シナリオ詳細
<フィンブルの春>手折る君は遠くに至り
オープニング
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もしも、あなたが人なのだと主張するなら、わたくしは受入れるわ。
もしも、あなたが獣なのだと主張するなら、わたくしは処分するわ。
自分の身の振り方くらい、自分でお決めなさいな。
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「どこまで行くの?」
「もっと向こう。ここに居るモンスターを倒せばメダルが貰えるって言ってた!」
「メダル……ふふ、沢山集めれば『マルガレータ様』も喜んで下さるんだって……」
「……マルガレータ様のお墓にいっぱいあつめたよ、って見せて上げようねえ……」
四人の幼い奴隷たち。少年は剣を握り、少女は杖を。盾を手にしたずんぐりむっくりとした少年はうんせ、うんせと坂を登る。
バスケットを抱えていた魔道士の少女は野花を詰め込み、ピクニックにでも行くかのようだった。
彼等は『勇者候補生』――ミーミルンド派に所属する奴隷である。奴隷であるが故に番号で呼ばれた彼等は仲が良かった。
彼等はミーミルンド男爵家で教育と居室、食事を与えられ奴隷とは思えない待遇で過ごしてきた子供だった。
そんな彼等がある日、『見初められた』と当主は言った。連れられて訪れたのはミーミルンド派の貴族の一人だ。
マルガレータお嬢様の為になることを君たちで成さないか?
最初は死した人間の役に立つなんてどうするのだと少年達は感じていた。
だが、『次世代の勇者』という称号を得て、ミーミルンドを再興することが令嬢マルガレータ・フォン・ミーミルンドの為になると少年等は直ぐに理解した。
故に、彼等は野を越え、山を越え。勇者候補生として遣ってきた。
――……戦う力なんて、持っていないくせに。
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高らかな喇叭の音を聞きながら、堂々たる宣言に誰もが拍手し歓喜する。其れは子供染みた遊戯であり、暇潰しに他ならない。
それでも澱み停滞の澱に存在するこの国は『小さな暇潰し』一つにも熱狂することが出来る。
日々を怠惰に過ごし財と贅を尽くした生活を送り続けるだけの貴族達の新しい遊びとして掲げられたのがフォルデルマン王の『思いつき』――『ブレイブメダリオン・ランキング』であった。
勇者総選挙と揶揄されたそれは次世代の勇者を認定すると国王陛下より宣言が下された。建国の父たる伝説的勇者に肖りたいと願うものは数多い。
――勇者になりたいんだ!
――お前が勇者になるために、投資をしてやろう。
村の子供は勇者に憧れ、勇者を志した。貴族達は奴隷を勇者に仕立て上げダンジョンへと投入し続ける。本来はローレットだけで行われていたはずのメダリオンランキングに『勇者候補生』が続々と投入されたのだ。貴族達の擁立にフォルデルマン王は喜んだ。
さあ、これでこの国の『勇者総選挙』は大いに盛り上がることだろう!
一方で、古廟スラン・ロウと神翼庭園ウィツィロからのモンスターの出現、国内襲撃も続いていると告げた。
勇者総選挙の事も気がかりだが、国内襲撃も捨て置けない。その双方を気にしている時間もないのだと奴隷のこども――『ティオ』は言った。
ティオは『こわいひと』スティーブン・スロウ(p3p002157)が幻想王国の奴隷市で保護した人間種のこどもだ。その出自は不遇なもので。人間種のからだを長命の種である幻想種に変化できないかと考えた異種変化の法を探るマッドサイエンティストの元にいたそうだ。
研究者はミーミルンド男爵家派閥に所属しており、その境遇に渋い顔をしたマルガレータ・フォン・ミーミルンドの遊び相手として研究を一時的にストップされていたという。……それも、マルガレータ嬢が死去するまでの間だが。
「ぼくは噂になってるミーミルンド男爵家に『保護』されていた。マルガレータお嬢様が亡くなってから、当主様が『助け船』を出す形で市に流されたけど」
故に、ミーミルンドについては其れなりに知っているはずなのだと彼は言った。
「幻想貴族という立場を利用して、ミーミルンド家について探りましたが彼の家は極端に情報が少ない。
……ならば、保護されて居た立場から何か新たな情報を得られるのではないかと思いお呼び立てしたのですが――」
「まあ、ティオはそんなに知る事も多くなさそうだよなあ」
『悪徳貴族』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)はスティーブンの言葉にそうでしょうと頷いた。
マルガレータと呼ばれた令嬢は死去している。それは確かだ。幻想王国にも葬儀の記録が残っており、彼女が『不慮の事故』で亡くなったことは其れなりに有名な話であった。故に、マルガレータの死後からはミーミルンド男爵家と余り関わりの無いティオはウィルドの求める情報は持ち合わせていない。
「ぼくも、一応調べてみた。……お前達の為じゃないぞ。
ミーミルンド男爵家は使用人は奴隷が多い。マルガレータ様の『七人の遊び相手』はその中でも一番良い待遇だったけど、そうじゃない奴隷も高度教育と一般的な食事と居室を与えられるんだ。
奴隷にとっては天国だよね。使用人として雇って貰えて教育して貰えて、自分からお屋敷を辞めて他の仕事についても赦されるんだから」
「『慈善事業』――ですね」
にい、と笑みを浮かべたウィルドにティオは頷いた。其れだけ聴けばミーミルンド男爵家は慈善事業家だ。
「だから、ぼくは信じられない。ミーミルンド男爵家の『奴隷』の中で勇者パーティーが組まれたなんて。
……当主様はぼくらを大事にしてくれてた。なのに、わざわざ危ないところに行かせるなんて、可笑しいよね」
ティオはそう言った。
大事にしてきた奴隷達で『勇者候補生』パーティーを組んだ。彼等はミーミルンド派としてブレイブメダリオンランキングに参入するのだという。戦う力もさして得ていない奴隷達で、だ。
「……当主様が何を考えているか分からないけど、止めて欲しい。ぼくだって、知っている顔が死ぬのはいやなんだ」
どうか『勇者候補生』たちを救って遣って欲しい。彼等は何も分からないまま戦いに出ることになるのだろうから。
- <フィンブルの春>手折る君は遠くに至り完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月29日 22時45分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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スピリタリスは星の街。スピリタリスは一等美しい花が咲く。スピリタリスは――
そんな、御伽噺のような文字列を擦るだけならば『こわいひと』スティーブン・スロウ(p3p002157)は此程怯えた顔をすることはなかっただろう。
「ああああ……戦いとかほんと苦手なんだけどなぁ。まぁ、その、しかたねぇか。買った責任ってやつだ」
そう、口にしたのは彼を送り出した小さな『元・奴隷』であった。ティオと呼ばれたこどもは巷を騒がす奴隷事件の渦中に存在するミーミルンド家と縁ある存在であるらしい。普段はつんけんとした態度の小さな子供が助けて欲しいと懇願してきたのだ。此処で後ろを向いていればティオの主人として相応しくないとやる気を漲らせる。
――だから、ぼくは信じられない。ミーミルンド男爵家の『奴隷』の中で勇者パーティーが組まれたなんて。
大事にしていた奴隷を貸与する。そしてミーミルンド派の貴族が其れ等を勇者パーティーとして派遣した。送り出したのがミーミルンド家でないとしても『そんなことになるとは思わなかった』とは言い出せぬ状況なのは確かだろう。
「……キナ臭いな」
呟く『砕月の傭兵』フローリカ(p3p007962)が立っているのはミーミルンド領に程近い『壊滅している街』スピリタリス。死神と呼ばれた光学兵器を握りしめる指先に力が籠もる。
「ええ、ええ、全く。ミーミルンド男爵……以前の依頼でこちらをダシに遊んでくれたお礼です。次はこちらから首を突っ込ませてもらいましょうか」
『悪徳貴族』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)の因縁は浅からぬ。奴隷オークションへと派遣されたイレギュラーズの動向を見て楽しむような、そんな行いは貴族たるウィルドにとって看過出来ぬものであった。
「使命感に溢れた子どもたちが、何も出来ないまま死んでいくというのもショーとしては中々ですが、今回は私の役に立っていただきますよ?」
見せ物であるかのような指名に燃えた子供達。それは『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)に言わせれば『勇者ごっこ』だ。訓練を受けず、実力も無く、剣など大して握ったことも無いような綺麗な掌のこども達。彼等を『ごっこ遊び』と称さずになんとするか。
「誰かの為になりたいと思うその『心』は……羨ましいとも、思う」
そうして、その心を一身に受ける『マルガレータ様』も――そう思えども『芽吹きの心』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)はソレを見過すことは出来なかった。ミーミルンド家に保護されて居れば幸せだったのだろう。ソレが事実であるかどうかは『子供達の言動』から察することが出来る。
子供達は皆、マルガレータ様を愛している。マルガレータ様を失ってから『何かが変わった』というその家に、未だ尽くそうと考えている。子供は愛情を忘れず、盲目になりやすい生き物だ。故に、守らねばならない存在だと『揺るがぬ炎』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は知っていた。
「……子供か」
頭の中に浮かんだのは息子のことだった。遠く離れた梨尾。彼の面影を全く別の子供から感じて仕方が無い。守らねば、息子を見殺しにするかのような感覚が襲う――
「いやはや……子供達が此処に来たのはどうしたものだろうねェ。我(アタシ)は彼等の身の振り方は彼等が決めるべきだと思っているけれど――」
長い前髪がふわりと揺れる。『闇之雲』武器商人(p3p001107)は喉奥でくつくつと笑みを零してからゆっくりとスピリタリスを歩み始めた。
先行し、モンスターと相対する子供達。それらの救出は今回のオーダーではない。だが、気になるのだ。ミーミルンド家は何を考えているのか。
それが、分からない。
『奴隷を大事にする慈善家』だと謳われたミーミルンド。心優しき王妃候補マルガレータ・フォン・ミーミルンド、そしてその兄たるミーミルンド男爵。
果たして、その評判は本物なのか。
「……ええ、過保護が良いとは思っていません。ですが、この試練は明らかに要求が高すぎます。
戻って来られないのは明らかなのに、どうして、このような場所に行かせたのでしょう? ……どうして、名前をつけてやらず番号で呼んでいるのでしょう」
『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)は縋るような思いで、その言葉を紡いだ。
――この子達は、本当に愛されているのでしょうか?
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叫声が聞こえた。つい、と顔を上げたシキは「行こう」とその足に力を込める。前へ、走れ走れと己に念じるように飛び込めばへたり込んだ幼い少年少女の姿が存在して居た。
「居た!」
見上げるほどの花が其処には存在して居る。萎れる事の無きそれがゆらゆらと揺らぐその姿を見据えてから武器商人は『気の合うコ』へと呼び掛けた。真の名を口にするほど無粋ではない友情の如く、それを手にした瞬間に周囲へと広がったのは圧倒的なプレッシャー。
花は、そして種は感じたことだろう。武器商人と呼ばれた存在が此処に在る事を許してはいけないと。急き立てられるように、子等から視線はその銀の髪を揺らがす鈍月のような存在へと向けられた。瀟洒な淑女のようであり、緩慢なる紳士のようでもある。浮かんだ笑みに伸びた蔓を受け止めたのは凍波の大盾。
「ッと――!」
腕に力を込めてエイヴァンはそれを受け止めた。エイヴァンを苛む戒めなど何もないと胸を張り蔓を一気に後方へと押し遣った。
「コイツがルアニヒか。海で見れば『大物』で在る事には変わりない。それで? それを相手にしてるのが――成程、お前さんたちか」
へたり込んだ子供へと一瞥すれば肩が跳ねたことに気付く。怯え竦みながらも盾と剣、それぞれの役目を担ったこどもは魔法使いを護る様に布陣していたようだ。
「大丈夫か? 俺達が助けに来た」
「だ、だれ――」
その身を滑り込ませたウェールは子供達を励まし宥めるように出来る限り優しい声音で語りかけた。滅びに近いスピリタリス。その場所に『誰か』が訪れることなど子供達には予想が出来てなかったのだろう。
「うわ」
子供達にとっては予想よりも柔らかで、そして困惑の滲んだ声がして46(しろ)と呼ばれていた子供が視線を送る。その声の主――ローレットに所属する新米冒険者のためにと手配された軽装に身を包んでいたスティーブンは頬を掻いた。
「……マジかよ。めっちゃ強そうなんだが……ああ、無事に帰れるといいなぁ」
「帰れるさ。いや『帰る』為に来たのだから」
肩を竦めてから、地を蹴ったフローリカが周囲を漂い武器商人とエイヴァンの元へと集わんとするルアニ・ベイビーへと向けて衝撃波を叩き付けた。その痩せた腕が振り上げたルクス・モルスが大地を揺らがすその衝撃にフローリカの腕が僅かに痺れる。
だが――彼女はその衝撃にさえ怯むことは無く子供達へと背を向ける。勇者候補生、安請け合いで死にに来た子供達――それらが此処で死ぬには余りにも『不幸』が過ぎる。
「ケガをしたくなければ下がっていろ。『マルガレータ様』とやらは、お前たちが傷だらけになるのを望むのか?」
「マ、マルガレータ様はそんなことを望まない……!」
気丈なる子供の一声に頷いたウィルドはその体を揺らし続ける巨花をまじまじと見遣ってから肩を竦めた。その行く手は遮れる。子供を庇い立てるウェールが安全地帯へと逃してくれるはずだ。それを彼等が是としたならば、だが。
「あなた達が帰らなければ、誰がマルガレータ様にの為に戦うのですか?
勇者の行いとは敵を倒すだけではありません。ここは私たちに任せて、生存者の救出を。あなた達のことは、必ず私が陛下へ伝えますから」
「だ、誰か生き残ってる可能性があるのですか……」
杖をぎゅうと握りしめて問い掛けた875(はなこ)にウィルドは「探すのもあなた達の仕事でしょう」と静かな声音で返した。ルアニヒの行く手を遮りながら子供達の動向を確認するサルヴェナーズはカムイグラに伝承される不滅闘法をその身に宿し、静かに息を吐く。
(可愛らしい事……ああ、けれど、此処で守り切るには骨が折れます。少しでも私が囮になって居られれば良いですが――)
使命感。決意。そう言ったものに燃える子供達は可愛らしい。同時に、浅慮だとも言える。イレギュラーズとて、戦に出ることを怖れる者は居る。
種をその身に一身に集めて居る武器商人とエイヴァンの様子を確認しながらも、子供達と同じ立場であるように「モンスターは怖いよな」とスティーブンは柔らかに声を掛けた。
「よぉ、お前らのトコに居たティオ……10番のご主人サマだぜ。お前らもとりあえず言う事聞いとけ?」
「ティオ……ティオはしあわせになれたんですね! やっぱり、ベルナール様は素敵な方だ!」
その称賛にスティーブンは、そしてシキはぎょっとした。盲目的なまでにミーミルンド家を崇拝する彼等。サルヴェナーズはその様子を見て「変わったしまわれた」と小さな声音で呟いた。
「まあ、何でも良い……おい、しばらく大人しく縮こまってろ。巻き込まれっから前に出てくるんじゃねーぞ」
そう告げてからスティーブンはエイヴァンへと一瞥を送った。その視線を受け止めて、膂力を活かし、種の行方を遮ったエイヴァンは己が内から密やかに伸びた毒手(あんき)で舞踊った精霊を傷付けた。
「走りなさい、少しでも遠くまで。勇者になるのであれば、まずは生き延びなくては。死んでしまっては何も出来ません、そうでしょう?」
サルヴェナーズのその言葉にウェールは行こうと声をかける。走れないなら、抱えてでも――
「お前さん達の大好きなお嬢様はこんな無茶をして死んで、死後の世界で会ったら私の為にありがとう! なんてお礼を言ってくれるような人なのか? 違うだろ!」
はっとしたように子供は顔を上げた。死者の為に生者ができる事は何か。この喧噪の中では子供達は幸せになれやしない。
マルガレータはそんなことを望まないと子供達は啜り泣いた。走る。ファミリアーを追従し、ウェールは四人の子供達を物陰へと隠す。
そして、顔を上げれば、大輪のルアニヒがばくりと口を開いて武器商人へと迫っていた。
「おやまァ、『美味しく』頂かれるのかい」
囁いた。金と銀の環。王者たる百花、女王たる絢爛。それは如何なる刃も呪いも打ち払わんと輝いて。
花の傍らでオーラの縄を放ったスティーブンは「こっち来んな!」と叫ぶ。その言葉に合わせて、苦難を破り栄光を掴むようにウィルドは防御主体の拳術を放った。
「食事の時間を邪魔するようで申し訳ありませんが、打ち倒しましょう」
「ええ。ふふ、私を食べるのは構いませんが、少し、喉にトゲが刺さるかも知れませんよ」
躍る様に囁いて。サルヴェナーズは数が減った種子の合間からルアニヒをまじまじと見遣る。嗚呼、毒を持ちそうな絢爛なる花はこの廃墟には似合わない。捕食をサポートする其れ等に囚われることなきようにフローリカは走り回る。開放状態と至った災厄は赤い瞳に闘志を宿し振り下ろす。
「――此処だ」
囁くと共に。
シキは『自身の持ち得る最大』を処刑剣へと乗せて叩き付けた。魔性が膨張する。大口を開けて迫るは直死の一撃。
「――ふふ、私も中々に大食いでね。さぁ、喰らい合いといこうじゃないか!」
地を蹴って、ルアニヒがのたうち回るその鞭を避けたエイヴァンは「落ち着きのナイ奴だな」と呟く。拭えぬ忠誠心が己を支援する。子供達を護る為に長期戦になる事は否めない。だが、堅牢なる護りを持ったイレギュラーズという巨大なる壁は崩れ落ちることはない。
強引に片手で扱う斧砲を大きく振り上げる。ルアニヒの鞭とばちりと音を立てて弾いたソレを真っ直ぐに見据えてシキはにぃと唇を吊り上げた。
ウェールから届いた一報は子供達の保護は終えたという者だった。自身の命を燃やすように、狼と黒き虎が走り寄る。二匹の焔はウェールの作り出した終わらせるための一撃か。
「勇者候補生と言ったね。見ていると言いさ」
その声は屹度届く――これが『勇者と呼ばれた存在の姿なのだ』と。
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「この度は、有難うございました」
身を寄せ合った子供達。朗らかな声音で「構わないさ」と告げた武器商人は「聴かせて欲しいことがあるのだけれど」とウェールの傍で姿勢を正していた四名と視線を合わせて首を傾いだ。
「何でも聞いて下さい。恩人さん」
「ああ、それは良い呼び名だねェ。それじゃあ、最近のベルナール男爵は何かお代わりはあったかい? 誰かに頻繁にあっていた、とか」
「お客様がいらっしゃっていたのは確かです。秘書の3番、あ、いえ、サーティさんは――……ミーミルンド家では番号を与えられますが、名前は好きなものを自分で名乗って良い決まりなのです。けど、主人がそう呼んでくれたから定着しちゃうんですけど」
口を開けばミーミルンド家が如何に素晴らしいかを生き生きとした瞳で語る子供達。武器商人は「ふむ」と小さく呟いた。
「お客様、か……」
それが誰であるかは定かではない。子供達の称賛と、現状の余りの違いにフローリカは小さく唸った。
「よければマルガレータ様のお話を聞かせてくれませんか? ふふっ、噂に聞くにも素晴らしい方のようですので。私もひと目お会いしたかった……」
「マルガレータ様……は、どうしてあんなことに……」
おだてて情報を聞き出したいと願っていたウィルドに対して子供達は悲しげに俯いた。「あんなこと」と反応を示したのはスティーブンだ。
「あんなことってのは、ティオの『遊び相手』が死んだ理由か?」
「はい。はい……マルガレータ様は皇太子妃候補でした。今は、陛下になられてるフォルデルマン三世の、です。
けど、馬車の事故で亡くなったのです。不慮の事故って、言ってました。あんな『誰かが細工した馬車』で不慮の事故って言えますか?」
飛び出した言葉にフローリカとウィルドが目を剥いた。鳥渡待って欲しいと言葉を止め様とも興奮した様子の46は立ち上がる。
「だって、だって、マルガレータ様が亡くなったのは絶対通らない裏通りで、馬車の部品が欠けていて、それで――」
「嵌められたのでしょう」
ソレは貴族社会では良く在ることだとウィルドは認識し、サルヴェナーズは「何という事でしょう」と憂う。皇太子妃候補になり、『第四勢力』と成り得るミーミルンドを何処かの派閥の貴族が牽制した結果なのだろう。不幸ながら良く在る『事故』である。
「……マルガレータ様……」
啜り泣く子供達に、スティーブンは「無理に色々聞いて悪かったな」と肩を叩いた。マルガレータの事をティオに聴けど不幸な事故だったと言う。真実は限られた人間しか知らず、彼等は偶然其れを識った事でミーミルンドへの忠誠を深めたのだろうか。
「……怖かったですね。でも、もう大丈夫ですよ」
柔らかにサルヴェナーズはそう声をかけた。背を擦れば子供達は縋るように涙を流す。彼等の行く末について、議論は移ろった。
「まぁ、自分たちが戻りたいっていうなら止める理由はないんだが……結局、また同じ目に遭う可能性は高い。
それはミーミルンド男爵が望む望まないにかかわらずだ。申し訳ないが……今のこの状況を見て男爵が冷静な判断を下せるとは俺は思えんな」
「ベルナール様は、今、問題を抱えているのですか」
利発な娘だとエイヴァンは感じた。杖を握りしめた少女は真っ直ぐに彼を見遣る。
「"もしかしたら"、ミーミルンド男爵の知らないところで何か起こっているのかもしれない。そうなった場合キミ達奴隷の損失は彼の損失になってしまうからね」
武器商人の言葉に子供達はハッとしたように真剣な表情を見せた。武器商人自身は子供達の身の振り方は自身で決めることを望んでいたのだ。
「そう。そもそも、君らはベルナール様の所には戻れない。貴族さんのところに戻っても、また戦いに出されるだけだと思うけど。
まぁ、それでもよければ戻ると良い。誰かの為になりたい心を否定したくはないからね。
それかもう帰りたくないというなら…ローレットで預かることも出来るさ――決めるのは君たちさ、いつだって」
シキは勇者になる可能性の蕾である彼等の希望を出来る限り組んでやりたかった。
「別に今すぐに勇者になる必要はない。今から訓練を積めばそれなりに強く離れるだろう」
エイヴァンは敢て、そう言った。「――お前さんたちが本当にマルガレータのために、ミーミルンドを再興したいと思うなら」と。
子供達の瞳に、希望が宿された。うじうじとしていた46へとエイヴァンは静かに言う。
「先ずはできる事から始めるべきなんじゃねぇか? まぁ、うちの軍なら新兵志望はウェルカムだがな。
自由になってどこに行って何をしたいかは自分たちが決めればいい――まずはそこからだ」
――盾の少年は海洋軍へ行くと決めた。剣を握った少年はスティーブンの元へ、旧友に会いに。魔法使いの少女はサヨナキドリの従業員になる事を願った。魔術士の娘はウィルドと共にこの先を見据えると、そう決意して。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
思惑ばかりが交差する、そんな一幕に。
願わくば、彼等の未来が良いものでありますように!
GMコメント
夏です。宜しくお願いします。
当シナリオは『<フィンブルの春> In principio erat verbum.』と同様の場所を舞台にしておりますが直接的な関与はありません。
●成功条件
古廟スラン・ロウのモンスターの撃破
+ミーミルンド派の『勇者候補生』の窮地を救う(努力条件)
●現場状況
ミーミルンド男爵領から程近い位置に存在する『スピリタリス』の街。小さな街です。
古廟スラン・ロウのモンスターが跋扈しています。街は伽藍堂、どうやらもはや生存者少ししか居ないようです……。
崩れた街並みの中で『勇者候補生』が相手にするモンスターを倒してブレイブメダリオンをゲットしましょう!
●モンスター
古廟スラン・ロウより現われたモンスターです。
・『凋落の蔓』ルアニヒ
巨大な花を思わせます。萎れた花弁を持っており長い蔓を撓らせて攻撃します。
ブロックには3名が必要となります。物理攻撃が中心です。
花の中心には口が存在しており非常に大飯喰らいです。人間だろうが何だろうがまるっと食べてしまいます。
・『種』ルアニ・ベイビー *20
ルアニヒの種。小さな綿毛の精霊を思わせます。神秘攻撃を中心に行います攻撃力は低いですがバッドステータスも豊富です。
常にふわふわと飛行した状態です。ルアニヒが捕食しやすいようにサポートする掛かりのようです。
●勇者候補生
ミーミルンド派の奴隷。ミーミルンド男爵家派閥に所属する貴族の元に引き渡され、戦う力も無いのにマルガレータ様のためと戦場に出ました。
・『剣士』46、『魔法使い』28、『盾』34、『魔術士』875
本来の名前はなく適当に当てはめられた識別番号で呼び合っています。しろ、にーは、さんし、はなこ。
10~15歳程度の少年少女です。ルアニヒと対峙して如何することも出来ないままに固まっています。
それでもマルガレータ様へのご恩を返そうと懸命に努力はしているようです。
救出は努力条件ですが、救出した際は彼等から情報が得れるかも知れません。また、彼等の救出後は保護or帰宅を促すのどちらかです。
帰宅を促した場合は現主人である貴族の元へと帰ることとなるでしょう。死亡したことにして保護を行っても問題はありません。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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