シナリオ詳細
支配者は鏡の上で踊る
オープニング
●パーティーの支配者
夜更けの時分、とある貴族の邸宅。その中庭には、不穏な空気が渦巻いていた。整然と並べられた燭台には火が灯され、ぼんやりと人影を映し出す。庭の中央にいる複数の男たちは、恭しく膝をついて頭を垂れていた。主人の号令を待つかのように――。
中庭を囲む回廊には、夜闇に溶け込むような黒衣ばかりを身につけた者たちが、観客として集っていた。
怪しげな集いの中でも、黒衣のドレスで着飾った主催者の若い女性は、誰よりも妖艶な美しさを放っていた。女性の手には、黒塗りの手鏡が握られていた。見る者の姿を映すためにあるはずの鏡面の部分には、複雑な魔法陣の文様が刻まれていた。
「さあ、お前たち。今宵も私を楽しませなさい」
そう言って鏡面の部分を掲げると、一様に虚ろな眼差しの男たちは、手にした剣を躊躇なく構えた。
●魔術師と手鏡
「私は、バルサと申します――」
自らを魔術師と称したバルサは、目元以外の部分の多くを布で覆い隠していた。魔女のように黒ずくめのバルサだったが、そのしゃがれた声や容姿からして、性別はどちらとも判別し難い。
依頼人としてローレットに訪れたバルサは、単刀直入にその目的を述べた。
「貴族の令嬢、エリーゼ・ネクトリアから、ある品物を奪って頂きたいのです」
バルサは静かな口調で、依頼の詳細を語る。品物というのは、バルサがエリーゼに貸したという手鏡のことだった。
「私は確かに貸すだけという約束をしたはずなのですが、エリーゼ様は『もらったものは返せない』の一点張りでして――」
バルサにとって、その手鏡は余程大事なものらしい。
「私はエリーゼ様のお役に立てればと思い、手鏡をお貸ししただけなのですが……エリーゼ様は鏡を悪用し、傍若無人な振る舞いをするようになったのです」
鏡を悪用したとはどういうことなのか――。バルサは鏡の詳細について更に語った。
「あの手鏡は、特殊な術式を施した呪具なのです。力を引き出せるかどうかは、扱う者の心根次第――ですが、エリーゼ様も己の欲望に飲まれ、道を踏み外してしまいました」
エリーゼは鏡の魔力によって、男性を意のままに支配することに傾倒するようになった――。エリーゼの見た目に惹かれ、近づきになろうとする男性は大勢いた。しかし、人を人とも思わない傲慢な性格のエリーゼから離れていく者も後を絶たなかった。
人の心を奪い支配する鏡を利用することで、エリーゼは男性たちの命を使い捨てるような遊びにのめり込んでいるという。
「ネクトリア邸では、夜な夜な悪趣味なパーティーが開かれるようになりました――」
『悪趣味なパーティー』とは――エリーゼが鏡の力で隷属させ、集めたお気に入りの下男たちに殺し合いをさせるというものだった。
ネクトリア邸――正確にはエリーゼのために建造された別邸で、姉妹の中でも特段に美しいエリーゼは、父親から溺愛されているという話だ。
「エリーゼ様と、その権力にあやかりたい取り巻きたちは、そろって刺激的なパーティーを楽しんでいるご様子です」
バルサの一言は、明らかに軽蔑の意を含んでいた。
「間もなく、4回目のパーティーが開催されようとしています。そのパーティーに潜入し、どうか手鏡を奪い取ってください」
パーティーに潜入する際には、バルサが根回ししておいたネクトリア邸の使用人が手引きしてくれるという。中庭までは、その使用人の案内で裏口から向かうことができる。
「鏡を取り戻していただけるなら、どのような手段を用いても構いません」
例えエリーゼを殺したとしても、バルサはそのことを一切咎めるつもりはないらしい。
エリーゼが素直に鏡を返すことは、まず有り得ない。イレギュラーズの目的を知れば、激しい抵抗を見せるだろう。その際には、中庭に集められた男たちを利用し、イレギュラーズを撃退するよう差し向けるだろう。また、エリーゼは掃除屋として『クレイ』という男を雇い入れている。そのことに関して、バルサは懸念を示した。
「皆様の腕ならば、問題はないかと存じますが……クレイという男は用心棒としての腕も立つようです。念のためご注意ください」
エリーゼと並べばまさに美女と野獣――いかにも裏社会に生きる者の風貌というのがクレイの特徴だった。
バルサの話を聞いたイレギュラーズの中には、鏡を壊す手段を考えるものもいただろう。その考えを察知したかのように、目を細めたバルサは言った。
「多少手荒な真似をしても、鏡はそう簡単には壊れませんよ」
バルサはその理由を確信を持って語る。
「恐らく、きっと……皆様に鏡を壊すことはできないでしょう」
更に理由を問い詰めたが、「理由は、鏡を取り戻したときにお話しましょう」と言い張るバルサは、イレギュラーズにヒントだけを与えた。
「あるものを捨てない限り、鏡を壊すことは不可能です。それはあのエリーゼ様も、誰もが持っているものです――」
- 支配者は鏡の上で踊る完了
- GM名夏雨
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年06月14日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
イレギュラーズの8人は手はず通り、使用人の案内でエリーゼ専用の別邸に潜入を果たした。
ひっそりと夜闇に紛れ、会場である中庭に身を潜める者もいれば、パーティーの参加者として堂々とエリーゼに接触する者もいた。
使用人が招き入れたらしい『何でも屋』ハビーブ・アッスルターン(p3p009802)の姿を目にしたエリーゼは言った。
「ちょっと、誰なの? こんな男、招待した覚えはないわよ」
エリーゼがハビーブのことを見咎めて声を荒げると、警護を務めているクレイが即座にエリーゼの下までやって来た。
顔に傷を刻むほどの修羅場をくぐり抜けてきたであろう筋骨隆々のクレイは、誰よりも威圧感を放っていた。エリーゼやクレイの様子にも動じることなく、ハビーブはラサの商人としての素性を名乗り、パーティーへの飛び入りを願い出た。
「お近付きの印に、その美しい指先に口付けをさせては下さいませんかな?」
エリーゼはどこかハビーブの言葉を上の空で聞いており、その視線の先には『座右の銘は下克上』袋小路・窮鼠(p3p009397)の姿があった。
エリーゼは窮鼠のことを指して言った。
「彼とはどういう関係? お前の従者なの?」
そう尋ねられたハビーブは窮鼠と目配せし合い、エリーゼに調子を合わせることにした。
従者であることを肯定したハビーブに対し、エリーゼは含み笑いを隠すように、黒塗りの手鏡を口元の前にかざした。
どこか窮鼠に熱い視線を送るエリーゼは機嫌を良くしたようで、ハビーブらの参加を快く受け入れた。エリーゼの方針に従いつつも、クレイはハビーブらに対して疑念を抱いている節があった。
中庭の暗がりの中、『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)は、参加者に紛れて目立たないように行動していた。そんなウィルドの鋭敏な聴覚は、声をひそめるクレイとエリーゼの会話を耳にした。
「お嬢、あれを追い返さないのか?」
そうエリーゼに尋ねるクレイは、ハビーブを睨むような視線を送っていた。ハビーブを不審がるクレイだったが、エリーゼには別の考えがあった。
「商人ならいろいろコネがありそうだし、利用できそうだわ。参加させる見返りとして、協力してもらおうじゃない」
妖しく微笑むエリーゼは「新しいおもちゃを補充してもらうのにね」と意味深に言い添えた。
――おやおや、我が国の貴族の腐敗ぶりは有名ですが、ここまで悪趣味とは。
聞いていた通りのエリーゼの冷血さを垣間見たウィルドは、心中でつぶやいた。その間にも、ウィルドは窮鼠と会話するハビーブの声を聞き取る。
「気に入られたようだな、色男」
「わしもあと40は若ければ……」とつぶやくハビーブには、エリーゼのような美女と近付きになりたいという本心もあった。
窮鼠はどこかうんざりした表情で、「そんなことより……」と話題を変える。
「やっぱり、あのクレイって男が邪魔だな。鏡を奪うためには、なんとかしねぇと」
『汚い魔法少女』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)は、何食わぬ顔で参加者になりすまし、中庭の様子を見て回る。到底成人には見えない見た目のメリーには、自然と他の参加者の視線が集まる。更にメリーの同伴者ではないかと決めつけられたハビーブは、知らず知らずの内に白い目で見られていた。そのことをメリーは特に気にすることもなく、離れた場所からエリーゼの持つ手鏡をじっと見つめる。
――あの鏡、欲しい! 壊れたことにして、わたしのものにできないかしら?
エリーゼと負けず劣らずの性分のメリーは、ひそかに鏡を欲していた。
静かに機会を待つ『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)も、似たようなことを考えていた。
――あの鏡、もっと有効活用できれば……でも、鏡返すか壊さなきゃなんだよなァ。ああ勿体ねェ!
回廊の柱の影に隠れるようにして気配を殺す『影』バルガル・ミフィスト(p3p007978)は、静かにパーティーの成り行きを見守っていた。やがて整然と列を成した男たちが中庭へ入って来る。己の意思を失い、虚ろな眼差しばかりが並ぶ顔触れがそろい、中庭の中央に体を向けたエリーゼは幕開けを告げようとした。しかし――。
「ずいぶんと趣味が悪い催し物で御座いますのね?」
男たちのそばに堂々と進み出た『心傷悲劇の人形師』マリア=ノワール(p3p009516)は、エリーゼの言葉を遮った。
「――かような術具(おもちゃ)に頼らねば人を動かせないとは、まさに三流のやることで御座いますのね」
マリアの一言に対し、エリーゼは露骨に表情を歪めて言った。
「誰よ? この不気味な女を連れて来たのは――」
エリーゼがマリアに注意を向けている隙に、窮鼠はエリーゼから手鏡を奪おうと接近した。しかし、クレイは目敏く窮鼠の動きに気づき、エリーゼを強引に遠ざける。
「何の真似だ?!」
クレイが声を荒げた瞬間、ウィルドはその目の前に飛び出し、クレイの抑えに回る。ウィルドがクレイとかち合うのを確認したハビーブは、エリーゼを守る振りをして中庭の隅へと誘導した。
エリーゼはマリアたちを指して、「こいつらを追い出して!」と鏡の力で操っている男たちに向けて命令を出す。男たちはそれぞれ剣を構え、マリアの方へ進み出る。
「みなさぁん――」
しかし、そこへ場違いな言動で間に入る鏡(p3p008705)が姿を現し、男たちの注意を一挙に集める。
「コレ、そこで頂いたんですけどぉ、よかったらお飲みになりますかぁ?」
飲み物が入ったグラスを掲げる鏡の意図を、誰も読むことはできなかった。鏡自身も相手の反応を気にすることはなく、一方的に話し続ける。
「じゃあ、受け取ってくださいねぇ、それぇ」
男たちの視線は足元に放り投げられたグラスに吸い寄せられる。
片手に持った刀をその背に隠すようにしていた鏡だったが、刀の柄に利き手を添えた瞬間、鏡が得意とする抜刀術――神速の一太刀が目の前の男を捉えた。上半身に深々と刻まれた裂傷によって、中庭には鮮血が飛び散る。
悲鳴と共にパーティーの参加者の間でパニックは拡散し、我先に中庭から逃げ出していく。
ロウソクの灯火に照らされた血しぶきに息を飲むエリーゼは、鏡と視線を交える。
「改めてこんばんはぁ、エリーゼちゃん」
しゃべり続ける鏡との間に立つハビーブは、エリーゼをかばう振りをして機会を窺う。
「私は……あー、親しみを込めて『かがみん』て呼んでください」
鏡がエリーゼに向かって話す間にも、男たちはじりじりと歩み寄り、鏡を取り囲もうとする。
「その手鏡、持ち主がもう待てないんですって。大人しく返却してくれれば、問題ないらしいんですけどぉ――」
エリーゼのそばについていたハビーブは、エリーゼの注意が逸れている隙に、瞬時に手鏡を奪い取る。その直後にエリーゼが悲鳴をあげたことで、クレイの視線はハビーブへと向けられた。しかし、ウィルドはクレイの動きを妨げる。
「おっと、貴方の相手は私ですよ」
ウィルドは怪しげな微笑を浮かべながら、クレイを挑発する。
「どけ!」と鋭い声を発し、クレイは力任せにウィルドを突き飛ばそうとした。クレイとさほど体格差のないウィルドは、相手に怯むことなくその拳を向ける。体術を駆使するウィルドがクレイを翻弄する間にも、戦況は目まぐるしく変わっていく。
「はやく鏡を取り返して!!」
エリーゼは金切り声をあげて男たちに命令する。
エリーゼから手鏡を奪ったものの、男たちが鏡の影響下から解かれることはなかった。
ハビーブへと襲いかかろうとする男たちだったが、響き渡る歌声に動きを止める。どこか物悲しい澄んだ歌声――ことほぎの歌声は、空気を凍てつかせるほどの呪力を帯び、同時に男たちを惹きつける。
男たちの動きが鈍くなっている隙に、メリーと窮鼠も攻めかかる。その手から激しく瞬く閃光を放ち、メリーは更に男たちの動きを阻害する。
窮鼠はかざした左手から禍々しい波動を放ち、相手が至近距離に迫る前に容赦なく打ち倒していく。
メリーや窮鼠が男たちの相手をしている内に、ハビーブは使用人に預けていた大弓を構えた。ハビーブは集中して狙いを定め、確実に対象を射抜く。ハビーブの放つ矢は、窮鼠らに群がろうとする男たちをけん制していく。
メリーは男たちに対処しつつも、ちらちらと落ち着きなくハビーブに視線を向け、頻りに手鏡のことに考えを巡らせていた。
槍を手にしたバルガルは暗がりから飛び出し、その一突きで男1人の体を貫いた。
エリーゼを狙うバルガルだったが、男たちはなおもエリーゼを守ろうと、バルガルの進路に立ち塞がる。バルガルは躊躇ない槍さばきで男らを圧倒すると同時に、エリーゼを震え上がらせた。マリアはそんなエリーゼの背後に回り込むと、
「フフ……脆弱、無様、滑稽ですのね?」
エリーゼの耳元で妖しくささやいた。マリアはエリーゼにつきまとい、その精神を揺さぶることに傾注する。
「ほらほら、集中しておりませんと死んでしまいますよ?」
マリアから距離を置こうと逃げ惑うエリーゼは、惨状と化した中庭の様子に目を奪われる。腰を抜かしそうになりながらも、エリーゼはクレイに向かって怒鳴った。
「ク、クレイ! さっさと片付けなさいよ!!」
クレイとウィルドは互いに相手を押し退けようと、つかみ合いを続けていた。
「いやはや、あのお嬢さん、中々いい趣味をしていますが、若干私の好みとは外れるんですよねえ――」
全力でクレイを抑えつけながらも、ウィルドは余裕を感じさせる態度でクレイに問いかけた。
「ところで貴方、こういう乱痴気騒ぎがお好きなんですか?」
クレイはウィルドを睨みつけながら、冷淡に吐き捨てる。
「金払いがいいから付き合ってやってるだけだ」
その瞬間、抵抗を続けていたクレイは立ち塞がっていたウィルドを抜き去る。エリーゼに接近しようとするバルガルを止めようと、クレイは瞬時に行動に出た。
不意にクレイの進路に進み出た鏡は、納刀した状態から居合のような構えを見せ、
「操られてるわけでもないのに、仕事熱心ですねぇ」
静かに迫った鏡の殺意を感じ取ったのか、クレイは鏡との距離をそれ以上縮めずに踏み止まる。しかし、鏡の刃はわずかな差でクレイの上半身をなぞった。
裂傷を刻まれてもなお、クレイは機敏な動きで鏡の間合いから飛び退く。
「くふふ、役割をちゃんと果たす人は好きですよ」
納刀する際の鍔鳴りの音を響かせながら、鏡は言った。鏡のその速さは、刀身を決して相手に認識させることはなかった。
バルガルは剣を手にしていた男らの異変に気づく。手鏡の効力が切れたのか、目の前の男2人は我に帰ったように剣を取り落とし、槍を向けていたバルガルに対し両手を掲げる。
戦意を失った2人の間を悠々と進むバルガルは、中庭の隅で縮こまるエリーゼへと迫る。
「もう充分楽しんだでしょう? 私たちは手鏡を回収したいだけです」
バルガルの口調は穏やかに聞こえるが、その眼光はそこはかとなく威圧感を放っていた。
「おとなしくしていてくれるなら、これ以上手出しはしませんよ」
バルガルの言葉に対し、エリーゼは涙目で頷いた。
バルガルはエリーゼに背を向けて中庭を横切ろうとする。一度はしおらしい態度を見せたエリーゼだったが、手鏡への執着心が消えることはなかった。
エリーゼは地面に落とされたままの剣を手にし、背を向けたバルガルに向かっていく。バルガルは油断なくエリーゼの気配を察知し、振り向き様に自らの槍でエリーゼの剣を弾き飛ばした。その直後、目を見張るエリーゼに向かって飛び出す影があった。
エリーゼの前へ飛び出した窮鼠は、クレイが止める間もなくエリーゼの利き腕を突き砕いた。
激痛に髪を振り乱すエリーゼは、耳障りな絶叫を響かせる。殺意を向けてきたエリーゼに対し、バルガルはその心臓目掛けて躊躇なく槍を振りかぶった。
「なんでって顔してるなぁ。 世の中因果応報なんだぜお嬢様?」
窮鼠がその一言を言い終えた時には、すでにエリーゼは事切れていた。
ウィルドや鏡と睨み合いを続けていたクレイだったが、
「雇い主が亡くなったようですけど、この辺りでお開きにしません?」
ウィルドから停戦を促されたクレイは、舌打ちを響かせて後ずさり、中庭から逃げ去った。
「あー壊れた! 壊れちゃったわー!」
手鏡を奪ったハビーブの手から、他の者も次々と手鏡を手にし、手鏡を壊す方法を試しにかかる。
メリーは手鏡が壊れたと言い張り騒ぐものの、手鏡を隠すようにして言った。
「壊れたものはもう必要ないわね。これは、私がもらっても――」
そこまで言いかけたメリーを無視して、ことほぎは手鏡を取り上げた。
ひとつのヒビもない鏡面を見たことほぎは、自らの予想を試そうとする。
バルガルは皆が手鏡の破壊方法を探っている間に、脅迫のネタになりそうな情報を仕入れようと、邸宅の中の物色を開始した。
「んー、心を操るんだっけ?」
一方で、ことほぎは自らの感情を封じた自身の姿を鏡に映すと、それを勢いよく回廊の柱に打ち付けた。弾かれた手鏡は鏡面を見せて地面の上に落ちたが、どこにも傷はついていなかった。
予想が外れたことほぎはぼやく。
「くっそ、どーやったら壊れんだよコレ!」
鏡はその間にも、ある目的のために死体が転がる中庭を歩き回っていた。
「あ、まだ息がありますねぇよかったです」
鏡は柱に寄りかかる虫の息の青年を見つけ、何事かを耳元でささやいた。
「――鏡ってのは映すのが仕事じゃないですか。だから、映すのを見る誰かが居なくなったとしたらどうかな、なんてぇ」
青年に手鏡を持たせると、鏡は相手の目を――。
「皆様、ご苦労様です」
バルサは音もなく中庭に現れた。
青年の死体とその前に転がる手鏡を見つけたバルサは、手鏡を拾い上げる。
「こんばんは、バルサさん」
丁度その場に戻ってきたバルガルは、バルサに真っ先に尋ねた。
「バルサさん、結局鏡を破壊する条件とやらは何だったのでしょうかね」
目を切られてショック死した状態の青年を見つめ、バルサは何か思案するようにつぶやいた。
「なかなか悪くはないですね。目を潰し、耳を削ぎ、舌を抜き、歯をすべて折り、四肢を切断した状態にすればあるいは――とはいえ、死にたいという欲求も捨て切れないでしょうねぇ」
「条件とは、つまり……」とウィルドは鏡を壊す条件について言及する。
「欲望ですね」
「『欲望』を捨てること」
マリアはウィルドとほぼ同時に答えを示した。その答えに対し、バルサは「その通りです」と深く頷いた。
「悟りを開いた聖人でもない限り、この鏡を破壊することは不可能でしょうね」
手鏡を見つめるバルガルは言った。
「その鏡があれば、商売も何もかも楽に事が進みそうですが……そう上手くはいかないのでしょうねぇ
バルサは鏡について補足する。
「際限なく欲望を刺激し、持ち主に破滅をもたらす呪具ですから」
バルサはしわがれた声で不気味に笑うと、どこか含みのある言い方をした。
「鏡をうまく扱うことができると、エリーゼ嬢ご自身は確信されていたようですが……彼女もうまくはいきませんでしたね」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
悪依頼では、ダーティーな感じのPCさんたちに会えるのを毎回楽しみにしています。
GMコメント
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●成功条件
深夜のネクトリア邸に潜入し、エリーゼから鏡を奪うこと。あるいは、鏡の破壊。
●ネクトリア邸について
邸宅の裏口から、使用人の案内で中庭に向かうことができます。
本宅ではなく、エリーゼ専用の別邸なので、警備はそれほど厳重ではないです。
エリーゼの取り巻きも複数人いるようですが、放っておけば逃げ出します。
●敵について
敵の数は計10体です。
エリーゼは鏡の力を利用して攻撃しますが、豆腐並みの装甲です(弱い)。
クレイや操られている男たちは、エリーゼをかばう行動を取ります。(殺したとしても、依頼の正否には影響しません)
魔法陣を照射する鏡の魔力(神遠単【魅了】【恍惚】)によって、エリーゼはイレギュラーズを攻撃します。
クレイや男たちは、物至単の攻撃のみです。
●鏡を破壊できる条件について
最後にバルサがヒントを残しているように、ただ攻撃するだけでは手鏡は壊せません。誰もが持っていて、それがある限り鏡は壊せない――それが何なのか、鏡を奪い返せたら教えてもらえるかもしれません。
個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。
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