シナリオ詳細
<Genius Game Next>アンタレスの尾
オープニング
●『牢獄』
「我らにとって、夢であった小舟は黄金色の昼下がりを運んでくるわけでは無かった。
穏やかな午後に飛び込んでみた兎の穴はまさに牢獄だね。出ることを拒んだワンダーランドは――どれ程に恐ろしいか!」
常通りに饒舌に。Dr.マッドハッターは朗々と語った。彼の長台詞(おしゃべり)に任せていては事態は進まない。
ファーリは「それで」と彼へと単刀直入に問うた。先んじてディスプレイに映し出されているのはイベントの『お知らせ』だ。
R.O.Oでは突如として『お知らせ』が告示された。それはマッドハッター達三塔主の予期せぬもの、つまりはネクストが勝手にゲームじみたお知らせを行っているという事だ。
「はてさて、潜行者(アリス)を出迎えてくれる茶会の準備が整ったという事だろうか。
トランプ兵達が勝手なことをすることを赤の女王は許しているか。それとも、女王そのものがゲームマスターを気取っているかは定かではないけれど」
「つまり、何処かの誰かが操っているかも知れないって事?」
「せっかちだな」
「……せっかちにもなるだろ!」
唇を尖らせるファーリにDr.マッドハッターはふふん、と鼻を鳴らして笑った。
現在のR.O.Oには『Genius Game Next』のイベントが発表されている。
それはファーリ――月原・亮にとっても記憶に存在する現実世界の出来事が思い浮かばずには居られないないようであった。
砂蠍と呼ばれた盗賊団による強襲。しかも、ネクストでは『砂嵐』――ネクストのラサは悪の都だった!――の各陣営が伝承に攻めてくるのだというのだ。
「赤犬、凶、レナヴィスカ……傭兵団まで盗賊で攻めてくるのか。それで、砂蠍に、大鴉盗賊団まで!
勢揃いというか、なんというか……その攻め入られる事から伝承を守れって言うクエストだよな?」
「ああ。そうさ。アリス。
つまり、君達は潜行者(アリス)として兎の穴(ネクスト)でクエストをこなすことで報酬……退避不能となった我らが研究員を得ることが出来るのさ。此れは我々が君たちに助けの手を求めた『研究員の救出』の為の行いであり、このイベントで何らかのアップデートを観測する可能性であり――『最も別の何かを得られる可能性』……ああ、そう、全てをひっくるめて可能性の塊でもある」
「……オーケー。じゃあ、俺達はどれを相手に――?」
Dr.マッドハッターは何気なくモニターを動かし「彼さ」とだけ言った。
「いやはや、潜行者(アリス)。君にとって彼は思い出の昼下がりに船から覗き込んだ存在かい? それとも鏡の国で出会ったジャバウォックだろうか。何にせよ、私はこの言葉を送ろうか! 運がなかったのか、幸運なのか、それは君が決めることだ、と」
モニターに映し出されたのは財宝とも謳われし凶爪を持つスキンヘッドの男――キングスコルピオその人だ。
その背後には彼を見詰める青年フギン・ムニンと鼻歌を混じらせて楽しげに歩む御幣島 戦神 奏の姿がある。
そして背には歪なるサクラメント。即時リスポーン可能なボスイベント仕様。
「――まじ、かよ……」
帽子屋はモニターを指して言った。赤の女王の癇癪に付き合っても安心だと。
●蠍座の輝きに。
「そーあーいむすかーりー♪ すかーりー♪ すかーりー♪」
「喧しいですよ。カナデ。少しは静かになさい。王の御前です」
「五月蠅いなあ、フギンちゃんは。私だっておーさまに呼ばれてきたんだからさ」
仲が良いのか悪いのか。互いに嫌い合っていながらも良い相性でキングスコルピオを支えているのは『識者の梟』フギン・ムニンと『鉄砲玉』御幣島 戦神 奏である。
御幣島 戦神 奏は現実世界ではフギンによって囚われ、スコルピオの配下に付きその命が潰えた娘ではあるがR.O.Oでは『赤犬』に救われた後、キングの配下で伸び伸びと過ごしているようだ。
――ええ、『仲間』ですから前線に出て貰いますとも。
そんな言葉で前線に送り出されることもなく、毒薬入りの首輪を嵌められることなく。
彼女は己の脚で伝承へとやって来た。
「全く……王が貴女を使うのは怖い物知らずである、唯其れだけです。鉄砲玉は命を惜しむ必要など無いのですから」
「そ」
奏はフギンが嫌いだ。フギンも奏を嫌っている。それは変わらない。
フギンという男は全てをキングスコルピオに捧げるために存在して居るのだから。
「さァて、やるか」
男のその一言に熱狂が湧いた。その理由をフギンも奏も理解している。
「これからが俺達の国盗りだ。
『由緒正しくお産まれになった血統書つき』を一人残らず蹴散らしてやろうじゃねぇか」
勝算はある。軍師たるフギンは『一斉攻撃』によって盤上を支配するべく『内通者』ともよく話し込んでいた。
頭の切れる『彼』との対話で、本隊を内部に送り込んでしまえば『国盗りは為し遂げられなくとも打撃を与えられる』
此度は全ての戦力を集中させなくとも良い。死に物狂いでなくともよい。
この戦は遊戯の一つだ。盤上で駒を進める他ならない。
「我が王に勝利を」
「我がおーさまに勝利を」
フギンと奏は忠誠を誓う。我らが王の――アウトローの星に。
「――行くぜ、野郎共!」
俺はキング――盗賊の王。
盗賊の王すら超えて、全てを見下ろす一等星(アンタレス)。
『誰か』の戯言なんざ関係なく、何処までも生きて、生きて、生き抜いて。
最後には絶対に。英雄さえ仕留めよう、必ず勝つのはこの俺だ!
その為に、進め。
惑うことなく。
「フギンちゃん、王様――行ってきます」
奏は――鉄砲玉は、その武器を構え、脚に力を込めて。赤いマフラーが蠍の尾のように軌跡を描く。
「戦神が一騎、御幣島カナデ! 陽が出ている間は倒せないと思え!」
――私はただただ強く輝いてあろうとした。そこに私が生きていける意味があるのだと信仰していた。
それは何故か物悲しく、それは何故か気楽なようで。それは私には分からなかった。
だからまだ、私はまだ戦える。足掻いて奇跡だって起こしてやる――
- <Genius Game Next>アンタレスの尾Lv:15以上完了
- GM名夏あかね
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年06月21日 23時40分
- 参加人数10/10人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●
天を仰げば、空中庭園が。背を向ければ聳え立つ王城が。
現実世界と何の変化もないような、それでいて何処かが違った違和感。少しずつ感じさせる認識のズレ。
その世界で『もう一度』に相見えることが出来る現実に『遍在する風』Gone(p3x000438)が生唾を飲み込んだ。上手く嚥下することが出来ずに大げさなほどにごくりと音を立てたそれに自身が緊張していることに気付く。
ああ、当たり前か。
名を呼ぶだけでも苦い味が広がる。鉄錆の香りを思い出す。牢に囚われた現実の己、そしてそんな自分を笑った女の横顔。
――アンタさ、少し話し相手になってよ。此処から元気に出れたら何したいよ。
メアリ・メアリ。彼女も『再現』されているらしい。赤い唇が笑ってしまいそうな軽口を叩いた事をGoneは思い出す。
御幣島 戦神 奏は敵として戦地を駆けてくる。一条院・綺亜羅でさえも、この世界には生きている可能性が存在して居る。
ああ、それに。彼がいる。
――忌々しき『賢者』ぶった男が!
「砂蠍……キング・スコルピオか。そして、あの戦で命を落とした御幣島さんに……フギン・ムニン……。
色々違う所のある世界だけれど、蠍とあの梟は見た所ほとんど変わりないようね」
確かめるように呟いて、背後で輝きを帯びたサクラメントを確認する。リセリア(p3x005056)はダイヤモンドダストをゆるゆると構え、息を吐いた。
煌めくダイヤの粒子を帯びた細剣を握る指先にも力が入る。この場所に『即時復活用サクラメント』が設置されている理由なんて、単純明快だ。
砂蠍は、此れより相手にする『敵』は一筋縄ではいかない格上だからだ。
(いやはや、砂蠍とまた事を構えることになろうとは――再現された彼らの強さ、じっくりと楽しませてもらうとしよう)
思考はすれども発声は叶わぬか。それがログイン時のデータ損傷による物かは分からない。『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)はほにゃほにゃと言葉にならぬ音声を漏らしてから『譛?菴朱剞縺ョ諢乗?晉鮪騾』を用いて仲間達に意思を伝える。
『おもしろ 愉快。キャハ ハハハ ハ』
耳朶でなく、直接脳へと語りかけるその声を聞きながら、ファーリ (p3y000006)はちらりと傍らに立っている『氷神』吹雪(p3x004727)を見遣る。
「……凄いことになったな」
「うん、凄いね」
大人びた女のかんばせに滲んだのは少女――彼女の現実での言葉遣い、立ち居振る舞いだろうか――の如き幼さ。
「イベントって言ってもよくわからないけど、平和に暮らしてるところを襲おうとするならこらしめないと!」
常の如くやる気を漲らせて、氷雪の神は「よし!」とやる気を漲らせる――が、掲げた腕の白さと目線の高さに『お姉さんの姿』である事に気付いて慌てて口元を掌で覆う。
「あっ! ……こほん、ずいぶんと懐かしい大物が出てきているみたいだけれど、どんな相手でも通すわけにはいかないわね」
しらっと先程までの快活な少女の口調を隠して落ち着いた声音で気を取り直した吹雪に『世界終焉機構最終番』ルイン(p3x008578)は大きく頷いた。
「イベント! 戦い! 足止め作戦! うんうんボクもよくやられたことはあったし、死んでもすぐ戦線復帰できるならとても有効な方法だよね!
ボクの時は全部壊して進んだけど、ここじゃそんな力業は使えないから頑張って通せんぼをするね。死んでも通さないからお覚悟をーー!」
やる気を漲らせ、びしりと指さしたその眼前にはキング・スコルピオ。
「おい、フギン。『出迎え』があるなんざ聞いてねェぞ?」
「王よ、前菜も美味しく召し上がっては如何でしょう。どうやら退屈凌ぎにはなりそうですよ。
勿論、貴方が詰まらないと感じれば彼等など転がしてしまえば構いません。『鉄砲玉』に待てをし続けるのも可哀想でしょう」
静かな声音で笑ったフギン・ムニンにキングスコルピオは「奏」と呼び掛けた。彼の声に「へい!」と敬礼をして楽しげに笑った少女を見て『緋衝の幻影』玲(p3x006862)は神妙な表情を見せる。
「テメェが飛び出してェってんなら、良いぜ」
「おーさまの仰せのままに――戦神が一騎、御幣島カナデ! 陽が出ている間は倒せないと思え!」
地を蹴って突如として飛び出してくるのは流石は鉄砲玉の異名を持つ女か。
御幣島 戦神 奏。
イレギュラーズ。嘗ての戦いで囚われ、そして戦死した玲の『友人』だった娘。
「にゃーっはっはっはっは! にぎやかに面白い祭りをやっておるではないか! 連れないのぅ、妾も混ぜい!
さー、お主ら! 覚悟すると良い! 祭りならば妾の出番。この妾が盛大に遊んでやろうではないか!」
紅色に色付いた眸が光を帯びる。結い上げた黒髪を揺らし、少女は唇を吊り上げ吸血種の牙を覗かせた。
うつつの世の真似事を仕様とも、所詮は『真似事』でしかあるまい。
経験知らぬ歴史がうつつの世とさえ交わらぬと言うならば、確定しない未来を乞うのは悪いことではないだろう。
ならばこそ――遣ることはただ一つ。『叛逆』、その言葉だけなのだ。
●
「スコルピオ。スコルピオねぇ。またとんでもねぇ大物が出てきやがったな」
Goneへと痛みを武器とする魔術を付与した『バケネコ』にゃこらす(p3x007576)は「こっちは任せとけ」と呟いた。僅かに身体が震える。武者震いだろうか。
飛び出してくる奏の相手ではない、狙うは中心人物――『砂蠍』頭領 キング・スコルピオその人だ。
「……だが誰が来ようがやることは変わらねぇ。食い止める。ただそれだけだ。奪えるのなら奪ってみせな、盗賊の王様よ」
「ほざくな、ガキ。テメェが俺を楽しませてくれるってんなら構いやしねェ。満足出来ねェ時にその頸と身体が仲良くしてると思うな!」
スコルピオの言葉に鼓舞されたように兵共が走り出す。統率された兵士の如き盗賊達。盗賊と言うには余りにもお利口すぎる彼等。
「こっちのラサは随分と荒っぽいみたいだなぁ? いや、荒っぽい奴が軍隊ごっこでもしてんのか?」
デルさんを担ぎ上げた『蛮族女帝』トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)はその脚に力を込める。
殴ることだけが己の武器だ。
『ネアンデルタール・フランメ』――困難に対して火の如く苛烈に、そして柔軟に立ち向かい成長する戦士がこの場で怖じけ付くわけもない。
「まぁリアルのほうでもあんま付き合いねぇからイマイチ違いがわかんねぇけどよ、あっちではとっくにくたばった悪党どもが雁首揃えてるらしいじゃねぇか。どいつもこいつも格上揃い、いくらゲームとはいえちぃと妬けるわな。ま、しゃーねーか」
強い相手と戦いたい。それがトモコにとっての行動原理だった。願わくばリアルで彼等と相対したいものだが生き残ったフギン・ムニンを抜けば死人の軍勢が相手だと思うと酷い嫉妬を覚えてならない。
「――その代わりに楽しませろよ!」
「それは此方の言葉です。王の補佐を。あの様な野蛮で腐敗しきった王国の民になど我らは退けられることはない!」
何方が侵略者なのだか、と。『月光』星芒玉兎(p3x009838)はぽつりと呟いた。前線へと飛び込んでくる兵士達を相手に嘆きの大門と名付けられた強固なる護りを固め、地を蹴った。
「……数だけでも脅威となる。ともすれば勇名を馳せる盗賊王らに匹敵する脅威です。
ええ、ええ。砂蠍。お噂はかねがね伺っておりますわ。どうやら、現実の彼らと面識或いは因縁が有って思うところがある方もいらっしゃる様子」
「現実?」
「いいえ、此方の噺ですわ。……まあ、その点わたくしは気楽なものですが、少々寂しくもありますわね。
ですが結構。先入観や情動に囚われる事の無い立場として、冷静に皆様を支援させて頂きましょう。文字通り、『夢にまでも見た』でしょうから」
彼等はNPC、ゲームデータ。本来ならば存在しない。知っているからこそ、星芒玉兎は地を蹴った。兵士達を巻き込むのは霜降月風寒盛冬大雪と名の付けた広範囲を持つ積み込む星詠みの秘術。
巻き込まれぬように気を配り『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)は騎士としての誓いの言葉を掲げる。
――厳しい相手だけれど……僕は、何度だって立ち上がる。
これが仮想世界だと思う勿れ。これまでマークはR.O.Oにて沢山の人々を見てきた。助けを求める冒険者や八咫烏を探し回る密猟者達。
彼等は生きていた。仮想世界であれども、システムバグでNPC達はこの世界に生きているのだ。此処で、砂蠍を素通ししてしまえばこの先がどうなるかは明らかだ。
蹂躙。火の気配。血の気も凍るような悍ましさ。其れ等の前で、青年は誓う。
必ず守りきってみせる。仲間も、人も。
最前線へと飛び込むマーク、続くのはにゃこらす。二人は互いが同時に倒され戦線が瓦解せぬように気を配る。死しても此方には『死に戻る』事が出来る。
――叛逆じゃあ! ひっくり返すぞ皆の者!!! ……こちらは何度でも死ねるんじゃからのう。
玲はそう呟いた。そう、NPCが死ねばそれで最期だがイレギュラーズにとって死は『ゲームシステム』の一つでしかなかった。
幸いにして、リセリアの背後で輝いたサクラメントは即時復活を良しとするものだ。
「……ともあれ、スコルピオと御幣島さんとフギン・ムニン……所謂ネームド、が状況的内容的に見てまともに倒せるとも思えない。
恐らく敵兵の数を十分に削った上でネームドの一定時間足止めに成功すれば、か。嫌になるわね。実力差を見せ付けられているかのよう。
……その上で全滅する事なくどれほど敵を削れるか……という所かしら。何とも言いがたい気分を味合わせてくれるけれど」
マークが敵兵を惹きつける中央に、リセリアは飛び込んだ。その剣より放たれるは奥義、七之太刀の再現技。
斬、と。
刀身に込められた気は紫電と化す。苛烈な稲妻を巻き起こし、敵陣へと叩き付けた一閃。
トモコはそれに続き『デルさん』を振り上げた。片手で握りしめることの出来る『神器ネアンデルタールの仮想構築体』は乙女の手の上で自由自在に振り回される。
ダメージを負えば王ほどにトモコのエンジンは温まる。疵獣の魂は窮地に劣勢、絶体絶命さえも己の糧とするのだ。
「なぁに、そういう状況で動き続けられるようにキャラメイクしてきたんだ。上手くやるさ」
怖れること何て何もない。唇を吊り上げたトモコはにゃこらすとマークの抑えるキングスコルピオに、そして前線を縦横無尽に動き回る『鉄砲玉』に、視線を焼べてから眼前の兵士を蹂躙し続ける。
だが、フギンは「怯むな!」と叫んだ。
ファーリは「うわ、勢いが凄い!」と呟くが直ぐさまに銃を構える。
彼をちらりと横目で見遣ったにゃこらすはGoneが仕掛けるタイミングを伺っている。星芒玉兎は『道』を塞ぐ兵士を優先して止めるように心がけた。
因縁を持つ者に好機を与えたいと、星芒玉兎は考えていたからだ。頭数はまだ保たれている。苛烈にも前線に攻込んできた奏が攻勢の起点であるかと星芒玉兎はまじまじと見遣った。
「そんなに見られたら照れちゃうよん?」
揶揄うような声音、そして継ぐように飛び込んでくる斬撃を受け止めたのは玲。
「鉄砲玉! 妾の華麗な技をみせてやるのじゃ!」
玲は敢て彼女を名前では呼ばなかった。玲は――『姉妹機』であった少女は――『奏』を別人だと割り切っている。割り切りながらも、彼女を殺害せず撤退を促す方向に持ち込みたいと考えていた。
「さぁさ――懺悔の時間だ! 死ぬときは死ぬんだ、引き際を弁えて遊ぼうよ!」
「うむうむ。元気なことは良い事じゃ! 来い、鉄砲玉!」
重ねる。己の身を傷付けども。
重ねる。玲の動きは止らない。
奏をその場に縫い付けるべく格闘術は攻めの姿勢を崩さない。前線で集中し続ける。
その腕へと叩き付けられた剣一閃、しかし玲は止らなかった。――何度でも死ねるから。
「ハッ――イカれてる」
笑った彼女に、どちらが、とは玲は言わなかった。
●
仲間達が整えてくれている。ならば、Goneにとっては此処が狙い目だ。
『攪乱 役 立つ?』
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は頸をこてりと傾げた。まるで愛玩動物の様な仕草ではあるが悍ましさが滲んでいる。
恐怖に打ち勝ってからこそ戦士だというが、盗賊達は隣り合わせの死を前に縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧を怖れることは無かった。
――解析に失敗しました。
――指定されたクラスが存在しません。
――プロパティが無効です。
ケラケラケラ。笑い始めた縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は己の存在に怖れようとも引くことのない戦士達に少しばかり呆気をとられたが、ならばと繧「ク$ィブ◆キル1――そのスキルさえもバグであるか、全容が見えない――を使用する。
味方を巻き込まぬようにと留意する気遣いにマークは振り返り小さく頷いた。乱戦状態では『盾』となる仲間を巻き込むことが多い。
範囲攻撃が仲間達を巻き込むと共にけたたましいエラー音が聞こえる。ミスだと告げる効果音に合わせて点滅する紺碧の空にR.O.O(データ)の世界だという事がまざまざと思い知らされる。
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が気遣った先にはマークが耐え忍ぶように立っている。耐え忍ぶ能力は彼を強制的に生の渦中に叩き込む。
「奴を倒すには工夫が必要そうですね。分かりますか?」
「了解」
フギン・ムニンの指示によって、自身が標的になった事をマークは悟る。にゃこらすが暫くは持つのならば、敵を引き付ける役は叶うだろう。
現実ならばいつも誰かを盾にして、護られてばかりだった。だからこそ、せめてこの世界で暗い前に立って誰かを守りたいと願った。
己の身を引き裂くような痛みからも逃れるばかりでは、戦士とは言えない。自分が倒れたって仲間を信じて――
ルインは小さく頷く。死んだって通さないと、そう宣言したのだから。
「ドバーンザバーンとブレイキング! 元の性能ではないけどこれは元を思い出して楽しいね!」
ザバーンと使って兵士達を叩き切る。雪崩れるに兵士がマークを狙うように動き出したのを確認し、妨害の一撃を重ねる。
「奏ちゃんを自由にはさせないよ!」
「私は負けたくない、何にも誰にも――猛き闘争を楽しもう!」
奏がステップ踏むように赤いマフラーをたなびかせた。まるでワルツでも踊るかのように、その攻撃が鋭くもルインを狙う。
だが、その間に滑り込んだ玲「コッチじゃ鉄砲玉!」と叫んだ。彼女に任せていれば良い。そして、マークとてスコルピオを抑えている。
全員が役割を担っている。遊撃として戦うならば、出来る限り早期に敵兵を撃破しなくてはならない。
「……俺も、皆を支える。だから」
「ええ。頑張るわ――見て居てね?」
ファーリにウィンクを一つ。妖艶に微笑んでその信に応えるように吹雪は指先をそっと宙へと踊らせた。
雪と氷の疑似世界。凍える程の気配を纏わせて。本家本元には叶わないが、一面の銀世界は美しい。
氷雪之神――美しくも淑やかであった女神を真似たその氷は氷柱となりて、兵士達を凍て付かせる。
「幾ら指示が飛び交おうと一網打尽では困ったことにならないかしら? ……残念ね、こちらでの私はこういう団体さんの相手は比較的得意なのよ」
囁くその声音に。氷雪の娘の氷から逃れる様に突出してきた兵士が雄叫びを上げる。
一歩後退する。彼女の眼前へと飛び込んだマークと兵士の剣が擦れ違う、腹を抉る凶刃に唇から赤き血潮が滴った。
『工夫』とは此れか。視界がブラックアウトし、眼前に出たウィンドウはコンテニュー承認を求めている。
此処で諦めるわけには行かない。マークは直ぐさまにコンテニューを申請するが――僅かなタイムロスに気が急いた。
(成程、『頭脳』を名乗るだけのことはあるか!)
トモコは唇を吊り上げた。彼が仲間を護っていることをフギンは良く見ていた。そして、『工夫』が必要である事も。タダでは倒れぬ意志を見せるマルクを打ち倒すための必殺の一撃。
後方で眺めて居るだけの司令官でもないのだろう。的確に戦いやすく――キングスコルピオが暴れやすく工夫されている。
倒れるマークの姿が掻き消える。吹雪は迫りくる兵士を睨め付け、己を標的に定めんとするキングスコルピオに気づき身構える。
「テメェは俺の相手だ!」
「あのアマの頸をへし折ってやりたかったが――なんだ、猫。テメェに俺の相手が務まるとでも?」
キングスコルピオから感じられた殺気ににゃこらすはその精神力で耐え忍ぶ。脚に力を込め、その行く手を阻んだ。
行かせるわけには行かない。マークとにゃこらすがキングスコルピオを、そして兵士達をこの場で抑えきる。
――今だ。
Goneはそう認識した。なるべく体力のロスは抑えた。換気扇で大雑把に応戦し続けた。
浮遊しながら進む『ただの風』。Goneの狙いは己のアクセスファンタズムを駆使しての奇襲だ。
だが――
「一人減りましたね。殺したわけではない。だが……」
フギンの呟きに、彼の元へと戻ろうとした兵士がぴたりと足を止める。隠れることが出来ると言えども、見つからないわけではない。
其処に気配は存在して居る。フギンは「何を連れてきたのですか」と兵士へと叫んだ。
鞭がばちり、と影へと叩き付けられる。Goneの狙う奇襲は適わない。影より抜け出た身体は敵陣の真っ只中だ。
「工夫したつもりなのでしょう。褒めてやりましょう。……ですが、甘い」
無数に身体に打ち込まれていく攻撃。だがGoneとて黙ってやられる訳にも行くまい。少しばかり敵陣を乱すことに成功しただけでも御の字か。
ここまで来るのにありったけの決意や覚悟――いや、殺意を抱いて居た。望む事無きアバターだが、それでも『この可能性』の為ならば飲み込めた。
幻影の時計の針の音が響く。鎌を振り上げれば、フギン・ムニンに叩き付けられたそれは首を取るには叶わない。
「な――ッ」
一撃、そして二度目。届いた、だがそれ以上は届かない。Goneの奇襲は呆気なくも失敗する。
だが、奇襲に失敗しただけだ。攻撃は届いた――余裕ぶった男はソレさえ悟らせぬような顔をしているが、その腕を切り裂いた刃の感覚は確かに残る。
「上手く隠れたつもりだったのでしょう。ですが、どうして私が後方に居るかをお忘れ無く。全て気付いていたのですよ」
Goneとマークがサクラメントへと戻される。その様子を横目で見ながらにゃこらすは如何したものかと唸った。
(……復活前提だがよ。その絡繰はどっかでバレると見た方がいいか。
何度も生き返ってりゃ自ずとバレちまうだろうからな。だから、俺はスコルピオがそれに気づかねぇようにする必要がある。フギンの方は……仲間に任せりゃ大丈夫だろ)
そうは考えていたが、フギンは『自身が手に掛けた者の復活』に気付いている。にゃこらすが考え倦ねた絡繰りにはもはや気付いていると言うべきか。
「キングスコルピオよ。殺しても殺しても死なないようですよ。其方の方々は」
「何だ……? まァ、いい。イカた魔術士なんざゴロゴロ居る。それなら地に這い蹲る迄叩き潰すだけだろが!」
●
味方が雪崩れるように死に戻らないように注意をしなくてはならない。そう考えていたトモコは小さく舌を打つ。
乱戦状態の中でも統率された兵士達は『各個撃破』に方向を転換したように思える。フギン・ムニン、中々に『鬱陶しい』存在だとトモコは溜息を漏らした。
しかし、小細工を彼女は必要としない。トモコはあくまで己の最大にして最良をぶつけるのみなのだ。
自身のエネルギー切れにも気を遣っていたルインは自身を回復しながらも、耐えきれぬならば必殺技でも放って足止めしてやろうと考えていた。
「死なば諸共大爆発! いや爆発はしないけどね? ――でもすぐに戻ってくるから安心して待っていてね!」
にんまりと微笑んでDAEMONが支援する魔術が行使される。最大火力。それが自身の身体を傷付け用ともルインは気にすることはない。
そも、何度でも生き返ることが出来るのだ。
冷徹なる氷輪の輝きに巻き込まれたにゃこらすが僅かに渋い表情を見せる。エラー音を聞きながらにゃこらすは言った。「この際、『死んでも止めれば良い』」と。
その輪中に彼女はいた。鉄砲玉、奏と呼ばれた少女だ。
星芒玉兎には玲が奏を殺すまいと考えている理由は分からない。それでも、その意思を尊重してやりたい。この様な場所にまで来て、折角再会できた相手なのだ。出来るだけ思いを汲んでやりたいと考えるのは悪いことではないはずだ。
「……此処は仮想。なればこそ、幸福な夢を見ても良い筈ですわ」
「ふーん、結構舐められてるんだね。けど、『殺さない』なんて選択肢が出る前にそっちが死んじゃうんじゃない?」
奏は文字通り『鉄砲玉』の如く飛び込んでくる。星芒玉兎を蝕む悪夢の導き、だが、それが強大な力を与えることは確かである。
(後衛に対しても飛び込んでくる。ええ、それは『乱戦』で此方の作戦を乱す為なのでしょう。
ですが――此方は何度だってリスポーンできる。幾許かは耐え抜かねばなりませんが……!)
星辰術士は地に降る星光を利用し、陰陽術の如く攻撃を重ね続けた。己の身体が分断され――そして、サクラメントの前へと戻されようとも構いやしない。
星芒玉兎が立っていた位置にはトモコが居る。何度も何度も、繰り替えしている死。彼女は凶行により雪崩れて倒れていったマークとにゃこらすの代わりに盾として立っている。
「まったく……強敵ばかりで嬉しくなるなぁ、オイ!」
「ああ、だろうよ。イレギュラーズさん達よ、テメェらみたいな愉快な連中と戦えることを嬉しく思うぜ」
男の笑い声に「ああ、我が王に満足いただけたならば幸運です」とフギン・ムニンが笑っている。
「後方彼氏面して居る場合ではないぞ! ――さぁ、始めるとしようか猛き闘争をのう!」
にい、と笑みを零した玲の影よりGoneが飛び出した。奏の前へと飛び込んだ玲――そしてフギンを狙うのはGoneだ。兵士の数は減っては来ている。だが、そこまで来るのには骨が折れた。
Goneをフギン・ムニンの元に届けられた。彼等を早めに撤退させたいと願っていたがまだまだ盗賊王は退く気は無いのだろう。
さぁ、始めるとしようか猛き闘争をのう――さあ始めよう! 猛き闘争をね!
玲と奏。
同じ言葉を口にすれども、立場はまるで違う。それでも、重なる言葉は変わることは無かった。
「また来ましたか。何度でも同じ事!」
「――言ってろ! こんなおあつらえ向きのアバターで。しかも人質がいない、向こうが俺を知らない、加えてR.O.O。
こんな明らかに都合のいい舞台ですら、これが成し遂げられねーっていうんなら。
きっともう俺にゃ、この『宿題』を果たすだけの運など、何処にも残ってやいねーんだ! 届かせろ! クソ野郎!」
Goneが叫ぶ。フギン・ムニンの鞭が撓りGoneの頬を打った。ああ、届かない。アクセスファンタズムは戦闘には活かすことは出来ない。不意を打てたのは一度限りか。その覇気にフギン・ムニンは驚愕したか。今だと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧のテレパシーが告げている。
Goneは死に物狂いで一撃を叩き込んだ。同時に身体を襲ったのは複数の兵士の攻撃。穿つ槍に身を引き裂かれる。
何度も死に戻ったことでじりじりと後退する戦線。それでも、まだ保てていられるこの内に。
キャラキャラとその『口』から漏れ出た笑顔。縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の鎌が兵士を刈り取り、奏と迫る。
随分な時間が経った。30名も居た兵士も半数ほどに減ってきた。それだけの間、死に続ける経験もあまりない。
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は『死ぬ 多い 凄い』と言葉を漏らし、リセリアは頷く。
「ええ、何度も死ぬ事を繰り返して、この戦場を保ち続ける……難しいわね」
汗が滲んだ。一歩踏み込めば冴え冴えと、冷ややかなる刃は変幻し銀の軌跡を描く。
キングスコルピオの懐目掛けたそれは仲間達が戦線復帰するまでこの場を保ち続けるという意思だ。
ダンスを踊るようにスコルピオの爪がリセリアの腹を抉った。ぐ、と息を飲む。優れた平衡感覚は自身が『倒れた』事を気付かせる。
その爪を引き抜かせるように身ごと飛び込んだのはトモコ。ネアンデルタールの底力が吼える。胆力は尽きるわけもない。
闘争の苦痛こそが己の人生であると、叫ぶ様に振り下ろした攻撃にキングは「悪くねェ!」と叫んだ。
じくじくと腹が痛む。兵士達の中を走り、リセリアの剣がフギンへ迫る。どうして、彼女が自身の元へと飛び込んできたのかをフギン・ムニンは知らない。
Goneが己を宿敵の如く恨む事も、玲が奏に何らかの感情を抱いていることも。そして――リセリアが凍て付く刀身を振り下ろしたことも。
「――その顔、もう一度見れて嬉しく思います」
決死の一撃がフギン・ムニンの目を抉る。リアルと同じ、片目を失うこととなった男の鞭がリセリアへと悪戯に叩き付けられた。
「貴様ァッ!!!!!!!!!」
その声で視界が暗くなる。身体が泥にでもなったかのように重い。だが、次の『目覚め』は直ぐに訪れるのだ。
●
「ただいま! さあ、通せんぼの再開だ。何回死んでも戻ってくるから撤退してくれると助かるよ!」
ルインはにんまりと微笑んだ。死んだって通さない。その言葉の通り『何度目』か分からない死を経験しながらもホーリークロスを纏って戦場に立った。
全能なる神の道具(アポストル)は、どの様な使命でも神が望むのならば全うする。
彼等を進ませぬというオーダーも神に科せられた使命であるかの如く彼は戦場を駆けた。
生き物を破壊することに特化した能力を持ったルインは躊躇う事はなかった。波の如く襲い行く攻撃、そして己を鼓舞して継続戦闘を行う力。
だが、同時に、その身を蝕む痛みは彼という個を保たせ続けるには向いては居ない。
――Error:オブジェクトの保有を行えません。
ルインは己を傷付けながらも戦い続ける。蠢きながらも擦れ違い、出来るだけ戦線を維持する縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はちらりとルインを見た。
――Error:繧ェ繝悶ず繧ァ繧ッ繝医?菫晄怏繧定。後∴縺セ縺帙s。
捨て身の攻撃、それを保ち続けるだけの維持能力。ルインが己を鼓舞する様子を眺め、奏に『仕掛けた』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はキャラキャラと口に笑みを残せた。
「怖いね」
奏は構える。戦神としての、戦い方――玲のよく知る彼女のかんばせで。
「けど、止らないよ?」
地を蹴った少女のマフラーが揺らいだ。縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の至近距離まで迫る。ぎん、と音を立てて刃同士がぶつかった。
身を反転させる。追撃、一度だけではない。縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はその刃を受け止めてぎょろりと見遣った。
不明瞭な声が、奏へと飛び込む。
「何を言ってるんだか、」
「――分からないからって『余所見』は行けないぜ? なァ!」
トモコが横面へ飛び込んだ。目を見開いた奏の身体が転がってゆく。
その身を追いかけたのは玲。星芒玉兎は「行って下さいませ!」と叫ぶ。奏と玲の関係なんて知らない――玲だって『あれは知らない存在だ』と言う。
目は口ほどにものを言うのだ。そんなこと無いくせに。彼女との間に浅からぬ関係があることくらい『目』を見れば分かる。
「……妾が、引導を渡してやろう。鉄砲玉」
「――ッ、言ってくれる!」
奏が最後の力を振り絞り玲を蹴り上げる。ふわりと浮き上がった身体が不自然に着地せんと重力に惹かれる。
玲は片腕で己の身を支え、その勢いの儘、奏へと連続攻撃を放った。
「カナデ!」
忌々しい男に名を呼ばれる不快感。フギン・ムニンの呼び掛けに玲は目線だけで男を睨め付ける。
その視線の先、リセリアはもう一度と男の元へと飛び付いた。
「怯むな!」
「……いいえ、怯んで貰うわ」
地を蹴った、リセリアの刃が兵士達に受け止められた。吹雪の凍て付く気配が周囲を包み込む。
ウマに跨がり放たれたのは銀世界。一面の白。
「意地比べなら得意なのよ。……さあ、凍りなさい。身も心も、何もかも」
吹雪の言葉に頷いて、星芒玉兎の呪術がリセリアの眼前の兵士を捕えた。
身体が痛む。乱戦の最中、どれ位の時間が経ったかは分からない。何度死んだかすら数えている暇はない。
吹雪は可笑しい事だと笑った。
一度目、死んだときにはウマを使って戦線に復帰しようと考えた。
指揮官であるフギン・ムニンの疲労は目に見えて分かる。彼を護る様に従う兵士達とて怯えることはなけれど、斃しきることも出来るはずだ。
二度目、悔しさが湧き上がった。これ以上にない程に。もう少しだったと。
三度目――そこから覚えては居ない。覚えては居ないけれど。
ここで『諦めた』ら誰かが傷付くのだから。
「――許せない」
許せるわけが無かった。吹雪は唇を噛み締めて、氷の気配を纏わせた。
周囲を凍て付かせる気配。絶対零度の娘の氷が兵士達を包み込む。ああ、それでも――ぱきり、と音を立ててた。己の身体が軋み失せた事に吹雪は気付く。
暗転した視界に藻掻くようにもう一度を彼女は何度も求めた。
マークは「にゃこらすさん」と彼を呼んだ。決意した。これ以上は耐えきれない。
戦線はもはや瓦解している。統率だけならば彼方の方に分があったか。死に戻りを繰り替えすのもそろそろ限界か。
ならば、決死の覚悟を決めなくてはならない。それが、今だ。
「勝てないとわかっていても、退けない時はある。今が、その時だ!」
「ッ――良いぜ! イレギュラーズよ! 誰が屈するか! テメェも俺も、クソ野郎同士だってんなら、根性比べだろ!」
マークは身と命を擲ってでもと飛び込んだ。
スコルピオの爪が身を抉る。声すら出ない、痛みだ。身を引き裂く苦しさにマークは呻く。
それでもいい。男の腕を抱えて地へと転がりながらも進ませまいと藻掻く。
「良いぜ、マークさん……! 其の儘!」
にゃこらすが飛び込んだ。その脚を穿ったのはフギン・ムニンの攻撃か。
「王を愚弄するな――!」
「愚弄だ? 民の営みを愚弄して蹂躙する奴に言われたかねぇな! 奪いたいなら奪ってみろよ、盗賊!」
にゃこらすの心は、決して揺らぐことはない。サクラメントより駆け出した吹雪は「ああ」と叫んだ。
オブジェクトがブレる。ビープ音が響き、掻き消えた姿の向こう側に男の姿が見える。
「ああ――そうさせて貰う」
ゆっくりと立ち上がったキングスコルピオはフギン・ムニンの腕を持ち上げた。立てと告げるかのように乱雑な仕草だ。
フギン・ムニンはだらりと片腕を垂らしてイレギュラーズを憤怒の眸で睨め付ける。
「何度でも蘇ってくるってのは新鮮だったぜ、テメェらと遊ぶのも悪くはねェ――だけどよ、そろそろ終いだ」
吹雪が追い縋る。待ってと駆け出した腕を払いのけたのはフギン・ムギン。鞭がぱしりと音を立て鋭く叩き付けられる。
「王の決定は決して翻ることはない。ああ……そうでした。鉄砲玉娘、起きなさい。王の御前で居眠りしている場合ですか」
戦火の気配が濃いその場所のサクラメントにぴしり、と罅が入った。勝敗が決したのだとトモコは理解していた。だが、彼女の飽くなき闘争心は敗北の上でも滾る。
「まだやれる」
「いいや、やれねェな。タイムオーバーだ。テメェらに構ってる時間はねェ」
盗賊王は静かに笑う。唇を吊り上げ、愉快そうにイレギュラーズを見下ろして。
「面白かったぜ――イレギュラーズさん達よ。悪かねェ戦いだった。だがよ、」
彼は盗賊王。
貪欲なる一等星(アンタレス)。
その飽くなき欲求を満たすには、まだ足りない――
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
シナリオお疲れ様でした。
MVPは最大の足止めに貢献した貴方へ差し上げます。
死亡回数です。
・Gone(p3x000438) +5
・縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107) +4
・マーク(p3x001309) +7
・吹雪(p3x004727) +4
・リセリア(p3x005056) +5
・玲(p3x006862) +6
・にゃこらす(p3x007576) +9
・トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321) +6
・ルイン(p3x008578) +3
・星芒玉兎(p3x009838) +3
・ファーリ (p3y000006) +4
※
シナリオ結果を受けて『デスカウント』は個別に増加します。(反映には少々時間が掛かります)
GMコメント
砂蠍。懐かしいですね。
●成功条件
『砂蠍軍』を一定時間足止めすること
(一定時間足止めされた場合は、「これくらいにしよう」と撤退していきます。
●フィールド情報
フィッツバルディ領の端。周辺の避難誘導は一応は済んでいるようです。
凄まじい勢いで攻め入ってくる奏を始め、怒濤の勢いで砂蠍軍は攻め込んできます。周囲に戦闘が不利になるような障害物はございません。
●サクラメント
『イベント用(ボス用)の特殊なサクラメント』が存在する為、死に戻れますがタイムラグが多少生じるので注意です。
そして、『ネクスト』において問題なく何事も無かったように復活出来るのはPCだけです。
(つまり、死に戻りが可能となるイベント専用サクラメントです。死亡ごとにデスカウントが累積されます)
●『盗賊王』キング・スコルピオ
言わずと知れた砂蠍の王。
極めて高い技量と殺傷力、執念深さを持ち合わせる盗賊の中の盗賊。
非常な悪党で残忍。しかし悪のカリスマと相応の頭脳を併せ持ちます。
リーダー格ですが、前線で気紛れに暴れます。ですが、『全てを出し切る気』はなさそうです。
●『識者の梟』フギン・ムニン
梟の翼をもった飛行種の男。痩身で何所か虚弱な雰囲気を思わせますが、かなりの実力者です。
毒蛇を2匹連れており、己の得物には梟の刻印を押す悪党であるという噂が蔓延っています。
知恵者であり、ある程度の指揮を行うなど、軍隊を動かすことには精通しているようです。
後方での指揮に当たります。司令官です。
●『鉄砲玉』御幣島 戦神 奏
御幣島 戦神 奏(p3p000216)さんのR.O.Oの姿。
此方では『戦神』と二つ名で呼ばれる腕前の冒険者であり、戦で重傷を負い、砂嵐中核傭兵団『赤犬の群』に助けられた後に『砂蠍』に所属しました。
容赦なく戦に赴き鉄砲玉として堂々と立ち回ります。最前線で戦います。フギンのことは嫌いですが指示は聞きます。
●配下の兵士達 30名ほど
フギンの指示を聞いて統率された盗賊達です。兵士と呼ぶに相応しい程に鍛え上げられています。
奏と共に前線で立ち回り、キングスコルピオの危険を察知すれば彼の補佐に当たります。
●味方NPC
・ファーリ
月原・亮 (p3n000006)のアバター。補佐にまわります。鉄砲で撃つぜ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。
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