シナリオ詳細
仮面の商人、カッサンドロ。或いは、合成蟲の生態系…。
オープニング
●欲深きカッサンドロ
砂漠のどこか、小さなオアシス。
畔に張られたテントの中で、1人の老人が優雅にチャイなど啜っていた。
白い外套を纏った背の高い男だ。
目元を覆う黒い仮面は、容貌を隠すためのものか、それとも目元に傷でも負っているのだろうか。
ふと、こちらに気づいた老人……カッサンドロは口元に意地の悪い笑みを浮かべて肩を震わす。
「おぉ、来てくれた。お初にお目にかかるな。私は商人、カッサンドロ。君たちの依頼人ということになる」
と、そう言って牢屋は懐から小さな皮の袋を取り出した。
コロン、と袋の中身を手の上に転がし、カッサンドロはそれを目の高さに掲げてみせる。
それは、黒い石だった。
淀んだ黒色。
光にかざせば、ほんの僅かに透けて見える。
石の中には、小さな虫のようなものが納まっている。
石、というよりは琥珀と呼んだ方が近いか。
「依頼の内容は簡単だ。オアシスの周辺に潜んでいる“合成蟲”たちを討伐して、これを100ほど持ち帰ってくれ」
合成蟲とは、複数の昆虫、甲虫の特徴を兼ね備えたモンスターたちだ。
例えばそれは“蜂の腹部と針を持つ蛾”であったり“8本脚の芋虫”であったり“高い跳躍力を持つ蠍”であったりだ。
その体長も様々で、小さなものは体長数十センチほど、大きなものになると人と同程度か、さらに巨大なものもいる。
「まぁ、1メートルを超えれば“石”は確実に持っているだろう。人を超えるサイズのものなら2~10ほどか?」
逆に、小さなものであれば体内に石を持つかどうかは運次第となる。
それを100ほど収集し、持ち帰ることが今回の依頼の内容だ。
●死の商人
「うん? この石を何に使うのか、聞きたいという顔をしているな?」
にぃ、と口角を吊り上げてカッサンドロはそう言った。
「高密度のエネルギー塊。或いは、固形化した火薬のようなものと言えば分かりやすいか?」
取り扱いには当然危険を伴うが、上手く加工すれば効率の良い武器となる。
そのまま売り払ってもよし、武器弾薬に加工して捌くもよし。
カッサンドロには“石”を高く売る伝手があるのだろう。
「さて、質問はそれぐらいでいいかな? では、ここから先はちょっとしたヒントの話といこう」
はらり、と。
カッサンドロが広げたのは、オアシス周辺の地図だった。
地図の中央にはオアシス。
“サクラメント”となる地点だ。
北側には岩盤地帯。
西側には広大な砂漠。
東側には砂塵の渦巻く丘陵。
南側には三角錐の形状をした遺跡。
「砂漠にも生態系というものがある。例えば、岩盤地帯には甲虫染みた合成蟲や飛行型の合成蟲が多く生息しているし、砂漠地帯には砂上を移動したり、砂中に潜り込むのに長けた蠍型が多い」
東側では定期的に砂塵が発生する。
その中で生きる合成蟲は総じて大型。種別としては芋虫型が多くを占める。
「そして南の遺跡だが、そこに住める合成蟲は数少ない。種別は様々だが、どれもサイズは2メートルを超えるような大型ばかりだ」
激しい生存競争を勝ち抜き、大型化した合成蟲は習性として遺跡周辺に集まるらしい。
そこまで話したところで、カッサンドロは肩を竦めて、困ったような顔をした。
「君たちには期待しているよ。以前に派遣した者たちは、遺跡の方へ向かったっきり、誰も返ってこなかったからね」
なんて、言って。
カッサンドロは口元に微かな笑みを浮かべた。
「連中は【毒】や【麻痺】、【窒息】の状態異常を付与する術を持っている。サイズが大型になるほど、強力になると考えてくれて構わんよ」
それから、と。
パンタローネは虚空に視線を向けて、少し思案する。
「ところに限らず、黒い砂塵が吹き荒れることがある。それに飲まれればロストは免れないし、しばらくの間その場所に立ち入ることは出来なくなるので注意してくれ」
――QUEST:カッサンドロの依頼、発生――
- 仮面の商人、カッサンドロ。或いは、合成蟲の生態系…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月19日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●合成蟲の住む砂漠
砂塵の渦巻く砂漠へと、青き騎士が歩を進める
名を『魔剣遣い』アーゲンティエール(p3x007848)。被った兜の頭頂部から伸びた兎の長い耳が、風に煽られ激しく揺れた。
「我にとっての初仕事、だね。待ち望んだ時が来た」
アーゲンティエールは、空へ向けて剣を掲げた。
瞬間、起きたその光景は、奇跡とも呼ぶべき異常であった。
断ち切られるかのように、砂塵が止んだ。
視界を埋め尽くす砂色が開け、灼熱の太陽が覗く。
「『天より光芒の降る如く』――我が白銀は、遍くを照らすよ」
さらり、と。
砂を運んでいた風が止み、辺りは無風と化す。
静寂。
砂塵の止んだ砂漠の一面を、8本脚の芋虫が蠢いている。そのどれもが体長1メートルを超える巨体だ。
「物事は最初が肝心ですからね。全身全霊全力で張り切っていきましょう!」
えいえいおー! あーるおーおー!
気合を入れるべく掛け声をあげ『しろきはなよめ』純恋(p3x009412)が砂漠を駆けていく。そんな彼女の背後には“いもうと”が続いた。
実の妹ではなく、妹を名乗る“ナニカ”である。
「いきます!」
純恋が腕を一閃させれば、澄んだ音色が鳴り響く。
遠距離より放たれたそれが、芋虫の腹部を横から貫いた。痛みに身を悶えさせる芋虫のもとへ『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)が接近。
「一匹一匹確実に切っておかないとですね。蟲は生命力が高いですからね」
手にしたレイピアの一撃が、芋虫の眉間を刺し貫いた。
血を吐き、倒れた芋虫の身体が消失し、その場には黒い石が残る。
まずは1つ。
「なるほど、ドロップアイテムを用いた武器弾薬か」
拾った石へ視線を落とし壱狐はそう呟いた。
「怪しげな材料探しってわけね。うん、ろくなことにならないような気はするけれど……」
纏った白衣を翻し『カラミティ・クリエイター』ロロン・ホウエン(p3x007992)は砂上を疾駆。貝殻に覆われた胸が弾み、腰に巻いた葉っぱが揺れる。
砂漠を行くには不適切な服装だが、幸いここはゲームの世界だ。貝殻ビキニがずれることはないし、腰を覆う葉っぱが落ちることもない。
敵陣へと切り込んでいった壱狐とロロンの周囲には、無数の芋虫が蠢いている。そのうち一部が、突如として獲物に背を向け移動を開始した。
壱狐やロロンを脅威と判断したのだろうか?
否。
そうではない。
「さぁ、“こっちを見て”。集まってきたら“ばっこーん!”ってするよ」
斧を担いだ小柄な少女が、芋虫たちを呼んだのだ。
彼女の名は『せなかにかくれる』ジェック(p3x004755)。
「おぉ、集まって来た集まって来た。そんで、あれを狩って狩って狩りまくればいいってェ訳だな」
ジェックの隣に並んだ『大鴉を追うもの』クシィ(p3x000244)は、腰を低くし紫煙を燻らす。
「そんじゃ、サッサと終らせてログアウトしようぜ!」
先頭を進む芋虫の元へ、クシィが跳んだ。
【アクティブスキル1】による斬撃が、芋虫の身体のもっとも柔い部分を穿った。しかし、芋虫は血を撒き散らしながらも脚を止めない。
「うぉ!?」
巨大な芋虫に伸し掛かられたクシィの身体が砂上に転倒。
苦悶の声を零すクシィへと、芋虫の群れが殺到する。伸し掛かられた状態で、それに踏みつぶされてしまえば、クシィの【死亡】は免れまい。
けれど、それはクシィが単独であった場合の話。
「一度に処理しきれない数は、中から大型で5体といったところですか」
「ダガ、効率的……危ナイ橋、トいう訳ダ」
『世界の意思の代行者』グレイシア(p3x000111)の放った魔弾と『_____』Gone(p3x000438)の鎌がクシィに乗った芋虫を撃ち抜き、斬り伏せる。
消滅した芋虫から“黒い石”がドロップし、それはクシィが取得した。
次々迫る芋虫たちを迎え撃つべく、クシィは慌てて立ち上がる。そんなクシィをその場に残し、グレイシアとGoneは次の獲物へ狙いをつけた。
さらに後方より、斧を掲げたジェックが駆けた。
黒い砂塵が発生するまでの間、芋虫狩りは続くのだった。
●西から北へ
突如として黒い砂塵が砂漠を覆う。
アーゲンティエールの【アクセスファンタズム】では、それを断つことは叶わず、一行はオアシスへと撤退していた。
回収した黒い石は20。
戦闘が長引くにつれ、芋虫たちが逃走を開始したことで黒い石の獲得個数は思ったほどに増えなかったのだ。
「砂塵が消えて、身の安全が保障されなくなったことが原因で、芋虫たちは逃走を開始したのだろうね」
「っても、砂塵の中じゃ好き勝手に襲われてきっと誰か【死亡】してたぜ?」
どこか落ち込んだ様子のアーゲンティエールを慰めるのはクシィであった。
移動速度の遅い芋虫たちが相手だったとはいえ、体力はそれなりに失っている。視界の悪い状態で、それの攻撃を受け続けた場合の被害は今よりも格段に大きくなっていただろう。
「これは……それなりに長い時間、狩りを続ける事になりそうだな。とくに次のフィールドは西だ」
黒い砂塵には要注意だな、と。
そう呟いて、グレイシアが立ち上がる。
半径100メートル。
グレイシアが、生物の位置や個体数を観測できる範囲がそれだ。
「死んでも問題無いとの事だが、人が欠ければその分効率は悪くなる。そう考えれば、少しここでの狩りはお勧めできないが」
モノクルを指で押し上げながらグレイシアはそう呟く。
広大な砂漠を睥睨する彼の視界には、無数の蠍の姿があった。バッタに似た脚を備えた蠍のサイズは様々。けれど、中には砂中に潜り込んでいる個体もいる。
それを観測したグレイシアは、眉間に皺を寄せていた。
「いや、でもやるしかないでしょ。ほら、もう来たし」
と、そう告げたロロンは地面を蹴って宙へ舞う。
自身に【飛行】を付与したロロン。その下半身を、不自然な光が覆い隠した。
そのまま高度をあげたロロンは、高く跳躍した蠍へと鋭い殴打を叩き込む。蠍とロロンが交差して、ロロンの腹部から血が散った。
「く……」
一方、片肢を失った蠍はバランスを崩し真っ逆さまに地上へ落下。サイズとしては中型に分類されるだろうか。地面に衝突し、倒れた蠍の姿が消えて後には黒い石が残る。
「来た。『アーゲンティエール』の初陣、華々しく飾ってみせるよ!」
戦闘の余波を察知したのか、砂漠に散っていた蠍たちが一斉に行動を開始した。
あるものは逃走を。
あるものは獲物へ向けて襲い掛かる。
迎え撃つべく、剣を構えたアーゲンティエールが前へ。蠍の針を鎧で受けたその隙に、大上段へ剣を掲げた。
「はっ!」
気合一声。
叩きつけるように、けれど精錬された動作で振り下ろされた大剣が蠍の頭部を2つに割った。
血を流し、悶える蠍。
致命傷だが、まだその命は尽きていない。蠍は鋏を繰り出すと、アーゲンティエールの足首を激しく殴打した。
「っ……」
姿勢を崩したアーゲンティエールの首筋目掛け、蠍の尾が振り下ろされる。
「そうはさせません!」
鋭い毒針がアーゲンティエールの首を穿つその寸前、純恋が間に割り込んだ。鋭い針が純恋の胸元へ深く突き立つ。飛び散った血が、彼女の頬を朱に濡らす。
「なっ……純恋!?」
「っ……大切な人を守れずして何がプロ花嫁か!」
プロ花嫁とは何だろう。
アーゲンティエールの脳裏に過るそんな疑問。けれど、純恋によって命を救われたことは事実。不安定な体勢から繰り出された斬撃が、今度こそ蠍の頭部を斬り落とす。
蠍の群れが広大な砂漠を這いまわる。
砂を蹴散らし、蠍たちは一斉に高く飛び跳ねた。その中には、3メートルを超える巨大個体も含まれている。
「ちっ……下がってください、保険を切ります!」
戦闘の継続は可能だろうが、些か数が多すぎる。壱狐の号令により、一行は黒い石の回収を止め、一時離脱の行動を取る。
降り抜かれた尾を壱狐の盾が打ち払えば、高い音が鳴りと火花が散った。
肉薄する蠍を前蹴りで押しやり、壱狐は素早く踵を返す。
ついでとばかりに【職人魂】で作製していた爆弾を、蠍の群れへと向けて放った。回収した“黒い石”を材料として作り上げた手製の爆弾だ。黒い石の回収を依頼したカッサンドロは、それを用いて武器弾薬を作製し、売り捌くと言っていたはずだ。
ならば、壱狐がそれを真似して兵器を作ることも出来るだろう。
「うわっ、結構エグい威力ね。まともじゃない使い道がそこはかとなく見えてきそう」
黒い爆炎を撒き散らし、焼けた蠍が落下する。
中にはまだ息の根のある者もいるが、宙を疾駆したロロンがそれに肉薄し、鋭い蹴りを叩き込んだ。
ぐしゃり、と焼け爛れた背が潰れ、蠍は地面へと落ちる。
息絶えたそれから黒い石を回収し、ロロンもまた逃走の列へと加わった。見れば、その背中からは血が流れている。
どうやら、空中にいる間に蠍の攻撃を受けたようだ。
砂漠、北側。
岩盤地帯に生息するのは、蜂の腹部と針を備えた蛾と、スカラベの甲を纏った蜘蛛たちだ。
鱗粉を散らし辺りを縦横に舞う蛾へ向けて、ジェックは斧を振り抜いた。
「空飛ぶ敵は嫌い。引き摺り下ろす」
バチ、と奇妙に軽い音が鳴り、2枚の翅がひらりはらりと砂上へ落ちた。次いで、潰れた蟲の身体と黒い石。
それを拾い上げたジェックは、指先に僅かな痺れを感じた。
見れば、じわじわと指先から皮膚が黒く変色していく。【毒】と【麻痺】を受けたのだろう。それを見て、クシィはぎょっと目を見開いた。
「おいおい、BSにかかってんじゃねぇか。大丈夫なのか、それ?」
そう言いながら、クシィは足元へ迫る甲虫へ向け大上段から武器を振り下ろす。
ぐしゃり、と蜘蛛の甲が潰れて、後には黒い石だけが残った。
複数体に攻め込まれては対応に難が生じるクシィではあるが、敵が1体であれば問題なく渡り合い、打ち倒すことが可能であった。
「ん、兵器。武器振り回したら半分くらいの確率でBS回復できる。完璧」
ぶぉん、と斧を振り上げながらジェックはVサインを掲げて見せた。
岩盤地帯に住む蟲たちは、身を隠すという行動を取らない。
蛾は高度を高くに上げ、蜘蛛は脚を畳んで岩場に伏せる。
そうすることで、蟲たちは己の身を守っているのだろう。
また、岩盤地帯には大型合成蟲の姿は見えない。
そして……そのことが、一行の油断を招いた。
「黒い砂塵は、俺タチガ戦ってる場所に湧くヨウダナ。撤退だ」
東、西、北の順番で移動して来たGoneたちを追うように、黒い砂塵は出現していた。どれも、各ステージに立ち入ってから一定の時間が経過することで、その兆候が現れている。
ステージのギミックとして“黒い砂塵”は存在するのだ。1つのステージに、プレイヤーが長時間滞在できないようにするためのものであるとGoneは予想した。
今回、黒い砂塵はステージの中央付近に現れた。
現在、ロロンとアーゲンティエールが少々砂塵に近いが、まだ十分に撤退に使う時間は残っている。
ただ1つ、想定外の出来事があったとするならば……。
「急ぐのだ、2人とも! 巨大蟲はいなかったのではない……擬態していたのである!」
ステージの端に退避していたグレイシアの怒鳴り声が響き渡った。彼の【生命の鼓動】ならば適性体のおよその位置は把握できる。その脅威度も然り。けれど、いかんせん敵の数が多すぎたのだ。
ここに来て2メートル超えの大型蜘蛛が行動を開始した。
ロロンやアーゲンティエールの進路を塞ぐように、都合2体の蜘蛛が立ち上がる。その背へ向けて、グレイシアは【アクティブスキル1】を発動。
脚を1本、消滅させたが蜘蛛の動きは止まらない。
さらに、黒い砂塵から逃げるように蜘蛛や蛾たちもステージ端へ向け逃げ始めた。
「ロロン、飛ベ。アーゲンティエールの救出は俺が試そウ」
足元を蜘蛛に埋められたせいで、2人は行動に制限をかけられていた。Goneの言葉を受け、ロロンは宙へと駆け上がる。召喚した精霊たちが燐光を散らすおかげで、その様はまるで天を駆ける女神のようでさえあった。
服装はまぁ、アレだが……。
襲い掛かる蛾を避けるようにしながら、ロロンはステージの端へと逃走。
逃げ遅れたアーゲンティエールの元へはGoneが向かった。
浮遊しているGoneであれば、蜘蛛の群れも障害にならない。アーゲンティエールの腕を掴むと、引きずるようにして退避を開始した。
小さな蜘蛛たちを蹴散らしながら、巨大蜘蛛が2人へ迫る。
「好都合ダ」
すぐ背後には黒い砂塵。
だが、問題ない。
「次は東ダ。アーゲンティエールのアクセスファンタズムが要ル」
「な……」
アーゲンティエールの手に自身の所有する“黒い石”を押し付けると、Goneは彼の身体を投げた。
巨大蜘蛛の頭上を跳び越え、アーゲンティエールはステージの外へ。
「後ハ頼ンダ」
短く、最後にそう告げて。
Goneの姿は、黒い砂塵に飲み込まれた。
●再び東へ
回収した“黒い石”は90。
残る10の“黒い石”を回収するため、7人は再び砂塵の絶えない丘陵地帯を訪れていた。
砂塵の中でゆったりと動く巨大芋虫たちは、なるほど確かに厄介だろう。姿の見えない位置から、強襲を受ける心配もある。
けれど、アーゲンティエールが存在すれば視界や行動の制限は消える。事実、辺りは無風状態と化し、頭上には青い空が窺える。
「虫ってかさかさうねうねしてて可愛いですよね……我が恋敵とみました」
「あ、何言って……?」
純恋の零した呟きを、クシィは耳ざとく聞きつけた。
隣に立つ純恋へ視線を向けるが、既に彼女はその場にいない。地面を這うような動作でもって、芋虫へ向け突撃を慣行していたからだ。
「この動きを真似すればわたしもモテますかね?」
『きっとモテるよ、お姉ちゃん! ね、サイバーロバちゃん?』
『ヒィィン!!』
「待て! その動きでモテるのなんて芋虫にだけだって!」
純恋の後を追って“いもうと”とサイバーロバが駆けていく。純恋1人だけを先行させるわけにもいかず、クシィはその後を追いかけた。
「左右から2体! 片方は吾輩が受け持とう」
純恋とクシィの援護へ回るグレイシア。
彼が魔弾を放った隙に、壱狐とロロンが駆け出した。動きを止めた芋虫へ、ロロンは膝蹴りを叩き込む。
大きく仰け反ったその腹部へ向け、壱狐はレイピアを突き立てた。
悲鳴をあげて倒れる芋虫の腹部から、零れた石を壱狐はしかと掴み取る。
引き寄せた中型の芋虫へ向け、ジェックは斧を振り下ろす。
地面が揺れるほどの衝撃。
芋虫は潰れ、辺りに体液を撒き散らす。それを浴びたジェックは顔をしかめるが、無事に幾つかの“黒い石”を確保することに成功した。
「大型種ばっかだから、まとめて釣ったりはしたくなかったのに……」
溜め息混じりにジェックは言うが、これで目的の個数が集められることはほぼ確定した。
クシィと純恋も3体の芋虫を撃破し石を持って帰還中だ。
「ごめん……! これ、持って帰って!」
視界の端で、ロロンが叫ぶ。
彼女の投げた“黒い石”を受け取って、ジェックは宙へと視線を向ける。
ポタリ、と。
ジェックの頬に、血の雫が滴った。
「……あ」
よろしく!
朗らかにそう告げたロロンが【死亡】判定を受けて消えていく。
ロロンに託された石を握りしめ、ジェックとグレイシアはオアシスへ向け退避していく。
「やーっと終わった。服の中まで砂だらけだ」
そう言い残しクシィは砂漠から抜ける。
壱狐、純恋も砂漠を後にしたことを確認し、アーゲンティエールはアクセスファンタズムを解除した。
再び、砂漠に砂塵が吹き荒れ、視界を砂色へと変える。
「やはり皆、我よりかなり練度が高いみたいだ」
まだまだ精進が必要だな、と。
そう呟いて、アーゲンティエールは踵を返した。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
無事に“黒い石”×100を回収完了。
依頼は成功しました。
この度はご参加ありがとうございました。
ROO、お楽しみいただけたでしょうか。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
“黒い石”×100の回収
●ターゲット
・カッサンドロ
白い外套、黒い仮面を身に付けた長身の老商人。
武器の類を主に取り扱っているようで、今回はその原材料となる“黒い石”回収のためオアシスを訪れたらしい。
・黒い石
僅かに透き通った黒い石。
石の内部に蟲が納まっているのが見える。
高密度のエネルギー塊であり、強い衝撃を与えることで周囲に衝撃派を撒き散らす。
上手く加工すれば、武器弾薬の材料になるようだが……。
・合成蟲
2種類の蟲を掛け合わせたような外見をしている砂漠の蟲たち。
サイズは小型(1メートル以下)、中型(1~2メートル)、大型(2メートル以上)の3種類。
中型の場合は1つ、大型の場合は2~10の“黒い石”を体内に宿しているが、小型の場合は石の保有率は10~20%ほど。
大型になるにつれ、個体数は少なくなる。
付与されるBSについては以下のようになる。
“蜂の腹部と針を持つ蛾”→麻痺、呪縛、石化、毒、猛毒、致死毒
“8本脚の芋虫”→窒息、苦悩、懊悩、無常
“高い跳躍力を持つ蠍”→毒、猛毒、致死毒、麻痺、呪縛
“スカラベの甲を備えた蜘蛛”→窒息、苦悩、懊悩、無常、麻痺、呪縛、石化
●フィールド
中央にはオアシス。“サクラメント”となる地点だ。
北側には岩盤地帯。甲虫型、飛行型が多く生息している。
西側には広大な砂漠。蠍型が多く生息している。
東側には砂塵の渦巻く丘陵。芋虫型が多く生息しており、総じて1メートルを超える大型種ばかり。
南側には三角錐の形状をした遺跡。種別を問わず2メートル超えの大型種ばかりが生息している。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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