PandoraPartyProject

シナリオ詳細

汎用強モブ悪役令嬢の中身は屍堕ちギリ黒騎士

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ああ、なんということだ」
「俺達をかばってあんなことに」
「気持ちを切り替えろ。彼はもう死んでいる。あれは――」

 いつからそこにいるのかと問われたら、はじめから。としか言いようがなかった。
 なぜ、自分がこんなところで体から黄色いオーラを垂れ流さなくてはならないのか。
 あまりにもそぐわないのはわかっていた。データ的に言うなら、アバターが俺が用意したものではないという点だ。

 NPCパーティのイベントは続いているが。彼らに違和感はないのか。視界に入る指は鍛え上げられた30男の指ではないし――そもそも甲冑に覆われているはずだ。決して絹の手袋ではない――鹿野の隅にちらちら入り込んでくるのはレースの裾飾りだし、理解した機内が足がスカスカするし、踏みだした足は非常に華奢だし吐いているのは婦人用の繻子の靴だ。第一非常に視点が低い。見下ろしていたパーティーメンバーを見上げている。これは、明らかにアバターがおかしい。

「そんな――何かの間違いだ!」

 そう、何かの間違いだ。この場にいる自分だけが異質なのだ。わかっている。だが、どうしろと? オブジェクト自身に自滅スイッチはついていない。より高度な存在からの働きかけがなければどうにもならない。そして、優先すべきは定められた規範に基づき活動する。生きている限り生きねばならない。いや、死んでいるのにうろつき回らなくてはならない。アンデッドだからだ。仲間が非業の死を遂げアンデッドになるイベントなのだ。必ず一人死ぬ。
 
 一歩譲ろう。討伐トロフィーにされてしまったのは、まあ仕方ないとしよう。けっこう強キャラだし、闇落ち属性満載の設定を作ったからそういう可能性から抽出されたんだろう。大体アルゴリズムは読める。

 だが信じてくれ。俺は自分のアバターを『汎用アバター・悪役令嬢(強モブ)』になんか設定してはいないんだ!
 俺が考えた最強の黒騎士のはずだったんだ!


「ええ、もう。バグです。無残だね。暴走してるから仕方ないね」
 『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は不幸な事故だね。と、グミキャンディーをもぐもぐしている。
「どんどん仕事の解像度が上がってるぞ。救出される研究員のデータも事前にトレースできるようになった」
 喜ばしいのか? 匿名にしておいてやった方がいいんじゃないか? こう、アバターとの乖離っぷりが社会的死になってしまう人もいるんじゃないか?
「業務上致し方ない人だっているだろー」
 発音が平板です。まったく信頼できません。
「で。皆のために体を張った黒騎士がアンデッド化するのを阻止するイベントなんだが。見た目が『汎用アバター・悪役令嬢(強モブ)』だ。NPCも使えば、ちょっと様子見のPCも使うあれだ」
 なんですって。目元が前髪でよく見えなかったりなんとなく解像度が低いあれですね。
 
「筋骨隆々とした、寡黙だがとても頼れて、十代で『妖精のような妻』に先立たたれ、以来再婚を断り続けて一身に愛を貫いた35才、ついに妻がお迎えに来た状態なんだが」
 いや、その設定いるのか。資料に書いてあるの。そうなの。
「イベント前に彼の家にお呼ばれすると、亡き奥方の肖像が所狭しと並んで、一日思い出話されるミニイベントシリーズがあるらしいぞ」
 うん。絶対呼ばれてもいかねー。それで。
「暴走したシステムはガチで暴走している。『愛する二人はやっと一緒に』」
 とても嫌な予感がしてまいりました。
「黒騎士の体は今は亡き妻の姿に。一緒!」
 情報や、やけくそ気味の感嘆符。
「アラギタ」
 ついに我慢できなくなった勇気あるローレット・イレギュラーズが手を上げた。
「『妖精のような妻』ではなかったか。『汎用アバター・悪役令嬢(強モブ)』は何の関係があるんだ」
 情報屋は、何の関係も何も。と言った。どえらく静かな顔をしていた。口元についた菓子クズをグイと手の甲で拭う。グミキャンディー、ねぱぁ。
「黒騎士には『汎用アバター・悪役令嬢(強モブ)』が『妖精のよう』でいとおしい妻だということだ」
 愛って偉大ね。
「えーっと、アバターとモーションが入れ替わってます」
 モーションとは。
「(強モブ)なので、戦闘モーションがある」
 あるのか。
「汎用アバターだから。強だからけっこう派手だってさ。扇をびしっとしたりするんだって」
 こいつ。ログインしたことないから、実際のゲームに関しては全部伝聞系で答えやがる。
「スペックは、研究員仕様の黒騎士なので見た目に騙されないように」
 扇の一閃じゃなくて、ジャイアントスラッシュですね。納得したくありません。
「ゲーム的にも、そんなけなげな黒騎士をアンデッドにする訳にはいくまい? メタなところでは、そんなシリアスエピをモブ画像で進行させるのは忍びないし。とりあえず倒して無力化、速やかに教会へ。そして、渾身の中ボスキャラビルトをしたのにモブ画像に切り替わっちゃった研究員さんをお救い下さい。倒した時点でログアウトさせる。その後黒騎士さんはNPCに――って流れ」
 そっちが目的だからね。黒騎士を倒すのは手段だよ。頼んだよ。
「君らは通りすがりのワンダリングパーティ。黒騎士が守り切った彼らの仲間パーティはNPCとして、こう――ビフォアストーリーを語ってくれるから。ターンの隙間に。デバフじゃないよ。バフだから。そんな嫌な顔しないでね」
 病気以外は何でももらえというのがRPGの基本ですから。
「死んだあと、そいつらに頼むと教会で奇跡が起きて蘇生するシナリオだから。とにかくきっちり倒して、受け渡してね。それでイベント完了」
 えーっと。
「ちゃんとクリアすれば、アバターも黒騎士さんに戻るはずだから」
 よろしく。

GMコメント


 田奈です。
 システムが暴走しているので、仕方がないんです。

●敵――穢れに侵された黒騎士
 見た目は強モブ。モーションも悪役令嬢。
 ただし、中身のスペックは中ボス仕様の黒騎士です。
 パワータイプ範囲攻撃持ちのアンデッドになりかけです。いやンな感じの黄色いエフェクトがついています。
 
●場所:ダンジョン入り口。
天気:晴れ。夕映えがまぶしい草原です。ドラマティック。
 命からがら逃げてきたNPCパーティー一行。振り返ると殿を務めていた黒騎士が――。
 皆さんはたまたまダンジョンアタックするつもりで来たパーティ――という立ち位置です。
 NPCパーティは、自分たちを守るのが精いっぱい。なので、特に人員を割く必要はありません。実況と解説と思ってくれればいいです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

  • 汎用強モブ悪役令嬢の中身は屍堕ちギリ黒騎士完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

タント(p3x006204)
きらめくおねえさん
ああああ(p3x006541)
hxjileksma;idjl
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)
災禍の竜血
フー・タオ(p3x008299)
秘すれば花なり
壱狐(p3x008364)
神刀付喪
ネコモ(p3x008783)
ニャンラトテップ
天狐(p3x009798)
うどんの神
いりす(p3x009869)
優帝

リプレイ


「黒騎士が悪役令嬢にそしてアンデッド化間際……情報量がパネェにゃ」
『にゃーん』ネコモ(p3x008783)が指折り属性を数えた。目星を使うまでもない。もう、妖しさ大爆発だにゃ~。
 黄色いオーラを垂れ流すドリルな巻き髪、でっかいリボン、涼しげな目元、薄い唇、悪役令嬢のバリエーションは多々あれど、今回は悪役令嬢・謀略の蒼バージョン(強モブ)である。情念の赤バージョン、妄執の黄色バージョンもあるので、好みで使い分けてほしい。脳内お花畑ピンクバージョンも投入予定だ。システムは暴走しています。
 ローレット・イレギュラーズは、言葉少なだった。
「バグねぇ……」
『hxjileksma;idjl』ああああ(p3x006541)は、呟いた。
 信じられるか、あの悪役令嬢の中身、亡き幼な妻をずっと愛している35才黒騎士なんだぜ。
「あ、なんかすごい。わし、その丸一日話す思い出イベントちょっと聞いてみたい、BGM代わりに丁度良さそう」
  と、『きつねうどん』天狐(p3x009798)は、ガイダンスでメクレオに言っていた。
 作業用BGVにはいいかもしれない。多分、勝手にべらべらしゃべってくれるだろうし、クール系偉丈夫のデレ顔百面相は需要があるかもしれない。
 嬉しそうに話すおじさんを見ながらBGMに点呼がすることは一つしかないのだが。あまりにも異次元ではなかろうか。趣向が。まあ、おうどんはどんなふうに撃ってもおいしいからいいのだ。おうどん。
「ま、まぁ今回はエラーだとはいえMMOではこういう別の職のスキンを装備した人はたまに見かけますし…。まだ悪役令嬢とマシな見た目なだけ良かったと思いましょう…、うん……」
『かつての実像』いりす(p3x009869)は、事態の収拾に努めた。
「だよねえ………バグかなぁ……アバター変わるのとか別によくあるっしょ……あたいもほらこんな感じだし……」
 このゲーム、キャラ設定が登録したのと齟齬があるケースが割と報告されているが、修正パッチはほぼない。さらに、入力した後「これでよろしいですか」シークエンスがすっ飛ばされるバグもある。だから、適当に入力したり、入力デバイスの上で猫が踊ったり、実行キーを連打すると、大体素敵にバグる。
 そして出来たのが、ああああなのだ。ちょっと時々挙動がラグったり、解像度が乱高下してモザイクになったりするけど、通常仕様、通常仕様。システムは暴走しています。
「どうした。そんなにおののいて――」
 現場ではイベントバトル突入口上に入っている。
「どうした。そんなにおののいて――」
 屍落ちの基本。死んだことに気が付いていないムーブ。
「おーほほほほほほっ!」と高笑いするのがお似合いでしてよなハイトーンヴォイスで、地の底から湧き上がる、喉を鳴らす笑い方をするのだ。ミスマッチです。キャスティングやり直してくださーい。
 黒騎士アバターだったら隈に落ちくぼんだ容貌も激戦の果てのものと更なる悲しみを想起しただろう。
 萌えられないギャップ――違和感が津波のように襲ってくる。
「もう生きてるときの彼じゃないんだ。こんな粗暴な笑い方をする人じゃなかった!」
 NPCは、アバターの異常を感じていないようだ。NPCだからね。そういうのスルーだね。
「何ともこれはまた……」
『白竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)の呟き。本日もポメ型アバターだがドラゴンクォーターである。
「ふむ……。斯様な状況で問うのも無粋であろうが……」
『秘すれば花なり』フー・タオ(p3x008299)は真顔だ。
「この状況は笑っても良いものであろうか?」
 いけないと思うよ。
「強制的に切り替えられて制御も出来ないでは流石に酷だな。手早く対処して元に戻してやるとしよう」
『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)、バグで当初の予定になかった女体アバターのRPにもきちんと気を使っているナカノヒト的によくわかる。おそらく原因はほぼ同じ原因です。システムは暴走しています。
 ナカノヒト的に理解に苦しむかもしれないけど、これは鬱イベントなのです。すいません、事故ってますがシリアスを唱えながらなんとか乗り切ってください。
(俺も仮に今回の様な事が起きてしまったら困るだろうしな、明日は我が身だ)
 その通り。あなた、いいことに気が付きました。
 ベネディクトは、こういうタイプのイベントで一番屍落ちの貧乏くじ引きそうな気配がする。宿命と書いてさだめと読む。ぜひ細心の注意を払い、フラグはへし折って生きて行ってほしい。
 ローレット・イレギュラーズは、得物を握り直した。比ゆ的な意味で。
 脱力は命取りだ。目の前にいるのは令嬢の皮をかぶった黒騎士――火力ましましゴリラタンクだ。
「ついに追い詰めたわよぉ! これが最後のバトルね!」
 今までのやり取りの中、沈黙を守り通し、満を持して、迫真の表情と共に最初からかかわってましたムーブの『きらめくおねえさん』タント(p3x006204)であるが、そのいい方だと、黒騎士をストーカーして追いついたらターゲットが屍落ちしかけてるという時系列になるんですが、状況アクセプトOKですか。ステシの書きこみ残量大丈夫ですか。
「既婚者設定みたいなフラグに追ってくる女ムーブダブルでフラグ立ててたらアンデッド化もまあ残当じゃん……?」
 ああああがアルゴリズム修正をメタ読みしてくる。やめてあげて。
「俺達には、彼を止める力が残っていない。どうか、彼を止めてくれ。まだ助かる可能性はあるんだ!」
「クエストを許諾し、イベント戦闘を始めますか?」
 フー・タオがふっと笑った。
「仲間を止めてくれとな?譫言を許す。其方等の望み通りに踊ってしんぜよう」
 許諾確認。PCに聞こえるBGMが戦闘用に変わる。
「のう、お嬢様?」


「こんな入口で穢れに侵されているなんて……手を貸します!」
 あくまで通りすがりのパーティーなんだよ、設定上は。壱狐によってアリバイが形成される。タントさんのあれは冗談です。多分。
「幸福招来―!」
 天狐は祈った。
 空飛ぶうどんの神はぶっとい運も引っ張ってこられるのだ。崇めよ。
「とりあえず普通に倒して教会に運べばクリア、とのことですので敵意を買いすぎない程度に――」
 いりすは、アサルト水鉄砲を構えた。ウォータータンクは満タンだ。
「ビーコン弾を撃ち込めるのは最初だけだと思いますので、この一発で麻痺入るといいですね」
 本来、マーク用の光を攻撃用に魔改造した代物だ。光と電波が、妙に眩しく熱く痛い。頭からびしょ濡れの悪役令嬢のドリルにビーコンが引っかかった。ドリルに埋もれてとれない。
「今のところ敵は黒騎士悪役令嬢一人にゃね、それならみんなで袋叩きニャ!」
 昇猫拳と書いて、しょーにゃーけんと読む。体をひねりながらの下から突き上げるアッパーカットに飛び膝蹴りがつく二段構え。アッパーを避ければ飛び膝蹴りが刺さり、両方よけようとするとまともに構えられなくなる技だが。
 今回に限ってはダメなのだ。相手は騎士だぞ! 悪役令嬢の姿だけど。
「パッシブスキル:孤高の誇り・騎士は多勢を蹴散らす者。数に頼ることを隠しもしない者に負けない」
 研究者ビルド「ぼくがかんがえたさいきょうのくろきし」は、多勢に無勢対策もきっちりしてあるのだ。
 ちなみに岸攻略に関しては、礼の妻の思い出垂れ流しイベントでヒントを得ることができる。これ、豆な。
 カウンター気味に華奢な扇子がネコモに突き込まれる。
「にゃっ!?」
 どごすっと重たい感触。
「待つにゃ」
 待てない。黒騎士は怒濤の連撃が持ち味である。セットモーションなので止まりません。
 普通、扇子の骨は象牙とかですよね。ローレットのお嬢さんがオーダーしがちなミスリルこうだったりしませんよね!?――それはそうと子の耳に残るかん高い音は――。
「オブシディアンソードの共鳴音!」
 知っているのか、NPCパーティ!
「彼はあれを使っているの!?」
 本当に知っているのか、タント。知るわけがない。
(だって、過去を語っている間はわたくしの出番が無いじゃない……?? これでもかとしゃしゃり出るわよぉ!)
 その当事者性、イエスだね!
「彼の剣は古代石を割って作られている剣なんです!」
「それを黒曜石で作ったの? つまり打製石器の石包丁のでっかいのってことよね? そんな、それじゃあ、まさか! だから彼ったら、あのときあんなことを……噓でしょう……? そんなの、そんなのっ……悲しすぎるわよぉ!」
 タントは口元を手で覆ったが、何も知らないまま、迫真の関係者ムーブである。
 ちなみになぜそのような武器を使っているのかは、礼のおのろけイベントの中に含まれるので知りたいPCは果敢に挑戦してほしい。
 キャラメイクは、盛りと削りの繰り返し。
 黒騎士を設定した救出対象の研究者にはリアルで強く生きてほしい。
「さて、では行くとしよう」
 ベネディクトが走り出す。令嬢に向かって走っていくポメラニアン。ここが公演のプロムナードだったらよかったね。でも、そうではない。どう見ても扇子にしか見えない巨大打製石器とポメラニアンを支点に翻る妖刀がぶつかり合っているのだ。データという意味で。
 連撃には連撃を。令嬢の防御をねじ伏せながら徐々に押していく容赦ない斬撃だ。抜け出そうにも抜け出せない、そんな間合いを作り出す刀の銘は『無限廻廊』。名に恥じぬ働きぶりだ。
 ローレット・イレギュラーの視覚データとしては、ポメラニアンの上空に浮いた抜身の刀を両手で持った扇子で令嬢が受け止めている。ちょっとサイキックホラーの様相を呈してまいりました。武器を持つのに適しないアバター仕様の際のモーションは各種用意がございます。現在デフォルト1が設定されていますが、設定画面からカスタマイズが可能です。
「陽キャ的ピンク色オーラとか出したかったのかもしんないけど、結局自分から人生の墓場に入るわけだし……? そりゃシステムもギルティ判定出すよねぇ……」
 ああああは、逆ギレシークエンスに入っている。バフとかデバフとか発生したり位はしない。気持ちの問題だ。
 言いがかりです。人生の墓場に好き好んで埋葬されるリア充にだって不慮の事故に遭わない権利はあるんだ。
「メンドーな仕事増やして過労死フラグ立ててくるとかシステムが許してもあたいが許さないんだよねぇ……叩いて治るか治って叩かれるかの強制2択√だよぉ……」
 どっちにしても、叩かれるし、直されるのだ。ああああ、やーさしーい。
 ベネディクトが間合いを外して巻き込まれないことを神経質に確認して、ああああは〇上納懐に飛び込んだ。ザビザビのノイズが入った手が令嬢の髪を思いっきり引っ張る。いじめじゃないです。攻撃です。脆弱性があるとこ狙うのが基本じゃん。
 触らぬバグに祟りなし……。令嬢の容姿に黒騎士視点の「アバタモエクボ」フィルターが追加された。なんて可憐で繊細な令嬢なんでしょう! この路線で行きたいなら研究者は課金して関係者アバターを作るべきそうすべき。
「――ええええ」
 ああああは不審な挙動をした。仕様です。
 

「せつなさみだれうちー!」
 天狐の強烈な連続攻撃が決まっている。が、現在攻撃ヒット判定位置にバグが生じております。ご不便をおかけいたします。本当はもっと強技なんだよ。信じて。
「ぼくがかんがえたさいきょうのくろきし」はタコ殴りにめっぽう強かった。
 フー・タオの放った蒼い炎――Negative Blazeが青い令嬢を包み込む。
「どうやら内部データ的にはアンデッドに近いようであるしな――だがそこまで考えずとも火葬でよいか」
 後方に控えているフー・タオも無傷ではない。
「地に伏すがいいっ!」
 妖精のような悪役令嬢が、扇子を振るう。ローレット・イレギュラーズにNPCパーティにまで衝撃が走った。
 すでに、黒騎士の範囲攻撃に巻き込まれる機会が多く、ごっそりとHPを削られたネコモといりすがログアウト。
 これ以上範囲攻撃を食らい続ければ、さすがのローレット・イレギュラーズもじり貧だ。
 令嬢の姿の黒騎士を見据えたタントがリンゴを噛む音に惑わされ、トロ顔――いや、恍惚の表情を浮かべる令嬢をとらえたのは、壱狐の切っ先だった。
 陰陽五行の太刀が次々と叩きこまれ、反撃の暇もない。
「単体ボスなら下手なBSより効くでしょう!」
 敵の傾向をきっちり考えて攻略してくるあたりにナカノヒトの几帳面さがうかがえる。
「穢れを浄化(物理)します! 殿として仲間を守り通した貴方をアンデッドのまま終わらせたりなんてしません!」
 黒騎士を、ローレットの娘さんたちの復讐がさいなむ。倍返しが標準装備だ。それでも。頑丈差に定評がある黒騎士はまだ立っている。
「ええい。まさかこのような事態になるのは思っておらなんだぞ」
 フー・タオの手の中で小さな映像が映る。悪役令嬢? 違う。ビデオ・レター。冥府に旅立った黒騎士の妻――データ上の存在が映るのか? 恐怖の記録はPCにもNPCにも区別なく届けられるのだ。
 Shadow Eaterは必中にして必殺。己のうちより忍び寄る影から逃げきれるものなどどこにもいないのだ。
 解き放たれろ、君の妻は死んでいて、君は一度死んだけどまだ生きる道が残されている。
 少なくとも、妻の姿で生きるのはなしだ。誰も幸せになれない。


 ベネディクトは、警戒を解かない。不意打ちがあったら即刻切り倒す。
「止まったか」
 少なくとも、忌まわしい黄色いオーラは消えている。
「本来なら大怪我待ったなしじゃが、これがR.O.Oで良かったのぅ」
「任せろ! 転移できる!」
 NPCパーティー、その辺はちゃんとしてた。イベントを破綻させないアイテム保持は大事だね。
「いくわよ!」
 タントが、転移陣に突っ込んだ。
「おう。バッチリ送っていくぞ!」
 天狐も続く。
 ちなみにここでNPCパーティーをお見送りするのがこのイベントの本筋である。だって、本来ダンジョン攻略に来たパーティ向けの突発クエストだもの。
 だが、壱狐は送迎用の馬車を作る気満々だったし、ローレット・イレギュラーズはそろいもそろってお人好しなのだ。
「無事に救える事を祈ろうぞ。一応非戦で『絶対幸運領域』もあるからの、過信はせぬが祈るくらいならバチ当たらんじゃろうて」
 空飛ぶうどんを信仰する巫女はそう言って祈りをささげた。

 教会は速やかに黒騎士を受け入れてくれた。まるで待ち構えていたようだ。はははー、まさかー。
 タントは、復活の儀式が終わってドアが開くのを待っている。
「よかった、よかったわぁ! ……えっと、この方の名前は何だったかしら」
 小声でささやかれたNPCは、PCではないので不審に思ったりしなかった。ここが始まりの街ですよ。というように、黒騎士の名前をタントに告げた。
 蘇生された黒騎士はナイスガイだった。移動拘束時間がカウントダウンしている。
 一見クールで怖そうだが、青春の頃に死別した妻を未だ愛しているギャップ萌え。この先、研究者の手を離れ、NPCとして生きて行ってほしい。
「やっぱり、聞きに行くかな。妻の思い出を語るイベント」
 色々小ネタが含まれていそうだ。天狐の休日が一日潰れるかもしれない。
「ありがとうございました。教会まで護衛していただいて。なんとお礼を申し上げていいか」
 NPCパーティーのリーダーは泣き咽んでいる。死人がでなくてよかった。
「まあ、その、な。この妾でさえ哀れみを覚えるというのはそれはそれは珍しい話であってな……」
 フー・タオが何となく言葉を濁した。
 クエスト失敗していたら、令嬢の皮をかぶったままだった蓋然性が高い。何という恐ろしいバグ。
 今後、またどこかのPCの誰かがこのクエストのフラグを立てたらまた悲劇が起こるのだ。誰が屍落ちするかはこのNPCパーティーメンバーランダムで。
 ローレット・イレギュラーズには無関係だ。今後、このNPCパーティの屍落ち阻止イベントが行方不明者開放トロフィーにならない限り。
 そう。アンデッド物のお約束。悲劇の繰り返しをほのめかし、容赦なくエンドロールに突入するのだ。
 次にまきこまれるのは、あなたかもしれない。


「――ログアウトを確認しました。お疲れ様です。ログイン時間が推奨時間を大幅に超過――」
 おれのかんがえたさいきょうのくろきしがまさかのアバターバグ。解釈違いとうなされていた彼が目を開けると、現実だった。

 研究員一名、回収確認。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ネコモ(p3x008783)[死亡]
ニャンラトテップ
いりす(p3x009869)[死亡]
優帝

あとがき

お疲れさまでした。黒騎士は無事に命と黒騎士の姿を取り戻し、研究員は現実で目覚めました。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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