シナリオ詳細
再現性東京2010:化け猫団地の霊障。或いは、どこかで何かが『にゃあ』と鳴く…。
オープニング
●化け猫団地
練達。
再現性東京。
とある団地での出来事だ。
空は晴天。
吹く風は冷たい。
団地の前で5人の主婦が井戸端会議に興じていた。
息子、娘の成績について。
夫の仕事や、日常生活の愚痴について。
今日の夕食、はたまた明日の弁当について。
そして、団地で起きるある不可思議な現象について。
「あら、そちらのお宅でも聞こえるの?」
「えぇ、もちろん。日中問わず、玄関先で猫の鳴く声……でも、猫の姿なんて見当たらないし、不気味で仕方がないわ」
「うちなんて6階よ? 野良猫が迷い込むにしては少し高い位置じゃない?」
「もしかして、あれではないの? 昔ここに住んでいたって言う……」
と、誰かがそう呟いた直後。
『にゃぁお』
どこか遠くで、しかしはっきりと猫の鳴き声が響き渡った。
「っ……!?」
驚愕。
恐怖。
或いは困惑。
様々な感情がない交ぜになった表情で、主婦たちは周囲を見回した。
1人は自分の足元へ。
1人は団地の上層階を。
1人は通りの電柱を。
1人は自分の手元を見やる。
「あ、え? あ、ぁぁぁああああ!!」
夫人の1人が悲鳴を上げた。
見れば、その細く白い手には鋭く深いひっかき傷が刻まれている。
それはまさしく、猫に引っかかれた跡だった。
ぽたり、と。
地面に零れた血が、アスファルトに赤い染みを作った。
「も、もうこの話は止めにしましょう。ね? そうしましょう? そうしなきゃ……ね? ね?」
血の溢れる自分の手を胸に抱きしめ、その女性は急ぎ足で団地へと駆け戻っていった。
それから数日。
彼女は井戸端会議に姿を現さない。
●夜鳴夜子の懊悩
「あぁ、ったく……動物霊ってのは厄介なんだ。あんたらは夜妖とかって呼んでるんだったか?」
と、そう言ったのはどこか陰鬱とした雰囲気を纏う長身痩躯の女性であった。
ウルフカットに、咥えた煙草。
燻る紫煙が、首から頬にかけて彫られた茨模様のタトゥーを撫でた。
「っと、悪いな。私は夜鳴夜子。件の団地の霊障解決を依頼された霊媒師さ」
そう言って彼女……夜鳴夜子はくっくと肩を揺らして笑った。
「動物霊ってのは、すぐに人に取り憑くんだ。おまけに何を仕出かすか分からねぇし、じわじわと人をおかしくさせる」
はじめは肩凝りや耳鳴り。
続いて、気分の激しい躁鬱。
その後は心の不安定化。
そして最後は体が弱って正気を失い命を落とす。
「つまり、団地に憑いてるのは動物霊だ。話を聞いた限りじゃ“猫”だろうが……たぶん1匹じゃねぇな」
数体、或いは10を超える猫の夜妖が団地に憑いているらしい。
その夜妖はどういうわけか姿が見えない。
けれど、たしかにそこに居る。
「私のところに来た女は、全身に無数のひっかき傷と噛み痕が残っていたよ。寝ても覚めても、どこかから猫の鳴き声が聞こえるし、気づけば傷が増えてるんだと」
と、そう言って夜子は煙草の灰を足元に落とした。
夜子の話から察するに、猫に襲われた者は【封印】や【狂気】、【魔凶】【懊悩】といった異常をその身に受けるようだ。
現在のところ、死人は出ていないようだが、それも時間の問題だ。
例えば、何かしらのきっかけで“猫”たちの活動が活性化してしまえば、一気に生気を失う者も出てくるだろう。
「団地に住んでいる人間は全部で30人ほど。各階7部屋、6階建てだ。埋まっている部屋は半数ほど。残りの部屋には誰も住んでいないらしい」
うち何部屋かには、もう長いこと人が住んでいないという。
単に入居希望者がいないだけか。
それとも、何かしらの理由があって住んでいないのか。
「住人のうち何人かは“猫”に心当たりがあるようなんだが……さて、どうにも口を噤んで話したがらない」
そこでイレギュラーズの出番というわけだ。
「悪ぃけど、手を貸しちゃアもらえねぇかな?」
なんて、言って。
夜子は新たな煙草にマッチで火を着けた。
- 再現性東京2010:化け猫団地の霊障。或いは、どこかで何かが『にゃあ』と鳴く…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月10日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●化け猫団地
練達。
再現性東京。
とある団地の最上階を、一羽の小鳥が横切った。
白い翼を持つその鳥は『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が姿を変えたものだ。
「幽霊だとか魂だとか詳しいわけではないのだけれども……この猫ちゃんたちは、何か思い残した事や悲しい事が有るのかしら?」
団地はしんと静まり返っているようだ。
日も高くのぼっている時間帯だというのに、人影はおろか、子どもの笑い声さえ聞こえない。
団地で起きる霊障。
その原因は、猫の夜妖であるらしい。
「単に退治すればいいという訳では無さそうだな。根幹にある原因は何なのか……」
団地の裏手に回り込んだ『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が、物陰に佇んでいた男へ向けて言葉を投げた。
「ペットの遺棄か、野良猫か、それとも別の何かなのか……あまり後味のいい話では無さそうだな」
『ラド・バウB級闘士』ジョージ・キングマン(p3p007332)は眼鏡を押し上げ、ほんの小さな溜め息を零す。その手に乗ったネズミを地面に解き放ったジョージは、視線を汰磨羈へと向けると、懐から数枚の紙を取り出した。
「首尾よく話が聞けたのか?」
「家賃や間取り、それと人の入れ替わりが多い部屋の番号……その程度だな。何か隠しているのか、妙に歯切れが悪かったよ」
「それは良かった。本当に……本当に」
ふらり、と歩み寄るのは『カピブタ好き』かんな(p3p007880)であった。風に踊る白い髪を片手で押さえ、視線を足元へと落としている。
どこか沈んだ雰囲気なのは、聞き込みが上手くいかなかったからだろう。
「猫さんと戯れて解決、とはいきそうにないのが残念ね」
団地周辺の住人に聞き込みをしていたかんなだが、手がかりになりそうな情報を得ることは出来なかった。
「団地の名前を聞くなり、皆そろって嫌そうな顔……」
「つまり、口にしたくない何かあるってことだろうな」
なんて、団地を見やってジョージはそう呟いた。。
ノックを数回。
ギィ、と重たい音を鳴らして扉が開いた。
顔を覗かせたのは、げっそりとやつれた初老の男性。胡乱な視線を来訪者へと向けた彼に『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)と『月下美人の花言葉は』九重 縁(p3p008706)は華の咲くような笑みを返した。
「こんにちは! ちょっと聞きたいことがあるんですけど!」
「すみません。なにかにお困りなようですね? 大家さんに言われて、ですね。この団地の問題を解決しようと……」
「……勧誘なら、お断りだよ」
「あ、ちょっ!!」
茄子子の話を聞くより先に、初老の男は静かに扉を閉めたのだった。
団地6階。
階段、踊り場の壁に背を預け『メサイア・ダブルクロス』白夜 希(p3p009099)は荒い呼吸を繰り返す。
「猫さん達……苦しいのかな、怒ってるのかな」
「うぅ、ちょっとくらい猫に好かれたい」
『淡き白糖のシュネーバル』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)に言葉を返す白夜の手には鋭い切り傷。
流れる血が、足元に零れ汚れた床に赤い染みを残した。
状態異常は来探の【クェーサーアナライズ】により治療済みだが、未だ油断を許さない状況が続いていた。
団地に現れた“猫”の姿は視認できない。
いつ、どこから襲われるかもわからぬ状況というわけだ。
『にゃぁお』
どこか遠くで、見えない猫の鳴き声が響く。
●元凶を探して
団地1階、とある一室。
夜鳴夜子の案内で汰磨羈とかんなの前に現れたのは、顔色の悪い女性であった。
彼女の腕や首筋には、無数の裂傷や噛み痕が残っている。
傷跡を隠すように、女性は自分の手首を握る。それを目で追う汰磨羈に向けて、女性は怯えた視線を向ける。
「あの……何か?」
「失礼、目や表情筋の動きを読む癖がありまして。……何か、過敏になるような事でも?」
「怖がらせるつもりも、危害を加えるつもりもないの。協力してもらえると嬉しいわ」
女性を落ち着かせるべく、かんなは告げた。
しばらくの間、怯えたような顔をしていた女性だが、2人の背後に夜子の姿を認めると、多少落ち着いたようだった。
「依頼の成功には情報が必要だからな。知ってることを洗いざらい吐いてもらいたいんだが」
「原因に心当たりがあるのだろう? 何、悪いようにはしないさ」
夜子と汰磨羈の言葉を受けて、女性は意を決したようだ。
ポツリと、彼女が告げたのは「芝」という単語であった。
「それは?」
「……この団地に以前住んでいた人の名前よ。ある時、部屋で変死しているのが見つかって……」
その誰かの死体には、無数のひっかき傷や、噛み痕が残っていたという。
「噂では、近所の野良猫を殺めていたとか……猫の死体は見つからなかったけど」
それが異変の原因かも、と。
それだけ告げて、女性は口を噤んでしまう。
それ以上、有用な話は聞けないと判断したのだろう。礼を言って、夜子はその場を離れていった。汰磨羈、そしてかなんもその後に続く。
「……討伐なんて無粋な真似をしなくて済む事を祈っているわ」
遠くで聞こえる猫の鳴き声に耳を澄ませて、かなんはそう呟いた。
目は口ほどに物を言う。
茄子子と相対している初老の男の目は「胡散臭い」とそう言っていた。
「……勧誘じゃないのは分かったが。何だ? 楽しくおしゃべりって気分でもないんだが」
「まぁまぁ、そう言わないで。って、あれ、怪我してる? 大丈夫? 会長お医者さんみたいなものだから包帯とか巻いてあげるよ」
男の腕を取った茄子子は、驚いたように目を丸くする。
男性の腕には無数の引っかき傷が残っているし、長く放置していたのか、化膿しているのが分かる。
「あ、おい、勝手に……」
「大丈夫、大丈夫! 会長に任せて! 痛いのやだもんね!」
男の腕に包帯を巻きつけながら、茄子子は【幻想福音】のスキルを行使した。
ぱっと、燐光が飛び散って、幽かな鐘の音が鳴り響く。
男性の負っていた傷のほとんどは、おそらく自分でつけたものだろう。
「お? 痛みが……」
「楽になりましたか? ところで、貴方は昔から此処に住んでいると聞きました。お話、聞かせて頂けますか?」
男性の表情が和らいだことを確認し、縁は問うた。
【感情探知】の観測範囲で、男性の感情が警戒の方向へと揺らぐ。元々、怯えや恐怖の感情が強かったが、警戒とは果たしてどういうことだろうか。
「何か、言いたくないことでも?」
「言いたくないってわけじゃないが……まぁ、なんだ。世間体ってもんがあるだろ?」
「世間体?」
「……ちょっと探れば知られるだろうし言ってしまうがな」
周囲の様子を伺いながら、男性はポツリと言葉を零す。
それは、かつて団地で変死したある女性の話だ。
自分の部屋で、傷だらけで死んでいたその女性だが、噂では団地周辺の野良猫を捕えては、虐待し、殺めていたという。
彼女が部屋で死んだとき、周辺に住む者たちは口々に「殺された猫の呪いだ」などと口にしたものだ。
実際、彼女の死には不審な点が多かった。身体中に負った傷は小さな獣に襲われた痕跡であったらしい。
「けどな、そいつの部屋に猫の死体や凶器の類は一切見つからなかったらしい。そのうち、この団地のどこかに未だ猫の死体が放置されているなんて噂が広まってな……今じゃすっかり、住む人間も少なくなった」
迷惑な話だ、と。
そう言って男は、忌々し気に舌打ちを零す。
「あぁ、なるほど……」
女性が変死した当初は、マスコミや週刊誌の記者などが多く訪れたのだろう。ともすると、新興宗教の勧誘や、インチキ霊媒師などが訪れることもあったかもしれない。
そう言った経験もあり、男性は来訪者に対して良い感情を抱いていないのだ。
「茄子子さん、これ以上は……」
「うん。会長もそう思ってたところ」
男性に不要なストレスや不信感を与えないためにも、そろそろこの場を離れよう。
そう考えた2人が、男性に礼を告げようとした、その瞬間……『にゃあお』と、猫の鳴き声が2人の耳朶を震わせた。
その声は、男性の耳にも届いていたのだろう。
「ぅ、ぁぁ!? まただ、また、猫の鳴き声が……!!」
男性は、突如として平静を失い取り乱す。
せっかく巻いた包帯の上から腕を掻く。傷口が開いたのか、包帯にじわりと血が滲んだ。
「うわっ、なになになに? 何事!?」
「BS? 茄子子さん、一般人の保護を最優先に!」
「もうやってる!」
回復術を行使する茄子子。
その頬には、小さな傷が刻まれていた。
夜妖について探ること。
おそらくはそれが、猫の活性化する条件だ。
事実、団地へ到着して以来、猫についてを話していた希と来探は早々に猫に襲われていた。
「夜妖の、猫さん……だめだよ、だめ」
「控えめに言って、猫かなり好きなのに! 寄って来てくれるのは嬉しいけど!」
「寄って来てくれているっていうか……襲われているんじゃないかな」
見えない猫の鳴き声ばかりが聞こえている。
幸いなことに大きなダメージは負っていないし、状態異常も来探の【クェーサーアナライズ】で治療が可能だ。けれど、見えない場所から突如として攻撃を受けるとなると、油断は出来ない。
「仕方ない、かな」
ごめんね、と。
そう呟いて、来探は腕を一閃させた。
放たれた閃光が、視界を白に染め上げた。苦し気な猫の鳴き声。
来探は視線を素早く周囲へ走らせた。
「ねぇ、猫さんの幽霊さんに話は聞けていないの?」
「駄目。いないの……猫の霊が、どこにも」
なんだかおかしいよ、と。
そう言いながらも、希と来探は階段を急ぎ駆け下りていく。
2人が2階へと辿りついた時、その脚元に何かが落ちた。
それは血に濡れた1匹の小鳥……否、傷を負った華蓮であった。
時間はしばらく巻き戻る。
団地の6階7号室のベランダに降り立った華蓮が、窓の内を覗き込んだ瞬間のことだ。
『うぅなぁぁ』
低く唸るような、猫の声が耳に届いた。
背に走る痛み。
白い翼に血が滲む。
華蓮は急ぎその場を離れようとしたが“猫”の追撃は止まらない。見えない猫に襲われながら、急ぎ仲間の元へ向かったのだがその間も“猫”は執拗に華蓮を襲い続けたのだ。
結果として、彼女は大きなダメージを負いとうとう地面に落とされた。
「でも、手がかりは得たのだわ。607号室の住人……彼女、怪しいのだわ」
団地の一階。
裏手に集まったイレギュラーズは得た情報を交換し合う。
「うん? 会長が聞いた話だと、猫に関係していそうな人が住んでいたのは5階だって」
「わたしが聞いたのも5階ね。芝さん、と言ったかしら」
華蓮の話を聞いた茄子子、そしてかんなが疑問の声をあげた。
「確かに5階には、長らく住人の住みつかない部屋があるな」
手元の資料を視線を落とし、ジョージは告げる。
情報収集の結果、怪しいとなった部屋は5階に。
けれど、実際の体験として怪しい部屋は6階にある。
「どちらも調べてみりゃいいんじゃないのか?」
と、そう言ったのは夜子であった。
けれど、ジョージはそれに「待った」の声をかける。
「迂闊な真似をして夜妖を活性化させるのは、どうだろうな……」
ジョージが視線を向けた先には縁の姿。
視線を受けた縁が表情を曇らせた。縁と茄子子が話を聞いた男性は、猫の鳴き声を聞いた途端に錯乱した。どうにか治療し事なきを得たが、あれと同じような状況が複数の部屋で同時に起きたら、対処は間に合わないだろう。
「5階の部屋にはファミリアーを走らせたが、猫に襲われることは無かったな。猫に関係するような物も無い……しかし」
視線を足元へと落としたジョージ。
排水溝から上がって来たネズミが、彼の足元へ駆けつける。
その口に咥えられていたのは、汚水に汚れた小さな骨だ。
「下水でこれを見つけた。それも大量にな」
●禍猫
「行ってみりゃ分かるだろ。ジョージの見つけて来た骨は新しいもんだったしな」
煙草の吸殻を足元へ落とし、夜子は言った。
この団地で変死者が出たのは随分昔の話だ。ジョージが拾って来た骨は、おそらくその当時に殺められた猫のものではないだろう。
つまり、当時に起きた事件と同様、今もこの団地に猫を殺めている者がいるのだ。
607号室の住人が犯人だとしたら……果たして、その者は現在、どういう状態にあるのだろうか。実行犯でもない、ただ住んでいるだけの人間が酷い霊障を受けていたことを考えるに、あまり良い状態であるとは考えづらい。
「危険かもしれないし、夜子さんはここで待機しているのだわ!」
夜鳴夜子をその場に残し、イレギュラーズは再度団地を登り始めた。
陣形の殿を務めるのは華蓮だ。夜子に一言、声をかけ、仲間たちから距離を取ってついていく。猫の襲撃を受けた際、即座に治癒を行うためだ。
「607号室には直接乗り込むしかないだろうな……ネズミを侵入させたが、早々に始末された」
顔を歪めたジョージが告げる。
猫についての話をしていたせいか、先ほどから鳴き声がずっと聞こえているのだ。
「っ⁉ これ以上、下手に刺激してしまうと、被害が拡大してしまうかも……」
頬を濡らす血を拭い、かんなは言った。
【封印】の影響か、スキルの行使を妨げられたかんなへ向けて、茄子子は回復術を行使する。
「猫さんと戯れて解決、とはいきそうにないのが残念ね」
「その代わり、全部終わったらちゃんと供養してあげようね。猫くんが安らかに眠りますようにって」
茄子子に背中を押されながら、かんなは走る速度をあげた。
6階が近づくにつれ、猫の襲撃は頻度を増した。
それに伴い、猫の鳴き声も大きく、数を増していく。
「うぅ……すごく、辛そう」
耳を押さえ、来探が瞳を潤ませる。
その白い腕には、無数の傷が刻まれていた。
「チ〇ールを持ってきてるし、これで注意を引けないかな?」
「憑かれてもしらんぞ?」
「う……懐かれたら霊魂猫でもいいから連れて帰ろうかな」
懐からチ〇ールを抜いた希へ向けて汰磨羈は忠告の言葉を告げた。
一瞬、身を固くした希であったが、結局は試してみることにしたようだ。
結果から言うと「猫まっしぐら」とはいかなかったようだが……。
「こうも立て続けに襲われては叶わん。すこし先行する」
「サポートします!」
階段の手すりに手をついて、汰磨羈はジョージを追い越し先頭へ。
縁による【聖躰降臨】の援護を受け、汰磨羈は短く「任せろ」と言った。
そのまま、持ち前の脚力を活かし、一足飛びに上層階へと向かっていった。
6階。
廊下に駆け込んだ汰磨羈は、斬り刻んだ紙片を辺り一面にばら撒いた。
ひらりはらりと舞う紙片。
その一部が、見えない何かにぶつかったように軌道を変えた。
「そこか! 落ち着け、御主ら……原因は私たちが取り除いてやる」
猫との戦闘は最終手段だ。
武器を手に取ることなく、汰磨羈は回避に徹していた。607号室へと辿り着いた彼女は、駆ける勢いそのままにドアノブを蹴りで打ち壊す。
「ぐ、む!?」
動きを止めた汰磨羈の背中に、深い裂傷が刻まれた。
見えない猫による攻撃か。
「数は1匹……いや、複合霊の類か?」
殺められた猫たちの霊魂が、1つに融合した夜妖。或いは、中心となる別の夜妖が猫の霊を取り込んだ存在か。
どちらにせよ、猫の霊の影響か、人に対して深い敵意や恨みを抱いていることは確かであろう。
「部屋にはわたしが突入するわね」
「僕も行くよ!」
「っ……サポートは任せてください!」
縁による【聖躰降臨】の支援を受けたかんなと来探が部屋の中へと駆けこんでいく。
その間に茄子子は汰磨羈の治療へ向かった。
「万が一のことを考えて、華蓮はベランダ側へ回ってくれ!」
「えぇ、任せるのだわ!」
ジョージの指示を受けた華蓮は、翼を広げ建物の反対側へと飛んでいく。錯乱した住人がベランダから飛び降りようとした場合、急ぎ取り押さえるためだ。
四方から響く猫の鳴き声。
威嚇にも似たその声を聞き、希は思わず耳を押さえた。
「これ……部屋の人、やばいんじゃ」
「大丈夫です」
「取り押さえる、よ」
勢いよく部屋へ飛び込んだかんなと来探。そんな2人へ向け、錆びた刃が振り下ろされた。限界まで目を剥いた、酷く痩せた女である。
両の腕や胸部が赤黒く染まっている。自分で自分を斬り付けたのだろう。それは、猫の鳴き声から逃れるための狂乱行為か。
「っ……!」
錆びた刃が來探の肩に食い込んだ。来探は女性の腕を掴んで、ナイフをその場に押し留める。
「……もう、誰も何もいじめないでね」
ナイフの歯は欠けていた。硬い何かを……例えば、小さな動物の骨などを……無理矢理に切断したかのようだ。
かんなは女性の懐に潜り込むと、その手に握った槍を旋回。
「貴女の罪は貴方自身で、生きて贖ってください」
槍の後端が女性の顎を激しく打って、その意識を刈り取った。
気づけば、猫の気配は消えていた。
「いなくなっちゃった。ちょっとくらい猫に好かれたかったわ」
そう呟いた希の耳に、猫の鳴き声が響いた気がした。『にゃぁお』と、甘えるような鳴き声に、ほんの少しだけ機嫌よくした希は、1人階段を下りていく。
仕事は終わり。
ここから先は、アフターサービス。
下水を攫って、死した猫を供養するのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
団地に巣食う夜妖は無事に消失。
霊障事件は解決されました。
依頼は成功となります。
この度はご参加ありがとうございます。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
化け猫団地で起きている霊障の解決
※原因となっている夜妖の討伐
●ターゲット
・猫の夜妖×1~10ほど?
姿の見えない猫の夜妖。
団地の住人が“鳴き声”に気づいたことで活動を開始。
団地のどこか、或いは何かが“原因”となっているようだが……。
※イレギュラーズの行動により活動が活性化します。
※活動が活性化した“猫”は、団地の住人やイレギュラーズを見境なく襲い始める可能性があります。
猫の鳴き声:神中単に小ダメージ、封印、狂気、魔凶、懊悩
猫の鳴き声が聞こえたのなら、きっとそれはすぐそこにいる。
・夜鳴 夜子
霊媒師の女性。
20代半ばほど。
陰鬱な雰囲気を纏った長身痩躯の女性。
霊媒師には見えないラフな服装をしている。喫煙者である。
口調や性格は荒っぽいが、存外にお人好しな性質のようだ。
●フィールド
化け猫団地。
6階建て。
各フロアにそれぞれ7部屋。
人が住んでいるのはうち半分ほど。
連日起こる霊障に怯え、住人たちのほとんどは部屋に閉じこもっている。
住人の中には“猫”が現れた原因に心当たりがある者もいるようだ。
ちなみに屋上がある。喫煙所がある。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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