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シナリオ詳細

タルサニの春に帰る

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 幻想に春が訪れ暖かくなってきた。街を歩けば色とりどりの野菜や花が並び、春が来たのだなと肌身で感じるようになった。
「美味そうだな……お、そこのお姉さん! よかったらお茶しない?」
 良い匂いにつられたコラバポス 夏子 (p3p000808)が売り子の女性に早速声をかけたが「あら、口が上手ね。良かったらこれなんていかが?」とセールストークに発展し、見事両手いっぱいに買う羽目になった。
「あ、夏子さん」
「本当だ。あんなに抱えて何してるんだろう」
 タイム (p3p007854)が「おーい」と声をかける。フラン・ヴィラネル (p3p006816)が袋の中をのぞき込むと、ふわりとチーズの香りが鼻腔を満たした。
「わ、美味しそう! 夏子先輩、これって皆に差し入れ?」
「……そ、そう! 美味しそうだし、なんか懐かしくってさ。沢山買っちゃった」
「懐かしい、ということは夏子さんの思い出の味なんですか」
「まあね。立ち話もなんだし、どこか座らない?」
 タイムとフランもこれに賛成し、馴染みの場所へと向かった。


 俺の故郷はタルサニ村って山間のとこにある村なんだけど。あー、なんて言うのかな。牧歌的で長閑で平和なんだけど、それって言っちゃえばそれしか無いんだ。
 涼しいんだけど麦や酪農がメインで、麦畑がずーっと広がってるんだ。で、山羊とか牛がいる。人口と牛や山羊の数を比べたら動物の方が多いかも~って感じ。
 ん? ああ、実家のこと? 俺の両親は村で唯一の八百屋で『コラバポス青果』って言うんだけど、珍しい商店でもあるからいろいろ取り扱ってる。保存のきく野菜とか、扱ってるのは野菜関連の商品が多いかな。
 本当に何も無いけどでもめちゃくちゃ景色は綺麗でさ、星なんか見たら降ってきそうなくらい。緑いっぱいで寝転んで昼寝しても良い。王都とか町並みは綺麗だけど、空を見るんだったら断然タルサニかな~。

 ――――
 ――

「てな感じ」
 パンにチーズを乗せハムを挟んだだけのシンプルなホットサンドに齧り付きながら故郷を思い出す夏子の表情は、やはりどこか郷愁が滲んでいた。
「だったら一度規制したてみたら?」
「うーん、どうだろう。『男児たるもの 一度家を出たからには二度と帰らぬ決意であれ』って言われたしなあ」
「それは『それくらいの気持ちで頑張れ』という意味だと思うわ。それに元気な顔を見たらやっぱり安心すると思うの。だから、ね」
 タイムとフランにそう言われると、そうかも知れない。
 ローレットに舞い込む依頼をこなし、今では領地を持つほどになった。十分に出世を果たしたと言える。
「……帰ってみるか」
「賛成!」
 夏子の言葉に二人は手を叩いて賛成する。こうしてコラバポス 夏子の帰省が決まった。


「ってなんでこんな大所帯に」
「面白そうだなってとこっす」
「それに夏子君の故郷が気になった、というのが正直なところだな」
 夏子の疑問に伊達 千尋 (p3p007569)とルカ・ガンビーノ (p3p007268)がうんうんと頷きながら答えた。
「タイムとフランが夏子の故郷の事を話していたのでな。良い土地だと聞いて是非とも見たくなったのだ」
 ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ (p3p007867)が鷹揚に語ると、夏子は面はゆいやら気恥ずかしいやら、褒められた嬉しさやらでなんとも言えない表情になっているに違いない。
 少し大所帯になりそうだから、と先に実家に連絡を入れた夏子。返ってきた答えは是非ともいらしてください、というものだった。
『各国のお土産待ってるから、沢山持ってきて。じゃーねぇ~』
 ――ああ、朗らかな笑顔で手を振る母親の顔が鮮やかに思い浮かぶ。まさか横断幕とか用意してないよな……と一抹の不安も過ったが考えないことにする。多分ないと思う、いや、そう思いたい。
「なんにせよ、帰省できる時にしておいた方が良いと思うぞ」
「目標とかまだ中途半端な達成具合だし、帰って怒られやしないかな。実は親父が仁王立ちしてました~……とか」
「そのときは俺たちが夏子の活躍をご両親に語ってきかせよう」
「いやぁ~それはそれで恥ずかしいっすわ~」
 ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)の思わぬフォローに、あさっての方向を見る夏子。
 進行方向の先に見える山に入り、さらに進めば故郷がある。
「早いというか、今更だよなぁ……」
 どうなるんだろう、と不安を抱えながらも、それでも近づくにつれて幼い記憶がよみがえる。
 そうして七人はタルサニ村の地を踏んだ。

GMコメント

 リクエストありがとうございます、水平彼方です。
 今回はコラバポス 夏子さんの故郷・タルサニ村へと皆様をご案内いたします。

●タルサニ村
 コラバポス 夏子さんの故郷。山間にある牧歌的で平和な村で、これといった観光資源や名産などは無いのんびりとした村です。
 小麦栽培・酪農がメイン産業で、ブランドは無く近隣に卸す程度です。
 自然豊かな土地ですが野菜栽培には向かないため、青果を販売する八百屋が存在します。
 基本的に自分たちの必要な範囲で生産・収穫を行います。
 近所のおじさん特製の自家製のチーズがとても美味しいです。

 すこし歩けば放牧が行われる草原があります。のんびり散歩したりするには最適です。
 明かりがないため、夜には満天の星空を見ることが出来ます。

●コラバポス青果
 夏子さんの実家である八百屋です。青果だけでなく、酢漬けや干し野菜など保存のきく野菜の加工食品も取り扱います。
 厳しいが心根は優しい夫、明るく愛嬌のある妻。そんな夫妻は村人からも大変慕われています。
 いろいろな話を聞けるのでは、と楽しみにしています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • タルサニの春に帰る完了
  • GM名水平彼方
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年05月17日 22時10分
  • 参加人数7/7人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


 歩くほどに近づくほどに人影はまばらになり、やがて木々や動物以外の人間は自分たちだけとなった。
 『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)は久しぶりに見る故郷の記憶を改めていく。
「う~んしかしてどうしたモンか。平和オンリー平々凡々THE普通、旅行というには何も無さ過ぎて困る。ともあれ今日の為に古今東西多種多様、様々なペナントを集めておいて良かった」
 目立った変化はない。むしろ変化がない場所だったと思い直す。
「夏子の生まれ故郷がどの様な場所か楽しみだ」
 白馬に跨がる『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の声に夏子はあまり期待しないで欲しい、と心の中で願った。
「あ、着いた。あそこがタルサニ村」
 やっと着いたとため息を吐く夏子。
「こりゃいいところじゃねえか。空気もうめえし、水も良さそうだ。とくりゃあ酒に食いもんだって美味いだろうよ」
 『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が感動の声を上げると、『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)が嬉しそうに頷いた。
「ちょーっと強引かなって思ったけど夏子さんその気になってくれてよかった」
「あたしの両親も、帰ったらすっごく喜んでくれるんだよね。だーかーら、胸張ってちゃんと「ただいま」って言わなきゃだめだよ夏子先輩!」
 『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)の指摘に夏子は「分かってるよ」とだけ。
 手土産にとベネディクトに頼み大粒苺のフォレ・ロンスを籠一杯に詰めたタイムは浮かれた様子でフランは少し心配だ。
「フランさんのお土産と一緒にこっちで採れる果物と食べ比べしてみたいねっ」
「そうだね。滅多に自分の事話さないし今回の帰省でいろいろ教えて貰おう!」
 顔を合わせて笑い合う二人に、八百屋が見えたぞー、という声が聞こえた。


「何もないのに帰ってきた感が強いな……」
 時が経っても変わりない、牧歌的で長閑な山と草原の風景が続くだけ。
 気まずい。何を話せば良いのか分からない。
「まずはおかえり」
 父の言葉に夏子の緊張は和らいだ。どうやら怒っている訳ではなさそうだ。
「……ただいま」
「遠路お疲れ様。皆さんもどうかくつろいでいらしてね。私はハルナ、こっちはトーゴよ」
 店舗の奥にある家に上がると、素朴なテーブルへと案内される。
「先に仲間を紹介するよ。まず俺が属する黒狼隊隊長。先日噂になったの知らん? 第二位勇者様ぞ 控えおろ~」
「初めまして、俺の名前はベネディクト。夏子が所属している隊のリーダーを勤めさせて貰っています」
「だいにいゆうしゃさま?」
「まさか知らないなんて……? ああ酪農案内しなきゃね、馬もココまで疲れたろ」
 首を傾げるトーゴの隣で、旅行券を受け取って「まああなた、旅行ですって」と声を弾ませるハルナ。
「まあ隊で良くして貰ってるよ。他の皆も同じ隊の愉快なメンバー。バラエティが富み過ぎちゃって痛快さ」
「そうだ夏子、いい人はいるの? 孫の予定は?」
「子供? あーうんうん僕はそろそろ、子供も良いと思うんだ。どうかなあ女性じ」
「よう、夏子が帰ってきたって? ん、他の人は見たことないな」
「ハルナ、お客様なら腕によりを掛けて作らないとね」
 賑やかに押し寄せる村人に夏子は額に手を当てて天を仰ぐ。
「そうだよな村じゃ一大イベントだわ。良いよ良いよ飲みながら話すよ、後でな」
 ちゃんと仲間を紹介するから、と色めく村人を連れて一旦外に出す。
「俺はルカ・ガンビーノ。夏子の同僚ってところだ」
「どうも初めまして、夏子さんにはいつもお世話になっております。」
「あら夏子が」
「ええ、彼には特に野菜の目利きで……あ、これつまらないものですが私が運営する組織のステッカーです。
 どこか目立つ所にでも貼っておいてください。きっとご利益がありますよ」
 そう言って『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)は『悠久ーUQー』ステッカーを手渡した。
「はじめまして、フラン・ヴィラネルです!」
「初めまして! お世話になります、タイムです。その、わたしいつも夏子さんとは楽しくさせて貰ってます……!」
 『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は優雅に一礼すると「酒は余るほどあると夏子には言われたのですが、鉄帝の酒は珍しいのではないかと思いまして」と手土産の酒を渡す。普段とはちがうベルフラウにきょとんとする黒狼隊。
「なんだ? 私が敬語を使っているのはおかしいか? ふふ、友の両親を敬うのは当然だろう」
 タイムからはフォレ・ロンス、フランからは珍しい深緑バナナなどの地元の森で採れる果物をセット。
「んん~、夏子さんってお母さん似かな?」
「まあ本当? 嬉しいわ」 
「さて、一通り挨拶は済ませたし俺は村を見て回らせて貰うか。フランと千尋も行くか?」
「えへへー、かっこいい二人にエスコートしてもらえるなんて嬉しい!」
 これから準備に取りかかるコラバポス家から離れ散策することにした。


「緑がいっぱいなのは故郷と同じだけど、ここは空がとっても広いねー」
 視界いっぱいに広がる空と山、そして草原。
「何も無い場所だとは夏子は言っていたが、俺にはこの方が落ち着くな」
 遠くを見るように視線を向けたベネディクトは、遙か遠くの故郷を思い出す。あの場所も何もない、朴訥とした村だった。
「お前も今日はこの近くで羽を伸ばさせて貰いなさい」
 自らが乗って来た白馬を撫でて放してやる。軽快に駆けていく姿を見送り振り向くと、口を開けて空を眺めてるフランをカメラで撮る。
「もー!」
 林檎のように赤くなって怒るフラン。本気ではないがへそを曲げてそっぽを向いてしまう。
 三人は村を回りながら様々な人に声を掛けた。
「夏子の友人でして、今日は遊びに……それはチーズですか?」
 男性が熟成中の棚から一つ下ろして見せてくれる。
「美味しそうですね。いくつかお土産に頂いても?」
「ああ良いよ。でもこんなものでいいのかい?」
「これが良いんです」
 出発に合わせて良いものを見繕って家に届けようと引き受けてくれた。
 フランは牛や山羊に触らせて貰っていた。餌を目の前にかざすと面白いように食らいつく様子を見て可愛い、と頬を緩ませる。
「夏子先輩のお友達から面白情報聞けるといいね! 初恋とか!」
「さって、どなたかコラバポス夏子の過去を知る者はいませんかー!
 出来れば弱みになる情報を教えて頂けると助かりまーす!」
「お、それならとっておきのがあるぞ」
「あれはまだほんの子どもだった頃――」
 羊飼いの青年が手招くと、声を潜めて語り出した。


 他の面々が村の見学や0次会を開いているあいだ、タイムはハルナと村人たちに混ざって宴会準備を手伝っていた。広い家をあちこち歩き回るうちに、夏子の部屋の前を通りすがった。
「何か面白いものないかな? 子供の頃の作文とか……ん、家族アルバムはっけ~ん!」
 こっそり忍び込んで見つけたのは少しばかり古びた一冊のアルバム。コラバポス家の歴史を綴ったアルバムだ。
「これを持って0次会会場に乗り込んで一緒に眺めようっと」
 アルバムを抱えて、タイムは0次会と称して飲み交わす三人の元へと駆けた。


 ルカとベルフラウはリビングのテーブルに腰掛けて、本格的な宴の前にトーゴと共に酒を酌み交わしていた。
 話題は里帰りした夏子との事だ。
 先に口を開いたのはベルフラウ。「共にキャンプへ行った事、独身の女盗賊頭領を奪い合ったり……色々とあったな」と思い出しながら語っていく。それをトーゴは表情をさほど変えず、だが優しい眼差しで聞いていた。
「夏子はあれでいてそのままの通り軽薄な所もありますが……私は彼を信頼しています。彼が居なければ切り抜けられぬ場面も多々あった」
 ダンジョンで落ちてくる天井を二人で食い止めた事もある。
 彼の軽妙さは頭の柔らかさともつながっているのだろう。彼の立てた作戦に救われる事も少なくない。
「しかしそういった意味ではルカ。卿の方が夏子の事を良く知っていそうだな」
 ベネディクト、ルカ、夏子。この三人は黒狼隊の屋台骨三柱とも言える者たちだ。
 よく共に戦場を駆け、ベルフラウの比ではない。
「俺の方がアイツを知ってるかはわからねえが、助けられた事が多いのは確かだな」
 ベネディクトと夏子、ルカの3人で敵陣に孤立した時も、夏子がいなければ死んでたかも知れねい。
「ムードメーカーっつーのか? アイツがいてくれると何とかなりそうって思わせてくれる。そういう明るさ、力を持ってるやつだ」
 ここにはいないベネディクトもそう思ってるだろう。
 少しばかり女にだらしないところはあるが、彼の愛嬌のある一面として皆受け入れている。
「両親の育て方が良かったんだろうな。そういう意味じゃアンタらも俺の命の恩人だ。ありがとうな」
「いや、私達の前だと話したがらないだろう。こちらこそ聞かせてくれてありがとう」
 トーゴは二人に向かって小さく頭を下げた。
「こんなの見つけたわ」
 タイムが持ってきた表紙を見て、トーゴはそれが何か察したようだ。
「これは……アルバムか」
 テーブルに乗せると、早速表紙を捲る。
「見て見て、あはっ、夏子さん昔から変わっててない~」
 そこには黒狼隊の知らない幼い夏子と、まだ若い夫妻の姿が写っていた。
「そうだ、我々の話が終わった後は小さい頃の夏子の話でも聞かせて貰おう」
「お、夏子のガキの頃の話か! そりゃ興味あるな!」
「えっ小さい時の話わたしも聞きたいです!」
「あまり変化がないが……」
 三人の期待の眼差しを受け、トーゴは少しだけ息子のことを話すことにした。


 夜になり、コラバポス家で一番広い部屋に沢山の料理と酒、そしてジュースがずらりと並んだ。
 乾杯の音頭を皮切りに、それぞれが思い思いの皿に手を伸ばす。
「皆お酒飲んで楽しそうだなー」
 ただ一人未成年のフランはジュースちびちびと飲みながら、恨めしそうに皆を視た。
「あと1年経ったらあたしだってお酒デビューの大人だもん……」
 お酒飲めない分おいしいご飯いっぱい食べちゃうもんねー! と宣言すると、とろりとチーズのかかったほくほくのジャガイモをフォークに刺した。
「お酒もジュースもお酌しますよ~!」
 タイムは近所の人も入り交じった会場で酌をしたり、これも食べなと進められたものを口に運んでいる。ベルフラウは引き続き酒を飲んでいる。
「はい注目~! 皆様お待ちかね、仲間を紹介するよ~」
 夏子は手を叩いて注目を集めると大げさな口ぶりで仲間について語る。
「ウチの隊長は三世とマブダチの二位勇者だし、ルカはラサの資源を一手にまとめた大富豪」
 三世ってあの? ラサの大富豪って、と会場はざわめき始める。
「伊達千尋は手を翳して魔種を溶かし、龍種をワンパンで光の粒子に変え海洋の為に海を拓いた超モーゼ」
 モーゼ? いやなんかちょっと大げさじゃ……、でももしや本当に?
「いつもハツラツ楽しいフランちゃん。いつも朗らか可愛いタイムちゃん。何でもOKヤバいぜベルちゃん
 3人の女性はまた俺と村来るかもよ? ね~!」
 女性陣に向けてウインクを飛ばす夏子。これには村の男子から大ブーイングが起こった。
「酒の飲み比べ? 良かろう、受けて立つ!」
 喧噪に紛れて酒を呷っていたベルフラウは、尺を受けた村人の挑戦を受けた。
「鉄帝人の胃袋は鋼であると、この地にも知らしめてやろう」
 酔い潰れない程度に飲み交わしつつ、そのうちルカやトーゴも交えて思い出話をそれとなく聞いたりする。
 不意に飛び出す幼少期の思い出に、夏子が気まずそうに顔をそらすまでがワンセットだ。
 盛り上がるなか、ふいに千尋が部屋の外から赤いラメ入りスーツを着込んでリコーダーのリズムに合わせて現れた。
「あ、千尋さんの宴会芸始まった! ひゅー!」
 タイムが手を振り、ルカはリコーダーのメロディに合わせて手拍子して囃し立てる。
『ちょっとそこ行くお歴々!少しお時間あるならば!
 是非とも是非とも寄ってって!我らのIITOKO聴いてきな!』
 リコーダーの間奏が入ると、村人達は指笛をならして盛り上げる。
 ステージになるような台もスポットライトなんてものもない。だが千尋は間違いなく、集まった全員の視線を釘付けにしていた。
『ベネディクト! カリスマ抜群頼れるナイト!
 ルカ・ガンビーノ! 男前かつ石油王!
 はい! IITOKO! IITOKO!』
 リズムに合わせて上げた手を振り、自然と生まれたコールアンドレスポンスが会場に響く。紹介されたメンバーは手を上げて応えていく。
『ベルフラウ! 愛に生きる戦乙女!
 フラン・ヴィラネル! サポート任せて安心安全!
 はい! IITOKO! IITOKO!』
 IITOKO! と更にコールがかかる。
『タイム! 可憐で可愛いマスコット!
 そして大トリ我らが夏子! えーっと……えーっと……いいやつ!』
 最後の夏子の紹介では、会場が暖かな笑い声に包まれた。
 そしてやりきった千尋には惜しみない拍手が送られる。
「これでも一晩で頑張って考えたんだよ! いきなり宴会芸やる事になったんだからよ!」
 照れ隠しに叫ぶ千尋を、ベネディクトがカメラで撮影していた。
「夏子は、皆さんと上手くやっているんだな」
「夏子はよくやってくれていますよ、我が隊の中核を担う人材の一人です。彼に救われた人も決して少なくはない。彼は立派に務めを果たしてくれています」
 トーゴにそう言うと、彼は「よかった」とだけ言ってそれ以上は何も言わない。
 だがベネディクトが伝えたかったことは伝わった。彼の隠そうとしてもにじみ出る笑顔が何よりの証左だろう。
「ベネディクトさん撮って撮ってっ ぶい!」
 近くでジュースを飲んでいたフランへとレンズを向けると、元気よくVサインをした。
「写真か? ふふ、格好良く撮ってくれよ?」
 僅かに赤らめながらもまだ余裕のある表情で呑むベルフラウ。周囲の村人達は既にしずん見始めていた。
「……でもこれじゃベネディクトさんの写真ないし、たまに撮影役交代するね」
 フランの、彼女はいつも周りをよく見ているからこその心遣いに感謝しながらカメラを手渡した。
「ベネディクトさんとベルフラウさんのベコンビショット撮るぞー!」
 二人の騎士をファインダー越しの視界に収めてシャッターを切る。
「記念撮影か、いいじゃねえか」
 それを視たルカがフラン達に声を掛ける。
(……あ、あとルカさんと写真撮りたいなぁ)
 視線でルカを追っているフランに気がついたベルフラウは、彼女に助け船を出すことにした。
「フラン、撮り終えたらカメラを貸すが良い。ルカと撮ってやろう」
 え、と声を出す前に、ベルフラウは鮮やかな手並みでフランからカメラを奪っていった。
「おい、フラン。そんな縮こまってたら一緒に入らねえだろ。もっと寄れ」
 あっという間にルカに引き寄せられ、カメラに笑顔を向けるフラン。
 その写真をフランはなかなか直視できないでいた。


 お開きになり、片付けた大広間にタイムが布団を並べていく。
「そろそろ寝なきゃ……だけどまだ寝たくなーい!」
 物足りないフランは枕をタイムに投げる。
「誰っ、フランさん?」
「あたしじゃないよー」
「もうっ、わたしもやる!」
 タイムは手あたり次第枕を投げつける。
「行くぜべーやん! 石油王!」
 千尋の投げた枕がルカに当たる。
「構わねえぞ。やるからにゃ手加減はしねえからな!」
 そこからは狙いも定めずとりあえず投げて投げて投げまくる乱戦に。
「はっ!? フランちゃんあぶなーい! トゥアッ!」
 千尋が飛び出してフランを庇ったところで、枕投げ合戦は終わった。
「あーあ折角敷いた布団もめちゃくちゃね! ふふふっ」
「さて、俺は寝るよ。皆、余り夜更かしはするんじゃないぞ?」
 一人窓から星空を見上げていたベネディクトが声を掛けると、それに従って枕投げに興じていた面々も寝床を戻して潜り込む。
 昔、子供の頃に見上げた星空もこれぐらい綺麗だったんだろうか。
 幼少の砌に見上げた空を瞼の裏に重ねて、黒狼は目を閉じた。


「はぁ……星は今日も綺麗だね。あー領主になった報告とか忘れてた。まいっか 旅の道連れ見りゃ分かるでしょ」
 宴会後に抜け出して空を視ていた夏子。ぽつぽつと語る独り言を肴に飲み足りないベルフラウもまた星見酒と興じていた。
 背後の部屋からは賑やかな声が聞こえてくる。
 ほてった体に夜風は気持ちいい。まだ些か寒さが強く、不意に体が震えた。
「楽しい事はまあまああった。嫌な事は言う程無かった。退屈な日々が何よりだ」
 寝る時間だと呼びに来たタイムは、言いかけた言葉を飲み込んで夏子の背に語りかける。
「夏子さんは何も無いと言ってたけどこんなに平和を満喫できる場所。
 この世界ではとても尊いものよ。大切にしてね、ご両親も、この村も」
 ああ、そうか。タイムの言葉がストンと胸に納まった。
「……僕の目指す世界平和って、つまりコレなんかなぁ」
 夏子の言葉に、ベルフラウは残った酒を一気に呷る。
「この平穏の為に、明日からもまた頑張ろう」
「そうだな」
 そこにあり続ける、当たり前のもの。
 故郷と日常の意味を知り、明朝村を後にした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

故郷とは遠くにあるもの。
ですが同時に、不変であると信じているもの。これが日常の正体ではないでしょうか。
この帰省が、皆様にとって楽しいものでありますように。

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