許

オープニング

●光はない
　どうしてなんて問うても答えが出るわけでもなし、ただその手は虚空に伸ばされたまま落ちるばかり。例えば英雄的願望を持った誰かが無謀に飛び込んできたとしても、彼ら彼女らが囲まれているような時点で救われるわけではないのだ。

　あなたはヒーローだった。

　ただ何かの理由があって、何かの原因があって、何かが逆鱗に触れて。そうした原因で理性がはじけ飛んで、刃を振るわざるを得なくなったのだ。そうだろう？
　でないと君の足元の血だまりは、肉片は、遺体は、亡骸は。
　説明がつかないことになってしまうじゃあないか！
　幸いなことに、君の怒りを、悲しみを拭ってくれる『敵』たちはまだ君にご執心のようだ。殺意を剝き出しに、眼光は鋭く呼吸は荒い。唯君を殺すことを目的にしているからだ。
　彼らにとっては足元に転がるのは『仲間』であったり、『友』であったり、『愛するひと』であったのだろう。だけれども、君はそれを知らないし知る必要もない。君も奪われているから。
　そうだ。
　殺せばいい。
　強くなければ正しいと示すことは出来ない。間違っているとも。何もかも！
　あなたが武器を握る理由はそれだけでいい。殺したいと、滅ぼしたいと願うもそれだけでいい。
　たったそれだけのちっぽけな想いの為に。

　殺せ。

●ひどく悪い夢
「その物語は凄惨な現場が広がっているようでね。苦しいとか、怒りとか。そういった感情だとか想いを剥き出しにさせるような文が綴られているらしいんだ」
　知りたくもないけれど、と小さく零したカストル。片割れたるポルックスがいないのは幸いか贖罪か、彼にとって正しくそれは幸運に違いない。
　けれども。状況は変わりはしない。あなたは人を殺したという気持ちを体感することになるのだ。
「手を汚す覚悟を問われることになるのかな。どうしてそこまでの文を綴ったのか、気になるところではあるんだけれど」
　カストルは本を開かない。一見すれば只のノートにも見えるそれを、開くことはしない。頑なに。
「ただ、君が行きたいのなら、それを送り出すのが僕たちの役目だからね。止めはしないけれど、忠告だけはさせてもらおうかな」
　こつ、こつ、こつ。靴の音が響き、赤い目と見つめ合う。
「ただ、君は君のやりたいようにやればいい。無事に帰っておいで」
　はい、と手渡されたノートは、使い古されて薄くて。しかし、重みを感じてしまうような、そんなノートだった。

参加者 : 4 人

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参加者一覧（4人）

リプレイ

●
　なんてことをしてくれたのだろうか、あの糞（にんげん）は。
　此れじゃあ人を殺す度に罪が重なっていくじゃないか！

　魔法は存在する。が、先進国の殆どでは『つい最近まで』その存在が認められていなかった。あの研究機関が魔法の原理を科学的に解明したことで、魔法を利用した犯罪を罪に問うことができるようになった。
　魔法を利用した犯罪なんてわかりっこない。わかりっこなかったのに。
　軽微な罪であれば通常の犯罪者のように逮捕され、法の裁きを受けるだけで済んだ。
　が、彼女――『汚い魔法少女』メリー・フローラ・アベル（p3p007440）のように、数多の人間を殺している魔法使いは、その危険性を考慮して即射殺されてしまう。
（糞、糞！　全部あいつらのせいだわ、あいつらのせいよ！）
　指の爪を噛む。焦り。
「なにもかも、科学者（おまえたち）のせいよ！　お前たちが魔法の原理を解明しなければ、何人殺そうが無罪だったのに！」
　吠える雷撃。唸る火花。彼らは抵抗の余地すらなく嬲られていく。殺されていく。
「わたしが警察や軍隊に勝てないのも、科学で作られた銃火器のせいだ！　せめて死ぬ前にお前たち全員道連れにしてやる！」

　善良を装っている間に、世界各地ではたくさんの悪い魔法使いたちが『討伐』されていった。
　警察沙汰だけで済めば万々歳だ。
　だが、何日も警官や兵士から逃げ回り、身を隠しながら、魔法の原理を解明した研究チームの元に辿り着いたメリーの状況が示すように、そう簡単にいくほど事態は簡単ではなかった。
「こんな弱い奴らのせいで、わたしは死ぬの……？」
　許せない。許せない。許せない。
　殺してやる。殺してやる。殺してやる！！
　ぐちゃり。

　血だまりの海。赤い脚。返り血を拭う様に心の膿は拭えない。
　研究所にはもう誰も居ない。あるとするならば、肉片と虐殺の痕。
　赤い足跡だけが点々と続いていく。メリーの小さな足跡が。
　すべてを終えたメリーは此処を離れなくてはならない。殺されてしまう前に。早く。嗚呼。

　そして。

　空が、轟いた。

「飛行機？」

　白い軌跡を翻し。其れは、やってきた。

「違う。あれは……悪い魔女を退治するのに手段は選ばないってことね」
　光がはじける。
　メリーの身体を焼き尽くす。

　悪い魔女は、死ななければならない。
　魔法使いを殺さなくては。
　嗚呼、この世界が平和にならんことを。
　悪しき魔法使いに科学の制裁と、永遠の別れを！

●
　薄暗い。黴の匂いは反響する様に蔓延していた。そんな地下牢から日向の下へと野晒しに。痛む目を閉じることはなく、慄然と己――『L'Oiseau bleu』散々・未散（p3p008200）の信じた『民』達。
　歩け。告げられて歩いた彼女の進む身体を支えるのは首に繋がれた枷。躓いて転んだ躰を起こす為の腕は既に無く、義手がぐらりと不器用に傾く。
　しゃぼんの髪揺らし辿る断頭台への灯は、投げつけられる石の雨。
　其れこそが彼らの意思表示であるのだろう。彼らはとうの昔に心を捨てきっているのだ。下卑た嗤い声の共鳴が耳障りだ。嗚呼、煩い。

　だから。蹴っぽってやったんです。
　ぼくの首が欲しくて欲しくて堪らなそうな貌をした処刑人を。

　彼女の足は軽く。細く。だから男も気付かなかった。気を抜いていたと云えばあまりにも簡単だろうか。だが理由など其の程度で良かった。
　其の驚いた顔と云ったら！
　だから、彼女は駆けだした。奪った剣を口に咥え、面白半分に取り付けられた義手に握りなおした。断頭台は途端にステヱジへと変わった。

　銃声は告げる。王の、君臨だと。
　否。其れは再臨に、等しい。

　執拗に。何度も何度も何度も、美しい軌跡をなぞり、或いは辿るように彼女は剣を振るった。幾つもの失望と諦念を踏みつけて彼女は刃を躍らせた。
　其れは死への導き、最期の輪舞曲。ブルウの義手は漸く熱もつ雨を拭う。ほろほろと頬を伝っていた其れは雨ではない？　嗚呼、ならば泪だ。

　恐怖に逃げ惑い怯え、泪する子供に微笑みをかけてあげた。愛しい民よ、どうか怖がらないで。
　義憤に震え、握られた拳を斬り落としてやりました。どうかそんなに泣かないで。嗚呼、愛おしい。
　貴方に投げられたおっきな石は痛かったなあって、石で同じ所を殴りました。ほら、お揃い。嬉しいでしょう？

「ね、ほら。ぼくは一等、人をちゃんとに見ていたでしょう？」

　誰も答えない。其れは、王たる威厳の現れ？　No.
　彼らは怯えていた。等しく、王たる未散に。

「嗚呼そうだ、父や母と、同じ所へ送って差し上げませんと」
　咥内に銃身を捩じ込み順に撃つ。BANG,BANG,BANG!　如何でしょうか、しっかり狙えていますか。
　弾が切れたら、ただの鉄の塊になった其れで身体がひしゃげるまで、ちゃんと、殴打を。

　あなたさまが憧れた王が触れているのです。
　嬉しいでしょう？

　n度目の死に際、処刑台。此れにて、幕引き。

●
　『Re'drum'er』眞田（p3p008414）のご機嫌はナナメ。頭を掻きむしって、其れから、決めた。
　あの三人を殺そう。理由なんて、殺したかったから、とか。其れくらい。
　けらけら、きゃあきゃあと。くだらない会話で笑える、一般的な男女三人組が出会ったのは、不運に等しい偶然の確立。端正な顔立ちの青年は、口笛でも吹いていそうな軽やかなステップで女の背後に立ち、口を覆い、恋人にネックレスを贈るかのように恭しく、シンプルなナイフを突き刺した。
　まーだーだよー。
　逃がさない。逃がすつもりなんて、微塵も。最小限の動きで致命傷を与えていく。尤も、つまらないから口は利けるように。
　太腿の動脈と、足の腱を其々。
「あ、そうだ、自己紹介。うんうんそうだね、初めましてだね。俺はミッションを与えられたプレイヤーです。3人を殺せって。余程の恨みを買ったみたいで、どうもご愁傷さま」
　ぱっと。人のよさそうな笑顔を浮かべた彼の手に握られたのは、簡単に命を奪えるナイフ。
「ご愁傷さまって……そんなこと、許されるわけないだろ！！」
「だからって殺すことは…おっと、お説教ですか？　そういうのは聞き分けのいい子に言ってくださいね～。俺はあなた達の話を聞く耳は持ってないんで」
　うんうん、上出来だろう。
　そろそろ喋るのも苦しくなってくるころだ。煩いし、ちょうどいい。
「ひ、人殺しっ……な、なんで、なんでだよお」
「人殺し、か…。そう、そうだね。うん、そのとおり！　俺は実はもうずーっと前からそうなんだ。じゃあゲームオーバーね、お疲れ様！」
　振りかざす。
　屹度止血してやれば生きていただろう。屹度喋らせ続ければそのうちに死んでいただろう。
　だが、どちらも選ばなかった。
　眞田が、殺した。

　悪魔の亡骸を蹴る。
　人ですらないくせに人殺しなんて、つまらないことを言えたものだ。
「他にやりようはあっただろう、けど、」
　本当のことは知らない。誰が悪いとか、実はこうだったとかもあるかもしれない。
「…あーあ、どうして俺がキレた時にいつも青い花がいるんだろ。ネモフィラ？」
　責められている気がする。苦しい。
　風に揺れる青は問うた。本当にこれでいいの？　と。
「ま、だって俺は殺人鬼だし。これが正しいんだよきっと」

　深く考えたら楽しくないし、楽にもなれない。
　楽しくないのは、つまらない。
　だから。殺したことに、後悔もなにも。

「なにもないんだよね」

●
　『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル（p3p008599）の瞳は閉ざされていた。黒い布で。拒絶する様に。
　幾つもの骸を踏みつけにして。彼は、其処に有った。

　魂の抜けた器は焼かねば《死》の凝りが満ち、屍人となり果て

　形質の似た器を襲い

　運命の糸を喰らう

（あいつの器が穢される前に焼いた。俺にとって父母で兄姉で師で友人で…誰よりも近いのに遠い）
　心惹かれた者の死に魂が引かれ、共に墜ちるというなら、
「…そうしてくれれば良かったのに、」
　置き去りに、され、た。

　だから、喰った。
　器の燃えカスを。灰を。

　魂はどうか、往くべき処へ。灯火を灯して、導きに寄り添う。
　目隠し布で目を覆う。黄金の瞳は、総てを拒絶した。

　異端者をこの手で。
　復讐の炎は燃え盛る。
　我が神は復讐を肯定する。
　それは死者の安寧の為、生者が前へと歩み続ける為。
　毒で浸せ。
　毒で侵せ。
　毒で殺せ。
　溺れるように。

　血と肉で敷いた砂礫の道なき地を歩み続ける。足を取られたとしても、何度でも。
　身を焼く痛みは未だ終わらない紅い夢。囚われ続けたって、構わない。

　足りない、まだ足りない。

　魂が灌ぎようのない業に塗れようとも。
「一人でも多く…俺の器が砕け散るまで」

　祈りは叶う。
　願いは届く。
　どうか。

　お前の銀糸に比べれば。
　お前の瞳に比べれば。

　お前の痛みと比べれば。
　夕暮れの夜告鳥よ。仄、かな灯をともしたランプを掲げて、夜の訪れを告げ明けの予兆を知らせる夜告鳥は。
　もういない。

　消える。焦がれる。復讐の焔。
　未だ心を燻ぶり、燃やし続ける。
　お前の背を追って。折って。とどいたなら。どれほどよかっただろうか。

　幾つ敵を殺しても。
　幾つ骸を毒に染めても。
　まだ。まだまだ。

　たりない。

　殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して。

　そうするたびに。心の膿が化膿して、炎でちりりと疼くのだ。

　お前が此処にいないことが。
　初めて慣らした猛毒のように。
　苦しい。
　

成否

成功

状態異常

なし