PandoraPartyProject

シナリオ詳細

骨で吸い牙で喰らう

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 人は死ぬ。それこそ羽虫のようにあっさりと。
 人は燃える、刻まれる、崩れる、腐る。だが骨だけは能(よ)く残る。
 即ち、骨というのはその存在の本質、全て奪われて最後に残るものなのだ。
 無論、骨も残さず燃え尽きる者がいるように、『本質』が脆弱な者も少なくはない。そういう弱い者はきっと、この世になにかを残す価値がなかったのだ。
 幻想貴族、トラヴィス・サレオーネは人間に愛を以て接している。自分もまた人間であるが、愛ある関係を築けると思っている。
 だからこそ。
 彼は人を人たらしめる骨を汎ゆる形で残したいと思い、実行してきた美の追求者にして哲学者なのである。
「何っ、でっ、何で俺がこんな目に遭わされるんですか、ねぇ、何で!」
「何で、か。私は人が好きだ、という話はしたのだったかな?」
「聞いた、聞きましたよその話は! 何度となく!」
 トラヴィスの屋敷の地下の一室にて、下着一枚にされ、うつ伏せに拘束された男は絞り出すような声で訴えかけた。彼はこの屋敷の若手の庭師だ。それなりに野心も向上心もあり、トラヴィスのいうところの『美しい』人間であった。
 あったのだが、彼は必要以上に知ってしまった。
 トラヴィスの家で支給される庭道具だとか、銀食器にあわせて供される白いナイフやフォークだとか、果ては装飾品だとかの意味を。目をそらしていれば、別に気付くこともなかっただろうに。
 先輩にあたる庭師の男はその点、賢かった。……もとより耳が衰えていたので、無口だったのも幸運だったのだろうが。
「大丈夫、私は君が好きだよ。……ほら、この足。立派な脛骨が入っていそうだ」
 え、と。
 庭師はトラヴィスの手の中にある『自分の足』を見た。切り離された足。痛みを感じなかった足。だが出血は続き、血の気の失せた彼の耳元で声は続く。
「大丈夫、君の神経は背中から切って痛みも感じないよ。……ああ、もう聞こえてないかな? その出血量ではそう時間もかからないか。残念だ――」

●捕獲命令
「国内もたいそう不穏だってのに、アンタ達はこうして呼べば来てくれる。随分と忠実なモンだね」
「依頼なんだから当然だろ」
 監獄島、その一室でイレギュラーズを出迎えたローザミスティカの嬉しそうな声に、依頼を受けたうち1人が不機嫌そうに返す。
 幻想国内にあって幻想の権力圏にあらず、治外法権を貫くこの島では、ローザミスティカの自由にならぬことは然程存在しない。ローレットを頼る場合、彼女の権力や知名度を上回る厄介事や外部のいざこざが絡んでいることを意味するわけだが……今日の依頼は彼女の権力が及ばない場所、即ち幻想本土における出来事に関するものだった。
「今日はちょっと、捕まえてきてほしい奴がいるんだよ。場所はフィッツバルディ領内。昨今の『勇者選挙』とか『大奴隷市』とは全く関係ないところで、人を度々手にかけてる貴族がいてね。厄介なことに、こいつがなまじ名を売っているから政治的にも『普通の手段では』手が出せない。そこでアンタ達さ。そのへんのいざこざを無視して手を下せるんだからね」
 貴族としての名が通っていることで、表のルートから法の執行を期待することができない。彼女と懇意のフィッツバルティ領での出来事だから、早急に排除したい。なるほど、依頼としては筋が通っている。だが、彼女は『殺害』ではなく『捕縛』を依頼してきた。相応の理由があるんだろう、と誰かが問う。
「そうだね、そいつは殺した連中の骨を加工して自分で使ったり、糸切り歯を加工して牙にして口の形に並べてみたり、兎に角『そういう』造形に長けている。罪人として殺すくらいなら、ウチに是非欲しいとおもったワケさ」
 つまりは遊興目的で手元に置きたい、監獄街の活性化の為に……ということらしい。
 なんとも迷惑な依頼だが、しかし混乱が続く幻想国内で厄介ごとの種を増やしたくないのはイレギュラーズとて同じこと。一同はローザミスティカの依頼を受け、幻想に潜む殺人者捕縛へと向かう。

GMコメント

 なんか似たような嗜好した悪人書いた覚えがあるので、私の性癖って大分歪んでるのかなあと思いました。

●成功条件
 トラヴィス・サレオーネの捕縛
(この際発生する人的被害の一切はこれを容認するが、サレオーネ邸の関係者以外への危害は推奨されない)

●トラヴィス・サレオーネ
 フィッツバルディ領内(厳密にはその勢力圏内)に属する小貴族。
 領地に対する政治は然程悪い噂はなく、人当たりもよい壮年男性である。
 だがその実使用人の入れ替わりが激しく、しかし旧使用人を外部で見ることが殆ど無い為黒い噂が絶えない。その噂は事実であったようだ。
 骨を用いた近接装備、多数の使い捨て前提の投擲装備、また歯を加工した牙によるかみつきなど、近中距離での多彩な戦闘を得意とする。HPが高いわけではないが危機回避に長け、決して単独では行動しない。
 また、相手の感覚を麻痺させるなどで「自他の攻撃の威力、体力の程度を誤認させる」能力を有する。

●サレオーネ邸使用人×そこそこの数
 庭師の聾人(誤字ではない)を除いてトラヴィスの悪行を知っている前提、そして彼を守るべく動く。当然だが潜入などは容易ではなく、彼等を無力化させる必要がある。
 彼等の持つ装備は銃器を除き人骨製である。出血系BSの付与率が高い。
 なかには骨に依らぬ大型鈍器の使用者もいるため警戒のこと。

●サレオーネ邸
 地上2、地下1の構成となっている貴族邸宅。そこそこ広く、地下に行くには一度2階のトラヴィスの部屋の仕掛けを操作せねばならない。
 当然のように各種罠が散りばめられている。HP減少系BSや稀に致命を与えてくる。
 調査中のフェーズであれば一瞬の出来事だが減少値は正直なので十分注意すること。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 骨で吸い牙で喰らう完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月21日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
此平 扇(p3p008430)
糸無紙鳶
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
鏡(p3p008705)
玖珂・深白(p3p009715)
キリングガール

リプレイ


 暗室の中、伝声管がくぐもった響きを伴って地下へと声を届けてくる。切迫した様子もなく、ただ事実を告げるそれはどこか他人事を伝えるようでもある。
『ご当主、客人がお見えになっているようですが。……此方を監視しておられます』
 言葉の主――執事長が告げた事実は実に甘美な響きだった。そうか、と応じたトラヴィスは、楽しげに口元を歪めた。
「私の予定には無いな。適当にあしらうか……無理矢理にでも入ってくるようなら多少手荒く相手してくれて構わない。好きにしてくれ」
『かしこまりました。ではそのように』
 静かな返答。だが、どこか粘着質な加虐性を隠さぬ声を聞きながら、トラヴィスは目の前に転がる『素材』に目をやった。
「と、言っても……断っても訪問する輩はいるものだ。準備しておかねばな」


「貴族というのはどうにも、悪趣味な輩が多い、な」
「……あら、良いシュミしてるじゃないこのオジサマ。アタシの世界なら部隊にスカウトしたいくらいだわ」
 『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はターゲットの異常性に顔を顰め、『キリングガール』玖珂・深白(p3p009715)はその趣味の悪さを称賛する。命に対するスタンスの違い、とでも言うのだろうか? 恐らく、エクスマリアは『趣味の悪い貴族』に思い当たりが多すぎるのだろうが。
「うんうん、幻想貴族ってこうじゃなきゃねっ! ばびゅーんって張り切っていこうぜ!」
「悪い奴は悪い私らがとっちめてやらないとねぇ」
 『奏でる記憶』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)と『糸無紙鳶』此平 扇(p3p008430)は『遠慮なく倒せる悪』というものにどこか喜びに似たものを覚えていた。相手側にある善、主張といったものは純然たる闘争や暴力を求める者の感情を鈍らせる。そういった点に於いて、こと、秋奈にはこういう貴族は都合がいいといえた。
 ……無論、『殺すに罪悪が伴わない人間』を求める者は他にもいる。
「ふむ……始末した方の部位を頂くのは共感できるのですが、それを武器にしちまうのは理解に苦しみますねー」
「私はぁ、好きにやらせてもらえばそれでオッケーですのでぇ」
 『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)にとって、死体の一部、こと脚というのはこの上ない素材であった。今までも、良心の呵責なく殺せる相手から奪ったことは数知れず。カルトを奉ずる理由も悪徳に与する理由も、そもそもが我欲の為であり職人然としたトラヴィスとは性質が全く異なる。
 鏡(p3p008705)についてはもっと純粋に、刀としての『切れ味』を追求することが目的であり、その過程で手を汚すことに良心だの悪意だのが介在する余地がない。そういう意味では、鏡ほど純粋な殺戮者も多くはないのだろう。
「趣味嗜好は千差万別十人十色、だとは思いますけれど。その為に人の命を奪うのは看過しかねます」
 『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)は、ピリム達とは最も遠い価値観を持つ者だ。他人の価値観を許容する器はあれど、人道を平気で外れることが善しとするほど割り切っているわけではない。……然るに、その行為を大手を振って行うトラヴィスに対する敵意は十分にあると言えようが。
「殺害じゃなくて捕縛っつーのが面倒臭ェが、ローザミスティカ様のご要望じゃなァ。押し入り強盗……で、いいよな? 体裁は」
 『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は憂鬱そうに屋敷に視線をやり、意を決したように顔を隠す。彼女は誰もが認める程度には悪徳に浴した女であるが、さりとて無差別、無制限に後ろ指をさされることをよしとはしない。悪人なりに、線引きというものがある。
「マリア達は、地下を目指す、が……仕掛けを解かねば、だったか」
「面倒臭ぇなあ、適当にブッ壊して地下に行けりゃいいんだけど絶対使用人が邪魔してくるだろうしなぁ」
 エクスマリアとことほぎは最優先で地下を目指そうとしていたものの、改めて依頼書を確認すればそうも行かない様子。1階で悠長に仕掛けの開放を待っていれば、使用人の襲撃を待つだけになるだろう。
「アタシは小細工嫌いだし、犠牲を容認してもらえるんだから好き放題やらせてもらうけどっ」
「庭師以外始末していいんですし、私も脚を頂きましょうかねー」
 深白とピリムにとって、ターゲットであるトラヴィス以外は単純に己の欲を満たすだけの相手だ。数が多いなら尚のこと楽しめる。
「あれ、サレオーネ卿って地上にいるんじゃないの!?」
 秋奈は驚いたように一同に尋ねた。たしかに、居場所は特定されていないが……。
「助けを求める声は、聞こえない、な。でも、地下が怪しいのは、確かだ」
「どこに誰がいるのかもわかりませんし、拙が透視して怪しい罠の類があるところにバスター砲を打ち込むのは……?」
「庭師のじーさん殺せないんだろ? 通報されたらヤバいぜ。でも潜入箇所絞るのは賛成」
 エクスマリアの感知網には、助けを求める声はない。手遅れなのだろう……が、それこそが『トラヴィスが地下にいる』証左ともいえる。ステラの提案は魅力的だが、ことほぎの意見も尤もだ。ひとまずは、1階で掃討に回る面子と2階の仕掛けを解除する側とで分かれることとなる。……恐らく、使用人の全滅は確定路線だろうが。


 庭師の男は、率直に言って暗愚である。
 耳を聾したからといって他の感覚が秀でてもおらず、言葉は喋れるが拙いので筆談を強制される。
 サレオーネの家が彼を重用したのは、暗愚であるがゆえに事情を知らず、そして何より、その庭師としての腕前あってのことである。
 だから彼は、屋敷に向かってきた者達が招かれざる客である事実を知るよしもなく。

「数で押してくるならまとめてズドン、です」
「出会え出会え、私ちゃんのお通りだーっ!」
 屋敷に入るなり殺到する使用人達目掛け、ステラの砲撃が見舞われる。それを凌いだ者達は、しかし朗々と響く秋奈の名乗り上げに敵意を刺激され、ならばと手に手に武器を構え向かっていく。それが目論見通りであることは、彼等の浅知恵では気付けない。
「私、繊細なんですよ、その点、秋奈ちゃんは私より頑丈で頼りになりますから。任せましたよっ秋奈ちゃんっ」
「任された!」
 鏡は秋奈の後ろに控え、近付いてくる使用人を居合で鋭く切り裂いていく。威力は十分、されどその刃の通りは鏡の実力に比して、やや浅い。相手の実力? 否、鏡自身が『そのように』斬っている。
「死にたくなければ頑張る、戦場のマナーよ。さぁ、ダンスの相手はどなたからかしら?」
「不用意に貴族に仇為せば相応に報復を受ける、とマナーを教示した者から聞かなかったかね?」
 深白は挑発めかして言葉を紡ぐが、しかし返ってきたのは冷静な言葉と技術に裏打ちされた一撃。避けてもなお追ってくる猛攻は、使用人のなかにもそれなりの手練が混じっている証左だ。
「貴族の屋敷は、やはり、広いな。天井も高く壁も……む」
「シャンデリアにまで仕掛けついてんのかよ、おっかねえ……ステラ、地下室の場所は検討つかねえ?」
「床を見ていますけど、この辺りにはなさそうですね!」
 使用人を避けてシャンデリアに髪を延ばしたエクスマリアは、しかし引っ張った拍子にシャンデリアごと落下し、既のところで壁に飛び移る。半歩横に落ちたそれに冷や汗をかきながら、ことほぎはステラと連携して地下室を探る……正面玄関での攻防は次第に勢いを増しながら、1階を突き進んでいく。

「派手に動いてくれるのは助かるねえ、こっちは先に動いて罠を外しておけるってもんさ」
 他方、仲間達とは別経路で忍び込んだ扇は、静かにトラヴィスの部屋へ向かって前進する。罠を躱し、周囲を警戒して進む彼女。2階の罠の多くを解除し、いよいよもって本丸へと挑もうとした時、それは現れた。
「来たな、賊めが。ご当主の名誉にかけて、ここは通さぬぞ」
「……どいてくれれば、殺さず済むんだけどね」
 『夜颪』と『白波』、2つのナックルナイフを構えた扇は、堂々たる居住まいで佇む長剣使いの老人へと殴りかかった。

 秋奈のセーラー服をマフラーごと巻き込む勢いで、戦鎚が振り下ろされる。備えの鉤爪は鈍い白を呈し、振るわれる軌跡には死臭が纏わりつく。悪趣味極まるそれを受け流しつつ立ち回る秋奈の背後から、居合の軌道がすり抜ける。
「……その獲物、趣味が悪くてイイですねぇ」
 話す言葉を持たぬのか、それとも話す知恵がないのか。鏡の一刀を身を固めて受け止めた戦鎚使いは、得物を肩に担ぎ直してじりじりと歩を詰める。紫の光を帯びた秋奈の一撃に退きつつ、それでも打点は踏み込んでくる鏡目掛けて。床が揺れ、亀裂が走る。
「私ほどじゃあ、ないですけど」
 鏡はその時、既に男の胴を切って棄てていたのだが。

「見つけました、ここで……!?」
「上も、たどり着いたらしい、な」
 1階の使用人達を蹴散らしつつ進んでいたステラが指をさしたのと、床板が音を立ててスライドを始めたのはほぼ同時だった。エクスマリアの髪が周囲に触れ、罠がないことを確認すると、近くに居た面々は背後から迫る使用人と対峙する。2階の面々が戻ってくるのに、そう時間はかかるまい。


 鼻につく火薬の匂い、屋敷から上がる火の手。戦闘に係る轟音は庭師の耳には届かなんだが、さりとて『客人』が入っていった先で起きた異常事態を見れば、彼女らが屋敷に対する危険要素であることは間違いない。庭師は連絡手段に乏しいことに暫し逡巡し、それから鳩小屋へと駆け出した。薄々、気付かぬと知りながら。

「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしない!」
「不法侵入者が何某かを許すか否かを論じますか。愉快な思考をなさる」
 秋奈の名乗りに、護衛の1人は鼻を鳴らし得物を構えた。言葉は軽いが、その目には憤怒がぎらついている。明らかに機嫌を損ねているとみていいだろう。
「随分と護衛をつけていますねー、臆病なんですか?」
「それは、そうさ。私は荒事は嫌いでね、私がやるくらいなら部下に頼ったほうがいい」
「使用人達は、忠誠心が、強いのだな」
「それも、その通り。今この屋敷に残っているのは私の『趣味』より給金に興味がある傭兵くずれか、同好の古株だけだからね」
 残忍な施術跡を残す死体を挟み、ピリム、エクスマリアとトラヴィスは言葉をかわす。その間も、護衛と切り結び、またトラヴィスの攻撃を凌ぎながらなのだから厄介といえばその通り。攻撃を受けるたびに思考の隅を埋めるノイズは、確かに怪我や命の感覚に無頓着になりそうな錯覚を覚える。
「変わった能力をお持ちのよーですが無駄ですよー。力を誤認させられようと全力で剣を振るえば首は飛びますし、体力が無くとも身体が動かなくなるまで動けば関係ねーですからねー」
「それでアイツの首まで飛ばしちまったら意味ねえんだって、オレはローザミスティカ様から怒られたくねえよ?」
「そっちの君だって、大分面倒な術を使うね。……いや、ローザミスティカだと?」
 護衛の四肢を切断し、愉悦に頬を染めるピリムを傍らに見つつことほぎは呆れたように応じる。その手から放たれるのは、当のローザミスティカから薫陶を受け、得た術式。その奇怪さと相手の口をついて出た名に、トラヴィスが動揺を示すのも無理はない。
「殺すつもりはありませんが、今までやってきたことを見過せるほど拙達も優しくはありません」
「まあ、それは間違いないね。連れてくのが仕事だけど、悪いことをした分は報いをうけなくっちゃあ」
 ステラと扇は、他の仲間のように相手を積極的に殺したり徒にその生命を弄ぶ気はさらさら無い。が、罪には罰を、というごく当たり前の報復論は持ち合わせている。死なぬ程度に傷つけることに躊躇はない。
「ぶはははは! ほどほどにしとかないと、悪い子は私ちゃんがないないしちゃうぜ?」
「監獄島行きも殺されるのも御免だね! 私は簡単に終わりたくはないのさ!」
 秋奈の降伏勧告めいた挑発に、しかしトラヴィスは応じない。目の前で繰り広げられる惨事を以て、それでも自分はどうにかなる、という狂気じみた確信が見え隠れする。
 ステラは既に透視で作業室を睥睨し、その言葉の根拠が限りなく薄いことを見抜いているが……それでも湧く自信のほどが理解できない。だからこそ、エクスマリアの言葉に示した反応が腑に落ちた。
「もし、上の部下を、信じているのなら、無駄だ。もう、助けを求める声は、ない」

「私達を排除しにやってくる アナタ達をいくら斬っても怒られない、なんて素敵な依頼なんでしょう……♪ ミズ・ローザミスティカには、足を向けて眠れませんねえ」
「下も、そう長引かないでしょう……はぁ、疲れたわ」
 地下での戦闘が佳境を迎える頃、鏡は深々と愉悦の吐息をつきながら膝をつく。地下への階段の前で受け止めた使用人達は、その全てが鏡の刃の下に倒れている。他方、攻撃は前に出た深白がその多くを引き受けたがゆえに、鏡自身の傷は軽微。決死の抵抗に反して無情な成果。深白の脳裏に閃いた『不幸な未来』が誰のものだったかなど、もう考えるまでもないが……。

 ことの顛末を聞き、トラヴィスの身柄を引き受けたローザミスティカがコインを投げよこした際の表情を見れば、庭師の行動、その後の事態の深刻さがわかろうというものだ。

成否

成功

MVP

此平 扇(p3p008430)
糸無紙鳶

状態異常

ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)[重傷]
復讐者
玖珂・深白(p3p009715)[重傷]
キリングガール

あとがき

 2階をどうにかしないと地下にはいけないのでした。
 表向きの虚飾を引っ剥がさないと事実は明るみにならないので、まあそういうことですね。
 庭師のおじいさんは伝書鳩を使ったので、諸々露見するのは皆さんが帰って随分後の話です。

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