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シナリオ詳細

雨上がりにまた【あお】う

完了

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オープニング

●旅立ちの日
 ガタゴト揺れる車内で、青年はうたた寝をしていた。乗車してからどれほどの時間が経ったのか正確には分からない。
 けれども身体が降りる場所を覚えていたりして、車内アナウンスの声にゆっくりと目を開いた。
『ご乗車いただきありがとうございました。次はXX駅――XX駅――』
 覚醒しきらない意識のまま手すりを頼りに座席を離れ、曇天のホームへと降りる。

 ぽつ――と雨が頬をうち、その時彼は足りない物に気がついた。
 振り返ればドアのしまる音。窓越しに見えたビニール傘は、別れも告げずに旅立った。


 置き去りにされた傘を誰も気にする様子もない。揺れるつり革は波のように揺れ、人々を運び、長旅の果てにその一本は――"終点"へたどり着いた。

「ようこそ、私達の最果てへ。主人との別れは惜しいかもしれないけれど、すぐに慣れるわ――だってここは楽園ですもの」

●雨音に微睡む世界
「君たちに新しい異世界の調査をして貰いたい」
 集まった特異運命座標を前にして『境界案内人』神郷 黄沙羅(しんごう きさら)は革張りの古びた本を取り出した。
 曇天を封じ込めたような灰色の表紙には「あまざらしの国」と記されている。

「持ち主と離れ離れになった傘達が迷い込む、人間の視点で言い換えてみると"墓場"のようなものか。
 彼らの安息の地である以上、化け物の類は出て来ないと思うのだけど……一部の境界案内人が興味深い報告をあげてきてね」

 何でも、その世界で心ひかれた傘を開くと、幻を見るそうなのだ。

 曰く、雨の日の思い出。
 曰く、貴方に使われているという傘の霊。
 曰く、この世界の"墓守"との出会い。

「このように見た幻が人によってバラバラで、どれが嘘なのか――あるいは全てが本当なのか、まったくもって判断がつかない。
 どうだ特異運命座標。探究心の深い君たちなら、引き受けてくれるだろう?」


 雨が振り続ける曇天の世界で、閉じられた傘は静かに折り重なり微睡みの時を過ごしている。
 そんな傘だらけの山が見渡す限り無数に続く寂しい場所に、貴方は足を踏み入れた。

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 電車の中に傘を忘れるの、あるあるですよね。

●できる事
『あまざらしの国』を冒険する事ができます。
 恵みの雨が常に降り注ぎ、無数の傘が山をつくる、どこか終末感の漂う静かな異世界。
 辺りの様子を伺っている貴方にも、きっとお気に入りの傘が見つかる事でしょう。
 試しにその傘を開いてみると――

 追憶の傘
  貴方の雨にまつわる記憶が幻となって目の前に現れます。

 主従の傘
  貴方が普段使っているorかつて使っていた傘の霊が、
  人間のような姿をとって貴方へ話しかけてきます。

 墓守の傘
  この世界の墓守を自称する傘の精霊「テマリ」と話す事ができます。
  髪に紫陽花の小さな花を散りばめた青い瞳の女の子。皆さんに興味津々で非情に有効的です。


 名もなき傘
  その他、貴方が「こういう幻が見れるかもしれない」と思った幻が現れるかもしれません。

●書式
一行目:同行タグ(無い場合は空白)
二行目:どんな見た目の傘を選ぶか(お任せも歓迎です)
三行目:本文

●その他の登場人物
『迷える導』神郷 黄沙羅(しんごう きさら)
 謎多き境界案内人。浅黒い肌に金色の瞳をした男装の麗人です。今回皆さんをこの世界に案内した人物で、必要があればサポーターとして登場します。

その他、芳董担当の境界案人は呼ばれれば出てくるかもしれません。

 説明は以上です。それでは、よい旅路を!

  • 雨上がりにまた【あお】う完了
  • NM名芳董
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年05月20日 16時10分
  • 章数1章
  • 総採用数5人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

 しとしとと降り止まぬ雨の中、二張の和傘が広がり、ゆっくりと動き出す。
 片や青藍、涼し気な色の史之の大きい傘。片や蘇芳、渋い赤色の睦月の小さい傘。
 奇しくも同じデザインで、二つで一組、夫婦茶碗に似た調和が取れている。
「なんだか懐かしい感じの傘だね。でもこれ、僕が持ってた傘じゃない。しーちゃんは何か覚えてる?」
「『ううん、何も」』
 声に出して"お互い"目を丸くした。
 史之とそれからもうひとり。柔らかな光を帯びたその存在に、睦月はぱぁっと目を輝かせる。
「もしかしてあなたが傘の精霊?」
 首を縦に振る少年は、いつの日の思い出か――はふりの衣装の史之少年。
 傘がひとまわり小さいのは、子供の頃に使っていた傘なのかもしれない。
「ああそうだ。雨が降るといつもしーちゃんに傘をさしてもらっていたね」
「思い出した? カンちゃんを雨から守るのは俺の役目でしょう」
 ぽっと出の精霊なんかに立場をとられるなんて、もの凄く不本意だ。
 史之が睦月を大きな傘に入れようと身を寄せはじめれば、史之少年も小さな傘を手にして真似をする。
『俺だって、カンちゃんを雨から守る役目だ』
「『真似するなよ」』
 睨めっこが始まると、睦月はふふっと小さく笑った。
「二人ともそんな不機嫌な顔しないでよ。大きいしーちゃん、右手をどうぞ。小さいしーちゃん、左手をどうぞ」

 手を繋いで傘と傘を重ねれば、きっと守れる大切な人。

「ねえ、しーちゃん」
「『なに?」』
「なんでもない!」
「何だそれ…」『本当に?』

 しーちゃんって呼ぶとふたりとも振り向くの。なんだか楽しい。両手に花ってこんな感じかな。
 子供の頃のしーちゃんが、いまの精霊さんと同じなら…あの頃も僕を、大切にしてくれていたんだ。

『カンちゃん、何であんなに楽しそうなの?』
「さあね。……睨み合ってもどうしようもないし、カンちゃんのご機嫌がいいから、まあ許してやる」
『俺だって許してやってもいいけどさ』
 眼鏡の奥から、丸みを帯びた幼い瞳が見ている。逸らす事もなく、真っ直ぐに。

『大人の俺は、ちゃんと気持ちを伝えられた?』

 史之は一瞬、面食らったような顔をして。
「――…胸の奥に仕舞い込めるほど、簡単な恋じゃなかった」
『当たり前だ。本気なんだから』

――でも……それを聞いて安心したよ。

 史之少年が蛍のような光の粒子に成り代わる。史之の身体を掠め、睦月の頬を撫でてから、曇天の空に舞い上がる姿を見届けて――

「本当に不思議な世界だ。なんだか廃棄場のような場末感を抱くね。
……ここって本当に楽園なの、テマリさん」

 傍らに現れた"墓守"の精に史之は静かに意識を向ける。

『もちろんよ。あの子はずっと貴方と一緒に睦月を守った傘ですもの。そして貴方に救われた』
「精霊があんな姿をとるのは、傘を持って帰ってもらうため? そうだとするのなら策士だね。
 でも、この和傘は持って帰らないよ。思い出に振り回されるのはかなわない」

成否

成功


第1章 第2節

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

「傘の墓場、か」
 アーマデルが見渡す限り、どの傘もまだ使えそうな物ばかりで壊れている形跡はない。
(必ずしも役目を終えたという訳ではないのだな)
 主人に置き去られたものだろうか。その一本は不思議なほどにアーマデルの手によく馴染んだ。
 烏の塗れ羽のように漆黒の、シンプルな黒い傘。

 開けばパラパラ傘地に雨粒が当たり、遠い日の記憶を呼び起こす。

 故郷は乾季には全く降らず、雨季は集中豪雨が降った。
 砂礫の大地を叩く豪雨。
 廃屋に身を寄せ、ずぶ濡れの外套を絞る。

 傘などさす余裕もない。屍人狩りのため編成された『半人前』のチームには、明確な悪意があった。
『半人前』は異物を疎外し、リーダーは足手纏いを削る。

「ぃやだ、死にたく…な……助けて、リーダー…」
「屍人は似た形質の器(血縁)を優先して襲う。お前はもう助からない。……それは俺も同じ事か」
 命乞いをする仲間を殺め、リーダーと呼ばれた男は開いた腹の傷を押さえる。

"そう"なるべきは足手纏いの俺だった。
 目の前に現れた男が幻だと頭では理解しても、考えずにはいられない。

 深い絆が死に際して相手を道連れにする土地で、そうとは知らず『運命の糸』を振り払った。
(……往くべき処へ逝けたのだろうか)
「――アーマデル!!」

 幻の方へ一歩踏み出した瞬間、後方から声がした。赤斗がアーマデルの腕を掴んで引き寄せる。

 眼下には、底の見えない深い崖がぽっかりと口を開けていた。

成否

成功


第1章 第3節

ハク(p3p009806)
魔眼王

「この傘…ハクとおそろいなのです!」
 その手に握った白い傘は柄にチェーンが付いていた。黒い鎖を指に絡めチャリチャリと擦れる音を楽しみながら、下はじきをシャフトへ押し込む。
 広げた傘を肩にかけたところで、ふと――眼の前へ紫陽花を髪に散りばめた少女が立っているのに気がついた。
「こんにちは。貴方と私、素敵な雨の日の出会いに感謝しましょう。
 私はテマリ。傘の精霊。この世の墓守にして守り人よ」
「テマリ様は傘の精霊なのですか! 初めまして、ハクは魔女見習いのハクなのです!
 時操りの魔女のアガレス様の一番弟子なのです、えっへん!」
「まあ! とっても素敵ね。時操りなら、時を進めたりできるのかしら?
 紅茶を淹れる時、お茶を蒸らすまでの時間が私とってももどかしくて!」
 無邪気が打ち解けるにはそれほど時間も必要なく、二人で一本の傘に入りながらあっちこっちを冒険しながら、互いの世界の話に花を咲かせてゆくのだった。
「この『あまざらしの国』は中々興味深い所なのです。想いが宿った傘達の終焉の地。彼らの想いをここで眠らせておく場所…テマリ様はここの墓守と聞きましたがどうしてそんな役をやっているのです?」
 興味津々なのです! と目を輝かせるハクに、テマリは柔らかな笑みで寄り添う。
「"さす人"がいない世界は、傘もきっと寂しい…そう思ったからここに居るの。
 本当の私は雨の精。長い時間、彼らと一緒に過ごし続けた友だから」

成否

成功


第1章 第4節

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚

「傘は…さすだけが、役割ではないと、思いますの」
 それははじめ、さされるための物だったのかもしれない。
 けれど一生を終えた今、それだけに囚われる必要はないのだ。
『ふふっ。面白い子ね』
 ノリアの考えを聞いて、積み上げられた傘の山の中、その一本は楽しそうにぼんやりと淡い光で輝いた。
『傘はさすもの。それ以外にどんな素敵な事が出来るのかしら?』
「それは――」

 ばさっと傘が大きく開き、雨の中で逆さに設置される。
 やがて中には雨水がたまり、溢れるほどに満たされて――それはまるで泉のように、いのちの集まる場所になった。
 カエルが飛び込みすいすい泳ぎ、露先でとんぼが羽を休め。
『知らなかったわ。この世界に生き物がこんなに沢山いたなんて!』
「誰しも、傘を、手に入れたとき…さかさにして、逆に、水をためてみたいと、おもうもの
 ここの傘は、そんなふうには、おもわないのでしょうか…?」
『考えた事もなかった。傘は普通、雨除けに使うものだもの』
「それでも、わたしは、海種ですから…雨は、避けるものなんかではなくて、受けいれるものであって、ほしいですの」

 あふれ出る水が、泉のように
 すべてを、やさしく、つつみこむように
 そして、願わくば…あらたな命を、中に、はぐくんでくれますように

 目を閉じて祈るノリア。その頬を誰かが撫でたような気がした。
『貴方の想い、私はこれからも大切にしたい。……新しい生き方を、ありがとう!』

成否

成功

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