シナリオ詳細
ジェッタントと終わらない結婚式
オープニング
●
レジェンダリア伝承王国が王都の賑わいを見せるその一方、王都郊外に位置する貴族領地ジェッタントではまた別の賑わいがおきていた。
「タントさまおめでとう!」
「ジェックさまおめでとう!」
「「おめでとう!」」
並ぶ人々の列の中、祝福のライスシャワーがまかれ、二人の白いドレスを纏った女性が手を繋いで歩いて行く。
今日は伝承貴族タントと同じく伝承貴族ジェックの結婚式が執り行われていたのである。
領地に建設されたお城からはパレードが繰り出し、馬に引かれたゴンドラに乗った二人は手を振って祝福にこたえた。
すばらしきすばらしき、よきひ。
空を白い鳩の群れが飛び、楽団がウェディングミュージックを奏でコーラス隊が歌う。
一日中誰もが笑顔で、どこもかしこも賑やかで。ごちそうがいっぱいの。
そんな、風景が。
「幸せな日が、いつまでもいつまでも、続きますように」
空にパキリとひびが入り、名前のない色の光が降り注ぐ。
異変に思わず顔をあげ、タントを抱き寄せるジェック。
光があたりを包み込み、そして――。
「タントさまおめでとう!」
「ジェックさまおめでとう!」
「「おめでとう!」」
並ぶ人々の列の中、祝福のライスシャワーがまかれ、二人の白いドレスを纏った女性が手を繋いで歩いて行く。
今日は伝承貴族令嬢タントと同じく伝承貴族令嬢ジェックの結婚式が執り行われていたのである。
領地に建設されたお城からはパレードが繰り出し、馬に引かれたゴンドラに乗った二人は手を振って祝福にこたえた。
すばらしきすばらしき、よきひ。
空を白い鳩の群れが飛び、楽団がウェディングミュージックを奏でコーラス隊が歌う。
やがてパレードは名も無き色の光りに呑まれ、祝福のゲートから再びはじまっていく。
パレードは続く。
続き、続いて、365日目のパレードが始まった。
●パレードはいつか終わる
幸せな時間がいつまでも続いたらいい。
そんな空想を、誰もが抱く。
ここROO内の仮想世界ネクストにおいてさえそれは例外ではない。
しかし誰も気付かぬまま、永遠に幸せな日々が続くだけの空間は、はたして本当に幸福だと言えるのだろうか。
「どうなんだろうね……どうおもう、タント?」
ROOのログイン装置を前に、チョコレートパイをかじったジェック・アーロン(p3p004755)。
チョコパイにホイップクリームのせたら悪魔の味になることを発見してリスみたいにもふもふ食べていた御天道・タント(p3p006204)が、ハッとして顔をあげた。
「それは……」
「興味深い議論だが、先に話したいことがある」
会話を遮るようにして、椅子の上に腰掛けていた『希望ヶ浜学園校長』無名偲・無意式(p3n000170)が口を挟んだ。
ポケットから取り出す写真は一枚。
眼鏡をかけた茶髪の少女と、金髪でネイルアートの派手な少女。印象は対局だが、二人は手を組み頬をよせて大判のプリントシールに写っていた。
デコレーションは少なくピンクのラメマーカーで大きなハートだけが書かれた写真だが、しかしジェックとタントには一目でその意味が分かった。
ハートの中央で深く指と指を絡めたその手が、よせた頬の赤らみが、二人の恋仲を強く確信させたのだ。
「二人は希望ヶ浜分隊……まあつまり、ROO研究のために派遣されていた希望ヶ浜ゲーム部の部員だ。不明なバグが生じ始めた頃、その原因究明のためにネクストへログインしていた。
だが大規模なバグに巻き込まれ、二人はネクスト内の……そう、ここだ」
空間に立体投影したマップを指で器用に操作すると、校長はピッとある一点をマークした。
レジェンダリア伝承王国、首都郊外――領地ジェッタント。
「領主タントとその妻ジェックとして、この世界に取り込まれ囚われてしまったようだ。お前達への依頼内容は、この二人の救出……だが、その手順が少々厄介でな。すこし、頭をやわらかくして聞いておけ」
ネクスト世界に囚われてしまった二人のゲーム部員。
名を『綺羅星きらり』『一条ひふみ』。彼女たちはアバターごと世界に取り込まれ、綺羅星はタントとして、一条はジェックとして定着してしまった。
しかもバグの影響なのか、ジェッタントでは一年もの間終わらない結婚式パレードが行われているという。
「彼女たちを救い出す方法はひとつだ。このパレードから……いや、ジェッタントから攫うこと、だ。
そうすればイベントフラグが解放され、二人のアバターと意識も解放されるだろう。
二人とも、とまではいわん。どちらか一方でも救い出せればこの依頼は成功扱いとしておく。やり方も任せよう。少なくとも、武力の行使は必要になるだろうがな……」
最後に二人の写真をテーブルに置き、席を立つ校長。
ログイン装置を指さして、『あとは任せた』と言って部屋を去った。
- ジェッタントと終わらない結婚式完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月22日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●祝福の価値
パレードは続いていく。
カフェ2階のテラス席から、『せなかにかくれる』ジェック(p3x004755)は人々に手をふる『ふたり』の姿を見ていた。
「この世界のアタシ達は、きっと幸せ。
勿論、現実のアタシ達だって負けないくらい幸せ。だけど。
親がいて、居場所があって、誰からも祝福されて。
この世界のアタシ達は、ずるい」
ここが混沌世界でも、ましてジェックのかつて生きた世界でもなく、ROO内にて歪んで生成された世界ネクストであることが、なによりも歪んで見えた。
二人のジェックとタントのつないだ手が、絡んだ指が、二人の中に取り込まれたという『綺羅星きらり』『一条ひふみ』という二人の希望ヶ浜生徒の面影をおもわせる。
「……でも。別の誰かがくっついてたら。それはもう、アタシ達じゃない。
きらりもひかりも、ジェックもタントも。別の誰かになっちゃった。
そんなの、四人とも幸せじゃない」
「ジェック……」
彼女の頭にそっと手を置いて、流れる髪をなでる『きらめくおねえさん』タント(p3x006204)。
(これまでわたくしは、自身のコピーと2度、相対してきました。
アルベド、そしてキトリニタス……。
アルベドとは、結局……笑顔でお別れして、そのまま。
皆、姉妹のように感じていたのに……)
自分じゃないけど、自分。
たしかにそれは偽物なのかもしれないけれど、同時に『本物じゃない』からできたことがあった。産まれた感情や、もしかしたら夢が。
そして今、再び。『本物じゃない』二人がそこにいる。
いまやるべきことは、何か。
暗がりから歩み出る『亡霊』ファントム(p3x002309)。同じく『ちいさなくまのこ』ベル(p3x008216)。二人は向かい合い、ベルは二度ほまばたきをした。
「マップは、手に入り、ましたか?」
対してファントムは小さく首を振り否定の答えを返した。
そんな二人のもとへ、『雑草魂』きうりん(p3x008356)が手を降って歩いてくる。
「終わらない幸せな日々。素敵な悪夢だね! まぁ、嫌いじゃないけど依頼は依頼! 是非とも救ってあげよう!」
「華やかな結婚式も何度も繰り返していると思うとあまり喜ばしくは思えないね……。
囚われてしまった二人も心配だし、早く終わらせてあげないとね」
まわりの様子を一通り見てきた『可能性の分岐点』スイッチ(p3x008566)が、空からゆっくりと民家の屋根へ着地する。あらためて空をみると、花びらをまく飛行種のひとびとやパレードを護衛する飛行種の騎士たちの姿が見える。
合流した仲間たちに『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)と『虚花』リラグレーテ(p3x008418)も加わっていく。
(バグにしても渦中の二人の心中が鍵となりそうだな。何にせよ俺は俺の分野で備えようか)
(永劫に留められた祝福
己の意思を見失った幸い
欲望のままに掴み取るばかりが幸せではないのだと、僕は少しずつ知った
嗚呼。けれど、これは違うでしょう?
パレヱドのキャストには、演じる自覚が必要だ
無限に繰り返す停滞なんて、紛い物(ヒト)の領分じゃないだろう!)
それぞれ想いを抱えたまま、作戦は決行されようとしている
壱狐やリラグレーテたちは振り返り、パレードの列を見る。
「――“乙女らは新しき野を行く。花冠を編むため花を摘む。”
さあ、凱旋の始まりと行きましょうか」
●パレードを壊すための木槌と、それを切り出すための丸太と
衛兵にしっかりと守られたジェックとタントを連れ出すためにベルたちが考えた作戦は『ジェックとタントを説得して一緒に来てもらう』ことであった。だが二人がフリーになる時間は、このループするパレードの中にはないようだ。
「……と、いうことだが」
「ん」
隣にはリラグレーテがメモ書きを走らせた手書きの地図を置く。
『私たちは流れの商人なんです。領主様の結婚式という事で、祝福の品を献上する為に訪れたのですが土地鑑が無くて困ってしまって。助けて、貰えませんか?』……と。目をうるませて若い衛兵をつかまえた際に得た情報である。
「大事なパレードだし、外からも人が大勢やってくるから、二人への警備は厳重になっているみたい」
リラグレーテたちが調べてきた内容によれば、このパレードの主役がジェックとタントであるために、二人が無防備になる瞬間はたったの一度もないらしかった。
「けれど、意味はあるよ。陽動として離れた場所で騒ぎが起きれば衛兵のリソースをさかないわけにはいかない。
防衛は固くなるけど、素早くこなすならちょっとだけ隙ができる」
スイッチが調べたところによれば、飛行種タイプの衛兵もおり緊急時にジェックとタントのそばへ素早く固まれるように配置しているようだ。
「空での戦闘は自信のあるほうだけど、仮に戦闘状態になったなら高高度からの誘導はやめたほうがよさそうだね」
「それは、『戦闘になる確率がとても高い』ってこと、でしょうか」
ベルの問いかけはもっともで、リラグレーテたちはどこか困った様子で頷いた。
「近くに行ってしっかり向き合って目を見て説得をしたいなら、周りの衛兵が確実にじゃまになる……」
強引な突破が、まずは求められるのだ。
「確実を期すならばループを経て行動を確認するのが良いですが、そう何度も余計に繰り返すべきでもないのでしょうね」
馬への飾りを終えた壱狐が戻ってくる。下見を終えたきうりんやジェック、タントたちもだ。
「そろそろ、パレードが終わります」
領土を一周したパレードがお城へと戻ったそのすぐあとに、再びパレードのゴンドラが城から出発した。
「始めましょう。まずは……陽動から」
●『すなわち武器軟膏を拭い去るためのスポンジ』
壱狐のはなった大きな破裂音は、パレードのゴンドラを止めるのに十分だった。
ゴンドラから遠く離れた領地の端で起きた音なれど、その場所を警備していた衛兵たちの耳に入らぬはずはなく、その情報は素早くゴンドラへと、すなわちジェックとタントの側付き衛兵たちへと伝わった。
兵たちが集まり厳重な警戒態勢が敷かれる一方で、破裂音のした場所にもまた衛兵が集まっていた。
「さぁ、祝福の使者様の道を"斬り開きます"。無粋な方々はご退場くださいね?」
レイピアを腰に下げた壱狐は、インスタントランチャーに即席爆薬を詰め込んで発射。
集まる衛兵たちが飛んでくる爆弾から慌てて左右に飛び退いていく。
海を割る奇跡のごとく開いたその列に、レイピアを抜いた壱狐とジェック、そしてタントたちが飛び込んでいく。
ジェックは幼く可憐な少女のように見えたが、外見で相手を判断してはならないというのは混沌の常識である。それはネクストにおいてもそう変わるものではない。
金色のマスケット銃を構えた衛兵が『止まれ』と警告を発するも、ジェックは斧を投擲。
衛兵に突き刺さった斧を指差し、『次はこうなるぞ』とばかりに周囲の衛兵たちを指差した。
もはやこうなれば戦闘を避けることはできない。
周囲の衛兵たちは全力をもってジェックへと一斉発砲。
そのことごとくを、生み出した残像によって撃ち落としていく……が。
「少し、しんどいかも」
衛兵ひとりひとりの能力はジェックに及ぶべくもないが、数が増えれば増えるほど手に負えない威力を持ち始める。
けれど。
「下がりなさい」
光を放ったタントが上空から降臨し、不思議な魔術によって衛兵たちに膝をつかせた。
(別人として祝われ続けるなんて、それは悪夢のようだわ。
これまできらり様とひふみ様が積み重ねてきたものを、否定することになるんだから。
それに……)
パレードのなかで手をふる二人を思い出す。
プリントシールに写った二人を思い出す。
つないだ手の、からんだ指を思い出す。
「わたくしは今度こそあなた自身の人生を祝福したいのよ、タント。
他の姉妹達には出来なかったことだから」
それはきっと、『本物じゃない』からできたこと。可能性を閉じたままでは、いられない。
「よっしゃ、出番だ!」
集中砲火の中へあえて飛び込んでいったきうりんは、いつの間にか吹き飛んでいた腕をいつの間にか再生し、いつのまにかどこからかもぎ取ったきゅうりを衛兵たちめがけて放り投げる。
「要するに騒いで炎上してなるべく応援を呼ばせればいいわけだよね! オッケーまかせて! そういうのたぶん得意! 安心してよね、私は……死なない!」
などと言った瞬間にばっすんと心臓部を撃ち抜かれるきうりん。
更に何十発という銃弾がきうりんを穴だらけにするが……。
「死んだらどうする!」
といっていきなり復活した。
むてきのきうりんも、衛兵たちのヘイトを大量に集めるとなるとやっぱり死にそうであった。
「10分! ……いや5分! ……ワンチャン2分くらい稼ぐよ! さあ皆、今のうちに説得にいって! なるべくはやく! けどあせらずゆっくりけどちょっといそいで!」
●『すなわち武器軟膏を拭い去るために用意された礼拝堂付牧師のスポンジの絞り上げ』
領内。パレードの最中に起きた謎のテロリズム。
警戒のためにジェックとタントのまわりへ集まっていた衛兵に、不安がるひとだかりの中からリラグレーテが姿を表した。
(ベルさんの紡ぐ素敵な物語に、そっと花を添えるだけ。
タント様とジェックさんなら、きっと応えてくれると思うから。
想いが伝わりますように……)
よその土地から派遣されたばかりなのか、領民とそうでない者の区別がつかないらしい衛兵は『今は危ないので下がってください』と呼びかけながら近づい――て。
『月影に咲くナハトケルツェ』が放たれた。空想弾が衛兵を撃ち抜いていく。が、衛兵もその一発だけで死ぬつもりはないようでリラグレーテへと組み付いていった。
更に二発散発と打ち込まれる空想弾によって衛兵は倒れ、ふらりと現れたファントムがまた別の衛兵たちへと雷の魔法を放った。
それを取り押さえようと衛兵たちが飛びかかる。
組み伏せられつつもファントムは魔法を連発し、道を切り開いていく。つまりは、ベルの歩く道を。
可愛らしい足音をたてて、つぶらな目をしたクマのぬいぐるみが歩いてくる。否、熊の形をしたおもちゃのロボットだ。
「初めまして。
ベルです。
ベル達は、お二人に、とってもお急ぎの、お願いが、あります」
襲いかかるでもなく、ただ真摯に呼びかけたベルに、ジェックとタントは沈黙した。
「結ばれて一年間、ずっと祝福を受けた、お二人は、幸せを運ぶ『祝福の使者』に、なりました。
『祝福の使者』は、色んな場所で、「おめでとう」と祝福を授けて、愛し合う二人に、幸せを運ぶ事が、出来ます。
なのでベル達は、『祝福の使者』のお二人に、お願いが、あります」
「お願い……?」
問いかけるタント。壮年の衛兵が間に割り込むように手をかざし、タントへと呼びかける。
「お下がりください。この者たちが何をしでかすか――」
「ううん。聞こう」
その後ろから、ジェックが静かに歩み出た。
「聞くだけなら大丈夫。根拠はないけど、そう思う」
「…………」
タントもそれに頷いて、衛兵は小さくため息をついたまま、しかしいつでも守れる位置をキープしたまま『続けろ』とベルに顎で示した。
「それは、眠ったままで、祝福を受けられない、愛し合う二人『キラリとヒフミ』を目覚めさせて、欲しいのです。
今までベル達は、どんな手段を使っても、『キラリとヒフミ』を、目覚めさせる事は、できませんでした。
このままでは、『キラリとヒフミ』は、ずっと眠ったままで、結ばれることなく、そのまま死んでしまうかもしれません。
どうか『キラリとヒフミ』を、目覚めさせて、貰えないでしょうか?」
「なにをばかな。そんな連中のことは――」
衛兵が口を挟もうとしたが、ジェックとタントは顔を見合わせ、少しだけ不安そうに頷きあった。
胸に手を当てるタント。
「いいえ、そうかもしれませんわ。わたくしたちの中に確かに何かが……何かが息づいている。そんな気がするのです。このパレードが始まったときから、ずっと」
魂の取り込まれたアバターが、それを自覚しているケースはそう多くはない。が、どうやら今回はそのケースにあたったようだ。
……というより、手を握り合う二人を見たとき、『アバター側の』ジェックとタントがそう確信したのである。
「『キラリとヒフミ』は、この国の外に、住んでいます。
道中は、ベル達がお守りしますので、着いてきて、下さい。
どうか『キラリとヒフミ』に、祝福を、お願いします」
ベルの説得に対して、タントはジェックを振り返り、ジェックはタントの肩に手をおいて頷いた。
そして二人はゴンドラからぴょんと軽やかに飛び降りた。
「わかりました。ベル様、あなたがたの言うとおりに――」
「お待ちください」
と、どこか嫌味ったらしい声がした。
衛兵のひとりが、ごつごつとした拳銃をジェックとタントにつきつけたのである。
「このパレードは行われなければなりません。『いる気がする』などという不確かな理由で中断することなど、このジェッタント領でおきてはいけないのです」
「銃をおろせ。お二人を――」
壮年の衛兵がとめにはいろうとした、その瞬間。彼の胸めがけて発砲がおきた。
胸を抑え崩れ落ちる男。
嫌味な衛兵は銃を再びタントたちへ向けた。
「パレードに戻ってください、タント様。そしてジェック様。これはお二人の家名に泥を塗る行為ですよ」
目を細める。
「ここはジェッタント領。あなたにはそれを治める義務がある。
あなたがたに、自由など許されていないのです」
瞬間、空に影がかかった。
スイッチが猛烈な速度で急降下をかけ、嫌味な衛兵を蹴り倒したのである。
「ならなおさら、この二人は『攫って』いくことにするよ」
ちょっとごめんねと言ってジェックとタントを両脇にかかえ、翼のスラスターを全力噴射。
高く飛行するにはパワー不足なれど、衛兵たちの間を飛び越えるには十分な速度と勢いをもって飛んでいく。
「貴様――」
「ここは私に任せて先にいって!!」
そこへきゅうりの馬に乗って現れるきうりん。
なんかあちこちパーツがきゅうりに戻りかけているが、割とまだ元気そうだった。
「うおおおおおおおお雑草舐めるなよぉ!!」
追いすがろうとする衛兵たちに特攻をしかけると、きうりんはすれ違うように走っていく銀髪のROOタントとROOジェックに合図をした。
壱狐の飾り付けによって白銀の衣装を纏った馬が、ジェックとタントをそれぞれ後ろに乗せて走り出す。
「二人の行く先は! このわたくしが邪魔させないわぁ!」
タントは『ティル・ナ・ノーグで甘噛み』を発動させ、ジェックもまた手にした斧を投擲していく。
逃走を阻もうと道をふさいだ衛兵たちを、二人の……いや四人のまたがる馬が飛び越えた。
その瞬間。ジェックとROOジェックは振り返り、見た。
時計がひどく歪んだ噴水公園で手をふる、モザイクがかった少女の姿を。
たった一瞬だけで、消えてしまったけれど。
●今が『明日』なんだ
ジェッタント領を出た馬は減速することなく走り続けている。
まだ追手もかかるだろうが、背にしがみついたジェックとタントは馬をおりようとはしない。止めようとも。
「これから、どうするの」
問いかけはROOジェックから。
それをうけて、ジェックは二秒ほど沈黙してから息を吸った。
「このまま、逃げちゃおうか?」
「いいえ」
それに、タントはすぐに声をあげた。
「戻りますわ」
ここでもういいですわと言ってタントは、ROOタントの背をポンと叩いてから馬をおりた。
「わたくし達の中から『彼女』が消えたのを感じました。ベル様のいうように、救うことができたのでしょう」
そして、タントは領地へと振り返り、その横に立ったジェックがそっと手をかざした。王子様がお姫様をエスコートするみたいに。
「次は、あの方たちを救いに行きますわ。あの領地には、わたくし達にしかできないことがありますもの」
「いいの?」
ROOタントの問いかけに、ジェックと顔を見合わせ、そして笑顔で振り返った。
「だって、私たちはもうこんなに――」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
クエストが完了しました
ジェッタント領での結婚式はトラブルこそあったものの再開され、そして終了しました。この領地を、二人はこれから治めていくことになるでしょう。
GMコメント
幸せとはなんなのか。
それが永遠に、誰にも何にも阻まれることなく続くことなのか。
それが偽りの、世界と姿であったとしても。
■オーダー
・成功条件:ネクスト世界内のジェック、もしくはタントのいずれかを領土外へと連れ出す。
・オプション:ネクスト世界内のジェックとタント双方を領土外へ連れ出す。
終わらない結婚式パレードが繰り返されるジェッタント領地。
この場所からジェックもしくはタントを連れ出してください。
方法は問われていません。拘束して無理矢理運び出しても、自主的に外へ出るようにしても、結果的に領土外へ出ればフラグは解放されます。
もちろん領主とその妻がどちらかでもパレードから連れ出されれば大騒ぎになりますし、無理に連れだそうとすれば衛兵たちがすっとんでくるでしょう。
皆さんの戦闘力はかなりぶっこわれではありますが、それでも無傷で衛兵を全員蹴散らすなんてことは不可能でしょう。
なにかしら強引な手を使うか、頭やテクを使って戦いを避けるか……といった判断が必要になります。
少なくとも皆さんが力を合わせて解決しなければならないミッションですので、話し合ってどんな作戦にするか決めておきましょう。
(こういうパターンの時、バラバラに考えて動くとあまりいい結果になりづらいものです)
■おまけ解説
ジェッタントはタントの母であり前領主であった方が、タントとジェックの結婚を祝するかたちで地を改名し『未来ある二人へ』と委譲したものであります。
改名のその翌日に結婚式が執り行われ、そのパレードはバグによっていつまでも続いています。
この世界においてジェックおよびタントがどのような人物であるかは、今のところまだ分かっていません。
少なくともこの二人が愛し合って結ばれたことは事実であるようですが……。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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