PandoraPartyProject

シナリオ詳細

牛乳ガブ飲みで攻撃をだいたい無かったことにできるスライム

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 スプリングノートの草原に爽やかな風が吹いて、木々は程よく葉を揺らす。
 フードが風を含み薄茶色の髪がふわふわと揺れた。
 現実世界と見紛う程の高密度な情報。
 フルダイブ型の仮想環境――『Rapid Origin Online』の広大な世界は果てしなく続いている。

「えっと、この辺で良いでしょうか?」
 くるりと振り向いた『燈堂 廻のアバター』廻(p3y000160)は朗らかな笑みをイレギュラーズへと見せた。
 右手にはランタンの付いた杖を持ち、もう片方の手はカートを引いている。
 カートを覗き込めばぎっしりと詰まった牛乳瓶がガチャガチャと音を鳴らした。
「何でこんなに持って来たんだ?」
「えっと、回復薬が高かったので……こうして」
 廻はランタンのついた杖を振るい、スライムをボクっと殴った。
 ぽろろんと跳ねる音と共に廻へと攻撃を開始するスライム。
 廻がぼこっ、ぼこっとスライムを叩く音。負けじとスライムも廻に体当たりを仕掛ける。
 徐々に減っていく廻の体力。廻はスライムを叩きながら左手で牛乳瓶を掴んで飲み干した。
「……んっ、く、んく、ぷはっ! こっちの方が安くて効率が良いって龍成が言ってたんです」
 攻撃を受けても牛乳を端から飲んで回復すれば体力の八割は保てるという寸法だ。
 何度目かの攻撃の応酬の後、びちゃっとスライムが弾け。
「やりました!」
 廻が満面の笑みで拳を掲げた。

 無辜なる混沌への強制召喚を打ち破り、元の世界へと帰還することを目標にしている練達の科学者達によってつくりだされた仮想環境『Rapid Origin Online』――通称『R.O.O』の中に、イレギュラーズはダイブしていた。
 事の発端は予期できないエラーによるシステムの暴走。
 フルダイブ型の仮想空間に深刻なバグが発生し、練達科学者、及びR.O.Oのゲームマスター(三塔主)の権限の一部を拒絶したのだという。
 つまり、ログイン中の『プレイヤー』が閉じ込められるという深刻な状況が発生した。
 三塔主からの依頼を受けてローレットのイレギュラーズ達は早速『R.O.O』へとプレイヤー登録をする事となった。何故エラーが起きたのかを探り、閉じ込められたプレイヤーを救い出すのがイレギュラーズの目的なのだ。


「今日は戦闘クエストに挑戦してみようよ」
 廻は町の中にあるクエスト掲示板の前で、一つの紙を指差す。
「いや、MMO初期つったら、先に金策だろ?」
 張り出された紙を一緒になって覗き込むのは『澄原 龍成のアバター』龍成(p3y000215)だ。
「でも、戦ってクエスト報酬貰えば、お金貯まるよ?」
「それは強いやつを倒したら、だろ? 装備も必要だし」
「むぅ、今日は戦闘クエストしたいなぁ。昨日も金策だったし」
 頬をぷくぷくとわざとらしく膨らませ、抗議の声を上げる廻。こういった表情に龍成が弱いのを知っていての所業。以前は戦った間柄であったが、現在では多少なりとも打ち解けているようだ。
 身体の弱い廻はこうして自由に遊び回れるR.O.Oが楽しいらしい。
「分かったわかった。じゃあ、こいつらと一緒なら良いぜ」
 龍成は掲示板の前に居たイレギュラーズに視線を合わせる。
 廻も龍成も現実世界と同じ姿のアバターなので見知っているとはいえ、突然話しかけられれば少なから驚きはする。
「なあ、そこのイレギュラーズ。すまねぇが、廻と一緒に戦闘クエスト回ってくんね? 俺は金策に忙しっからな」
「よろしくお願いします!」
 ぺこりとお辞儀をした廻。手にしたカンテラの杖が反動で揺れる。
 魔法なのだろうか、カンテラの中で揺らぐ炎は大きく杖を振っても消えはしない。
 カンテラの中で揺れる灯。ガラスに反射する炎。どれをとっても本物としか見えなかった。

 ――――
 ――

「わしが管理している果樹園にスライムが現われてのう。こう、荷車を引きながら間違えて踏んだりすると襲ってくるのじゃよ。昔は斧でギャイン言わせてたんじゃがのう」
「なるほど。それは大変でしたね」
 昔は負けん気の強さでスライムを退治していたのだというご老人に話しを聞きに行くのがクエストの受領というわけだった。システム音と共に画面の右に現われたクエストウィンドウ。
 丁寧に地図も添えてあった。この高台にある果樹園らしい。ここからなら迷う事はないだろう。
「わしの果樹園は景色も良い。気晴らしにのんびりするのも良いぞぉ」
「ありがとうございます。おじいさん。必ずスライムを倒して来ますね」
 くるりと振り向いた廻はイレギュラーズに笑顔を向ける。
「じゃあ、クエスト開始です――!」
 廻の元気の良い声が広場に響き渡った。

GMコメント

 もみじです。牛乳瓶を積んで。
 簡単な戦闘クエストから始めてみましょう!

●目的
 戦闘クエストのクリア
 散策する

●ロケーション
 町の外。高台にある果樹園です。
 今の時期は赤くて美味しそうなサクランボが生っています。
 少しだけなら食べても良いそうです。
 スライムがあちらこちらに居ます。湿気が多くなると出てくるそうです。

●敵
○スライム×たくさん
 何処からともなくやってきます。
 ある程度の数を倒せばクエストクリアとなります。
 弱いスライムと侮ると危ないですので、牛乳瓶を積んでガブ飲みしながらやっつけてしまいましょう!

●牛乳
 飲むっていえばあります。
 なぜかこのスライムからのダメージ回復に有効です。
 理由は、しらない。

●NPC
『燈堂 廻のアバター』廻(p3y000160)
 マントを被ってカンテラの付いた杖を振り回しています。
 カートに入った牛乳瓶を大量に所持しています。
 R.O.Oの世界に慣れるため今は現実世界と同じ姿ですが、そのうちバルバロッサの様なむくつけき大男のアバターに変更したいと思っています。

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • 牛乳ガブ飲みで攻撃をだいたい無かったことにできるスライム完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3x000273)
妖精勇者
ニアサー(p3x000323)
Dirty Angel
花糸撫子(p3x000645)
霞草
ジェック(p3x004755)
花冠の約束
ルフラン・アントルメ(p3x006816)
決死の優花
お龍(p3x007422)
だぁくひーろー
黝(p3x008717)
玄緯・玄丁のアバター
清鷹(p3x008726)
久泉 清鷹のアバター

リプレイ


 朗らかな昼下がり。パールイエローの陽光は程よい光量で高台の果樹園を照らす。
 木々の緑に垂れ下がる赤のコントラスト。サクランボは艶やかにのびのびと育っていた。
「どんなお仕事あるのかな、って見てたらこわそーな人に声掛けられてびっくりしたぁ」
 胸に手を当てて溜息を吐いた『フラン・ヴィラネルのアバター』ルフラン・アントルメ(p3x006816)に『燈堂 廻のアバター』廻(p3y000160)はくすりと微笑む。
「急に手伝って貰ってすみません」
「ううん。でもなんか、お友達思いな人なのかなって。まあ、気を取り直して、それじゃー廻さんも皆も一緒にれっつごー!」
「おー!」
 手を上げた二人の間に牛乳瓶が打つかる音が響く。
「……あ、クラスとかまだまっさらー! えーと【超絶ヒーラー(仮)】でがんばる!」
 ルフランは拳を握りしめ力強く頷いた。

「廻が持っているのとは別に2個目の牛乳カートを用意したよ!」
 後ろから追いついてきた『妖精勇者』セララ(p3x000273)が牛乳瓶が詰め込まれたカートを引いてくる。
「そして――出でよ、嵐の聖騎士!」
 空へ聖剣ポッキーソードを翳したセララに呼応するように、ピンク色の魔法陣が展開し風が生まれた。
 次第に収縮していく風の渦が一塊になり嵐の騎士が現われる。
「君の役目は2個目の牛乳カートも引き、皆に牛乳を配ることだよ。タイミングを見計らって牛乳カートから牛乳を取り出して渡してね」
 セララの命令を承知したと言わんばかりにコクリと頷く騎士。
「この仕事をキミに任せることでボクは戦闘に専念できるから頑張ってね!」
 こくり。
「同じ味ばっかりだと飽きちゃうからフルーツ牛乳とかコーヒー牛乳、ホットミルクの準備もよろしくねっ。飲み終わった空き瓶の回収もお願いねっ」
 嵐の騎士はセララからの指示に混乱している!
「とりあえず。セララさんの牛乳も一緒に運ぶね。頭に乗るならあたしの頭使っていいよー! ポニテも尻尾も滑り台にどうぞ!」
「やったー!」
 小さな妖精の大きになっているセララはルフランのふかふかの尻尾へ飛びついた。

「ふむ。体や手の感覚は現実と変わらぬのだな。まったく、不思議なものだな。科学というのは」
 手の平を上に向けたり下に降ろしたりして感触を楽しんでいるのは『久泉 清鷹のアバター』清鷹(p3x008726)だ。着物の絹の繊細な感触すら腕に感じるのだ。感心する他無いだろう。
「さて、クエストなるものを受けたからには。クリアして帰らねばな」
「はい! ありがとうございます! 清鷹さん」
「廻殿のやる気も目に出ているな。良いことだ」
 清鷹は廻と同じようにカートへ牛乳瓶を並べていく。
「あれ、清鷹さんのカートちょっと僕のと形が違いますね」
「本当だな。こっちはカートというより荷押し車といった風情だ。持ち主の風体によって変わるのだろうか。まあ、牛乳を運べるなら見た目は問題無いだろう。どれだけ飲むかはまぁ、状況しだいだが……できるだけ
持って行くとしようか」
 清鷹と廻のカートを覗き込むのは『Dirty Angel』ニアサー(p3x000323)だ。
「沢山持って行くのね」
「ニアサーさん」
 廻の視線に気付き、ひらひらと美しいイエローゴールドのファーがついたマントを摘まむ。
「ほら、廻くん、あなたとおなじだよ。マントってかっこいいから好き。さあ、今日は頑張ろう」
「はい! 僕もそんな格好いいマントが似合う大きなアバターが欲しいですね。バルバロッサさんみたいな感じで格好いい感じの」
「大男のアバターになりたい? うーん、ニアサーは今の方が好きかな。かわいいし」
「そうですかね。ニアサーさんも可愛いですよ。ふふ」
「ん。お試しクエスト、頑張る。回復薬が牛乳味だと思えば、いける。多分」
 銀色の髪を左右に分けた『せなかにかくれる』ジェック(p3x004755)が拳を握りしめた。
 牛乳も沢山あることだし。スライムもきっとどっかーんとして倒せるに違いない。
 その隣を歩く『だぁくひーろー』お龍(p3x007422)は初めてのクエストに意気揚々と口の端を上げる。
「よし! 初めての依頼だ……気張ってこなさねばな!
 それにしてもそんなに腹は強くないんだが……この世界はいくら牛乳を飲んでも大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。ゲームですし」
 お龍の心配そうな声に廻が微笑んだ。
「心配だ。ゲームというのはとんと疎くてまったくわからんぜ……」
 イレギュラーズは果樹園に向けてあるいて行く。


「ふふ、牛乳を飲みながらスライムを退治するって不思議な光景ね?」
 くすりと口元を綻ばせた『霞草』花糸撫子(p3x000645)は目の前で繰り広げられる光景を見つめる。
「でもおじいさんの大切な果樹園ですもの、スライムたちには悪いけれど……ここからは退いてもらわないとね!」
 撫子の鞄に詰め込まれた牛乳瓶がガチャガチャと音を立てた。そして、その中から徐に一本を取りだし手の中に握り絞める。
 果樹園に水まきをしながら、スライムをおびき寄せ――歌を奏でる。
 紡ぐ歌はヴェールの様に煌めき撫子の頭に優しく被せられた。白きレースに彩られる守りの調べはスライムの攻撃をはじき返す。撫子の視線は廻へと向けられた。
「1対1なら廻さんの……ふふ、思い出すとちょっと笑っちゃうのよね。あの戦い方で大丈夫そうだけれど、囲まれたら危ないわ」
「まだ、大丈夫そうです!」
「あらあら。無茶はだめよ」
 廻の体力ゲージはまだ緑色の域に留まっている。もう少しであれば問題無いだろうと撫子は戦場の後ろで様子を伺っている『玄緯・玄丁のアバター』黝(p3x008717)へと振り返る。
「……これお腹とかにダメージ入ったらRe.versionしないよね……?」
「どうかしら? 大丈夫じゃないかしら?」
「あ、ギャグクエストじゃない? そういうんじゃない? 良かった、せっかく格好のつくアバターなのにそんなことになったら大変だったよ」
 胸を撫で下ろした黝はサクランボの木に寄りかかり顎に手を置いた。
「ふっふ、僕は詳しいんだ、これはきっとチュートリアルなクエスト……つまり多少無理しても回復さえすればなんとかなる! ……んだよね? あ、さくらんぼ食べよ」
 黝は目の前にあったサクランボを一粒取って口に含む。
「あ、まだちょっと酸っぱい」
「サクランボは上の方が甘いっていいますしね。終わってから上の方の取りましょうか」
 廻の言葉に黝がこくりと頷いた。

「よし、これで牛乳とカートは嵐の聖騎士に任せたから、彼を守るようにしつつ敵を攻撃していこう!」
 ルフランの頭の上でセララがポッキーソードを掲げる。
「妖精サイズの牛乳もあるから安心してね! って、もしかして。今回あたしの出番いらないんじゃ!?」
「大丈夫、もしもの時に回復があると助かるよ! 一気飲みするのだって大変だからね!」
 ルフランの頭の上から飛び立ったセララは彼女にウィンクをしてみせる。
「セララさん……よし、みんなに元気牛乳投げちゃうんだからー! それえ!」
 絶妙な弧を描いた牛乳瓶の蓋がパキョと外れ、スライムに攻撃を受けていた廻の頭に降り注いだ。

「このスライム……牛乳を狙ってる!? ダメだよ! この牛乳は大切な回復アイテムなんだ!」
 セララは牛乳カートに近寄ってくるスライム目がけて剣を振り下ろす。
 紫電の雷が果樹園に落ちて、セララのポッキーソードに合わさって物凄い威力でスライムを蒸発刺せた。
「おお! やっぱりスライムに有効なのかも……って、危ない!」
 何処からともなく現われたスライムの攻撃を剣で弾き返したセララ。
 僅かに減ってしまった体力。
「セララさん! これで回復を!」
 ルフランが投げた牛乳瓶は何故かセララサイズになって彼女の手の平に収まる。
 それをゴキュゴキュ飲み干すセララ。
「よし! まだまだ!」
「あたしも殴るよ! この夜明けの書痛そうでしょ! 角とか! 絶対痛いから! えい! やー!」
 セララの攻撃にルフランの書物の角が炸裂し、スライムがパチンと弾けた。
「……ねえ、さっきから牛乳飲みまってるけど……ゲームだからお腹壊さないよね?」
 心なしかこみ上げてくる物があるような。

「防御性能もそんなに悪くないから、ちょっとしたタンク役くらいならできる。
 だから、スライムも集めて狩るのが効率良い。と思う」
 こっちを見てとジェックはスライムの前で武器を振り回した。
 うっかり武器が当たって感電したけれど、かんけいない。大丈夫。
「よし。うまくつれてる……」
「おお。すごい集めたな」
 お龍が感心して顔を上げる。スライムの移動エフェクト音が多重に重なりすぎて、大音量になっていた。
「ほら、みんなも叩いて。集め過ぎちゃった。あ、でも、こういうのって横取りになっちゃうから気が引けるかな」
「同じパーティだから、大丈夫なんじゃねーか?」
 ジェックの疑問にお龍が応える。
「なるほど。じゃあ、遠慮無く。どっかー……あ、そこどいて。危ない」
「おう!」
「どっかーん!!!!」
 水色やピンク色のスライムが弾けてゼリー状のアイテムがドロップする。大量に。

「おっし、俺もとにかく殴る!! だな。ダメージけいさん? とかよく知らねえしな!」
 クエストで肩慣らしだとお龍は腕を回す。
「使う得物が銃剣じゃねえのがちと残念だが……覚悟しやがれすらいむ? 共!」
 お龍は手にした武器でスライムに殴りかかった。
 されど、現実世界の癖で武器を前方に突き出し刺突の型を取ってしまう。
「なぜだ! 上手くいかん!! くそ!!」
 自分の行動に戸惑いを隠せないお龍。何度も攻撃を繰り返しては首を傾げた。その間にもスライムからの攻撃は続いている。
「まっったくこの身体の戦い方ができねえ。そして敵からのダメージもすげえ。あ、でも、牛乳でだいたい回復出来るんだったな! よし! 飲む! んくんくっ、……ヴッ! ゲホッァア!!!! ちょ、ゴホ、変な所はい、気管……に、ゲハっ、こんな所まで忠実に再現しなくていいだろR.O.O!」
 ぜぇぜぇと息を切らせるお龍は視線を上げてスライムを見据える。
「とにかく! 回復したからには覚悟しろよすらいむ共! ゲホ! あ、ちょ……待って、めちゃ居るし。しかも、なんで服が破ける!? いや溶けてる!? 待て待て!」
「わわ! お龍さん!? 僕のマントを!」
 廻が自分のマントをバサリとお龍に被せる。
「こ、これでヨシ!」
「ヨシじゃ無いです。学ランも着て下さい」
 とりあえず学ランとマントでごまかす事に成功したお龍と廻。

 ニアサーは牛乳瓶を咥えながらスライムと対峙していた。
「しかし、瓶? 牛乳を紙パックじゃなくて瓶に入れているなんて初めて見たよ。
 このROOの世界には自分の知らないことがたくさんありそうね」
 牛乳瓶を咥えながら喋れるとは本当にニアサーは瓶初体験なのだろうか。R.O.Oの世界は奥深い。
 スライムに囲まれぬよう注意しながら距離を保ち――俊足で飛び込むニアサー。
 二つの風刃がニアサーの周りに吹き荒れ、スライムを両側から切り取る。
 敵も負けじとニアサーへ体当たりを仕掛けた。ゼリー状の物を刃物で切りつける音と柔らかい物体が叩きつけられる音が交互に響く。
「スライムじゃあ、無理。ニアサーは、止められないから! 廻くん牛乳ちょうだい!」
「はい!」
 廻が投げた牛乳を空中に翻りキャッチしたニアサーは着地と共にゴクゴクと飲み干した。
「自分からスライムの群れに突っ込まない。カートを守るのも大事な役目だからね!」
 ニアサーの剣檄に黝も意を決して一歩前に進む。
「とりあえずは斬って斬られて……スライムは斬ってこないか。まずは自分の体の動きを慣れさせるのが第一だね……えっと『アクディブスキル1』は」
 黝はスキル効果のメニューを開きながらスライムに向けて構えを取る。
「えっと、これは体力が満タンの時に発動できる技だね。いまだね! よーし!」
 頭の中で思い描く軌跡に沿って四聖刀『陣』が光を帯びて刃が閃いた。
「おお。スキル出たね。なるほど、こういう風になるのか。2の方は連撃……3は、あれだ射程範囲が扇形になってるみたいだから、敵が多い時や攻撃を一方にだけ当てたい時に使える良い技だね。でも、気を付けないと行けないのは仲間を巻き込んでしまうこと……か。今の僕の大技だけど、使い所に注意だね」
 スキルのメニューを閉じて黝は牛乳を飲み干す。
「使い分けを練習しようか。あとは牛乳……というより、回復アイテムを使うタイミングの把握かな」
 一つずつ出来る事が増えていく感覚に黝は心を躍らせる。
 スライムの攻撃を身に浴びて、現実世界との差異を縮めるのだ。
「死んでも大丈夫だし、重点的に攻撃して、いつもの本調子…背水が発動するぐらいになったら回復して、うん、これなら楽しめそうだね」
 黝の後方には清鷹が戦場を見渡している。
「清鷹さんはどんな戦い方をするんです?」
 ひょっこりとワイシャツ姿の廻がやってきて首を傾げた。先ほどお龍のピンチを救った時のままの格好なのだろう。
「私は剣を主体に鍛錬して来たのだが、少しばかりなら弓の心得もある。剣よりは劣ってしまうが。なに、また一から鍛え直すつもりで挑む所存だ」
「弓ですか。良いですね、僕もなんだか弓って馴染む感じがします」
「ほう。なら、今度一緒に弓を引いてみるか」
「はい!」
 にっこりと笑顔を向けた廻に目を細める清鷹。
「……さて、狩るとするか」
 スライムに狙いを定め、弓のしなりが限界まで来た所で解き放つ。
 ゼリー状のスライムに突き刺さった矢。その反動でスライムは地面を転がって行った。
 次々と現われるスライムに的確な矢を向ける清鷹だが、如何せん数が多く見える。
「ふむ。スライムとは序盤に倒すのがセオリーと聞いたが、なかなかどうして。油断は出来ぬな」
「そうですね。結構集まってきましたね……」
 廻が清鷹に視線を向けると弓を持ったままその場で踊っていた。身体は踊っているが表情には焦りが見える所から意図せぬものだったのだろう。
「……清鷹さん?」
「いや、変な所を押してしまったのだろうか。慣れない操作故、済まない」
 少し頬を染めて廻に視線を上げる清鷹。その後方に大群とも呼べるスライムの群れが迫っていた。
「む……廻殿、後ろ!」
「え? う、うわぁ!?」
 廻と清鷹がスライムに飲まれていく――


 撫子の体力ゲージが黄色に突入する。半分になったということだろうか。
「牛乳を飲むわ!」
 手にした牛乳をごくりごくりと飲み干す撫子。
 その間にもスライムからの攻撃は止まらない。
「飲んだら歌! 牛乳! 歌! ……そのうち、お腹が牛乳でたぷんたぷんになっちゃいそう。あら?」
 仲間の体力ゲージを見ると黄色から赤に変わっているものが二つある。
「……はっ! 廻くん! ピンチなの!?」
「むむ?」
 スライムの群れに囲まれた廻と清鷹。
「おおおお! 今、助け出すよお!」
 撫子とルフランがスライムをかき分け二人を引っ張り出す。
「大丈夫? 二人とも」
 スライム塗れになった清鷹と廻をタオルで拭くルフラン。
「はい。すみません、助かりました。清鷹さんが居なければ僕死んでたかも」
「死ぬような事があれば龍成殿に叱られそうな気もしなくも無い故な。まあ、皆のお陰で助かった。感謝するよ」
「ありがとうございます! でも、あのスライムの群れって……あ、ジェックさんとニアサーさんがやっつけてくれたんですね」
「うん、こっちのスライムは任せて……どっかーん!」

 スライムの群れは淘汰された。粉々に砕け散り大地に消えて行く。
 残されたのは大量の牛乳瓶とスライムの欠片だった。

 ――――
 ――

 ジェックと黝はリポップしたスライムの前に立っていた。
「行けるか……、もう一度!」
 大群の水色スライムが二人を襲う――

「ところで、スライムと牛乳混ぜたら美味しくなったりしないかな? うーん、試してみたい!」
 セララはニアサーと共に空瓶とスライムの欠片を拾い集めながら首を傾げる。
「じゃあさ! サクランボを入れてみるのはどうかな?」
 サクランボの木の上の方に上ったリス姿のルフランがお裾分けと皆の元へ持ってくる。
「以外と行ける!」
「ほんと!? やったー! 取ってきた甲斐があったね」
 セララは目を輝かせながらリス姿のルフランに抱きついた。ルフランの尻尾はふわふわで柔らかく気持ちよかった。
「サクランボの甘さとわずかなすっぱさ。これも再現できて感じられるなんて、いったいこのゲームはどういう仕組みなんだろう」
 不思議だとニアサーがサクランボを口の中に頬張る。
「皆お腹痛くないのか? そうか……強いな……はぁ、俺はしばらく牛乳はいい」
「しばらくは飲みたく無くなりそうだ、な」
 首を振ったお龍に清鷹がポンと肩に手を置いた。

「廻さん、これはさっきのお友達さん用に! 多分お土産って言ったらすっごく喜ぶと思うよー!」
 ルフランが廻の手の平にサクランボを乗せる。
 これを一粒取って龍成の口元へ持って行けばどんな反応をするだろうかと、くすりと微笑んで。廻はルフランへと礼を告げた。
 見晴らしの良い高台から望む景色は良いものだと撫子は廻へ微笑む。
 仮初めの日常は、戻りたくなくなる程に色づいて――

成否

成功

MVP

花糸撫子(p3x000645)
霞草

状態異常

ジェック(p3x004755)[死亡]
花冠の約束
黝(p3x008717)[死亡]
玄緯・玄丁のアバター

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 楽しんで頂けたら幸いです。

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