PandoraPartyProject

シナリオ詳細

そして少女は花散らす

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●手向けの花は零れゆく
 無機質な部屋と白衣を着た大人達。
 硝子をへだてた先では一人の少女が深い眠りについている。

 白亜の少女アルス・トロメリア。
 この世界のあらゆる叡智を集約し創られた機械生命体だ。
 彼女をここまで育ててきた開発者の中で、僕は最年少にあたる。

「セリク、彼女の容態は?」
「バイタルは正常だよ。相変わらず目を覚ましてはくれないけれど」
「……そうか。いったい何が原因なんだろうな。彼女が目覚めてくれさえすれば、開発の半ばで倒れた同僚達も報われるんだが」

 研究所の外は戦火が絶えず燃え続けている。今この瞬間にも多くの命が失われ、僕達の施設もいつ敵国の襲撃があるか分からない。

「先輩、どうしてこの世界には戦争が絶えず起こり続けているんだと思う?」
「珍しいな、セリクが研究以外の話題なんて」
「答えてくれないなら、もういい」
「照れるなって。……そうだな。知識があるから、じゃないか?」

 殺して奪う事のうま味を知った者がいる。武器を売りつけ財を潤す方法を知り尽くした者がいる。
 過去にこの世界は二度ほど滅びかけているのだが、きっかけはいずれも呪術師や死霊術師といった"知識のある者達"のエゴが引き金となった。

「それじゃあ、僕達の知識で造りあげられた彼女も、いずれ誰かのエゴにまみれて……」
「汚させはしない。俺達が守り抜くさ。だからセリク、彼女が目覚めたその時は、沢山知識を与えてやれよ?
 この研究所での最年少はお前だ。アルスの見た目とそう離れていない年齢だし」
「子守なんて反吐が出る。僕はただ、皆と知識を競い合うのが楽しくて――」

 知る事が楽しかった。知る事が幸せだった。
 信念なんてあるはずもない、ただそれだけの僕を残して――仲間は全て、知識に貪り殺された。


●空なき世界のジュブナイル
「本物の空を知った気分はどうだい、アルス」
「……おじさんは誰?」

 汚染された赤い空。海はコールタールのようにどろりと黒く、見渡す限り広がる廃墟。その壁のあちこちを侵すように咲くチグリジア。
 どの光景もアルスには鮮烈で、衝撃的なものだった。戸惑いながら歩き続けた果てに辿り着いたのは研究施設――いや、施設だったが正しいか。
 壁は崩れ、大穴のあいた天井から差し込む鮮烈な赤だけが人ならざる男を照らしていた。

 始めて出会ったはずの人。なのに何故か懐かしくて、心が締め付けられる人。

「僕の事はどうでもいい。それよりも君だ。なぜ今更になって目を覚ました? 何も知らなければ幸福な夢を見続けられたろうに。
 ここにはもう、お前を守る者はいない。お前を造りあげた"両親たち"は友軍に処分されたんだ。新たな戦争の道具を生み出そうとした悪魔だと」
「貴方はちがうの?」
「かつては親だったのかもしれない。しかし今は――世界を滅ぼした怪物だ」

 かつてこの世界を二度も滅ぼしかけたという呪いがあった。
《散花の呪(さんかのしゅ)》――零れ出る血液が花と化し、熱と共に人を蝕む外道の力。
 アルスを造った研究者の中でただひとり生かされたセリクは、呪いを軍事利用しようとした者達の手によって改造を施されたのだ。
 人としての面影は残しつつも、今の彼はいばらの翼を持ち、花の怪物を従えている。

「これが知識を貪欲に貪った者の末路だよ。知る事は罪だ。知る事は悪だ。君が悲しみを背負う前に――僕が、この手で!!」
 いばらの鞭が鋭くアルスへ放たれる。
「――ッ!」
 身を縮こまらせて、一秒、二秒。
 衝撃が襲って来ず、恐る恐る薄目をあける。

 花吹雪の中に堂々と立つは女性の背中。
 手元から絶えず花弁を散らせ、いばらを強引に掴み上げた彼女――『境界案内人』ロベリア・カーネイジが鋭く咆えた。
「私に出来るのはここまで。やる事は分かってるわね、特異運命座標!」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 花散らし花と舞え、特異運命座標!

●重要
 この依頼ではキャラクターに《散花の呪(さんかのしゅ)》という呪いがかかり、熱に侵される他、流す血や涙などの体液が花や花弁へと変化します。
 必ずプレイングの一行目に、ご希望の花を記載してください。思いつかない場合は「お任せ」と記載して戴ければ、こちらでイメージフラワーを考えて扱います。

●戦場
 鳥が歌い花は踊る夢と希望の溢れた緑の異世界『フローズ』……その成れの果て。
 呪いの蔓延によりあらゆる生命は息絶え、赤く染まった空と廃墟が延々と広がっています。
 戦闘は廃墟からはじまり、足元のペナルティはありませんが、瓦礫のせいで視界がやや悪いようです。
 遮蔽物として利用するもよし、開けた場所へ敵を誘導する事も可能です。

●エネミー
『知識の咎負い』セリク
 呪いの被検体となり、その力を取り込んで化け物と化した男性。イバラの翼を生やし、苦しげに眉を寄せています。
  遠距離攻撃を持ち、呪術(神秘)をメインに扱うようです。BS『出血』にご注意を。

 ボタニカルガーディアン(花兵)×6
 植物の蔓が寄せ集まり、人のカタチをとった人形です。
 棘のある蔓を鞭のように扱い、中距離から近距離の物理攻撃で戦います。
 
●登場人物
アルス・トロメリア
 ふわふわの白い癖毛に赤い瞳。だぼついた白衣の女の子。華奢で肌は陶器のように色白です。
「知識は罪」と定める世界に疑問を持ち、特異運命座標と共に探究心のまま冒険を続けた結果、世界の真実――滅んだフローラへ辿り着いてしまいました。
 すでに《散花の呪》に侵されており、時折コホコホと咳をしています。

『狂海のセイレーン』ロベリア・カーネイジ
 境界図書館に所属する境界案内人。普段は足を束縛した姿でしたが、この異世界に呼ばれた拍子に人魚のような姿の悪魔へ姿が変えられてしまいました。
 前回、特異運命座標と共にアルスと離れ離れになりましたが、ようやく助けに来る事ができました。
 アルスを探すためにそれなりに体力を使っており疲弊していますが、頼まれればサポートを行います。

●その他
 この依頼は「零れる涙はひとひらの」のスピンオフであり、「咎負い少女は登りて沈む」の続編ですが、前回不参加でもお楽しみ戴けます。

▼「零れる涙はひとひらの」
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2881
▼「咎負い少女は登りて沈む」
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5234

 説明は以上です。それでは、よい旅路を!

  • そして少女は花散らす完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年05月10日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ボーン・リッチモンド(p3p007860)
嗤う陽気な骨
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
エドガー(p3p009383)
タリスの公子

リプレイ


「なぜ此処が分かった!?」
 アルスに力添えがあるのは知っていた。しかし、この広大な世界の中で真っ直ぐ駆けつける奇跡などあるものか!
 苛立ちを露わにして吠えるセリク。差し向けられた花兵に一番槍を浴びせたのは『タリスの公子』エドガー(p3p009383)だ。兵士の花を散らせる対価に頬をイバラの棘が掠め、滲んだ血が清廉な百合の花弁と変わりゆく。
「己が名と騎士の誇りにかけて誓った。……必ず馳せ参じると」
 エドガーが取り出した硝子のボトルに、はっとアルスが息をのむ。
『この手紙が貴方に届くかは分からないけれど、胸の内に気持ちを閉まったまま、後悔しないように――こうして筆をとっています』
 独りぼっちで廃墟の中をさまよう折、彼女が海へ流したメッセージボトルは届くべき人の元へ届いたのだ。

「君は下がっていると良い。ここは我々に任せておけ!」
 倒された花兵を踏み越えて別の兵士がエドガーへ群がる。蔓が振り上げられた瞬間――瓦礫から黒い影が舞い踊り、鋭い毒手(あんき)で断ち切った。
「アーマデル殿!」
「……ッ!」
 反撃とばかりに伸ばされた別の蔓へ『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は左手を伸ばした。
(兵士もセリクの呪詛によるものなら――その身の呪いも共に斬り散らそう!)
 誘導された蔓が左腕に巻き付き締め上げると、歯噛みしてぐいと腕を引く。引き寄せられた花兵の本体へ『蛇銃剣アルファルド』を叩き込み、枯れるまで呪殺を注ぎきる。
「相手取るのが一匹でも、これだけ触腕が多いと厄介だな」
 左腕から血が滴り雫がいくつも合わさって、掌に大きな果実が握られる。それは善悪の"知識"の実として知られ、冥府に実る真紅の果実。
 口元に寄せれば香しく、柘榴の匂いにアーマデルは目を細めた。

 さまざまな神話や伝承において、ヒトは罪を犯して知を得、罰を受ける
 それは何も知らず、ただ与えられるものだけを享受する子供時代の終わりであり
 純粋ではいられない、大人としての生の始まり
 知とエゴが共にあるが故に避け難い、他者との軋轢の始まり

「知る事は罪であり、罪ではない。知る事は悪であり、悪ではない。ただ……罪を測り、悪を数えるのは、ヒトであるから」
「まったくだ。人間と言うモノは度し難く……愚劣極まりない」
 アーマデルの隣で殺気が膨れ上がった。己が憤怒のままにボーン・リッチモンド(p3p007860)は『Etheric O』の旋律を強かに叩きつけ、花兵の花弁を散らす。その気迫は『陽気な骨』などではなく、魔王の覇気を纏っていた。
(悪りぃな、ロべリアちゃん。折角俺達を頼ってくれたのに、今回に限って言えば俺にとって笑う余裕がない……この状況が、"美しくなさ過ぎる")

 救ったはずの世界があった。絶やした筈の呪いがあった。
『――嗚呼、僕は。いつもヘザーを泣かせてばかりだ』
 今でも心に焼き付いている。《散花の呪》の造り手に引導を渡したのは他ならぬ自分だ。
「アレは…同類の…ブルーノの生きた証で呪いだ。このまま静かに眠らせてやらなきゃいけない代物だ! それを暴いた大馬鹿者は誰だッ!!」
「戦争の道具にルーツなど関係ない。より効率的に人を殺せるから使う。それ以外の判断基準が必要か?」
「なんだと…」
「"平和を願って作られた核兵器"があったとして、一瞬の判断で味方が死ぬ戦争で、ルーツがどうのと踏みとどまれるか?
 僕は使う。殺される前に確実に敵を殺すことが出来るなら躊躇わない――こんな風に」
 セリクの翼が脈動し、翼から伸びた蔓が地に潜り込む。やがてそれは特異運命座標達の足元で竹槍の如く突き上がり、身を掠めて血飛沫を散らせた。
 ボーンの骨が削れ、炎の様に燃え上がり紫の芍薬の花弁と変わる。
「紫の芍薬の花言葉は『憤怒』か。理解に苦しむ。人が愚かと思うならば見捨ててしまえばいい。
 そうすれば、この世界の最期の人間アルスは死ぬ。人が滅べば呪いも終わる」
「貴方はそれでいいんですか?」
 繊細な声が戦場に響いた。『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)はその場において誰よりも殺意が薄く、儚い花の様だった。

――熱い。頭がくらくらする。視界が霞む。
 とめどなく溢れる睦月の涙はアザレアの花弁となって足元に積もってゆく。
《散花の呪》に蝕まれるのは始めてじゃない。あの時はまだ大切な人と、心がすれ違ってばかりで。

 けれど今は違う。運命を乗り越えて――僕は再び、この呪いと苦しむ人と向き合うんだ!
「セリクさん、あなたも被害者なのですよね。滅ぼしたいくらいに、この世を愛していたのでしょう?」
 呪いの力を得たのは、悪意を持った者達のせいだ。それでも彼は"自身を怪物だと言った"。
 他責ではなく己が罪と自分自身を責め続けるほど彼の本質は純粋で――
「そして世界が滅んだ後も、ここでアルスさんを待ち続けた」
「黙れ……」
「彼女が、孤独になってしまわないように」
「黙れと言っている! 今更ヒトの情など知りたくもない!!」
 統率の取れていた花兵達が思い思いに暴れ出す。造り手の心の乱れで凶暴に、そしていずれも隙だらけに。
 今なら兵士を一掃できるかもしれない。そう考えたエドガーがSADボマーで弾幕を張り敵の視界から味方を消す。
「アーマデル殿、ボーン殿。確かにヒトは愚かなのかもしれない。しかし、心に正義を掲げる事ができるのもまたヒトだ。
 セリク殿には彼なりの苦悩があり、正義があった。ならば私は私の正義でこの悪夢を打ち倒す! 君たちはどうだ!!」
「……どんなにヒトが愚劣でも、俺もまたヒトの親だ。成長しようとしている子供を苦しみながら傷つける姿は、見てられねぇ」
「俺がするべき事は来る前から変わらない。苦しむ魂に救済を。……睦月殿、足元がふらついているが、まだ戦えるか?」
「大丈夫です、アーマデルさん。こんなに頼もしい仲間がいるんです、負けるわけがありません!」
 四人の視線が絡み、息を合わせて身構える。さあ――反撃の始まりだ!


 弾幕が薄れ始める頃に、長細い煙を引いて人影が飛び上がる。
 彼誰時、夜明け間近の最も暗い刻。その薄暗闇に溶け込むような暗色のマントを広げ、空から襲い来る死神アーマデル。
 そして地にはゆらり、双眸に赤い炎をゆらめかせ――死霊王ボーンがヴァイオリンに顎をのせる。

「二重奏だ、いけるかい?」
「死の音色に境界はない」

 その日、世界は死の旋律に満たされた。
 天から降るは未練の音色。人類が滅び尽くした世界には、志半ばにして斃れた英霊が文字通りに星の数。『英霊残響:怨嗟』の洗礼が花兵達に降り注ぐ!
「目覚めろ」
 ほぼ同時、ボーンによって呟かれた言の葉は従者達を呼び覚ます。『死霊王の呼び声』により地は死者の呻きに埋め尽くされて――花兵達をのみ混んだ。
 その光景は現世か地獄か。分からぬほどの阿鼻叫喚。
 花兵全てが枯れる中、暗闇を切り裂いて一迅の光が駆けてゆく。蹄の音を響かせるそれは愛馬に跨るエドガーだ。
「足場が悪く、騎乗戦闘は諦めていたが…」
 少女の祈りの力が馬脚に宿り、足元の瓦礫を退ける。加速力は更に増し、エドガーはやがて音速を超えた。
『エドガーが前衛、私が後衛。やってやれない事はない…だよね!』
「嗚呼…そうだったな。戦おう、二人で!!」
「無駄だあぁーーッ!!」
 セリクの翼が地を強かに叩き、跳ね返るように蔓が伸びて行く手を阻む。エドガーは得物を操り裁ききり、やがて前へと穂先を向けた。
「無駄なものか! 何が為されるかではなく、何を為すか…どう生きるかこそ、人が人たる所以だろう!」
 無駄なものなどない。重ねてきた絆が、想いが。剣魔双撃に込められて、ドッ!! とセリクの身体を突いた。
「ぐ、がぁ!!」
「終わりだ、セリク殿」
「……く、クク……。お前がな。今の一撃で仕留めていれば全てかたがついたものを!」
 自身を貫く槍を掴み、憎悪に染まった笑みと共にセリクがエドガーへ手を伸ばす。――しかし。
「いいえ、終わりです」
 ばさりと布が翻る音がして、睦月が姿を現した。エドガーのマントの裏で背中にしがみつき、共に乗馬していたのだ。
 睦月の掌に光が集約し、やがてそれは場を満たす。
「この世に希望はまだあります。呪いを乗り越える知恵と力が、あなたがたにはきっとあるはずです!」
 激しく瞬く神聖の光は、邪悪なる者を打ち据えて――


「いででで」
 ギチギチと前から後ろから必要以上に包帯で強く締め上げられ、ボーンは痛みに震えた。縛られ応急手当が完了すると、その場にがっくりと膝をつく。
「ロベリアちゃん……は、らしいからいいとして。何でアーマデルの旦那まで……」
「ロベリア殿に頼まれたからだ。骨を折るつもりで締めた方がいいと」
「折れた方が暫く無茶出来なくなるでしょう? ……本当に心配したんだから」
「ロベリアちゃん、何か言ったか?」
「アーマデル、次は染みる軟膏を塗りましょう」

 治療で騒ぐ三人を微笑ましく眺めた後、睦月はエドガーとアルス――そしてセリクの方へと歩み寄った。
「なぜ殺さなかった」
「僕はロベリアさんからアルスさんの話を聞きました。辛い想いをされてきた彼女に、親の死まで押し付けたくはなくて」
 トドメの『神気閃光』は不殺の技だ。気絶したセリクがその後目を覚ますと、翼は落ち人の姿と成っていた。
 白亜の少女アルス・トロメリア。この世界のあらゆる叡智を集約し創られた機械生命体は"悪意ある知識を打ち消す力"の持ち主で。
《散花の呪》は今や散り、あつい雲の切れ間からは天の柱が降り注いでいた。青空を見上げながら、エドガーとアルスは笑い合う。
「ねぇエドガー、話したい事がいっぱいあるの! もっと教えて、貴方の事。世界の事。…私、これからも沢山知りたい!」
「いくらでもしよう。この世界で前に進む君に、贈れる勇気を、ありったけ――」

成否

成功

状態異常

なし

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