戦場を飛翔する烏の姿を視線に捉えた。
「……逃げられる!」
 視線を別の方向へ向ければ、先程から感じていた値踏みするような視線が無くなっていた。
 リュカシスは勢い良く踏み込んで拳を握り締めた。
 全身のバネを利用して、渾身の力を籠めたままに振り抜いた拳が真っすぐに鋭く走り抜ける。
 突き立つような拳の撃ち込みは、咄嗟に防御態勢をとったシーラの芯を捉えて殴りつける。
 鋭い拳打に、パワードスーツの一部が砕け散った。
「死んでもらっては困るからな……」
 傷を負った者がほとんどのシルヴァンス兵をスコープ越しに見据え、才蔵は再び引き金を弾いた。
 確かな空間把握、行動予測より紡がれた無数の弾丸は放物線を描いて仲間たちの頭上を越えていく。
 降り注ぐは無数の驟雨。鋼鉄の弾丸は巧みなコントロールによって急所のみを外してシルヴァンスを抉り取っていく。
 剣が、斧が、槍が、蛍を目掛けて振られてくる。
 それらの多くを捌き、なんか受け止めて、蛍は剣を払った。
「ノーザン・キングスの、ハイエスタの力はその程度?」
「言うだけはある……とてつもない堅牢さだな」
 挑発的に言い放った言葉に、アナトールが感嘆の声を漏らす。
 堅牢な防御技術、卓越した回避能力、真っすぐな意志。
 それらを持つ蛍の守りは七対一でも決して劣る状況にはなかった。
「――痺れるねえ! ここまで真っすぐに支え切られたのはいつぶりだ!」
 笑ったアナトールが剣を構え――蛍の隣に影。
「待たせたね」
 そんな声と同時に踏み込みが入り、ガントレットが構えられたアナトールの剣に打ち据えられる。
 その声がリズリーの物だと悟るのと同時、アナトールが体勢を崩すのが見えた。
「ぐぅ……! シルヴァンスのやつらは、倒れたか……!」
「やっとアンタたちの番さ! 簡単にぶっ倒れてくれるなよ!」
 剣を構えたリズリーにアナトールが、周囲にいるハイエスタたちが警戒を見せる。
 集結するような彼ら目掛け、オリーブは踏み込んだ。
 静かな踏み込みと、真っすぐな一太刀は、一息にハイエスタ勢を飲み込み切り裂いた。
 各々の武器を持って防がれこそするもの、殺されきれない傷がハイエスタたちの身体に流血を刻む。
 バチリとスパークが爆ぜる。
 イズマは真っすぐに駆け抜けると、踏み込みと同時に雷鳴を爆ぜる細剣を振り抜いた。
 それは正しく雷霆さえ斬り伏せるが如く洗練された剣閃。
 美しき青い輝きを帯びて紡がれる斬撃は真っすぐに眼前に立つハイエスタ兵へと紡がれる。
 迸る斬撃にハイエスタ兵の身体が焼け斬り裂かれた。
 振り抜かれた剣にブライアンは合わせるように剣を添えた。
 ハイエスタの剣がその身を削るのに合わせるようにしてブライアンも斬鬼を振り抜いた。
 強かに撃ち込まれる斬撃を抑え込み、反撃に打ち込んだ剣。
「生憎とカウンターは得意分野だぜ」
 隙を見せる敵へ、真っすぐに剣を振り抜いた。


 殿部隊を退けたイレギュラーズは砦の中に潜入し、幾つかの物品を押収して砦の中の本部らしい場所に足を踏み入れていた。
「……そっか、東に行ったんだね?」
「ああ、そうみたいだ。途中まで追ったがある程度のところで姿を見失っちまった」
 煙草に火をつけたセスは少しばかりそれを吸ってから、リュカシスに視線を向ける。
「顔は記憶してる。あとで似顔絵にでもするといい。……だが」
 口を放して、一息入れて、セスがリュカシスの方をじっと見た。
「まず間違いなく、厄介な敵だ。大丈夫か?」
「心配してくれるの? でも大丈夫だよ!」
「そうかい、ま、チビの元気な姿が見れて良かった。かっこよかったぞ」
 ぐしぐしと頭を撫でられて、リュカシスは照れ笑いを浮かべるのだった。
「やー終わったでありますなー。ところで、でありますね」
 伸びをしたエッダはそのままその視線をイルザの方に向けた。
「なぜ軍人でもない者が、砦の奪還を依頼する。
 イルザとやら。貴様は何者だ? 答えて貰おう」
 視線を鋭く。鉄帝軍人としてのエッダ――エーデルガルトの視線を受けた相手は、しかしまるで意に介していない。
「まぁ、そりゃそうだよね。僕を警戒するよね」
「私はあまり気の長い方ではないぞ」
 詰問の視線を向ければ彼女は静かにエッダだけを見据えてくる。
「僕は――君達の味方だよ、フロールリジ殿」
 エッダと視線を合わせるようにしてイルザが言う。
 それはイレギュラーズ――ではなく鉄帝を示すように、ただひたすらにエッダのみを見据えていた。
「ボクが鉄帝軍が来る前に奪還をお願いしたのは、単純に『無意味に攻撃で破壊されて証拠が消されちゃ困るから』だよ。
 クレイグ君も言ってた通り、『仲良く砦攻め落としたってだけで他所の介入を疑われちまう』。
 だからこそ、本当にあいつらが彼らに介入している確固たる証拠がいる。別だったら僕が関わる話じゃないからね」
 リズリーは自分の名を呼ばれたのを聞いて視線を向ける。
「それってーと、どういう意味だい? あたしらを利用したってことかい?」
 いつでも剣を抜けるように手を置いたリズリーにイルザは小さく首を振った。
「そういう事じゃないけど……いや、ごめん、そうとも言えるね。僕は『ラサを出て鉄帝に入ったとある傭兵団を追ってるんだ』。
 先入観を持っちゃうと困るから君達に黙ってたってのはあるし、それを利用したと言いかえるなら、その通りだ。
 しかもあいつらは厄介事を持ち込む気だってことは分かるから余計にね」
「ふむ……つまりミスイルザ、貴女はラサの傭兵か?
 だが……だとしたらどうしてラサの傭兵がわざわざ鉄帝に肩入れする」
 才蔵の問いに、イルザは静かにうなずいた。
「それは単純だよ。これでも元は鉄帝人……僕にとってもこの国は故郷だからね。
 軍人として国に尽くすのは柄じゃないけど、流石に故郷を食い物にされるのは気に食わない。
 そうだとしたら阻止するために全力を賭したい――だから来たんだ。一応、鉄帝軍へのコネもあったからね」
「……戦場を離れていった男が誰だったのか、貴女は分かりますか?」
 オリーブはイルザに向かって問いかける。
 イレギュラーズがシルヴァンス兵と戦っていた時点で観察するようにして戦場にいた敵は姿をくらましていた。
「あいつらはある意味では一番、傭兵らしい傭兵の仕事をするやつらだよ。
 戦争に出て戦場で敵を斬り伏せ、その狂乱の中に生きることでしか生を実感できない欠陥者達。
 少し前までは戦争屋なんて名乗ってたけど、今は違う」
「……つまり、彼らの目的は戦争をすること、ですか」
「そこまで行けるほど大規模な勢力になってるかは分からない。でも少なくとも、騒動を引き起こすつもりで来たのは確かだよ」
「っつーことはやっぱり今回の攻撃は『予行練習』とかか?
 ってなると、やっぱりあいつらから吐かせるか」
 それは、ずっとブライアンの脳裏に思い浮かんでいたことだった。
 けれど、その問いかけにイルザは小さく申し訳なさそうに首を振る。
「予行練習かどうかは分からない。――多分、彼らを殴っても何も出ないんじゃないかな?
 じきに導火線に火をかけるのはその通りだろうけど」
「……ねえ、あれは何かしら?」
 蛍は視線を上げて指をさす。出入口の上、壁面に描かれたそれは何かの紋章に見えた。
「それがあいつらの紋章だよ。でも、あそこまで露骨に掲げるってことは、あいつらが――鉄帝国に……そして、君達イレギュラーズに喧嘩を売る日は、そう遠くはないだろうね」
 イレギュラーズに見覚えがないその紋章を睨み、彼女は静かにそう言った。
「しかし、だとしたら何故協力関係となったのだろう?」
 イズマは疑問を抱いた。敵が鉄帝国やイレギュラーズに喧嘩を売るつもりがあるのなら。
 何もノーザン・キングスと手を結ぶ必要性はない――はずだ。
「あぁ、それは多分――動員兵力を増やすためだろうね、単純に。あっちで縛り上げられてる彼らの理由は……判らないけど。
 彼らもノーザン・キングス――鉄帝に弓を引く側に立ったのなら、個々人の事情はあるんだろうね」
 イズマの疑問にイルザが申し訳なさそうにポリポリと頬を掻いて苦笑していた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

1人取り逃がしていますが、さほどの問題はないでしょう。
お疲れさまでしたイレギュラーズ。

PAGETOPPAGEBOTTOM