PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ナグルファルの兆し>黒き蹄の風となれ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●CROW
 太陽に恋をすれば燃えてしまう。
 太陽を憎めば燃えてしまう。

 目をそらすことなどできないのに、選択は迫られる。

●魂、千里を駆ける
 蹄鉄の踏みつける土。あがる砂埃。鼻息荒く風を切る漆黒の牝馬ラムレイの凛々しい目が強く前を見据えている。
 眼中に映るは有翼の巨人。
 岩を削り出したかのような槍をぐるぐると高く振り回し、防風をともなって振り込んでくる。矛先は正確に馬上の騎手を打ち払――。
「今ッ――!」
 馬上の乙女イーリン・ジョーンズ(p3p000854)そうなることが『予めわかっていた』かのように体を大きく傾けると、そう躾けた通りラムレイの姿勢を低く、そして横へと傾けさせる。
 紫にきらめく髪は後ろにしっかりと結わえられ、矛がその一本たりとも切ることはない。
 ラムレイのどっしりと構えた四肢は地面を『ドリフト』しながらカーブ。一方イーリンはカーブによって調節された角度と位置にニヤリと笑った。
「勢いよく迫る小人は槍でチョイと払ってやればイチコロだ……なんて思ったでしょう」
 斜めに、そしてやや空側へと向けた旗が魔力を放ち、巨人たちを一筋の光によってまとめて貫いていった。
「打ち抜きやすいのよ、その図体は!」
 直前の一体は足を、残る数体は脇腹や肩を撃たれよろめいたところで姿勢をとりなおし、ラムレイが走り抜ける。
 なんとか捕まえようと手を伸ばした巨人は足への痛みでその場で転倒。
 肩を撃たれた巨人が魔力を両手に集めて合わせ突き出すようにして発射する。
 イーリンへ迫る青紫の魔力塊――が、それを『はじめから決めていた』かのように切り落とすオウェード=ランドマスター(p3p009184)。
 黒き剣が魔力を真っ二つに切り裂き、散った魔力の破片がオウェードの鎧をはねていく。
 その様子をちらりとみたオウェードは、ヘルメットのフェイスガードをガチンと落とし風をうける姿勢をとった。
 彼に似合った黒い馬が、大地を踏みしめ加速する。
「やるわね、『黒鉄守護』?」
「任せておけ司書殿。『騎戦の勇者』殿と呼んだほうがよろしいか?」
 冗談めいて言うオウェードに、イーリンは肩をすくめた。
 そして、仲間が送ってきたであろう燕のファミリアーへと呼びかける。
「ポイントRの防衛は突破したわ。そっちも合流して! 敵の騎馬部隊が来るわよ! こっからが『作戦』の本番!」

 幻想のアーサランド鉱山を舞台に行われた彼らの作戦がいかなるものか。
 それを説明するために、まずはある場面へと時を遡ろう。

●青薔薇より
 ローレットへ急ぎの依頼が舞い込んだ。そのうち二通の手紙は幻想勇者序列三位のイーリン・ジョーンズ、そして序列七位オウェード=ランドマスターへと送られた。
 なんのへんてつもない、幻想では一般的な代筆屋の蝋印がおされた手紙につられてある貴族の屋敷へときてみれば。
「ひみつの青薔薇迷宮へようこそ……なんて、ふふふ」
 広い広いホール。吹き抜けの高い天井。螺旋階段のその上に、美しいドレスを纏った『暗殺令嬢』リーゼロッテ・アーベントロート(p3n000039)が微笑んでいた。
 イーリンたちを呼び出したはずの女貴族はといえば、ホールの隅で深々と頭を下げ沈黙を貫いている。
(は……図ったわね……! 暗殺令嬢!)
 という気持ちを押し込めて、平静を装うイーリン。
 その隣ではオウェードが『おおお』と『あああ』と『う゛う゛う゛』の中間みたいな声をずっと出していた。顔を真赤にして。
 仕方ないのでふくらはぎをガッと蹴りつけて正気に戻してやる。
 リーゼロッテはたっぷりと時間をかけて階段をおりてから、集まった10人のローレットイレギュラーズの顔ぶれをひとりずつ見て、そして満足気に頷き、ときには一人ずつ声をかけていった。
 一度聞いただけでは挨拶とそう変わらない程度の内容だったが、オウェードの前を通る際にひとこと……。
「黒鉄守護――称号は”気に入った”かしら?」
「――!?」
 目を見開くオウェード。
 同じような顔をして高速で振り向くイーリン。
 イーリンの優れたひらめきが、そしてオウェードの直感がほぼ同時に同じ答えをはじき出した。この称号はもしや――。
り……りりり……リーゼロッテ様……」
 嘘が苦手、というかなんでも顔に出てしまいがちなオウェードは口をぱくぱくとさせたが、リーゼロッテは唇に黒手袋越しの人差し指をたてるだけだった。
 清らかなレースの、黒い手袋越しの。
 そしてそれ以上のなにも言わせぬまま。
「――説明を」
 よく通る声で、リーゼロッテは端で頭を下げていた女貴族に呼びかけた。
「は。この度ミーミルンドらの動きを察知いたしました。彼らはこちらのアーサランド廃鉱山を利用し周辺住民の『死』を回収する目算のようでございます」
 やっと話が始まった。と、オウェードは胸をなでおろした。

 フレイスネフィラやミーミルンドたちが幻想で『魔物共のパレード』をおこし大量の『死』を集めようとしていたが、此度の勇者たちの活躍によって早々に解決され、次なる手を講じているということだった。
 女貴族の広げた地図にマークされているアーサランド廃鉱山。この場所を崩落させることですぐ近くの川へと鉱毒を混ぜ周辺住民から多くの死者を出すことができる。また『疫病の呪い』を同時に展開することでより効率的に死を撒き散らすことができるという。
「当然連中はこちらが察知していることをもうすうす感づいているでしょう。ですので……」
「内部崩壊の危険をもつ軍をあえて動かすことなく、私達少数精鋭でカタをつけたいというわけね」
 そこまでの話で内容をだいたい理解したイーリンが、腕組みをしてつぶやいた。
 同時にオウェードが手紙を開く。
「同時にシラス殿や武器商人殿らもローレット部隊を組んで坑道破壊や疫病呪術の破壊作戦を行うそうじゃ。
 オホンッ――そこでワシらの役目は、鉱山の防衛にあたっている古代獣たちへの陽動と排除になるわけじゃが……」
「それなら、いい作戦があるわ」
 イーリンが、手紙を裏返してペンを手にとった。

GMコメント

●シナリオ内容
 幻想王国を襲う大規模なテロを阻止すべく、少数精鋭での作戦が展開されました。
 当チームの役割は陽動と防衛戦力の排除となります。

・成功条件:古代獣機動部隊への陽動
・オプション:ノワールクロウΔの撃破

 このシナリオは『チェイスパート』と『ボスパート』にわかれます。
 チェイスパートが成功した時点で依頼は成功状態となり、オプションへのチャレンジが可能になります。

●チェイスパート
 OP冒頭でイーリンさんが報告していた『ポイントRの防衛突破』によって、敵部隊が騎馬兵に対抗できる古代獣の投入を行いました。
 このパートでは全員が騎乗戦闘を行います。
 特に軍馬や騎乗戦闘スキルがなくてもレンタル馬を使うなどして戦闘に参加できますが、『自前の軍馬系アイテムを使う』『騎乗戦闘スキルを活性化する』といった方法で戦闘能力を高めることができます。

 皆さんは馬で呪術結界の中心を目指すふりをして古代獣機動部隊にわざと追いかけさせ、これと戦闘しながらひきつけ続けます。
 廃鉱山周辺の寂れた廃墟街を猛烈に駆け抜けながらのバトルになるでしょう。
 主には後ろから追いすがってくる狼や馬のような古代獣たちを撃退し、時には道を塞ぐように現れた巨大な古代獣を撃破して突っ切るなどすることもありそうです。
 「このロケーションならオレはこうするぜ!」「この場面なら私はこれができるわ!」といった具合にプレイングをかけるととても楽しいのでおすすめです。

●ボスパート
 ある程度の陽動が済んだら今度は大きくとってかえして古代獣たちを束ねるリーダー的存在へとアタックをかけます。
 前情報によると『ノワールクロウΔ(デルタ)』という古代獣で、人語をはなし人間のようなシルエットと鴉の翼、そして鴉のような頭をもつ魔物であるそうです。
 一見強くなさそうな個体ですが、過去に5人組の騎士団で取り囲んで殲滅しようと試みた際刀傷ひとつ負わせることなく全滅してしまったという情報があります。
 かなり強力な個体のはずなので、戦闘の際にはじゅうぶんに注意してください。

※おまけ要素
 『チェイスパート』で多くの種類のモンスターと様々な方法で戦いデータを増やしていくことで、ボスパートで敵の弱点や攻略法がひらめくことがある、かもしれません。
 チェイス時には複数のスキル攻撃で戦ってみたり、時にはアクロバティックなやり方を試したりしてみましょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <ナグルファルの兆し>黒き蹄の風となれ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月04日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
ノルン・アレスト(p3p008817)
願い護る小さな盾
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)
百合花の騎士

リプレイ

●世界は君の手の上に
 アーサランド廃鉱山。かつてそこが鉱山として機能していた頃、周辺には鉱山夫たちが寝起きしていた宿舎や飯屋、その他生活に必要ないくつかの業者が入り込んでちょっとした街を形成していた。
 流石にひと家族ごと移住して学校や病院や娯楽施設を備える巨大鉱山街ほどの規模には至らなかったものの、『必要に応じて』拡張されつづけた街の構造は複雑怪奇に入り組み、作業員しか暮らしていないという側面から地図すらなくちょっとした迷宮状態になっていた。
 そんな街の、給水塔の上。なびくマントを引き寄せて『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は振り返った。
 『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)たちが防衛ラインの突破に成功し、機動力の高い古代獣部隊を引き寄せ始めた頃である。
「さあ、そろそろか。Gペリオン殿、準備は」
「イェェエエエエエエ」
 給水塔のちょっと下。建物の屋根の上で首を回しながら七色に光るGハイペリオン様がいた。
「Gペリオン殿」
「イェェエエエエエエ」
「……」
 アーマデルは咳払いをすると、給水塔から飛び降りてGハイペリオン様へライドオン。部隊と合流すべく飛行を始めた。

 七色に光るアーマデルのGペリが見えたあたりで、オウェードは腰から抜いた剣を空高く掲げて見せた。
 普段はオウェード愛用の乗るダイン風アックスを使っていたが、今回は黒鉄の剣を持ち込んでいた。『黒鉄守護』という称号への、自分なりのアンサーなのか、それとも……。
「合流が始まったようじゃのう。ここからが本番じゃワイッ!」
 オウェードのかかげた剣のきらめきを合図にして、別の建物の屋根から様子を見ていた『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)がトタン屋根の上をとんとんと歩きながらカードを取り出す。
「幻想王国の危機とあらば、我(わたし)も無視はできないのだわ。ええ、お嬢様も噛む話ならばなおさらというもの」
 リーゼロッテ御嬢様の呼びかけに秒で応えるイレギュラーズは数あるが、中でもつよつよなアーベントロート派イレギュラーズが彼女、レジーナである。
 闇属性カード『終末と退廃の魔女』をぺらりと裏返す。
「カードリリース。終末と退廃の魔女の眷族がひとつ――『七つ首の獣』!」
 どこからともなく飛び出してきた騎乗動物『七つ首の獣』へと跳躍して跨がり、アーマデルたち同様オウェードの隊列へと加わっていく。
 あちこちで広く網を張っていた『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)やフィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)たちも合流。
 大通りを走る仲間達に左右の道から軍馬を寄せた。
(馬の息遣い、地を蹴る音。
 雷鳴に、火薬が爆ぜ。
 獣の咆哮響く。
 其れが幾重にも重なり奏でる、戦場の唄)
「其れでも、恐れるものはありませんよ」
 肩からかけていた弓を手に取り、くるりと回していつでも撃てる姿勢をとるアッシュ。
 一方でフィリーネは馬具にかけていた盾をはずして腕に装着。黒栗毛の軍馬『ユウキュウ』がフンと鼻を鳴らす。
 ふと振り向くと、かなりの後方から黒い闇を纏った馬や巨大な狼。下半身を馬にした一つ目の巨人や黒いグリフォンタイプといった古代獣が続々と加わりこちらを追跡しているのがわかる。そして、距離は徐々に縮まっていた。
「ローレットでの初陣がこれとは……」
 細く息を整えようとするフィリーネを、アッシュが横目に見た。
「緊張を?」
「していない……と言ったら嘘になりますわね」
 空想する。大きな屋敷の中でおっとりと座って居れば、こんな危ない目にあうことはなかったろう。
 お飾り騎士団にでも入って、やがて嫁に行って、窓から綺麗な庭でも眺めて暮らすことだってできた。
 けれどそうしなかったのは?
「覚悟はできました。武器もとった。そしてこの場に居るのなら……やるべきことは一つですわ!」
「……ん」
 アッシュは眼帯をしたほうの目元を手の甲で拭うと、小さく首をかしげて同意の声をあげた。ユウキュウが、蛇穴声で大きく嘶いた。

 あちこちに散って号令を待っていた『仁義桜紋』亘理 義弘(p3p000398)や『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)たちは一同に集合。『騎戦の勇者』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)率いる司書部隊(仮)を形勢しつつある。
 軍馬の上で腕組みをし、足の力だけで馬に跨がる義弘はこちらに回り込みをかけようと側面から迫る群れの足音を敏感にききとって振り向いた。そして仲間にルート変更を提案するハンドサインを出す。
「俺たちがこいつらを引きつければ、他の部隊は本命を倒しに行ける。なんといっても機動力に特化した部隊だからな。敵側もそういう連中をかき集めて投入しなくちゃあならねえ。その上で全部ぶっ倒せれば上々だが……」
「こちらは向こうはそれなりの防衛力を備えていますからね。全滅は難しいでしょうけれど……こうして引っ張り回せば少数精鋭でも充分に対抗可能です」
 ステラたちの言うとおり、今回の作戦は『陽動』である。
 目立つ部隊によって敵部隊を動かし、残った部隊を他部隊によって叩くという各個撃破戦術は地球世界18世紀ごろに猛威を振るった戦術である。
 特に、本来ホームでなかった場所に急ごしらえで軍を動かし、これまた急造の部隊で防衛したらしい今回のケースにはうってつけだ。
 急ごしらえのバリケードというものは破った後が脆いもの。
「ボクにもできる……はずです。見ててくださいね」
 部隊に合流した『願い護る小さな盾』ノルン・アレスト(p3p008817)は左手に巻いたスカーフをそっと撫で、目を細めた。
(司書様と一緒に依頼に戦えるのは、ちょっとだけ楽しみです。最後までしっかりと支えてみせます)
 アレストがチラリと見やると、イーリンは彼らの視線を受けて頷きを返した。
 幻想を守る戦いの中で、その功績を称える形でペリカ・ロズィーアンから用意されたという槍。その先端には巻き付けるように旗がかかり、くるくると回してイーリンはそれをはためかせた。
「これは――幻想を救う戦いである」
 果てなき迷宮を旅する彼女への、言葉にしなかった親近感と共感。いま風になびくこの旗は、ある意味でイーリンの気持ちへのアンサーのようにも見えた。
 その横では『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が勇猛な牝馬ラニオンの上でニッと笑った。
 そして応えるように槍――ハーロヴィット・トゥユーを掲げる。
 オウェードやアーマデルやステラたちは剣を。
 アッシュは弓を。アレストは扇を。
 フィリーネは盾を。
 義弘とレジーナは力強く握った拳を。
 形も姿も不揃いな彼らの、しかし揃った力と意志。
 イーリンを象徴する『騎兵隊』の形に、それはとても似ていた。
「さあ、Step on it!! 見せてやろうぜ、騎兵隊魂!」
「後手後手に回る機動部隊に我らが負ける道理無し!」
 故に、もはや止められはしない。
 ドッ、という大きな音をたて、すぐ目の前のトタン製の小屋が破壊され側面道路から無理矢理牛頭の巨人が飛び出してくる。
 それでもだ。止まりはしない。
 先頭を突き進むイーリンが旗を巻き取りきゅっと紐を結ぶと、槍を突き出し紫色の魔力を溢れさせた。
「征くわよ『神がそれを望まれる』!」

●剛健
 魔力を持って拳を叩きつける牛頭の巨人とイーリンの槍が相殺するようにエネルギーをぶつけ合い、ばちばちと球体のフィールドを削り合う。
 が、それは一秒たりとも続かなかった。
 隣から滑り込むように突入したオウェードの剣が巨人の足を切り裂き、吹き上がる血を背に駆け抜けていったのだ。
 突如のことでバランスを崩した巨人。オウェードは剣についた血を払い、先を急ぐようにハンドサインを出す。
 巨人から一拍遅れるように大通りへと飛び出してきた巨大な鴉や蛇や有翼の獅子たち。
「フィリーネ殿!」
「任されましたわ!」
 鋭く声を発したオウェードに応える形で、フィリーネは腕に装着していた円形の盾を掴みフリスビーの要領で投擲。
 回転しながら飛んでいった盾が鴉に激突し反射。更に蛇や獅子へと激突した末、腕のワイヤー巻取機のスイッチを剣の柄で叩くことで起動。巻き戻された盾がマグネットによって腕にがちんと再装着された。
 フィリーネは盾をぶつけた衝撃によって体勢を無理に崩された蛇たちが自分を追って突っ込んでくるのを振り返ると、オウェードに剣を使って合図を送った。
「オウェードさん!」
「うむ、任された!」
 猛烈に走る軍馬リュウキュウと前後を入れ替える形で回り込んだオウェードはかざした剣でもって突っ込んでくる鴉の翼をたたき返す。
 さらなる猛攻を頑丈な鎧と剣でもって弾き続けるが、そこへ――。
「しつこいわ」
 レジーナが側面につけて手をかざし、『大罪女王』の波動を放った。
 彼女の権能のひとつが解放されたことでおきた波動はさらなる攻撃をしかけようとしていた鴉を吹き飛ばし大通り脇のクリーニング屋へと突っ込ませる。
 脆くなった木造の壁を突き破って屋内へ突っ込む敵をほぼ無視し、レジーナは周囲へと意識を配った。
「この辺り、霊の気配が濃いわ。死んだ鉱山夫でも取り残されたのかしら」
「確かに……『死を集める』という連中にはピッタリのロケーションかもしれないな」
 Gペリ様に跨がりダチョウの如くダッシュさせていたアーマデルが、かかる前髪を指ではらいながらあたりを見回している。
 レジーナ以上に霊魂への疎通能力が強いのか、より広く強く霊の声や意識体が見えているらしい。
「どうやら廃坑になったことで静かに過ごしていた所を、古代獣どもに荒らされて迷惑しているらしいな。少し、協力してもらおう」
 アーマデルは距離を詰め始めた後続の古代獣たちへと『蛇銃剣アルファルド』による射撃を浴びせると、弾切れと同時に素早くグリップ側面の宝石型スイッチを叩き刀身腹面の蛇型銃身を開くと腰から取り出した弾を装填する。ビニール包装したコイン束のような弾をおさめてガチンと蛇の頭を閉じさせると、再び狙いを定める。グリップから飛び出た発射トリガーをひき、コイン状の弾を一気に発射。回転しながら散らばったコインが後続の古代獣たちの顔面や身体や、はたまた小屋の壁に突き刺さっていく。
 もちろんアーマデルは銃撃だけしていたわけではない。
「交渉が済んだ。今回は早かったな。連中も把握していないような裏道があるらしい。案内してもらおう。レジーナ殿にも紹介しておいた。共有しておいてくれ」
「了解。ありがと」
 ビッとオーケーサインを出したレジーナ。
 声なき声をあげた霊魂がつぶれかけ封鎖された小屋の入り口を指さしている。
 レジーナが『あそこよ』と言うと、馬を加速させて先行した義弘が馬から飛び降りる動作と共に猛烈なパンチを小屋に浴びせた。
 衝撃が放射状にはしり、入り口を塞いでいた板はおろか周囲の壁もろとも粉砕され吹き飛んでいく。
 馬が通り抜けるには充分すぎるほどに。
 小屋の中は大きな通路になっており、大きなトロッコを通すためのレールも敷かれていた。明かりは消えているようだが、義弘にはそれが見えてている。すぐ近くに落ちていたたいまつに火を付けると、後続のアレストへと投げてパスした。
 そしてターンして突っ込んできた自分の馬に飛び乗り、『ついてこい』とハンドサインを出す。

 新たな粉砕をおこしながら地下トンネルを飛び出した義弘。
 慌てた様子で迂回してきた古代獣たち。
 一部待機していた機動力に欠ける古代獣と偶然でくわしたが、義弘は構うことなくぶん殴っていった。
 ついでに、小屋を吹き飛ばした際に飛んできた『さび付いた鉄パイプ』をキャッチ。
 前方にて慌てた様子で身構えた巨人めがけて思い切り投擲する。
 胸にパイプが突き刺さり、崩れ落ちる巨人。転倒したその上を、義弘は見事な操作テクニックによって馬ごと飛び越えていく。
 同じく横を飛び越えたアレストは、やっと追いついてきた古代獣たちの側面集団を目視。
 ケンタウロス型の古代獣たちが弓を構え、一斉にこちらに狙いを定めていた。
「攻撃、来ます!」
「――!」
 アレストを庇うように側面へ躍り出た義弘がそのへんの板を拾いあげて防御。板がたちまち破壊される勢いで、横殴りの雨のごとく飛来する石の矢。
 対してアレストは『輝夜』を開いて治癒の風を起こした。
 カウンターヒールによって損傷した蕎麦から急速に修復を始める義弘の肉体。
「受け続けるのは厳しいか。だが……」
 目を細めると、視界の端に空を飛ぶ……否、空へと飛び上がるステラの姿がうつった。
「俺たちを『一塊』だと勘違いしたらしいな」
 側面トンネルへの突入によって密かに二つに分裂していた部隊。そのうち向かって左側を担当するステラたちの部隊が、古代獣弓兵たちめがけて直接攻撃を仕掛けたのである。
「隙だらけですね――一気にかたづけてしまいましょう!」
 空中から大きな剣をあろうことかぶん投げるステラ。
 黒き魔力を伴った剣は回転しながらケンタウロス型古代獣の胴体を切り裂きブーメランのようにターンして彼女の手元へ。馬へと着地する形で跨がりなおすと、乱暴に詰んだ板によって斜面になった場所をかけあがって馬ごとジャンプ。
 その場を離れようとターンを始めたケンタウロス型古代獣を切り落とす。
「こっちは戦場が『俯瞰』できてんだ、建物の間できょろきょろしてるそっちと違ってね!」
 同じくジャンプで馬事屋根に飛び乗ったウィズィ。
 頑丈な部分だけを突っ切ると、捕まえようと腕を伸ばした巨人を肩口から『ハーロヴィット・トゥユー』によって切断。
 巨大テーブルナイフのようなその武器を付け根の部分を握ってぐるぐる回すと――。
「どけぃ!」
 前方敵集団めがけて思いっきりぶん投げた。
 回転しながら飛んでいったハーロヴィットが光の軌跡を描きながらジグザグに飛ぶと、大通りの中を暴れ回って古代獣たちを破壊。一通り破壊し尽くした所で駆け抜けたウィズィ自身がキャッチして通り抜けていく。
 ウィズィたちの部隊で案内を担当したレジーナは更に先で霊魂が騒いでいる様子を感じ取っていた。
「アッシュ、わかるかしら?」
「そう……ですね」
 眼帯の上から左目にそっと手を当てる。ずきんという幻痛の先にはじけた閃きが、大通りの先で待ち構える敵集団を想像させた。
 ここまでの流れから、生半可な戦力を先回りさせた程度では止められないことはわかったはず。イーリンが予め手に入れていたという地図は度重なる変化に対応しきれていない半端なものだったが、大通りくらいはフォローできていた。もしそれと同じものをもって部隊を動かしているなら……。
「前方の交差点で合流します。敵部隊を破壊後、次の作戦に移りましょう」
 アッシュは特殊な矢を弓につがえるとはるか天空めがけて射出。派手な音と光をはなったそれを、別働隊のイーリンたちは見たはずだ。そのための合図である。
「まずは、挨拶から……」
 深く呼吸を整え、そして弓に手を添える。架空の矢がねじれた線となって現れ、熱砂の魔力そのものの塊となって顕現した。
 大通りのカーブを過ぎ、先の交差点が見えたその時。
 ほぼ予想通りの古代獣部隊が待ち構えていた。
 牛頭の巨人が腕を再生させながら足を踏みならし、走るアッシュの馬ごと食いちぎってやるとばかりに歯を鳴らしている。
 ただ、アッシュが思ったより、ずっと少ない規模の部隊だったが。
「それでも、やることは変わりませんよ」
 熱砂の矢を発射。
 続けて弓に架空の矢をつがえ、雷の魔術を発動。
 今度は矢を三本同時に発生させ、距離をつめながらも発射した。
 続けざまに打ち込まれた矢は魔力爆発を起こし、巨人たちの動きを弱めた。
 それでも抵抗しようと突き進まんとする彼ら――の側面より。
「がら空きだわ。憐れなくらいに」
 槍を構えたイーリンが一人で突入してきた。
 自らの纏った紫の魔力が巨大な円錐ドリル状のラインを描き馬ごと巨人達の間を突っ切っていく。
 それによって生じた衝撃は彼らの肉体やその組織構造を派手に破壊し、後続の部隊が一斉攻撃を仕掛けようとするにあたってまるで防御も反撃もできぬまま、ほぼ無抵抗に破壊されていった。
 馬をターンさせ、あらためて周りを見る。
 馬を減速させたイーリンとハイタッチを交わした。
 イーリンはちらりと義弘の顔を見て、そしてアーマデルたちの顔を見た。
 彼らの首振りから、敵が迫っていないことを確認するとあらためてアッシュへ視線を送る。
「そうですね」
 アッシュはおおきく垂れた灰のような色の髪をかきあげると、肩をおとして細く息を吐いた。
「やはり今が、攻め時かと」

●急ハンドルと急発進
 鉱山夫たちが歪に作り上げた街もどき。その一角に存在する雑魚寝小屋の一角に、ひとりの人影があった。
 外見的には飛行種にも見える、黒い羽毛に包まれたマッシブなボディラインと黒く大きな翼。そして首から上の鴉めいた頭。
 飛んできた一羽の鴉が彼の肩にとまり、クワァと声をあげる。
「フン。タウロスどももやられたか。やはり急造の部隊……一点突破型の機動力と突破力には劣るというわけか。
 まあ良いだろう。ここまで多くの兵を退けたのだ。10人ほど通した所で『連中』への言い訳程度にはなる。
 残りは『連中』が仕留めればよい。が……そうだな、継続して追っ手をかけておけ。追いつかない程度でいい。戦闘が長引けば漁夫の利を得られるやもしれんからな」
 息をつく。
 あぐらをかいた彼の周囲には、何羽もの大量の鴉がとまり、きょろきょろと周囲を見回していた。
 そのすべてが、一斉にある方角を見る。
 と同時に慌てたかのような様子で鴉が一羽、小屋のなかに飛び込み鳴き声をあげた。
 否、人語を放った。
『伝令! 十人の騎馬部隊、この地点へまっすぐと急行中!』
「なんだと!?」

 死に物狂いで襲いかかる大鴉や大翼蛇たちをたたき落とし、イーリンは大通りを突き進む。
「防衛ラインの突破に際して機動力のある部隊を送り込んだり、先回りをしたり……時には戦術を切り替えてもいた。
 それは、敵にはそこそこ頭の良い指揮官がいるってことよ。戦術にルールのある『指し手』がいるってこと」
 小首をかしげるオウェードとフィリーネに、『つまりね』と指を立てるレジーナ。
「相手がルールのあるゲームをしてるってことは、こっちもおなじルールで動けるっこと。相手がチェスボードに噛みついて振り回す獣だったら無理矢理蹴っ飛ばすしかないけど、チェスをさしてくれるならちゃんと裏をかけるのよ」
「更に言えば、伝令役が居るということ……」
 アッシュが空を見上げると、一羽の鴉が通常とは異なる速度で一点に向かって飛んでいく。
 ウィズィの俯瞰視点ならそれがよくわかる。数は一羽の鴉を追うたびに増え、やがて鴉が大量にあつまる小屋が見えてきた。
 義弘が拳をぼきりと鳴らした。
「相手が話の通じるヤツなら、ケジメもつけさせられる」
「いいですねえそういうのは。『わからせる』のって好きかも」
 ウィズィがどこか獰猛に笑い、アレストが『そういうものですか』と言って肩を落とした。
「急ごう。そろそろ、相手も接近に気付いた頃だ。扉をノックして呼びかける暇はないぞ」
 アーマデルが振り返り、飛び出してきた獅子へ鎖剣を放って打ち払った。
 前屈みになり加速姿勢をとるステラ。
「了解。突っ込みます。オウェードさん、フィリーネさん。『ノック』を手伝ってください!」
「む?」
「ああ」
 剣をてにとったオウェードと、盾をかざしたフィリーネ。二人は一度顔を見合わせてから、ゆっくりと頷いた。
 三人はそれぞれの武器を握り込むと、素早く馬の背へと立ち乗り姿勢をとって跳躍。
 勢いそのままに人型の砲弾と化した三人が、鴉だらけの雑魚寝小屋へと思い切り突っ込んでいった。
 鴉が大量に、空へと飛び立っていく。

●黒をもって黒を破れ
「なんだと!?」
 目を見開き振り向きそして立ち上がる。
 ほぼ同時に小屋の壁面や屋根が崩壊し、舞い上がる木くずと煙のそのなかに、黒鉄の鎧が鈍く光った。
 全身を多う鎧。口の出るタイプのフェイスガードが下り、その置くからギラリと片目の光が漏れた。
 剣を地に突き立て、片膝をついたその姿勢よりゆっくりと立ち上がり、引き抜いた剣を人型の黒鴉へと突きつける。次はお前だと言わんばかりに。
「ノワールクロウΔか」
 びくりと反応する黒鴉――もといノワールクロウΔ。
 黒鉄の男――オウェードは深い髭の間から歯を見せると、ガハッ! と声をあげて笑った。
「とったぞ。これぞ、ラトヴィアン・ギャンビット!」
「え、それどういう意味の言葉ですか?」
「チェス用語ですわ」
 煙の中から追って現れるステラとフィリーネ。二人はオウェードの両サイドを固めるように前へ出ると、それぞれ剣と盾を構えた。
 そしてフィリーネは指をぴっと立てて解説しようとした……が。
 ぴたりと止まって振り返る。
「まってください何故いま攻撃的なオープニング手順を出しましたの? クイーンを狙うと見せかけて浮き駒を狙う局面を例えに出すべきでは?」
「むぅ……!」
 剣を突きつけた姿勢のまま固まるオウェード。
「あ、これ響きが格好いいから言ってみたって顔ですね」
「そうだったんですの!?」
「今回はトクベツじゃから、ワシもちょっと司書殿みたいにかっこつけてみたくて……」
 はずかしいって言いながら両手で顔を隠すオウェード。フェイスガードの上から。
 そんな空気を真正面から浴びせられたノワールクロウΔ。しばらく声を出せずにいたが、ゴホンと咳払いをして屈強な腕を突き出した。びしりと人差し指をたて、オウェードたちに突きつける。
「フッ。腐っても『勇者の子ら』といったところか。本命である儀式場へ直行すると見せかけ機動部隊をおびき出し各個撃破。後に守りの手薄になったこの私へとってかえすその機動力は見事と言うべきだろう。そこまでして私を狙いたいというなら教えてやる。私の狙――グフウ!?」
 カーブして飛んでいったフィリーネの盾がノワールクロウΔの横っ面にめりこんだ。
 さっきまでかなりキメていた顔が猛烈にゆがみ、大きくのけぞる。
 構えながらも聞き入る姿勢にはいってたステラがフィリーネを二度見した。
「え、なぜ今!?」
「騙されてはなりませんわ皆さん。この鴉、語りを始めるフリをして時間をかせぐつもりですわ!」
「なるほど!?」
 ステラはぽんと手を叩いた。浮き駒を狙ってるのは事実だが、古代獣部隊は大量に残っている現状である。ノワールクロウΔを叩ける時間はその部隊がこちらへ到着するまでの限られた時間しかないのである。
「そうと決まれば!」
 ステラは得意の大剣振り回しスタイルで飛び出すと、身体をぐるんぐるんと回転させた勢いそのままにノワールクロウΔへと殴りかかる。
「うおおちょっと待――グフウ!?」
 思い切り殴りつけられ吹き飛ぶノワールクロウΔ。
 壁を突き破って煤だらけの路上に転がると。素早く飛び上がって翼を広げた。
「ええい、小賢しい『勇者の子ら』が!」
 広げた翼を羽ばたかせると、分離した無数の『黒い羽根』がナイフのように鋭利な風を纏ってステラたちへと殺到。
「フィリーネ殿!」
「承知してますわ!」
 オウェードとフィリーネはここぞとばかりに防御姿勢をとって突進すると、鎧と盾で羽根をその身で受けていく。頑丈な装甲に突き刺さり時折オウェードが血を吐くが、しかし突進は止まらない。
「逃せば後々の災いとなるッ! 悪いがここで倒れてもらうワイッ!」
(『愛を貫く』か……そうかも知れぬ……『黒鉄守護』にかけてッ!)
 彼らの突進はこの時点で最高の判断だった。
 なぜなら。
「いい『時間稼ぎ』だったぜオウェード。おかげで準備が整った」
 両腕でアレストを抱えていた義弘。彼の腕の中で扇子をバチンと閉じるアレスト。
 彼の展開した付与効果と治癒能力によって義弘たちは万全のコンディションを獲得していた。
「オウェードたちの回復を頼む」
「はいっ」
 ぴょんと飛び降りたアレストが細く息を吸い込んで大地に手を突くと渦を巻くように風が走った。緑の香りをふくんだ風が周囲を強制的に聖域化。右手首に巻いたスカーフが風に長くなびいた。
 聖域を駆け抜ける形になった義弘は空へ飛び上がろうとしていたノワールクロウΔめがけて跳躍&ブロー。
 拳をクロスアームで防御するノワールクロウΔだが、義弘の肩越しに飛び上がったレジーナの姿に目を見開いた。
「カードリリース――」
 胸の谷間から取り出したカードを闇属性カード『闇で悪魔な猫のお嬢様』をぺらりとめくるレジーナ。
 ぴょこんと飛び出た猫耳と尻尾をゆらすと、レジーナは突如として五体へ分身。そのすべてが一斉に『大罪女王』の波動を放った。
「ぐおっ……!?」
 ガードの上から無理矢理押し込むように打ち込まれた波動によってノワールクロウΔは思い切り地面に叩きつけられた。小さなクレーターが広がる。
「さあ、わたくしを楽しませてくださる?」
 地面に盾を叩きつけ衝撃を走らせたフィリーネ。
 それに縛り付けられそうになりつつも、ノワールクロウΔは歯を食いしばって立ち上がった。
「舐めるな! 大地を這いつくばる『勇者の子ら』風情が! 天空の覇者となるこの私を地に縛れると思うなよ!」
 突如ひろげた翼から乱射された羽根にレジーナの分身たちが破壊され、レジーナ本体もまたフィリーネに庇われる形で小屋の壁に激突した。
「我(わたし)の権能は正しく浸透したはず……なのに無差別攻撃?」
「特別な耐性があるのかもしれませんわ。けれど、その用意が無いわけではありませんわ。アレストさんっ」
「はいっ、もう少し耐えてください!」
 アレストは扇子に緑の香りを宿らせると強い風を吹き起こした。飛来する羽根のナイフが推進力を失って次々に墜落していく。
 一方で隙を得たノワールクロウΔは空へと飛び上がって翼を鋭く構えた。
 剣を振り回して叫ぶオウェード。
「ぬうっ、逃げる気か!」
「当然だ。相手をしてなどいられん。見たところ貴様らには翼は無いようだからな。空なら――」
「『空なら追いつけまい』――と、お前さんは考える」
「――!?」
 慌てた様子がすべて演技だったかのように、オウェードはぴたりと動きを止めて笑った。
 彼の合図をうけ、アーマデルが明後日の方向へと銃撃。
 と同時にノワールクロウΔの背に影がかかった。
 ハッとして振り返る彼めがけ急速に傾き転落してくる給水塔タンク。
「だから、予め仕込ませて貰った」
 アーマデルは蛇型の銃口からのぼる炸裂弾の煙をフッと吹き消すと、『蛇鞭剣ウヌクエルハイア』をチェーンモードに展開して放った。
 タンクの直撃を受けて高度の下がったノワールクロウΔの翼へ絡みつき、強引に切り裂いていく。
「馬鹿な! この動きを予知して仕掛けたというのか!? そんなことができるわけ――」
「ああ、できるわけない」
 翼を失って墜落するアーマデルを前に、剣をソードモードに変形させたアーマデルがゆっくりと歩み寄る。
「だから、仕掛けられそうな所『すべて』に罠を仕掛けさせて貰った。待ち時間が暇だったもんでな」
「『勇者の子ら』めが――だがこの程度!」
 翼を素早く修復し飛び上がろうとする、が、その時には既に空へ無数の矢が飛び上がっていた。
 トタン屋根の上に立つアッシュが、大量の魔法の矢を生み出しては空へ射出したのである。
 バベルの塔から太陽を撃とうとした姿のごとく、高くかかげた弓をそのままに視線をおとすアッシュ。
「もう、遅いのですよ。突入したオウェードさんのように言うなら……『詰み』なのです」
 鋭い放物線を描いて落下した大量の矢が次々と爆発。周囲の建造物を破壊していく。
 複雑に拡張され迷宮のようになった建物はその強度も弱く、こんな破壊を起こせば――。
「う、うおおおおおお!?」
 見上げたノワールクロウΔめがけ、大量の瓦礫が転落した。給水タンクなど比はない。
 轟音。
 その中で。
 満を持して。
「騎戦の勇者と海洋の英雄のカップルだぜ? 私達が二人揃ったら……って、なんて言ったか覚えてる? イーリン」
「ええ」
 予め空へと飛び上がっていたイーリンが紫色をした魔法の翼を広げ、両腕でウィズィを抱えていた。
「無敵で結構! 愛を貫く――それで為せると確信すれば尚の事!」
 放り出したウィズィが自力でくるりと身をひねり、振りかざした『ハーロヴィット・トゥユー』で瓦礫めがけて突っ込んでいく。
 イーリンもまたはためいていた見果てぬ先を巻き取り振りかざし、同時に突っ込んでいく。
 周囲の瓦礫を吹き飛ばしたノワールクロウΔは歯がみすると、両手を重ねるようにして黒い波動を放射した。
 放射された波動の中をえぐるように突き進み、二人はノワールクロウΔを貫通。
 翼と両腕をそれぞれ破壊し振り抜き姿勢で地面にブレーキをかけると、槍を交差させた。
「古代獣たちさえ手元にあれば、こんなことには……!」
「実力が拮抗したなら、より準備をしたほうが勝つ。『もしも』を願った時からあなたの負けよ。ノワールクロウΔ」

 エネルギーが暴走し、爆発四散するノワールクロウΔ。
 イーリンの旗が開き爆風にはためいた。
 散った黒い羽根は白く変わり、雪のように降っていく。
「さあ、例の呪術とやらを止めに行きましょうか。やることはまだいっぱいあるわ」

成否

成功

MVP

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

状態異常

なし

あとがき

 ――ミッションコンプリート
 ――ノワールクロウΔを完全に破壊しました
 ――彼によって秘密裏に運び出される筈だったエネルギーは破壊され、ノワールクロウ本体の状況は切迫しています。

PAGETOPPAGEBOTTOM