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シナリオ詳細

<ナグルファルの兆し>蜘蛛に巣食われし街

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 幻想、とある街。
 取り立てて規模が大きいわけでもなく、さりとて小さいわけでもない。
 どこにでもありそうな街。
 けれど他の街と違うことは、治安の悪さだ。
 より詳しく言うならば、異様と言っていいほどに犯罪率が高かった。
 薬物売買、窃盗、暴行、詐欺……――多種さまざまな犯罪が行われている。
 だというのに、不思議と破綻する気配は見せない。
 まるで誰かが犯罪者を統制しているかのように、ある種の秩序だった様相を見せていた。
 今までは、ではあったが――

「そろそろ潮時だね」
 落ち着いた声で、壮年の紳士に見える男が言った。
 男の名は、モリアーティ。
 犯罪組織ビブリオの首領である。
「潮時、ですか……」
 領主がモリアーティに返す。
「これ以上は、街が保たないということですか?」
「いや、違うよ。イレギュラーズ達の動きが活発だ。このままでは、いずれ君のしていることが発覚する。そうなる前に、整理しておく必要がある」
「整理、ですか?」
「ああ。君が清廉潔白な人間であることを証明するために、街に巣食う犯罪者を狩り獲る必要がある。その手段に、イレギュラーズを使うことを勧めるよ」
「よろしいので? この街の犯罪者を育てたのは、貴方でしょう」
「むしろ、私としては好都合だよ」
 静かな笑みを浮かべ、モリアーティは言った。
「巣立ちの時期だ。街の治安を改善するために追い立てれば、彼らは他の街に散り散りに逃げるだろう。その先で、また犯罪者を増やせば良い。この街だけでなく、世界中を犯罪で満たすために。必要なことだよ」
 確かな理性の輝きを瞳に宿し、モリアーティは断言する。
 つまりは、正気のまま、世界を罪で犯すことを望んでいた。
「……もったいない」
 心底惜しむように領主は言った。
「このまま、いつまでも搾り取れるのに」
 自身が納める領地の犯罪者を背後から統制し、富を吸い上げる。
 領主が、モリアーティの助けを借り作り上げたシステム。
 それを自らの手で崩さなければならない。
「欲張るのは禁物だよ」
 惜しむ領主に、モリアーティは言った。
「既に君の街で、イレギュラーズが狩りをしている。君も進言されたのだろう? 街を正せと」
「ええ……」
 領主は苦々しく頷く。
 少し前、街で『繁殖』させているビブリオの細胞組織のひとつが、イレギュラーズ達により狩り獲られた。
 その時、街の治安の回復と、ビブリオの排除を求められている。
「どうしても、やらねばなりませんか」
「やるべきだ。なに、一時的に犯罪者が減り、街が平穏になるだけだ。時期を見て、また犯罪者を増やせば良い。そのための手段は、君に与えてある」

 カサリ……――

 モリアーティの言葉を証明する様に、蜘蛛達が蠢く。
 何百何千という蜘蛛の群れ。
 それは床に転がされた憐れな犠牲者を覆うように集っている。
 蜘蛛達は、背徳たる薬、『蜘蛛の秘薬(アラーネア・アディクション)』を生み出す。
 生者の血肉を食み生み出す卵が、堕落に誘う薬になるのだ。
「卵を産ませるためには生きた人の血肉が要るが、それを集めるためのノウハウも教えている。君なら出来るよ」
「奴隷の売買ですか? しかしそちらも、最近は難しい」
「心配しなくても良い。こんなものはただのブームだ。飽きれば廃れる。なにより必要なら犯罪者を苗床に使えば良い。君は、それが許される地位に居る」
 それは正しい。
 自身の街から出た犯罪者をどう裁くかは、自分が決める。
 事実、いま苗床になっているのは、イレギュラーズ達が捕まえたビブリオ構成員。
 領主である自分が、この街の犯罪統制に関わっていることは知らないが、万が一がある。
 口封じと共に苗床に出来るなら一石二鳥。もっとも――
「彼らも魔種にして良かったなら、こんな目には遭わせなかったのですが」
「しょうがない。魔種にしたからといって、我々の仲間になってくれるとは限らないのだから。君のように。さて――」
 モリアーティは背を向け、その場を去ろうとする。
「行かれるのですか?」
「ああ。恐らく二度と会うことは無いだろうね」
「そうですか……出来れば、カールさん以外の、貴方の『お友達』ともお会いしたかった」
 領主は、自身を魔種へと誘った相手、本当の意味でビブリオを構成する五人の内の1人の名前を口にする。
「会わなくて良かったと思うよ。誰も彼も偏屈だからね」
 肩を竦めるようにモリアーティは返す。
 そんな彼に、領主は最後にひとつ尋ねた。
「モリアーティ。貴方達は、それぞれ書物に関わるふたつ名を付けているそうですね。だからこそ組織の名前をビブリオとした、とカールさんから聞きました」
「始まりの人物が物書き崩れでね。彼に付き合って、悪ふざけで付けた名だよ」
「それでも構いません。教えて貰えませんか?」
「……」
 モリアーティは、自嘲するような間を空けて応えた。
「悪書仙花紙の犯罪小説(ペーパーバック・クライムノベル)のモリアーティ。主人公を殺すために急増で作られた悪役の、粗悪な模造品である私の名だ。忘れてくれて良いよ」
 それを最後に、モリアーティは領主の前から去って行った。


「街の治安改善に協力して欲しいのです」
 招集されたイレギュラーズに向けて、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は依頼の詳細を説明してくれる。
「街の治安を悪くしているビブリオという犯罪組織がいるそうなのです。そいつらを捕まえて欲しいそうです」
 話を聞くと、少し前にイレギュラーズが街に巣食うビブリオの構成員を捕まえ領主に引渡し、街の改善を進言したらしい。
 それを受け領主は改善に乗り出したらしいのだが、戦力が足らずにローレットに依頼を出して来たらしい。
「ビブリオのいる場所は調べてあるので、あとはそこに乗り込んでやっつけるだけなのです」
 よくできた話だった。
 こちらで手間を掛けることもなく、居場所の知れた相手を倒すだけ。
 ……本当に、そうか?
 何かが引っ掛かる。
 しかし、具体的に何がとはいえない。
 依頼通り、指定された場所に行って狩りさえすれば依頼は終わるのだが……――
 無言で考えていると、ユリーカが笑顔で言った。
「依頼内容は治安の改善なのです。だから、ビブリオをやっつける以外にも治安の改善に繋がることなら、してあげても良いのです」
 ユリーカにとっては、依頼人へのちょっとしたサービスといったつもりなのだろう。
 だが彼女の言葉通りなら、治安の改善に繋がりさえすれば、何をしても構わないとも言える。
 独自に調査して、街のより深い病巣を抉り出したとしても、依頼を逸脱することはあるまい。
 もっとも、その分、余計な労力は増えるだろうが……――
 楽に片付けるか? それとも踏み込むか?
 考えながら、イレギュラーズ達は指定された街へと向かった。

GMコメント

おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
19本目のシナリオは、以下のシナリオの結果に基づいて作った物になます。

<フィンブルの春>悪意なす蜘蛛糸は未だ見えず
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5612

あくまでも基づいているだけで、内容を知らなくても御参加いただくのに問題はありません。
そして今回のシナリオ結果に基づいて、関連するシナリオの難易度や内容が変化する予定です。

以下が詳細になります。

●成功条件

街の治安改善に協力する。

●方法

ふたつの選択肢が選べます。

1 指示された場所に向かい、ビブリオ構成員を倒す。

成功が簡単な方法です。
指示された街の外れの廃屋に居るビブリオ構成員を倒しましょう。
戦闘の際に支障となる地形ではありません。
事前に居場所を聞いていますので、不意打ちが出来ます。
この選択肢で戦う敵は、中距離と近距離の攻撃手段を持つ、それなりの強さの敵です。
敵の生死は問いません。
倒した後、領主に報告して終わりです。

2 独自に街で調査を行い、指示されていないビブリオ構成員を倒す。

1の敵を倒した後、連戦で戦う選択肢になります。
どのように調査するのかプレイングに書いていただき、その内容に基づいて敵と戦うことになります。
流れとしては、

1の敵を倒した後、独自調査。
独自にビブリオを発見。
それを倒す。
領主の親戚筋の貴族に調査結果を渡し終了。

という流れになります。
ビブリオの居る場所や人数、強さは、調査内容で変化します。
調査内容は、プレイングの内容、幻想での名声(悪名も含む)、非戦スキルを総合的に見て判定します。
調査内容によって、敵の居場所や、敵の人数や強さは、ある程度調整できます。
極端に強い相手と戦うのはちょっと、という場合は、調査内容を抑えた物にすると、それに見合う敵になります。

PCが調査を協力しないで個別に動くことも出来ますが、その際は、敵と戦う際も個別になります。
個別で戦うと不利になりますので、協力されることをお勧めします。

選択肢の、1と2、どちらかの選択肢を選択してください。

1を選んだ方は、描写が1のみになります。
2を選んだ方は、1での描写はほぼなく、2を中心とした描写になります。

●その他

ビブリオ

犯罪組織。
薬物売買を行い現地に浸透しつつ、構成員を増やす。
5人~10人程度の構成員で、ひとつの細胞組織として分割される。
小規模組織が多数存在する形式なので、根絶が難しい。
ターゲットとなる街に侵透していく中で得た伝手を使い、犯罪仲介も行う。
司令塔となる中枢組織があると言われているが詳細は不明。

領主

自分の領地の治安が悪くなり気に病んでいる『ように』みえる人物。
今回の依頼人。

モリアーティ

???

今回の依頼の元となった、ビブリオ組織の捜査依頼で、イレギュラーズの1人に接触してきた人物。
詳細不明。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

 説明は以上になります。

 それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。

  • <ナグルファルの兆し>蜘蛛に巣食われし街完了
  • GM名春夏秋冬
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)
Legend of Asgar
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

リプレイ

「不思議ですね」
 仲間と共に街に訪れた『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)は疑念を口にした。
「この規模の相手ならローレットに頼る必要は無さそうですが。私達を使わなくてはならない理由が何か……いえ、何でもありません。まずは目の前の依頼に集中しましょう」
「そうね。とりあえず仕事をきっちりこなすことだけ考えましょう」
 サルヴェナーズに同意する様に返したのは、『スピリトへの言葉』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)。
 彼女も口には出さないが疑念を抱いている。
(なんかきな臭さも感じるけど、気になることがあるようなら他の仲間たちが見つけてくれるでしょ、たぶんね)
 彼女の考え通り、仲間の中には踏み込んだ調査を考える者も居る。とはいえ――
「骨折り損にならないよう、一先ずは最低ラインだけでもクリアっスね」
『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が言うように、依頼の完遂が第一だ。
 だからこそ目的地である敵の隠れ家に向かう。
 道中、街の中を進むが、酷く澱んだ気配をしていた。
(キナ臭え街だ。好かねえな、鼻が曲がるぜ) 
 街を進みながら、『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)は獰猛な笑みを浮かべている。
 なぜなら今回の依頼を受けるに当たり、関連する報告書を読み、出てきた名前に驚いたからだ。
(『モリアーティ』に『蜘蛛』。偶然の一致か? 或いは絵図を引いた誰かの悪趣味か? ……はっ! どっちでも構わねえけどよォ―――面白ぇじゃねえか。深入りする理由には充分だぜ)
 彼の故郷たる世界では、モリアーティはビッグネーム。それを名乗る相手がどの程度かは知らないが、油断する気は無い。
(名乗っているだけだとしても『モリアーティ』は大御所だ。会うにはそれなりに準備もしておかねーとな)
 獰猛さの中に深慮を秘め、ブライアンは牙を研ぐ。
(ビブリオとかいう犯罪小集団をぶっ潰して、他の犯罪小集団もぶっ潰して、さらに大元への足掛かりを手に入れる。イージーな作業だな?)
 確実に追い詰めるためにも、勇み足で踏み間違える気は無い。

 しばし街を抜け、郊外にある廃屋へと辿り着いた。

「ちょっと待ってて。周囲を調べるから」
 現地に着くと、オデットが精霊の助けを借り周囲を偵察。
 気付かれそうにないことを確認し、葵が皆に頼む。
「少し待って貰っても良いっスか? 廃屋に中を見渡せる窓があるかチェックしたいんっス」
 仲間が同意してくれる中、葵は敵に気付かれないよう注意して確認すると戻ってくる。
「いけそうっス。最初の一撃は任せて貰ってもいいっスか?」
 葵の提案に皆は頷くと、それぞれの配置に就く。そして――
(それじゃ、始めるか)
 最初に葵が動く。
 偵察し確認していた窓に向け、ジャンプボレーシュートからのバウンスで窓をぶち破ぶる。
「なんだ!」
「外からだ!」
 奇襲を受け敵の注意は一気に葵に向かう。
 それに合わせ、サルヴェナーズが敵の背後から不意打ち。
 廃屋の中に跳び込み、敵が反応するより早く、組技で相手の体勢を崩し床に叩きつける。
「ガハッ!」
「こんにちは、荷物の引取りに参りました」
「何だテメェ!」
 ナイフで切りつけてきた敵の攻撃を回避し、そこから更に攻撃へと繋げる。
 アデプトアクション。
 敵の動きを読み、翻弄する様に機先を制し組み伏せながら、余裕のある声で挑発を続けた。
「ああ、確認して頂かずとも大丈夫ですよ。予約はしていませんし、荷物になるのは貴方達ですので」
「テメェ!」
 名乗り口上で引き付けていることもあり、敵が一斉に集まってくる。
 そこでサルヴェナーズは後退し間合いを空けると魔眼解放。
 ペイヴァルアスプによる幻影の大蛇の群れが敵の間を這いまわり、一時的とはいえ錯乱させる。
「今です!」
 敵の動きを鈍らせた所で、仲間を呼び込む。
 間髪入れず、イレギュラーズ達は制圧に踏み込んだ。
「さーて、悪い人間へのお仕置きタイムよ! 存分に暴れちゃうんだから」
 オデットは踏み込むと同時に、熱砂の精を使役。
 ヘビーサーブルズによる重圧を伴う砂嵐が局所的に巻き起こり、纏めて敵を打ちのめす。
「あら、もう終わり? 楽な仕事ね」
「舐めんなぁっ!」
 オデットの挑発で我を忘れた敵の1人が襲い掛かって来るが、冷静さの欠けた動きで避けるのは容易い。
 流れるような動きで間合いを取ると、魔曲・四重奏を展開。
 多重展開した中規模魔術で立て続けに打ち据えた。
 イレギュラーズは敵を次々制圧していく。
 中には、目星をつけた相手を集中して叩き潰す者も。
(こいつが一番匂うな)
 猟犬の如く最も悪辣な敵を探り当てたブライアンは、敵のナイフを掻い潜りクレセントサイズ。
 脇腹を斬り裂くような勢いで蹴撃を叩き込む。
 痛みで後ろに下がろうとした敵に、アイアースで守りを固めながら踏み込むと、ナイフを叩き落とし締め上げる。
「お前、組織の上と繋がってるだろ」
「っ! お前なん、ギャア!」
 より強く締め上げながらブライアンは言った。
「同業は同業に鼻が効く。目と目が合えば分かるもんさ。確信なんざ無くともな。野良犬同士の小競り合いみてーなモンだ」
 獰猛な笑みを浮かべながらブライアンは敵を制圧していった。
 戦いはイレギュラーズ優勢。
 その中で、仲間の援護を考え動いているのは葵だ。
(調査する時の余力が残るようにしとかないと)
 この場を制圧した後、調査に動く仲間のため、積極的に動き回る。
 拳闘で敵と戦う『Legend of Asgar』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)の死角から襲い掛かろうとする敵に、ハードランチャー。
 強烈な無回転シュートが放たれ、敵の頭に命中。
(次は――)
 援護は途切れず。
 スーパーノヴァで瞬時に超加速すると、『若木』秋宮・史之(p3p002233)に斬られ動きが鈍った敵に追撃。
 吹っ飛ばすと、立て続けにデッドエンドワン。
 狙いは、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)と対峙している敵。
 意識を刈り取るような強烈な魔弾を撃ち込んだ。
 動きを止めることなく、続けて『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)の援護に。
「何事も目的に合わせたペース配分が大事っスよ」
 仲間のために攻撃の手を休めることは無かった。

 戦いは短時間で一気に勝負がついた。

「正直こんなことするぐらいだったらまともに働けばいいのに、人間って変ね」
 簀巻きにして拘束した悪漢達を前に、オデットは呆れる。
「しかもこれで終わりじゃなくてまだいるんでしょ? 網にかけて一網打尽にできたらいいのにね。まぁこれぐらいだったらいくらでも協力するわ」
 オデットと同じように、皆は協力的だ。
「魔眼を掛けておきましょう」
 サルヴェナーズが魔眼による催眠を試みる。
 対象はブライアンが目星をつけた相手。
 痛めつけられ弱っていたこともあり、成功。
 薬物売買の情報を手に入れる。
 その情報を元に、事後調査組の内、イーリンとシャルロット、そしてマグタレーナが共に動くことに。
 別行動の史之は、領主の揺さぶりに動くことになった。そのため――
「後はオレ達で処理するっス、調査に回るヤツは各自そっちに向かえ!」
 葵達が、捕まえた悪漢を連れて行ってくれることになった。
 そして事後調査組と分かれる前――
「首尾良く『教授』に会えたらヨロシク言っといてくれ! 公共の利益の為に喜んで犠牲になるようなバカが、イレギュラーズには沢山いるってな!」
 ブライアンの激励代わりの言づけに送られて、それぞれ調査に向かうことにした。

●領主
(さて、山場だね)
 領主の屋敷に残った史之は、超聴力で周囲を探りながら、領主が居る大広間に向かう。
(妙な音は――しないね)
 関連報告書の中で、蜘蛛が人体を食い破り現れたことを知り、最初の戦いの中でも超聴力を使っていたのだが、今のところ気になる音は聞こえない。
(やっぱり隠蔽しようとしてるってことかな? だから不審に思われる物は隠してるのかも……となれば、揺さぶりを掛ける必要があるね)
 それは危険な賭けだ。
 だから、『いざという時』を想定し周囲の状況を確認しながら進み、領主と対峙した。
「何かね? もう用は無いと思うが」
「蜘蛛について聞きたいんです。領主」
「……」
 応えは無い。
 だからこそ、さらに踏み込む。
「これまでこの街で行われた取締の詳細を確認させて貰いました。おかしいんですよ。不自然なほど、蜘蛛に関わることが記されて無い」
「……何が言いたいのかね?」
「領主。この街は、さしずめ蜘蛛の巣なんでしょう? そして人々はそれに絡め取られた獲物だ」
 断定する様に言い切る。
 確たる情報は無く手札は役無し。
 ならばブラフを切る必要がある。
「蜘蛛を1匹仕留めました。でも、それを公にする気は無いんです」
「……ほぅ」
 領主は薄い笑みを浮かべ先を促す。
 そこで退くことなく、史之は仕掛けた。
「いえね、俺、興味があるんですよ。人を操ることができる蜘蛛の話に」
 白紙の小切手を見せ、交渉する様に続ける。
「俺もこう見えて領主なのでね。あがりは5:5でどうですか? もちろん外部には漏らしません」
「はっ――」
 最初は小さく。
 けれど徐々に哄笑が響く。

 ぞわりっ。

 領主の振り切れた笑い声に、史之の背中に戦慄が走る。
 同時に、全力で退避。
 その場を大きく横に跳ぶと、今まで居た場所を斬撃が駆け抜け、その先にあった壁を斬り裂いた。
 腕の一振りでそれを成した領主に、一対一では拙いと判断した史之は窓を割って外に逃走。
 三階の高さがあったが飛行を併用し着地。
 後ろを振り返ることなく疾走。
 それが功を奏し、背後の地面が斬り裂かれる音だけで被害は無い。
(あの距離でこの威力――魔種か)
 情報を生きて手に入れた史之は、そのまま情報を持ち帰り、それは領主の親族が知ることに繋がった。

●モリアーティ
 調査中、無力化した薬物中毒者に、シャルロットは呼び掛けた。
「このまま死ぬまで薬に溺れていたいかしら? もしも僅かな更生の心があるのなら、このアヴァローナ領の門を叩きなさい」
 情報を得るためではあるが、騎士たる彼女としては本音も滲んでいる。
 それが伝わったのか、幾らか情報を得ることが出来た。
「随分と安価な薬のようですね」
 超聴力とエコーロケーションを使って周囲の警戒をしながら、マグタレーナが言った。
「子供でも買える値段で、分別なく広めています」
 薬物中毒者の中には子供までおり、マグタレーナは形の良い眉をひそめていた。
「放ってはおけません」
「そうね。だとすると、大元をどうにかしないといけないんだけど――」
 アヴァローナは、無言のまま考え込むイーリンに呼び掛けた。
「司書殿、ここからのアテはあるのかしら?」
「……ええ」
 深慮の推理奥深くに潜りながら、イーリンは応える。
 今の彼女は、シャルロッテ=チェシャ直伝の探偵術も駆使し、蜘蛛の巣の主を探り当てることに特化させていた。
 何よりギフトたるインスピレーションは、『解答』へと繋がる情報を得るほどに、文字通り直感の如く知り得ぬことを知ることが出来る。
 だからこそ――
「来る」
 招待を受けるより前に、知ることが出来た。
「モリアーティより茶会の誘いに参りました。御同行願えますか?」
 それは30代の軍人めいた男だった。
「誰?」
「セバスチャン・モランと申します。あの方の片腕となった際に頂いた名です」
 丁寧に応えるモラン。
「……どうする? 私は、連いて行くつもりだけど」
「もちろん同行する」
「護衛ですから、連いて行きます」
 シャルロットとマグタレーナの同意を得て、イーリンは質の良いレストランに訪れていた。

「予想は外れたかね?」
「ええ。でも構わないわ。貴方に会う目的には辿り着いたから」
 先にテーブルについていたモリアーティに勧められ、イーリンと、シャルロットとマグタレーナは席につく。
「人が多いな。秘密の話をするには向いて無い」
 余計な被害が出ることを危惧しシャルロットが言った。
 同時に、ちらりとマグタレーナに視線を向ける。
(大丈夫です。伏兵はいません)
 超聴力とエコーロケーションで確認したマグタレーナは、軽く頷いて意図を伝える。
 それを見ていたモリアーティは言った。
「これは気が利かなかった。静かな方が好みだったようだね」
 そう言うと、紅茶の入ったカップをスプーンで軽く叩く。
 途端、全ての客と店員が店から出て行った。
「ただのハッタリだよ。予め部下を配置してただけさ。悪戯が好きでね」
 警戒する3人に向け、モリアーティは気軽い声で言った。
「さて、折角のお茶会だ。お喋りを楽しもう。聞きたいことが、あるんじゃないかね?」
「そうね。幾つかあるんだけど、まずは貴方に会ったら、ヨロシクと言っておいてくれと仲間に頼まれているの」
 イーリンは笑みを浮かべ言った。
「よろしくね、教授」
「ははっ、これはこれは――」
 刃物めいた笑みを浮かべモリアーティは応える。
「私の原典を知る者……いや、原典世界に類似した異世界出身者が居たのかな?」
「秘密よ」
「焦らすねぇ。しかしそうなると君達は――」
「探偵と軍医よ。お初にお目にかかるわね? 教授」
 シャルロットの応えにモリアーティは目を細め、マグタレーナに視線を向け言った。
「ならば残る君は、さしずめブラック・ウィドウかな?」
「失礼ですね。新婚ですのよ。貴方のような蜘蛛と同じにされたくありません」
「ははっ、これは失礼した。非礼の詫びに、質問には応えよう」
 これに最初に問い掛けたのはシャルロット。
「目的は、なに? 薬の量産は既に成っているのでしょう? 革命とか暴動が狙いでもなさそうだし。場所はいずれ炙り出すけど、となると原料? 追放した人間がどこに消えても知らぬ存ぜぬ、とか?」
「革命や暴動は手段だよ。私の目的は、自分が生まれてきた意味を成就することさ」
 訝しむシャルロット達にモリアーティは続けた。
「私はウォーカーだが、様々な世界から流れ込んできた空想架空が実体化する世界の出身でね。そして私の鋳型となった原典は『モリアーティ』。主人公を殺し物語を――世界を終わらせる者」
「……貴方、イレギュラーズを皆殺しにして世界を滅ぼしたいのね」
 インスピレーションで『解答』を知ったイーリンに、モリアーティは優しげな笑みを浮かべ応えた。
「そうだ。この世界の主人公は、恐らく君達イレギュラーズだろうからね。私の手段の全ては、結局の所、主人公を殺し世界を終わらせるための物さ」
「馬鹿げています」
 モリアーティの言葉に、マグタレーナが返した。
「絶望も悪夢も犯罪でなく人ではなく、犯罪の片棒を担ぐような輩にこそ降り掛かるべきでしょう?」
「然り。全くもってその通り」
 笑みを浮かべモリアーティは言った。
「それでこそ『主人公』だ。もちろん、ダークヒーローも、この世界では主人公だろうけどね」
 笑みを浮かべながら席を立つ。
 するとマグタレーナが、シャルロットとイーリンに言った。
「気をつけて。こちらに複数向かってきます」
「やり合うかね?」
「止めておくわ。折角のお茶会が台無しだもの」
「気が合うね」
 イーリンの言葉にモリアーティは頷くと、その場を離れようとする。
 そこにイーリンは言った。
「モリアーティ。さっき貴方は『私の目的』と言ったでしょ? 貴方以外もいるのね? その人達には何て呼ばれてるの?」
「……悪書仙花紙の犯罪小説(ペーパーバック・クライムノベル)のモリアーティ。原典になれない紛い物の名だ」
「そう? 悪書の名を冠する者に、司書が挑めるのは、なかなか洒落がきいているわ」
 そこまで言うと、モリアーティの反応を引き出すように、わざと感情を込めて言った。
「勝手に名を与えられるのは悪も勇者も変わらない。私、100万G近い借金があるのよ。きっと貴方も疲れている。違うかしら?」
「疲れているなら良かったけどね。止まることが出来る。だが、私は渇いているんだよ」
 僅かに感情を滲ませ、モリアーティは応えた。
「私は私であることを望む。これは渇望だ。本物になれない紛い物が、本物が成し遂げられなかった役割を成就する。それが私だ」
「遠回りな自殺ですね」
 マグタレーナは言った。
「もし世界を滅ぼせたとしても、その時は貴方も消え失せるでしょうに」
「肯定するよ。すまないね。私は別に君達が嫌いな訳じゃないんだ。むしろ好ましいが、止める気は無くてね」
「好きに言ってなさい」
 シャルロットが、さばさばした声で言った。
「貴方の渇望は叶えさせない。言葉で止まらないなら、拳で語るだけよ」
「拳闘かね? 素晴らしい。アレも好んでいたよ。バリツごと技術は盗んでやったが、こちらの世界では使う機会が無くてね」
 モリアーティは気安い声で応えると、その場を去ろうとする。
 そんな彼の背に向けて――
「また会いましょう、教授?」
 イーリンの呼び掛けに、モリアーティは一礼して、今度こそ去って行った。

 かくして依頼は終わりをみせる。
 それは、次なる戦いの予感を感じさせるものだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした!
皆様の活躍により、街の治安は改善され、事態は動き始めます。
領主は吹っ切れ、モリアーティは、よりイレギュラーズの皆さんに対して興味を持ちました。
なにがしら、動くことになります。
可能であればなんですが、関連する次のシナリオは、HARDのEXで出せればなと思います。
ただあくまでも未定ですので、NORMALの通常シナリオになる場合もあります。
それでは、今回はこれにて。
最後に重ねて、皆さまお疲れ様でした。ご参加、ありがとうございました!

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