シナリオ詳細
鋼鉄探偵ヴィクトリアと宝石泥棒の町
オープニング
●
「ああ、一体どうしたらいいんだ……」
宝石商を営む男が、膝から崩れ落ちる。
店員達もみな、浮かない顔をしていた。
「この私の頭脳が、必要とされているようだね」
「あ、あなたは!」
\鋼鉄探偵ヴィクトリア!/
「いかにも。まずは原因を推理しよう。ショーケースのガラスが割れているね。そして中にあるはずの宝石がない。いきなり大いなる謎だね。だがこの鋼鉄の頭脳にかかれば、お茶の子さいさい」
得意げに腕を組む鋼鉄探偵ヴィクトリア(p3n000219)が、指をビシっと突きつけた。
「ずばり、これは宝石を盗まれたね」
「はい、見ての通りにございます」
鉄帝国の町ブリモリスクの中心部、この宝石店で商品――つまり宝石が盗まれるという事件が発生した。
「盗まれたのはいくつかございますが、中でも最も貴重なものは勝利のエメラルドと申しまして……」
何代か前の皇帝が、多大な功績をあげた配下に下賜したとされる。時代は流れて、今は高値で取引される逸品だ。
宝石は高額な商品であり、事件が解決出来なければ、とてつもない大赤字という訳である。
地元の当局は調査を始めたが、手がかりが掴めない。
そして数日が経過し、ヴィクトリアが登場したという訳だ。
「時にそこの君」
「な、なななな、なんでしょう」
「ずいぶん良い身なりをしているね。たしかにここは高級宝石店であり、店員にも客層に合わせた身なりが求められる。けれど、誰よりもとりわけ……とくれば、不思議じゃないかい?」
青年の首元に、高価そうなネックレスがきらりと光る。
「なんだって!? そういえばきみ、そのネックレスは当店で取り扱っていた」
店長が青年に、ずずいと詰め寄った。
「た、たたた、確かに同じに見えますが! あの、その。そうだ! 独自に購入したものです! ちなみに購入した場所については記憶にございません!」
「そ、そうか。だがここ数日、妙に羽振りが良いそうじゃないか」
「羽振りが?」
「急に、だね。だって宝石が盗まれた翌日あたりから。ほらきみ。高価な衣類を買い、馬車を新調し、高価な家具を注文し、綺麗なお姉さんが沢山いる高給クラブで飲んでいたと自慢してくれたじゃないか!」
「それはいかにも、怪しいね!」
店長とヴィクトリアが難しい表情をして、顔をつきあわせる。
「ば、ばばば! ば! じ、実は彼女が出来て、見栄張って貯金を切り崩してるだけなんですう!」
「それはそれで、何もかも、どうかと思うが。しかし、なるほど確かに証拠はない」
「そ、そそそうです。証拠なんて、これっぽっちもないでしょう! ボクは無実だ! 二十四点の宝石なんて盗んではいないんだ! ネオ・フロンティアへの旅行券なんて、買ってもいない!」
「いまなんて?」
「新しい情報が出てこなかったか?」
「とはいえ、証拠がないなら仕方がない」
「ああ、クソっ! 証拠さえあれば!」
「そうだ、ハハハ! ボクは無実だ。証拠なんてありはしないんだ! 証拠がなければ無実と同じだ!」
「いまなんて?」
「い、いや。ボクじゃ、ないですって」
「そうか。そうだったな。怪しい言動は控えなさい」
「ハハ、まんまと騙さ――じゃない、信じていただけて嬉しいです!!」
「ああ、疑ってすまなかった。クソっ! 証拠さえあれば! 犯人さえ見つかれば!!」
店員達が頭を抱える。
「やはり証拠は見つからないようだ。これは謎が謎を呼ぶ展開だね」
ヴィクトリアの言葉に、青年はほっと胸をなで下ろした。
「けれど諸君、安心したまえ。解決策がある」
腰に手をあて胸を張ったヴィクトリアは、そう宣言した。
「ローレットへ依頼することにしよう」
●
こうして宝石泥棒事件を解決する依頼が、ローレットに舞込んだ。
盗まれた宝石は二十四点。どれも高価な物らしい。
一行は、スチールグラードのローレット支部で、そんな話を聞いていた。
「という訳で、ローレットの諸君。この私が鋼鉄探偵ヴィクトリアだよ!」
なるほど。依頼主筋――つまり当局側からの案内役という訳だ。
情報屋の調査によると、容疑者の青年は町のギャングと繋がっており、多額の報酬を得たとされる。
盗まれた宝石類が流れてしまう前に、ギャングのアジトを襲撃し、盗品を取り戻す必要がある。
ついでにギャングも、出来るだけ捕まえられれば最良だ。地元当局に突きだそう。
ギャング達は帝国軍人崩れで、札付きのワルらしい。
事件を解決出来れば、ついでに町の治安向上にも貢献することになるだろう。
大まかな構成は、これまたローレットの情報屋が調べてくれたようだ。色々と資料に目を通しておこう。
あとは作戦を練れば、いざ本番といった所だ。
「なるほど、なるほど。さすがはローレット。謎にそこまで迫るとは!」
いや、その部分は、もう解決してないか。情報屋が。
「それではギャングのアジトに乗り込んで、事件解決といこうじゃないか!」
ま、まあ。うん。そうなりますよね。
- 鋼鉄探偵ヴィクトリアと宝石泥棒の町完了
- GM名桜田ポーチュラカ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年06月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●鋼鉄探偵ヴィクトリアと宝石泥棒の町
「――さて諸君。このミステリーを解き明かそうではないか」
長い髪をバサッとした鋼鉄探偵ヴィクトリア(p3n000219)がイレギュラーズに振り返る。
そんな彼女を見つめる『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は悔しそうに拳を握りしめた。
「くっ……暗中模索、あまりに手探りのミステリー……」
「そうだろう。この謎は些か難しい問題だ。だが、しかし、心配は無用! そう、私と君達の頭脳があればね!」
「このままでは情報が少なすぎます。ギャングのアジトに何か手がかりがあれば良いんですが……!」
ヴィクトリアの前で歯を噛みしめたウィズィの肩に手を置く。置くと言っても数十センチの身長差であるからしてバンザイの様な格好でぽんとした。
「そう、ウィズィ君の言うとおり、ギャングのアジトに何か手がかりがあるのではないかと、ローレットの情報屋が教えてくれた。だから私は情報を元にギャングのアジトが怪しいのではないかと推理したんだよ」
「でも証拠が掴めないと」
ウィズィはヴィクトリアと共に10m先にあるギャングのアジトの入り口を見つめる。
「あそこが入り口だ」
「なんとあんな所にギャングのアジトの入り口が!?」
「ふっ……ついに来てしまったようですわね。鋼鉄探偵の助手たる私の頭脳を活かす時が!」
「久しぶりの助手君に、拍手喝采千客万来だね! もちろんその頭脳、活用させて頂こう!」
パイプをビシっと『鋼鉄探偵の助手』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)へと突きつけたヴィクトリアは久々の逢瀬に顔を綻ばせた。
「これは私の勘なのだけれど、犯人はこの中にいるに違いありませんわ!」
「この中。すると……ここに集まったローレットの諸君の中に犯人が居るというのかね?」
訝しげにヴァレーリヤ達を見つめるヴィクトリア。
「いいえ、手心は加えてあげるから、さっさと白状なさい! さもなくば、この人の命は保証しませんわよ!!」
突然通りかかった通行人を羽交い締めにするヴァレーリヤ。
「なんと!? 人質を取るとは。助手君の頭脳が煌めいているじゃないか。さあ! 犯人よ。もう後は無くなった。この通りがかりの人質の命が惜しいのならば降参したまえ!」
誰も名乗りを上げずに時計の針が進んでいく。
「よもや。人質の命では降参しないとは。はっ! まさか、この人質の男が真犯人なのではないのかね?」
「なんとまさか! 名推理ですわ! 流石は鋼鉄探偵」
「よし! ヤードに連行したまえ!」
約二時間後。
通りすがりのセルゲイ・モザリョフは宝石泥棒えん罪で釈放――されることはなかった。
この男、スリの常習犯だったのである。
「お手柄でしたわね!」
「ふふん。先ほどの男は犯人ではなかったことが分かった。つまりこれでまた一歩真相に近づいたわけだね」
「ええ。そうですわ。気を取り直して、ギャングを捕まえますわよ!
ヤードから戻って来たヴィクトリアとヴァレーリヤがキリリとサングラスを上げる。
「僕、本物の探偵さんを見るのは初めてだよ。凄いねぇ」
そんな二人にパチパチと拍手を送るのは『想心インク』古木・文(p3p001262)だ。
「ところで、全ての扉を開けるマスターキーって何だと思う?」
文の問いかけに首を傾げる『怪力乱心の鬼蜘蛛』アリア・ネフリティス(p3p009460)。
「そんなもん、拳でたたき割ればいい」
「そう、手斧だね。つまり、今回の謎もそういう事だと思うんだ」
「けして、解決方法を考えたりギャングの人たちを説得するのが面倒、だとか。ごり押しムーブが楽しくなってきた、とかではないんだ」
「証拠だなんだはようわからん。怪しい奴をぶん殴って犯人だって言わせればいいのじゃろう?」
手斧を持ってギャングのアジトに繋がる入り口のドアの前に立つ文とアリア。
「郷に入っては郷に従えというし、色々考えるより殴った方が手っ取り早いかなぁって。さっ、勝利のエメラルドと証拠を見つけにいこうか」
振り上げられた手斧がドアに叩きつけられる。何度も。何度も。
「迷宮破壊の迷探偵、真実はいつも拳一発! 悪人なら好きなだけ殴ってもいいよね! え、出来るだけ捕まえる? うん、殴って息があったらそうします。デットオアバイオレンス!」
文の手でドッカンとドアの鍵が物理的に破られ。アリアが邪魔なドアを投げ飛ばす。
「……モテる秘訣は大人しく宝石を差し出して投降する事、なんて言ったら誰か宝石を返してくれないかな。こちらのメンバー、強くて綺麗な方が多いからサイン色紙と交換でいけるのでは?」
手斧を肩に担いだ文が階段を降りていく。
「ふむふむ、なるほどミステリーね。……え、いやこれ謎にすらなってないんじゃ……」
「ノンノン。リオリオ君これはとてもミステリーなのだよ」
『遅れてきた超新星』リオリオ・S・シャルミャーク(p3p007036)に指を振るヴィクトリア。
押しの強さにとりあえず頷くもリオリオは頭を抱える。
「こ、これが鉄帝、これがローレット……力押しすぎて逆に頭痛くなってきたわ……ま、まぁ頭もタコ足のように柔らかく、一斉検挙出来るなら手っ取り早いと考えましょ」
リオリオの後ろには『虎風迅雷』ソア(p3p007025)が続いた。
「さあさあ、お仕事のおさらい。たしか3つあったのよ」
ひとつ。ソアがふわふわの肉球の手をもう片方の手で折り曲げる。
「ギャングのアジトを襲撃する、つまりやっつけるのよね」
ふたつ。
「盗品を取り戻す、えっとやっつければ返ってくると聞いてるの」
みっつ。
「そして、ギャングを出来るだけ捕まえる、倒れたギャングは逃げられない」
折り曲げた手をにぎにぎしてソアは両手を挙げた。
「よーし、彼らを打ちのめせということよね。情報屋さんの話は分かりやすい」
ソアは地下に下る階段のネオンと、壁に貼られた横文字の紙を見つめる。
――冷えたビールとローストビーフ。
その隣には肉とビールが置かれた写真が貼られていた。
あとはロックミュージシャンのポスター。
「ぶぅ、どうせこんな酒場に来るならボクも飲みながら踊ったりしたかった」
階下から聞こえてくる音楽と騒がしい声。
「なるほど推理は頭だけでするものではないというのが鉄帝流」
『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)は感心したように今までの出来事を振り返った。
「わたくしもまだまだ新参者。鉄帝を含めこの世界への理解を深めねばならないようです。ともあれ結果的に事件が解決すれば問題ないという事でもありますね」
マグタレーナはコツリコツリとアジトへの階段を降りていく。
「こういうのを何というのでしたか……結果オーライ?」
首を傾げるマグタレーナの後ろ。入り口で立ち止まったトリフェニア・ジュエラー(p3p009335)は皆と離れて別行動を取る。
「それほど身を隠さなくても良いような気もするけど、裏口とかから逃げられたら面倒じゃない」
正面以外の出入り口を確かめにアジトの裏側へ走って行く。
仲間の突入に合わせて裏口から侵入するのだ。
「宝石……いえ、まずは証拠を取り返さないといけないわね。その後で宝石についてはじっくりと」
トリフェニアの耳に合図変わりの騒がしい事が聞こえてくる。
「よし! 多分きっと大丈夫! 突入よ!」
●
突入する前に時計を戻す。
文は注意深くアジトの様子を観察していた。
ソアは鼻歌を合わせながらステップステップ。アジトへと続くドアを蹴り飛ばし、中へ押し入る。
「こんにちはー!」
派手にぶっ飛んでいったドアと、現れたソアにギャング達は目を見開いた。
先手必勝。ソアが一番近くのギャングに向かって走り出す。
左右の手に炎の玉を浮かべて振りかぶり、ギャングに叩きつけた。
皆が動くよりも先に素早く倒れたギャングをステージの上に放り投げる。
「私たちはローレット、宝石を返してもらいにきたよ!」
ソアの宣戦布告がアジトの中に響き渡った。
彼女の次にアジトの中に現れたのはウィズィだ。
今回集まったパーティメンバーは火力が高い傾向がある。
だからウィズィは盾役としてギャング達を引きつける作戦に出た。
「さあ、Step on it!! 一気に決めましょう!」
胸に灯したイーリンの魔力。火種は爆発的に全身に弾ける。
恋人を想うウィズィの心が負けない強さを羽ばたかせた。
「――掛かって来なさい! このヘタレ野郎ども!」
口汚い言葉を乗せて。自分自身に注目を集める。
掛かってこい。全員纏めて相手してやる。ウィズィの言葉通りギャング達が彼女へと攻撃を仕掛ける。
リオリオは仲間がまとまっている今がチャンスだと己の生命力を犠牲に強化の舞を踊った。
水のヴェールが戦場に弾け、仲間の能力は一段階引き上げられる。
「敵を叩くにはまず頭からですわ!」
ヴァレーリヤのかけ声を皮切りにイレギュラーズがマルコヴィチに突撃した。
「――鉄騎の戦いの掟は、正々堂々正面から!」
「げぇ!? ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ!?」
メイスを振り上げたヴァレーリヤがマルコヴィチを捉える。
勢いを付けてメイスの重さを利用して叩き落とすのだ。
「さあ、私の一撃、受け止められるものなら受け止めてみなさい! どっせえーーい!!!」
「ウボァ!?」
ドゥルンと一回転したマルコヴィチは後ろに居たギャングにぶち当たる。
「マルコヴィチさん!?」
「くそう! 強烈な一撃を食らっちまった。こいつらローレットじゃねぇか! 特にあの赤毛のシスター。ヴァレーリヤだ! 酒が目当てか!? 吐くんじゃねぇぞ!?」
「何を言ってるのか理解に苦しみますわ」
マルコヴィチがヴァレーリヤの攻撃に目を眩ませている最中、裏口から入って来たトリフェニアが死角からの奇襲攻撃を仕掛ける。手甲の先に付いた刃でマルコヴィチの背中が切り裂かれた。
「何ぃ!? 後ろから奇襲だと!? この卑怯者があ!? それでも鉄帝人か!」
「いえ、私は違うわ。しがない旅の宝石商よ」
容赦の無いトリフェニアの斬撃がマルコヴィチの背中に傷跡を増やす。
「おら、どけどけぇ! 巻き込んじまうぞ!」
フォートレスブレイカーの異名を持つ巨大剣を振り回し突撃してくるアリア。
「蜘蛛娘八本脚が一人。『憤怒』担当アリア・ネフリティスが押し通る!」
――血は猛毒、吐く息は疫病、起こす癇癪は暴風雨。
鬼蜘蛛の血統が絡め取る暴風領域には何人たりとも近づく事は出来ない。
近づけば腕をもがれ、脚をもがれ、胴体全て持って行かれる。
「カカカ! 纏めてかかってこい! そっちの方が話が早いのでなぁ」
ギラギラとした獲物を狙う瞳がギャング達を睨み付ける。
「さぁ、今度は誰を食べようかのう」
「ウワァァァ!?」
逃げ惑うギャング達を逃さないとアリアはニタリと笑みを浮かべた。
「くそが! こうなったら俺達も反撃だ!」
「そうはさせないわ」
リオリオがマルコヴィチに手を翳し、封印の魔法を唱える。
「何だこれ! くそう動きが鈍って力が出せねぇ!」
「あなたの動きを封じたわ! これで妙な行動は起こせないわよ!」
封印の魔法陣がマルコヴィチの手に浮かび、動きを阻害した。
リオリオが生み出したチャンスをマグタレーナが引き継ぐ。
「まだおかわりがありますよ。たんと召し上がりなさい」
独特の術式で構築された魔光がマグタレーナの足下から折り重なりマルコヴィチに向かう。
交わそうにも先の読めない動きで迫ってくる魔光にマルコヴィチは為す術も無く晒された。
「グウワァアア!!」
「まだ、死なないでくださいよ。貴方達には聞きたい事が沢山ありますから」
「そうだよ! 死なないでよ!」
マグタレーナの魔術にソアの攻撃が重なる。
ソアは華麗にステップを踏み、連撃がマルコヴィチの体力を大幅に削った。
「どっせえーーい!!! 更にもう一発!」
ヴァレーリヤのメイスが二度振り下ろされれば、流石に頑丈なマルコヴィチとはいえ泡を吹きながらその場に倒れた。
「ちょっと、死んでませんわよね!? 返事をしなさい!?」
「ぐぇえ。もう勘弁……」
胸元を掴んでガクガクしたヴァレーリヤ。
「できるだけ捕まえるというのが生死を問うのかは分かりませんが。何も殺すことはないですからね」
ウィズィの言葉にリオリオが犯人へ回復を施す。
「死なない程度にね」
マグタレーナは一階へ続く階段を背に戦っていた。
戦闘中も耳を澄ませ、辺りに敵が居ないか逃げ出さないかに目を配る。
見えるもの見えざるもの双方の逃走経路を警戒しながら逃走者への攻撃を計るのだ。
「それとも名推理でそういう隠し部屋的なものが判明するのも期待しなくもないですが。さて」
「ふっふっふ、私を呼んだかね?」
「ちょっと戦闘の邪魔になるので一階で待っててください」
「あ、はい」
マグタレーナはヴィクトリアが戻って行く音を聞いて、退路は安全だと把握する。
「お前は何処からきたんだ?」
「にゃーお」
お腹を空かせた子猫が地下から上がってきたヴィクトリアにすり寄ってくる。
「おお、ホットミルクがこんな所に。お前は運が良いな。ほら食べるが良い」
「くそ……帰ってきたら何かドンパチやってるし。ここは逃げた方がいいな……」
「おや? 君は誰かね?」
裏口の方からギャングが一人歩いて来る。そいつの目に映ったのはミルクを飲む子猫とヴィクトリア。
そのギャングは子猫が大好きだった。
「君も子猫を撫でるかね」
「あ、ああ」
幸せな世界が紡がれるアジトの入り口。
思考はヴァレーリヤに戻ってくる。
「――そうすれば、つぶらな瞳で見つめられた敵は、子猫を見捨てられずミルクを飲ませてなでなでしている内に私達に追いつかれて捕まってしまうという完璧なプラン! ふふふ、何という頭脳プレー。自分の才能が恐ろしいですわ……!」
ヴァレーリヤの設置した罠でギャングの一人を留める事に成功した!
●
「!!? ま、まさか! あなたが手引きしていたなんて!」
ウィズィの驚嘆の声がアジトに響き渡った。
リーディングで相手の思考を読み取り、宝石泥棒をした店員の男を指差す。
「私には全て分かりました。あなたが……犯人ですね!」
「ほほう」
戦闘が終わり、現れたヴィクトリアがウィズィの推理に頷いた。
「どうして宝石強盗したの?」
文がギャング達を蹴りつけながら見下ろす。
「ひぃ!」
「理由を述べてほしいんだけど」
蹴技は不殺だが、痛いものは痛い。ギャング達はぶるぶると震えながら文を見上げる。
宝石店員の男は特に逃がしたくないと文は注意深く観察した。
「外との連絡や宝石の換金役も担っていたなら、そういう場所にコネがあるのだろうし、色々知っていそうだからね」
偽物対策の鑑定と横流しルートを見つけるために隈なく調べていく文。
「やっぱり戦闘より机での事務作業している方が落ち着くね」
はやく帰って椅子に座ってゆっくりしたいと文は溜息をついた。
「あたしはイレギュラーズとしては駆け出しだから皆の動きを見て勉強させてもらうわね。……と思ったのだけれど、こんなに力押しでいいのかしら。こんなに武力行使でいいのかしら」
リオリオの疑問は最もだろう。だが、ここは鉄帝国。武が全てを制する国。
「ふっふー、全てお見通し! ボクたちの頭脳の敵じゃない!」
ソアがカウンターに置いてある酒をぐいぐい煽る。度数が強めのジンだ。
「確か盗まれた宝石は……全部あるのよね?」
トリフェニアが証拠の確認をするためカウンターに宝石を並べる。
「鑑定してみれば分かるのだけど、偽物が混じっていたらお話を聞かないといけないかもしれないわ」
「えっとその」
盗んだ店員の男はしどろもどろに視線を逸らした。
「それで、コレが終わったらどこに行くつもりだったのかしら……?」
「そのー」
「ネオ・フロンティアへの旅券、幾らだったのかしら……そのお金はどうしたのか教えてくれない?」
「まどろっこしいのは嫌いでのぅ。お主が犯人かそうでないかすぐに言うといい。犯人だと自首するなら手加減してやろう。じゃが、沈黙や虚言は覚悟するといいのじゃ」
トリフェニアに加えてアリアも岩をも砕きそうな程拳を握りしめ尋問する。
「2、3人殺れば儂らとの実力の差を理解するじゃろ。とりあえず強い奴からやっておくかのぅ。なぁに、相手は社会のゴミ。2、3人消えた方が社会貢献じゃろうて」
「ひい!」
トリフェニアの尋問に震え上がるギャングの男。
「盗品だって教えてあげたら割引はどれくらいかしらね……」
なんて強かな笑みを浮かべトリフェニアは宝石商の顔をした。
「後から出てきても証拠は証拠。終わり良ければ総て良し。という事で良いのでしょうか?」
マグタレーナの問いかけにアリアが頷く。
「まあ、勝てば官軍ってやつじゃな!」
アリアの笑いが高らかに響いた。
「ふっ、名探偵ウィズィニャラァム……キマりましたね」
「ふっふっふ、これにて事件は解決だ。この町に解決出来ぬ事件なし!!!! ふはははっ!」
海賊帽をクイッとしたウィズィ。パイプをビシっとしたヴィクトリア。
リオリオは小さく呟いて。
――これっていわゆる脳筋……いえ、考えちゃ駄目よリオリオ。解決できればそれでいいのよ、きっと。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
楽しんで頂けたら幸いです。
MVPは名推理だった方にお送りします。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
桜田ポーチュラカです。
うーん、これはミステリー。
■依頼達成条件
ギャングのアジトを襲撃する。
盗品を取り戻す(ギャングを倒せば取り戻せます)。
ギャングを出来るだけ捕まえる。
■フィールド
鉄帝国のとある町にある、ギャングのアジトです。
ギャング達は繁華街にある地下一階の酒場を拠点としています。
飲みながら踊ったり出来るように、そこそこの広さです。
■敵
鉄帝国の元軍人で構成された、町のギャング団です。
『アイアンアクス』マルコヴィチ×1
ギャング達のリーダーです。
武器は大きな斧。大威力の近接物理攻撃が得意です。
保有BSは出血、流血、致命、ブレイク。
「ビビるんじゃねえ、返り討ちにしてやるぜ」
『サブリーダー』×2
ナイフをもっており、素早いです。
どちらもラド・バウの闘士崩れで、非常に戦い慣れています。
『ギャング』×16
ただのギャングではありますが、鉄帝国人なのでなかなかの手並み。
銃やナイフで武装しています。
『宝石店員の青年』
事件の容疑者。
なぜかギャングのアジトに居ます。一緒に捕まえましょう。
「ま、まままずいっすよ、マルコヴィチさん、盗みがバレそうですよ!」
戦闘能力はほとんどありません。
■同行NPC
『鋼鉄探偵』ヴィクトリア・ラズベリーベル(p3n000219)
近接格闘術とピストルで戦うことが出来ます。
「ふっふっふ。この私の頭脳が、必要とされているようだね」
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
まだ証拠が見つかっていないからです!
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