PandoraPartyProject

シナリオ詳細

雪月風花

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 おめでとう。
 おめでとう。

 草花が歌い、喜び。風が言祝ぎを告げる。天からの陽気はそれらを優しく柔らかく照らし出した。
 春とヒトが呼ぶこの季節は、自然にとって目覚めの時期。世界が鮮やかに彩られる時でもある。そしてそれと同時に――。
「おはよう?」
「おはよう!」
「ありがとう!」
「「「ありがとー!」」」
 小さな光の粒。それは生命の力に触発され、凝縮し、形をとる。小さな手足と、細い胴体。その背中からは蜻蛉のような羽を生やして。
 ふるりと体を震わせて光を落としたそれらは、うーんと大きく伸びをした。姿は妖精郷アルヴィオンに住まう妖精たちよりは幾ばくか小さく、そして存在自体も彼らより不確かなもの。そしてもっともっと短い、限りある時間を過ごしモノ。最も本人たちは、ささやかな自由の先など気にしていないようだけれど。
 彼らは四季の始まりを知らせ混沌を巡る精霊だ。毎年新たな精霊が生まれ落ちて、そして消えてゆく。自然のエネルギーをその身に蓄えて、世界を見て四季を知らせるために1年かけて消費し尽くすのだ。
 しかし――今年の彼らはすぐさま飛び立たなかった。使命がわからぬわけではない。
 ただ、そう。このまま使命を果たしに行くのは、なんだかつまらない。



「四季告げという同胞がいるんだ」
 『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)の言葉に炎堂 焔(p3p004727)は目を瞬かせた。彼が同胞と言うのならばそれは妖精・精霊と言った類なのだろう。けれども『四季告げ』というのはあまり聞き慣れない。
「世界中を周り、四季の始まりを告げに来ると言われている精霊たちだな。丁度生まれの時期を過ぎた筈だ」
「春に生まれるんだ! あれ、でもそれってどんどん増えていかないかな……?」
 首を傾げる焔。合わせてアルペストゥス(p3p000029)もグゥ? と首をかたむける。揃った彼らにフレイムタンは小さく笑い、そして顔を横に振った。
「四季告げは1年で消えていく。毎年告げに来る同胞は異なるぞ」
「でも、今年の四季告げはちょっと遅いような?」
 彼と同じ精霊種たるソア(p3p007025)が頤に手を当てる。彼女も多少の知識があるのだろう。それによれば、もうそこらを飛び回っていておかしくない時期のような。
「まあ……気まぐれな精霊たちらしいんじゃない?」
 フレイムタンの横から現れた『Blue Rose』シャルル(p3n000032)が彼の手元から羊皮紙を掬い取る。彼がぽかんとしているうちに、シャルルはそれを一瞥してイレギュラーズへと渡した。
「精霊たちの……」
「……遊び相手?」
 エストレーリャ=セルバ(p3p007114)とクラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)はそれを読み上げて顔を見合わせる。ジルーシャ・グレイ(p3p002246)はそれを読むとふふっと小さく笑みを浮かべた。
「差し詰め、生まれたて精霊の子守ってところかしら?」
「そうなるだろうね。まあ、そこまで時間はかからないだろうけれど」
 長くて1日だ。精霊たちには春を告げに世界中へ飛んでもらう必要だってあるのだから。イレギュラーズには深緑で生まれた四季告げの元へ訪れ、精霊たちに楽しい思い出を作ってもらうこととなる。
「幸い、生まれたて精霊たちはヒトに興味津々らしいよ。何をするって言っても喜んでついていくんじゃない」
 それは楽しいことを思い切り楽しめるということであり、逆に危険なことでさえも躊躇なく飛び込んでいくということでもある。そこの匙加減はイレギュラーズがすることになるだろう。
「まあ、辺りに危険はないって聞いているし――アルペストゥス?」
 シャルルが徐にアルペストゥスへ視線を向ける。彼はテーブルの下に頭を突っ込んで何かしていたものの、やがてゆっくりと頭を出す。その嘴には見慣れた黄色い毛玉が加えられていた。

GMコメント

●成功条件
 四季告げと遊ぶ

●四季告げ
 世界中へ四季の始まりを告げる精霊たちです。1年しか存在せず、個体名はありません。
 春に生まれ、夏に遊び回り、秋には次代の実りを残し、冬には消えていく。そんな精霊たちです。
 妖精郷の妖精より小さく、蜻蛉のような羽が生えています。淡い光をこぼしながら飛び回っています。

 彼らはヒト、およびヒトのすることに興味津々です。多少の知識はあれど経験はありません。花の蜜を吸ったり、動物を観察して見たり、花冠を作ることだってはじめてのこと。感覚の違いから、皆さんにとって失礼なことをしてしまうことだってあるかもしれませんね。
 難しく考えず、その場で出来ることで精霊たちと楽しんでください。

 精霊は楽しい、嬉しいなどの正の感情と思い出を蓄えることで、より元気に世界中へ飛んでいけるようになります。

●フィールド
 迷宮森林の一角、花畑の中心に澄んだ湖があります。精霊たちはそこで生まれ、戯れているようです。
 周囲の森一帯も危険はありません。優しい木漏れ日と、穏やかな気性の動物たちが在ることでしょう。

●NPC
 シャルル、フレイムタンはご希望頂ければ同行します。
 ブラウはアルペストゥスさんに咥えられて連行されています。何もご指示なければ適度に精霊たちから遊ばれます。危険がないこともあり、それなりに楽しそうに過ごすと思います。

●ご挨拶
 リクエストありがとうございます。
 NPCとご縁頂く方もおり、迷った末の『皆さんがお好きなように』になりました。全員連れてっても良いです。
 それでは、いってらっしゃい!

  • 雪月風花完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年05月05日 22時20分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
エストレーリャ=セルバ(p3p007114)
賦活

サポートNPC一覧(2人)

シャルル(p3n000032)
Blue Rose
フレイムタン(p3n000086)
焔の因子

リプレイ


 ギルド・ローレット――その中で『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)に咥えられたブラウ(p3n000090)が一同の注目を集めていたところに「そうだ!」と声を上げたのは『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)だった。
「折角だからフレイムタンくんとシャルルちゃんも一緒に行こうよ! ブラウくんは……アルくんが連れて行っちゃうみたいだし、皆で遊んだ方が楽しいと思うんだ!」
「あ、これ連行の構えですか!?」
「グゥ」
 翼を広げて驚きを表すブラウ。その体がアルペストゥスの首肯で縦に小さく振られる。『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)と『Blue Rose』シャルル(p3n000032)はそれを視界の隅に映しながら頷いた。
「ふむ。なかなか揃って出かけることもないからな」
「ボクもいいよ」
「やったあ! それじゃあさ、お弁当! 皆で早起きして一緒に作ってみない?」
 目をキラキラさせてさらに提案する焔。そのキラキラを向けられた一同はくすりと笑みを浮かべた。
 早朝から弁当作りなんて珍しい者もいるだろう。けれどきっと、自分たちにとっても精霊たちにとっても良い思い出になりそうだ。

 善は急げと次の日、朝から弁当を作った一同は四季告げたちのいる迷宮森林の花畑へと向かっていた。ぽかぽか陽気な光が木々の間から差し込んで、実に長閑である。
「僕、歩けますよ……?」
「グルゥ?」
 そぅっと視線をあげると、アルペストゥスの視線がこちらへと向けられている。その瞳は「転ばない?」と問うているかのようだ。
「転ぶと思うけどなあ……」
 隣でぼそりと呟いたシャルルの言葉に頷かれ――自身も否定できない――結局、そのまま運ばれることに。別に気に入らないわけではないのだけれど、自分だけ歩かず楽していいのかなあ、なんて思ったりもするのだ。
 まあここで歩いてしょっちゅう転ぶよりは、運ばれてしまった方が良いのかもしれない。折角のお弁当も美味しいうちに食べてしまいたいもの。その方が刹那を生きる精霊たちも喜ぶに決まっている。
(長き時を生きる幻想種からすれば、1年の命というのは……あまりにも)
 『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)はわずかに視線を伏せ、それから小さく首を振った。短い命を惜しむだけではいけない。自分たちの役目は彼らへ楽しい思い出を、短き人生に添えてあげることなのだから。
(例え、光の様に駆け抜けてしまうような命でも。沢山の実りを得た命はとても尊く、眩しいものでありましょう――)
 視界が、開ける。そこには目を楽しませる色彩の花々と澄んだ湖、そしてそこで戯れる精霊たちがいた。彼らが生まれたばかりの精霊『四季告げ』だろう。
 彼らもまた、早速イレギュラーズたちに気付いたらしい。
「あれは何?」
「ヒト?」
「ヒト!」
 精霊たちの中でイレギュラーズたちの存在を定義し終わると興味津々に近づいてきて、前から後ろから左右から、中には髪を引っ張ってみたり頭に乗ってみたりと遠慮の欠片も無しである。
「ハァイ、初めまして、可愛いお隣さんたち。アタシはジルーシャ――ジルよ、どうぞよろしくね♪」
「ジル!」
「よろしく、よろしく!」
 きゃらきゃらと笑う彼らに『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)もまた笑みを浮かべる。生まれたばかりの精霊に邂逅するのは、普段精霊との交流を持つジルーシャも初めてだ。故に、彼ら同様ジルーシャも興味がある。
「今日は一緒にいっぱい遊ぼうね!」
「遊ぶ!」
「ミンナ、遊んでくれる?」
 ぱっと目を輝かせながらイレギュラーズたちの間をいったりきたりする精霊たち。ブラウを下ろしたアルペストゥスの元にも彼らはやってきて、他のヒトと異なる姿をした旅人(ウォーカー)へ一斉に群がる。
 アルペストゥスにとってそれは痛くもないけれど、ほんのちょっぴりくすぐったい。四季告げを目で追っていたら首元がなんだかムズムズしてしまって、小さく首を振るとそこから四季告げの楽し気な声が聞こえた。
「皆はここが好きなの?」
「好き!」
「お花があるから!」
 焔が辺りを見渡しながら問うと精霊たちが見て見て! と言いたげに花畑の方へ。花の蜜を吸う精霊にアルペストゥスは目が吸い寄せられた。
 どうやってるんだろう?
 小さな精霊と、大きな自分では全てを真似ることはできないけれど。じぃっと興味深げに眺めたアルペストゥスは真似をするように近くの花へ下を伸ばした。
「お花、好き?」
「こうやるの!」
 精霊たちもアルペストゥスが真似をしようとしていることに気付いたのだろう。彼の目の前で花を吸ってみせては「やってみて!」とアルペストゥスを振りむいて見せる。それを微笑ましく眺めながら焔たちは傍らで花冠などを作り始めていた。
「あ、良かったらおいで! 一緒に遊ぼうよ!」
 焔は少し遠くからこちらの様子を伺っていた兎へと声をかける。この森にいる無害な動物なのだろう、精霊たちも怯える様子はない。兎は暫くしてからゆっくりと近づいてきた。
「精霊さん達もやってみますか?」
 慣れた手つきで花冠を作っていたクラリーチェは、かなり距離の近い精霊に小さく笑う。花を愛でることがあってもこうして何かを作ることは無かったのだろう。
(教えてもらったのはずっと前でしたが……覚えているものですね)
 修道女となる前、母に教わりながら作った花冠。手は記憶上のそれを忘れずにいたらしい。あの時のように、けれど今度は教える立場になっていることがほんの少し不思議な気分だ。
 精霊の花冠となると、クラリーチェにとっては指輪より少し大きめ程度で事足りる。あっという間にできたそれを被って精霊はゴキゲンだ。するとそれを見た他の精霊たちがいいなあと羨んで、クラリーチェの元へ殺到することとなった。
「……すごいね」
「ここまで喜んで頂けるとは思いませんでした」
 苦笑いを浮かべるクラリーチェの隣に座って、シャルルは自分も教わっていい? と花を手に取る。そんな彼女の蔓薔薇が精霊に遊ばれるのは、もう少し後の話。
 それらに混じりながら『虎風迅雷』ソア(p3p007025)と『賦活』エストレーリャ=セルバ(p3p007114)は互いにも花冠を作っていた。エストレーリャはそれぞれに合ったサイズで、と精霊やシャルルたちにも花冠をこしらえ、次は隣で真剣に大きな花冠を編んでいるソアに渡すものを。ソアも四季告げたちにひとつひとつ、違う花々を使った冠をこしらえた後である。
 春の花畑は実に花の種類が多く、歩き回ったら無数に見つけられてしまいそうなほど。そんな沢山の種類を使って豪華な花冠を作り上げたソアは、それをトサッとエストレーリャの頭へかぶせた。
「わ、」
 小さく声を上げ、顔を挙げたエストレーリャに自慢げな笑みを浮かべたソア。けれどもその表情は次の瞬間、今のエストレーリャとそっくりになった。
 それは頭に乗せられた花冠もあるけれど。
「手、出して?」
 その後に差し出された、花の指輪。心がくすぐったくなるままに、ソアは左手を彼の手へ乗せた。
 左の、大切な指。そこに嵌められた指輪は今この時、どんなものより大切になった。遊びだと知っていても、だ。
「これずっと大切にする」
「僕も」
 頬に暖かな感触。エストレーリャは離れたそれを視線で追って、それからソアと共に微笑む。花の指輪も、豪華な花冠も。ずっとずっと、宝物だ。
「ねえ、エスト」
 ソアは徐に視線を精霊たちへと向けた。花冠で遊んだ彼らはアルペストゥスやブラウといったもふもふしたものに興味が移っているらしい。
 彼らの寿命はおおよそ1年。けれどこれまでのソアは1年も100年も、それ以上だって対して気にしなかった。それについて深く考えもしなかった。
「なんだか、今日はすこし……なんだろう」
 胸の奥がきゅっと締め付けられるような。悲しみとは違うのだけれど、彼がいるからこそ『時間』というものを考え始めて、それは確かにソア自身へ影響を及ぼしている。
「四季告げを見て思ったの。これはきっと――」
 『切ない』のだと。『儚い』のだと。そういうものなのだと、彼とのひと時が教えてくれたのだ。
 そんな彼はこの地を故郷とする幻想種だが、この迷宮森林は広大だ。四季告げという存在も全く知らぬわけではなかったが、毎年代替わりしていたことはこの依頼を通して知った。1年というあっという間な時間だが、それも彼らにとってはかけがえのない唯一の季節なのだとも。
 2人とも、故に願う――今日は目一杯に、楽しい思い出ができますよう。
 
「かくれんぼしたい子はこの指に留まりにいらっしゃーい♪」

 ジルーシャの声が響く。どうやら精霊たちの興味はまた移ろって、ヒトの遊びに興じるらしい。ルールを簡単に説明したジルーシャは目を瞑り、手で顔を覆った。
「それじゃあまずはアタシが鬼――もう、アタシで遊ぶ時間じゃないのよ?」
 ふいに髪をツンツン、と引っ張られる感覚にジルーシャは苦笑い。ほんの少し悪戯好きな彼らはジルーシャにいってらっしゃいと手を振られると、くすくす笑いながら遠ざかっていく。
「いーち、にーい、さーん、……」
 花畑にほど近い森の中、ジルーシャのカウントが響く。10まで数え終わったジルーシャはいつ振りかのワクワクした気持ちに笑みを浮かべながら、隠れた精霊たちを探し始めた。
 一方、隠れ家に隠れていたアルペストゥスはその陰に幾人かの四季告げが隠れていることを確認する。ここならば早々見つかることは無いだろう、と視線を外へ戻したアルペストゥスは、近くをふらふらと彷徨う四季告げを発見した。
「どこに隠れようかなー」
 ふんふんと調子はずれな鼻歌を歌う四季告げは、未だのんびりと隠れ場所を探していたらしい。隠れ家へ呼んでしまおう、とそこから頭を覗かせたアルペストゥスは――ふわりと香る匂いと、同時に差した影に固まった。
「あらぁ、」
 ジルーシャ、にっこり。ついでにまだ隠れてなかった四季告げも捕まり、そうすると雪崩のように隠れ家へ隠れていた四季告げたちもぞろぞろ出てきてしまう。
「見つかっちゃったのー?」
「ジルだー」
「アンタたち、まだ隠れてても良かったのよ?」
「「そうなの!!」」
 アルペストゥスが見つかったので皆見つかったと思ったらしい。こうしてすっかり全員見つけられてしまったなら、今度は最初に見つかったアルペストゥスが鬼だ。
「グゥ?」
 数え終わったアルペストゥスが顔を上げると、何やら背中の上がちょっとくすぐったい。首を巡らせるとそこで遊ぶ――隠れるはずだった――四季告げが居た。向こうもアルペストゥスに見つめられて、漸く隠れるはずだったことを思い出したらしい。
 バツの悪そうな笑みを浮かべ、それからもうお構いなしと首元へ抱き着いた四季告げを乗せたまま、アルペストゥスは高い鳴き声を上げ皆を探しに向かったのだった。
『しーっ、静かにしないと見つかっちゃうわよ?』
 彼が通る道の脇で、草陰に隠れながら四季告げへ人差し指をあてていたジルーシャがいたのは、隠れていた者のみぞ知ることである。



「今日はお弁当を持ってきましたよ」
 クラリーチェの言葉に精霊たちがヒトの食事に目を瞬かせる。花の蜜ばかりを吸っていた彼らにとってはどれも見たことのない食材だろう。
「花の蜜を使ったものも準備してい在りますから、こちらが宜しければどうぞ」
 そう言いながら彼女が出したのは甘めの焼き菓子。サンドイッチや唐揚げなどもあるし、タコさんウィンナーだって焔やシャルルたちが朝頑張って作ったものだ。アルペストゥスはもっとがっつり食べるかとそういった食材も用意済みだ。
「あ、アルくん! 狩りに行かなくていいんだよ!」
「ギャウ?」
 これは食べ物を持ちよる会なのだと認識したアルペストゥスが獲物を狩りに行こうと翼を広げるが、寸でのところで焔に止められる。どうやら行かなくても十分食料があるようだ。
 くんくん、と匂いを嗅いだアルペストゥスはこれが食べたい、と甘えるように鳴き、口の中に放り込んでもらう。ちょっとだけ。いっぱい食べたら皆の分がなくなってしまうから。
 ボフンッ。
 小さな爆発音に一同の視線がそちらへ向く。何かが破壊された様子はない。というか今の音、アルペストゥスの口の中から聞こえたような?
 そんな疑問や興味を一心に浴びていたアルペストゥスは、口の中で原子分解させ成分分析まで終えた食べ物にぱちりと目を瞬かせた。それからもっともっと、と強請るようなその様は――どうやら、お気に召したらしい。
「フレイムタンくん、これボクが作ったんだよ! だからフレイムタンくんにあげる!」
「あら、もう焼き菓子食べ終わっちゃったの? アンタたち、蜜が好きなのねえ」
 あーん、とごく自然な流れでフレイムタンへ食べさせる焔の傍ら、ジルーシャは早々になくなったクラリーチェの焼き菓子に目を瞬かせる。ちなみにその周りでは満足げな精霊たちがお腹をさすっていた。
「これも美味しい?」
「美味しくないです!!」
「精霊さんたち、ブラウくんは美味しそうでも食べ物じゃないんだよ!」
 つんつんとつつかれるブラウ。悲鳴を上げる彼に焔が助け舟を出す。それなら、とジルーシャは手作り苺フルーツサンドを出した。
「張り切って作りすぎちゃったから沢山あるわよ。皆も召し上がれ♪」
 わぁ、と表情を輝かせる精霊たち。それなりに作ってきたつもりだったが――油断しているとあっという間かもしれない。
「四季告げは花の蜜や果物が好きなんだね」
「うん。ソア、サンドイッチ、全部とられないようにね?」
 エストレーリャは自分の作ってきたサンドイッチをちらりと見る。ソアの為に作ってきた弁当だが、気づいたら消えているかもしれない。そう告げると勿論! とソアは手で囲う真似をした。最も、欲しいと言ってくるならば拒否なんてしないのだけれど。それでも相手が作ってくれたものだからひと口は食べたいのが心情である。
「あ、エスト! このサラダね、食べられる花も使ったんだよ。きれいでしょう!」
 ソアもエストレーリャと同様、けれど少しばかり小さく作ってピンを打ったサンドイッチだ。それに彩をとサラダを足したのだが、どれもこれもエストレーリャを思っての傑作である。説明を聞きながら食べるエストレーリャは、ふと自身の作ったサンドイッチをひとつ手に取った。
「これ、ドライカレーが入ってるんだ。はい、あーん」
 口元へ寄せると彼女がほんのちょっぴり吃驚して、それから小さく口を開ける。その頬が赤く見えるのは気のせいか、陽気のせいか、はたまた。
 弁当をもらいもらって、分け合って。食後のまったりした時間が来ると、焔は花畑をステージに精霊たちへ歌を披露する。この世界に来て知った沢山の歌を、精霊たちも知ることができるように。
「ふふ、いいわねえ。それじゃ、次はアタシも」
 ジルーシャが後に繋ぐように、精霊の竪琴を奏でる。友である精霊たちも呼び出すと、彼女らと四季告げたちは互いが互いに興味津々なようで。けれど音が奏でられ始めればすぐに打ち解けた。
 穏やかな音色が食後の満腹感も相まって、ほんのりと眠気を呼んでくる。うつらうつらとしていたブラウは、いつの間にかもふもふとした毛に包まれていることに気付いた。視線をあげればこれまた、転寝し始めているアルペストゥスの姿。目を瞬かせたブラウは彼を起こさぬよう、そのモフ毛に包まれたまま自身も目を閉じた。
「エスト、いい?」
 ソアもまた、エストレーリャの膝の上へ。お腹いっぱいで幸せな心地。彼の膝上ならいい夢も見られるだろう。頭を撫でてくれる手が心地よい。
「春は、暖かいね……」
「うん。……安心して、おやすみ」
 エストレーリャがそう返すと、間もなくして寝息が小さく聞こえ始める。その表情を見ていると落ち着いて、愛しさが溢れそうで。くすりと笑って顔を上げると、ふわふわと欠伸をする精霊たちが視界に入った。
「眠いなら、一緒にどうぞ?」
「一緒に?」
「静かに?」
「そーっと、そーっと」
「おやすみなさーい……」
 ある者はソアの傍らに。
 ある者はアルペストゥスの首元に。
 ある者はクラリーチェやジルーシャの頭の上に。
 ある者は焔の肩上に。
 各々が過ごしやすい場所に乗っかって、ひと時の休息を。

 夕暮れも近くなって彼らが目覚めたなら、双方とも別れが近いことを察していた。生まれたばかりの彼らはもっと遊びたいと多少ごねたものの、彼ら自身も自らの役目を分かっているのだろう。
「行ってらっしゃい、気をつけてね。また会えた時には、アンタたちの素敵な旅のお話を聞かせて頂戴な」
「あなた達の旅路に、沢山の楽しいことと幸せがありますように」
「うん!」
「またね!」
 キラキラと光を得て空へと飛んでいく彼らにジルーシャは何とも言えない思いを覚える。子供を見送る親はこんな気持ちになるのだろうか?
「バイバイ! 元気でねー!」
 光たちへ向かって大きく手を振る焔。アルペストゥスは力強く羽ばたくと、自身の周囲で発生した電気を操って雷光の花火を打ち上げた。
「グォオオオォォォウッ――!」
 精霊たちの門出へ。空の向こうの方で、楽しそうな声が聞こえたような気がした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 またどこかで彼らと会うかもしれませんね。

 ご発注、誠にありがとうございました!

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