PandoraPartyProject

シナリオ詳細

バーチャルなパーティを始めましょう

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●盛大なパーティ……?
「ふんふん。ここは電子空間……つまり何でもできる、と」
 ぽつりと呟きながら、ウサギ耳のついた白いフードパーカーを来た青年は呟いた。
 ラピッド・オリジン・オンライン――通称R.O.Oはバーチャルシステムを用いたゲームだ。今このゲーム内でも危機が迫っていると聞き、イレギュラーズ達もまた、解決するためにこのゲームをプレイしている者も多い。
 そのせいか、おかしな行動をするNPCも現れている。
「盛大なパーティを開いて、楽しむのもいいんじゃないか! だってほら、何でもできるのなら何でもアリだろう?」
 はっはっは、とひとり高らかに笑いながら青年はフードを被る。
 にまにまと笑いながら、何でもアリのはちゃめちゃパーティ開催だー! と、叫んでいた。


「やぁ。良く集まってくれたね」
 R.O.Oでも変わらぬギルド、ローレットに努める情報屋、『黒猫の』ショウ(p3n000005)がイレギュラーズたちに今回の依頼を説明する。
「今回のクエストは、分類するなら日常……といったところかな」
 ゆらりと尻尾を揺らし、ショウは小首を傾げながらそう言った。
 日常。ということは、戦闘や採取もないのだろうか? と思ったが、そうではないらしい。
「どうやら依頼人は何でもアリのパーティを開催したいと、言っているんだ。依頼人の名前はヴァン・デ・ルーダ。何の変哲もない、NPC……だと思うんだけど」
 少し言葉を濁すショウに、イレギュラーズたちは首を傾げる。
 ヴァンが希望するのは何でもアリのパーティを開催するという、一見すると平和そうな依頼。
 しかし――
「何でもアリ。という事は、戦闘になってもおかしくないし、武器や防具の類は忘れずにね」
 詳細は語られていないが、ヴァンの手には武器が握られていたそうだ。
 初心者らしい、戦士のジョブで。
 万が一、何でもアリというのが戦闘も交えたような奇想天外なものだったとしたら――きゅっ、と唇を結んだ後、ショウは気楽に気楽に、とイレギュラーズたちを励ます。
「ああそうだ。パーティに必要なものがあれば、このお小遣いを使って買ってもっていってもいいよ。防御技術が上がりそうな装飾品を買うでもいいし、パーティで食べるものを買ったりもいいかもね」
 そう言ってショウは結構な金額のゲーム内通貨を渡してきた。
 これなら全員あってもかなりの量の道具や食料を揃えられるだろう。
「正直、情報を正確に伝えられているか? と聞かれると情報屋としては耳が痛いんだけど……完全には伝えられていないから、油断しないようにね。それじゃ、無事を祈っているよ」
 ショウはイレギュラーズ――プレイヤーたちを送り出した。

●パーティが始まるまで
 ヴァンはパーティの招待状――と言う名の依頼状を出して、パーティ会場の準備をしていた。
 何でもアリ。そう、何でもアリだ。
 普通にパーティを楽しんでも良し。大乱闘を交えたおかしなパーティになっても良し。
「楽しみだ。どんなヤツがくるかな~。変なやつ? それとも、普通にパーティ楽しむやつ? あぁ、待ちきれねぇ~!」
 ――彼は、まだ気づいていない。
 自分が、NPCとしてはあまりに異質な存在であることを。

GMコメント

まずはオープニングを見ていただきありがとうございます。
きみどりあんずと申します。
今回はR.O.O世界のご案内になります。こちらは心情メイン、プレイングによって戦闘もあり得るシナリオとなっております。
R.O.Oシナリオ作成は初なので、精一杯皆様を素敵に描ければと思います。

●成功条件
 『何でもアリ』のパーティをして、依頼人であるヴァン・デ・ルーダを満足させる。

●場所
 伝承の辺境。モンスターも出ない原っぱに、依頼人が用意したパーティセットがあるパーティ会場です。

●敵対者になりえる者 【ヴァン・デ・ルーダ】
 R.O.O世界の冒険補助のNPC。……の、筈ですが何処かにバグが発生しているのかもしれません。
 イレギュラーズ達の行動によっては戦闘になることも考えられます。

●スタート地点
 パーティ会場に向かう前に、伝承の町で買い物をしてから向かっても構いません。
 買い物用のお小遣いは情報屋から渡されています。

●ヴァン・デ・ルーダ
 種族不明のウサギ耳のついたフードパーカーを来た青年です。
 とにかく楽しいことをしたいと、一緒に何かをする人を探していたようです。
 ただ、何やら空回りしやすい性格のようで……?

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • バーチャルなパーティを始めましょうLv:1以上完了
  • GM名きみどりあんず
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

史之(p3x002233)
エスタシオン
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
花楓院萌火(p3x006098)
アルコ空団“風纏いの踊り子”
コル(p3x007025)
双ツ星
ヤーヤー(p3x007913)
そらとぶ烏
三月うさぎてゃん(p3x008551)
友に捧げた護曲
ウーティス(p3x009093)
無名騎士
ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録

リプレイ

●パーティ会場にて
「さぁって、どんなヤツが来るかなぁ~!」
 依頼人のヴァン・デ・ルーダは、今か今かとイレギュラーズ達の到着を待っていた。
 しっかり会場設営も終えて、上機嫌な彼の耳に、ひとりの少女の声が届く。
「あっ、いたな、あんたがヴァンにーちゃんだろ?」
 それは『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)の声。驚いた様子のヴァンに、ルージュは愛らしい笑みでヴァンの手を引っ張ってどこかへ連れて行こうとする。慌てるヴァンにルージュは言う。
「んじゃ、行こうぜ!!」
「行こうって、どこにだよ!?」
「もちろん、パーティの買い出しからだぜ!!」
 にっこりと笑って、ふたりは他のイレギュラーズ達が待つ伝承の町へ向かった。


「疑似世界で楽しくパーティ……って何だか不思議な話だね」
『そらとぶ烏』ヤーヤー(p3x007913)が集まったメンバーの顔を見渡しながら話しかける。黒い体毛に同じ黒い嘴。どうみてもカラスの姿だが、ここはバーチャルリアリティーの世界。どんな格好であろうとも構わないのだ。
「パーティーは好きよー!」
 コル(p3x007025)がにっこりと笑いながら答える。人狼特有の耳をぴくぴくと動かしながら楽しみだわ、とこの後のパーティに思いをはせていた。
「何でもありのパーティーね、現実でだったらお菓子作って持ち込むとこだけど、今のボクはダンサーだから、歌や踊りで盛り上げてみようかな」
 『ダンサー』花楓院萌火(p3x006098)も、自分の出し物について口にすると、各々そういえば何をしようか事前に相談していた内容をまとめてみようと語り始める。
「うーん、うさてゃんは戦いたくないしー……お茶会は平和に終わってほしいから、お料理とかしようかな?」
 初めに口を開いたのは『ネクストアイドル』三月うさぎてゃん(p3x008551)だった。
 それにいいね、と声を出し賛同するヤーヤーに『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)も頷く。
「せっかく何でもアリなんだ。狩りとかの余興があってもいいんじゃあないかと思って、俺様は狩猟用の鹿を買おうと思ってるぜ」
 Tethは豪快に笑いながらあれとかどうだ? なんて、市場で元気よく走り回る鹿を指しながら提案する。
「そうだねー。せっかくのパーティーなんだし今日は一日ヴァン氏に楽しんでもらおうじゃないか」
「宴とあらば全力をあげて盛り上げねばならん。そして宴とあれば必要なのは程よい運試しと力試し。狩りならば丁度良いだろう」
 『エスタシオン』史之(p3x002233)と『名もなき騎士』ウーティス(p3x009093)もうんうんと頷きながら同意する。
 他にも余興が必要ではないかと『ダンサー』花楓院萌火(p3x006098)が手を上げて提案する。
「今のボクはダンサーだからね、歌や踊りで盛り上げてみようかなと思うんだけど、どうかな?」
 その提案に、皆頷く。
「それならまずは私が前に出て、アイドルライブをしましょう?」
 うさぎてゃんが、アイドルらしい輝かしいスマイルを見せると、ほうと皆溜息を吐いてうんうんと頷く。
「それなら会場が温まったところでみんなでダンスをするのはどう? ご飯を作る人はその間に作っててもらって……」
「なら狩りは疲れすぎない程度に依頼人を盛り立てて切り上げるとするか。そういう事なら俺様に任せな!」
 考えがまとまったところで、遠くからぱたぱたと駆けてくる足音が耳のいいコルに届いた。
「おーい! 待たせたな!」
 元気よく手を振りながらヴァンを連れてきたルージュに、他の面々もそちらを向く。
「あ、やっときた……って、あれ? もしかして、彼は……」
「はぁ……はぁ……な、何なんだ一体……って、人がいっぱいだ!」
 ルージュに連れられてやってきた依頼人、ヴァン・デ・ルーダが息を切らしながら顔を上げると、白いウサギフードの隙間から見える赤い瞳がパッと見開かれ、嬉しそうに閉じられた。
「おぉお! もしかして、パーティに参加してくれる人たちか!? ありがとな! オレはヴァン・デ・ルーダ。ヴァンでいいぜ、よろしくな!」
 フードを被って見えづらいが、嬉しそうな声音にイレギュラーズ達も嬉しくなる。
 一度、先程話し合ったことをヴァンとルージュにも伝え、なるほどなるほどと頷く。ヴァンは最初に狩りをして、ダンスパーティ、その後に豪華な食事でパーティを締めくくる段取りでいいと快く頷いてくれた。
「おれは憧れの牛の丸焼きが食べたい! 鹿肉に牛の丸焼きを追加してもいいか!?」
 キラキラとした瞳で語るルージュに、ヤーヤーや、史之は材料などを見合わせて問題ないことを確認し、各々買い物に出かける。
 パーティグッズや、移動用の馬車。狩猟やパーティ料理用の調理器具や食料品。せっかくだからと簡単な組み立て式のステージなども買い、準備はばっちりというところで、皆馬車に乗り込みパーティ会場へ向かう。
「ああ、ありがとうなみんな! ええっと、そうだ。みんなの名前を聞いていなかったな!」
 ヴァンがひとりひとりの顔を見て、名前を問う。
「俺は史之。よろしくねー」
「俺様はTethだ。好きに呼んでくれ」
「ボクは花楓院萌火。よろしく!」
「私はコルです。よろしくお願いしますね」
「俺はヤーヤー、カラスの料理人なんだ。今日はよろしくね」
「はいはーい、みんなの三月うさぎてゃんですよぉ! 今日は楽しもうねぇ!」
「私はウーティス。よろしく頼む」
「おれはルージュ! ヴァンにーちゃんの妹だぜ!」
 ヴァンはじっと皆の顔を見ながら名前と顔を照らし合わせて、うん。と頷いて全員覚えた。と、明るい声音とは裏腹に、フードを深めに被って顔を隠した。
 その姿はどこか、寂し気で。
 訪れた少しの沈黙を自ら破るようにヴァンはぱっと顔を上げて、もうそろそろつくぜ! と誤魔化すように笑った。


 パーティ会場に着くと、そこには一人で用意したとは思えない程、立派な会場が出来ていた。
 平和な草原に大きなテーブルセット。少し離れたところに簡易キッチンもあり、持ってきた食材もここで作れそうだ。
 ダンスパーティ用の簡易ステージだけ、皆で組み立てさぁ、最初の余興を始めよう――と、Tethとウーティスがヴァンと共に放った鹿を捕らえに駆け出す。
「いくぜ、ヴァン!」
「お、おうっ!」
 返事は威勢がいいのだが、剣を構えるその姿は頼りない。さり気なくヴァンを活躍させたいと思っているTethは、上手く鹿を誘導しながらヴァンが仕留められるように補佐していた。
 他の面々もそうだ。あくまでパーティの主役はヴァン。彼を楽しませることが、今回の依頼の目的なのだから。
 しかし、戦い慣れているであろうイレギュラーズ達とは違い、ヴァンの動きはおぼつかない。剣を持って鹿を追いかけてはいるが、なかなか狙った位置に鹿が来ないことに焦っているのか、明後日の方向に剣を振っている様子を見て、Tethは落ち着かせるように声を掛ける。
「あんまり空ぶっても仕留められねぇぞ! だが、勢いがあるってのはイイ事だ」
 Tethは鹿を追い詰めるようにプラズマを含んだ金属杭を鹿の足を狙って打ち出す。拘束されるように足に絡みついたプラズマは、鹿の動きを鈍らせることに成功したが、あと一歩足りない。
「なるほど。ならば、私もそうするとしよう!」
 そこを、ウーティスが追い打ちをかけるように低い姿勢で拘束されていない方の足を切りつける。
「ヴァン、トドメ刺しちまえ!」
 動きの鈍ってきた鹿に止めを刺すよう、Tethがヴァンに合図し――
「うぉあああぁああッ!!」
 ――見事。ヴァンが鹿を華麗に仕留め、狩猟は上手くいった。
「やったな! 勝利のご褒美にほっぺにキスでもしてやろうか?」
「な――ばっ、馬鹿言うなよ! でも、ありがとうな。あんたたちのお陰で上手く狩りが出来たよ」
 少し照れ臭そうにフードで顔を隠して笑うヴァン。
 鹿は血抜きをして、しっかりと下処理をしてから調理しているヤーヤーと史之、そして牛の丸焼きを作っているルージュの元へ届ける。
「さて、お次はダンスタイムだね!」
 狩猟の後、少しの休憩を挟み、今度は萌火が簡易的に作ったダンスステージへヴァンを連れていく。
 ステージに立つのはうさぎてゃん。
 ウォーカーである彼女は、元の世界でアイドルとして活動をしており、このR.O.O世界でもアイドルをやっているというだけあって、圧倒的なダンスと歌のパフォーマンスで、ヴァンや他の皆さえ魅了していく。
 うさぎのように軽やかなステップ。伸びやかな歌声。
 ほう、と呆けている暇はないと、うさぎてゃんはさぁみんなも! と掛け声をかける。
「ではではー、お手を拝借して……さあ、踊りましょう?」
 その言葉に答えるように、ヴァンと似たようなフードを被ったコルが、ヴァンの手を取り踊り出す。
「お、おお!? 踊れて……るのか? すっげえ、オレ……踊りなんてやったことないのに」
「あははっ! いいね、いいね! ボクも踊っちゃおう!」
「みなさーん! ノッてますかー!? いーっぱい踊って歌っちゃおう!」
 楽しそうだ、と牛の丸焼きがほぼ出来上がったルージュも混ざり、狩りを終えたふたりも合いの手を入れながら眺めたりと、あっという間に時間は過ぎてゆき――ヤーヤーと史之が料理が出来上がったと知らせに来たところで、ダンスパーティは閉幕と相成った。
 皆がテーブルへ向かうと、フランスパンにたらこのペーストを乗せた前菜や、ジビエを使ったサンドイッチ、野菜とチーズのピンチョス。
 ヤーヤーがデザートもあるよと、カップケーキを見せ皆思い思いに席に着く。
 アルコールが飲めない者はぶどうジュース、飲める者は赤ワインを片手に持ちヴァンが乾杯の音頭を取る。
「みんな、改めてパーティに参加してくれてありがとう! たくさん食べて、たくさん飲もうぜ!」
 ちぃんとグラスのなる音が草原に響き渡る。
 新鮮なジビエで作った鹿肉は柔らかく、臭みもないので食べやすくなっている。シャキシャキとしたレタスとの相性も抜群で、狩りやダンスですっかり空かせた腹には嬉しい一品だ。
 もちろん、前菜のフランスパンのたらこペースト乗せも、ピンチョスも、ジュースやワインに合うぴったりの一品で、酒飲みはくぅ、と声を漏らしながらワインのお代わりを頼む。
「すごいな……料理が出来るカラス……の、アバターだったな、ヤーヤーは」
「うん。美味しく食べてもらえて、俺も嬉しい」
「なんだか俺も腹が減ってきたな」
 作った側のふたりも席に着き、思い思いに食べ始める。バーチャル世界とはいえ、食事も楽しめるこの世界は、現実とはまた違った楽しさがある。
 ルージュが作った牛の丸焼きもさらに乗せられ、一人、10kgくらいは食べないと無くならないから頑張ろうぜ!! というルージュに少しぎょっとしながらも、皆で食事を楽しんだ。
 とても、とても楽しい時間。ヴァンにとっても、終わってほしくない時間だっただろう。
 しかし――
「ふぅ……あんなにいっぱいあったのに、あっという間になくなったな」
 食事も終わり、食後のデザートのカップケーキを食べながら、パーティの終わりが近づいていることを思わせるような発言を、ヴァンはぽつりとつぶやいた。
「うんうん。料理、すごく美味しかったですよぉ! うさてゃんびっくり! カップケーキも美味しいし、大満足!」
「そうだな。なかなか獣肉などは現実では食べられないだろう。いい経験になった」
 緩やかにデザートに舌鼓を打ちながら、穏やかな時間を過ごす。バーチャル世界とはいえ、傾いてきた陽に、ヴァンは顔を伏せて寂しそうに呟いた。
「終わってほしくないな……」
 悲しそうなその声。うさぎてゃんは慰めるようにそっと、語り掛けた。
「終わらないお茶会もあるけれど、これは終わるお茶会。でも、また開けるお茶会でもありますよ」
 終わっても、また開けばいいというその言葉に、ヴァンは首を振る。
「できないんだ、もう……だって、オレはNPCだから……」
 その言葉に、皆がきょとんとする。
 事前に彼がNPCであることは伝えられていた。一体どういうことなのか。
「なぁ、ヴァン。少し思うところがあってな……お前ってどこ出身よ?」
 Tethの言葉に、ヴァンはふるふると首を振る。
「わからないんだ。覚えているのは、ヴァン・デ・ルーダと自分でつけた名前だけ……だった」
「わからない? そりゃあないだろう」
「本当なんだ。ついさっきまでは、だけど……」
 ヴァンの言葉に、また疑問が浮き上がる。ついさっきまでは、覚えていることは自分でつけた名前のみ。しかし、今は違うのだと。
「あの、嫌でなければ俺たちに話してみて? 何か解決できるかもしれない」
 ヤーヤーが黒い翼をはためかせて、ヴァンの側へ寄る。
 もしかすると、事前の情報にあったヴァンの『バグ』のことについてわかるかもしれない。
「オレ……最初はみんなみたいにプレイヤーだと思ってたんだ。だからギルドでジョブをもらったり、冒険したりしてみたけど、一向にレベルは上がらないし、報酬ももらえない。何かおかしいなと思って、あんたたちみたいな冒険者と一緒に戦ったり、何かすればわかるかなって」
 訥々と語るヴァンの言葉に嘘は感じられない。
 NPCは言わばゲームを盛り上げるための脇役。その脇役が強くては主役であるプレイヤーが立たなくなってしまう。だからこそ、NPCには制限があるのだろう。
「つまり……ヴァンくんは自分が何者かを知るためにこのパーティを開催したってこと?」
 萌火が問えば、ヴァンは頷く。フードを被ったその顔の隙間から、一筋の雫が落ちた。
「オレ、ずっとプレイヤーだと思ってた。けど、違った……オレはNPCだったんだ。やっと……やっと気づいた。みんなのお陰だ」
 ぐしぐしと顔を腕で拭き、皆を見つめるヴァンの顔は、青空のように澄み渡っていた。
「今度会うときは、きっともうこんな風に話せないと思う。でも、みんなと会えてよかった」
 にっこりと笑う、目に涙の痕を付けた青年は今日はお開きだ! と立ち上がり後片付けを始める。
 それにイレギュラーズたちも加わり、あっという間に片づけを終え、帰りの馬車の中――皆、ヴァンに語り掛けた。
「ヴァンさん、どう? 楽しかった?」
「え……」
 驚いたように目を見開いて史之を見るヴァン。
「そうだな、楽しかったか? 俺様はばっちり楽しんだぜ!」
 酒も料理も美味かったしな! と豪快に笑うTeth。
「うん。美味しそうにご飯を食べてもらえて、俺も嬉しかった。何より作る時間も楽しかったよ」
 くすくすと笑いながら、ヤーヤーも嬉しそうに翼を羽ばたかせる。
「なぁ、にーちゃん。楽しかったか? おれは楽しかったぜ。だから、にーちゃんも楽しかったなら、おれは嬉しいな」
「みんな……」
 うんうん、と皆頷く。今回限りだというパーティの終わりを、悲しい気持ちで終わらせないように。
「ああ。なかなかに楽しめる余興であった。だから、そんな顔をするものではない。宴の最後は皆、笑っているものだ」
「そうだよ! ボクとーっても楽しかった! みんな楽しかったのなら、それでいいんだよ」
「ええ、そうですね。ふふー、ヴァンさんのあの踊りの覚束なさも、すぐ飲み込んで上達する姿も、とてもとても、楽しかったです」
 思い思いに、楽しかったと。
「また、私の歌と踊りを聞かせてあげるから、ファンになってねぇ」
 次があるのだと、思わせるように――
「――ああ、そうだな」
 くしゃっとした笑みを浮かべて、ヴァンは言う。
「オレも――すっげぇ楽しいパーティだった!」
 『また』やろう、と。そう言った瞬間。馬車は目的地へと辿り着いた。


 後日、『黒猫の』ショウ(p3n000005)が、今回の依頼の達成報酬をイレギュラーズ達へ渡した。
 どうやらヴァンに発生していた『バグ』は、自我を持ってしまったことらしく、今は正常に修正され一般のNPCとして運営されているようだ。
「不思議な依頼だったから心配だったけれど、皆無事に帰ってきてくれて良かったよ」
 まさかNPCが自我を持つなんて、とショウは頭を手で押さえながらため息を吐いた。今回は平和な依頼であったからいいものの、もし自我を持ったNPCがプレイヤーに襲い掛かるなどと言う事態に陥っていたのであれば、大問題になっていただろう。
「貴重なサンプルケースも取れたことだし、余ったお小遣いは君たちにそのまま差し上げよう。上手く使って欲しい」
 ショウは尻尾をゆらりと振りながら、イレギュラーズ達を見送る。
 それぞれ、また旅に出る者。このバーチャル世界を楽しむもの、様々な思いがあるだろう。この世界で成し遂げたいことも――
 自分の目指す道のために、ひとときを共にした仲間たちと別れを告げたのだった。

●白うさぎのパーカーは
 ぴょん。ぴょん。
 草原を走る、一匹のウサギ。ただの動物のウサギ。
 パーティ会場があった場所を見つめた後――
『ありがとう』
 声なき声を風に乗せて、いつかこの音が彼らへ届くようにと願った。

成否

大成功

MVP

三月うさぎてゃん(p3x008551)
友に捧げた護曲

状態異常

なし

あとがき

とても素敵なプレイングありがとうございました。
楽しく皆様のキャラクターを描かせていただき、誠にありがとうございます。
きっと、一匹の白兎はこの思い出を大切にこのバーチャル世界を生きてくでしょう。

皆様にとっても、良い思い出となる事を願っております。

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