PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Snowdome*Nightmare

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●睡魔に魅入られた女

 嗚呼、めまいがする。
 きらきらと空から舞い散る金の粉。
 忘れられたほろ苦い思い出は、翻って永久の夢。
 残酷な輝きを硝子の玉に閉じ込めて――

「へぇ。色々な世界を渡る『境界案内人』ともなれば、壮絶な悲劇を知ってると期待したけれど。
……君の悪夢は案外シンプルな物なのだね」
「うるさいな。背負う過去は変えられない……それだけの話だろう」

 夜空色のローブを纏う美女に微笑みかけられ、『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)は苦い顔をして目を逸らした。
 トレードマークの帽子を深くかぶり直し、あちこちにスノードームの飾られた"魔女"の部屋に眉を寄せる。

「お前の用件は聞いたぞ、"原初の魔女"キテラ。約束通り、この世界の勇者に助力願おうか」
「待ちたまえよ赤斗君。女性相手に性急に事を進めようとするようではいけないよ。
 エスコートする気持ちで相手の出方を待たないと」
「俺の使命はこの異世界を完結に導く事だ。ナンパの手ほどきを受けに来たんじゃない」

 どこまでもツレない態度の赤斗にキテラは軽く肩をすくめる。
 しかし、キツめの言葉を浴びせられようと、彼女はゆぅるり、口元を緩めるばかりだ。

「いいだろう、そういう強気な男は嫌いじゃない。せっかちな君へ端的に言うとすれば……足りないのだよ。悪夢が」

 キテラと呼ばれたその魔女は、魔術の触媒に多くの"悪夢"を集めている。
 その手段は意外なほどに単純だ。彼女が用意した魔法のベッドに横になれば、たちまち誰も悪夢にうなされるようになり、その仄暗い輝きを抽出できるのだという。
 集められた悪夢の力は濃密に凝縮され、やがてスノードームとして具現化される。

「ピンチの勇者を助けるというのは、それなりにエネルギーが要るものなんだよ。
 なにせ干渉のし方によっては彼らの生死に関わり、ひいては世界の命運をねじ曲げてしまうという事だから。
……あと4人。少なくとも4個のスノードームがなければ、それ程の偉業は成せない。勿論そこらにいる一般人では駄目だよ?」

 キテラが欲したのは濃密な悪夢。
 多くの業を背負い、時に犠牲を出しながらも、強く生きてきた者達――特異運命座標の悪夢こそが、偉業を叶えるに相応しい。

●Snowdome*Nightmare
「ようこそ特異運命座標。私はこの魔女の館の主。
 デイジー、ルビア、グレイス……呼ばれた名前は無数にあるが、ここではそうだな。キテラと呼んでくれ」

 星煌めく夜空色のローブを纏った銀髪の美女は、天蓋付きのベッドのカーテンを横に引いた。
 現れた寝台にはいくつものクッションが敷き詰められ、羽のように軽いかけ布団。
 空にはエキゾチックなオレンジ色の柔らかなランプの灯りがともり、辺りにはほんのり甘い香りが満ちている。

「君には今からここで寝てもらう。依頼はそれだけだ。
……なぁに、ただ悪夢を見るだけさ。それは君に現実で起こった悲劇の回想かもしれないし、夢らしい非現実的な未知の地獄が広がっているかもしれない。
 普段は夢を見ない種族の者でも、このベッドの上では特別さ。さぁ、よく眠れるようにホットミルクを持ってこようか」

 ふんわり、あまーいホットミルク。一口飲めば身体の芯まで温まり、眠気が意識を満たしていって――

「おやすみ特異運命座標。よい悪夢を」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 綺麗な物には棘がある。きれいなスノードームの中身は――

●目標
 悪夢を見る

●この異世界について
 魔王と勇者が激しく火花を散らしている、夢と冒険のファンタジー世界。
 冒頭に登場した"原初の魔女"キテラは、この世界でもっとも優秀な魔女だと言われています。
 彼女の魔術の媒体はスノードーム。もちろん、ただのスノードームではありません。
 悲しい夢、辛い夢をを濃縮し、球体に固めた闇魔法のアイテムです。

 キテラの力を使って世界を平和に導くためには4人の犠牲――つまり、ここに集められた特異運命座標に悪夢を見てもらう必要があります。

 彼女の用意したベッドには、特別な力がかかっています。
 ゆえに、普段は眠らない種族も夢を見ることができます。

●メタ的なところ
 この依頼はつまり、特異運命座標の皆さんの悪夢を覗くというシナリオです。

 うしろめたい事のある人に追い詰められる夢も良し、無自覚に蓋をした過去の記憶を悪夢を通して見るもよし。
 まだ見ぬ悪夢の世界を冒険して、散々な目にあうもよしです。

 なお、マスタリングの対象になる(極端にへっちな物など)はぼかされたりするのでご注意ください。

●登場人物
"原初の魔女"キテラ
 この異世界で無数の名を持つ魔性の女性。星煌めく夜空色のローブを纏い、長い銀糸の髪を持つミステリアスな女性です。
 異世界からの来訪者である特異運命座標の悪夢がどんな物か、とても楽しみにしています。

『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)
 皆さんをこの世界に案内した境界案内人です。悪夢を見るのが怖い人には、手を握って眠るまで付き添ってくれます。
 望んでみれば、貴方の悪夢の中にまで迷い込んで来る事も――?

 説明は以上となります。
 それでは、素敵な悪夢のひと時を。

  • Snowdome*Nightmare完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年06月22日 21時25分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
ハク(p3p009806)
魔眼王

リプレイ


 子供の頃から警察官に憧れていた。
 今となっては、その願いさえ恨めしい。僕が信じた正義は全て紛い物だった。

 法は人を守れない。この町が何よりの証拠だ。
 昔は地方都市に近い規模まで栄えた事もあったらしいが、僕がこの町の駐在所に派遣される頃には村程度の人口を維持する事で精一杯。
 それでも名目上この場所が"町"のままでいるのは、彼女の機嫌をほんの少しでも拭うためだ。

 恐れた者はすぐに逃げ出し、今や残ったのはひと握り。
 この国の法律は魔法少女を裁けない――この女が目の前で人を殺めても、発砲許可は下らない。

「お疲れ様です、メリーさん」

 駐在に道を譲られて、『汚い魔法少女』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)は前を横切るついでに魔弾を撃ち込んだ。
(ここは……召喚される前に住んでいた町ね)
 敬礼から銃を引き抜く動作まで、わざわざ待ってやる義理はない。この世界において魔法を行使できるのはひと握りだ。
 血だるまになって吹き飛んだ駐在の更に奥、木々の隙間に光るものを視界に捕らえて追撃一発。
 ドン! とライフルが暴発し、猟師"だったもの"が意識をなくして崩れ落ちる。
「危ない危ない……一人じゃなかったのね」

 そう、一人どころではない。
 身内の理不尽な死を突きつけられ、報復のために田舎町へ残っていた人間は村を形勢できる程。
 男が、女が、老人が、子供が。己が命を捨てる覚悟でたった一人の少女を囲み、手にした凶器を振り上げる!

「こんな大勢どこに隠れてたのよ!? いつもわたしを避けてた癖に、この……ッ!」

 何人仕留めた頃だろうか。手元に光が収縮し、投げつけられた物を撃ち落とそうと放った瞬間――眼前で熱が爆ぜた。
「あ゛ぁああぁぁッ!!」

――そう。わたしはこの激痛を知っている。

 火炎瓶で目を焼かれて、後はもうなし崩しだ。
 青年がバットを振り下ろし、ゴギン! と鈍い音を立ててメリーの膝を砕く。
 老婆が包丁を掲げ、脳天へと振り下ろす。中年の男が鉈を握り、胴を――


「う゛ッ!」
 スノードームの中身は赤く"ぐちゃぐちゃ"で、その中身を覗いた瞬間、赤斗は口元を覆ってえづいた。
 吐きそうな彼とは対照的に、キテラはうっとり目を細めながら硝子の球体を揺らしてみる。
 薔薇の花弁のようにちらちらと、水中でナニカの肉片が踊った。

「素晴らしいッ! 血と怨みに彩られた悪夢。これひとつでどれ程の力を秘めているだろう!」


「はじめまして、魔女さん」
「こんばんは睦月君。さぁこちらへ」
 通されたベッドの上で、『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は手近にあったクッションをもふりと抱き寄せた。
「どんな夢が見られるんでしょう。ドキドキしますね。あまり怖い夢でなければいいのですが……」
「今ならまだ止められるぞ」
 赤斗は仕事人間だ。睦月もそれをよく知っているがゆえに、身を案じてくれているのだと嬉しそうに微笑んでみせる。
「赤斗さんがついているからきっと平気です。眠るまで、手をつないでいてくれませんか」

 目を閉じれば、温かい掌の感覚はあっという間に遠のいていく。


 寒い夢。息も凍える日だった。
 神社の本殿で君は僕へひれ伏しながら言ったね。

「これからは一振りの刃となりお傍へはべります」

 わけもわからないままかわされた主従契約、きっと君もただ大人に言わされていただけなんだろう。だけど僕の心へ初めてぬくもりが生まれたんだ。祭具と呼ばれる日々を過ごすことができたのも君のおかげ。
 僕にとっては君がすべて。友人であり幼馴染であり遊び相手であり世話係であり…恋人のようなまねもしたね。忘れちゃってるかな。

 本当は知ってるんだ。君が親に言われていやいや僕の相手をしていたこと。
 僕を見る君の目はいつも薄暗かったね。目を合わさないのが当たり前だったから、僕はそれが普通だと想っていたし、君からうとましく思われているなんておもいもよらなかったんだよ。

 ねえ婚約までしたのにまだ怖い。まだ不安。君は自分の意志で僕へ命を捧げてくれたのにね。
 ただでさえ依頼で不安定な生活。君が居ないのが当たり前になってる日々。嫌な想像ばかり膨らんでいく。

 どこにもいかないで。ずっとぎゅっとしていて! 信じたいのに――

「もういい! もう充分だ!」


 睦月が目覚めると同時、掌の甲にぽつぽつと温かな雫が降った。
「あいつが睦月を置き去りにするなんて、絶対にあり得ない! だから……」
 上体を起こすと、涙を流す赤斗の姿。落ち着くまで背中をさすってやりながら、睦月はひとつの気づきを得る。
(そっか。今の僕には恋を応援してくれる人がいる。手が離れてしまっても……繋ぎ直すために、助けてくれる人がいるんだ)

 キテラの手元にまたひとつ、白いスノードームが現れる。
 深雪に閉ざされたような凍てつく球体。氷の粒が降る中で、背中合わせに手を繋いだ運命の二人。


「悪夢を見る為に眠りに落ちる、か。あまりいい気分はしないけれど、必要なことならば」
「無論、必要だとも」
 キテラの笑顔は作り物めいて胡散臭いが、真に困っているのはこの世界の勇者だろうと『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は思い至る。剣と魔法の世界。とりわけ剣を扱う戦士の、力になれるというのなら。
(さて、どんな夢になるのかな……)
 目を閉じる事しばし。視界が開けたと思う頃には瞬きする瞼がない。

 見えるのは左右にも上下にもずらせぬ視界、金縛りにでもあったように動けぬ体。
 精霊種としての人の体を得る前、ただの剣で在った頃の視界がそこにはあった。

 振り返れば幸せな思い出も沢山ある。
「今日からお前が相棒だ!」
 太陽のような笑顔で、黒髪の青年が剣をとる。生傷の絶えない彼は、正直それほど強くない。
 ただ、稽古に励む彼の瞳は希望に強く輝いてーー
「ぜってーお前と成り上がる! 目指せ騎士団の百人隊長、ってやつだ!」

(そうだ、思い出した。この主人は……)

 ハッピーエンドで終われない。これは悪夢を見る仕事だ。
 やがて青年は国に仕える兵となり、初めての戦場で混乱の中で味方の兵士に背後から斬りつけられた。
「ま、だだッ!」
 地に伏しても闘志は折れず、弾き飛ばされた剣へ青年は手を伸ばす。
(行かなければ。主の元に!)

 求められている。なのにこの鋼の身は、寄り添う事すら叶わない。

「口惜しいよなぁ?」
 やがて剣が持ち上がる。それは望んだ主ではなく、むせ返るような血の臭いを纏う赤毛の男によってだ。
 身なりは味方の者ではなく、傭兵の類と見てとれた。
「裏切り者を少し混ぜりゃ、あっさり総崩れだ。今日は最高に気分がいい!」
(キミが謀ったのか、俺の主を…!)
「くくっ。いーい激情だ」
 返された言葉は、明らかにヴェルグリーズへ向けられたものだ。
 無機疎通で怒りを感じ取り、傭兵は狂気の笑みでで手にした刃を翻す。
「折角だから見せてやるよ。大好きなご主人様の絶望したツラぁ!」
(やめ――)

 鮮血が空に散る。
 塞ぐ眼は剣に在らず、自らその身で主の身体を、何度も、何度も、貫いて――


「うわあああぁあーッ!!」
 自分の叫び声で目が覚めた。境界案内人が駆けつけて何か声をかけて来るが、頭に全く入らない。
「いや、本当に…夢見が悪い何処の騒ぎじゃないね、まったく…」
 ようやく絞り出した声は震えたままで、疲労感に再び目を閉じた。


「おお! 異世界の魔女の魔法に触れられるとは…ハクは興味津々なのです!」
「私もお会い出来て光栄だよ、『魔女見習い』ハク(p3p009806)…師事している魔女に愛想が尽きたら私の元へ来るといい」
「おい、勝手に人様の弟子を勧誘するなよ」
 ハクとキテラのやり取りに赤斗が突っ込む。そんな微笑ましいやり取りも、悪夢に一歩踏み入れば――心臓が押しつぶされそうな緊張感へ変わる。

 その部屋の扉を開けてはいけない。頭の奥で警鐘がなる。なのにこの手はただ、誘われるがままにドアノブへ手をかけた。
「なん…ですか、これ…」
 鋭く研ぎ澄まされた視覚も、聴覚も、嗅覚も。部屋の中の惨状をハクへ責めるように訴える。
 数多の目をくり抜かれた子供等…その屍の山で、哄笑を続けながら命を潰し続けている異形。
「やめ、て…ください…こんな…!」
 震える足で血の海に踏み込めば、異形に付いた無数の魔眼がぎょろりと蠢き、やがてこちらへ振り向いた。

 女の人だ。そんなのはすぐに分かる。それ以上の情報を頭に入れたくない。

 だって、だって。目の前のソレはハクと同じ顔をして――

「ぁ、あぁ…!!」

 足元から亡者が群がり口々に責める。

 どうして殺した。
 死にたくなかった。

 許さない…許さなイ…ユルサナイ!!

『何故されるがままなのだ? 一度殺した命だろう』
 首を締められるハクを、異形が視ている。
"彼女"は未だ、命を潰そうと握りしめていた。生ぬるい風が吹き、ハクの足元に白い帽子が落ちる。

 見覚えのある帽子。血で染まりゆく帽子。

"魔法の触媒が悪夢なのですか…うう、ハクは悪夢とか見るのは怖いですが、これも誰かを救う為…頑張るのです!"
"頑張り屋だな。じゃあ俺は、ハクの手を握っているよ"

「ぁ…赤斗様の…人の命を! 何だと思っているのですか!!」
 爆ぜるような音がして、ハクに纏わり付いていた亡者達が神気閃光の輝きにのまれる。異形の元へ激昂しながら駆け上がるハク。
『生温い』
「――ッ!?」
 注ぎ込まれた憤怒と憎悪がハクの身体を縫い止める。
『憎しみを取り戻せ。お前は私。目を塞いだ犬の様に"あの女"を師事する姿は――腸煮えるを通り越して虫唾が走るわ!!』

 頭が割れるように痛い。あの女? ハクが貴方?
 思考が、沈む――

『この夢の記憶も消されるだろうが……最後にこの名を刻め』

「私」こそは【魔眼の魔女】Sariel(サリエル)
 世界に厄災を齎す魔女なり!!

成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM