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シナリオ詳細

<Genius Game Next>私の領民を死なせないで。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 風が強いと洗濯物に赤い砂がつく程度に伝承の端っこにある小さな村だ。
 はたはたとはためいているそれをとりこむ者はいない。
 すでに避難は終わっているのだ。閑散とした村に領主の私兵が集結していた。
「獣種も幻想種もいない。重武装。十中八九『赤犬』配下――ぐあっ」
 物見やぐらの声が飛んだとたん、喉に矢を受けて櫓から転がり落ちる。
 おかしい。何で俺が徴兵されてるんだ。農夫になってスローライフパラメータの調整をしてたのに。
「――どうする。領主さんの兵隊さん達、みんなやられたぞ」
「村長さんが言ってたところに隠れよう。助けを呼んでくれる手はずになってる」
 普段は農民で有事に徴兵される。そんな村の「決まり」に巻き込まれた研究者は、早くログアウトさせてくれ。と、狂ったシステムに祈った。
 

「――という訳でイベント告知があったんだって? <Genius Game Next>かぁ」
 えー、俺、情報屋だからー。と、頑なにログインを拒んでいる『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)が書類に目を通しながら茶をぐびぐび飲んでいる。
「『このイベントはネクストの歴史を変え得る重要なイベントです。特別クリア報奨も用意されていますので奮ってご参加下さいませ!』 ときたもんだ」
 音読した後、ふぅ~ん。と、目を細める。
「え~っと。敵は砂嵐――ラサのネクスト版。な。混沌と違って悪辣非道な盗賊団の属性が強い。立ち位置が悪い」
 そういう立ち位置。
「ターゲットは伝承西部のバルツァーレク領と南部のフィッツバルディ領、一部中央の王党派。北の方までは手を出してないな」
 欲張りすぎは身を亡ぼすからかなー。と、へーほーふーんと書類を読み上げる。
「連中は電撃戦で侵攻し、略奪や占拠の構えを見せている。ハック&スラッシュっていうんだっけ?」
 誰だ。薬屋にゲーム用語を教えたのは。
「砂嵐がこのタイミングで動き出した理由は分からんが、伝承北部の軍閥アーベントロート、そして中央の動きは『何故か』かなり遅れている。少なくとも鋼鉄はちょっかいを出す余裕はない。その辺りが影響してるかも知れないな」
 だから、冒険者が介入する余地があるゲームイベントになるんですけどねー? と、情報屋は目を細める。
「――なまじ現実にリンクするから腹が立つ。いや、現実の真似っこしてることに腹が立つ。リアルな展開? く――」
 罵詈雑言をはこうとしたのを茶を飲むことでごまかしている。いつもより菓子の食べこぼしが多い。
「でも、まあ、この大騒ぎでトロフィーもたっぷりだ。開放される人間もだいぶ見込める。それはめでたいわな」
 情報屋はグリグリとこめかみをもんだ。
「そうとも。魔導書の中だろうと電子の海だろうと絵空事だろうと囚われた魂を解放することに変わりはない。今この場に集ったキミらが全く違った姿になっていようとも。その志に関しては疑ってはいないよ。まったくもって」
 いいこと言ってるっぽいが、いかんせん笑顔が胡散臭かった。
「――という訳で。伝承西部にある小さな村の民兵が赤犬配下の勢力圏に取り残されている」
 お手軽地図にこの辺と書きこむ。後で詳細な図をくれるという。
「依頼主の領主及び村長によれば、赤犬も気づいていない突入口があるとのことなので、そこから突入。民兵を確保。民兵は突入予定時点では五体満足と思われるが、時間がかかればかかるほど状態は悪くなる。それを勘定に入れて戦闘しても構わないけど、一人も死なせるなってオーダーだ」
 メクレオは、一同をぐるっと見回した。
「すでにR.O.Oクエストに入ったことがあるやつはわかってるとは思うが。このゲームはめったやたらと死にやすい。ましてや、NPCをや。そもそも、この民兵、普段は農夫だ。屯田兵だ。戦力としては期待しないでほしい。手負いの傭兵を三人くらいで囲んで何とか死なないかな。位のモブだ。へたするとそこからだってひっくり返されるぞ」
 だから。と、情報屋は顔の前で手を振った。
「戦闘しないってのも手段としてありうる」
 面子によるけどな。と、前置きした。
「戦闘せず、赤犬がいるところをスニーキングして、受けた傷をこまめに直しつつ、こそこそと。一団で動いても、分散しても、一長一短あるだろうからそこは面子による。もちろん、一直線に全部どついて出てきた方がいい場合もあるだろう。相談してくれ」
 オーダ―は一つだ。
「こっちが死んでも死なせるな。以上」

GMコメント


 田奈です。
 ゲームなので、死んでも守ってもらいます。
 死ぬときのかっこいいせりふ考えといてください。

●場所:小さな村
 昼間の戦闘で正規の領兵はやられてしまいました。
 天気・曇り空。夜。明るすぎず暗すぎない空です。闇に紛れて逃げるにはいい夜です。
 周囲を城壁で囲まれた小さな村です。
 城壁の一部がずれてそこから侵入・脱出ができるようになっています。
 領主から詳細な地図が渡されたので、わざわざ方向音痴アピールしない限り迷子にはなりません。(キャラ立てとして方向音痴を発揮するのは構いませんが、判定で不利になります)
 こっそり移動する場合、装備が金属だったり、大きかったり、ひらひらしたり、駆動音がしたり、光ったり、とにかく人の気を引く物は、隠れるのに不利です。陽動には有効でしょう。

●敵:赤犬配下傭兵×10~20人。
 剣を装備した傭兵です。ならず者なので、きれいな戦い方はしません。装備はきちんとしています。
 この町を制圧したので、油断しています。1~3人の少人数で動いていますので、各個撃破は可能ですが物音がすればすぐ徒党を組むことでしょう。
 村の中を略奪目的で歩き回っています。たいまつやランタンを使っているのでよく目立ちます。
 殺さない理由はあっても生かしておく理由はありませんので、傭兵殲滅して悠々脱出も選択肢に入ります。ただし、保護対象を守り切るに足る人数を割くと相当無茶な橋を渡ることにはなります。

●保護対象:村の民兵×8人
 正規兵が全滅した後、もしもの時の隠れ場所に隠れていました。
 普段は農夫、有事は兵隊という設定のNPC――の中に研究員が混じっていますが、モブなので区別がつきません。
 戦闘は難しいですが、土地勘はありますので、一緒に行動しているときは見つかる確率が減ります。
 ゲームのNPCなので、回復によるHP管理が有効ですが、普通の農民なので連れまわす時間が長いほど弱っていきます。
一人でも死んだら失敗です。行動は慎重に。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

皆さんが、民兵を確保したところからスタート。突入口から今通ってきた道は、特に不利になる特徴がなければ覚えていられます。

  • <Genius Game Next>私の領民を死なせないで。完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

パトラ(p3x000041)
サチュレイト・ガット
Fin(p3x000713)
Fin.
ロード(p3x000788)
ホシガリ
ユリコ(p3x001385)
電子美少女
ルフラン・アントルメ(p3x006816)
決死の優花
カイト(p3x007128)
結界師のひとりしばい
ミセバヤ(p3x008870)
ウサ侍
サロ(p3x008903)
旅するサロ

リプレイ


『民兵隊長:救援感謝します。みなさんの指示に従います!』

 HPステータスバーの下に、NPCライフバーがポップアップした。共有情報とロゴがつく。これに一個でもドクロマークがついたら、作戦失敗だ。
「『こっちが死んでも死なせるな』、りょーかい!」
 メクレオの説明が小難しいとお怒りのご様子、『ひよっこヒーラー』ルフラン・アントルメ(p3x006816)はリス耳リスしっぽ。ひよこじゃない。形状的意味で。
「助けなきゃいけない人が本物だとか違うとか、ゲームだからとか関係ない」
 多分、魂に書いてあるのだ。
「あたしは皆を守る為に、こっちでもヒーラーを選んだんだもん!」
 癒して癒して癒して死ぬ――いや、死なない限り生きるけどね。
「まぁ別にお上品に戦ってほしいわけじゃないけど、戦い方にこだわりが無さそうなのが嫌ね」
 下卑た笑い声が風に乗って聞こえてくるのに、『サチュレイト・ガット』パトラ(p3x000041)は、声を潜めて言った。
「勝てば官軍とか、負けたやつが悪いとか、そういう事言う人たちが一番相手しづらいのよね」
 なりふり構わず手を変え品を変え生き残ろうとするスタイルははびこる雑草にさも似たり。ナカノヒト的にもエネミー。存在のベクトル的意味で。
「しっかし、無差別の簒奪にも程があるよなぁ……ったく、誰かが動かねぇとどうしようも……」
『結界師のひとりしばい』カイト(p3x007128)がしゃべりながら外に出て行く。
「――――って決める前からお前が陽動を勝手に請け負うんじゃねぇよ! この、蒼眼!」
 聞こえてくる自己へのツッコミ。
 これが二重人格ロールプレイ。徹底している。と、ローレット・イレギュラーズはその背を見送ったが、実際本当に二重人格で、今、体の主導権を強引に乗っ取られたのだ。
 自己犠牲を是とする蒼眼がイニシアチブをとって行動したら、カイトのデスエンドが近くなる。
「ほぉ、ゲームと聞いたが存外現実世界とやる事は変わらないのであるな?」
『電子美少女』ユリコ(p3x001385)は、美少女である。そういう生き物なのだ。ステータスに書いてある。
「クハッ、どうなる事かと思ったが、いつも通りの仕事になりそうであるな!」
 ユリコはどこまでもゆりこちゃんである。これ、プライベート用のアバターは別の――お仕事用のアバターだから。仕様です。
「向かってくる敵から民を守る……というのは、ゲームでも現実でもあまり変わらないようですね」
『ウサ侍』ミセバヤ(p3x008870)は、ほぼ二頭身の大柄で筋骨隆々な直立兎型アバターだ。金茶のロップイヤーである。大事なことなので言及した。
 憧れの長身マッスルボディーに関する入力はできていた。触ったことのないオンラインゲームでよく入力できたとナカノヒトをほめなくてはならない。おそらく、種族を入力するときになんかなってしまったと推察される。表示が「Unknown」になっている今では確認のしようがないが、ランダムチョイスされたんだろう――多分。システムは暴走しています。
「自分達が来たからにはもう大丈夫なのです」
 礼儀正しいウサギに、民兵の応えが一瞬おくれた。
「……えっ? この姿が不安ですか?」
 だが、ミセバヤはこういうキャラクターなのだ。
「だ、大丈夫です、皆さんの事は必ず守ってみせますから!」
 ウサギならではの能力を生かして。
「大丈夫よ。死んでも守る」
 敵をできるだけ引き付ける役目を負ったパトラは、外に出て行く。さらりと揺れる長い金の髪。
「けど、生きて会えたら嬉しいわね。また会いましょ」
(死ぬなら私の方だと思うけれど)
 それは口にしなかった。パトラの通った後、とてもいい匂いがした。
「イベントかぁ、悪趣味だね。R.O.O自体がそもそも胡散臭いから、こういうのも然りって感じだけど……」
『旅するサロ』サロ(p3x008903)は、スパっと言った。現実の悪趣味な焼き直しともいえる。悲劇的な状況を巻き起こして解決させる。ゲームとはそういうものだ。ログアウトできない研究者やプレイヤーにとっては、着ぐるみを着せられたまま何食わぬ顔で続けなくてはいけない生活という名の生き地獄だが。
 それでも、民兵たちのお手柄だった。電脳世界で起こったことではあるが、暴走したシステムは誰かは頑張ると計算したのだ。そこに、ログアウトできないままどうにかPCとして与えられたクエストを頑張った研究者がいる。クエストクリアとしてログアウトしていい。自暴自棄にもならずここまでよく頑張った。お疲れさま。ここが彼にとってのゴールだ。
「兎に角オーダーは理解した」
 サロは、髪飾りや盾など光を反射させそうな装備は服の下に移動させた。虚ろな目がきろりと動き、民兵を見る。
「頑張っていこうね」
 サロの口角がにんまりと上がった。思いの外印象は柔らかく、民兵たちは小さく頷いた。
「陽動のみんな、そろそろ十分間合いが取れたと思うんだ。さあ行こう。今は、ここから逃げ出そう」
 ドアの向こうは、夕食の暖かなスープの匂いもしなければ、かまども冷え切った夜の底だ。
 たいまつと一緒に動くけたたましい声が耳に突き刺さる。避難がうまくいってよかった。ここに子供が残っていたら間違いなく火がついたように泣いていただろうし、それはわかりやすく惨劇を引き起こしてしまっただろう。
 民兵に寄り添うのは、ルフランとミセバヤ、そしてサロだ。
 ミセバヤが耳を持ち上げて、辺りの気配に気を配っている。ウサギならではの能力。浴音を聞き、ふんふんと夜にはなを突き出す空気を確かめる。例えば、燃えている松明の匂いとか、地に濡れた偃月刀の臭いとか。
「大丈夫、です」
 ミセバヤの応えに、そろそろと三人と民兵が進む。


 相手が、略奪モードに入っているときの陽動は加減が難しい。
 後はこの場を離脱するだけだから捨ておいて構わないと思われてはいけないし、敵わないからさっさと逃げようと思われてもいけない。
 ちょっと手間かもしれないが、片付けないといけない。はあ、やれやれ。と、思わせなくてはならないのだ。
「どうしてもアクセスファンタズムのせいでNが目立ってしまうんですよねえ」
 ふわふわと光の玉が『Fin.』Fin(p3x000713)の周りを飛んでいる。一番最初の友達・Nの姿を写したアバターをアクセスファンタズムとして現れた「彼」の意向でナカノヒト・Fが操作している。
「……まあしょうがないです。私たちは陽動で目立って敵を引きつけて、邪魔な傭兵等を倒しにいきましょうか」
 私たち。FとN。光の玉が呼応して、ゆるりと旋回した。
 村の広場に出た。非常に目立つ。
 Finは、ビームヴァジュラのを両手に持つと、エネルギー刃を打ち合わせた。力場が発生して、ビブラートの利いた独特の音が辺りに木霊する。
「おい! まだ残ってんじゃねーのか!」
 赤犬の末端が何か言っている。
「何か光ってるぞ! 野郎ども!」
 最初に目が合った傭兵の間合いに踏み込んでFinはヴァジュラを振るった。
 ありったけの不調にさいなまれるといい。
「逃げられて……は困りますからね」
 民兵が見つけられて等と言いはしない。隠れていた民兵などいないのだ。ここで派手に暴れるのは、孤立した傭兵を狩る輩だ。
「絶対に私たちからは逃しません」
 ハーモニアが大通りを駆け抜けていく。
「恨むのならここにきてしまった自分たちの運の無さを恨んでくださいね」
 

 ルフランの提案で、音がしそうな鎧は布で覆った。民兵に配られるような鎧はそう大掛かりなものではない。金属部に布をかませれば十分な消音効果はあった。
 お話は小声で。と、出発する前に約束した。表情と音にならない口パクだけで、「ぜーったい、守ってみせるよ!」と伝える。意外と伝わるものなのだ。R.O.Oはモーションも随時追加中です。
 粛々と一行は移動している。


 『ホシガリ』ロード(p3x000788)は空にいた。夜に紛れる色味の小さな少年。サングラスの下の紫の目を隠されている。報酬を現地調達している上等ではない部類の傭兵が空を振り仰いではいない。
  眼下にはそろそろと移動を始めた民兵と護衛チーム。
 民兵のうち一人だけ、雰囲気が他の民兵と明確に違う。
 ロードには、NPCとPCの区別がつく。だから民兵の中のPC――ナカノヒトが研究者――を特定できた。今回はエネミー討伐トロフィーではなかったからたまたまだが。
(ふーむ。仮想とわかっているせいか領民より運の悪い研究者を優先しそうになってしまう。この思考はイベント達成の邪魔になりそうだ。危ない危ない)
『民兵を全員助ける』 それが成功条件で、もし逃せば、この研究者のトロフィーフラグは消えてしまい、解放のめどが立たなくなる。
(さあできる限り助けようか。戦闘方法がちょっとあれだから村を壊さないように気を付けなければ。ゲームとはいえ誰かが生きる場所を壊すのは俺としても不本意だ)
 ロードは、ひょいと家探ししている傭兵に視点を移した。
 ある家に入ろうとしているのを見て取るとその二階の窓から入って先回りする。いかにも金目のものがありそうな机の上にマスコット・パペットをそもそもあったように並べ、その死角に、小さな体を物陰に滑り込ませる。
 机をガサゴソやり始めている傭兵目掛けて、収束槍バル・ベラスからロードのアクティブスキル1が炸裂する。
 決して逃がさず、丁寧に鎧の隙間をつき、立ちあがることは許さず、勝手に死ぬことも許されない、考えようによっては非常な攻撃だ。
「えーと。確か、殺さない理由はあっても生かしておく理由はない。だっけ」
 外見年齢9歳がサングラスの下でほほ笑んだ。
「生かされたい理由があるなら、今だけ聞くが?」
 瞳に写る色は、NPCの白。どれだけのことを語れるのか。と、ロードは唇を吊り上げた。


 ミセバヤは、パッと手を上げた。
 物陰伝いに移動していた一行は、その場にしゃがみ込み、呼吸をひそめた。
 怒声がする。物が倒れて転がる音。
「やーい! ノロマ―! こっちこっちー!」
 華やいだ声。元気はつらつな小さな女の子のような口調。ステータスに表示された名前はキャロ。今日のパーティーに、あのような外見の者は――ていうか、誰?
『美少女は百八つの顔を持つのである』
 そう嘯いて、むんと胸を張っていたユリコが皆の脳裏を占領した。
 走り抜けていく。
 通りが不自然に光る。迸る雷撃。悲鳴。ひどくせき込見ながら地を這う苦鳴。更に絶叫。
十分静かになるのを待って、一行は動き出す。そこにいたのはユリコだった。足元に傭兵。
「その調子で気を付けていくのだぞ」
 一行は、おっと、離れねば。と、走っていったユリコの無事を祈った。
 もう少しで外縁部までたどり着ける。


 パトラのHPステータスバーはなかなかきわどいラインに達している。
 ここまで挑発しては引き離して隠れを繰り返してきたのだ。
 向こうもプロだ。夜だろうが飛び道具もきっちり当ててくる。
「おい。女のにおいがする」
「ああ。いけねえな。仇を打ってやらなきゃならねえ」
「死んだ奴らの分までか。ちっとほねだな」
「夜が明けちまうかもしれねえな」
「違いねえ」
 下卑た笑い。目先の餌に仲間を集めるのを忘れたらしい。あるいは取り分が減るのを恐れたか。
 パトラのアクティブスキル3。傭兵たちの足元から氷が這い上っていく。スキルを放った反動で目眩がするがどうということはない。
(同程度の手傷なら左から)
 十分に距離をとり、異世界の英雄を召喚する。かりそめの顕現でも槍を投擲する時間は十分にある。最も成功した結果を選択して英雄の槍は放たれる。
(集団戦になったら包囲されて十中八九負けるわ。戦力差が広がらないよう立ち回らなくちゃ)
 包囲させないことに定評があるナカノヒトは、ゲーム世界でもいかんなく本領を発揮する。
 更に距離をとる。各個撃破が望ましい。
「俺が殴れば終わりだな、これは」
 カイトの楔状の結界が撃ち込まれ、哀れな傭兵はもうそこから動けない。
「次はお前の番だ」
 結界師によって、今までの人生から隔離される。
「いや、殴り役がいてよかった」
「それって、私のこと?」
 パトラの疑問に答える前に英雄が残った一人に槍を放っていた。
「そう。俺が補助してればすぐにのしてくれそうなパトラがいて嬉しい限りだよ」
「でも、私がここが限界みたい」
 蓄積されたダメージが限界を超えた。
「私たちはチームよ、生き残った人があなた達みんな倒せばそれでいいの。全員揃って地獄に落ちなさい」
 文字通り粉骨砕身したパトラが、やるべきことをすべてやってログアウトした。
「――じゃあ、生き残った俺は期待に応えないとな」
 カイトが後を引き継いだ。


 村の外縁部。ここを越えれば村の外だ。明確なラインが引かれているわけではないが、そこを越すと、場所のステータスが村から草原に変わり、BGMも変わる。もちろん、この世界を生きるNPCには聞こえていない。
「よぉう。うまい具合に逃げ切れたと思ってんだろう? いや、なかなかうまかったと思うぜ。こっちもあらかたやられたからな。ありがとよ。俺の取り分が増えたぜ」
 その傭兵は戦闘中離脱した後。自分より明らかに弱そうで足手まといを引き連れた一行を待ち伏せしていたのだ。
「だが、五体満足で帰られちゃあメンツが立たねえんだよ――?」
 傭兵は抵抗を封じられ、急に足元に開いた沼から出てくる腕にすがり疲れて怒号を上げる。
「――いやがらせだよ」
 ルフランの腕で、バングルが光っていた。攻撃し慣れていない者のための戦闘補助具だ。おたつくことがないようにあらかじめ登録したように腕が動き、口は詠唱して魔法を打ち出す。噛まないように口腔がグニグニ勝手に動いて中々気持ち悪い。動きがきびきびしすぎて自分じゃないみたいだ。
 ルフランは、甘い甘いお菓子の魔法使いだ。甘く優しい魔法で人々を癒す生き方をゲームの外でしてきて、ゲームの中でも同じようにやっていこうとしている。
 サロはその上に麻痺を重ねるため、ワンドを振った。
 ミセバヤも、攻撃を自分に集めるために地面を蹴った。そして、丸太に抱きつくようにして傭兵の顔面にはりついた。噛みつこうにも、モフモフの腹の毛足は存外長い。口の中崖まみれになるばかりだ。
「足止めしますから、皆さんはその隙に逃げてください」
 金色の直立兎の背が頼もしい。
 傭兵の攻撃がミセバヤに集中する。みるみるステータスバーが危険域に達する。
 サロは、背後に術を行使しているルフランと民兵をかばって肉盾になりつつ、ミセバヤの傷をアクティブスキル3を使って癒す。
(どんな時でも民兵の命を優先する。ボクの命を囮にすることも厭わない)
 ミセバヤがやられたら自分の番だと思っていた。
(楽しい感覚ではないけど……ボクの死と彼らの死は意味合いが違うからね)
 NPCが死んだら、このイベントの失敗フラグとして処理され、そのまま世界から除外される。それだけだ。ペナルティもなく復帰するPCとは違う。
「ここはいいから先に行って! ……って、一回言ってみたかったんだよね」
 ルフランの奥の手が発動した。民兵の背に羽根が生えた。
「逃げて! 村の外へ! 急いで!」
 ルフランも傭兵の前に立ちはだかって盾になる気満々だ。
 陽動に引っかからなかった傭兵を追ってきたロードの視界。黒く見える民兵が仲間をせかせて飛び立った。
 NPCモブは具体的な指示を出さないと挙動が安定するまでラグが発生する。
「こっちだ!」
 ログアウトできないPCの民兵は、率先して逃げることで指示された方角に逃げさせ、効率化を図ったのだ。
「「この命に代えても、民兵達は守ってみせ……、って、えっ? 本当に今死ぬんですか?」
 傭兵が力任せにミセバヤを締めあげているのだ、窒息系スリップダメージが入ります。
「ピギャ」
 カイトとユリコもひどいなりになっているが、追いついてきた。
「Finは広場で傭兵をずっと引き付けていて――誰も逃がさない。と」
 ログアウトしたぞ。と、ユリコが言った。
 カイトとユリコはそれぞれアクティブスキルを放った。最期の傭兵が地面に伏した。
 ウサギの断末魔が中途半端に終わり、べちんとしりもちをついたタイミングで、プレイヤーキャラクターの視界にシナリオクリアの文字が躍った。
 民兵たちは安全圏に逃げられたのだ。
 トロフィー:民兵救出が表示される。
 迎えに行った民兵はNPCのみ。ロードの視界に黒く映るPCキャラは飛んで逃げていた最中、いつの間にかいなくなっていたという。
「次にイベントやるならもっと楽しいものがいいよね」
 NPCは、「イベント」という言葉を「出来事」と認識する。
(死んでも死ななくてもきっとそう思う)
 サロは無事を喜び合う民兵に礼を言われながらそんなことを思った。


「――ログアウトを確認しました。お疲れ様です。ログイン時間が推奨時間を大幅に超過――」
 仮初めの翼で飛んでいたはずの彼が目を開けると、そこは村の外の街道ではなく、現実だった。

 研究員一名、回収確認。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

パトラ(p3x000041)[死亡]
サチュレイト・ガット
Fin(p3x000713)[死亡]
Fin.

あとがき

お疲れ様です。民兵さんたちは無事村から離脱できました。イベントクリアです。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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