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シナリオ詳細

猫の居ない街

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『航海(セイラー)』の街で
 この街には猫がいない。
 私が生まれて、10歳になるまで育ち、その間ずっと、猫を見たことがなかった。
 だから私は、猫と言う奴を見たことがない。物語や、人の噂で聞いたことはあるが、果たしてそれが、どのような生き物なのか、まったく、想像もつかなかったのである。
 なんでも、小さくて、気まぐれで、たまに人懐っこく、ふわふわの毛をして、にゃあとないて、鋭い爪を持って、時に人に寄り添って暮らすもの。
 犬なのかな、とも思ったが、犬ほど忠節ではない。
 鳥なのかな、とも思ったが、鳥のように空を飛ぶわけでもない。
 なんだかわからなくて、でも傍にいて、たまにいなくなって、それでも気づけば傍にいて。
 そんな人間のパートナーが、猫らしい。
 だから、夜、家の裏で、初めて私が猫を見た時に、それを猫だとはとんと気づかなかった。なんだか小さい生き物がいるな、と思ったが、それが『にゃあ』と鳴いた時に、初めてこれが猫なのだな、と理解した。
 私の貧困な語彙で語れば、それはとても愛らしかった。手のひらに載るほどである。恐らく、子供、赤ちゃんのような猫なのだろう。それは小さくて、ふかふかとは言わないけど細い毛並みを持っていて、暖かくて、愛しかった。
 どうすればいいんだろう、と思った。私は猫などを飼ったことがない。それはそうだ、この街には猫がいないのだ。故に飼えるわけがない。というか、生まれて初めて猫を見たのである。だからどうしようか、と悩んでも仕方あるまい。
 でも、確実に一つ、分かる事が有る。
 このままここに置いていては、この猫は食われてしまう。
 この子猫がどうしてここにいるのかは、分からない。親と一緒に流れてきて、親が食われたのかもしれない。旅の者が持ち込んで、捨てていったのかもしれない。ああ、それはきっとどうでもいい。問題は。
 どうすれば、この愛らしい生き物を守れるか、と言う事だ。
 ずるり。と。
 音が聞こえた。
 私は反射的に振り返った。
 そこにそれは居た。
 ぬるりとした、魚のような生き物である。
 ヤツメウナギに似ていた。鎌首をもたげ、蛇の夜に、ずるり、ずるりと、這い歩くものである。
 それは、この街に住み着く、海の神様だった。
 ああ、嘘だ。こんなのが神様なわけがない。
 神様は、こちらに特に恵みをもたらすわけではなく。
 こうやって夜ごとに街を徘徊して。
 何かを喰らう。
 だからこの街に、猫は居ない。
 のんびり自由気ままなねこは、家の中に居ないで、外に出て。
 コイツに喰われてしまうから。
 私はとっさに、この子猫を抱き上げた。それからゆっくりと立ち上がって、神様を見る。
 ぬるり、とした八つの眼が、こちらを凝視ししていた。
 ずるずると吐き出す毒の粘膜が、辺りに墜ちて重々と音を立てた。
 逃げなくては、と思った。
 逃げて逃げて――この子猫を助けなくては。
 私は走った。走って――逃げ出した。
 それが最初の夜。
 それから夜ごとに、私は子猫を抱いて、街を逃げ回っているのだ――。

●子猫と、少女
「奇妙な状況だが、それも『そう設定されたクエスト』と言う事なのだろうな」
 と、『理想の』クロエ(p3y000162)は、口元に手をやりつつ、そう言った。
『航海(セイラー)』の、とある小さな町である。
 小さなサクラメントを中心に栄えたこの街には、猫がいない、と設定されている。
 何故なら、夜中に得体のしれない怪物が徘徊し、動くものを喰らうから……と言う事らしい。
「町の外に逃げろ、と言うのはもっともな意見だが、まぁ、小さな子供に、家族もろとも街の外に行け、と言うのも過酷な話だろう。それでも、夜ごと子供が逃げ回っているのに、親が気づかない……と言うのは奇妙な話かもしれないな」
 設定がどうであれ、これは実際に発生し、起きている『クエスト』なのである。
「クエストの内容はこうだ。『深夜、街を逃げ回る少女と子猫を保護し、徘徊する『怪物』を撃破する』。口にするのは簡単だが、子供を守りながら戦う必要がある。くれぐれも留意してほしい」
 守りながら戦う……となれば、普段とは、些か勝手が異なるかもしれない。
「ちなみに、このクエストには第二目標、とでもいうべきものがある。余裕があったら達成しろ、と言うようなものだ。その内容は、街に潜む元凶の排除。つまり、この怪物を放っている、怪物の親玉を倒すことだ」
 つまり、クエストの攻略条件は二つ。
 1.朝まで少女と共に逃げ続ける事。
 2.少女を守りながら、元凶の怪物を排除する事。
「なお、このクエスト発生中は、この街のサクラメントは使用できない。つまり、死亡して、すぐにこの街に戻ってくる、と言うことができない、と言う事だ。そこのところはくれぐれも注意してくれ」
 そう言って、クロエは特異運命座標たちに頷いた。
「……こんな所か。では、クエストの達成をよろしく頼むよ。気を付けて、行ってらっしゃい」
 そう言って、クロエは特異運命座標たちを送り出した。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 少女と子猫を守りながら、戦いましょう。

●成功条件
 以下の二つのうち、どちらかを達成する。
  1.少女と子猫が生存している状態で、朝を迎える。
  2.少女と子猫が生存している状態で、『元凶の怪物』を排除する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 猫の居ない街。その理由は、夜ごとに現れる怪物が、動くものを喰らってしまうから。
 ひょんなことから、生きている子猫を拾った少女は、『怪物』から逃げるため、毎夜街中を、子猫と共逃げ回っています。
 今回のクエストは、この少女たちを助ける事です。
 このクエストには、上記の通り二つの達成条件が存在します。
 相談して、どちらを達成するか決めてください。
 クエストの発生時刻は夜ですが、準備は日中からできるものとします。
 フィールドは街の中になっており、複雑ではありませんが、入り組んだ街並みになっています。
 
●エネミーデータ
 怪物 ×?
  夜になると街を動き回る怪物です。ヤツメウナギみたいな姿をしているらしいですが、地上を這いまわります。
  主に『毒』系統と『痺れ』系統のBSを付与してくる攻撃を行います。
  一匹一匹の戦闘能力は、さほど高いとは言えませんが、その総数は現在不明です。
  『元凶の怪物』を倒せば、すべて消滅するようですが……。

 元凶の怪物 ×1
  夜になると活性化する怪物です。姿は不明ですが、観ればすぐそれが元凶だとわかるものだとします。
  主に高い反応とEXAを持ち合わせており、複数回の攻撃が予測されます。強力なBSは持ち合わせていませんが、シンプルな攻撃こそが脅威になるでしょう。
  どこに潜んでいるのかはわかりませんが、街の中にいるのは間違いありません。街の噂や、少女からの情報で推測できるかもしれません。

●護衛対象
 少女と子猫 ×1
  10歳の少女と、子猫のペアです。子猫は少女を抱いていて、決して離れることはありません。
  少女はクエスト開始時点では、街のどこかを逃げ回っています。見つけ出して保護してあげましょう。
  また、『怪物』は、戦闘中でない限り、少女を探し、子猫を喰らう事を最優先して動くようです。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加と、プレイングをお待ちしております。

  • 猫の居ない街完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Gone(p3x000438)
遍在する風
IJ0854(p3x000854)
人型戦車
レグルス(p3x001627)
獅子王
ミーナ・シルバー(p3x005003)
死神の過去
玲(p3x006862)
雪風
レイティシア・グローリー(p3x008385)
高潔の騎士
指差・ヨシカ(p3x009033)
プリンセスセレナーデ
天狐(p3x009798)
うどんの神

リプレイ

●猫の居ない街
「神様の話かぁ?」
 『航海』のとある街である。港には何隻もの船があって、多くの者が漁業で生計を立てているのはそれで分かるだろう。
 口を開いた男は、そんな漁師の一人だ。
「あれは……昔は豊漁をもたらしてくれる神様だったって……言われてた。ホントかどうかは知らねぇよ」
 怯えるような表情で、漁師は言う。
「逃げないのかって? 馬鹿言うな、俺たちはこの街から離れて生きていくなんて……。
 ……討伐しろって?
 できるならやってくれよ」
 諦観したかのような表情で、漁師は作業に戻った。
「お時間をいただき、ありがとうございました」
 ゆっくりと頭を下げるのは、『高潔の騎士』レイティシア・グローリー(p3x008385)だ。レイティシアそれからゆっくりと港を進む。さびれているという様子はない。ただ、何かに怯えているような雰囲気だけは感じられた。
「誰モ彼モ、この調子カ」
 自身の足元から、声が聞こえた。厳密にいえば、レイティシアの影からの声である。刹那、ずるり、と影から何かが這いあがった。それは人の姿をとる。
「別段、旅行者には話せナイ、と言ったものでもないらしいナ。まぁ、旅行者に、夜、出歩かレテ死なれるヨリハ、最初から釘をさしておいた方がいいのだロウ」
「Goneさん」
 レイティシアが、影から現れた人物……『遍在する風』Gone(p3x000438)の名を呼んだ。
「おっしゃる通りでしょうね。……しかし、伝承面で『神様』の正体に迫るのは不可能ですね。或いは、元からそんなもの設定されていないのかもしれません」
「雑なクエストだナ」
 呆れたようにGone。
「だが、それでコソ、心置きなく討伐できるというものダ。まぁ、最初から思うところなどはないガ」
「やはり元凶の討伐を?」
 レイティシアが尋ねるのへ、Goneはゆっくりと頷いた。
「それガいいダロウ。この街にとっても、件の少女にとってもナ。……さて、もうしばらく情報を集めヨウ」
 そう言うと、Goneは再び、影の中へともぐりこんだ。レイティシアは頷くと、ゆっくりと街の中央に向かって歩き出す。

「こんにちは、私はIJ、貴方の健康を守ります」
 と、家の玄関を掃き掃除していた女性に、『人型戦車』IJ0854(p3x000854)が声をかけた。
「旅行者さん? 道にでも迷ったのかい?」
 女性が尋ねるのへ、IJ0854は否定の意を表した。
「いいえ。ですが散歩中です。此処は良い街ですね。とても静かです」
「それ位が利点でね。この街には動物なんかがほとんどいないだろう?」
「そうね。港町だから、猫位いてもいいのにね」
 『プリンセスセレナーデ』指差・ヨシカ(p3x009033)がそう言うのへ、女性は顔を曇らせた。
「大昔は居たって言うけどね……今は、その。あれだろう?」
「その、『あれ』について聞きたいのだけれど」
 ヨシカが微笑んだ。
「近頃、夜中に出歩いている人なんかいないかな?」
「そんな命知らずがいるもんか!」
 驚いたように女性は言った。
「けど……確かに、あいつら、最近騒がしいね。まるで何かずっと追っかけてるみたいだ……」
「その情報を調べているのです」
 フレンドリーさを崩さずに、IJ0854。
「『神様』とか、夜中に出歩いている人。そう言うのについて、知らないかな?」
 女性は困ったような顔をして、答える。
「神様について知ってる奴は、きっと大昔に死んじまったよ。あたしらが知ってるのは、海からやってくる、って事くらいさ。夜中……どうなんだろうね。高台の方の家に、奴らは向かってる気がする。その方に、なんかあるんじゃないのかい?」
「ご協力に感謝いたします」
 IJ0854が、穏やかに礼を言った。ヨシカもにこやかに笑って一礼をすると、『散歩』を再開した。街を眺めながら、ゆっくりと歩く。周囲に、確かに動物の姿は見受けられない。猫、犬、そう言った、人と共存するパートナーの姿が無いのだ。鳥が飛んでいるのは見かけるが、それでも数が少ないように見受けられるのは、この街の異常さを察しているからだろうか。
「高台の方ね」
 ヨシカが言った。
「そして、神様は港の方です」
 IJ0854が続ける。
「この手のクエストって、大元を解決しないと何度も発生するタイプだと思う」
 ヨシカが言った。大元。つまり、『ヤツメウナギのような怪物』を生み出している『神様』の事である。
 この街には、『神様』が居る。実際そうであるかどうかは不明だし、おそらく神様などではないだろう。神様は人に害をなすこともあるし、別に品行方正さを求められているわけではないから邪神なんてのもいるわけだが、それはさておいて、あまりにも、この街の怪物は邪悪に過ぎる。
 となれば、これは魔物・怪物の類だろう。であるならば、退治してしまうにこしたことはない。退治しなければ、毎夜、『ヤツメウナギ』はこの街を這うのだ。
「一時的に少女と猫を救ったとて、それは文字通りの一時しのぎにすぎません。我々の目的は、原因の根絶にあるべきです」
 そう言うIJ0854の機体(からだ)を、赤い夕焼けが差した。西に沈む夕日が、夜の帳を引き連れて、その顔を隠そうとしていた。
「間もなく夜になります」
「そうね。作戦開始よ」
 二人はそのまま、仲間達との合流を果たすべく、歩を進めた。

●赤い夜
 少女――コーティアがいつも通りに外に出た時、今日の月はとても赤くて印象に残った。怖い、のとは違う。月が赤いくらいで、吸血鬼の迷信に怯えるような歳じゃない、と自分では思う。それに怖い目になら、毎晩あっている。怖いんじゃない。ただ何か、今日の月は優しそうに見えた。
「猫ちゃん。貴方はいつも通り此処にいるのよ」
 肩掛けのバックに、コーティアが語り掛ける。みゃお、と小さく何が鳴いた。中には小さな白い子猫が隠されている。この子猫を拾った日から、子猫が何を食べるのかを昔の本で必死に調べて、とりあえずミルクを与えるとあったから、ミルクを与えて生きながらえさせた。そのかいあってか、最初にあったころとは毛ヅヤも見違えるほどにふわふわになっていて、随分と元気になったものだ。
 両親は寝ている。まるでそう決められているみたいに夜中は起きない。だから、コーティアの冒険も――冒険とかわいらしく呼ぶには命に危機に満ちて居たが――両親は知らない。
 コーティアがゆっくりと門扉をくぐる。足元に霧が立ち込めているのが分かった。やっぱり今日は、何かおかしい。本能的にそう察知した時に、ずるり、ずるり、と何かが這う音が聞こえた。それは、何時も聞こえる音だった。
 逃げなきゃ――そう思った瞬間、コーティアにふと、声がかけられた。
「こんばんわ、お嬢ちゃん」
 コーティアが身をすくめる。夜中に声をかけられたことなど、一度もない。夜中に人は出歩かないのだ。だからこれは、おかしなことだと思った。
「そう警戒しないでくれ。私は、そうだな。冒険者だ。物語を読んだことは?」
 そこに、人がいた。赤い翼を持った人だった。
「ある……けど」
「じゃあ、冒険者が何をする人かは知ってるな。人助けだ」
 赤い翼の人――『死神の過去』ミーナ・シルバー(p3x005003)はそう言うと、ゆっくりと、コーティアの下へと歩み寄る。ずるるずるる、と何かがその背後から聞こえた。コーティアが息をのんだ。その背後に、『ヤツメウナギ』が居たからだ。
「後ろ――!」
 コーティアが叫んだ。
「知ってる」
 ミーナはうんざりした様子で答えた。
 刹那、振り返ると、その眼前に巨大な『ヤツメウナギ』が居た。まさに八つの瞳を持ち、ずるずると身体を引きずる、胴長の怪物である。その口は鋭利な牙が並んでおり、なるほど、これに噛まれれば命はあるまい。
 噛まれれば、だが。ミーナの斬撃が、月下に踊った。まばたきのうちにヤツメウナギが両断され、その醜悪な体を地に横たえる。
「神を騙るにしては実力不足じゃないか。魚類にはおこがましいという言葉はないのか?」
「にゃーっはっはっは! ヤツメウナギは円口類で魚類じゃないらしいぞ!」
 と、コーティアの家の屋根の上から高笑いが響く。赤い月をバックに、腕を組んで立つその姿は、何か強キャラっぽいオーラを感じさせた。
「とうっ!」
 現れた人影は声をあげると、屋根の上から飛び降りる。華麗に回転して着地するその人は、『緋衝の幻影』玲(p3x006862)だ。
「ぽんこつロボたちが噂を訪ねていてたすかったのう! こうもあっさりと護衛対象が見つかるとはな! まぁ、わらわもちょっとだけ? いや結構? 道を調べたり働いたわけじゃが! それより幼子よ、遅かったではないか! わらわ、ちょっと眠かったので寝落ちしかけたぞよ!」
「えっと」
 コーティアが困惑するのへ、ミーナが頭に手をやった。
「仲間。だから怪しくない。怪しいが」
「わらわ、怪しくないぞよ! それより幼子よ、おぬしの名前は?」
「こ、コーティア、です」
「うむ、良い名じゃ! そちらのミーナから話は聞いていると思うが、つまり、わらわたちはお主を助けに来たわけじゃな!」
「ただ助けるわけじゃない。アンタがもう、夜中にこんなバカげたことをしなくても済むようにはしてやる」
「それって?」
 コーティアの言葉に、ミーナは頷く。
「元凶を狩るぞ。怖いかもしれないが、アンタにはついてきてもらう」
 コーティアは驚いたような顔を見せたが、一瞬、バッグに目を落とすと、すぐに頷いた。
「こ、この子が、食べられないようにできるなら……!」
「いい心がけだ。その猫、名前は?」
「なまえ? 猫、じゃないんですか?」
 困惑するコーティアに、ミーナは言った。
「家族には名前を付けてやるものだ。決めておけ。そして家族にむかえたなら、『最期』まで面倒見てやるんだぞ」
 ミーナはそう言ってゆっくりと歩き出した。玲、そしてコーティアが続く。
「わらわたち以外にも、ちゃんと仲間がおるぞ。そやつらと合流する。それから、東の漁港へと向かって元凶を仕留めるのじゃ!」
 玲の言葉に、コーティアは頷いた。そうして一行は、東へと向けて走り出した。

 ずるずる、ずるずる、とあちこちから音が聞こえる。街を徘徊するヤツメウナギたち。街を歩く自分たち以外のものを見つけ、食らいつき、殺して喰らう。そのために、奴らはこの地に蠢いているのか。
 コーティアと特異運命座標たちは、東の漁港へ向けて走っていた。玲や、ヨシカ、『きつねうどん』天狐(p3x009798)たちの昼のうちの調査によって、港までの最短ルートは開拓されている。後はこれを速やかに駆け抜けるだけだが、そうは問屋が卸さないと言うものだ。無数のヤツメウナギたちが道をふさいでいる。
「全く、運気をあげても道はふさがれるものじゃな! こればっかりは、わしにもどうにもならん!」
 走りつつ叫ぶ天狐。がらんごろんと引くのは、武器でもあるリヤカーうどん屋台『麺狐亭』である。
「コーティア殿、他の者の後ろに隠れておれ! わしらで道を開けるぞ、レグルス殿!」
「承知したぞ!」
 『獅子王』レグルス(p3x001627)が、ぐるる、吠えた。ヤツメウナギの眼前へと飛び込むレグルス。その身体に食らいつくと、悪臭が鼻につく。
「臭いものじゃな! その性根がにじみ出たか、魚類!」
 レグルスはそのままヤツメウナギを地にたたきつける。刹那、飛びずさると、ヤツメウナギの上に天狐のリアカー屋台が落下してきて、ぐちゃりと圧し潰した。
「うえぇ、食欲が失せる臭いじゃのぉ! じゃが、生まれ変わるが良い! うどんに!」
 ぽん、と倒れて消えたヤツメウナギから、ほかほかのうどんがドロップする。奇妙の光景に、コーティアは思わず息をのんだが、さっきから不思議な事ばかり起こしている不思議な人たちなので、まぁそう言うものかな、と考えないことにした。
「後でおいしく食べるが良い! さぁ、ついてくるのじゃ! レグルス殿、牽いて曳いて轢きまくるぞぇ!」
「応!」
 天狐がせつなさみだれうちの連続攻撃でヤツメウナギをぶっ叩いた。連続で振るわれるリヤカー屋台がヤツメウナギを次々フッ飛ばし、レグルスの牙が止めを刺す。ヤツメウナギたちは腐臭を流しつつ、次々とその死体を消滅させていった。特異運命座標たちの快進撃が続き、やがて漁港のエリアまで到達する。
「なんじゃ、臭いがさらにきつく……?」
 天狐がが思わず声をあげるのへ、レグルスが唸った。
「居るぞ! 気をつけよ!」
 途端、漁港から水しぶきを上げ、巨大な何かが這いあがってきた。それは、無数の頭を持つヤツメウナギの集合体のような怪物であった!
「なんじゃ! こ奴が神様か……!? ええい、こんな奇怪な生き物が神であったたまるものか!」
「コイツが神とか、訳分からん事を。こんな奴より、わしのほうが、神に相応しいのじゃ。もっとも、わしは王で十分じゃがな」
 ぐるる、とレグルスが唸る。その唸り声に反応したように、神様が悍ましい声をあげる。途端、その無数の頭をもたげ、特異運命座標たちへと向けて一気に振り下ろした――!

●そして猫の居た街
「見た目に反して素早いようですね……ですが、当機には追い付けません」
 IJ0854はコーティアを抱いて跳躍、敵の一撃を回避してみせる。他のメンバーも跳躍し、振り下ろされた神様の頭から逃れた。
「ミーナ様、コーティア様をお願いいたします」
「任せろ!」
 ミーナが頷き、コーティアをIJ0854から抱いて受けとる。
「ロボットさん!」
 コーティアが叫んだ。
「ご心配には及びません。私はIJ、貴方と猫の健康を守ります――突撃、開始」
 IJ0854が疾駆。突き出した武器を槍に見立てて突撃。神様の頭を数本切り落としながら、その後方へと駆け抜ける!
「抑えます。逃走はさせません」
「良いぞぽんこつロボ! そのまま抑えておれ! さー! 盛大に遊んでやろうではないか!」
「先に動ク。続ケ」
「おっとぉ!? わらわの影に居ったのかお主!」
 玲の影から飛び出したGone。手にした大鎌を振りかぶり、
「「定めの刻」は、一瞬タリトモ違わズ訪れる。
 俺と共に風の彼方に来てもらおウ」
 その刃を振り下ろす! 奔る刃が神様の頭を切り落とし、その身をよじらせた。
「ええい、わらわの一撃も喰らうのじゃ!」
 玲の怒涛の連続攻撃が、次々と神様の頭を切り落としていく。手応えあり! だが、次の瞬間、切り口から新たな頭が生えてきて、玲を威嚇するように吠えた。特異運命座標たちへ、再生した頭が襲い掛かる。鋭い牙が、特異運命座標たちを強かに傷つけた。
「ちぃ! 厄介じゃな……じゃが、一つ一つ潰していくしかない!」
 レグルスが飛び掛かる。食らいついた牙で、頭の喉笛を噛みちぎった。腐臭を流しながら、頭が脱力する。
「あの子達に攻撃はさせません! あなたの相手は私です!」
 レイティシアの放つ第一のスキル。斬撃の様なエフェクトが発生するや、神様の頭を斬り飛ばす。途端、怒りにかられた無数の頭が、レイティシアへと襲い掛かった! 鋭い牙が、レイティシアの生命力を削っていく。
「くっ……! すみません、ここまでです……っ!」
 レイティシアのダメージが許容限界を突破し、『死亡』の状態に叩き落される。が、レイティシアが仲間を庇った分、攻撃に専念できたのは事実だ。
「ありがとう、後は任せて!」
 ログアウトするレイティシアに声をかけながら、ヨシカが跳躍。
「猫だけは、目の前で放って置く訳には行かないのよね!」
 ユウドウブレードを闇夜に輝かせ、一気に頭を切り落とす。先ほどまでは再生した頭が、今は再生に時間がかかっている様だ。確実にダメージは与えられている。だが、それでも神様の攻撃の手は緩まない。すべての頭を伸ばし、自身の周囲に向けて何度も牙を突き立てる。その範囲攻撃が、特異運命座標たちの体力を大きく奪い去った!
「ぐ、るううっ!」
 レグルスの生命力が限界を突破し、粒子のエフェクトに包まれて死亡(ログアウト)する。同時に、IJ0854の機体にも限界が訪れていた。
「申し訳ございません、当機は戦線を離脱します。ご武運を」
 IJ0854が死亡(ログアウト)する。多くの犠牲を伴う中、
「怯むなよ、このまま最後まで攻め続けろ!」
 コーティアを腕の中に抱き、迫る攻撃に耐えながら、ミーナが叫んだ。このまま全滅するつもりはない! 最後の一人になるまで攻撃を続けてでも、ここで神様を滅ぼす! 強い決意が、特異運命座標たちの身体を突き動かしていた。その決意はやがて、神様を死の淵へと追い詰めるに至る!
「中々しぶとい奴じゃったが……ここまでじゃ!」
 天狐が叫び、リヤカーを振り上げた。大上段から叩きつけられるリヤカーが、神様の、残る最後の頭を叩き潰した。ぐぶぶ、とくぐもった断末魔をあげる神様。それが地に叩きつけられると同時に、東の水平線から、朝日が昇り始めた。
「朝だ……」
 コーティアが、ミーナの腕の中で呟いた。同時に、神様が朝日にぐずぐずと溶けて、消えていく。
 途端、特異運命座標たちの視界に、クエストクリア、のインターフェースが躍った。
「にゃあ」
 と、子猫が鳴いた。
 それは、朝日と共に、特異運命座標たちの奮戦を讃えるかのような鳴き声だった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

IJ0854(p3x000854)[死亡]
人型戦車
レグルス(p3x001627)[死亡]
獅子王
レイティシア・グローリー(p3x008385)[死亡]
高潔の騎士

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 その街には、今は猫が暮らしているそうです。

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