PandoraPartyProject

シナリオ詳細

義賊も楽じゃない

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は、義賊2人と彼らのボスと一緒に貴族の邸宅に訪れていた。
「よく来てくれたね。座って座って」
 人の好さそうな気の抜けたオッサン、ペンウッド男爵がソファを勧めてくるので座る。
(んん~?)
 予想していたのとは違う気の抜けた空気に、ミルヴィは心の中で首を傾げた。
 彼女が今、ペンウッド邸に居るのは、義賊な2人――ガイとオドのことが気になったからだ。
 義賊として盗みをしているらしい2人を放っておくと、いつか死ぬんじゃないかと思っている。
 しかも彼らのボス、商人であるリリスとヴァンは、世界平和が目的だという。
 どう考えても死にフラグが満載である。なので2人が死なないよう――

「仕方ないっ、二人が心配だし義賊の仕事手伝うよっ♡」

 と言ったのだ。するとリリスが――

「なら、ちょうど良かったわ。近い内にひとつ仕事があるの。今回の仕事は、私達のパートナーも関わってくるんだけど、彼の家で話をするから一緒に来ない?」

 と返され、今日ペンウッド邸に来ている。
(貴族が、義賊の親玉ってこと?)
 向かう場所を聞いて警戒しつつ予想を立てていたミルヴィだが、想像していた『貴族として義賊を操る黒幕』とは、目の前のオッサンは掛け離れている。
(ものすごい、狸オヤジだったりして)
 などと警戒していると、ペンウッドは言った。
「今日来て貰ったのは、仕事の件と、あとは君に少しでも安心して貰おうと思って来て貰ったんだ」
「……どういうことですか?」
 訝しげに聞き返すと、ペンウッドは応える。
「リリスさんから聞いたけど、君は2人のことを気に掛けてくれてるんでしょ? ありがとう」
 おっとりとした笑顔を向け礼を言って来るペンウッドに、ミルヴィが虚を突かれたように調子を崩すと、彼は続けて言った。
「そんな風に気に掛けてくれる子を心配させたままなのは、私達も気になってるんだ」
「そうだぜ」
 ペンウッドに続けて、義賊の1人であるガイが言った。
「心配してくれるのはありがとな。でも俺らだって、ミルヴィのこと心配してんだぜ」
「そうだな」
 ガイに続けてもう1人の義賊、オッドも言った。
「なし崩し的に、こっちの都合に巻き込んでる形になってるからな。それで怪我でもさせたらって思うと……」
 渋い顔をするオドに、ミルヴィは明るく返した。
「大丈夫! アタシは強いんだから!」
 そして少しだけバツが悪そうに言った。
「でも、そういう風に思ってたんだ……」
「そりゃ、若い娘を荒事に巻き込むかもって思ったら、私達みたいな年を取ったのは気にするものよ」
「年を取ったのって……リリスさんって、そんな風には見えないけど」
「少なくとも100歳は超えてるわよ、私。元の世界だと、100人以上娘もいるし」
「え……」
 リリスはウォーカーだが、見た目は幻想種なので、ひょっとしたら見た目よりも年齢が上かもとは思っていたが、予想していたよりもかなり上だ。
 などと驚いていると、リリスは続けて言った。
「ちなみに一番の年寄りはヴァンね。元の世界合せれば500歳超えてるらしいから」
「まぁ、貴女達からすればジジィだという自覚はありますよ」
 リリスの言葉を引き継ぐように、ヴァンが言った。
「というわけで、私もリリスさんも、それなりに生きてるので、色々と図太いですし強かですよ。無茶をして死ぬ気はないですし、貴女やガイやオドみたいな若い子を死地に送る気は、さらさらありません」
「だから安心して欲しい、というのも難しいかもしれないけど、少なくとも準備を整えた上で動くから、心配しなくても大丈夫だよ。その辺りは、今回の仕事の内容も聞いて判断して欲しいんだけれど――」
 ペンウッドがミルヴィに話していると、ドアをノックする音がする。
「入って良いよ」
 ペンウッドの許可を受け入って来たのは、家令である初老の男性。
 そして10代半ばの可憐な少女だった。
「旦那さま。エリザベスさまが御出でになられましたので、お通ししました」
「ありがとう」
 ペンウッドは家令の男に礼を言うとソファから立ちあがり、エリザベスを招く。
「よく来てくれたね、エリー。今ここに来てくれているのは、今回の件で協力してくれる人達だよ」
 話を聞いたエリザベスは、ミルヴィ達に身体を向け挨拶する。
「エリザベスです。今日は私の家の騒動に関わらせてしまい申し訳ありません。どうか、よろしくお願いします」
 涼やかで、けれど愁いを帯びた響きのある声だった。
 本来なら人目を惹くような整った顔立ちをしていたが、今は憂いと悲哀に沈んでいる。
 深窓の令嬢といった雰囲気を漂わせているエリザベスに、ミルヴィは元気付けるように明るい声で言った。
「こんにちは。私はミルヴィ。立ち話も疲れちゃうし、座っちゃおう」
 ミルヴィの呼び掛けに、エリザベスは礼を返すとソファに腰を下ろす。
 全員が座った所で、ペンウッドが言った。
「彼女の家の宝物庫から、美術品を盗み出して欲しいんだ」
「どういうことなのカナ!?」
 驚いて説明を求めるミルヴィに、ペンウッドは返す。
「それについては、これから説明するよ。エリー、詳しいことを、全部話しても良いかな?」
「はい。危険を承知で手を貸していただける皆さんに秘密にしておくことは出来ません……家族のことも含め、お話下さい」
 エリザベスの返答を聞いてから、ペンウッドは説明を始めた。
「少し前、彼女の家族は全員、魔種に殺されたんだ」
 息を飲むミルヴィ。その間も話は続く。
「それからしばらくは、当主の引継ぎや葬儀で忙しかったんだけど、それが落ち着いて来た頃に、エリーの家に大金を貸したという証文を持って来た奴が出たんだ」
 僅かに荒くなりかけた口調を戻し、続ける。
「証文を持って来たのはカール伯爵。エリーや私の家より、家格も血筋も上の貴族だ。そして伯爵が持って来た証文は、でっち上げられたものなんだ」
「それって……偽の借用書を作って持って来たってこと?」
 ミルヴィの問い掛けにペンウッドは応える。
「法的には合法だよ。どれだけ調べても伯爵が言うような大きなお金の流れは、エリーの家には無かったけどね」
「……」
 ミルヴィが考えを整理する様に沈黙する中、状況の説明は続く。
「証文に使われた家紋や筆跡、これは本物だった。けれど状況的に考えて、明らかに偽物だ。でも相手がカール伯爵の持って来たものだから、真偽を確かめることすら出来ない。向こうにゴリ押しされて終わりだからね」
 血統主義が第一な幻想に置いて、血筋や家格が上の者と対等に渡り合うこと自体が難しいのだ。
「カール伯爵の持って来た証文は偽物だけど、本物として認められる形式の全てを満たしている以上、それは『本物』でしかないし、払わないといけない。けれど今、エリーの家には、証文に書かれているような大金を払うだけの余裕はないんだ。だから担保として、宝物庫にある美術品を渡せと迫っている」
 家族が魔種に殺され、間を空けず身に覚えのない借用書が出て来る。
 それは明らかに偽物だが法的には本物で、しかも相手は上位の貴族なので反論することすら難しい。
 払うお金は無いが、ならば代わりに秘蔵の美術品を差し出せと突かれている。
 それが現在の状況のようだ。
「幸い、証文の担保に指定されているのは宝物庫にある美術品だけだから、これが無くなれば、他の物を強引に取り上げることは出来ない。だから一時的な緊急避難になるけれど、こちらで美術品を盗み出して、伯爵に取られないようにしたいんだ。ただし問題は、宝物庫を伯爵の手勢が固めていることだよ」
「なんでそんなことになってるのカナ!」
 憤るようにミルヴィは言った。
「その、なんとかって伯爵がエリーの家にいるは、おかしいじゃない」
「伯爵はエリーに求婚しているから、最近は入り浸ってるんだよ」
「なにそれ」
 鳥肌が立ちそうな顔で心底嫌そうに言うミルヴィに、ペンウッドは説明する。
「借金がある若いエリーが当主として領地を差配するのは無理だから自分が代わりにしてやろう、というのがアレの言い分だけどね。実際の所は、領地の乗っ取りが目的だよ」
 ペンウッドは話していて腹立たしくなったのか、気持ちを落ち着かせるように一拍置いてから話を続ける。
「エリーの家は、芸術家や、それに類する職人に篤い保護をしていた家でね。最初は形にならなかったけれど、最近ようやく軌道に乗って来て、これから貿易などで多くの富を生み出せるようになってるんだ。領地の職人たちは、エリーの家から援助をして貰っていたから、他の土地では製造しない契約を結んでいる。だからこれから先、大金を生み出す多くの職人を好きに使うには、エリーと結婚して領地を自分の物にするのが一番手っ取り早いということさ。ついでに言えば、エリー自身も目的だろうけどね」
「どういうことなの?」
 嫌な予感がして聞き返すと、ペンウッドは嫌悪感を滲ませ応えた。
「伯爵は、エリーみたいな少女が好きな男でね。数年前からエリーの両親には申し出ていたし、エリーの屋敷に入り浸っている今じゃ、何度か襲おうとしたぐらいだよ。幸い、難を逃れてるけどね」
 話を聞くと、まだ十代前半のエリーを社交界で見つけ、エリーの両親に自分の元に嫁がせるように言ったらしい。
「馬鹿なのカナ!」
「ホントにね」
 ミルヴィの言葉に同意したリリスは言った。
「頭が膿んでる奴だけど、法的には借金の貸主だし血筋や家格も上だから下手に追い出すことも出来ないのよ。だから、家にゴロツキまがいの伯爵の手下が居ても追い出すことも出来ない。でも、だからこそチャンスね」
 リリスは、悪い笑みを浮かべ言った。
「伯爵の手下が守っている状態で盗み出せたなら、そいつらが証人になるもの。そのあと持ち出した美術品は、私達の方で預かって、貸し出す資金の担保にさせて貰うわ」
「お金、貸すってこと?」
 ミルヴィの質問にリリスは応える。
「ええ。調査させて貰ったけど、今の状況だと領地を回していくお金が足りないわ。だから領地立て直しの名目で、ペンウッドを仲介して貸し出すの。これなら、目的以外でお金を使えない契約に出来るから、伯爵が持って行こうとしても無理よ。貸したお金を回収する名目で、うちから経営に慣れたのを派遣することも出来るから、人材の援護も出来るわ。万が一、それで巧くいかなくても、預かってる美術品を外国――海洋とかに売るルートは持ってるから回収できる」
「……巧くいかなかったら売っちゃうんだ」
「そうよ。でないと、誰かが路頭に迷うことになるもの」
 ミルヴィの言葉に、リリスは返した。
「私達は感情で動いてるけど、それだけだと巧くいかないから。打算もないと、長く続かないもの」
「善行するにも、お金は必要だからね」
 ペンウッドは、リリスの言葉を引き継ぐようにして続ける。
「とにかく、そういう訳で、エリーの家の宝物庫から美術品を盗み出す手伝いをして欲しいんだ。宝物庫は伯爵の配下が守ってるから、彼らを制圧して貰う必要がある。あとは――」
 ペンウッドがエリザベスに視線を向けると、彼女は頷いた。
「私は、大丈夫です。皆さんに危険なことをさせておいて、自分だけが安全なままでいようとは思いません」
 彼女の応えを聞いて、ペンウッドは言った。
「当日、エリーと伯爵が2人きりになる状況を作る。間違いなく彼女を襲うだろうから、助けてあげて欲しい」
「何でそんなことさせるの!?」
「伯爵に弱みを作らせるためだよ」
 ペンウッドは説明した。
「求婚した相手の家の財産を守るために部下を手配していたのに護れず、しかも自分は同意のない相手を無理やり襲おうとしたけど、その途中で、盗賊に捕まって拘束された。そうした状況を作る。そうなれば、かなりの恥だからね。貴族社会で、こうした恥を持ってること自体が弱みになる。それを利用してエリーから遠ざけるつもりだよ」
「……」
 考え込むようにして無言になるミルヴィに、ペンウッドは言った。
「当日は、私もエリーの家に訪れて『証人』になるよ。その上で、伯爵と交渉する。今回の件を外部に漏らさない代わりに、金の取り立ては待ってくれと。脅す形になるから、向こうの敵意は私に向かうけど、そうなれば儲けものだ。私に、ちょっかいを出して来るだろうから、そこから少しずつ切り崩していく。関わっている犯罪組織も、引きずり出したいからね」
「犯罪組織?」
 聞き返すミルヴィに、ペンウッドは説明した。
「奴隷にされそうになった子供達を、君たちが助け出してくれたことがあっただろう? その時、奴隷商人を捕まえて貰ったけど、それを釈放させるのに伯爵が手を回したらしい。奴隷商人と伯爵には面識が無かったけど、仲介をしたのがビブリオっていう犯罪組織なんだ。こいつらは、うちの領地で薬を蔓延させようとしてたみたいでね。そんな奴らを放置する気はないから、そいつらを引っ張り出す切っ掛けにするためにも、今回の件ではローレットに人手を頼むつもりだ」

 ペンウッドは言葉通り、その後ローレットに依頼を出すことにしました。
 法的には、伯爵に問題が無いので、今回の依頼は悪依頼に。
 事情を知った上で、依頼を引き受けたイレギュラーズ達は、美術品の眠る屋敷へと向かうことになった。

GMコメント

おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
15本目のシナリオは、アフターアクションで頂いた物に、他のシナリオの結果も加味して作った物になります。

そして、以下が詳細になります。

●成功条件

伯爵の手下を制圧したのち拘束し、宝物庫から美術品を指定の場所に持ち出す。
伯爵に襲われている少女を助ける。

●状況

今回は、以下のような流れになります。

1 夜の10時に、舞台となる屋敷に侵入。同行するNPCがカギ開けをしますので、その後に入ることが出来ます。

2 宝物庫に繋がる大部屋に伯爵の手下がいますので、全て倒し拘束する。

3 美術品を屋敷の外にある馬車に運び出すチームと、伯爵に襲われている少女を助け出すチームに分かれる。

多少、順番やらは変わっても構いません。

●舞台

戦闘の舞台となる大部屋は、大人数で立ち回るには多少手狭です。
大部屋に通じる廊下に引き寄せて戦ったりすることも出来ますし、あるいは、大部屋で混戦状態で戦うことも出来ます。
自由に、プレイングにお書きください。

少女が伯爵に襲われている舞台となる部屋は、来客用の部屋です。
そこの長ソファで、少女が伯爵に押し倒されて襲われそうになってます。
伯爵をぶっ飛ばし、拘束して転がすなりしましょう。

なお、PCが来るのが遅い場合は、同行するペンウッドが先に単独で部屋に訪れて助け出している状況でリプレイが進みます。

舞台となる屋敷の内部については、事前に見取り図を見せて貰うので、内部で迷うことはありません。

●敵

伯爵の手下×10

そこそこの強さ。近距離と中距離の攻撃手段を持っています。
回復役もいますので、場合によっては戦闘が長引く可能性もあります。

伯爵

40過ぎのオッサン。
腐った幻想貴族です。
16才の少女を襲うような奴ですが、本人は「私の物にしてやるのだから嬉しいだろう」とか本気で言うような輩です。
生まれつき地位がある家に生まれて、色々と勘違いしたまま成長して腐った。

●味方

ガイ

義賊です。左腕が義手で、それを使ってカギ開けが出来ます。
戦闘に関しては、L40ぐらいの強さです。回復手段は無いです。
仮面を着けています。

オド

義賊です。
戦闘に関しては、L40ぐらいの強さです。回復手段持ちです。
仮面を着けています。

ペンウッド

依頼人です。
当日は、エリザベスの後見人についての話し合いをする名目で屋敷に訪れています。
証人役で来ているので、伯爵に襲われているエリザベスを助ける時は、拘束した状態で現場に連れて行って下さい。
エリザベスを助けに向かうのが遅くなる(大部屋での戦闘に手間取る)場合は、先に単独で助けに向かっていますので、ペンウッドも伯爵と同様、多少殴るなりなんなりして、制圧する振りをした後に拘束する必要が出てきます。
この状態になっても、失敗にはなりません。
ペンウッドが、痛い目を見るだけです。

エリザベス

屋敷の若き当主。16才。
色々とあって顔色が悪いが、慣れない化粧をして誤魔化してる。
PC達が屋敷に訪れる時間に合わせ、伯爵を話があると部屋に誘い出します。
伯爵に襲われますが、必死に抵抗しますので、多少の時間は自力で稼ぎます。

●その他

今回の依頼では、つけると30分ほど、相手に自分の特徴を覚えづらくなる仮面を渡されます。
あくまでも覚え辛くなる程度の効果ですので、記憶が無くなるとかの強力な効果はありません。
時間が掛かり過ぎたり、仮面を外したりすると、顔などを覚えられてしまうことがあります。
依頼終了後は、証拠隠滅のため回収されます。

●情報精度

このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。

説明は以上になります。

それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • 義賊も楽じゃない完了
  • GM名春夏秋冬
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
皇 刺幻(p3p007840)
六天回帰
玖珂・深白(p3p009715)
キリングガール

リプレイ

 夜闇の中を、イレギュラーズ達は馬車に揺られ現地に向かう。
 道中の時間を無駄にしないよう、手順や状況の詳細を聞いていた。

(やること多い上に時間制限まであんのかよ、面倒臭ェ依頼受けちまったなァ……)
 話を聞いて気怠げな表情を見せるのは『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)。
 悪名千里を走らせる彼女としては、意気が乗るような面白さを感じられない。
 とはいえ、考え方ひとつで旨味を見出すぐらいはお手の物。
(……いや、エリザベス嬢に恩売っとけば、後々美術品の交易で儲けられる、か? そう考えりゃアリだな。おし、やる気出てきた!)
「楽しそうだねぇ、姐さん」
 笑みを浮かべることほぎに、同行する義賊なガイが声を掛ける。
「何か美味そうなものでも見つけたかい?」
「知りたいか?」
 刃物めいた、鋭くも艶然とした笑みを浮かべることほぎ。
 これにガイは、ぶるりと身体を振るわせる。
「おっかねぇ。聞いたら食われちまいそうだ。だから聞かねぇ。黙って手を動かすよ」
「手癖が悪そうなこと言うじゃねぇか」
「ひひ、ガキの時分に仕込まれたんでねぇ。それなりに」
 指を曲げ、掏りをしていたことを暗に示す。

 どこか探り合うような言葉を交わしつつ、今回のターゲットとなるカール伯爵についても話が上がる。

「絵に描いた様な下衆が居たものねえ」
 ため息をつくように呟いたのは『春疾風』ゼファー(p3p007625)。
「……まあ、こういう国だとはよーく知ってましたけど?」
 幻想で依頼を受けていれば、うんざりするほど気付かされる。
 だからといって、そういうものだと素通りする気にはならない。
 そんな彼女に、同行する義賊なオドが声を掛ける。
「あの時の子供達は、ちゃんと安全な場所で過ごしてるよ」
 以前の依頼で、奴隷にされそうになった子供達をゼファーは助けたのだが、連れて行ったのがオドとガイ。
 その時に、子供達を気に掛けてくれたゼファーに一言伝えたかったようだ。そして続けて――
「依頼とはいえ、悪いな。こういった仕事をさせて」
 気遣うように言ったオドに、ゼファーは苦笑するように応えた。
「良いじゃない。偶には正義の味方を気取ってみるのも。こうでもしなきゃ、始末出来ない小悪党ってのもいるんですからね?」

 小悪党。
 まさに、その通り。
 とはいえ、小悪党だろうと出て来る話は気の滅入るような物ばかり。

「聞けば聞くほど気分の悪くなる話だな」
 依頼内容を聞いた『若木』秋宮・史之(p3p002233)は苦々しげに呟き、思う。
(いやはや義賊も楽じゃないって本当だね。けど腐敗した貴族ほど面倒なものはないから、このくらいのお膳立てが必要なんだろうね)
 それだけ、権力者相手に事を起こすのは面倒なのだ。
「ガイさん、オドさん、今回はよろしく。昨日の敵は今日の味方だね。背中は頼んだよ」
 以前の依頼では素性のしれない2人だったが、今回は違う。
「ああ、全力は尽くす」
「誰も彼も頼りにしてるぜ」
 応える2人に史之も返し、今回のターゲットである伯爵をどうしてやろうかと考える。
「再起不能に出来ればいいんだけど、まずは余計なことを出来なくさせるのが先だね」

 史之の言葉に返すように、『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)が続ける。

「弱みを握れる証拠を作る必要があるね。それにしても……場を整えるだけで確実に狼藉の証拠が取れるという確証が持てるほどの悪玉とは、なんともはや」
 呆れたように言うと、意気込むように続ける。
「正直この手で頸を刎ねたいところですが、なんにせよ収まるべきところに収まってもらうのです」
 殺意はなく。けれど容赦する気もない。
「命だけは勘弁して差し上げるのですが、その命運は一つ残らず断ち尽くすのです!」

 クーアの意気込みに、同意する様に『廻世紅皇・唯我の一刀』皇 刺幻(p3p007840)も言った。

「どいつもこいつも、殺さない程度にぶち転がせばいいんだろ?」
 そう言うと、同行している『新兵達の姉御』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)に苦笑するような視線を向け、続ける。
「ロリコンの伯爵はもとより、ミリーもミリーで毎度面倒事に巻き込まれてるな」
 刺幻にとって姉貴分な彼女は、今回の依頼主から直接話を聞いている。
「微力ながら力を貸そう。殺さずに済ますところが面倒だが、そこはやり方次第だ」
 刺幻の言葉に、ミルヴィは頷くと、具体的な手順を皆に提案する。

 戦術を組み終り、現地にもあとわずか。
 そこで認識阻害の仮面を手渡される。
 今回の依頼に参加するイレギュラーズ達が、余計な恨みを買わないようにするためのものだ。
 それを楽しげに受け取るのは、『奏でる記憶』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。

「うおおーっ!? なんか仮面まで用意してもらっちゃって本格的じゃん! 何? 何? なんか新鮮で良き良きだな!!!」
 真新しいアトラクションに参加するような勢いで盛り上がる。
 そんな彼女に、ガイが笑みを浮かべながら言った。
「喜んで貰えたなら何より。とはいえ、あとちょいで着くから、そろそろ隠密行動開始だぜ」
「え? いま夜だし声出しちゃダメ? あー、そうだっけか。めんごめんご」
「ひひ、まだ少し余裕があるから大丈夫さ。その勢いで、仕事は頼むぜ」
 気安い声で返す秋奈に、笑みを浮かべながらガイは応えた。

 そして現地に到着。

「さて、作戦開始ね。頑張りましょう」
 皆と共に馬車から降りて、『キリングガール』玖珂・深白(p3p009715)は仮面を手にする。
(細かい事情はよく分からないけど人助けなら遠慮は要らないわね。ふふ、アタシこーゆーのは好きよ)
 ミッションスタートとばかりに、手にした仮面を着けようとする。
 のだが、眼帯の上から仮面を着けようとしているので上手くいかない。
(これは、こうして……これで良し!)
 潜り込む屋敷の裏手口に向かうまでに仮面を着けて、いざ義賊の開始。

「――開いたぜ」
 ガイが義手の指先を液状化させ鍵穴に差し入れると、音もなく開く。
 そこから先は無音で最初の目的場所に。
 伯爵の手勢が集まっている大部屋。
 作戦は、すでに決まっている。
 初動から手際よく、まずは敵を誘い出す。

(大丈夫。行けるよ)
 アイコンタクトでゼファーはミルヴィと意思疎通。
 彼女のファミリアと一緒に先行しての斥候の後に、敵を引っ張り出すのがゼファーの役割。
 忍び足で足音を消して近付き、ファミリアが大部屋に侵入。
「あ? おい、ネズミが居やがるぞ」
「はぁ? 潰しとけ」
 ファミリアが敵の気を引き、一箇所に集める。
 物陰に隠れ気配遮断状態で機を窺っていたゼファーは、好機を逃さず一気に仕掛けた。
 扉を開け、部屋に侵入。
 手近な花瓶を掴むと問答無用で投げつける。
「がっ!」
「なんだ!?」
「こっちよ! ゴロツキ!」
 名乗り口上を使い、敵の注意を引きつけた所で部屋の外に全力疾走。
「待てコラッ!」
 怒りで我を忘れ追い駆けて来る敵達。

 そこを挟撃した。

「先制攻撃ーっ!」
 敵の戦線が伸び切った所で、横手から秋奈がキツイのを一発。
 防御力を破壊力に変えるアイアースによる無双の防御攻勢。
「がはっ!」
 敵が思いっきり崩れ落ちた所に、容赦なく連撃。
「死なない程度にぶっとばーす!」
 蹴戦で敵の胴を薙ぎ払い、文字通り吹っ飛ばす。
 そこからさらに、止めの一撃を叩き込みに走る。
 追撃を恐れ敵は逃げようとするが、先んじて椿姫の刀を振るう。
 抜刀と共に放たれた斬撃の威力は、燕の形となり飛翔。
 無慈悲に切り刻み、戦闘不能へと追い込んだ。
「なっ! 他にも居んのか!」
 いきなり味方が倒され驚く敵。
 そこにゼファーが攻撃を重ねる。
「ミスディレクションって知ってる?」
 混乱する敵が固まっている所に跳び込み、H・ブランディッシュ。
「貴方達みたいな三下なら必ず引っ掛かってくれる種って奴よ!」
 再び叩きつけた名乗り口上で敵の注意を引きつけ、味方のアシスト。
 その好機を逃さず、皆は畳み掛ける。
「そこそこ本気で行きますので、くれぐれも死なないでくださいね?」
 クーアは狙いをつけ、ふぁーれを放つ。
 床を這うように光弾が飛び、敵の1人の足元を強かに撃ちつけた。
「ちっ!」
 痛みを無視し体勢を整えようとする敵。
 しかしクーアの踏み込みの方が速い。
「命運どころか命脈まで奪われたくないのなら――」
 近接の距離まで跳び込み、天井に跳ね上げる勢いでデッドリースカイを叩き込む。
「がぁっ!」
 敵は防御を取るも、デッドリースカイの威力で宙に浮き体勢が崩れる。
 そこへ追撃を叩き込んだ。
「――歯を食い縛って耐えてみせるのですよ?」
 敵の横っ腹に、ながれぼしを放つ。
 まともに受けた敵は、流星の如き勢いで壁に叩きつけられた。
 イレギュラーズ達の畳み掛ける攻撃を敵は捌き切れない。
 不意打ちで混乱し統率も取れない中、史之が制圧の刃を振るう。
「警備ごくろうさま、おつとめの本分を果たし給えよ」
 史之が刃を振るう敵は、皆の不意打ちから零れた相手。
 既に気絶した仲間を回復させるべく動こうとした敵の前立ちはだかり、雷の煌めきの如き一閃を放つ。
 ギガクラッシュ。
 全身の力を雷撃に変換した一撃は、撫で斬ると共に感電させた。
 それでも動こうとする敵に、追撃の斥力発生。
 命を狩りとることなく、意識だけを落として見せた。
 次々、伯爵の配下は倒されていく。
 その勢いを加速する様に、ことほぎは暴威を振るった。
「本命はこの後だ」
 狙うお宝を邪魔する相手など、勝手に自滅でもしてれば良い。
「魔女の呪いを食わせてやるよ」
 魔弾ミスティカを放つ。
 脳天を撃ち抜いた一撃は、肉のみならず魂に浸食。
 呪いに魂は捕らわれて、我を失い同士討ち。
 そこに容赦なく追撃。
「死んだか? いや、死んでないよな、多分」
 死ななきゃそれで良いとばかりに、攻撃を叩きつけていった。
 イレギュラーズ達の連携攻撃に、敵は総崩れ。
 逃げ腰になる敵に、刺幻は逃がさぬとばかりに追撃を加えていく。
「安心しな、足一本で今日は勘弁してやっからよ……!」
 灰空に沈むヴィバルディにより生み出されたヴァイオリンの虚像を婆娑羅で奏で、斬撃領域に敵を包む。
 宣言通り片足を斬り裂き動きを鈍らせた。
 そこに横手から敵が襲い掛かって来るが、動きを読んでいた刺幻はイーヴィルクローで迎撃。
 闇の爪で斬り裂く。
 傷付き倒れ伏す敵を、回復させようと動く者も。
 それをさせじと、深白が走る。
「させない!」
 敵のリーダー格にドロップキックを食らわせた深白は、回復に近付く敵に向けダッシュ。
 同時にシャドウイグジスタンスを発動し、残像のように影を展開しながら動き敵を惑わす。
「クソッ!」
 幻惑され狙いの定まらない敵の一撃を避けるとソーンバインド。
 指先から延ばした魔性の動きで縛った。
 攻撃に転じる間も動きは止めていない。
(『混沌肯定』のせいか結構打たれ弱くなっちゃったから攻撃はなるべく避けなきゃてけないけど――)
「ま、当てられないでしょうけどね!」
 間合いを意識して動き攻撃を避けていった。

 不意打ちを成功させたイレギュラーズは終始優勢に動き、瞬く間に制圧した。
 ここで二手に分かれる。
 一方は、制圧した敵の耳と目を効かなくした状態で拘束し宝物庫に。
 もう一方がエリザベスの助けに向かう間に、拘束を終わらせた美術品運搬班は宝物庫に入る。

「んーと、これとこれと……あれもそうね。こっちのは……写真かしら? 額縁は高そうだけどやけに手入れされてるわねぇ……」
 深白は目利きをしながら物色し、仲間から頼まれたことも思い出す。
「そういえば、『出来ればエリザベスの大事にしてそうな物には手を付けないで欲しい』って言ってたわ」
「そうだぜ! 出来ればエリーちゃんの大事にしてそうな物はパスね!」
 応えるように返した秋奈に同意して、深白は選別を進める。
「じゃあこれはパスね」
「そうしようぜ! あとは、なーんか伯爵の余罪とか、掘り出し物とか見つけられそーだし、そっちのほうも探しちゃおうぜっ!」
 そう言うと秋奈は、めぼしい物を次々運ぶ。
「うりゃりゃっ!」
 次から次にパワフルに運び、ついでに拘束した伯爵の配下達の所持品も取り上げ持って行く。
 同じように深白も運び出す。
「あ、壺の運び出しはお願いするわ。アタシが運ぶと高確率で2つに増えるよのね……わざとじゃないのよ? 本当よ?」
 これにオドは返し、壺を受け取り運んでいく。
 素早く運ぶイレギュラーズだが、中でもひときわ速いのはクーア。
(複数回の往復が必要な状況であれば、ねこたる私の脚が役に立つのです)
 まさしく猫の如く足音も無く、瞬く内に運んでいく。
 とはいえ、速さで言えば彼女以外も目を瞠る。
(……脚が速いといっても、ことほぎさんと同等くらいなのですが。ときにねこの脚を凌駕するとは、相変わらずどうなってるのですあの人)
 気付けば自分に匹敵する速さで美術品を運ぶことほぎに、肩を竦めるように胸中で呟いた。
 一方ことほぎは、宝物庫以外の目ぼしい物も物色している。
「他の金目のモンも盗んどきゃ、目的を悟られにくくてイイんじゃね?」
 そう言って、宝物庫以外の金目の物も運んでいく――
 ついでに、ちょろまかす。
(物色して懐に入れよ。宝石とか良いね)
 精緻な細工のされた指輪をくすね、素知らぬ顔で残りの美術品を運ぶ。すると――
「姐さん、手癖が悪いねぇ」
「テメェが言えた義理じゃねぇだろ」
 いつのまにか、くすねた筈の小物を手にしたガイに、ことほぎは呆れたように言った。
「狡すっからい小悪党だな。残業手当ぐらい寄こしやがれ」
「ひひ、生憎と狡すっからいんでね、こっちは。大盤振る舞いは勘弁してくれ」
 その後も、くすねることほぎと、その度に掏るガイの攻防が続くのだった。

 美術品の運搬が続く中、エリザベスの元に残りのイレギュラーズは辿り着いている。

「嫌! 止めて下さい!」
「騒ぐな。私の物にしてやろうというのに」
 扉越しから聞こえてくる悲鳴に、蹴破るような勢いで部屋に入る。
「はいはい。正義の味方参上よー」
 ゼファーは真っ先に踏み込むと、エリザベスに圧し掛かろうとしている伯爵の尻を容赦なく蹴っ飛ばす。
「ぎゃあっ!」
 蹴り上げられ、痛みでソファから転げ落ちる伯爵に、史之が間髪入れず追撃。
「花を手折っていいのは、花に選ばれた人だけだよ」
 斥力発生を叩き込み、逃げられないようボコる。
「ひっ、ひぃぃ……き、貴様ら、この私にこんなことをして、ただで済むと思っているのか」
 情けない声を上げながら、虚勢を張る伯爵。
「ただで済まないのは、アナタの方でしょ」
 逃げようとする伯爵の背中を踏みつけ、ゼファーは言った。
「伯爵サマの悪だくみは全部御破算。今日でお終いってワケ。明日からどう慎ましく生きて行くか、今の内に考えておきなさいな?」
 ゼファーの言葉に、伯爵は一瞬、息を飲むような間を空けてまくしたてる。
「悪巧みだと!? 貴様ら如き盗賊が何を言う! 誰か! 誰かおらんのか! 助けろ! 助けんか!」
 喚き散らす内に、拘束されて部屋まで連れた来られた、というように見えるペンウッドに口汚く言う。
「ペンウッド! 何をしておる! この愚図の役立たずが!」
「とりあえず黙っとこうか」
「がふっ!」
 聞くに堪えないので、史之は再び斥力発生を叩き込み気絶させた。

 その後、エリザベスたちも被害者であるよう工作。
 拘束した上で、一階の広間に全員を集め転がす。
 そこで刺幻が仕掛ける。

「旦那と何話してたんだい? ちょっと話聞かせなって」
 エリザベスを訊問する風を装って、伯爵のやらかしを話させる。
 凶悪な賊のように振る舞うと――
(……やべ、悪役楽しい)
 面白くなってくる。
 とはいえ楽しんでいる場合ではないので、気絶した伯爵の頬を叩いて起こして言った。
「ビブリオの雑魚共に伝えろ。貴様らの力じゃ遠く及ばない、文句があるなら攻めてこいってな」
「っ! き、貴様、それはどういう――」
「ていっ」
「はぅっ」
 とりあえず顎を撃ち抜いて脳みそを揺らし、再度気絶させた。

 その後、皆は屋敷を後にする。
 ペンウッドの拘束だけゆるくしているので、あとのことは彼に任せその場から離れる。
 周囲の警戒もしながら移動。美術品の乗った馬車を協力者であるリリスとヴァンに渡し、依頼を完遂させるイレギュラーズ達であった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした!

皆さまの活躍で、伯爵はボコられ、エリザベスも一先ずの危機を脱しました。
ボコられた伯爵は怒り心頭でしょうが、誰にやられたのかが分からないので地団駄踏んでます。
その代り八つ当たりとして、犯罪組織であるビブリオにどうにかしろと泣きつくでしょう。
組織の首領は、他の領主の所で悪巧みしてる最中ですが、こちらの方でも悪だくみをする事でしょう。

その辺りのシナリオも、少しずつ出していこうと思います。

それでは最後に重ねまして。
皆さま、お疲れ様でした。ご参加いただき、ありがとうございました!

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