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シナリオ詳細

<Genius Game Next>Aquila e Gambino

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 イベント
 2021.06.01 Genius Game Next
 いつも「Rapid Origin Online」をお楽しみ頂きありがとうございます。
 2021年6月1日より新規イベントGenius Game Nextが開催されます!

 Rapid Origin OnlineことR.O.Oにそんな通知が届いたのは、つい先日のことだった。
 まさに今日が、その期日にあたる。
 R.O.Oは本来なら、探求都市国家アデプトが国家的事業として取り組んだ『Project:IDEA』によって産み出された仮想の実験空間である。
 だが原因不明のバグにより、それは『ネクスト』なる無辜なる混沌(この世界)の歪なコピーを生み出し、練達のコントロールを外れてしまったのだ。自己増殖をはじめた情報は、あたかもゲームであるかのように振る舞い始めている。

「ふくは……フレアさん。この『イベント』って、つまり――何だろ?」
「あー……。えーっと。口で説明するのは少し難しいというか……」
 首を傾げる 『ロイヤルネイビー』あるてな(p3y000007)に、『ロード†オブ†ダークネス』フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)が、零れそうな重量を支えるように腕を組んだ。
 訪ねたあるてなは混沌生まれ幻想育ちであり、さすがにネットゲームには疎い。というか全く知らない。だからそういった文化的土壌を持つ再現性東京民のフレアに、仔細を訪ねていたという訳だ。
「あくまで一般論ですが、あー……」
「うんうん」
 二人が話す小さな町のカフェは、現実世界と似て非なる、どこか不思議な体験を与えてくれる。そんな店内であるてなはリンゴジュースを飲み、フレアのほうへ椅子を寄せた。
 フレアはというと、頬を薄桃色に染めると目をそらして、少しだけ身を引いた。恥ずかしがり屋さんか!
「え、えっと、じゃあ初めから、ちょっと考えて説明してみますね」
「うん、お願い」
「こうしたゲームの運営側がイベントを用意……じゃない。その説明だから。むずかしいですね」
 こめかみを指でくりくりとしてから、フレアが顔をあげる。多少考えがまとまったようだ。
「えっと。イベントって、普通にイベントなんです。例えばレストランやなんかで、何月何日に人気の吟遊詩人を呼びますとか、踊り子を呼びますとかします、ですかね?」
「うん。城下なんかで、たまに見るかな。今日は恋のバラードがテーマとか?」
「はい。そんな感じでこのゲームでも『何月何日に、こんな敵が攻めてくるよ』って、ゲーム運営が内容を告知するんです。今回ゲーム内でラサを模した『サンドストーム』って勢力が、幻想を模した『レジェンダリア』に、すごい数でわーっと攻めてくるって感じなんだと思います」
「運営って、この場合は誰なの?」
「それは、ちょっと。謎っていうか……その原因を突き止めたいっていうのが元々の依頼っていうか。練達の上の人達もよく分かってないみたいで。結局私達はゲームに乗っかってみるしかないんじゃないかって、そんな感じなんだとおもいます」
「ぁー……そう、だったっけ。うん、ありがと、なんとなく分かった気がする!」
「あ、それはその。どういたしまして」

 ローレットのイレギュラーズが伝え聞く練達上層部の見解はどうか。ゲーム内容のそれ自体よりも、今回の『知らせが出たこと』そのものに、重点が置かれているらしい。
 それはなぜか。思い返せば例えばネクストに囚われた人々が、ゲームの『トロフィー』となっていたのは知っての通りだ。ネクストはログアウト出来なくなった救出対象を、ゲームクリアによって解放する場合がこれまでにも多かった。そして今回の『イベント』も然り。
 人為的な思考を感じる諸々の動向は、R.O.Oが不具合だけによって情報増殖を始めた訳ではないと思える。即ち『バグの結果として高度なAI的なものが生じた』か、ないしは『このシステムをハックした何者かが居る』といった状況を示唆しているのではないか――。
 つまるところ、練達上層部は『偶然ではない』と読んだのだ。

「よう。例の『イベント』ってやつの話か?」
 気さくに手を振った『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)に、二人が向き直る。
「あー、ですです」
「話は拙者も、聞かせていただきました!」
 カウンターの中から現れたのは、『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)である。
「どっから出てきやがる。店員か」
「そんなことより聞いて下さい! このカフェのマスターのNPCの方。十五分に一回グラスを拭き始めるのですが、その間なら棚のお酒をいくら飲んでも、全然気がつかないことを発見したのです!」
 ヴァレ家は両手に酒瓶を持ち、ぐびぐびと呷ってから続けた。
「これぞ航空海賊忍者、拙者による忍法超天空バーカウンター潜入の術なのです!」
「……ちょ」
「ひょっとして、ここは天国なのではありませんか!?」

「まあ、ほどほどにしとけよ。で、だ」
 ともあれ。ゲーム内の飲食物についてまで、知った事ではない。
 ヴァレ家へ向けたあきれ顔を、神妙な表情に切り替え、リュカは話を続ける。
「練達上層部って連中が言うには、この『イベント』とやらは、重要な手がかりになり得るって話だろ?」
 つまりイレギュラーズはこうしてログインし、イベントに参加して攻略しなければならない。
「んで。その『悪意の何者か』だかってのが、アニキのパチモンこさえてくれやがったってんなら――ちと容赦してやれる話じゃあねえのかもな」
 サンドストームはラサを模した勢力だが、夢の都に住まう商人と傭兵によるエキゾチックで煌びやかな様相はなりを潜めている。悪徳がもてはやされ、傭兵とは名ばかりの盗賊のような恐ろしい集団だ。
 少なくともラサの傭兵達がモデルである以上、強敵となろうことだけは間違いない。

「そんで。今回の敵ネームドは――」

 ガンビーノ・ファミリー!?

「――って、おい。俺か!?」


「いいか兄弟、良く聞いとけ。コイツはアニキ直々にくだすった、ファルグメントっつうお宝だ」
 ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が声を張り上げる。
「こっちは赤、そっちは緑。黄色、紫。綺麗な枝だろ。おいリオネッロ。一本折ってみな」
「い、いいんですか?」
「ルセェ! 折れっつってんのが聞こえねえのか!」
 おずおずと訪ねたリオネッロを、ルカは突如怒鳴りつける。驚いたリオネッロは枝を落としそうになり、何度かジャグリングさせたあと、結局転がしてしまった。
 混沌のルカは、かような真似など決してするまい。社交的で人好きのする彼は、ファミリーもまた大切にする人柄である。だがネクストでは些か――いやそれ以上に違うということだ。
 傍若無人で獰猛、『キレる』スイッチが入るまでのスピードが異常に速く、喧嘩相手を半殺しにするのは日常茶飯事。『こちらの世界』では、どうもそういった性格らしい。
 とはいえ内に向けた情や仲間意識は一応健在らしく、仮にリオネッロが『アカの他人』であったなら、即座に顎先辺りを蹴りつけられていたに違いない。
 混沌のルカより五歳ほど若い、この『砂のプリンス』は、そうした容赦のなさで頭角を現す人物なのだ。

「ペピーノ。ウスノロ野郎の代わりに、一つ手本を見せてやれよ」
「うす、若兄貴。おいウスノロ野郎のリオネッロ。目ん玉かっぽじって、よおく見とけよ」
「あ? 目ぇほじっちまったら、何も見えねえだろうが」
「うっせ」
 足元に転げてきた枝を拾い上げたペピーノは、両手で掴んで力をこめた。
 乾いた小さな音をたて、真っ赤な小枝が割れるや否や――
「ヒェッ!」
 ――突如現れた怪物が、鋭い爪を振りかぶる。
 寸詰まりの悲鳴を上げたペピーノは尻餅をつき、間一髪。どうにか転がる。
 怪物の爪は、街道の石畳を深々と抉っていた。
「ははっ! そら逃げろ逃げろ」
 ペピーノを追う魔物は天幕をなぎ倒し――
「頃合いか」と、ルカは魔物を一刀に斬り捨てた。ペピーノがへなへなとへたり込む。
「若、そりゃないですぜえ……」

「なるほどな」
 述べたのは一人の少女だった。切れ長の瞳でルカを見つめている。
 黒い髪を長く伸ばし、曲刀を佩く。白い肌に纏った美しい赤い装束を旅人(ウォーカー)風に例えるなら、中央アジアの民族衣装か。そんな女の名をミリアム・アルマファルという。砂嵐南部の遊牧民の一部族を母体とした、イーグルハートという傭兵団を率いる長だ。
 混沌の歴史なら盗賊であり、砂蠍事件の際に魔種となって、イレギュラーズに討伐され死亡している。
 だがネクストでは、部族間の闘争に敗れた一族は、砂の都で傭兵として再起を図った。一族の手練れを率いて、この作戦で名を挙げる――なによりも金品を得るのが目的だろう。
「つまり、この枝を一斉に折って魔物を召喚し、町へけしかけると」
「ご名答。さすがイーグルハートは話が早い。そこのベリザリオってやつが考えた作戦だが――」
 ルカが視線を送ると、ベリザリオはミリアムへ優美に一礼してみせる。
「なかなかやるだろ? で、小枝のフィンガースナップが、パレード始まりの合図になるって寸法だ」
「分かった。我等も家族の為、貴様等も家族の為。お互い全力を尽くすとしよう」
「それじゃ、クラブ・ガンビーノのパーティーをはじめるぜ。楽しい楽しいパレードでも眺めながらよ!」


 宿場町と外とを隔てる簡素な門から外を見渡す。
 そろそろ何か起きてもおかしくはないが。

 そうこうしていると、街道の向こうから砂煙をあげ、傭兵達が迫ってくる。
「なんかすげえの来てんだけど!?」
 パカダクラと馬の足音より、なにより重大な情報が視界に飛び込んできたではないか。
 傭兵達を追っているのは、大量の魔物共だ。
「どうして砂嵐の人達が魔物に追われてるの?」
「え、ちょ。これって。トレイン!?」
 首を傾げたあるてなに、フレアが上擦った声をあげる。
「トレインて、なんだ?」
 リュカにフレアが応える。
「ええと。魔物を大量に連れてくるっていうか。わざと追われて、襲わせるやつです!」
「んだと!?」
「これは拙者も呑んでる場合ではありませんね!」
 酒瓶を握りしめたヴァレー、もといヴァレ家が唇をきりりと引き結ぶ。
 このままでは町は大惨事だ。この場に居るイレギュラーズで急遽撃退せねばなるまい。
 万が一サクラメントを破壊でもされたら、大惨事である。
「でもサクラメントが近い利点もありますね!」
 酒瓶を振り上げたヴァレ家の言葉通り、この町には『イベント用のサクラメント』が用意されていた。
 多少のタイムラグはあるが、いわゆる『死に戻り』を可能とするらしい。

「しょうがねえ。こうなりゃ、とにかくやるしかねえな」
 リュカの言葉通り、状況の全てを、どうにか上手く利用するほかないだろう。
「あるもんは、なんだって使ってやろうぜ!」

GMコメント

 pipiです。
 砂漠の悪漢『サンドストーム』を迎え撃ち、撃退しましょう。
 あいつら、なんかすげー数の魔物をトレイン……引き連れてきてます。
 なつかしいと感じられる方も、そんなの初耳って方も、是非是非おいでませ。

●目的
 大量に現れた魔物の討伐。
 サンドストームの撃退。

●ロケーション
 幻想西部。時刻は昼過ぎ。
 村規模の小さな宿場町を貫く街道です。
 敵がドーーっとやってきますので、一心不乱に倒しましょう。
 おそらく戦線は、どんどん押されてきます。
 前半は町の外、後半は町の中での戦いになると思われます。

 数百メートルの近くに『イベント用(ボス用)の特殊なサクラメント』が存在する為、死に戻れますがタイムラグが多少生じるので注意です。
 そして、『ネクスト』において問題なく何事も無かったように復活出来るのはPC(と、あるてなとフレア)だけです。
 サクラメントの場所は、町の中心にある噴水です。上手く利用したいものです。
 戦闘が長引けば、いずれ戦場はそこまでたどり着くでしょう。

●敵
 サンドストームの盗賊……もとい傭兵達と、大量の魔物です。
 不思議な力で、すげー数の魔物を召喚したようです。

『団長代理』ルカ・ガンビーノ
 傭兵団クラブ・ガンビーノの団長代理です。
 傍若無人で情け容赦ない戦いぶりで、頭角を現しつつあります。
 巨大な黒い大剣を持ち、物理の単体、範囲、遠距離攻撃を使用します。
 保有BSは出血、流血、致命、必殺。
 一撃の破壊力はとてつもありません。

『副団長』ベリザリオ・グレコ
 冷静沈着な副団長であり、ルカの親友にして右腕です。
 後方に控えており、戦場を俯瞰して全域を統率しています。
 戦闘能力自体も高く、『団の誰よりも強い』と評判です。

『ミリアム・アルマファル』
 中央アジア風の赤い装束を着て、大きな曲刀を持った女性剣士です。
 仲間思いの生真面目な性格ですが、仕事と生死感にはシビアです。
 彼女もまた、砂嵐という悪漢集団の中で強かに生き抜く傭兵なのでしょう。
 スペックは典型的なスピードファイターであり、中々の腕前です。

『ガンビーノファミリー』×8
 クラブやバーのような、オシャレな衣装を纏った傭兵達。
 ナイフや剣で武装しています。

『イーグルファミリー』×8
 曲刀や弓で戦う傭兵達です。

『魔物』×たくさん
 ガンビーノファミリーに引き連れられて……というより、おっかけてきている魔物です。
 どの魔物が誰を狙っているか等は、攻撃を加えるとか、見失うなどで割と頻繁に変化します。
 つまり『タゲやらヘイトやらは雑に移る』です。

 種類はスライム、ゴブリン、オーク、フェニックス、ウィンドエレメンタル、スケルトン、オーガ、キラービー、ラミア、ヘルハウンド、フライングブレイドイワシ、マンティコア、オールドウィロー、フライングスパゲッティ、アイアントータス、サキュバス、ファイアエレメンタル、エリナ・ゴア(Unique)、コッカトリス、太歳オンザ峠、ドライアド、キュマイラ、ウォーマシンMK722-II、ハーピー、グール、山口さんダークネス(Rare)、ナックラヴィ、ゾンビ、アルラウネ、ブラックドッグ、ムービング温泉(Rare)、アラクネ、コボルド、ロード・オブ・ジ・アビス(Unique)、ブラッディーローズ、リヴィングぱんつ(Rare)、クロウラー、グレンデルと……あとなんだったかな。もうちょい居て。えっとそういうのが、それぞれ1~数体ずつ、です。
 もう一度いいます(略)。

 ちなみにこいつらは、砂嵐の傭兵達も見境なく襲います。
 どれに何をするとかを考えてる暇は、ほとんどなさそう。
 とにかく色々いる群れです。
 個々の強さも能力も、てんでばらばら。なんとなく判断するしかありません。
 気になる種類が居る場合は、極少だけ抜き出して考える他なさそうです。
 こいつらの利用法を考えてみるのも一興かも?

●町の人達
 驚くべきことに、魔物達の大群は町の人達をスルーします。
 町の人達もまた何事もなかったかのように、日常生活を営みます。
 しかしそこに、(この場合残念な)例外がないとは言い切れません……。

●同行NPC
『ロイヤルネイビー』あるてな(p3y000007)
 R.O.O初心者。
 皆さんの仲間です。
 軍刀と、なんだか戦闘機を飛ばす装置を持っています。
 物理寄りのオールレンジアタッカーです。

『ロード†オブ†ダークネス』フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)
 希望ヶ浜からのログイン組で、皆さんの仲間です。一応イレギュラーズ。
 物理と神秘のバランス型近接アタッカーで、遠距離単体神秘攻撃と、回復もあります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。

  • <Genius Game Next>Aquila e Gambino完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年06月21日 23時40分
  • 参加人数10/10人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

リュート(p3x000684)
竜は誓約を違えず
夢見・ヴァレ家(p3x001837)
航空海賊忍者
ハウメア(p3x001981)
恋焔
シラス(p3x004421)
竜空
コル(p3x007025)
双ツ星
リュカ・ファブニル(p3x007268)
運命砕
トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)
蛮族女帝
濡羽(p3x008354)
小さな魔獣使い
現場・ネイコ(p3x008689)
ご安全に!プリンセス
アズハ(p3x009471)
青き調和

サポートNPC一覧(2人)

あるてな(p3y000007)
ロイヤルネイビー
フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)
ロード†オブ†ダークネス

リプレイ


 地平線に立ちこめた砂塵は、徐々に近付いている。

 先頭を駆ける軍馬や駱駝に乗った集団――砂嵐の傭兵団を、魔物が追いかけていた。
 だが傭兵達に慌てた様子はまるで感じられない。
「おいおいおい、MPKかよ」
 未だ表情こそ見えないが、そんな遠目からも彼等の楽しげな様子がうかがい知れる。
「こりゃまた古典的な方法できやがったな……」
 目を丸くして感慨深げに呟いた『蛮族女帝』トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)の『プレイヤー』は、一部の旅人達が言う所の『現代的』な知識を持ち合わせている。
「……ですね」
 頷いた『ロード†オブ†ダークネス』フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)もまた然り。
「MPK?」
 だがきょとんとした『ロイヤルネイビー』あるてな(p3y000007)は混沌の現地民であり、未だに疎い。
「まずは街の外でやるぞ」
「了解!」
 早速走り出すトモコと、一行は轡を並べて駆けた。
 宿場町の門をくぐると牧歌的な音楽がフェードアウトし、寂しげな旋律へ切り替わる。

 敵、砂嵐傭兵団の一つガンビーノ・ファミリーは、多量の魔物に狙われる形で牽引し、相手を襲わせる戦術を行うようだ。MMO等のゲームでは『MPK』や『トレイン』などと称される。
「魔物を大量に引き連れて……トレインと呼ぶのか。言い得て妙だな」
 そう述べた『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)の通り、一行は短いやり取りの中で、今回の『仕様』を理解することが出来たようだ。

 ――原因不明のバグにより、異常な情報増殖を起こしたRapid Origin OnlineことR.O.Oは、仮想世界ネクストを形成し、イレギュラーズへ『ゲーム』という名の試練を突きつけてきている。
 バグの真相へ近付く為にもゲームに乗る必要があり、イレギュラーズへ依頼された訳だが――
 この日、R.O.Oは事前の告知通り『イベント』を開催した。砂嵐(ラサのいびつな模造品)と呼ばれる勢力が、伝承(こちらも幻想の模造品)へ、大群を伴って攻めてくるという内容である。
 この戦域には特殊なサクラメント(ログインポイント)が出現しており、謂わばゲームによくある『ボスステージ』に相当すると思われている。
「もうなんだか、懐かしいな」
 感慨深げに呟いた『シラスのアバター』シラス(p3x004421)は、数年前の事を思い出さずにはいられない。当時の幻想に攻め込んできた大軍勢を、砂蠍盗賊団といった。討伐された頭領のキング・スコルピオだが、ネクストでは健在らしく、砂の王『赤犬』ディルク・レイス・エッフェンベルグと手を結んでいるらしい。
「今回の騒動はあの時よりも更にスケールアップしそうな予感がする」
 一行が頷いた。ネクストに潜む悪意は、何をしでかすか分かったものではない。
 それに――
(いくらゲームの中でも幻想、じゃなくて伝承が荒らされるのは何となく嫌だね)
 いびつな模造品とは言え、見知った場所や人々、愛着のある想い出を、汚させてはなるまい。
(あれは、ミリアム……)
 イーグルファミリーの頭目ミリアムは、その砂蠍事件の際に怒りから憤怒の呼び声を受け入れ――討伐された。貧しさから奮起する様は、どこか鉄帝国における宗教的革命運動とも重なり、けれどミリアムの失敗と最後は『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)(の中の人)の心に刻み込まれている。
(いえ、仕事に私情は不要です)
 けれど想い出に浸るのは後でもいい。ヴァレ家は首を横に振った。
「拙者達の任務は、彼らを殲滅して街の危険を取り除くこと!」
 それだけだ。他に何も考える必要はない。少なくとも、今だけは。

(ネクストのルカさんもかなり苛烈みたいだし、これは激しい戦いになりそうだ)
 アズハは想う。表示されたボス名は『ガンビーノ・ファミリー』であり、これは混沌のイレギュラーズであるルカ・ガンビーノ(p3p007268)の『悪意ある模造品』らしい。
 先程ルカ達が、不思議な力で大量の魔物を召喚するショートムービーが演出されていたが、その性質は当人とは随分違って見えるが、ともあれ勇猛さは健在ということだ。
「なるほど、これがこっちのラサ……サンドストームのやり方か」
 舌打ちした『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)については、無理もない。彼の背後(なかのひと)こそ、混沌のルカその人なのだから。

 砂埃の臭いが、いよいよ風に混じり始めた。
 微かな地響きも感じられる。
「なんであんなに魔物を引き連れてるんですか。力量を越える魔物を引き連れたら危険なんですよ」
 思わず身震いした『小さな魔獣使い』濡羽(p3x008354)だが、それもそのはず。
 この仮想世界はあまりに『リアル』すぎる。視界の片隅にちらつくアイコンと、聞こえてくる音楽以外は何も現実と変わらない体感である。だから向こうに見えるそれは、背筋が寒くなるような光景だ。
「花、お願い」
 ともあれ為すべきは為す。濡羽は早速鳥の魔獣――友人の『花』を上空へと解き放った。
 傭兵団の『ネームド』ルカ、ベリザリオ、ミリアムの様子は、把握しておきたい所だ。
「それから鏡は僕の側に居て」
「ぎゃうー……魔物さんもお腹が空いたっす?」
 不安さを押し殺すように、『神の仔竜』リュート(p3x000684)はおどけて見せた。
「街のご飯屋はリュートたちが使うから、魔物さんはそこの荒くれさんを食べて欲しいッスね!」
「魔物達の統率がとれていないのが幸いですね、それでも――あの数は驚異ですが」
「うん、全力で迎え撃つよ! 宿場町を守るんだ!」
 ハウメア(p3x001981)の言に『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)が応じる。
「――あ、でもひょっとするとチャンスなのかも?」
「どうしたっす?」
 敵のやり口にぷんすかと怒っていた『双ツ星』コル(p3x007025)が、何かひらめいたとばかりに拳で手のひらを打つ。リュートが首を傾げた。
「仕掛けてみたいことが出来ちゃいました! モンスターの群れを押し付けてくるなんて狡い人達には!」
「ああ、統率されてねえってことは、むしろ『こっちの手が増えた』とでも喜んでもいい」
 得心いったように、トモコもまた頷いた。

 ――コルの策とは。


「いきますよー!」
 迎撃地点へ到着したコルは、迫る軍勢の真正面で片手を高く掲げる。
 フィールドのBGMが勇壮な曲へと切り替わった直後、視界の片隅でスキルアイコンが輝き、先頭集団へ向けて白い光が舞い降り――景色が歪んだ。
「――ドスンッ!」
 叩き付けられた超重に馬がいななき、駱駝、傭兵達諸共を大地に叩き付ける。

 一足先に迎撃地点へ到達したのは、ハウメア、コル、ネイコ、アズハの四名だ。
 陣としては、やや突出した格好になっているが――
「……チッ!」
「邪魔しやがるなら、ぶっ殺せ!」
 跳ね起きた傭兵達が罵声を吐き捨て、魔物に追われたまま駆けてくる。
「貴方達が魔物を呼び込んだって言うなら責任は取ってもらわないとね」
 ネイコが宣言する。

「――君のハートを舗装しちゃうぞ!」

 誘導灯をバトンのように操り、宙を舞うネイコの衣装が軽快に弾けて、鮮やかな煌めきに包まれた。
 可愛らしいリボンが身体にくるくると巻き付き、靴が、袖が、次々に現れ、くるりとターンするネイコの身に、フリルやリボンが次々と顕現した。←余談だが、これ某山田あたりが見ると『違う』らしい。
 構え。帽子がちょこんと乗り。
「貴方の心に安全確認っ!」

 ――ヨシ!

「――なんちゃって? それじゃ、デスマーチを始めよっか? 凄い嫌な響きだけど……仕方ないね!」
 ご安全に!
「このまま足を奪おう!」
「ええ、魔物との交戦を余儀なくさせるため!」
 神弓を引くハウメアの言葉通り、手をこまねいてはいられない。
 コル達の作戦、それは『足止め』だ。
 そうした効果を持つスキルを叩き付け、また積極的に『乗り物』を巻き込んで攻撃すること。
 アズハもまたスナイパーライフルを構え引き金を引き絞る。放たれた弾丸敵陣で光を放った。
 同時に、爆炎を纏う矢が同じ場所を貫き、光が舞い散る。
 ターゲットを示す矢印が、敵と味方の間を乱れ飛んだ。
「これは、すごいことになるかもね」
 覚悟を決めるネイコ。こんな量では、誰が何に狙われているのかも、まるで分からない。
「どんどん行くよ! ――カラミティストライクっ!」
 誘導灯から放たれた輝きが敵陣を蹂躙し、無数の災厄が襲う。
 両軍の激突が始まった。
 殺到する傭兵団もまたイレギュラーズへ刃を振るおうと試みるが、しかし直後に迫る大量の魔物を回避するので手一杯な様子だ。
「てめえ等、魔物を奴等に押しつけろっつってんだろ!」
「合点!」
「やらせないって、今度はびりびりだよ!」
 低く構えたコルの電撃に貫かれた団員が後方に吹っ飛び、魔物の爪を転げながら避ける。
「一旦散れ! このままひき殺せ!」
「これは、まずいわね」
 叫ぶ砂嵐と、息を飲むハウメア。
 僅か一手の間に幾度もの攻撃を叩き込んだ一行であったが、このままでは――間に合わない。


 ぷつり――と。
 何かが途切れた気配があった。
 その瞬間、視界が漆黒に暗転する。

「――これは、そういうことだな」
 アズハがあたりを見回すと、同じくハウメア、コルの姿が見えた。
 暗闇の中に身体が浮いており、光の粒子が飛び散っている。
 しばらくして、ネイコもまた同じ場所へ現れた。
 HPを表すゲージは、全員がゼロを示している。

 突如、眼前に赤茶けた映像が映し出された。
 燃える家々、瓦礫の下敷きになった人々――
 傭兵団員達が宿場町に略奪を仕掛ける、陰惨な光景だ。
「まって、どういうこと!?」
「イベントとやらにしくじると『こうなるぞ』という、脅しでしょう」
 スクリーンがやや暗くなり、中央にじわりと白い文字が浮かび上がる。

 ――Continue? Yes / No

 Yes.

 Yes. Yes. Yes. Yes !

 表示された文字に、各々が指を何度も押しつけた。

 ――Now Loading...

(急いで、急いで!)
 もどかしさに胸の奥底を焦され、ただ急げと念じながら。
 十秒。二十秒……。
 じりじりとした時間が流れた。

 ふわりと開けた視界。
 四名は再び『特殊サクラメント』を背にふわりに降り立つ。
 流れ始めた牧歌的なBGMは、今やひどく耳障りだ。
「行こう、はやく戻るんだ!」
 ネイコの言葉に、一同は頷き、再び駆けだした。

 ――

 ――――

「ちっ、どうにも気に入らねえな!」
 団員と斬り結んだリュカが吐き捨てる。
「傭兵が正義の味方なんて思っちゃいねえが、それでもこれは『違う』だろ」
「んだ? てめえは。偉そうに、ぶっ殺すぞ!」
 眼前の男が、憎々しげに口を歪め、片目を見開いた。
 見知った顔だが、名前は言いたくない。
 少なくとも、クラブガンビーノのメンバーは――あいつは、断じてこんな奴ではない。
「だから……ぶっ飛ばしてやる!」
「ああ、グッチャグチャにしてやるぜ」
「また新手が来やがったか、なにもんだてめえら」
 しかし有無を言わさずトモコとリュカが踏み込み、傭兵団員を地に叩き付ける。
「な、なんだ!? 竜種――か!?」
「るせえ! ひき殺せば同じだ!」
 圧倒的熱量――ブレスが敵陣を飲み込んだ。
 シラスが放った炎のブレスが吹き荒れる。
「続けて行くっすよ! どーんっ!」
 小さな竜――リュートが色とりどりの光弾を吐き出す。
「リュートも竜っスからね! びっくりしてもらうっスよ!」
「クソが、こいつら狂ってやがる。命が惜しくねえのかよ!? このまま突っ切るぞ!」
 炎、氷、無数の乱舞に恐慌を来した団員が喚きちらす。
「足止めは拙者にお任せあれ!」
「邪魔だどきやがれ!」
 傭兵の前で両手を広げたヴァレ家へ傭兵がシャムシールを振りかぶる。
 身体を駆け抜ける斬撃――赤い光の粒子が宙空へ溶け消える。
「てめえら、人間じゃあねえな!?」
「拙者こそ、『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家!」
「ええええ、うるせええ!」
 背後の魔物に爪を突き立てられた傭兵が地を転げる。
「このまま一気に、なぎはらいますよ」
 ボウガンのハンドルをまわし、濡羽は敵陣にクォレルを次々と打ち付け、凍気が膨れ上がった。
「でもこれ正直狙わなくても適当に打ち払っても当たりますよね、これ」
 たしかにそうだ。けれどどうにも魔物が多い。
 このままでは、先陣同様に飲まれる。
 デスカウントを増やすのも――練達からは影響がないと言われているが――さすがにぞっとしない。
「とにかくダメージを与えていきます。敵に、少なくとも傭兵団員に回復役は居ないようですから。いつかかならず終わりはあるはずです」
 フレアとあるてなもまた、イレギュラーズと共に攻撃を試みる。
「オッラァ!」
 シラスの巨体(!?)が団員にぶつかり、転げた団員を魔物の爪が引き裂いた。
 だが団員が魔物の群れに飲まれた直後、シラスもまたトレインの渦の中に消える。
「どいつもこいつも敵同士。どうにか踊りきってやりてえが」
 縫うように駆けるトモコにも、ターゲットを表す赤い矢印が無数に飛んで来ている。
「散開! 正面からくんぞ!」
 原始の直感が閃き、トモコが叫んだ。
 一行が各々回り込むと、暗黒のオーラといかにも邪悪そうなローブを纏う骨の魔術師、それから血塗れのナタをもったロリィタ少女が突出した。
 表示名は『ロード・オブ・ジ・アビス』、それから『エリナ・ゴア』。
「『Unique』ってやつか」
 二体のモンスターは、転げた団員の一人を瞬く間の内に殺し、再び魔物の大群に混じる。
 こうして第二陣に許された時間もまた、僅か三十秒と少し。
 ヴァレ家とトモコ(それからネイコ)は、団員に倒されることはほとんどあり得ない。
 訳の分からない量の敵に、挽き潰された時――つまりたまたまいろいろな攻撃の中に混じっている必殺が、いいタイミングで入っちゃった時――だけが問題という訳だ。

 一方、ハウメア、コル、ネイコ、アズハ達の四名は一時の離脱を余儀なくされたが、後ろからすぐに駆けつけてくれるだろう。それに彼女等の作戦は一定の成果を残している。傭兵団達は引き連れた魔物と、時折の交戦を余儀なくされているのだ。
 ともあれ、単純に考えるなら、とにかく逃げながら魔物を押しつければ良い傭兵達と、魔物を避けながら敵団員を狙わねばならないイレギュラーズの交戦は、イレギュラーズにとって不利な状況ではある。
 だが作戦はそうした事を織り込み済なのだ。
「おい、みろ。あいつら」
「あ? お、おい。てめえら、さっき殺したはずじゃ!?」
「いや、死体は見てねえ。挽き潰したと思っていたが、こいつは」
 一行は特殊サクラメントを利用し、何度もログインしながら波状攻撃を仕掛けるのだ。
 このフェーズでは、まず敵を可能な限り消耗させることが出来れば良い。
 故に作戦はここまで、成功していると言える。

「何度死に戻りしてでも、町が押し潰される前に仕留めきりますよ!」
 ハウメアが宣言する。先の四名が再び最前線へと立っていた。
 戦線は徐々に後退しており、一行は今、街の門を背負っている。
 残るメンバーは、各々のタイミングで、サクラメントからこちらへ向かっているはずだ。

「死に戻りだあ?」
「いや、聞いたことあんぜ」
 大剣を振りかざす少年――混沌の彼より五歳ほど若い――ルカが嘯く。
「真だか偽だかしらねえが、特異運命座標。異世界からやってきた、不死身の英雄様っつうな!」
 駆けながら、地につばを吐き捨てる。
「……気に入らねえ。俺こそが正真正銘に、この世界の特異運命座標のはずだからよ!」


 戦線は入れ替わり立ち替わり、イレギュラーズがリスポーンを続けながら交戦を続けている。
 敵の傭兵団員は徐々に数を減らしているはずだが、魔物の勢いは衰えていない。
 戦場はいよいよ街中へ突入していた。
「そうですか。じゃああの三人が」
 濡羽の元から再び花が飛び立つ。ルカとミリアムは傭兵団の中央に、ベリザリオは後方で殿を務めながら、つまり最後尾で魔物の攻撃を直接さばきながら、団員達に具体的な指示を与えているようだ。なるほどベリザレオが最も手練れだという噂は本当のようだ。
「ルカっちよりもグレコさんの方が強いッス? 楽しそうッス!」
 好奇心を讃えた瞳で、リュートが呟いた。
「……まあ、だな」
 リュカが応じる。

「やあ、泊まっていくかい? うちの宿は肉料理が評判でね」
 にこやかに客引きする女を尻目に、一行は乱戦を繰り広げていた。
「どうだいどうだい! やすいよやすいよ! 新鮮な果物だ!」
 叫ぶ露天商に魔物がぶつかり――

 ――Unbreakable Object !

 露天商は微動だにしない。
「やすいよ! やすいよ!」

 ――Unbreakable Object !

 ――Unbreakable Object !

 立て続けのビープ音と共に、破壊不能を示すエラーメッセージが乱れ飛ぶ。
 あきらかにおかしな状態である。盗賊団のような恐ろしい砂嵐の傭兵団と魔物に街を襲撃されているというのに、街の人々は気にもとめずに普段通りの生活を見せている訳だ。
 ゲームをゲームと知るイレギュラーズはともかく、傭兵団員は気付いてもよさそうだが――やはりこれを気に留めた様子もない。
 僅か三名の例外を除いて。

「ベリザリオ、こいつはどういうことだ。魔物共が街を襲いやしねえ」
「……さて、これは」
「団員も気付いて居ない様子ですね」
「ルカ殿、ベリザリオ殿、これは一体」
 ミリアムもまた辺りを見回す。
「街の連中だって逃げようともしやがらねえ、こいつは『異常』だぜ」
「狂っているのは、この街か、敵か、それとも私達であるのか」

「どういうことでしょう!?」
 交戦しながら、傭兵団を率いる三人を視界の向こうに捉えたヴァレ家が振り返る。
「あの三人、何か気付いたっスかね?」
「ゲームシステムから、逸脱したってか?」
 リュートの問いに、トモコが唸った。

 ――エラーを検出しました。修復を開始します。

 システムメッセージと共に、ルカ、ベリザリオ、ミリアムの三人が頭を抑え、呻き出す。

 ――修復が完了しました。

「テメエら! 奪え、殺せ。街の連中は皆殺しだ!」
 突如、頭をあげたルカが叫んだ。
 表情に先程までの迷いは微塵も感じられない。
「そうかもしれねえが。連中、また忘れちまったらしい。とにかく続けるしかなさそうだぜ」
 リュカが吐き捨てる。
 魔物を引き連れた傭兵団が、イレギュラーズへ殺到する。
「街の人を狙うって、言ってませんでした?」
 濡羽は「それはそれで困りますけど」と続ける。
「きっとそういう『仕様』なのかな」
 傭兵に誘導灯の斬撃を叩き込んだネイコが呟く。
「だったら、あいつらに暴れてもらおうぜ」
 リュカが叫び、いくらかのユニークモンスターを中心に殴りつける。
 赤い矢印が一斉にリュカを指し、強力そうな魔物が一斉に振り返る。
「てめえ、まさか!?」
「く、来るんじゃねえ!?」
 リュカはそのまま、傭兵団の中心につっこんだ。
 体力ゲージがみるみる削れ、しかしリュカは凄絶な笑みを浮かべる。
「意趣返しってやつだ。そのまんま……くたばりやがれ!」
 光の粒子になって消えたリュカの眼前――団員達へユニークモンスターが殺到した。


「拙者、ゲリラ戦は得意で、す――得意でして!」
 時に物陰へと潜み、ヴァレ家達は砂嵐を迎撃している。
 戦場ま街の中心にあるサクラメントの位置へ徐々に近付いている。
 おそらく敵は仕掛けに勘づいているが、破壊させる訳にはいかない。
 だがサクラメントに近付いたということは、リスポーンしてから戦線に復帰するまでの時間が飛躍的に高まったことも意味している。それ自体は有利な状況であり、敵の進軍速度は物の見事に低下していた。
 とにかく、敵がそうした行動に出る前に、撤退に追い込むほどの決定的な打撃を与える必要がある。
 敵もしびれを切らせば思い切った行動に出るかもしれないが、これまでに『仮初の命と引き換え』に加え続けた打撃、それによる消耗がモノを言うだろう。
「あっちは死んだらそれまでだ。その利を活かしてやるぜ!」
 トモコが駆けだした。
「リュートはご飯じゃないッス!?」
 魔物の攻撃を避けきったリュートが、傭兵にターゲットをなすりつけ、ブレスを吐き出した。
「てめえら、何しやがる!」
「最初はそっちがやって来たんだし文句はないよね?」
 ネイコが誘導灯をくるりと振って――カラミティ。
 仲間達に向かっていた魔物のターゲットが、傭兵団へ一斉に傾いた。
「まだまだ行くぜ!」
 幾度目かの戦線復帰を果たしたシラスもまた、再び突進を開始する。

 小さな子供が、泣いている。
「あれ、は……」
 助けを呼ぶ感情に、アズハが気付いた。
 この戦場は、おそらく『イベント』による『仕様』の影響を受けている。『仕様』はおそらく、このボスエリア、中でもこの場所限定なのであろう。他の場所は違っている可能性も高い。
 けれどともあれ、あの子供は、さきほどのルカ達と同様『例外的なエラー』なのだろう。
 とっさに身を投げ出したアズハの背に、魔物の爪が突き立つが、アズハは構わず子供を抱きしめ走った。
 民家の裏通り。治安も良さそうだ。おそらくここなら、問題ない。

 ――エラーを検出しました。修復を開始します。

「大丈夫かな?」
 子供は応えない。
 システムメッセージと共に、子供の瞳孔から一瞬だけ光が消え、今度は一転して無邪気に遊び始める。
 心配したアズハは再び子供に触れようとするが――

 ――プレイエリア範囲外です。

 皮肉なシステムメッセージは、子供がシステムの影響下に『戻った』ことを意味していた。
 おそらくこれで、イベント中は破壊されない『オブジェクト』ということだ。
「負けさえしなければ……だろうがな」
 もしも負けてしまえば、死に戻りのたびに見せつけられる、あの陰惨な映像通りになるのだろう。
 だから、勝つほかない。
「アズハさん。さっきの子供は?」
「もう大丈夫」
「よかった」
 盾のようなカタパルトを構えたあるてなが、ラジコンのような戦闘機を離陸させる。
 数機の戦闘機は空中を旋回し、麦粒のような弾丸を傭兵に浴びせていた。
(……そういう)
 確かスカイフォースという武器が、R.O.Oの攻略情報(発見済みアイテム一覧)に載っていた気がする。


 交戦は続いていた。
「ここに伏せて――びりびり、どーん!」
 屋根に駆け上がったコルは芋虫のように伏せ、雷撃を見舞う。
「アシスト、したよ!」
「ありがとう! それじゃあこれで、どう?」
 炎矢を放ち、不敵に微笑んだハウメアが駆ける。
「く、来るな、来るんじゃねえ!?」
 爆弾のように導火線のついた、赤い風船を引き連れて。
 傭兵団の中心で爆発した風船と共に、ハウメアは光の粒子となって消える。
 この連携に、いくらかの魔物と数名の団員が倒れた。
「ギャウーッ! もっと遊ぶっスよ!」
 リュートが敵陣を縫い、突進する。
「オラオラァ! ダブルドラゴンのお通りだぜ!」
 もんどり打った傭兵に、シラスが更なる追い打ちをかけ、また一人傭兵が石畳に転げた。

「そろそろ、本番ですね」
 濡羽は先んじて、敵幹部を中心に狙い続けていた。
「だな。けど、さすがにしぶてェ――な!」
「なんとかしましょう」
「クソが、てめえら邪魔しやがってよ!」
 ルカがトモコの一撃をかろうじて受け止める。
「けど、足掻くよ」
 敵の数には、手数で勝負する算段だ。
「ったりめえよ。サンキューな!」
 立て続けに放たれたアズハの射撃に、ルカが姿勢を崩した。トモコはその隙を逃さない。
 こちらでも相変わらずの相棒(デルさん)を、こちらでは片手で振りあげ、一閃。
「――チィ!」
 今度は受けきることが出来ず、ルカが膝を付く。
「……ルカ」
「ベリザリオ!」
 一瞬の目配せに、ベリザリオが街の奥を見据える。
 狙いはサクラメントか。
「さすがにキレるな、副団長ってやつは」
 リュカが唇を噛む。
 あれを破壊されてしまえば、ほぼゲームセットに近い。
「おいクソガキ。テメェだルカ・ガンビーノ」
「あ? んだテメェはよ!」
「ダセェ真似して粋がってんじゃねえぞ! テメェだけはぶっ潰す!!」
「んだとコラ!」
 リュカの挑発に激昂したルカが、巨大な剣を振り上げる。
「乗るな、ルカ」
「ルセェ!」
 刃の激突。
 力比べなら、こんな小僧に、歪められた過去の姿に、負けるはずがないと。
 幾度かの打ち合い、鍔迫り合いは――ルカに軍配が上がった。
「ハッ! イキがってんのは口だけかよ、死にやがれ!」
 ――ように見えた。
 一瞬だけ力をゆるめたリュカに、ルカは僅かに姿勢を崩す。
「年期の違いってやつだ」
 暴風の如き一撃がルカを襲い、続く二撃は――
「……そこまで」
 ベルザリオに弾かれる。
「テメェ! 何してやがる! サクラメントぶっ壊せつったろうが!」
「ルカ、下がりなさい。回りを見るのです」
 傭兵団の団員達は、魔物から逃げ回り、命からがらの様子だ。
「ッチ。わーったよ」
 ルカが踵を返す。
「待ちやがれ! クソガキ!」
「貴方の相手は、私です」
「どけ、ベルザリオ!」
 リュカが刃に力をこめた。赤い闘気が前進を包み、瞳が竜のそれへと塗り変わる。
「ほう、私をご存じの様子。心当たりはありませんが」
「知ってるも何もねえ!」
 僅か一瞬、怪訝そうな表情を見せたベルザリオは、即座にとびすさる。
「残念ですが、ここは一旦預けましょう」
「……もう一度あいてえような、二度とあいたくねえような。複雑な気分だぜ」

「……貴様は、なぜ」
「拙者は……何者でもないのです」
 ――少なくとも、この世界の貴女にとっては。
 けれど、やっぱり。死なせることは出来ない。
「逃げて下さいまし、イーグルハート。嬉しいものではないかも知れないけれど、武運と幸福を祈ります」
 ミリアムを庇ったヴァレ家の足元が、光の粒子になりはじめた。
 HPゲージは、ゼロを指している。
「お前、一体――」
「私の神に、貴方達の祖先に」
「待て! 逝くな!」
 ――たとえ現実で迎えた結末を変えられないとしても。
   この行いで罪を問われるとしても。
   ミリアムには幸せになって欲しいのです。
   これが仮想現実だというのなら、その中でくらい夢を見たって良いではありませんの。
「あ、すぐにリスポーンしますわよ。だから気にせずお逃げになって」
「あ、ああ。そうだったな。……潮時か。名を聞いておこう」
「ヴァレー……」
 首を振る。
「拙者! 『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家なのです! 略奪王に! 拙者はなる!!」
 ドン!!
 その瞬間、ヴァレ家の身体が粒子となって消えた。
 ミリアムは数名を引き連れて戦場を後にする。
 そしてヴァレ家は――サクラメントで大きく伸びをした。
「まだまだ行きますよ!」
 傭兵団が次々に撤退する中で、一行は最後の作戦を開始した。

「誘導なら任せてよ!」
 ネイコが赤い誘導灯をリズミカルに振る。
 魔物を外に誘導し、片付けるのだ。


 ――結論として、傭兵団という第三者を失った戦場において、大量の魔物を街の外に誘導するのは、さほど難しいことではなかった。
 幾度か挽き潰される事故は発生したものの、この『特別なシステム仕様』はまだ生きており、街への被害は発生しなかったのである。つまり時間さえあれば片が付く状態に持ち込むことが出来たのだ。
 アズハがユニークモンスターの一体を撃ち抜いた。

 ――実績解除。称号を獲得しました。『エリナを送る者』。

 イレギュラーズは交戦を続けている。

 ――ムービング温泉を撃破したため、温泉の建設が開始されました。残時間『23:59:59』。

「ちょ、これ街の中でやったらまずかったですね」
「あー、は、は。結果オーライ……ですかね」
 濡羽にフレアが応える。なんか温泉建ち始めちゃったし。
 ヴァレ家が、ハウメアが、シラスが立て続けの連撃を魔物達に刻む。

 ――実績解除。称号を獲得しました。『アビスブレイカー』。

 一行は徐々に魔物をすりつぶし、ターゲットが外れてどこかへ行ってしまったものを除けば、比較的長い時間をかけて、あらかたの討伐を完了することが出来た。
「お疲れ様、鏡と花」
 濡羽が相棒に労いの言葉をかける。

 ――ミッション・コンプリート!

「しかしこのシステムメッセージ、いつもチグハグだな?」
 その場に座り込んだトモコが呟いた。
 しかしまあ、こんな疲労感までリアルとは、恐れ入る限りである。
 これは少し先――数時間後に分かる話になるが、自身の行動を少し気にしていたヴァレ家が別段何かに問われることはなかった(どちらかといえば、アバターネームのほうが問題では!?)。
「これは、なんだろう?」
 アズハの視界には、15分からカウントダウンされている表示がある。
「こっちにも見えるっすが。謎っスね。気になるっスし、サクラメントに戻るっスよ」
「そうですね、さすがにそろそろ」
 リュートの提案に濡羽が頷く。
 一行は街へと戻り――
「サクラメントだー! みんなお疲れ様だよ!」
 遠くにサクラメントが見えてきた。ネイコがぐっと伸びをする。
 ちょうどその時だ。
 謎のカウントダウンが0になったのは。
「……ない、ですけど。サクラメント。消えましたけど、今」
「あー、イベント用だから? この街が解放されたから」
「つうこた、自力でもどんのか。え、こっから?」
 ぽかんとした表情のコルにフレアが続け、リュカもまた呆然と呟く。
「歩くと、結構長いと思う」
「……そうだなあ、この場所だとそうなりそうだ」
「ええ、たしかにそれは」
 幻想(本物の地理)に詳しいあるてなとシラス、ハウメアが補足した。
「馬車、手配しようか……最寄りのサクラメントまでどのぐらいかかるかな」
 最後にアズハが建設的見解を述べ、一同が同意する。

「マジ。こんのっ、クッソゲーーーー!!!???」

 晴れ渡った空に、フレアの悲痛な叫びが溶けていった。

成否

成功

MVP

コル(p3x007025)
双ツ星

状態異常

リュート(p3x000684)[死亡×6]
竜は誓約を違えず
夢見・ヴァレ家(p3x001837)[死亡×4]
航空海賊忍者
ハウメア(p3x001981)[死亡×6]
恋焔
シラス(p3x004421)[死亡×5]
竜空
コル(p3x007025)[死亡×7]
双ツ星
リュカ・ファブニル(p3x007268)[死亡×8]
運命砕
トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)[死亡×3]
蛮族女帝
濡羽(p3x008354)[死亡×6]
小さな魔獣使い
現場・ネイコ(p3x008689)[死亡×4]
ご安全に!プリンセス
アズハ(p3x009471)[死亡×5]
青き調和

あとがき

 依頼お疲れ様でした。
 称号いくつか出てます。

 有効な戦術はいくつもありましたが(だからHARDが成功するのですが)、今回のMVPは敵範囲に効果的な弱体をかけた方へ。
 ここで敵傭兵団の進軍速度を充分に落とし、魔物に狙わせなければ、後半はもうすこし危うい展開になっていたかもしれません。

 以下は死亡回数です。
・リュート(p3x000684):6回
・夢見・ヴァレ家(p3x001837):4回
・ハウメア(p3x001981):6回
・シラス(p3x004421):5回
・コル(p3x007025):7回
・リュカ・ファブニル(p3x007268):8回
・トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321):3回
・濡羽(p3x008354):6回
・現場・ネイコ(p3x008689):4回
・アズハ(p3x009471):5回
・あるてな(p3y000007):6回
・フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159):7回

 それではまた、皆さんとのご縁を願って。pipiでした。


 シナリオ結果を受けて『デスカウント』は個別に増加します。(反映には少々時間が掛かります)

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