シナリオ詳細
我々のナワバリ
オープニング
●鋼鉄の訓練場
『鋼鉄(スチーラー)』。R.O.O内世界『ネクスト』に存在する、エリアの一つであり、現実混沌世界における『鉄帝』のデータを参照にしたものだと思われる場所だ。
現実、鉄帝と同様に、強き者が皇帝になるという制度をとっているが、鋼鉄においては、その精度は崩壊の危機を迎えている。皇帝が何者かにより暗殺され、崩御したのである。
由緒ある決闘によって継いできたこの国の伝統は崩壊し、多くの有力者が次期皇帝に名乗りをあげる事態となったのである。
かくして国家は大混乱に陥った。詳しい説明は、別の機会に譲ろう。
さて、各地が混乱に陥っていたが、しかし力を尊ぶという人々の本質はそうは代わるまい。結局、一部の者は変わらずの武者修行を続け、各地で怪物の討伐による修行を行っている……のだが。
ここに、エピオルニスと現地の者に呼ばれている鳥がいる。端的に説明すれば、巨大な駝鳥のような鳥である。
素早い移動速度。強烈なキック。鋭いくちばし。そしてたまごともども食べるとおいしい。中々強力な存在であるが、生息数は多いうえに前述の理由もあり、現地の者の腕試しや修行によく利用されている。
という訳なので、エピオルニスの生息地は結構ごった返している。パーティをくんだ修行者たちの衝突なども頻繁に起きており、例えば今回も、こんな衝突が発生していた。
「おい、何してんだ! それは俺達が目をつけていたエピオルニスだぞ!」
修行者風の男が、別の修行者風の男へと言う。
「は? まだ戦ってたわけじゃねぇだろうが!」
「ふざけんな、そっちのエピオルニスを連れてこい! なんでわざわざ俺達の縄張りからエピオルニスを連れて行く!?」
周囲にはエピオルニスが怯えたような様子で固まっており、話の内容からどうやら狩りの対象であるエピオルニスを、誰の所有物かなどと言う事でもめているらしい。エピオルニスにしてみればたまったものではない話だが。
「何が縄張りだ! そんなルールはこの辺にはないだろうが! なんか最近人も増えてきてごった返してんだから、お前らこそ譲る気持ちを持てよ! ずっとこの辺占有しやがって!」
「あとから来た奴が悪いんだろうが!」
低レベルな口論を繰り広げる修行者たち。その口論がやがて殴り合いに発展してもおかしくはないだろう。
一方、そんな様子を見ながら、エピオルニスたちは怯えるように視線を合わせてていた。
(まさか、アバターがエピオルニスに変化してしまうなんて)
エピオルニス――いや、違った。彼らは、練達に所属する研究員たちで、R.O.Oにアバターを作成し、内部での調査を行っていたメンバーである。
それが、ある日突然、R.O.O内のバグに巻き込まれ、そのアバターをエピオルニスに変化させられていた。
厳密に言えば、アバターを変化させられていただけではない。クエスト発生要因のフラグの一つとして、ゲームシステムに取り込まれれてしまった、と言うのが正解だ。彼らは真実、この場ではエネミーのエピオルニスであった。
(このままでは、何度も狩られて、その都度リスポーンして、またこの手のNPCの口喧嘩を見る羽目になりますよ……?)
(こんなことで喧嘩して……いやらしい連中だよ。しかし、これは地獄だ……)
如何に現実ではないとはいえ、何度も死の感覚を与えられるのは苦痛だ。そこにしょうもない口喧嘩迄ついてくるとなれば……。
(だれか……助けてくれ……)
ぴぇ、とエピオルニスは鳴いた。その声を聞くものは、この場には居なかった……。
●縄張りを奪い取れ
「むー……」
唸りながら、『理想の』クロエ(p3y000162)は掌を見つめたり、ぐーぱーと握ってみせたりした。それから、ゆっくりと胸のあたりに手を伸ばそうとして――特異運命座標たちがログインしてきたことに気づいて、慌てたように手を振ると、苦笑した。
「すまない、なかなかアバターと言うものが不思議でな……旅人(ウォーカー)達には、この様なゲームが当たり前の世界もあったのだろうか? もしキミ達がそうなら、この世界にもすぐに慣れることができるのだろうな……」
こほん、と咳払い一つ。
「さて、今回のログイン・ポイントは『鋼鉄(スチーラー)』にある小さな町だ。此処から数マップ進んだ先に、鋼鉄寒林と呼ばれる、森林マップがある。そこに生息するエピオルニスを守るのが、我々の今回のクエストだ」
クロエは空中に手をやると、そこに表示されたユーザーインターフェースを触る。続いて、特異運命座標たちに何かを投げてよこすようなしぐさをすると、特異運命座標たちのインターフェースに、『我々のナワバリ』と名付けられたクエストの詳細が表示された。
「エピオルニスは修業に最適らしくてな、よく狩られているらしい。それで、人気なものだから人も集まる。人も集まれば、トラブルも起こる……と言うわけで、このエピオルニスの占有権を求めて、日夜口喧嘩や物理的なケンカが多発しているらしい……理解しがたい事だが」
クロエは否定に手をやりつつ、続ける。
「今回のクエストは、そんな彼らの仲裁と、エピオルニスの救出だ。まぁ、仲裁と言っても、口で言っても聞きはしないだろう。となると、実力行使しかない」
簡単に言うが、クエスト欄に表示された敵の数は、30人と多い。此方もかなりの被害を出さなければ突破は出来ないだろう。
「それで、救出するエピオルニスなのだが、実はバグでシステムに取り込まれた練達の研究員たちのようなのだ。我々の救出目標、トロフィーと言う奴だな。このクエストを攻略すれば、彼らもシステムから解放され、ログアウトできるようになるだろう」
クロエはそう言って頷くと、
「この世界はまだまだワタシたちにとっても未知の世界だ。まずは一歩一歩、目標を達成しながら探索していこう。研究員(エピオルニス)たちの救出、頼んだぞ」
特異運命座標たちを、送り出すのであった――。
- 我々のナワバリ完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●誰々のナワバリ
クワッ、と言うような鳴き声が聞こえる。それはエピオルニスの鳴き声だ。巨大なダチョウのような鳥。大きな足とかぎづめは鋭く、あれに蹴られたら相応のダメージを負うだろう。
そんなエピオルニスに、数名のパーティを組んだ修行者たちが殴り掛かった。エピオルニスが応戦する。キックが修行者を蹴っ飛ばしてフッ飛ばした。倒れ込んだ修行者を癒す仲間。その間に攻撃を受け止める盾役。なるほど、修行の相手としてはちょうどいいのかもしれない。エピオルニスの意思を除けば。
さておき、そんな光景を、特異運命座標たちはこのエリアでうんざりするほど見てきた。サクラメントのある街からしばらくすすんだ。エピオルニスの生息エリア。此処には無数の修行者グループがあちこちで戦闘を繰り広げていて、それこそあちこちで戦闘を繰り広げている。
これだけ狩られてもエピオルニスが消滅しないのは、システム的な調整の結果だろうか。何にしても、ここではこういった光景が、年中問わずに繰り広げられているのだろう。
「いやいや!
実にネトゲらしい光景と言いますか!
それっぽいよねぇ!」
と、『まちのころしやさん』Что(p3x008495)は、辺りを見回しながら言う。あたりには、前述の通りの光景が広がっている。この『狩場に詰めかけるプレイヤー』と言う構図は、実にネトゲらしい光景だろう。まぁ、ここにいる『プレイヤー』は、特異運命座標たちだけなのだが。
「これが噂のダチョウデスカ? これは研究員の人ではなさそうデスガ。こんなのにされて何度も狩られるとは。恐ろしいバグもあったもんデスネ!」
『Let’s Dance!!!』うるふ(p3x008288)が言う。フリーのエピオルニスは、何処からともなく現れ、何処からともなく現れた修行者たちがすぐに襲い掛かる。確かに見ていてうんざりする光景であって、この輪廻の中に囚われるというのは、些か嫌な話である。
「うーん、普通に見てれば可愛い奴だと思うんだけどね、エピオルニス……」
『そらとぶ烏』ヤーヤー(p3x007913)が、エピオルニスに近づきながら言う。攻撃さえしなければ、エピオルニスたちは特に反応を示さない。ゲーム的に言えば、いわゆるノンアクティブモンスターに分類されるのだろう。見つめていると、ふと遠くから、ヤーヤーは修行者たちに声をかけられた。
「それは君たちのエピオルニスか?」
「え? あ、や、違うけれど」
「そうか、ではいただいても?」
「う、うん」
「ありがとう。君たちも修行に来たのだろう? お互い頑張ろうな」
と、エピオルニスを殴りつけ、自らのパーティの下へと『釣っていく』。はぁ、とヤーヤーはため息をついた。
「なんか……違和感……」
「狩場の取り合いって奴だだねぇ☆ ああやって聞いてくる分にはいいだけどぉ……うーん、いいのかな? この手の文化は、アルス、よくわからないなぁ」
『合成獣』アルス(p3x007360)が、むぅ、と唸りながら言う。
「でもでも違和感と言えば、現実と、R.O.Oだよね。身体(アバター)が違うからって言うのも、なんか違和感があるよねぇ。クロエさんもなんか、妙な違和感があったし。なんか違くなかった?」
「触れてやらぬのが武士の情けでは?」
アルスの言葉に、Чтоが言う。
「フルダイブMMO、ですか。他の世界の人間は時折面白い遊びをするのですね?
意識のフルダイブといえば、私の世界では、機体の操縦を円滑にするシステムとして試作されていましたが……」
と、『ウルリカのアバター』ウルリカ(p3x007777)。自身の身体の動きを確認するように四肢を動かして、違和感を払しょくする。
「確かに、身体的な差は気になりますね」
『機械の唄』デイジー・ベル(p3x008384)が答えた。
「とは言え、活動に不自由するほどではありませんが。それより、そろそろクエストの発生ポイントです。此方が手を出さなければクエストは開始しないようですが、一応、気を付けてください」
デイジー・ベルの言葉に、一同は頷き、気を引き締めた。果たしてしばし向かうと、そこにはにらみ合う三つのパーティと、その真ん中に三匹のエピオルニスがいる。そのエピオルニスは、他のエピオルニスとは違い、なんだか怯えているような様子を見せている。
にらみ合う三つのパーティは、等間隔を守りながら、お互いをののしり合っている。やれ、先に手を出したのはこっちだとか、狩場を占有するなとか。
「……みっともないのだわ……これがいい歳した大人がやるけんかかしら……ふわぁ」
あくびなどしつつ、呆れた様子で『闇のしらべ』ルルリ(p3x001317)が言った。おっしゃる通りである。何も言い返せない。
「効率のいい修練場だからこそ、マナーや取り決めをしっかり決めて、お互い気持よく鍛えてもらいたいものですが……」
ハウメア(p3x001981)が肩を落とした。やはりどうしても、自分が自分が、と言う人たちは存在してしまうものである。哀しい。
「……でも、彼らがけんかをしているおかげで、研究員さん達がまだ襲われていないのは、幸運なのかしら」
「そうですね、それは僥倖でした」
ルルリの言葉に、ハウメアは頷く。クエストに取り込まれたエピオルニス……いや、研究員たちは、ここで何度も狩られて再び出現する、と言う地獄のような時間を送っている。
「……しかし、クエストに取り込まれると、本当に、システムに規定された行動しかとらないのでしょうか? こうしてみると、データの世界、と言うのもなんだか納得がいきますね」
デイジー・ベルが言った。もちろん、すべてのNPCがそう言うというわけではないだろうが、少なくともここにいるクエストに関連付けられたNPCは、自分でも気づかぬうちに、規定されたとおりの行動をとってしまうらしい。そう考えるとなんだか哀れにも思えるが、しかしやってる事は狩場の取り合いなので、同情する気もなんだかなぁ、となる。
「では、クエストを始めましょうか。研究員の皆様をずっとお待たせするのも、少々可哀そうです」
ウルリカが言う。仲間達は頷いて、ゆっくりと、研究員たちへと近寄った。
「ぴぇ……?(君たちは……?)」
エピオルニスが鳴くのへ、ハウメアが頷いた。
「私たちはイレギュラーズ……練達より、皆さんの救出……クエストの攻略を依頼されてやってきました」
「ぴぇ、くわっくわっ! くわわーっ!(ああ、有難うございます! ついに助けが!)」
研究員たちが喜びの声をあげる。だが、まだ安心するのは早い。クエストはこれから始まるのだ。
「なんだ貴様らは!」
修行者が声をあげるのへ、Чтоはゆっくりと武器を構えた。
「すぺさるたすくふぉーす、シトーちゃんたち見参。
なんてね。権限はないから安心してね。
とりまころすけど」
「やっほ~、美少女合成獣(キメラ)のアルスちゃんだよ☆彡
突然だけど、そのエピオルニスはアルスちゃん達がいただきまーす♪」
と、笑いかけるアルス。
「なんだ!? 我々のエピオルニスを奪うつもりか!」
「ふわぁ……あなたたちの、ではないでしょう?」
ルルリがあくびをかみ殺しつつ言うのへ、修行者たちが怒りをあらわにする。
「キャヒヒ、分かりやすく強欲デスネ! ま、その方がやりやすい。このイカれた輪廻を終わりにしようや!」
うるふも武器を構える――それに応じるように、仲間達も一斉に武器を構えた。
「ちっ、あんたら! まずはこいつらから仕留めるぞ!」
「やれやれ。最初からそうやって仲良くしてくれていれば――いえ、そうなると研究員さん達が狩られてしまいますか」
デイジー・ベル言う。殺気だった修行者たちは、その言葉には応じない。各々に武器を手にし、こちらへとにじり寄ってくる。
「では、はじめましょう、みなさん」
ウルリカが言った。
「――――――ウルリカ情報体、構築完了。これより、戦闘モードに移行します」
その言葉を合図に、両者は一斉に動き出した。
●其々のナワバリ
研究員たちを守る様に、一気に展開する特異運命座標たちそれを、三方からにじり寄る鋼鉄修行者たち。
「修行ってんなら対人もやんなきゃなぁ? かかって来いよ、鋼鉄野郎共!」
「ほらほらはっじまっるよー☆ アルスちゃんのぉ、ワンマンライブ! 見逃しちゃだめだぞ~☆
おさわり厳禁、オタ芸も禁止♪
もし邪魔をする悪い子にはぁ……お・し・お・き♡ しちゃうぞ☆ これも仕事(クエスト)なのよね~♪」
うるふ、そしてアルスが前列に立って、敵をおびき寄せる。アルスなどはは念入りに誘惑の甘い香りを漂わせ、多くの敵を自らに引き寄せることに成功している。
「おもしれぇ、挑発に乗ってやろうじゃねぇか! 援護!」
「了解!」
敵術士が、前衛修行者たちの武器を、魔術でコーティングする。切れ味を増した刃が、うるふ、そしてアルスを狙う。
「キャヒヒ、きましたねぇアルスサマ! んじゃあ幸運を祈る!」
うるふが叫び、後方へと飛びずさる。ずざ、と地を滑り、アズール・ブラスター、アズール・シューター二丁拳銃に構える。
「オラオラァ! 乱れ撃つってなもんだ!」
放たれた銃弾が、驟雨のごとく降り注ぐ。身を貫く銃弾を、修行者たちは足を止めて受け止めた。
「くわーーっ!(ひぇぇーっ!)」
すぐ近くを通り過ぎる銃弾に、研究員たちが悲鳴を上げた。
「エピオルニスの中の人たちー。
私たちの近くに寄らないでねー。
絶対だよー。
無差別攻撃だからねー」
Чтоがのんきにそう言いながら、敵陣へと深く切り込む。『南溟、瞬き沈む閻浮提』。嵐のごとく奮われる剣閃が、まさに無差別に敵を切り裂いた。
「くおっ……やるじゃねぇか! だが、数はこっちの方が上だ……!」
「まったく、協力できるなら、最初から仲良く狩りをしていればよかったのでしょう!?」
ハウメアがフルートを奏でる、途端、そこから発生した魔力が刃のように振る舞って、遠方で術式を練っていたヒーラーを狙い撃った。魔力の刃がヒーラーの手にしていた杖ごと、その身体を傷つけて、無力化させる。
「まったく、ここは誰の物でもない共有の場!
独占するなんて言語道断、見苦しいですよ!
モラルが成っていないようでは、修行をいくらしても周りに認めてもらえませんよ?
反省しなさい!」
腰に手を当てて、説教をするようなハウメア。とはいえ、それで聞いているほど素直であったら、クエストにはならないだろう。
(クエスト――なんだよね、これ。
んー。
mobの凝ったバックストーリーは、私嫌いじゃないけど。
この範囲狩りされてる人たちって、存在自体が説教臭いよね。
こういうことをしてはいけません、っていうか)
と、内心でЧтоがぼやいた。なるほど、些か説教臭すぎるクエストかもしれない。人の振り見て我が振り直せではないが、或いはこれは、こういう現実を見せることで、反省を促すためのクエストなのではないか、と。
とはいえ、それも憶測のうちに過ぎない。事実はきっと、もはやだれにもわかるまい。だが。
(でもごめんね、私が物語の主人公じゃなくて。
君たちの死を通じて、人間的な成長を遂げられなくて。
……なんて。
こんなことを思うほうが、変かな。
リアルすぎるから、ちょっと混乱してるのかも)
軽くかぶりを振って、Чтоは意識を切り替えた。今はまず、なんにしても、戦う必要がある。
振るわれる、強化された刃。或いは、拳。それをフライパンで受け止めていなしながら、ヤーヤーはお返しとばかりに、フライパンで思いっきり敵の頭を殴ってやった。すかん、と心地よい音が響き、スキルに付与された特殊能力で、付与魔術を消滅させていく。
「申し訳ないけど――リアルじゃ遠距離攻撃ばかりやっているからね。こうやって、前に立つ経験も貴重だし――」
振るわれた拳を、フライパンで受け止めた。かん、と音がして、フライパンから振動が伝わる。それを耐えながら、お返しに顔面をフライパンでぶん殴ってやった。
「フライパンで戦うなんて! 混沌じゃそうそうできないからね!」
ジャンプしながら、大上段で思いっきりフライパンを振り下ろす。がんっ、といい音が響き、敵の脳天に直撃した。敵はそのまま意識を失ってぶっ倒れる。慌てて回復しようとした術士を、デイジー・ベルの魔術が貫いた。ヒーラーが倒れ伏す。手にした魔術書のページをめくりつつ、
「動けるのなら、どうぞ。恐らくは無理でしょうけど」
デイジー・ベルが言い、さらなる術式を放った。爆発するようなそれが、呪縛と麻痺を広範囲にばらまく。その身体を鈍らせ、敵が唸り声をあげた。
「ヒーラーはつぶしました。一気にせん滅を行います」
デイジー・ベルの言葉に、仲間達は頷き、攻撃を続行する。
「あっれあれ~? みんなアルスちゃんに触れられないのかなぁ~? ざぁ~こ、ざぁ~こ♡ ……って、これはアイドルとは違うかなぁ♪」
挑発も交えつつ、アルスは跳躍。放たれた遠距離術式を避けて見せる。とはいえ、アルスは多くの敵を引き付けている。その分、負担は大きい。可能性の守護(パンドラ復活)の見込めぬR.O.Oでは、システム上のHPの喪失=死亡(デスカウント)につながるのだ。幾度目かの攻撃が、アルスの身体を傷つける。がくり、と力が抜けるのを感じた。HPの限界だった。
「ごめん、一抜けするね♪ それと――」
アルスはふと、泣きそうな顔で叫んだ。
「今までのは、俺の素じゃないからな――!」
粒子に変換されたアルスが、死亡(強制ログアウト)する。
「了解。任務を引き継ぎます」
末期の悲鳴を特に気にせず、ウルリカがひきつけ役の任務を受け継ぐ。
「獲物を取り合っての口喧嘩……鋼鉄の国民性では腕より口が物を言っていましたか?
いくらここが似て非なる場所と言っても、あまりに問題解決の手段が雑ではありませんか。
知能のパラメータを再現し損ねているのでは?」
「訳の分からんことを……!」
殴り掛かってきた敵の拳を、ウルリカは左手裏拳で叩いて払った。そのまま、右手の掌底を、腹へとぶち込む。ごふ、と敵が息を吐く。
「この鳥は没収です。
それがいやなら、かかって来ると良いです。権利も権限も、戦って勝ち取るのが鋼鉄です。実力第一、口争いなど終わりが見えないのですから」
掌底で吹き飛ばさされた男が、気に叩きつけられて意識を失う。特異運命座標たちは懸命に戦い、敵の数を減らして行く。ヒーラーを潰し、敵の回復を阻止したまま、一気に範囲攻撃による削りを狙う。南へ逃げながら戦う特異運命座標たちは、さながら『モンスタートレイン』のような様相を呈していたが、
「……あら、これってわたしたちもマナー違反、って事になるのかしら?」
尋ねるルルリへ、
「周りに他のプレイヤーがいないからいいんじゃないデスかね!」
うるふは答えるのであった。
そして、戦いは続き、やがて決着の時を迎えようとしていた。
●皆々のナワバリ
作戦は適切であったが、やはり数の暴力は強烈である。元より損害上等のクエストであるのだから、そこはR.O.Oがクソゲーたるゆえんである。
敵の構成を受け切っていたアルスは先に死亡し、そして今、うるふの胸に、敵の刃が突き刺さった。
「痛ーーっ! うーん残念! すみまセンがお先に!」
ばしゅ、と粒子になってうるふが死亡(強制ログアウト)。しかし敵の数は相応に減っており、このまま押せば、充分討伐できる範囲である。
ウルリカが前面に立って、敵の攻撃を引き付ける。その間、特異運命座標たちの決死の総攻撃が行われていた。
「まったく。脳筋たちが言い争って……恥ずかしくないのかしら」
嘲笑するように、ルルリ。放つ術式が、自らの周囲の敵をなぎ倒し、吹き飛ばした。
「とりゃーっ!」
ヤーヤーの振るったフライパンが、敵の脳天をひっぱたく。ぐらり、と揺れた敵が倒れて、ヤーヤーはあたりを見回し。
「もう少しだよ! このまま押せば、勝てる!」
「では、お言葉通り、一気に押すとしましょう」
デイジー・ベルの術式が、残る敵を飲み込んだ。呪縛と麻痺の力が、敵たちを縛り付ける。
「ハウメア様」
「任せてください!」
デイジー・ベルが静かに言うのへ、ハウメアは頷いた。フルートを奏でれば、氷結の音色が敵の群れを巻き込み、その身体を凍り付いたように動かなくさせた。
「しまった!」
敵が叫ぶ――そこへ近寄るのは、ルルリだ。
「ルルリさん、それで最後です!」
ハウメアの言葉に、ルルリはゆっくりと頷いて、
「ええ。わたし、もう、眠いの。静かにして頂戴ね?」
と、自身を中心に放たれたルルリの魔力が、敵たちをなぎ倒した。動くものは、他に居ない。やがて、特異運命座標たちのインターフェースに、派手な効果音とともに「クエストクリア」の文字が躍る。
「くわっ! くわっ!(ログアウトボタンが復活しました!)
研究員が叫び、くわくわと頭を下げた。
「くわーっ!(ありがとうございます! 一生あのままかと思っていました!)」
研究員たちは次々礼を言うと、やがて光の粒子に包まれてログアウトしていった。
「――――戦闘終了」
ウルリカの静かな声が響いた。それは、作戦の完了を、意味していたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆さんの活躍によって、研究員たちは無事に解放されました!
狩場の問題も、これで解決する……かもしれませんね。
これは余談なのですが、後に研究員たちのデスぺナを数えたところ、2桁は余裕で死んでいたそうです。可哀そうでしたね。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
クエストを攻略し、練達の研究員たちを救いましょう!
●成功条件
エピオルニスの救出
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
●状況
鋼鉄は、とある森林地帯。そこは鋼鉄住民たちの修行場として親しまれ、そこに生息している『エピオルニス』と言う駝鳥のような鳥は、格好の狩りの相手となっています。
そのため、ここには人が押しかけ、獲物の取り合いが多発しているようです。くわえて、ここにいたエピオルニスの中には、バグにより変容させられ、ログアウトできない練達の研究員たちが居ます。
みなさんは、この狩場に向い、狩場の独占を目論む修行者たちをまとめて倒し、練達の研究員たちを救出するクエストを請け負いました。
クエスト発生時刻は『昼』。天候は『晴天』。フィールドは広場になっており、戦闘ペナルティなどは発生しないでしょう。
ちなみに、クエスト開始時点で、配置はこんな感じです。
敵
敵 敵
敵 敵
敵 我々とエピオルニス 敵
敵 敵
●エネミーデータ
鋼鉄修行者たち ×30
それぞれ10名のPT(パーティ)を組んだ、鋼鉄の修行者たちです。
クエスト開始時点で、それぞれ北、東、西に、10名ずつ配置され、特異運命座標とエピオルニスは包囲されているイメージになります。
10名のPTバランスは良好、物理前衛多めで、少数のヒーラーと遠距離攻撃役が存在します。
それぞれのPTは優先的に特異運命座標を攻撃してきます。我々のエピオルニスを狙っているのでしょうがないです。
なお、これはシステムに設定されたクエストとなっていますので、特異運命座標がエピオルニスと接触するまで、彼らは等間隔で口喧嘩を延々と続けます。待っても同士討ちを始めたりはしないです。
以上となります。
それでは、皆様のご参加と、プレイングをお待ちしております。
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