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シナリオ詳細

<Liar Break>幻想楽団の慈母

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 窮鼠猫を噛むとか、絶望は臆病者に勇気を与えるとか。
 色々な世界に色々な言葉があるけれど。
 どうやら、何処の世界も知的生命体は――追い込むと暴発するらしい。
 死に体であったはずの偉大なる幻想は、まさかまさかの反逆に出た。
 無能な国王、腐った貴族、諦観に支配された国民――。
 腐り朽ちていくだけだった大木は、ここに来て、生き残るための新芽を出した。
 多くの国民は気づいているだろう。一部の貴族も。
 この結束の中心に、ギルド・ローレットと、イレギュラーズ達の働きがある事を。
 結果として、私達(シロアリ)は大木(レガド・イルシオン)から這う這うの体で逃げ出すことになった。とは言え、団結した幻想は、まさに大国であり、私達(サーカス)を国内に封じ込めることなど、容易であったのだ。
 貴族たちは、早速国中のあらゆる所に封鎖網を作り上げた。今迄であれば、穴だらけのいい加減な壁であっただろうけど、この度は違った。サーカスの力を以てして、なお突破できぬ大国の壁。その包囲網は日に日に狭まり、放っておけば、私達はその網に囚われ、死を待つのみ、と言った所か。この状況にして、クラリーチェは相変わらず楽し気だし、ジャコビニ以下団員たちは生き残りに必死のようだ。私は――まぁ、どうでもいい。
「おかあさん」
 と、声がした。私はそれで、現実に戻った。
 目の前には、幼子がいた。その服を真っ赤に汚して、得意げな顔を私に向けている。
「やってきたよ」
 と、その子は、私に向って何かを差し出した。
 生首である。
 切断面は、お世辞にも綺麗とは言えなかった。何度もナイフを当てて、何度も引いて、何度もたたきつけて、何度も何度も、何度も何度も試したのだろう。
 ああ。なんて。
 愛らしい。
 この幼子は、私の為に、ああ、ただ私の為に、精一杯の愛を込めて、この首を斬り落としたのだ。
 生物学的には、この幼子の母と呼ばれる存在の首である。
 血の繋がり等と言うあやふやなつながりで、子を縛り付ける悪徳の存在。
 私がやってこいと言ったのだ。
 この子がやってくると承諾したのだ。
「ああ」
 私はたまらず声をあげた。
「いい子ね。名前は――何だったかしら。でも、いいわ。何でも。いらっしゃい、坊や」
 私が両手を広げると、その子は生首を放り捨てて、私の胸に飛び込んできた。優しく包み込むように抱きしめた。嬉しそうに、くすぐったそうに、坊やが微笑む。
 ああ。ああ……。
 ああ、ああ、ああ! ああ! ああ! ああ!
 なんて、なんてなんてなんてなんてなんてなんてなんて!
 愛らしい!
 こんな幼子を汚す存在が許容できない。
 こんな幼子を殴る存在が許容できない。
 こんな幼子を利用する存在が許容できない。
 欲望のため、ストレスの解消のため、地位や名誉のため、この世のありとあらゆる、利己的に子供を利用する存在が!
 知的生命体の成体と言う存在が!
「おかあさん!」
「ママ!」
「かあちゃん!」
「ままぁ!」
「おかあさん!」
 次々と。
 次々と。
 子供達が顔を出す。
 手には、人類種の成体の体の一部を持って。
 生首を。耳を。目を。鼻を。腕を。指を。局部を。臀部を。内臓を。
 余りにもおぞましい生命体の部位を手にして。
 その身体を血に汚し、その頬を赤に染め。
 私を、私の為に、その手を汚して。
 子供達が、やってくる。
「ああ……おいで、おいで子供達。私の、私の大切な子供達……」
 私の言葉に、子供達が駆けだした。
 ああ、なんて。
 幸せなのだろう。

●『子供の味方の』デーメ・テール
「……お仕事です」
 『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)は、不機嫌さを隠さずにそう言った後、慌てて頭をふった。
「いや、いや、ごめんなさい。皆さんのせいではなく――いえ、八つ当たりでした」
 ぺこぺこと頭を下げる。普段のファーリナを知っているものからすれば、珍しい反応である。この銭ゲバ妖精は、良くも悪くもいい加減であるのだ。
「……シルク・ド・マントゥールの連中が逃げ回っているのはご存知ですか? 今はまさに袋の鼠、と言う状態ではあるのですが」
 ファーリナの言葉に、頷くイレギュラーズも居たかもしれない。
 先のノーブル・レバレッジ作戦は大成功をおさめ、民衆を、貴族を、そして国王を、ローレットは動かすことに成功した。
 その結果、自らの危機を悟ったシルク・ド・マントゥールは逃走。しかし、今や団結を果たした幻想と言う国は、自らに牙をむいたモノ達を、その腹の内から逃がすことはしなかった。
 貴族達は即座に行動を開始し――そこには義憤だけではなく、確かに利己的な面もあったのだが、それはさておき――国内のあらゆる所に検問所を設置。民衆もこれに協力し、サーカス包囲網が誕生。誰が呼んだか『幻想の檻』と呼ばれるこの巨大包囲網は、サーカスをじわじわと追い詰めていった。
「ですが。ここに来て連中も暴発しまして。各地で騒ぎを起こし始めたわけです。もはや、自分達が悪意ある存在であることを隠そうともしなくなった――成果ではありますが、同時に危機でもあります」
 なりふり構わなくなったサーカスは、各地で事件を発生させた。目的は、包囲網の崩壊と、それに伴う国外脱出である。
 各地で事件を勃発させれば、その解決に兵を割かなければならないし、ここに来て士気の上がった民衆達を、恐怖でトーンダウンさせることもできる。自己利益のために包囲網に参加している貴族たちも、損害が大きくなれば手を引く可能性がある。そうなっては、『幻想の檻』は崩壊しかねない。
「レオンの大将が色々駆け回って、貴族達に釘を刺したそうです。親分である幻想三大貴族様がまだ包囲網に参加してるのに、逃げ出そうとはいい度胸だ、と。フィッツバルディの爺様やら、アーベントロートのお姫様、あの辺も一喝して回ったそうですが、それはさておき。包囲網を続ける代わりに、ローレットがサーカス遊撃を担当することになったわけです。で」
 ファーリナはふう、と一息つくとテーブルの上に、ばさり、と資料を広げた。
 人相書きである。
 髪の長い、たおやかな印象の女性である。
「デーメ・テール。『デーメ・テール』と言う名前です。シルク・ド・マントゥールでは、子供の相手や、迷子の受付などをしていた人物。コイツは――」
 ファーリナは、心底軽蔑する目つきで、その人相書きを睨みつけた。
 多くの者が見る、ファーリナの初めての表情だった。
「魔種です。『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』のホスト。サーカスでのポジションから、多くの子供達と接触した可能性が高い……つまり、多くの子供達を狂気に追いやった、原因菌」
 その言葉に、イレギュラーズ達には、思わず息をのんだ者もいるかもしれない。
 魔種。『神託の予期した破滅を真に望む存在』。特異運命座標にとっての不倶戴天の敵。そして、己が狂気を伝播させ、破滅を増幅させる存在。それが――。
「皆さんには、コイツを討伐してもらいます。コイツは……コイツは!」
 ファーリナは叫んだ。
「村の子供達を狂気に感染させ、村中の『大人たち』を殺害させました! まずは親。年の離れたきょうだい。近隣住人――子供達の手によって!」
 明確な怒りが、その言葉には満ちていた。
「ふざけやがって! 子供が親を……親しい人達を殺すなんて……そんな非道があってたまりますか!」
 ファーリナの怒りは、その行為ではなく、状況への物だ。例えば、両親からのひどい虐待を受けている、と言うような状況で、ファーリナは親殺しもやむなし、と考える。だが、同時に、子供をそこまで追い詰めた状況について、ファーリナは激しく怒りをあらわにするだろう。人。生活。精神。子供を追い詰めたあらゆるものについて、ファーリナは怒るだろう。
 ましてや今回の事件。明確な悪意によってもたらされたであろうこの事件について、ファーリナは爆発せざるを得なかった。
「……すみません。ちょっと落ち着きます」
 パタパタと羽を震わせ、ファーリナが頭を下げた。その怒りも仕方がない、と思うイレギュラーズも居たかもしれない。いずれにしても、極めて悪質な事件であることに変わりはない。サーカスの件を抜きにしても、必ず解決しなければならない事件だ。
「えーと……まぁ、そんなわけで。バルツァーレク領の村の一つが、この魔種の手によって壊滅させられました。今の所、そこから動くつもりはないようです。付近の兵士たちによって監視はされていますが、いつ動き出して、次の村に行くのかもわかりません。ですから、皆さんには今のうちに、この魔種を討伐してもらいたいのです」
 そう言って、ファーリナは頭を下げた。
「今回ばかりは損得は抜きです。この事件の解決をお願いします。……それと、くれぐれもお気をつけて」
 その言葉を受け、イレギュラーズ達は立ち上がった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 魔種が現れました。これを討伐し、子供達を救いましょう。

●成功条件
 『子供の味方の』デーメ・テールを倒す

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 バルツァーレク領のとある山村。作戦時間帯は日中であるとします。
 目標は村のある一軒家で生活をしているようです。室内は戦闘には向きません。屋外で戦うべきですが、目標は、呼べば出てくる程度には簡単に外に出てきます。
 室外で戦う場合には、足場や遮蔽物などのペナルティはありません。

●エネミーデータ
 『子供の味方の』デーメ・テール ×1
 外見は、20代前半、人間種の女性です。亜麻色の髪をひと房に束ねた長い髪、たおやかな表情から、人は母性を感じることがあるかもしれません。ですが、彼女はその思考を狂気に明け渡した恐るべき魔種です。

 特殊攻撃
  クリミナル・オファー(微弱)
   『原罪の呼び声』です。このシナリオにおいては、毎ターン開始時に確定発動し、戦場にいる全てのイレギュラーズのAPが-20します。

 通常攻撃
  我が子 物・特レ・単・万能
   狂気に陥った子供達による物理攻撃です。レンジは『戦場全て』になります。
  近接術式 神・近・列
   簡単な近接防御術式です。デーメ・テールの攻撃の中では最も弱いです。
  遠距離術式 神・遠・列
   簡単な遠距離射撃術式です。デーメ・テールの攻撃の基本です。

●特徴
 デーメ・テールのEXAは非常に高く、何も対策をとらなければ、ほぼ確実に複数回の行動を行います。また、EXAにより増えた行動回数分は、デーメ・テールは副行動を放棄し、主行動で必ず『我が子』を使用します。
 これは、EXA=『デーメ・テールが狂気に陥らせた子供の数』であり、その行動とは子供達による攻撃、だからです。
 と言っても、例えば100人子供がいるわけではありません。子供の総数は10名で、何らかの方法で子供を無力化――例えば殺害したり――すれば、その分に相応してEXAは減少します。
 子供に対して何らかのアクションをとる場合は、主行動を利用して行ってください。子供に関しては、距離関係を無視して、あらゆるアクションをとることができるものとします。例えば、子供を捕まえて、縄で縛って、放り出す、と言う行動の場合、『子供を捕まえる』『縄で縛る』『安全な場所に手放す』と言う三回の主行動(キャラを問いません)が必要になります。
 デーメ・テール本人は、魔種の中でも戦闘能力の低い分類ですが、当然ながら、現在のイレギュラーズから見て『強い』と言える程度には強いです。

●子供達について
 全て『原罪の呼び声』により狂気に染まっています。が、先のノーブル・レバレッジにて行われた『絆の手紙作戦』によって、住民たちには少しですが、狂気耐性がついています。
 そのため、『原罪の呼び声』の発生源であるデーメ・テール本人の近くに居る場合は無理ですが、無事デーメ・テールを倒し、何日かの療養を行うことができれば、正気に戻すことは可能です。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <Liar Break>幻想楽団の慈母Lv:5以上完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年06月29日 22時46分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
知識の蒐集者
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
絶望を砕く者
八田 悠(p3p000687)
祖なる現身
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
新たな道へ
ヨハン=レーム(p3p001117)
ステンレス缶
マルク・シリング(p3p001309)
ダークネス クイーン(p3p002874)
悪の秘密結社『XXX』総統
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束

リプレイ


 まるで、何事もなかったかのような、清々しい、青い空だった。
 六月の晴天である。
 少々の湿度を含んだ風は生ぬるいが、それでも過ごしやすく、洗濯に適した日であった。
 だが、その村の家で、洗濯物がたなびく様子はない。
 生ぬるい風が運ぶのは、洗濯石鹸の香りではなく、鼻をつく異臭である。
 よく見れば、村のそこら中には、異臭を放つ『なにか』が散らばり、家の壁にはこびりつく黒いしみを見つけることができるだろう。それを見れば、この村で何が起きたのかを想像するのは難くはない。
 そんな凄惨さからかけ離れた、こぎれいな家が一軒だけ存在した。
 庭には、その他の家の様子と相反する様に、真っ白な洗濯物がはためき、ともすれば、幸せそうな笑い声すら聞こえてくる。
 あまりにも、普通の家である。
 故に、異常な家であった。
 そんな家へ向かう道を、『遠き光』ルアナ・テルフォード(p3p000291)は、トボトボと歩いていた。
 あたりの様子をうかがうその顔は、不安に彩られていた。きゃしゃな体を震わせ、とぼとぼと、とぼとぼと、歩む。
 やがてルアナは、一軒家へとたどり着いた。入り口の扉の前に立ち、ふう、と息を吐き、頷くと、その扉を叩いた。
「ごめんくださーい。だれかいませんかー。ここどこ……?」
 声色は不安げに――迷子の風を装って。
 数秒の沈黙。後に、ぱたぱたと、小走りの足音が聞こえた。
「はい、どうしました?」
 現れたのは、素朴な衣装を着た、女性である。
 亜麻色の髪をひと房に束ね、酷く温和な笑みを浮かべるその女性を見た瞬間、ルアナはその胸に飛び込み、存分に甘えたくなる衝動にかられた。
 本能的な欲求である。それを異常に増幅された感覚。
 理性を殺し、狂気に至らせる、魔種の呼び声の効果である事を、ルアナは察した。
 狂気への誘惑を精神で押さえつけ、ルアナは不安げに言葉を紡いだ。
「あの、道に迷ってしまって……友達もいるんです。それで、道を教えてほしくて……」
 とつとつと、迷子によって、パニックに陥っている素振りで言葉を紡ぐ。
「まぁ、それは大変」
 と、女性……デーメ・テールは目を丸くした。
「道を教えてほしいのね。分かったわ。それで、お友達は?」
 尋ねるデーメ・テールへ、ルアナはこっちです、と告げると、来た道を戻り始めた。デーメ・テールは疑う様子も見せず、それに従い、着いてくる。
 ルアナからすれば、緊張の時間だった。魔種に背中を見せているわけだ。だが、デーメ・テールは、素直についてくるだけで、なにがしかの行動を起こそうとはしない。こちらを信じ切っているのか、或いは。
「えっと、ここです」
 ルアナが口を開いた。到着したのは、村の広場である。
「……最初に貴女を見た時に、おかあさん、って思ったんだ」
 ルアナが言う。ゆっくりと、デーメ・テールへと振り返った。
 その顔に宿るのは、明確な敵意と決意である。
「でも――やっぱり、ちがうね。あなたは『母』じゃない。貴女の好きにはさせないよ」
 その貫くような視線は、常人ならばたまらずいすくむような鋭さを持っていたが、デーメ・テールが返したのは、笑みである。
「おかしなことを言うのね」
 デーメ・テールが口元へ手をやった。
「いいえ。ルアナさんの言う通りですよ」
 声が響いた。
 『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は、民家の影からゆっくりと姿を現した。
 ヘイゼルだけではない。ヘイゼル含め、計9名の人影が、その姿を現した。
「自分の脳内の、あるべき子供のイメージの強要――私の育った孤児院も腐った所でしたが、貴女ほどの腐臭を発する『大人』はいませんでしたよ」
 睨むヘイゼルの言葉に、デーメ・テールがその眉をひそめた。
「『大人』。私が?」
 デーメ・テールにとって、『大人』とは、最大の侮辱の言葉であったに違いない。彼女にとって『大人』とは、子供を利用する悪の存在であったから。
 それを理解していたからこそ、ヘイゼルはその言葉を選んだのである。
「そうですよ、デーメ・テール。自らの妄想に逃げ、そのために子供を利用しているのなら、貴女もまた醜悪な大人にすぎない」
 ヘイゼルは『【0】』を構え、言い放つ。
「状況は理解しているでしょう。私達はローレットのイレギュラーズ……貴女を止めに来ました。貴女は二度と、子供達に触れる事も無く……此処で終わりです」
 ヘイゼルの言葉に、デーメ・テールは嘆息した。
「そう、あなた達は、私からあの子たちを奪い取りに来たのね」
 デーメ・テールがそう言った途端、イレギュラーズ達の背筋に冷たいものが走った。デーメ・テールが纏っていた、ある種の親しみやすさすら感じられた雰囲気は完全に消失し、そこにあるのはただ冷たいばかりの殺意である。
 脳裏は激しくかき乱された。恐怖、勇気、愛情、様々な感覚がごちゃ混ぜに発生し、それぞれが激しく己を主張する。間近で浴びる『原罪の呼び声』の重圧。その誘惑をはねのけて、イレギュラーズ達はそれに対峙する。
 『子供の味方の』デーメ・テール。魔種。人類の敵。その一匹が今――。
「誰一人、生かしては返さない」
 デーメ・テールが言った。それが、戦いの合図となった。


 デーメ・テールの動きを阻害すべく、その前に立ったのはルアナだ。
「貴女は、ここから動かさない!」
 睨みつけながら吠えるルアナへ、しかしデーメ・テールは薄く笑った。
「ええ、動く必要なんてないわ」
 その言葉を待っていたかのように、村中から小さな影が飛び出してきた。
 幼い子供達である。
 不釣り合いな、凶悪なナイフを手にし、しかし子供達は笑っていた。
「ママ!」
 女の子が言った。
「助けに来たよ!」
「ええ、ええ――そうね、助けて」
 デーメ・テールは嬉しそうにそう言った。その言葉を合図に、子供達は一斉に戦場を駆けだした。子供達は、各々イレギュラーズへ向かい駆け出す。
 子供達の目に浮かぶのは、敵意の色である。悪者をやっつける、という無邪気な正義の色。だが、その手に持つナイフは、その無邪気さとは裏腹に、残酷に人の命を奪うに十分な威力を有している。
「おかあさんを、いじめるな!」
 振り下ろされた刃は、子供の物とは思えぬほどの力で、イレギュラーズ達を傷つける。
「凄いわね、皆。お母さんも頑張るわね」
 そう言って、デーメ・テールが腕を振るう。瞬間的に編み上げられた近接攻撃術式が発動し、眼前に居たルアナを、不可視の鞭が打ち据える。その一撃は、簡素な術式とは思えぬほどに、重い。
「ルアナさん!」
 独りでのブロックは難しいだろう。ヘイゼルは、デーメ・テールをルアナと挟み込むように位置し、動きを阻害する。
「なんて外道な真似を……っ!」
 『驟猫』ヨハン=レーム(p3p001117)は悔しげに呻きつつ、『メイドインヘヴン』を抜き放った。その刀身にオーラを纏わせると、子供の一人へ斬りつける。
 悲鳴をあげることなく、斬りつけられた子供は、地に倒れ伏した。だが、慈悲のオーラは、斬りつけられた者の命を奪う事はない。
 心は痛むが、子供達を放置したまま戦う事は難しい。内心で謝罪の言葉を紡ぎながら、ヨハンはそれでも剣を振るった。
 デーメ・テール戦において、子供への対処は必要不可欠であった。その為、イレギュラーズ達は、その戦力の多くを、子供の無力化へと割く事となる。
「落ち着いて下さい、貴方は操られているだけ。本当の母を思い出して……!」
 『戦花』アマリリス(p3p004731)は、子供の一人を捕まえて、そう告げた。小さく、すばしっこい子供を捕まえるには、そのことに注力する必要があり、戦闘行為などを行う余裕はない。
「うるさい! わけのわかんない事言うな!」
 自身の胸の中で暴れる子供を強く抱きしめながら、アマリリスは沈痛な面持ちを子供達に向ける。
「ええい、暴れるな……」
 『悪の秘密結社『XXX』女総統』ダークネス クイーン(p3p002874)は、子供を愛用のマフラーで縛り上げる。
「やめて! 痛い! 放して!」
 子供の叫び声が、心を抉るようであった。それでも、ダークネスクイーンは唇をかみしめて、きつく、子供を縛り上げた。
「許せよ、許せ……後で飴ちゃんを買ってやる」
「やれやれ、流石に気持ちのいい物じゃぁねぇな……」
 『本心は水の底』十夜 縁(p3p000099)が子供を拘束して地に横たえた。その腕をつたう鮮血は、拘束作業中に暴れた子供によって付けられた傷である。
 横たえられた子供達は、助けを呼ぶ声と、イレギュラーズ達への恨みの言葉をあげている。
「……子供達が泣いてる。あなたは、何とも思わないのかな……?」
 デーメ・テールの前に立ち、『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が言う。
「私は、辛いよ。……こうなっている事も、こうしなければならなかった事も……! あなたは……!」
「そうね……あの子達が泣いているのは、あなた達のせいよね……!」
 デーメ・テールは忌々し気に言い放つ。そんなデーメ・テールへと、呪殺の矢が飛来した。デーメ・テールは防御術式を展開し、とっさにそれを受け止める。
「人間らしい返答を期待しても、無駄だろう」
 矢の主は、『智の魔王』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)である。
「あれは、もう、そういうモノなのだろう。平行線、という言葉が最も適切だな。あれは、同じ世界にありながら、ヒトとは違う線の上で、違うものを見ているタイプだ。決して交わらん」
「だとしても、一言言ってやらないと気が済まないんだよね……っ!」
 『祖なる現身』八田 悠(p3p000687)は、回復の薬液を作り、味方に投与する。
「お前が想っているのは、子供じゃない。『子供を慮っている自分』なんじゃないの? 結局――」
「貴女とて、子供を利用していることに変わりはないんだ」
 仲間たちの傷を癒す召喚物を呼び出し、マルク・シリング(p3p001309)が続いた。
「でも、本当は、それは悪い事じゃない――人間、どうしても、見返りは求めてしまう。でも、貴女は、それを許せないんだ。だから……」
「うるさい――」
 デーメ・テールが、その言葉を遮った。
 宙に出現した魔法陣より放たれた光線が、マルクを飲み込み、地を薙ぎ払った。光線の過ぎ去ったのち、傷を負ってなお、マルクは立ち上がる。
「それは人間の弱さだよ。貴女はそれから目を背けた。だから見せてやる。弱い人間の強さを」
「人を惑わせるその力。使わないでいてくれたらよかったのに。サーカスなんて開かずに、静かに過ごしてくれていたらよかったのに」
 ルアナが呟いて、刃を上段から鋭く振り下ろした。慌ててデーメ・テールが防御術式で防ぐのへ、
「子供を血に染めておいて――何が子供たちの味方でしょうか!」
 ヨハンが追撃を与えた。斬突、刃に頼らぬ特異な剣さばき。デーメ・テールはルアナの刃を振り払うと、ヨハンの攻撃へその防御を割く。
「魔種、あなたは絶対に許さない! その所業、ここで――!」
 ヨハンの攻撃への対処の隙をつき呪殺の矢がデーメ・テールの腕へと突き刺さった。驚いたデーメ・テールが視線をやれば、こちらへ向けて弓を構えるヘイゼルの姿がある。
「最早、貴方の罪は、許せる度合いを遥かに超えた」
 アマリリスが掌に生み出すのは、小型の気功爆弾である。
「神の名に置いて、聖罰を執行する。デーメ・テール、貴方の幸せは今日ここまで、です」
 放たれた気功爆弾は、ヘイゼルの攻撃により大きく隙を作ったデーメ・テールの腹部へと到達。同時に爆発し、その名の通りの『爆彩花』を咲かせる。
「あ――」
 デーメ・テールが大きく息を吐いた。
「我が力は暗黒なれど、貴様達の澱みとは相違である! 我こそはダークネスクイーン! 暗黒の内にて輝く星である!」
 ダークネスクイーンは『自在剣『ダーク・ミーティア』』へと闇を纏わせ、デーメ・テールへと追撃を見舞う。次のことなど考えぬ、全力の一撃。
「見えない……」
 デーメ・テールが目を擦った。ダークネスクイーンの一撃により植えつけられた暗闇が、その視界を奪った。
「ああ、あああ、ああああ!」
 デーメ・テールが叫んだ。潰さんばかりに目を擦り、狂乱したかのように頭を抱える。
「どこ……私の、私の子供達は!」
「母は強し、ってやつかい。やれやれ、言葉だけは美しいんだがねぇ」
 もはや隙だらけのデーメ・テールの体勢を崩すことなど容易い。
 縁の流れる様な『投げ』は、デーメ・テールの体を浮かし、直後に地に叩きつけた。
 がふっ、と強く息を吐き、デーメ・テールが地に倒れ伏す。暗闇に閉ざされた眼は中空を見つめ、胸は荒い呼吸に上下する。複数の傷を負い、もはや体を動かすことは不可能と言うほどに負傷していたが、それでもデーメ・テールは、ゆっくりと腕を伸ばした。
「返して……私の……私の……」
「あなたのじゃ、ない」
 スティアは言った。
「『あなたのモノ』じゃ……ないんだよ」
 スティアは一瞬、目を伏せると、デーメ・テールへと手をかざした。
 逆巻きに発揮される再生の力が、デーメ・テールの肉体を破壊していく。
「返して……私の……私の……コ……」
 デーメ・テールの最期の呟きを、完全に聞き取れた者はいない。


 村を占拠していた魔種を討伐したイレギュラーズ達は、近隣にて様子をうかがっていた兵士達と接触し、作戦終了の報せを届けた。
 ほどなくして、村に兵士達の一団がやってきた。兵士達は村中の家々を調査したが、情報通り生存者はおらず、至る所に惨劇の後が残るのみである。
 魔種の討伐を成功させたイレギュラーズ達は、兵士達による労いと称賛の言葉を受けたが、助け出された子供達は、そんなイレギュラーズ達に、憎しみと敵意の視線を向けていた。
「お察しの通り、狂気の伝播によるものでしょう」
 と、兵士の一団に参加していた、教会の神父は言った。
「この子たちは教会で引き取り、療養させます。回復すれば、本来のあるべき自分を取り戻すでしょう」
「……それで思い出しちまうのかい? 自分達がやった事を」
 縁が言った。キセルを咥え、その視線は、どこか遠い所を見ていた。ふぅ、と煙を吐くと、
「いや、意地の悪い言い方だったな。すまないね、忘れてくれ」
「でも……あの子たちは、生きています」
 ヨハンが言った。イレギュラーズの活躍もあり、魔種に囚われていた10人の子供達は、全て救出されたのだ。
「生きていれば……やり直せるんですから……」
 ヨハンの言葉に、
「そうさなぁ……生きてこそ、さなぁ……」
 縁はやはり、何処か遠くを見ながら、呟くのであった。
「あの子たちは、これから孤児院にでも送られるのでしょうかね」
 些か顔をしかめつつ、ヘイゼルが言った。あまり孤児院にはいい思い出がない様子である。
「まぁ、あの魔種の下にいるよりはマシだよ」
 悠が答えた。
「それはそうですけど……」
 と、ヘイゼルが苦笑する。
「この身体(器)が言ったんだ。アレは親ではない、存在させるべきではないってさ」
 悠の言葉に、ヘイゼルは頷いた。
(利己的な大人……存在すべきでない親、ですか。さて、それはアイツだけなのか……それとも……)
 ヘイゼルは胸中で呟く。
「あの魔種の過去に何があったのか、私にはわからないけれど」
 アマリリスは言った。
「魔種に堕ちる程の狂気……絶望……そう言った何かがあったのかもしれないわね」
 その言葉に、スティアは頷いた。あの魔種の、途切れ途切れに聞こえた最期の呟きが、脳裏によみがえった。
「だとしても……そうだとしても、彼女のやった事は、悪だった。これだけは、断言できるよ」
 スティアの言葉に、アマリリスは頷いた。
 過去に何があろうとも。犯した罪の報いは、何らかの形で、受けなくてはならないのだ。
「『私の力は、弱き人の為に』。私はやっぱり。前の世界でもこうやって戦っていたんだ」
 ルアナの呟きに、グレイシアは頷いた。
 小さな勇者は、己の手を見つめる。
「グレイシアおじさま。ルアナは戦うよ。物語の勇者様にはなれないけれど……こんな可愛そうな子供たちが、もう増えないように……」
「……そうか、無理はせぬように。……ルアナならば、物語の勇者のようになる事も可能だろう」
 そう返しつつ、
(勇者の自覚はまだ無いだろうが、これは大きな一歩となるか)
 グレイシアは、胸中で一人ごちる。
(……蜂起だ狂気だと面倒だったサーカスも、存外役に立つものだ)
 その心の内は明かさず。
 『智の魔王』の真意は、本人のみが知る所だろう。
「アレは断じて母などではない、貴様達は悪い夢を見ているのだ」
 ダークネスクイーンの言葉に、しかし子供達は憎悪の視線を向けるのみだ。しかしダークネスクイーンは、その視線から逃れるようなことはしなかった。堂々と受けて立つ。子供達が母と慕う者を殺した事に変わりはないのだから。そう考えて。
「……強いんだね」
 マルクが言った。ダークネスクイーンはゆっくりと頷く。
「総統であるからな」
 その言葉は、照れ隠しのように感じられた。
「僕は少し……でも」
 マルクは言った。
「僕達は、選んで、望んで、勝ち取ったんだ。だから――」
 マルクは、空を見上げた。
 まるで、何事もなかったかのような、青い空だった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、魔種は討伐。
 また、全ての子供達は無事救出され、現在療養中です。

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