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シナリオ詳細

<Genius Game Next>蛇蝎、街を喰らう

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●襲来
 ここは『伝承』、ネクストにあるエリアのひとつで、混沌世界で言うところの『幻想』だ。
 その片田舎に、シャルル・シャンバ男爵が管理する村がある。

 混沌世界の幻想では、シャルルは亡き父から譲り受けた村を堅実に管理する善良な貴族で、そうなるに至った経緯にはイレギュラーズたちの活躍があった。
 実の父や妹の婚約者に命を狙われ、父が改心したかと思えば妹の婚約者は追い詰められて館でシャルルを銃殺しようとし、その度にイレギュラーズたちに救われて今に至る。
 伝承のシャルルも、声や容姿から父の死後懸命に村を守っているという点に至るまで、見事に現実混沌の彼と変わらない。
 無論、たとえそうであっても彼は現実混沌の彼ではないが。

 この日、伝承のシャルルは執務室で紙にペンを走らせいつものように着々と執務をこなしていた。
 各方面への書状をしたためた後はランチを兼ねての街道視察、シャルルはその支度をしようと筆を置き立ち上がる。
 その時、遠くの方から人の叫び声のようなものが聞こえてきた。
「何事かな?」
 シャルルは窓を開け目を眇める。
 彼方で上がる煙、徐々に大きくなる喧騒……いや、悲鳴と言った方が近いか。
 胸騒ぎを覚えたシャルルの背後で、執務室のドアが開いた。
「坊っちゃん、大変です!」
 ノックもせずに駆け込んできたのはシャンバ家に長年仕える使用人のロイだ。
 彼のただならぬ様子に、シャルルは上着を羽織り執務室を出る。
「話を聞こう」
 歩きながらシャルルが促すと、ロイは早口に状況を説明する。
「突然村に賊が押し寄せて、街道筋の商店が次々と破壊され、商品が略奪されとります!」
「人的被害は?」
「負傷者が多数出ておるようです。中には、賊を迎え撃って命を落とした者まで……」
「……何だって?」
 大切にしてきた村民に犠牲者が出ているという報告に、シャルルの顔が悔しげに歪んだ。
 シャルルは腕っぷしの強い屋敷の料理番・ボブを呼び出し、彼を連れて外に出る。
「ロイ、君は他の使用人たちを地下に避難させてくれ。僕はボブと一緒に村の状況を確認してくる」

●村を守れ
 シャルルが村の中心部に駆けつけると、小さな村を通る唯一の街道は十数人の獣種の賊に悉く蹂躙されていた。
「こいつはひでぇ……」
 一緒に来たボブの視線の先では魚屋の店主が無残な姿で息絶え、地面に転がっている。
 シャルルはハンカチを店主の顔に被せ、破壊され瓦礫と化した店の陰にボブとともに隠れた。
「こういう時のために私兵を持つべきだったかな……って、今そんなことを論じている場合じゃないね。助けを呼びに……」
 瓦礫の陰から出ようとしたシャルルに落ちる影。
 ボブは咄嗟に持ってきた猟銃を構えるが、シャルルの傍に立つのは賊ではなく『ネクスト』にログインしたイレギュラーズ――そう、あなただ。

『R.O.O』から全プレイヤーに『イベント開催告知』が出されたのはあなたの記憶にも新しいことだろう。
 R.O.Oが行う大規模イベント<Genius Game Next>。
 来る6/2、砂漠の悪漢『砂嵐』が伝承西部バルツァーレク領、南部フィッツバルディ領を襲撃することが明らかになっている。
 あなたたちの成すべきは、悪逆非道の砂嵐を迎撃し伝承領の被害を軽減することで、R.O.Oも『このイベントはネクストの歴史を変え得る重要なイベントです。特別クリア報奨も用意されていますので奮ってご参加下さいませ!』と大々的に宣伝している。
 ネクストに囚われた人々が『トロフィー』となっているのは知っての通りだ。
 彼等はログアウト出来なくなった救出対象だが、『バグ』はゲームのクリアの報奨として彼等を解放する場合がこれまでにも多かった。
 練達の首脳陣はこう考えている。R.O.Oの冒険はあくまでゲームの中の出来事で、生じる事件の表層自体は事件の本質に関係ないと思われるが、『トロフィー』をはじめとする筋道がネクストに用意されている以上、バグの根源や解決に到るためにはゲームに乗る必要がある……と。
 そして、この推論をかなり強力に補強する重要な事実、それが大規模イベント<Genius Game Next>だ。
 『特別クリア報酬』の正体は知れないが、これまでの件から考えても『トロフィー』の大量獲得や、情報取得、何らかのアップデートである可能性は否定出来ないだろう。
 また、このイベント自体の存在はもっと重要な意味での推論の構築に役立つのではなかろうか。

 この大規模イベントに乗ってログインしたあなたは、村の領主たる男爵・シャルルと鉢合わせるべくして鉢合わせた。
「突然僕の村がこんなことになってしまってね……手を貸してもらえないかな?」

GMコメント

マスターの北織です。
この度はオープニングをご覧になって頂き、ありがとうございます。
以下、シナリオの補足情報ですので、プレイング作成の参考になさって下さい。

●成功条件
 戦闘クエストの完全クリア(シャルルとボブを一切負傷させずに賊を全員撃破する)
 ※賊の生死は問いませんが、戦闘不能にすることは絶対です。
 ※シャルルとボブのどちらかもしくは両方が敵の攻撃を受け、または巻き込まれて負傷もしくは死亡した場合、いくら賊を全滅させてもクエストクリアにはなりません。ただし、シャルルとボブが移動中に勝手にすっ転んでケガをしたというような「敵の攻撃によらない負傷をした」場合は問題ありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 現時点で判明している情報に嘘はありませんが、不確実な要素や不明点が幾つか存在します。

●周辺環境
 現実混沌の『幻想』と酷似したロケーションです。
 とてものどかな村で、中心部を唯一の街道が通っており、この街道沿いには商店が建ち並び賑わっています。
 シャルルの屋敷は村の奥にあります。
 
●戦闘場所
 シャルルの村の中心部、街道及び街道沿いとなります。
 イメージとしては、無舗装の道(これがこの村唯一の街道です)沿いに露店や小規模な建物の小売店が並んでいるような感じです。
 街道は比較的広く、荷馬車がすれ違える程度の幅員を有しています。
 現在、この街道沿いの商店などが賊によって片っ端から破壊され、商品が根こそぎ略奪されている最中です。
 街道沿いの商店は7割近く破壊されており、死者数名、負傷者多数といった状態です。
 破壊された建物の瓦礫などで足場が荒れています。

●敵について ※一部PL情報です。
 『砂嵐』のハウザー・ヤークの間接的配下です。
 数は12名、1名を除き全員狼や虎などの猛獣系の獣種です。
 粗野・獰猛・頑健の三拍子が揃っており、ちょっとやそっとの攻撃は「蚊に刺された程度」にしかなりません。
 全員格闘戦を得意としており、一撃一撃が非常に重く殺傷力が高いです。
 武装は殆どなく、まさに己の体で勝負する戦闘スタイルですが、筋骨隆々の体は盾にも槌にもなるでしょう。

 1名だけ、蛇の鱗と牙そして舌を持つ獣種の男がいます。
 沙漠の熱と蠍の毒をモチーフに着想を得たバフやバッドステータス付与を得意としており、HPがある限り毎ターン味方に【毒耐性】と【火炎耐性】を自動付与し、敵への攻撃時には【猛毒】【業炎】【ショック】といったバッドステータスを仕掛けてきます。
 更に、この蛇男も例外なく粗野・獰猛・頑健ですので、かなりタフな上に攻撃力も他の獣種と遜色ありません。

●シャルルとボブについて
 シャルルは伝承の貴族ではありますが、戦闘面においてはこの伝承に存在する「ただの人」レベルです。
 ボブも同様に、料理番という仕事柄食料調達のために猟銃を使用することはありますが、射撃の名手でもなくやはり「ただの人」レベルです。
 そのため、両者とも戦闘の役には立ちませんし、『砂嵐』の一味の前では自衛の術すら持ち合わせていません。
 よって、クエストクリアのためには皆様は徹底して二人を守るしかありません。

●R.O.Oとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で、練達ネットワーク上に構築された疑似世界を指します。
 練達の悲願を達成するため、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。
 情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 更に、暴走の結果ログイン中の『プレイヤー』がこの世界内に閉じ込められるという深刻な状況が発生しています。
 R.O.O内の造りは現実の混沌に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在するなど、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されているようです。
 ローレット・イレギュラーズの皆様はログイン装置を介してこの世界に介入し、、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指して活動します。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。

それでは、皆様のご参加心よりお待ち申し上げております。

  • <Genius Game Next>蛇蝎、街を喰らう完了
  • GM名北織 翼
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月18日 23時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

パルフェタムール(p3x000736)
聖餐の天使
ジャック翁(p3x001649)
レイス(p3x002292)
翳り月
ファン・ドルド(p3x005073)
仮想ファンドマネージャ
ライライ(p3x008328)
源 頼々のアバター
レイティシア・グローリー(p3x008385)
高潔の騎士
エイラ(p3x008595)
仄光せし金爛月花
座敷童(p3x009099)
幸運の象徴

リプレイ

●序
「手を貸してもらえないかな?」
 駆けつけたイレギュラーズを見るなり、シャルルは助力を請う。
「勿論です。騎士の誇りにかけても、平和な村を襲う賊を見過ごすなど出来ません」
 『高潔の騎士』レイティシア・グローリー(p3x008385)がシャルルの前に片膝を着き礼節をわきまえた態度で答えると、シャルルと使用人のボブは安堵の顔を見合わせた。
 しかし、
「おうおう、そこで何コソコソしてやがる?」
 と、数で勝る賊のひとりがシャルルたちの気配に気付き不穏に距離を詰める。
「坊っちゃん、危ねぇ」
 ボブは銃を構え引き金を引いたが、銃弾は呆気なく賊の拳に弾かれた。
 賊は今にも殴り掛からん勢いで駆け出したが、その時賊の視界内で突然何かが光る。
 何事かと思わず足を止めた瞬間、今度は
「長閑な村で略奪中とは、そなたらも随分と精が出るのぅ」
 という声とともに炎を纏った鞠が鮮華な殺意に舞いながら飛び込む。
 思わぬ通せんぼを食らった賊が舌打ちしながら睨んだ先には開幕先手必勝と意気込む『幸運の象徴』座敷童(p3x009099)がおり、視界の端で突然光ったのは『深海に揺蕩う月の花』エイラ(p3x008595)だった。
 少し離れた位置では、身構えながら『翳り月』レイス(p3x002292)が不安げにシャルルを見つめている。
(この人たちに少しでも傷が付いたらダメって……面倒な設定だね。ゲームってそういうもの、なのかな……?)
 理不尽に厳しい条件だが、それでもレイスはこの過酷な条件に真っ向から挑む姿勢だ。
(ともかく、頑張らないと……イベントを解決したら囚われた人たちの救出にも繋がるみたいだしね)

「モタモタすんじゃねぇ、さっさと殺っちまえよ!」
 賊の後方から仲間と思しき者の怒号が響いた。
 その者は一見他の賊と毛色が違い、賊たちの殆どが猛獣のような容姿をしているのに対し彼はまるで蛇の如き風貌で、さながら蛇男だ。
(あの者、何やら他の賊と違う。注意が必要か……)
 『陰』ジャック翁(p3x001649)は馴染みの亡霊を呼び寄せると、賊の――特に蛇男の動向に注意を払うよう命じる。
 蛇男は仲間に加勢すべく前に出よとうしたが、現れた海月型の火の玉に阻まれた。
「ここを通りたければぁエイラたちを~、倒してからぁ行くんだよ~」
 手元で次弾となる火の玉海月を揺らめかせながら、エイラは蛇男に挑むような視線をぶつける。
 遠ざかるシャルルも気になるが館の使用人たちは大丈夫だろうか、もしもここで賊を取り逃がせば館も襲われるかもしれない。
(シャルルとボブを追わせないんだよぉ~。二人はもちろんだけどぉ、使用人たちも死なせないんだよぉ)
「ねぇ~、この蛇ぃ毒蛇だったら厄介だしぃエイラぁ引き受けるねぇ」
 エイラは覚悟を決めて蛇男を睨視しながら仲間たちにそう告げると、
「クラゲはねぇメデューサでもあるからぁ、お互い蛇対決とぉ行こっかぁ?」
 と蛇男を煽った。
「……面白ぇ」
 蛇男は怒りを滾らせエイラに詰め寄る。

 シャルルたちには他の賊が囲い込むようにしてにじり寄るが、駆けつけたイレギュラーズたちに焦りの色はない。
 不意に漂い出す霧。その霧の主がジャック翁だと気付いている者ははたしてどれほどいるのだろうか。
「何だ? 見えねぇじゃねぇか!」
 腹立たしげに霧を手で掻き分ける虎男たちにレイティシアの短槍が入る。
「こちらですよ」
 挑発的な攻撃に虎男たちは目を吊り上げて反撃に出た。
 その隙に『仮想ファンドマネージャ』ファン・ドルド(p3x005073)がシャルルに声をかける。
「もう大丈夫、このとおり戦える者たちを連れてきましたからお二人は早く避難を。貴方たちがここにいては、巻き込みを恐れて彼らも全力を出せません」
 ファン・ドルドの口調からは、まるで村の危機をいち早く知り助っ人を連れてきたかのような周到さが感じられ、シャルルは安心感と信用を覚えた。
 更に、
「こういう場面では、何より無事に生き残るということが土地を収める者の務めだよ。民や領地が心配な気持ちは分かるけれど、荒事は私たちに任せてもらおうか」
 と『聖餐の天使』パルフェタムール(p3x000736)に背中を押され、彼は小さく頷く。
「そうだね、君たちの指示に従うよ。ボブもそれでいいね?」
「坊っちゃんの仰ることに否やはねぇですよ」
 二人が納得したところで、パルフェタムールは
「それじゃ、神のご加護を」
 と彼らに術を施した。二人の体が僅かに地面から浮き上がる。
「坊っちゃん、こりゃ一体……」
「うん、これは凄いね」
 目を丸くするボブとシャルルの手をファン・ドルドが取った。
「敵はなかなかにタフそうですね。すみませんが皆さん、少しの間お願いします。私はお二人をエスコートしてきますので」
 予め仕入れた情報でシャルルの館の位置も道中が瓦礫で荒れていることもファン・ドルドは把握している。
 ジャック翁の霧が静かに二人を賊から隠しているうちにと、ファン・ドルドは館を目指し二人を連れて低空飛行での移動を始めた。
 早速倒壊した櫓が進路を塞いでいるが、ファン・ドルドは
「問題ありません、高度を上げましょう」
 と冷静に誘導し飛び越えていく。

(私たちにしてみれば「イベント」でしかないけれど、村が襲われるっていうのはそこに住む人たちからすればたまったものではないだろうね……)
 避難するシャルルらを見つめるパルフェタムールはやるせない気持ちになるが、その分救いたいという思いは強くなる。
(……まあ幸いなことに今回は私たちがいる。こちらは存分に愉しみつつ人助けもしようじゃないか。此度は慈悲深い天使らしく、ね)


 ファン・ドルドと一緒に現場を去るシャルルの姿が霧から出た瞬間を目撃した蛇男は、
「あいつらは身なりからして金目の物をたんまり持ってそうだ、逃がすんじゃねぇ!」
 と叫んだ。
 しかし、虎男たちは蛇男の命令は聞こえるものの眼前のレイティシアにお冠の様子だ。
 避けても必ず当たる彼女の短槍での攻撃がとにかく腹立たしいのだ。
(とはいえ、あの体躯は一筋縄ではいかんであろうな……)
 レイティシアに向かう賊を見て『源 頼々のアバター』ライライ(p3x008328)は警戒心を抱く……が。
「要するに、あの獣種の破落戸共をさっさと下せば良いのであろう?」
(ああいう粗野で野蛮な手合いは往々にして己の力を誇りたがるものである。頑健なのを良いことにワレの妖刀を侮れば……動けぬであろうよ!)
 警戒と臆病は似て非なるもの、ライライは手近な所にいる豹のような男に
「――というわけで喰らえ、妖刀パンチ!!」
 と先制攻撃を仕掛けた。
 いきなりの拳打に豹男は目をしばたたかせ動きを止める。
 すると、
「何呆けてんだよ、さっさと行くぞ!」
 とレイティシアの手の届かぬ所にいる豹男が数人でシャルルの去った方向に移動を始めた。
「そうはいかないよ」
 パルフェタムールが鋭刃と化した白羽の驟雨を豹男らに浴びせて追跡を阻む。
「こっちは折角最高の美味の限りを詰め込んだ天使の格好を用意したんだ、是非とも味の感想を聞かせてもらいたいところだね……もちろん、死の味の感想も、ね」
「そんなに知りたきゃてめぇが死んで確かめてみろ!」
 豹男は屈強な筋肉の盾で耐え忍びパルフェタムールに罵声を浴びせるばかりで、鋭い刃に身構えるのに気を取られ背後に意識が向かない。
 その隙を『陰』たるジャック翁が見逃す筈もなく、初めてその姿を露わにしたジャック翁による不意の二連撃は豹男のひとりを蹌踉めかせた。
「くそっ、ナメた真似しやがって!」
 豹男はその場で「本能」という名の当てずっぽうな拳打と蹴りを手当たり次第に振るう。
 存在そのものを希薄にし、更に相手の認識能力を阻害することで再び透明化していたジャック翁だったが、偶然にも不規則軌道の蹴撃に捕まった。
「俺を後ろからやったのはてめぇか」
 鬼の首でも獲ったかのようにニヤリと笑う豹男だが、そこにまたもライライの拳が襲いかかる。
 豹男の頭部ににょきっと生える角……角!?
「何じゃこりゃああーっ!?」
「ああーっ!」
 頭部に覚えた違和感に奇声を上げた豹男とライライのシャウトが綺麗に重なった。
「貴様、角が生えたな! 獣種とは嘘ではないかこの鬼風情が!! 死ねぇぇぇ!!」
 豹男にしてみればとんだ言いがかりだが、そんなことはライライの知ったことではない。
 反撃しようにもライライの拳が効いて何やら足元が覚束ない豹男の鳩尾に、ライライの強烈なパンチが再度入る。
 白目を剥いた豹男に体勢を立て直したジャック翁が回り込んだ。
「……聞こえるか、冥府からの呼び声が」
 静かに響いた声の直後、豹男は声に誘われるままに冥府への扉を開けることとなった。
(陰に生き、陰に死ぬが当方の本望。さて――まずは一人)
 ジャック翁が軽く息を吐くと、見計らったかのように耳元で亡霊がシャルル避難の成功を囁く。
(そうか……では当方はこれより敵の無力化に全力を注ごう)
 ジャック翁は再び『陰』になり動き出した。


 ライライとジャック翁が豹男を一人仕留めている間、他の豹男たちにはパルフェタムールから容赦ない天罰が下る。
 血に塗れながら天使の天罰に抗う地上の獣、獣の爪牙で紅に染まっていく天使。
 天使は血に染まれば染まるほど、より神威を増した天罰を叩き落とす。
「私の血肉、快く振る舞ってあげよう。なに、お代は――」
 そこまで言いかけて何者かの視線を感じたパルフェタムールは、咄嗟に豹男たちから退避し駆け出した。
 目指すは虎男たちと戦う仲間だ。
(蛇男がエイラと戦いながら何か仕掛けようとしてる……)
 感じた視線は蛇男のものだった。
 虎男たちを最前線で引き付けているレイティシアには届かないが、レイスと座敷童には辛うじて届きそうだ。
 蛇男はエイラと戦いながら徐々に虎男たちと戦うイレギュラーズに接近、灼熱の毒を纏った拳をこれでもかという程連続して繰り出すが、天使がもたらす福音がレイスと座敷童を灼熱の毒から守る。
 背後から追い縋る豹男たちの鋭い拳に身を砕かれても、仲間には天使の加護を施せた。
 血だらけの豹男らには既にジャック翁が攻撃態勢に入り、ライライが間合いに踏み込んでいる。
 この賊どもは、間違いなく天使の贄となるだろう。
「お代は――命で結構だよ」

 これまでのパルフェタムールの猛攻で弱った豹を狩るのはジャック翁とライライだ。
 ジャック翁がギリギリまで姿をくらまし賊の守りを崩す一撃を入れれば、ライライが貫通力のある拳を打ち込む。
 血を吐き倒れる豹男たちには次々と角が生え、もはや本当に豹男なのかと一瞬疑ってしまうが、いずれもライライにとっては「鬼」だ。
「まだ死なぬか、全く頑健な鬼どもめ! だが、ワレもようやく温まってきたようである……喰らえ、鬼をも殺す腹パンを!!」
 追い込まれれば追い込まれるほどライライのパンチは苛烈になる。
 激闘が続き、豹男の亡骸が累々とする中、ライライは意識朦朧のまま最後のパンチを繰り出した。
 残った豹男はジャック翁の一撃を受けた直後ながらも意地で体当たりを仕掛けるが、満身創痍、余力なしの状態で繰り出されたライライの腹パンは見た目に反する強烈な威力で豹男の腹を深く抉った。
「鬼退治、これにて落着である!」


 一方、虎男たちを引き付けるレイティシアは丸太のような手足から繰り出される拳打と蹴撃に懸命に耐えていた。
 時折離脱してシャルルを追おうとする者が現れても、その度に進路を阻み、下がらせる。
 レイティシアの短槍に刺された虎男は座敷童の絢爛な鞠を食らい、動きに精彩を欠く。
「ちきしょう!」
 鞠を食らって本来の動きが出来ず苛立つ虎男の目に、彼方でよろよろと立ち上がる領民の姿が映った。
 腹いせに領民にとどめを刺しに行こうとする虎男の動きを見た座敷童は、
(あの者が死ねば、バグで囚われた者も消えるかもしれぬしのぅ……ゲームのデータだからと言っても、斯様にリアルな世界で見捨てるなどという選択肢を妾は持たぬわ)
「そちらにかまける余裕があるのかえ?」
 と青白い幽炎を纏い舞う。
「生憎妾に貴賎貧富は関係ないのじゃ。街を喰らい傷を負うた者の息の根を止めようとする蛇蝎共よ、そなたらを喰らう深淵の火の舞、とくと見るがよい」
 命を奪わぬ舞とはいえ虎男たちにとっては厄介極まりない。
「やっぱりてめぇらから先にぶっ殺してやらぁ!」
 座敷童を振り返り走り去った虎男に、領民は心底安堵の表情を見せた。
 彼の目には、幽炎が深淵に沈む希望の灯りに見えたことだろう。

 しかし、決して楽観出来る状況ではない。
 少しずつ自身を癒しながらどうにかここまで戦い続けてきたレイティシアにもいよいよ限界の時がやってきた。
 それでも彼女は最後まで徹底して攻撃を続ける。
 踏み込んできた前方の虎男たちに一度、そして二度渾身の穿突。
 すると、力を奪われくらりとした虎男たちにレイスの大剣が突貫した。
 自身を透明化しているレイスの居場所は、余程冷静に影や音を観察しなければ気付くことは出来ない。激戦の最中なら尚更だろう。
「ぐはぁっ!」
 突如あらぬ場所で出現し飛んできたかのようなレイスの大剣は、レイティシアの奮戦に応えるかのように虎男を貫いた。
 更に、虎男の数が徐々に減り、戦況がイレギュラーズ有利の色を濃厚としたところにファン・ドルドが帰還する。
「シャルルさんたちは大丈夫?」
「はい、屋敷が見えてきたところで別れましたが、片が付くまで外に出ないよう念入りにお願いしてきましたから、大丈夫でしょう。シャルルさんは状況をよく把握する力をお持ちのようでしたし」
 レイスの問いにそう答えるファン・ドルドにいまだ残る手負いの虎男が猛進してきたが、座敷童の鞠に邪魔され動きを制限され、そこにファン・ドルドが得物を振りかぶり虎男の脳天に叩き付ける。そして、振り下ろした力を利用してのもう一撃。
 体を捻り繰り出された二撃目は虎男の首に綺麗に入った。


 一方、一度はエイラを躱しつつ仲間の援護をしようとした蛇男だったが、二度目はない。
「言ったよねぇエイラを倒してからだってぇ」
 執拗に蛇男の前を塞ぐエイラに蛇男は高速の回し蹴りを何段にもして繰り出す。
 蛇男の足には棘のような鱗がびっしりと生え、掠るだけでエイラの体を裂き毒を流し込んできた。
 だが、エイラは蛇男の毒をものともせず己の力を引き上げ金色の魔眼を見開く。
「エイラを~無視しちゃダメだよぉ」
(もっとぉもっとぉエイラを~鬱陶しく感じてもらわないとぉ)
 魔眼に魅入られた蛇男は苦しげに呻きながらエイラを睨めつけ、
「そんなに死にてぇなら望み通りにしてやらぁ!」
 と、次々と拳を突き出しエイラを追い込んだ。
 瓦礫に足を取られふらついた隙に一気に潰してやろうと考えた蛇男だったが……なかなかどうしてエイラの動きは滑らかだ。
(エイラ浮けるしぃ)
 しかもエイラは己の消耗を大きく癒し補いながら戦うことが出来る。
 なかなか倒れない「盾」に蛇男の肩が上下し始めた。

 やがて豹男を殲滅し生き残ったジャック翁がエイラの加勢に入る。
 蛇男は直接対峙するイレギュラーズの頭数が増えてしまったことに危機感を覚えるが、姿勢を下げ両手の爪を突きつけながらエイラに突進……と見せかけジャック翁の懐に入り込もうとした。
 しかし……。
「エイラが引き受けるからぁ」
 爪を体に受けたのはエイラだ。
 そこに虎男を倒し終えたファン・ドルドたちも駆けつける。
 座敷童の鞠が飛び、回り込んだレイスが後方で大剣を振り下ろし、蛇男の呼吸は更に乱れた。
 それでも蛇男は、だらだらと血を流しながら灼熱の拳をエイラにねじ込む。
 彼の怒りの矛先は完全にエイラに向いていた。
「そろそろ大人しくして頂きたいのですが」
 踏み込んだファン・ドルドが蛇男のサイドから痛烈な一撃を見舞う。
「うるせぇぇぇっ!」
 蛇男がファン・ドルドに反撃しようとした時、またもエイラの金眼が妖しく光った。
 月の花に酔う蛇に、『陰』が音も無く忍び寄る。
(つまらぬ一つ覚えの技なれど――)
 陰に呑まれた蛇が地に伏した。
「――ゆえ殺すには丁度良い」
 蛇の目の中に最期に散ったのは、月の花の残滓であろうか。

●終
 街道を襲った一味を殲滅したイレギュラーズたちは、その報告にシャルルの館を訪れた。
「そう、賊を全員倒してくれたんだね……」
 ファン・ドルドの言いつけを守り使用人たちとともに館に籠もっていたシャルルは、イレギュラーズたちに深く頭を下げる。
「これで民も安心出来ると思うよ、本当にありがとう。犠牲者の遺族のことは、僕が責任を持って手厚く支援していくよ」
 シャルルとボブ、そしてロイたち使用人に見送られながらイレギュラーズたちはログアウトのため元来たサクラメントに戻った。

 一方、彼らと入れ違いになるような形で調理用具を抱えたレイティシアが街道に戻る。
 一度ログアウトし再びインしてきた彼女は、街道沿いの瓦礫を領民たちとともに退かし、合間にささやかな手料理を振る舞った。
(たとえゲームの世界であったとしても、ここにいる人たちの心が少しでも救われますように……)
 そんな願いを静かに抱きながら。

成否

成功

MVP

パルフェタムール(p3x000736)
聖餐の天使

状態異常

パルフェタムール(p3x000736)[死亡]
聖餐の天使
ライライ(p3x008328)[死亡]
源 頼々のアバター
レイティシア・グローリー(p3x008385)[死亡]
高潔の騎士

あとがき

マスターの北織です。
この度はシナリオ「<Genius Game Next>蛇蝎、街を喰らう」にご参加頂き、ありがとうございました。
少しでもお楽しみ頂けていれば幸いです。
今回は、シャルルとボブを退避させるのに一役買っただけでなく豹を相手にデスペナを受けるまで頑張ったあなたをMVPに選ばせて頂きました。そして、蛇男を抑え続けたあなたに称号をプレゼントさせて頂きます。
改めまして皆様に感謝しますとともに、皆様とまたのご縁に恵まれますこと、心よりお祈りしております。

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