シナリオ詳細
再現性東京2010:アフタヌーンはお好みで
オープニング
●
――なんと! このプレートランチがワンコインで……!
テレビ画面に映し出されたプレートランチ。しらすと青ネギのキッシュの傍らではポテトサラダとバケットが並んでいる。サラダは色とりどりに栄養バランス良く。一方で大人のお子様ランチと銘打たれたランチプレートにはオムライスに海老フライ、ハンバーグが贅沢にも並んでいた。
食い入るように画面を見遣ったのはチャウチャウの面白山高原先輩。尾をぶんぶんと振り続け涎をだらりと垂らした彼はワイドショーの特集に夢中であった。
「んー、面白山高原先輩ったら、お腹空いたの?」
首を傾いだのは『探偵助手』退紅・万葉(p3n000171)であった。カフェローレットはペットの入店に関して特に何も注意はない。故に、カフェ内に設置されたテレビを面白山高原先輩が食い入るように見ていても、万葉の膝の上で蛸地蔵君――こちらはエキゾチックショートヘアである――が眠っていても問題はないのだろう。
「確かに美味しそうだよねえ……あ、なーんか『ご主人様』の為に美味しいものを探すっていってた子がローレットに居たかも。
面白山高原先輩、夜妖退治に付き合ってくれたら美味しいものごちそうしてあげるよっていったら――」
どうすると問おうとした万葉の元へと直ぐさまに面白山高原先輩は飛び付き「わん!」と大きく鳴いたのだった。
●
「……夜妖退治、ですか?」
ご主人様の為に美味しい食事を探しに行こうと提案されてやってきたのはリュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)であった。彼女から感じられる別の犬の気配に面白山高原先輩はふんふんと鼻を引っ付けている。
気にする素振りもないリュティスは話を続けて欲しいと万葉に促した。
「実はガイドブックにも掲載されてるカフェがあるんだけど。希望ヶ浜からすこぉし離れたところにあるの。
人里からちょっぴり離れた隠れ家古民家カフェって人気だったんだけど、そこで『事件』が起こってから客足が途絶えたようでね……」
「成程? その事件というのが夜妖である、と」
「その通りなのです。幽霊を見たって言われていてね、帰り道に雑木林の方から誘う声が聞こえるそうなの。
ランチを食べに行ってそんな目に合ったら皆もう行かないよねえ。けどね――面白山高原先輩には秘密だけど、私、一人で行ったことがあって。そこのキッシュがとーっても美味しかったの」
事件を解決したらランチプレートもごちそうになれるしキッシュの造り方だって教われるから一緒に、とおねだりをする万葉。
彼女はそのキッシュが絶品であった事から此の儘、閉店に追い込まれるのは忍びないのだという。
「どのような夜妖なのでしょうか」
「雑木林から手招いて、森の奥へと連れて行ってしまう……って噂だったけど、調べた感じだとその奥にお社が存在して居てね。
どうやら、狐さんみたいなの。お社に人が来なくなってしまったことが恐ろしくなって、って所かなあー」
祟りかも知れないね、と微笑んだ万葉。悪性怪異:夜妖<ヨル>がどの様な原理で存在するのかは分からない。
けれど、そうした『怪異(ようかい)』が元ネタになることは多々あるのだそうだ。
「それでは、狐様を倒せば……いいえ、『ご納得』頂けば良いのですね」
「うんうん。やっぱり、最初は何を言っても聞いてくれないから暴力に訴えるしかないと思うんだけど……ちょっとでも落ち着いたら、お話相手になって遊び相手になってやりたいね?」
そっちの方が『ハッピーエンド』に近いでしょうと万葉は微笑んだ。
「さあ、今日もパリッと事件を解決しちゃましょ?」
- 再現性東京2010:アフタヌーンはお好みで完了
- GM名日下部あやめ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月03日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
木漏れ日がレースカーテンのように降注ぐ。柔らかな風の吹いたその傍らは自然を其の儘に残した雑木林が存在して居た。オープンの文字を躍らせた看板が僅かに傾ぎ秘密基地のような古めかしい家屋から漏れた光は暖かい電球色か。ポトスの飾られた窓辺からカーテンがそよいでいた。
「美味しいランチを美味しくいただいちゃう為にもお仕事頑張るぞ、オーッ!」
鼻腔を擽ったのはランチの準備を行う厨房からのかおりか。腹具合はこの為に。『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)は胸を躍らせ手袋に包まれた拳を天高く掲げて見せた。バスケットにはいなり寿司と油揚げ。厨房でレシピを学びたい気持ちを静めながら『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)はくるりと古民家カフェ『小りん』を振り返る。
「美味しいと噂のキッシュですか……レシピをマスターすれば御主人様も喜んで下さるでしょうか?」
しらすと青ネギのキッシュを始めとした日替わりレシピはガイドブックや昼下がりのランチ特集でも人気だそうだ。主人の為に美食を追求したいと願うリュティスへと『探偵助手』退紅・万葉(p3n000171)が提供した『レシピ情報』は彼女のお眼鏡に適うだろうか。
「それにしても万葉様は気が利きますね。ポメ太郎が気にしていたチャウチャウ先輩? の飼い主だけのことはあります」
「おん!」
そう答えたのはチャウチャウの面白山高原先輩だ。万葉と面白山高原先輩、蛸地蔵君はお留守番。行ってらっしゃいと手を振る彼女に「行ってきます」と明るい笑みを返したのは『雲雀』サンティール・リアン(p3p000050)。
燕のチャームをあしらったチョーカーをその首に。言葉を弾ませ、躍る様な声音は誰だって楽しくなりそうな。
「さあ、行こう! 僕が今日語るおはなし? ……にひひ。そりゃあ、もう!」
とっておきだと弾む声へと『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は頷いて。目指すは「悪性怪異の討伐」――と、其処まで口にしてから頬を掻いた。
「って、まだ悪さしてないんだよな。聞けば、寂しくて人を招こうとしているって。
うーん……仇を為してないなら、討つ必要はないよな。なだめて、話して、『平穏』を拓こう」
そこまで言ってから『きつねさま』が最初から温厚ならば問題ないけれどそうも行かないのだと少し五浦めいて小さく笑う。
「ま、最初はぶん殴るんだけどな!!」
「ああ。だが、『悪性』とは言いながら悪さをしていないとは妙なもの。怪異も色々だな。
チェンジリング。あるいは、神隠しの怪異か。カムイグラであれば、神獣などと呼ばれていそうだ」
そうジョークを交えたのは『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)。カムイグラと呼ばれた遠い異国ならば立場も違ったものだろうか。
「あぁ、たしか、稲荷信仰。その御使いが狐の姿と聞いたな……少女の姿を取るとは、あいにく聞いていなかったが。やりづらいものだ」
「ですので、狐が好むものを用意しました。
後輩から聞きましたが、別世界では狐はこういう物が好きだとか……落ちついたならこれで釣れるかもしれませんしね」
首を傾いだリュティスにジョージはそうであれば良いと肩を竦めた。少女の形を取るという夜妖を痛め付けるのは忍びない。
雑木林を分け入りながら、進み行けば冷ややかな空気が漂った。『Adam』眞田(p3p008414)は「少し肌寒いね」と小さく呟く。
其処にひとりぼっちの『きつねさま』が居るのだろうか。幽霊を見たという噂話を思い出し『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は足下の石ころを小さく蹴り飛ばした。ころころと、落ちていく其れが引き寄せられるように林の奥へと連れ去られる。
木々の隙間から覗いた寂れた社の前に、狐の耳を生やした少女が鞠を付いて顔を上げた。
「『きつねさま』」
呼ぶ花丸に、少女は面食らったように黒目がちの瞳を瞬かせてから牙を剥いた。彼女等は誘われてきたものではない――自身を『倒しに来た』のだと。
「人間は勝手だ」
てんてんと、鞠がニコラスの足下へと転がった。顔を上げた青年の眼前に迫るは少女を模したさみしがり
「――悪いな、『きつねさま』。まずは一旦、頭冷やそうか?」
●
槍は、勢いを付けて光を散らす。翡翠の光、次いで静かな声音は叱り付ける子供のような。
「ひとりぼっちは寂しいのだわ。わかるのだわ、私も同じだったもの」
幼い娘の姿をした怪異に応えたのは『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)の腕に抱かれたビスクドール。硝子の筺で一人微笑んだ嫋やかな姫君は「さみしいは、かなしいのよ」と謳う様に囁いて。
「ああ、章殿――その寂しさに終わりを告げよう。さぁ、舞台の幕を上げようか」
黒子の宣言に優美な礼を見せた章の前で「寂しいかあ」と眞田は小さく呟いて。
「きつねさまってのはずーっとそこから動けないのか。主様は楽じゃないのな。
話し相手も遊び相手もいなかった……ってこと? それはつまらないな。怒るのもごもっとも」
もしも、己がそうならば。其れは『つまらなくて』困ってしまう。奏者として指先を滑らせればその姿を包み込む。黒い影は黄昏のように。
寂しい声だと花丸は感じていた。胸に落ちた感傷が、傷のようにじくじくと傷む。さみしがり屋の『幽霊』ならば、遣るべき事は決まったと傷だらけの手を伸ばすように飛び込んで。
「遅くなっちゃって、ゴメン。寂しい思いをさせちゃって、ゴメンっ!
――だからこそ、花丸ちゃん達が貴女を笑顔にする為にやって来たよっ!」
正義のヒーローの在り方のように。飛び起き理の弾む声音。気が昂ぶったきつねさまの懐へ飛び込む言葉は視線を奪う。
まるで駄々をこねるような。そんな声音も愛おしい。澄み渡る空のかけらを指に遊ばせて、サンティールは蒼林檎の瞳に希望を乗せる。
しるべはいつだって、自分が知っていたから。
「ずっと、きみは待っていたんだね。ひとつ、ふたつ、夜の帳がめぐるたび。
寂しくて、怖くて、悲しくて――そうして、会いに来てくれたんだ」
それは勇気と名の付いた小さくて、大きくて、言葉に出来ない、形のない。そんなこころ。応えぬ訳はない。皆を信じているからこそ――空だって飛べるように!
燕が放った魔力が白銀の指環に躍る。その淡い気配の下で、蒼白の妖気を揺らがせてジョージは一歩踏み込んだ。譲れぬものが有るからこそ、戦場に立つ覚悟はとうの昔に決まっている。
「――さぁ、来い! 俺はジョージ・キングマン。少しばかり、遊んでやろう」
揺れる狐火の赫々たる色彩へ。怯むことなくジョージは引き寄せた。その色の鮮やかさの傍らを抜け、ニコラスはきつねさまの下へと飛び込んだ。
「どうして私を虐めるの! 私を、一人にしたくせに!」
悲痛なるその言葉にリュティスは眉を寄せた。人間の勝手。人間の仕業。そう並べれば容易な理由となって彼女の心を武装する。
(社という人工物に、人の信仰があった過去。ええ、寂しいのでしょう――)
寂しくとも、『どうして』に応えることはできまいとニコラスの紅の光が軌跡を描く。
「知らねぇよ。お前が捨てられた理由なんてよ。
俺が知ってんのはこれから先も新しい繋がりを作れるってことだけだ。俺たちがその新しい繋がりになってやる。それじゃいけねぇかい? おきつね様よ!」
「あたらしい。そんなこと、わからない」
まるで子供のようだとニコラスは感じていた。混乱し、訪れる者全てを信じられなくなった心の痛み。鬼灯はくすん、と小さく声を漏らした章の頭をそうと撫で「大丈夫だ」と囁いた。
「ねえ」
彼女の言葉を伝えるのが亭主の役目だと。進むならば前へと彼女を連れて。輝く闇の月が狐火を包み込む。
「寂しかったのよね、辛かったのよね」
「寂しかろう。だが、怒りのまま人を傷つけてはまた貴殿は一人になってしまうぞ」
「本当にあなたは私達を傷つけたいの? 私達と一緒に遊びましょう? そうすれば寂しくないわよね?」
ぐう、と息を飲んだきつねさまは逃れるように腕を振った。ぶん、と音を立てた白い腕を受け止めた花丸は「大丈夫」と宥めるように小さく笑う。
「直ぐに居なくなる!」
悲痛だ。風牙は彼女の言葉の意味を理解して苦しげに息を吐く。違うよ、と走るように飛び込んでサンティールは手を伸ばした。
「語られない御伽噺(ものがたり)ほど、かなしいものはない。
埃をかぶって、時の流れのままに朽ちていく。でも。それでも僕たちは、きみを見つけたんだ」
――僕たちが、きみを見つけたんじゃない。きみが、僕たちを呼んだんだ!
寂しいと、手を伸ばした其の勇気と決意が途切れぬようにサンティールは声を紡いだ。彼女の聲を届けるためにジョージが受け止めた狐火に照らす闇の月と地を這う蛇龍の牙が襲い来る。
「ねえ、きつねさま。きみのことが知りたいよ。
きみが、ひとと歩んできたみちゆきを――そうして、僕に語らせて! きみがもう、ひとりぼっちにならないように」
それが『繋ぐ』と言うことだとニコラスは言葉を紡いで。
「俺たちにも捨てられるんじゃないかなんてありもしねぇ未来を怖がるんじゃねぇよ。約束してやる。俺たちゃお前を捨てねぇさ」
怖れることは、悪いことではないけれど。それでも、怖れてばかりでは得られる未来も存在しない。
「こわい!」
幼児のように地団駄を踏んで。腕を振り上げたきつねさまを受け止める花丸は「分かるよ」と微笑んだ。
痛くないわけがない。けれど、彼女のこころを受け止めるのは、彼女の前にたつ自分の役目であるはずだから。
受け止めることは、恐ろしい。すべてを許容することは、とても、難しいのだから。
リュティスが支えてくれている。痛いことも、忘れるくらいに、前を進む力をくれる。それだけでは傷だらけになって立っていられないことをジョージも花丸も知っていた。
立っていられるのは、信念が其処にあるから。風牙は笑いかける。痛くて苦しいその思いを全部、ここに来た『友達』にぶつければ良いさ、と。
花丸はもう一度、踏み込んだ。痛い。肌を切る、鋭い風。
それでも――「大丈夫だよ」と笑いかけることなら出来るから。
「――この手を取って! 僕らはもう、『友人』なのだから!」
サンティールは微笑んだ。紡いだ言葉は、屹度、望んだものとして響いてくれるはずだから。
「つかまえた!」
腕を掴んで、そっと頭を撫でて。眞田は小さく微笑んだ。彼を包んだ影も其処には存在しない。
抵抗のない『きつねさま』はぼろぼろと大粒の涙を流して、呟いた。「こわいよお」と、不安が淡く揺れている。
「……まずは一回落ち着こう? 怒ってると周りが見えなくなるだろうし。それにあまり暴れられるとね、色々危ないからね。
お家壊れたら帰る場所なくなっちゃうじゃん? ……一人にしてごめんね。俺がきつねさまのこと知ってたらめっちゃ遊びに行ってたんだけどな!
森があるから隠れんぼするの超楽しいと思う。やる? 今日は疲れたなら、明日とか明後日でもさ。遊ぶ約束って楽しいよね」
「あしたは、こないでしょう?」
「そんなな事は無いさ。暴れ回って、気は済んだか?」
ジョージはきつねさまへとどらやきを差し出した。リュティスはバスケットを差し出して「こうしたものがお好きとお聞きしました」と笑みを零して。
「おいなり寿司……」
「はい。もっと食べたいのであればあそこのお店で作って貰うのはどうでしょうか?
その対価として少し仕事をして頂くような形で……珍しい狐としてでも良いですし、普通にマスコットでも良いとは思います。
そして色々な方に触れ合う機会にもなりますし、寂しさも紛らわせるのではないかなと――どうでしょうか?」
リュティスの提案に『幽霊』と怖れられた存在は怯えた顔をしてから「いいのかなあ」と呟いた。
「いいさ、それだって、きみが選べることだよ! 影鬼はすき? 数え歌は知っている? ね、狐火さんたちも呼んであげて!」
めいっぱい遊ぼう。満足いくまで、笑い合えるように。サンティールは謳う様に微笑んだ。
●
「さ。パリッと解決できたし皆でお昼行こう! できたらきつねさまも連れて行けたらいいんだけど!」
「……其処までは、行けよう。けれど、皆、怖いと言うから」
眞田はぱちりと瞬いてから「大丈夫」と頬を抓った。「いひゃい」と涙を浮かべた小さな少女を覗き込んでから風牙は「ほら」と手を差し伸べた。
「お前の声、届いたぜ。寂しかったんだろ? もう大丈夫だ。これからは全然寂しくないぜ! オレらがお前と出会った!
よし、お近づきの印にまずは茶でも飲もう! あの店、メシも茶もケーキもうめえぞ! 食べたいだろ?」
「え――」
「聞こえない」
「食べ、たい」
だろう、と風牙はきつねさまの黒髪をぐしゃりと撫でた。ジョージが彼女に名を聞けば「りん」と小さく彼女はその名を呟いて。
「りん――か」
此れから向かう小さな店の名前は『小りん』。まるで彼女の事だとニコラスは揶揄うように少女へと告げて。
「行こうぜ。キッシュも食いたいしな! めっちゃ美味いんだろ!! なら行かねぇとなぁ!」
「ええ、ええ! おきつねさまとお茶会をしたいのだわ!」
行きましょうよと心躍らせる章に「ここのカフェはキッシュが旨いらしいぞ」と鬼灯は微笑んだ。
きつねさま――りんは不安げに尻込みしている。花丸は「大丈夫って言ったでしょ?」とそっと彼女のちいさな掌を握りしめた。
ひとと何分違わぬぬくもりに。僅かな冷たさを発する其れは決して悪い存在ではない。分類がそうであるだけの、人には害などないかみさま。
怪異譚なんてこれでおしまい。
『りん』と呼ばれた少女は嬉しそうに微笑んでイレギュラーズへとついて行く。招かれるなら、何処へだって行けると信じるように足取りは軽やかで。
「お帰りなさい」
「おん!」
万葉と面白山高原先輩にりんがびくりと肩を跳ねさせる。「大丈夫だよ、パリッと事件を解決してきたからね」と揶揄う眞田に万葉は「パリッと解決できたならオールオッケーです!」と胸を張る。
章がケーキのショーケースを見たいとねだった言葉に鬼灯は頷いて。リュティスは厨房で『レシピ』を分けて貰うと真っ直ぐに店主の下へと進んだ。
折角ならば『美味しいもの』は主人と一緒が良いのだと従者としてのとびっきりの思いについ頬が緩む。テイクアウトで彼の元へと持ち帰るのも良いかも知れないと店主の提案に小さく頷いて。
「珈琲を頼もうかと思う。万葉嬢、オススメは?」
「ジョージさんって、甘いのってお得意? 珈琲ってお砂糖は幾つ入れる派なのかしら」
ワクワクとした様子の万葉にジョージは彼女の『調査』のような質問にも弛まず答え続ける。メニューを指さして「これとか、これとか」と提案する姿勢はさながら探偵のようだ。
「何気にすごい楽しみだったこれ。えー、俺はどれにしようかな。きつねさまの言うとおりにしよかな」
「ねえねえ、よかったらみんなでわけっこしない? いろんなものちょっとずつ食べるの!」
「それもいい」
眞田はサンティールの提案に「これも気になる」とレシピを指さして。ちょっとずつ、に自分もと手を上げる食いしん坊な万葉に面白山高原先輩が続く。
そんな賑やかな様子に少し困り顔の『りん』を伺い見てからニコラスは「俺はプレートランチ。りんもどうだ」と問い掛ける。
風牙が雑木林までの道を綺麗にし『家内安全』ののぼりを立てておくと店員へ提案する言葉にニコラスは「俺からも良いか」とひらりと手を振って。
「せっかく隣人にかみさまがいるんだ。偶に遊びに行ってあげりゃ喜んでくれるんじゃねぇかね。隣人付き合いってのは大切だろ?」
「そう。たまにはお参りしてやってくれよ。それに、悪い奴じゃないからさ」
ニコラスと風牙にりんが驚いたように肩を竦めてリュティスの背へと隠れた。勇気が出たら『お手伝い』をしにくると、提案をひとつ。
「皆さんが仰るなら」
その言葉に、良かったなあと風牙は頭を撫でた。再現性都市に来るならばまた遊びに来るからと、笑いかける風牙に小さな少女はこくこくと頷いて。
家内安全の評判のあるお社に時々『幸福をくれる神様』が立っているという噂が何時の日か立つだろう。神様の好むキッシュを作れるように精進するとりんへと微笑む店主にニコラスと風牙は顔を見合わせて微笑んだ。
「なぁ、おきつねさまよ。今度貴殿の社に逢いに行っても良いか? 手土産、もといお供えは……手製の和菓子でどうかな?」
「ええ、ええ」
鬼灯に、笑顔で頷いた『りん』を見てサンティールは心を躍らせた。この言葉をきみに告げられることが何よりも嬉しくて。
「きつねさま、たのしかった? ふふふ! 言ったでしょう。僕たちはもうおともだちだよ」
だから、何度でもきみにこう伝える。何度でもきみに逢うために、物語のおしまいの言葉は何時だって『こう』なのだ。
――『またね』!
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
この度は、ご参加有難うございました。
とっても優しい思いが沢山詰っていて屹度『りん』も幸せだと思います。
何時でもこの場所で待っています。また、会いに来て上げて下さいませ。
GMコメント
日下部あやめと申します。美味しいランチのために頑張りませんか。
●成功条件
『きつねさま』の怪異譚をおわらせる
●『きつねさま』
悪性怪異:夜妖<ヨル>の一種。
――雑木林の奥から手招きをしてこっちにおいで、こっちにおいでと誘う声がする……。
狐の耳に黒髪の幼い少女の姿をして居ます。気が昂ぶると顔が狐になる事も。
万葉は雑木林の奥に存在する寂れたお社の主だろうと推理しました。どうやら、人気が無くなり寂しさの余り降りてきたのでしょう。
気が昂ぶり「どうして私を一人にしたの」と怒りながら襲い掛かってきます。
暴力的に物理的な動作で攻撃を仕掛けてきます。その動きは鈍いですが攻撃力はとても高いようです。
●狐火 *10体
きつねさまが気を昂ぶると出現する夜妖。魔法の炎で攻撃を行います。
●雑木林
古民家カフェ『小りん』の近くに存在する雑木林です。雑木林を抜けた少し開けた場所にあるお社前で戦闘となります。
aPhoneで狐火が撮影されたりと噂は拡散され古民家カフェの客足は途絶えがちになっているようです……。
周囲に人毛はありません。万葉は出来ればお社は傷付けないようにしたいね、といっていました。
●古民家カフェ『小りん』
キッシュが絶品。プレートランチで有名な古民家カフェです。隠れ家古民家カフェと銘打たれ人里から少し離れた立地です。
きつねさまの怪異の噂で客足が落ちており、どうにかできないものかと困っていることを万葉が聞きつけ、提案したそうです。
「幽霊の事件をパリッと解決してみせるので、解決したらキッシュのレシピを教えて下さい!」
夜妖対応後はプレートランチを頂くことやキッシュを学ぶことも可能です。パフェやデザートプレート、珈琲を頂くことも出来ます。
●退紅・万葉(p3n000171)
天真爛漫。探偵助手な小説の登場人物(小説から召喚された少女)。
連れて行っても置いていっても無害です。面白山高原先輩と呼ぶ犬と蛸地蔵君と呼ぶ猫と一緒です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
どうぞ、宜しくお願いします。
Tweet