シナリオ詳細
子を抱く双頭犬
オープニング
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伝承の外には、恐ろしいモンスターが居座り、住み着いていることは珍しくない。
見通しの良い草原地帯ですらも、一般人にとってはまともに歩くことすらできぬ魔境なのだ。
ウウウウ、ガルルルルルル……。
ガウウウウウウ、ガウウウウウウウ!!
草を踏みしめ、一気に疾走くるのは2頭の双頭犬。
まるで狂ったかのように、彼らは大きく首を振りながら地面を駆けていき、草原へと姿を現したウサギへと喰らいかかる。
その勢いは止まらず、ウサギは瞬く間に骨と化してしまう。
ただ、双頭犬は肉を一切れ残しており、それをくわえて歩いて行った先……草原に掘られた巣穴にいたのは、小さな双頭の犬。
キャウウ、キャアアウウウ。
2頭の双頭犬に肉を与えられ、子犬は2つの頭で肉を取り合い、美味しそうに喰らっていく。
その間にも、ぴくりと動く双頭の耳。
縄張りへの新たな侵入者を察知した片方の双頭犬が2つの首から業火を穿きかけて牽制する。
逃げていたのは、死肉を喰らいに来たと思われるハイエナ3体。
飛びのいて炎を避けていたそれらだったが、地中から飛び出した蛇が1体の体へと喰らいついた。
アオオオオオォォ……!
ハイエナが抵抗する間に、もう1体の双頭犬が牙を剥き、他のハイエナを逃さじと牙を突き立てる。
その双頭犬、オルトロスは如何なる生物も逃さない。命尽きるまで、猛然と攻撃を仕掛けるのみだ。
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『Rapid Origin Online』……略称『R.O.O』。
混沌にも似たネクストなる仮想世界へとダイブしたイレギュラーズ達は、幻想を模した伝承なる国の街路へと立っていた。
「ログイン、完了したようですね」
笑顔で微笑む女性は、現実と変わらぬ姿で出迎える『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)だ。
まだ、仮想世界というものが良く分かっていないこともあってか、彼女は自分に近い姿でアバターを登録したようである。
そんな彼女も、イレギュラーズのアバターが現実とは異なる姿だったのにはかなり驚いていた様子。
「ちょっと、私もキャラメイクというものに興味が湧いてきました」
それはさておき、見慣れた光景でありながらもどこか違ったネクストは、混沌とは非なる世界。
元々は、練達科学者が元の世界へ帰還を目指すべく、混沌の法則を研究する為に作られた仮想世界とされる。
ただ、この世界は予期されぬエラーが発生しており、ログイン中のプレイヤーが閉じ込められるなど問題が多数発生している。
「混沌……現実世界との差異も気になるところですが、そうした人々の救出は急ぎたいところです」
そこで、アクアベルはとある商人を紹介する。
伝承で商いを行う彼は他の国へと向かいたいのだが、オルトロスが草原地帯に住み着いてしまい、通行ができなくなったので討伐してほしいと依頼してきたのだ。
ローレットのないネクストでは、こうしたNPCによる依頼は珍しくないとのこと。それに加え、アクアベルがこう話す。
「実は、その双頭犬は子供を抱えているようなのですが……」
この子供の正体がどうやら練達の研究者が強制的にアバターとされた姿らしい。いわば、依頼の成功報酬といったところだろうか。
『R.O.O』ではこうした形で、現実世界の人を救出することもある。
今回は事前に救出対象がわかっているからいいものの、下手をすれば救出が困難になる可能性もある。慎重に行動したいところだ。
「また、現実の敵と比べ、敵の強さが異様なことも分かっています」
他の依頼状況を見るに、アバターが死亡するのは珍しくないそうだ。
現状、現実世界の自分自身のパンドラに影響はないが、今後どうなるかまで保証はない。ネクストで起こっているエラーの解明はこれからなのだ。
「オルトロス討伐も、なめてかかればそれだけで死亡すると思われます。……くれぐれもご注意を」
アクアベルは敵データを各メンバーへと送信し、この依頼をメンバー達へと託すのである。
- 子を抱く双頭犬完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月27日 19時00分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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依頼を受けたイレギュラーズのアバター達は伝承……レジェンダリアの王都を出て、丈の低い草が見渡す限り広がる平原地帯へと至る。
現実世界であれば、捜索すべき人物はそれなりに分かる。
ただ、赤い翼を生やすくのいち姿の『死神の過去』ミーナ・シルバー(p3x005003)はこの世界……ネクストでは勝手が違うと感じて。
「まいったもんだね。何をどう探していいのか見当もつかねぇや」
とはいえ、それでもやるしかないとミーナは気合を入れる。
「かみだよ、いつも見ているよ」
神々しさを感じさせる『R.O.Oの』神様(p3x000808)にとって、これは下界平定の為の第一歩。
今まで、神が隠れていたからこそ、この世の秩序が乱れてしまったと神様は語る。
「しかしてもう安泰だ。そう、神が来た」
神様もそうだが、アバターとしてこの地にやってきた『R.O.O』参加メンバーはネクストの救世主となるのか否か。
さて、今回の一行の目的は。
「目的はオルトロスの子犬の外見をした練達研究者の保護です」
オーソドックスな女性戦士といった印象の『志屍 瑠璃のアバター』ラピスラズリ(p3x000416)は普段無口だが、仲間に確認すべくそう一言確認の為に発した。
ラピスラズリにとって、今回の依頼は獣の巣に潜って子を攫うという行為は危険な上、気分も良くないのだが、そうも言ってはいられない状況である。
「にゃはは、モンスターの子供に配役されちゃうなんてアンラッキーだね?」
小さく笑う『野良猫』みゃーこ(p3x009529)は自ら黒猫の姿を選んでいるわけだが、研究者にとってはとんだ災難に見舞われて笑い事ではないだろう。
「……つまり……『ログイン先』を、NPCという器に強制的に指定されている、という事かしら」
この仮想世界の状況について、リセリア(p3x005056)が理解を深めようとするが、困った状況を放置するわけにはいかない。
「ログアウト不可からの強制アバター変更で双頭犬化かぁ」
『虚花』リラグレーテ(p3x008418)が研究員の気持ちを推し量ろうとするが、オルトロスになどでなく本当の意味での保護を求めているに違いない。
「双頭の犬、神話に出てくる怪物一家の一体、だったかな?」
ミーティア(p3x008617)が言う様に、一般的な知名度は3つの頭がある地獄の番犬ケルベロスの方が上だろう。
彼女は仲間達へとどっち派と聞いていたが、それはさておき。
「2頭居て子犬もいる、つまりは番なんだろう、どちらがオスかメスなのかそれとも特に関係ないのか……」
「する事は変わりませんが、遭難者救助に近い感覚ですね」
改めて、ミーティアは今回の状況を分析し始めていたのだが、ラピスラズリが心か前について口にして。
「オルトロスの子供のアバターになってしまったのは不幸中の幸いかもしれませんね。人の姿をしていたら今頃胃袋に収まっていたでしょうし」
「オルトロスたちにとっても、大事な子供なのでしょうからね」
紺の髪をミドルショートにした『霞草』花糸撫子(p3x000645)も同意する。
「ただ、危害を加えられる可能性が低いのは良いとしても、逃げる事が出来ないのは本当にどうしようもない」
リセリアのいう様に、実状として研究者は半ば拘束にも等しい有様だ。
リラグレーテは研究者がオルトロスに情が湧いてないかと憂慮しながらも、いつ戦いになってもいいよう準備を整える。
「始めましょう」
――今日という日の花を摘め。
明日、彼の命があるとは限らない。この瞬間を有効に使うべきだとリラグレーテは仲間達へと呼びかける。
「ん? はいはい、ちゃんと仕事はするとも!」
「ともかく、ちゃちゃっと助けてあげないとねー」
「囚われたまま抜け出せぬ悪夢から、民草を 研究者達を我々が救おう」
それにミーティア、みゃーこが返事すると、神様もまた己の意を示して子犬の……研究員の救出へと臨むのである。
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一区画が丸ごと双頭犬……オルトロスのテリトリーとなっている平原。
このどこかにオルトロス2体がその子供のアバターとなった研究員を抱えるか、どこかに安置しているとのこと。
まずは、参加メンバー達も、オルトロスと含めてその子供の捜索に当たる。
「この平原なら、恐らく遠くからでも見つける事は出来る筈」
「どこにいるかなー」
リセリアに同意するみゃーこは視覚だけでなく、保険もと猫の嗅覚、聴覚も生かしてオルトロスの発見に努める。
どうやら、オルトロス2体は別行動している様子。みゃーこも注意してそれらの位置の特定を急ぐ。
また、リラグレーテとミーナが空高く上昇し、平原を見下ろしてある程度状況を把握する。
いくつかある巣穴らしきものをチェックしていくリラグレーテは人助けセンサーと欲望感知を働かせる。察知するのは、『助けて欲しいという意思・欲望』だ。
「……あれでしょうか」
巣穴候補の真上を飛行していたリラグレーテがすやすやと眠りにつく双頭犬の子供と、それを見守る1体のオルトロス。もう1体は見回りに出ているのだろうか。
「無駄だとは思うが……」
万一返答があれば儲けものとミーナはテレパスを使って研究員へと呼びかけようとするが、残念ながら返答はない。目覚めていれば、あるいは何か反応があったかもしれないが……。
飛行メンバーの先導を受け、ラピスラズリを始めとした地上からゆくメンバーがその巣穴を目指す。
「ともあれ、慎重に近づきましょう。なにしろオルトロスは2体いるのですから」
片方が子を守りつつもう片方が侵入者を追い払うなど、オルトロスは役割分担しているかもしれないと、ラピスラズリが仲間達へと注意を喚起する。
「どうにも、双頭犬は強敵なようだねぇ?」
ミーティアは仲間の案も纏め、2本立ての作戦を纏める。
A:双頭犬の子供を発見、確保した段階でそれを神様に託し、残った7名でオルトロス2体の足止めを行う。
B:オルトロス2体を倒さなければ救出可能フラグが立たない場合、全員で総力戦を行い討伐する。
「もう1体の出現を考えれば、迂闊には動けぬな」
神様が懸念するように、子供を抱えた神様が狙われれば、作戦の意味がない。
その為、この場は敵を引きつけるべくリラグレーテがアクセスファンタズムによって、巣穴傍でくつろいでいたオルトロスの怒りを増幅させる。
ガルルルルル……!
2つの顔が同時に唸り、リラグレーテを威嚇する。
「さあ、鬼さんこちら! 今回ばかりは逃げるが勝ちです」
家族に危機が迫れば、もう1体は必ずやってくると、メンバーは疑わない。
「オルトロス、来るよー」
その間に、みゃーこは風で感じる獣臭からもう1体の接近を感じ取り、それを仲間達へと伝える。
「手筈通りになりましたね」
リセリアもまた邪魔なオルトロスの引き付けをと刀に手をかける。
「オルトロスたちも大事な子供、なのでしょうけれど……私たちにとってもその子犬は助けてあげないといけない存在なの」
撫子は牙を剥くオルトロスらへと呼びかける。
子を親から引き離すのは……不幸なこと。だけど。
「その子犬を返してもらうわ!」
そうしないと、不幸になる人がもっといるはず。
だから、撫子は身構える仲間達がオルトロスへと向かう仲間達と共に並び立ち、歌を紡ぎ始めるのである。
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神様が神の目を使って状況を注視する中、他メンバーが飛び掛かる双頭犬の注意を引きつけて。
「どちらの案にせよ、子犬を確保できればいいんだよね」
適度に敵から距離をとるミーティアは、周囲へとフルートの音色を響かせる。
そのスキルに、識別の能力はない。ミーティアは前線の仲間を巻き込んでしまわぬ様、注意しながらオルトロスの動きを止めようとする。
「まずは、オルトロス2体の動きを封じないとな」
ミーナも対する相手の動向を見回す。個別に立ち回るオルトロスは縄張り内に立ち入った仲間を、自分を敵視し、全力で排除に乗り出してきている。
可能なら2体を纏めて狙いたいところだが、状況はこちらに味方してくれないと察したミーナは仲間を巻き込むことなく、かつ欲張ることなく1体のみを間合いに捉えて蜘蛛糸のようなものを張り巡らせ、呪いで縛り付けんとする。
「――さあ、私達は貴方達の敵です。お相手願いましょうか」
リセリアもこの場に揃った2体を纏めて自分達に注意を引きつけようと、四聖刀『陣』の刀身に気を込め、裂帛の気合から元々巣穴の傍にいた1体へと遠当ての一撃を打ち込む。
ガルルルルルル……!
2つの顔がリセリアを睨みつける。その意識はすでに子供から離れていたようだ。
まだ、子供は巣穴の中で眠っているのをみゃーこは視認して。
「ボクらがちゃんと助けてあげるから、安心してねー」
一言声をかけるみゃーこは、子犬さえ逃してしまえばボクらの勝ちと、見上げんばかりの体躯のオルトロスへと果敢に飛び掛かっていく。
「その子はキミらのホントの子供じゃないんだよねー、まあツガイなのかは知らないけどさー?」
ガウウウ、ガウワアアアアアウ!
オルトロスは2つの頭から炎を吐き出し、メンバー達を焼き払おうとする。
「武装<メイクアップ>!」
自らへと空想弾を撃ち込み、姿を変えるリラグレーテは、メカニカルな長槍杖、ブレイブハートアサルトカスタムを手にする。
「貫き徹せ、ナハトケルツェ!!」
勇猛と希望を胸に抱くリラグレーテは仲間が子供を確保する隙を確保すべく、相手の足を狙って空想弾を撃ち込んでいく。
グウウ、ウウウウウウ!!
接近してくるオルトロスは脚を貫かれ、僅かに恍惚とした表情も見せるが、子供を守ろうとなおも疾走してくる。
(研究者さんの救助を優先しないといけませんね)
ラピスラズリも、研究者を確保して大きくオルトロスから引き離すまではと、奇怪なる刃「魅剣デフォーミティ」から斬撃を飛ばす。
「ここは我々に任せて、早く先へ進んで下さい」
ラピスラズリは攻撃直後、仲間達へと呼びかける。
一方で、体に多少傷を負ったオルトロスではあるが、全く怯む様子を見せない。どうやら、かなりのタフネスを持っているらしい。
ラピスラズリとて、倒せる敵であればこのまま力押しで攻めていたことだろう。
ただ、『R.O.O』に出現する敵は相当な強さを有するという。
(死に戻りも可能かもしれませんが、積極的に試したくはないですね)
引き付けもそこそこのタイミングで、ラピスラズリもまた離脱を考える。後は、仲間達の……とりわけ神様が作戦を実行するのを待つ。
撫子はというと、仲間が敵の注意を引いていることもあって、音のヴェールを纏ったまま新たな歌でオルトロスの体力を削ぐ。
グルアアアアアッ!
苦しむオルトロスはなおも空中へと身を躍らせ、メンバーへと襲い掛かる。
神様はそんなメンバー達とオルトロスの交戦状況を見回し続けていて。
「子を思う親というのは美しくある のだが」
今ならいけると判断した神様は巣穴へと近づき、敵の間隙をついてオルトロスの子供を抱きかかえる。
後は極力離脱をと、この場のオルトロスを振り切るのみ。
神様は全力で、子犬を連れて巣穴から離れていくのである。
●
今は思いっきり戦ってオルトロスを抑える。
相手の力はかなりのもの。参加メンバーは麻痺、呪縛と動きを制しつつ子供から気を逸らす。
「呪縛が効けば……」
明らかに巣穴の近くにいたオルトロスの動きが鈍い。
ならばと、ミーナは戦法を変えて。
「ちーっとばっか、この毒はきついぜ? 覚悟しとけよ!」
ミーナはそのオルトロスへ目掛け、毒苦無を投げ飛ばす。
まともに対すれば、瞬く間に倒れてしまいかねない。
だからこそ、リセリアはまともに戦わず、被害を最小限に軽減させることを念頭に置き、凍てつくような剣閃と紫電を纏わせた刃を見舞い、相手を弱体化させながら戦う。
仲間達からかなり距離を置く神様。現状であれば、自身が一番健常だと確信し、できる限り距離をと離脱をはかる。
ただ、巣穴から離れる1体は子供が奪われたことに気付いてしまった。
グルルルル、グルアアアアアアアアッ!!
怒り狂うオルトロスは業火を吐き出し、メンバーの体を丸焼きにしようとする。
「キミたちには悪いけど、その子は貰ってくねー」
それをさせじとみゃーこが立ちはだかる。こちらの目的が知られた以上、隠す必要もない。
「ボクらもお仕事だからー、まあ弱肉強食ってやつー? 猫に食べられるワンちゃんって珍しいかもしれないけどね、にゃはは!」
集中するみゃーこは笑いながら、2つの頭を持つ野犬に喰らいかかろうとする。
「猫の恨みは怖いよー。そんじゃあ、復讐行っちゃおっかー? しゃー、にゃにゃおん、ってねー!!」
その傷は一時的にみゃーこへと比類なき力を与える。
ただ、この世界の歪さは時にそれだけではどうにもならない理不尽さがあって。
地中から出てきた蛇がみゃーこへと噛みつき、その意識ごと噛み砕いてしまう。
(やはり、あの蛇尾は危険です……!)
敵はすぐ地中に蛇尾を埋めてきた為、リラグレーテはそちらを警戒しながらも再び前脚を撃ち抜いて本体の動きを止める。
しかしながら、もはや押さえつけるのも難しいほど荒ぶるオルトロスは前脚が動かぬ程度では止まらず。蛇尾を出現させたことで注意を引いたリラグレーテの体へと連続して噛みつき、戦闘不能へと陥らせた。
その間に、巣穴近くにいた1体は、メンバーの制止を振り切って神様を追いかけようとする。
(応戦する他あるまい)
巨躯のオルトロスは見る見るうちに距離を詰めてくる。
「お歌がお好き? ほら、こちらにくれば、もっと聞かせてあげる!」
そこで、撫子が声を出す。
――『Sussurando』。
周囲へと旋律を響かせることでオルトロスを引き付ける。
「地中から来るにしても、ワープしてくる訳じゃないだろうし、土に潜る動きさえ気付ければ警戒は出来るだろうしー?」
蛇の尾が地中へと埋まったタイミングを、ミーティアは見逃さない。
相手の動きは確かに早いが、自身や仲間が苛む異常によって時折硬直している。運が良ければいけるはずだ。
「バリカンをかけられた犬の如く、ガリガリにしてしまおうじゃないか」
相手の気力を削げば、離脱することだってできるかもしれない。ミーティアは地中からくる蛇の尾を警戒しながら、黒銀のフルートを吹く。
直後、具現化した魔法の矢が一気にオルトロスの体を穿つ。相手の気力を大きく削ぎ、炎すら吹けぬ状態にしてしまおうと、ミーティアはなおも攻め立てる。
(まだ、足りません……)
ラピスラズリももう1体へと剣と盾で応戦し、相手の態勢を崩してその動きを縛り付ける。
多少の反動は考慮の上、ラピスラズリはさらに攻め立てる。
ミーナも至近から全力で大戦斧『ヴァルガング』を叩き込み、オルトロスに傷を増やす。
ただ、メンバー達の消耗は敵以上に激しい。
荒く息をしながら戦い、倒れぬオルトロスと交戦し続ける仲間達の様子を撫子は察して。
「あら、アンコールをご所望なの? いくらでも歌ってあげましょう!
彼女は再び魔力を籠め、『Sussurando』を歌う。今一度、オルトロスを引き付ける為に。
「皆、行って! 私が倒れる間に逃げ切れたなら皆の勝ち。オルトロスが諦めても皆の勝ち、よ!」
「皆は先に撤退しろ! ここは私が止める!」
撫子の声を聴き、リセリア、ラピスラズリ、ミーティアと撤退へと転じる中、ミーナは並び立つ。
ただ、仲間の数が減れば、それだけこちらの消耗は早まる。
そこそこのタイミングと判断したミーナが反転して走り出すと、撫子もそれに続こうとした。
しかし、この場に残るはすでに彼女1人。多少動きが鈍ろうとも2体のオルトロスに挟まれれば逃れられない。
退路を探る撫子だったが、逃げ切れぬと察して。
「ごめんなさいね。あなたたちに非はないの……だけれど、私たちも譲れないわ!」
再度、魔力の込められた声を響かせる撫子へ、4つの首が迫る。
しばし、それらの口が開閉を繰り返し、
直後、硬直したそれらにミーナは呪縛が効いていると確信し、倒れる仲間の姿にも、気丈にこの場から離れていく。
その間に、神様はオルトロスの縄張りの外まで逃れて。
「これでもう、安泰だ」
すやすやと眠ったままの双頭の子犬は反応しない。
ただ、その寝顔は幾分安らかなものに見えたのだった。
●
オルトロス達のテリトリーから逃げられたことで、『R.O.O』参加メンバーの……イレギュラーズの目的は達せられた。
「後は、この子をサクラメントまで……」
リセリアは保護したオルトロスの子供を目にして、今の研究員の状態について調べられると興味を示す。
とはいえ、それも安全な場所へと至ってから。
新たなモンスターに襲われるとも限らぬ状況もあり、激闘を潜り抜けたメンバー達は王都を目指すのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。ROOシナリオ、いかがだったでしょうか?
MVPはオルトロスの発見と抑えに当たり、子供の保護の時間を稼ぐきっかけを作った貴方へ。
今回はご参加、ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
『Rapid Origin Online』のシナリオをお届けします。
●目的
双頭犬の子供の保護(練達研究者の保護)
●敵
○オルトロス×2体
全長4mもある蛇となった尾を持つ双頭の犬です。
番なのかどうかは不明ですが、縄張りに入った者に対しては容赦なく攻撃を仕掛けてきます。
素早い動きで喰らいかかってくる他、2つの口から炎を吐き出し、長く伸ばした蛇の尻尾を地中から襲い掛からせてくることもあります。
子供がどこにいるかは不明です。巣に残したり、抱えながら戦ったりと敵は状況によって子供をどうするか考えて行動するようです。
●NPC
○オルトロスの子供×1体
全長1mほど。見た目は双頭の子犬といった見た目です。戦闘能力はありません。
しかしながら、その正体は『Project:IDEA』に携わり、R.O.Oの研究を行っていた練達の技術者のアバターです。
●状況
伝承の平原を闊歩しているオルトロスは、その一帯を縄張りとしており、人はもちろんのこと、鳥獣、モンスターですら近づけぬようにしています。
子供がどこにいるかは不明です。
草原の一か所にある巣穴は子供のみが入る程度の規模で、オルトロスはその周囲で眠っているようです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
それでは、よろしくお願いいたします。
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