PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ふたりごとは羊皮紙に乗せて

完了

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 レガド・イルシオンの片隅――聖教国ネメシスに程近く、大海を臨むドゥネーブ領。
太陽が燦燦と輝き、夏が近いことを嫌でも気付かされるこの地の昼下がりも、領民達は茹だることなく活気付いていて。
 通りに商店が立ち並ぶ中に、『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ (p3p007979)とマルク・シリング (p3p001309)が揃って歩を進める。
「すみません、マルクさん。何だか手伝わせてしまったようになって」
「ううん、大丈夫。むしろリンディスさん一人に任せちゃってごめんね」
 マルクが抱える手の中には、色とりどりの野菜に、新鮮な魚に、まあるい塊のチーズにと食品がぎっしり詰まった紙袋が一つ。
 その腕に下がるワインボトルがはみ出す袋の紐が、半袖となったことで露わになったマルクの腕に食い込むのをリンディスとて気付かないわけはなく――赤くなったその肌に、マルクの気配りを感じる外ない。
(私が持ちますと言っても、平気だからと言うんですから……)
 二人が所属するギルド――黒狼隊は、ここドゥネーブに居を構える。平素であれば到底一人では買い出しなど不可能な大所帯も、今日ばかりは偶然にも他国での仕事が重なり随分と静かなもので。
 それ故に一人でも十分だろうと買い出しに繰り出したリンディスを待っていたのは、領民達からのお裾分けの嵐だったのだ。
「丁度少し街を歩こうと思っていた所だったしね。リンディスさんが一生懸命歩いているのを見たら放っておけないし」
「それは、その……ありがとうございます」
 現にリンディスの手にも、焼きたてのパンが芳しい香りを立てている。正直なところ、先程から、商店に寄るごとに「おまけだ」と増えていく荷物に、嬉しい悲鳴を上げていたのだった。
「よっ、二人黒狼隊だろう? いい魚が入ったんだよ! あんた達のお陰で港も盛況さね」
「あ、その……」
 有無を言わさず袋に積まれる魚は、このドゥネーヴの港で獲れたものらしい。
「……港って、確か」
「ありがとうございます、店主様」
 この港を占拠していた賊を黒狼隊が撃退して数週間――早速その成果が表れたのだと思えば、幸せなことで。
 二人がそれを聞けば、目を合わせて笑みが零れてしまうのだった。
「嬉しいですね、こうやってこの場所が栄えていくのを見るのは」
「本当に……っと、いてて」
「マルクさん?」
 立ち止まるマルクにリンディスが顔を覗き込めば、何やらマルクは片目をきつく閉じていて――見上げたその首筋に、汗が一筋流れていった。
「ごめん、ちょっと汗が目に入ったみたいで。もうすぐ夏だね。こう暑いと、本を読むのも中々進まないんだよね」
 マルクの言う通り、本の虫のリンディスとて夏場は堪えるものがあって――ふと、リンディスは思い出す。
「私、本を読むのにとっておきの場所を知っているんです!」

 朝から晩まで、寝る時だって本に囲まれたままの楽園。
 すっかり忘れていた司書との「また遊びに来る」約束だってある。

「リンディスさんの『とっておきの場所』、僕も行ってもいいの?」
「えぇ、勿論です! そうと決まればさっそく明日、向かいましょう!」

 善は急げ、そして何より――明日は今日よりずっと暑くなると聞いていたんですもの!

NMコメント

 リクエストありがとうございます、飯酒盃おさけです。
 全体依頼も出発したことですし、のんびりと過ごしてみてくださいね。
 スケジュールの都合上、相談期間が長めとなっております。

●目標
 図書館でのんびり過ごす。

●舞台
 壁一面、高い天井まで本に溢れた大きな図書館。
 様々な物語や写真集、料理本までありとあらゆるジャンルの本が並んでいます。
 
 大机だけでなく、ラグでのごろ寝や人をダメにするふかふかのクッション、ハンモックも完備。
『おはようからおやすみまで本と過ごせる』がコンセプトのようで、他にも様々な設備が整っています。
 年中快適な室温と湿度で、人にも本にもとっても優しい場所。

 過去作「微睡みは羊皮紙の香り」に登場しています。
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3678


●設備
・キッチンカウンター
 珈琲、紅茶や搾りたてのフレッシュジュースなどのドリンクから、各種ケーキやクッキー等のスイーツ。
 お腹が減ってもサンドイッチやおにぎり、オムライスにパスタまで取り揃えています。
 図書館内の本には不思議な魔法がかけられているようで、食べ零しで汚れる事はありません。

・シャワー室
 タオル、石鹸その他完備。
 自由に着られるパジャマ(かわいらしい物から首を傾げるような謎のTシャツまで)も用意されています。

・ベッド
 本棚横の梯子の先には、屋根裏部屋めいたベッドルームがあります。
 ベッドは間にサイドチェストやランプを挟んでいくつか並んでいます。
 そこにも勿論本はぎっしり。

 その他、ありそうなものはきっとあります。
 要するに、この空間を思い切り楽しんでしまえばOKです。
 本を読み耽るもよし、おしゃべりするもよし、ごろ寝するもよし。ただし火気厳禁。
 もっとも今回は、火が大好きな『誰かさん』もいないので安心ですね。

●注意事項≪NEW!≫
 新しくこの図書館の夜間司書となったコウモリの紳士は、耳が良くそして少し神経質なようです。
 夜間――目安としては『屋根裏部屋で過ごす』位からは、小声でも出来る限りお喋りは控えた方がいいでしょう。
 屋根裏部屋には小さなノートと、インクの尽きない万年筆が二本。
 夜中のお喋りは、どうぞそのノートへ。
 普段顔を合わせて言葉を交わすのと、また少し違った会話が出来るかもしれませんね。

●備考
 描写は昼過ぎ~翌朝を予定していますが、お二人のプレイング次第でリプレイの時間帯は変更します。
 お好きな時間帯をどうぞ。
 また、今回は文字数の都合上アドリブが大いに入ります。
 NGはプレイング、もしくはステータスシートにてお知らせくださいね。

 それでは、本の世界へいってらっしゃいませ!

  • ふたりごとは羊皮紙に乗せて完了
  • NM名飯酒盃おさけ
  • 種別リクエスト(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月02日 22時05分
  • 参加人数2/2人
  • 相談11日
  • 参加費---RC

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(2人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように

リプレイ


 ――ぱちり、二人同時に瞬きをひとつ。
 予報通り、昨日よりずっと気温の上がった幻想はインドア派の二人には酷く堪えるものだった。
 ドゥネーブより馬車に揺られたことで、境界図書館に足を踏み入れてなお芯に熱の残っていた身体が、目を開いたと同時に心地好い冷風に包まれる。その風に乗った、嗅ぎ慣れた紙とインクの香り。そして、一瞬の前に見ていた図書館とは似ているようで何処か違う、人々が「暮らす」空気が感じられるこの場所に『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)が、ほぅと息を吐く。
「ああ、また此処に帰って来れました!」
 ひとつ前の夏、友人達と足を踏み入れたこの場所に「また来ます」と約束したそれが叶って――そして、こうして自分が『案内人』となれたことは、彼女の心を浮足立たせる。
「これは……うん、本当にすごいね」
 傍らのマルク・シリング(p3p001309)が見渡せば、本を片手に食事を摂る者や、床のクッションで本を抱えて眠る者の姿が目に入る。
(本当に、本と共に生きるための全てが揃っているなんて――いつまでも居たいけれど)
「僕達は此処にずっと居ると、怠惰の魔種に反転しかねないね」
「う」
 マルクの何気ない言葉に小さく声を漏らすリンディス。何せリンディスが初めてここを訪れた時は文字通り友人に『引きずられて』此処を後にしたのだから。
「今回こそ、特に帰りに後ろ髪を引かれないように気をつけないと……」
「いらっしゃいませ、お久しぶりですね」
「お久しぶりです。きちんと約束どおりに、また此処の素敵な本達に会いに来ました」
 リンディスがかつて、この女性――司書である彼女と交わした約束は『また遊びに来ること』。約束通りに、の言葉に司書も「お待ちしていました」と微笑んで。
「こちらはマルクさん。私と一緒で本が大好きなんですよ」
「こんにちは、お世話になります」
 紹介されたマルクは、挨拶を終えると早速司書へとお勧めの場所はと問い始める。
 「私からも、この前見つけた素敵なソファを教えますね」
「それは助かるなぁ。先導よろしくね」
 それではいざ、まずは一周ぐるりと探検へ――踏み出す二人に、司書からひとつ、注意が入る。
それは、この図書館に加わった新しい司書のこと。彼は小さな声すら拾う、神経質な一面があるのだと。
 だから、夜はベッドサイドの道具で会話をしてくださいね――そう告げる司書に一礼して、二人は書架へと歩き出す。

「あ、この本は前に読むか迷った冒険奇譚の……!」
「これはどれを読むか迷ってしまうね……ってリンディスさんってば!」
 ハンモックにソファに、ありとあらゆるジャンルの書物に――早々に立ち読みを始めるリンディスに慌てるマルクが「まだ新しい本があるかもしれないよ」と必殺の言葉で彼女を動かすまでに、収まったはずの汗がまた噴き出していたのだった。


 先導するはずのリンディスが、半ばマルクに背中を押される形で早歩きで書架を一周して。
 二人が最初に選んだのは「学ぶための読書」。
 兵法に、学術書に、知識が詰まった――それこそ人によっては楽しくない本も、二人にとっては興味深いもの。
「港が整備されれば、次は貿易。ドゥネーヴから近い場所の特産は……」
 ぐしゃぐしゃと、紙に名前や矢印を書いては消していくマルク。向かいのリンディㇲがこちらを向いているのに気付くと、気恥ずかしげに笑う。
「ごめん、うるさかったかな」
「いえ、こうして机で読んでいるとしっかりと向き合っている感じになりますし、ね」
 リンディスの手元の紙にも、ノートにも同じように文字や図が沢山走っていて。自然と二人、束の間の休息へと入っていた。
「やっぱりちゃんと本を読もうとすると、どうしても机になるよね」
 木陰で、ソファで、時にはベッドの上で。書物はいつだって楽しみを、知を授けてくれるけれど――本気でその内容と向き合うのは、机と椅子が揃った時なのだ。
「リンディスさんは何を読んでるの?」
「私は戦術書や、闘いの記録を。持ち帰って活かしたいなと思いまして」
 数多の人が残した英知の結晶は、きっと今この瞬間の自分たちの力にもなる。それは、マルクが読む本――統治や為政の歴史にも通じていた。ドゥネーブに、黒狼隊に、その血肉となるものを一つでも多く得んと、二匹の本の虫は貪欲に知識を食らう。
「よし、それじゃあもう少し――お腹が空くまでは頑張ろうか」
「ええ!」
 決意を新たに、二人もう一度本とペンとを手に取って、知の世界へと再び飛び込んでいく。

 時計の長針が三周目に入っても、手元のレモネードが決してなくならないことも、いつの間にか本が片付き、新しい本が増えていくことも――きっとマルクは気付かない。
(お疲れ様です、マルクさん)
 マルクの眉間に寄った皺が、少しでもこの温かさで和らぎますように――そうしてリンディスは、冷えたカップを新しいそれと交換した。


「それじゃあ」
「いただきます」
 夜更け、二人が手に取ったのは野菜がたっぷり詰まったサンドイッチと――本。
 またいつでも来られるとはいえ、ゆっくりと時間をとるのも難しくなってきた二人にとっては、この場所で過ごす一日は短すぎた。
 どうしても続きが読みたくて本を抱えたまま食事をしようとすれば「お行儀が悪いです」とメイドにぴしゃりと叱られるが、今日ばかりは無礼講。二人は食欲と知識欲が同時に満たされる極上の時間を過ごしていた。
「そういえば、マルクさんはどんなジャンルが好きなんでしょう?」
「娯楽で読む本は、歴史小説が好きかなぁ」
 伝記と物語が一緒になったような楽しみがあるのは、曲がりなりにも軍師と呼ばれることもある自身にとって、胸が躍るもので。
「例えば、いつか僕達が伝記になったらなんて時々考えるんだ」
 主君の名を冠した書物――戦記が、混沌に残るなら。それはきっと、この上ない幸せだろう。
「そうですね。きっといつか、私達の過去の出来事が広がって物語に!」
 そう語るリンディスは、SFが好きなのだと続ける。
「未来に向けて想いを馳せて、作者の方なりの世界のイメージで同じようでも無限に広がっていて素敵ですよね」
 過去も、未来も。どちらが紡がれる書物も楽しいのだと会話は弾む。
 そうして、食べ終わった後は司書のお気に入りだという大きなソファに腰掛けて、読書の続きへ。
 まだまだ二人の夜は、深くまで続いていく。


 この図書館には、幾つも窓がある。窓から射すその光で本が傷まないのか――かつてリンディスが尋ねた時、司書が「この場所の本は守られているので」と答えたのを、天井近くの窓から覗く月でふと思い出す。
「おはようからおやすみまで」を体現する屋根裏部屋には、真白なベッドが並んでいて。その壁にぎっしり並んだ本棚は、どうぞそのまま本の夢を、と言わんばかりだった。
 シャワーを浴びて、ゆったりとしたふかふかの部屋着に身を包んで。温まった身体と沢山の本に触れた一日の心地好い疲れのまま、ベッドにもふん、と全身を委ねれば――サイドチェストを挟んだ先のベッドで、声を殺したマルクが肩を震わせ笑っている。
「もう、なんで――」
 す、と伸ばされるマルクの指は人差し指が一本だけ立てられていて。触れる距離には遠い筈なのに、その指に制されて言葉が止まった。
『ここからは、これで』
 マルクは身体を起こし、サイドチェストに置かれたリングノートに万年筆を走らせる。神経質な夜の司書――梟の耳に入らぬよう、ここからは筆談の時間。
『なんだか不思議ですね』
 受け取ったノートに、リンディスも筆を走らせる。補充知らずの万年筆から、深い黒のインクがするすると羊皮紙に文字を綴っていく。
『どの本が一番面白かった?』から始まり、とりとめのない会話を続ける。
 今まで読んだ本の事。
 最近のポメ太郎の話。
 偏屈者の住むタワーへと、共に挑む事への期待と不安。
 そうして幾度目かのページを捲って――ふと、マルクが尋ねる。

『リンディスさんが居た元の世界って、どんな所だったの?』
 見た目は自分と変わらない人間である彼女は、混沌の外からやってきた存在で。聞く機会がなかったのか、それとも聞くことを避けていたのか――そんなことは判らない。
 けれど、今なら聞ける気がしたのだ。
 差し出したノートに、リンディスが目を落とす。その表情は変わらないように見えたが、彼女は唇にペンを当て、束の間思案していた。
『此処とは雰囲気がまた違いますが、大きな図書館が私の世界でした』
 けれど、と続けるも、リンディスには紡ぐ言葉が見つからない。あんなにも文字は饒舌だったはずなのに――どうしてだろうか。
『元の世界に帰りたいと思ったことや、元の世界で果たさなければならない役割とか、あるのかな』
 マルクは続ける。もし、彼女がそれを肯定するならば?
『帰りたい……とは』
リンディスの手元を見つめる。梟の司書は、この鼓動すら聞こえてしまうのではないか。
『でも、いつか戻されるときが来るのかもしれません。その時は――』
『どう、するのでしょうね。私は』
(僕は、どうするのだろうか)
 文字と、一人胸中に零す言葉とが重なった。
 身を委ねたベッドのように暖かく優しいこの関係は、何なのだろうか。甘えているこの関係は?

(もし僕が"枷"になっているなら、考えるべきなのかもしれない。
 けれど。彼女が混沌に留まる事を望むなら、僕は、選んでもいいのだろうか)

(私は、きっと……解っているんです)

『願うならば、元の世界よりも――』
 続く言葉を、無造作にペンを走らせ潰す。
 代わりにリンディスが紡ぐのは『おやすみなさい』の一文で。
 同じ言葉をマルクも走らせ、そっとランプの灯を消す。

 その日、柔らかなベッドで二人が見た夢は、呑み込んだ言葉と塗り潰した文字によく似ていて――ひどく優しかったのを、覚えている。

成否

成功

状態異常

なし

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