シナリオ詳細
P・P・D・ドロップの挑戦状。或いは、彼女は敗北を知りたい…。
オープニング
●強い奴に逢いに来た
幻想。
ローレットの片隅で『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は愛用のバールを手入れしていた。
バールには細かな傷が無数に刻まれている。
これまで、幾度となく使い込まれた痕跡だ。
ふっ、と優しい笑みを浮かべてユリーカは傷の1つひとつを丁寧になぞった。
慈しむように。
愛でるように。
労うように。
「これからもよろしく頼むですよ」
なんて、囁くように語り掛け、きれいな布でバールを拭う。
その、瞬間だ……。
「たのもぉぉおう!!」
静寂を打ち破る高い声。
女の声だ。
肺活量に物を言わせた、空気を震わす大音声に思わずユリーカは椅子から転げ落ちていた。
「な、なにごとです?」
耳を押さえて起き上がったユリーカの前に、その女は立っていた。
女、なのだろう。
「え……」
妙に丸いシルエット。
頭の上には小さな耳。
ずんぐりと太い両の手足。
白と黒のツートンカラー。
そして、よくよく見れば鋭い瞳。
「私より強い奴に逢いに来た!」
そう告げた彼女は、まさしくパンダそのものだった。
●彼女はいつでも滾ってる
『私より強い奴に逢いに来た。食事中でも、睡眠中でも、笹喰らってる時でも、いつでも仕掛けてくれていい』
それが彼女“P・P・D・ドロップ”の言い分だった。
彼女、P・P・D・ドロップ(以下ドロップ)は旅の武闘家であるという。
街から街へと旅を続け、己の武技を磨く中でどうやらローレットの存在を耳にする機会があったらしい。
ローレットに所属する歴戦の猛者に挑戦し、己の糧とするために彼女は幻想へやって来たのだ。
「戦ってくれるまで帰らない。いつまでだって居座ってやるし、暴れてやるとまで言われては……」
断るよりも、挑戦を受けた方が容易かつ迅速に事が納まると判断したのだろう。
結果としてユリーカはドロップの挑戦を受け、それをイレギュラーズへの依頼とした。
「どこかその辺をうろついているので、適当に捕まえて倒してしてしまってほしいです。ストリートファイトを仕掛けるも良し、郊外の草原や荒地に呼び出すも良し、幻想に領地を持っている人がいるのなら、自領に呼び出しても構わないです」
むしろその方がありがたい。
そう言いながらユリーカは、散らばる木っ端を拾い集める。
ドロップが来て、立ち去るまでの間にひと悶着あったのだろう。
「ドロップさんは【弱点】や【必殺】【ブレイク】の付与された技を多用するです。腕に自信があるだけあって、かなりの手練れのようでした」
曰く、ドロップは武闘家の類であるらしい。
旅の中で様々な武技に出会い、それを学んで力を付けた。
体術には自信があるようで【崩落】や【呪縛】、【封印】を付与する技も習得しているという。
「見た目はパンダそのものですから、見つけるのはきっと簡単なのです」
どのような条件でも構わないから闘いたい。
それがドロップの願いでもある。
場所も、時間も、条件も問わないというその在り方は、武闘家というより喧嘩屋だ。
「ちなみに獣種のようでしたので、たぶんもっと“人間”らしい姿に変化することもできるです」
だから何というわけでもないが。
条約的な問題で、パンダと殴り合うのが嫌だという者がいれば、人型への変化を願ってみるのもいいかもしれない。
- P・P・D・ドロップの挑戦状。或いは、彼女は敗北を知りたい…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年06月06日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●闘士P・P・D・ドロップ
幻想の外れ、広い荒野に乾いた風が吹きすさぶ。
白と黒、2色の毛が風を浴びてふさふさと揺れた。
ずんぐりとした身体。
それに比して、幾らか短く見える手足。
頭の上には丸い耳。
まごうことなきパンダであった。
「いい風だな。そして、問い闘志である」
徐に口を開いたそのパンダ……P・P・D・ドロップは、背後を一瞥さえもせずにそう告げた。
「おう。勝っても負けても恨みっこなしだぜ?」
「ふっ……無論」
開いた右手に、左の拳を打ち付けながら『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)はそう告げた。
そんな彼に、ドロップは薄い笑みを返す。
「ところで、これでも俺はパンダに優しい男で有名なんだ。手を抜かないようにヒト型で相手してくれねえ?」
「なるほど……せっかくの決闘に余計なケチが付いてはいかんな。心得た」
暫し待っていろ。
ブライアンの提案に即答を返し、ドロップは荷物の詰まった鞄を取った。
「着替えてくる」
もふもふとしたパンダの身では、服など着れるはずもない。
人前で裸身を晒す気にはなれなかったのだろう。
力強く、けれど足音のひとつも立てずドロップはどこかへ着替えに行った。
「それにしても、良い喧嘩相手を紹介してくれたものだ」
岩の影で服を着替えるドロップは、ここに至るまでの経緯に想いを馳せた。
遡ること数時間前、往来の真ん中で『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)に声をかけられたのが始まりだ。
「ご案内を申し上げる。流浪の武闘家、P・P・P・ドロップとお見受けするが」
彼は自身をローレットの用意した挑戦者だとそう名乗った。
それから、案内されるままにドロップは荒野へと足を運ぶ。エーレン曰く、街中での喧嘩は無関係な人を巻き込む可能性があるので避けたいとのことだ。ドロップとしては、戦場など何処でも問題がなかった。
家屋の中での戦闘になれば、椅子や机を上手く使って立ち回る。特に椅子など、粉々になるまで使い倒す心算だ。
大通りで仕掛けられれば、人混みや馬車も巧みに利用してみせよう。
広い荒野や草原であれば、思うさまに暴れ回ることができる。
「見ての通り罠はない。正々堂々とした戦いということだな」
「騙すとかでもなくね。まぁ、俺も戦うのは嫌いじゃないし、思いっきりやれればそれがいい」
武人然とした褐色の男、『斧鉞』玄界堂 ヒビキ(p3p009478)と青髪の剣士『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は潔白を証明するためそう言ったが、そもそもの話、ドロップは罠の有無など気にも留めていなかった。
罠が仕掛けられているというのなら、それごと相手を叩きのめすつもりであった。
「どの世界にも喧嘩屋っているんだね。あたしもよくやってたけど」
「喧嘩屋なの? カンフー的な技を扱いのかしら? 出来るなら本場の技を見せてほしいわ!」
『路地裏猫』濡れ羽(p3p008624)と『狐です』長月・イナリ(p3p008096)。
それぞれが猫と狐の特徴を備えた少女たちである。大熊猫であるドロップとはきっと近しい存在だろう。
獣の特徴を持つ者たちは、運動神経に優れているケースが多い。そんな彼女たちとの戦いが待ち遠しくて仕方がなかった。
薄い絹で織られた胴着を身に纏い、ドロップは再び荒野へ戻る。
女性にしてはやや高い背丈。長く、筋肉質な手足。
小さな顔に鋭い眼光。黒く短い髪から、丸い耳が覗いている。
「8対1となりますが、問題ありませんか?」
「うむ。私は一向に構わん!」
『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)の問いに、ドロップは威勢よく応と返す。
「よろしく頼む。どうか、手加減などしてくれないようお願いしたい」
胸の前で手を組み、ドロップは礼をする。『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は返礼し、狂暴な獣のような笑みを浮かべた。
「ドロップ殿であるか! 自分よりも強いものを探すその心意気やよし!」
「心意気の好い方ですね」
百合子、そしてウィズィが並ぶ。
ドロップとの距離は5、6メートルほどか。
「さあ、Step on it!! 見せてやりますよ、百合子さんより伝授されし碇草純情砕岩拳!」
決闘開始のゴングなどは存在しない。
戦う双方が視線を交わし、闘志が胸に満ちればそれが合図となるのだ。
戦意は上々。
地面を蹴って駆けだしたのはほぼ同時。
一瞬で距離を詰めた百合子とドロップ。
まったく同じタイミングで、互いの拳が互いの頬を打ち抜いた。
●鍛えた体に鬼が宿る
鼻が潰れ、溢れた鼻血で顔の下半分が紅に染まった。
痛みに顔を顰めながら、百合子は口角を吊り上げ笑う。
「なんという膂力! いつか獣種ではないパンダともやりあってみたいものよ!」
「言ってる場合ではないでしょうに。さぁ、次は私の番ですよ……磨き上げた必殺技」
巨大なナイフを肩に担いで、地を這うようにウィズィが駆ける。
ドロップは顔を濡らす鼻血を拭い、腰を低くし拳を前へ。
「来るか。さぁ、どのような技でも一向に構わん! 受け止めて……ん!?」
「即ち! 通常攻撃ッ!」
急接近。
そこから、渾身の技を繰り出す。
技の発動には、それに伴うモーションがある。そのモーションを見極め、回避する、或いは止める。後の先を取るドロップの得意とする先方の1つがそれだ。
しかし、ウィズィは“技”を用いることはなかった。
まっすぐに駆け寄り、まっすぐにナイフを振り上げる。
「っ……見誤った!!」
「初めて会うでしょう、『それ』が全く意味の無い相手には……!」
肩を抉られたドロップは、地面を蹴って後ろへ下がる。
血の雫を金の髪に浴びながら、ウィズィはドロップを追いかける。
瞬間、ドロップは着地と同時に強く地面を踏み込んだ。
震脚。
地面が揺れたと錯覚するほどの踏み込みと、撒き散らされる衝撃がウィズィの身体を貫いた。
背後より接近していた濡れ羽とヒビキが姿勢を崩す。
タイミングをずらし肉薄した百合子は、踏み込みと共に殴打のラッシュを解き放つ。
迎え撃つドロップもまた、握りこぶしによる連撃。
「驚いたな。奇しくも同じ構え、同じ技だ!」
「然り! 故により数を重ねる! 貴殿以上に!」
激しい拳の応酬を、制したのはドロップだった。顔面に一撃、見舞われたことで百合子が揺らぐ。
「にゃっ」
体勢を立て直した濡れ羽が跳躍。
ドロップの追撃を防ぐべくカバーに回った。
跳躍の勢いを乗せた蹴撃を繰り出すが、ドロップはそれをかがんで回避。
身体を反転させると同時に、迫るヒビキの側頭部へ裏拳を叩き込んだ。
脳が揺れ、ヒビキの視界が激しくぶれる。
ふらつくヒビキは、前に出かかる濡れ羽を制止し刀を強く握りなおした。
「下がれ、濡れ羽嬢。俺が斬る」
「にゃっ⁉ そりゃ確かに、あたしは今回が初陣だけど」
「余力を残す余裕はないぞ。俺が倒れた後のことは任せる」
「分かった。皆の動きをしっかり観察してるね」
バックステップ。
後退する濡れ羽を追うことはせず、ドロップはヒビキの右手首へ向けて手刀を見舞う。皮膚の上から骨を殴られ、電撃にもにた衝撃がヒビキの腕を振るわせた。
ヒビキは残った左手だけで刀を一閃。
ドロップの胸元から頬にかけてを刃が抉る。
飛び散った血がドロップの右顔面を紅に濡らす。思わず右目を閉じたことで、視界が半分に減った。構わず、前蹴りをヒビキの腹部へ叩き込む。
直後、ドロップの右腰に衝撃。
死角となった右側から敢行されたブライアンのタックルだ。
「ハッハー! あんたがブサイクじゃなくてで良かったぜ。どうせ相手をするなら美人の方が滾るからな!」
「ぬ? セクハラだぞそれは」
「そいつぁ悪いね。相手が老婆だろうがチンチクリンだろうが、美人だろうが醜女だろうが、仕事は仕事として熟す性質なんでな」
ドロップに煽りを入れつつ、ブライアンはドロップの右腕を掴む。肘の内側を指で挟みこむようにして握り込めば、感じる痛みもかなりのものとなるだろう。事実、一瞬ではあるがドロップは顔をしかめてみせた。
その隙にヒビキは素早く後方へ。
入れ替わるように前へ出たのは青い髪を風に靡かすイズマであった。
「その状態じゃ避けられないだろ? 一撃を叩き込んでやろう」
身に纏う闘気は漆黒。
獣の顎にも似たそれを纏うイズマが前へと駆けた。
渇いた地面を抉る魔力の奔流に、ドロップは狂暴な笑みを浮かべた。
「来い! そして、お前は邪魔だ!」
「うぉっ!?」
足掛けの要領でブライアンを地面に倒し、ドロップは腰を低く落とした。
両の腕を体の前面へと掲げ、襲い来る衝撃に備える。
「全力だ。満足してもらえると嬉しいけど」
腰の位置に構えた剣を、踏み込みと同時に繰り出した。
螺旋を描き、ドロップに迫る黒き顎。彼女はそれを、左右の腕で受け止める。
踏みしめた両脚が、足首まで地面に埋まった。
ミシ、と骨の軋む音。
筋繊維が裂け、ドロップの腕から血が零れる。
零れた血は、地面に吸い込まれて赤い染みを作った。
「ぬ、ぅ……」
黒き顎が掻き消えた後には、両の腕から血を流すドロップだけが残った。
けれど、彼女は立っている。
「次はこちらの番だ」
血に濡れた両腕を腰の位置で構え、ドロップは地面を踏み込んだ。
血の雫を撒きながら、ドロップはイズマとの距離を詰める。まずは一撃。左の腕で、剣を払い、イズマの目元を人殴り。
そのまま左手でイズマの後ろ首を掴み、頭部をその場に固定した。
「ぅ……やば」
「拳の乱打だ。ナックルパートとどこかの国ではそう呼ぶそうだぞ」
果たして。
それを“技”とそう呼称して良いものか。
顔面に目掛け、続けざまに拳を降らすその行動は武道というよりは喧嘩のそれだ。
音も無く。
濡れ羽は、ドロップの懐に潜り込む。
顔面を血塗れにしたイズマから手を放し、ドロップは咄嗟に防御の姿勢を取った。濡れ羽の纏う雰囲気から、尋常ではない不吉な何かを感じ取ったのだ。
「フーっ!!」
いかにも猫らしい気勢を発し、濡れ羽はドロップの腕へサマーソルトを叩き込む。瞬間、衝撃と共にドロップの腕に刻まれたのは髑髏の呪印。
それを成した濡れ羽にも、相応の反動が生じたらしく、彼女は額に脂汗を浮かべていた。
「なんと面妖な!」
愉快だ、などと笑いながらドロップは爪先蹴りを濡れ羽へ見舞う。蹴りに合わせ、跳躍した濡れ羽はドロップの脚を軽く蹴って、宙へと跳んだ。
「空中では回避も防御も叶うまい」
濡れ羽の落下に合わせ、ドロップは腰を低く沈めて拳を握りなおす。“猛毒”による体力の消耗は避けられないが、それと反比例するようにドロップの闘志は上昇していた。
「おい、余所見してんじゃねぇ」
濡れ羽を庇うように、ドロップの前にブライアンが立ちはだかる。
さらに、左右からはエーレンとイナリ。
「多勢だな」
なんて、いかにも楽し気に呟いてまずはブライアンの顎へ一撃。
さらに、至近距離へ迫るエーレンの手首を掴みドロップは体を地面へ沈めた。投げの要領で、エーレンの身体をイナリの方へと放ってみせる。
木剣を構えたイナリは急停止。
エーレンの身体を回避し、前へと出た瞬間、彼女は眼前に迫る拳を目にした。
「カンフーが見たいと言ったな」
踏み込みと同時に放たれる掌打が、イナリの胸部を打ち抜いた。内臓に響くような衝撃に、目を丸くするイナリは直後に吐血する。
「発勁……というそうだ」
「そう。感謝するわ。いい経験値を稼げそう」
次は回避するけれど。
そう言ってイナリは木剣を横一線に薙ぎ払う。
ドロップは跳躍することでイナリの斬撃を回避。
しかし、直後に顔を顰めた。
「鳴神抜刀流……太刀之事始」
空中では姿勢を変えることも難しいだろう。
地面に膝をついた姿勢で、エーレンが腰の位置に刀を構えるのが見えた。
エーレンの戦線復帰は、ドロップの予想より格段に早い。
ならば、回避に移るかとドロップは思案したが……。
「マギウス・シオン・ジャナフ──!」
身体中に魔力を滾らせたウィズィが背後へ迫っている。
回避行動は間に合わない。エーレンの斬撃を避けたとしても、ウィズィの攻撃は避けられない。
ほんの一瞬、ドロップが判断に迷ったその刹那。
「一閃!!」
エーレンの斬撃が、ドロップの腹部を斬り裂いた。
エーレンの顔面を踏みつけ、ドロップは背後へ身を投げた。
振り抜かれるウィズィのナイフが胸部を抉る。
身体を斬られながら、ドロップはウィズィへと肉薄。ナイフを握る手首を真下から叩き上げると、顎へ目掛けて頭突きを見舞う。
「っ……ぎ」
顎を打たれたウィズィが呻く。
ドロップは転がるようにウィズィから離れた。先ほどまでドロップのいた位置をイズマの細剣とイナリの木剣が通過する。
地面を転がるドロップが向かった先にはヒビキ。
2本の刀を左右の手で受け流し、ドロップはヒビキの背後へ回り込む。鍛えられたヒビキの腰に手を回し、ドロップはその巨躯を持ち上げてみせた。
追いすがる濡れ羽、エーレンに対してヒビキの身体を盾とする。2人が攻めあぐねた一瞬の隙を突き、ドロップはヒビキの巨体を抱えたまま跳んだ。
「う、ぉぉ!?」
バックドロップ。
否、それこそが彼女のフィニッシュ・ホールド“P・P・D・ドロップ”であった。
頭部から地面に激突し、ヒビキは白目を剥いて倒れた。
戦闘不能になった者を巻き込むことを良しとはしないのであろう。ドロップはヒビキの傍から離れていく。
それを追う百合子は笑っていた。
顔面には青あざ、鼻や唇からは血が零れている。
対するドロップの身体にも、無数の痣や裂傷が刻み込まれていた。
「そろそろ其方の流儀に合わせようか!」
「その意気や、良し!」
足を止め、踏み込んだのはほぼ同時。
互いに防御を考えない、殴打の応酬は十数秒にもおよび続いた。
●まだやるかい
ほんの一瞬、意識が飛んだ。
後方へ倒れ掛かる百合子はしかし【パンドラ】を消費、意識をつなぐ。
「ほう、まだやるのか?」
「無論。HP尽きたくらいでこんな楽しい事早々に終われるはずが無かろう!」
「はっ、よくぞ吠えた!」
第二ラウンドの開始といこう。
零したその一言を置き去りにして、ドロップは姿勢を低くし駆ける。左右に開いた両の腕で狙うのはドロップ必殺の大技、P・P・P・ドロップだ。
対する百合子もまた、楚々とした佇まいを崩さず、胸の前に手刀を構えた。その身に滾る闘志から、それが大技の予備動作であることが分かる。
百合子が技を決めるより、ドロップが行動を終える方が速いだろう。
それを見て取ったエーレンは、近くの仲間たちへ言葉を投げた。
「ドロップの意識をこちらに引き付ける必要があるな」
「……凄いパンダだ。危険人物だよな」
「にゃぁ……滅茶苦茶痛いんだよね、あの人の攻撃」
呆れたように鼻血を拭うイズマと、頬を撫でる濡れ羽がそれに同意した。
1対1の戦いを存分に楽しませたいという気持ちもあるが、元よりこれは多対個を前提とした喧嘩である。
事実、ブライアンとイナリは既に行動を開始していた。
ドロップの正面に回るブライアンは、彼女の突進に合わせカウンターパンチを叩き込んだ。頬を拳が撃ち抜いて、揺れたドロップの喉元へ向けイナリの木剣が振り下ろさせる。
「私を倒したいなら、大砲でも持ってくるんだな」
腹筋に力を入れ、強引に姿勢を戻すドロップ。
踏み込みと同時に、地面を伝う衝撃波がブライアンとイナリを弾く。イナリの手首を掴み、その体を振り回すドロップ。イナリを武器としてブライアンを殴打した。
「ちっ……なんつー膂力だよ」
悪態を吐き、ブライアンが地面に転がる。それを無視し、ドロップは百合子へと迫る。
追いすがるイズマ、濡れ羽、エーレンは間に合わない。
けれど、しかし……。
「こっちですよ、ドロップさん!」
そう叫んだのはウィズィだ。
彼女の声をドロップは無視できない。技が通用しなかったという【怒り】の感情がそうさせない。
そして、その一瞬の隙こそがウィズィの求めていたものだ。
「楽しかったぞ! 故にドロップ殿も満足されたならばうれしい!」
バチ、と。
放電のそれにも似た音が鳴り、百合子の手刀は振り下ろされた。
一閃。
音を置き去りにしたその手刀が、ドロップの眉間を打ち抜いた。
「美少女拳法と言ったか。ぜひ私も指導賜りたいものだ」
差し伸べられるウィズィの手を取り、ドロップは嗤う。
意識を失ったためか、既にその身はパンダのそれに戻っていた。
「えぇ、美少女流。その本質は、私の敬愛する百合子さんの、ひいては『美少女』の生き様や矜持を胸に秘め全力で戦う誓い……また闘りましょうね、ドロップさん」
救急箱を手に駆けてくるイナリを横目で見やり、ドロップは一つ頷いた。
ふわり、とウィズィの髪から香る潮の香りに、次は海へ行ってみるのも悪くはないと思うのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。
P・P・Dドロップとの戦いに勝利しました。
彼女は次の喧嘩相手を探して、どこかへ旅だって行きました。
ローレットには平和が戻りました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
P・P・D・ドロップを打ち負かす
■ターゲット
●P・P・D・ドロップ(獣種)×1
パンダ・パニッシュ・デス・ドロップ。
もちろん偽名。
一見すると2足歩行のパンダであるが、性別はどうやら女性のようだ。
自分より強い者を探してローレットを訪れた。
いつ、どこで、誰の挑戦でも受けると豪語している生粋のバトルマニアらしい。
体術を駆使し、素早く、力強い戦闘を熟す。
PPD・ナックルパート:物近単に中ダメージ、連、封印、弱点
的確に急所を打ち抜くパンチのラッシュ。
PPD・震脚:神中範に中ダメージ、呪縛、ブレイク、崩落
地面を震わす踏み込み。
PPD・ドロップ:物至単に特大ダメージ、必殺
相手の腰を両腕で抱え、後方へと反り投げる。
或いは、頭から地面に叩きつける大技。
●フィールド
P・P・D・ドロップは戦場を選ばない。
街中で仕掛けられれば、喜んでそれに応じるだろう。
草原や荒野へ呼び出されれば、嬉々としてそこへ向かうだろう。
幻想に領地を持つ者がいれば、自領のどこかへ呼び出しても構わない。
行った先に対戦相手が居なければ、きっと怒って暴れ出すので要注意だ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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