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シナリオ詳細

<フィンブルの春>イレギュラーズVS魔種領主、勇者候補生VS偽勇者

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●不穏な報せ
「それは、本当なのか……?」
「ええ、間違いありません。信頼出来る筋からの情報です」
 新田 寛治(p3p005073)がもたらした情報に、『バシータ領主』ウィルヘルミナ=スマラクト=パラディース(p3n000144)は信じられないとばかりに愕然として、零した。だが、自身の持つ広い人脈を駆使して情報を集めた寛治は、その情報の正しさを疑っていない。
「……本当に、ロシーニ・クブッケ領主が『マナリスの森の魔物を討伐するために』勇者候補生を集めたと言うのだな?」
「そのとおりです」
 念を押すように、ウィルヘルミナが再度問う。だが、寛治の答えは変わらなかった。
 勇者候補生とは、ブレイブメダリオン・ランキングが始まったことで、勇者を目指さんと動き出した者達のことだ。
 本来、ブレイブメダリオン・ランキングの対象はローレットのイレギュラーズに限られるはずであったが、幻想国王フォルデルマンはこの動きを喜び、有力な貴族が擁立したならばイレギュラーズ以外の勇者候補生にもメダリオン・ランキングへの参入を認める布告を発した。
 しかし「有力な貴族が擁立したならば」と言うのが曲者であり、悪徳貴族の中には不正に勇者候補生を擁立し、偽造メダリオンを与えたり自作自演の問題解決でメダルを不正に獲得したりする者達が存在している。
 今回、マナリスの森の魔物の討伐自体は、メダルを獲得する条件としては正しく成立する。だが、それを行う勇者候補生をロシーニ・クブッケ領主が集めていると言うのが問題だった。
 マナリスの森は、ウィルヘルミナが治めるバシータの北端にある。つまり、ロシーニ・クブッケの領主はマナリスの森の魔物討伐にかこつけて、自分の息のかかった勇者候補生をウィルヘルミナの領内に送り込もうとしている、となるのだ。
 そもそも、ある領主が要請されてもいないのに他人の領土に勝手に戦力を送り込むなど、常識で考えればあり得ない所業だ。だが、ロシーニ・クブッケ領主は敢えてそれを行った。
 しかも、元々両者の間は極めて険悪である。旅人かつ戦場での成り上がり者と先祖代々の貴族という出自自体もさることながら、幻想の中では良心的な領主と言えるウィルヘルミナと腐りきった悪徳貴族であるロシーニ・クブッケ領主では、反りが合うはずがなかった。実際、ロシーニ・クブッケ領主の側が兵力をチラつかせてウィルヘルミナに言うことを聞かせたり、その意趣返しやあるいはロシーニ・クブッケ領主の悪行を潰す目的でウィルヘルミナがローレットに依頼を出したりもしている。
 そんな相手が擁立する勇者候補生が自領に入るとなれば、とてもマナリスの森の魔物討伐だけで事が終わるとは思えない。
「しかし……お前達には当然頼らざるを得ないとして、それ以上の戦力は用意出来ない」
 すまなそうに、ウィルヘルミナが言った。バシータは鉄帝と接しており、鉄帝の侵略に備えるためにもウィルヘルミナは兵士を動かすことが出来ないでいる。
「心配は要りません。私に考えがあります」
 寛治が、眼鏡をクイと押し上げた。そのレンズが、キラリと光る。
「勇者候補生には、勇者候補生で対抗すればいいのです」

●バシータ領境防衛戦
 数日後。バシータとロシーニ・クブッケの領境にて、二つの数十人規模の集団が睨み合っている。片方は、ロシーニ・クブッケ領主と彼が集めた勇者候補生達、いわゆる偽勇者達。もう片方はウィルヘルミナと寛治含むイレギュラーズ、そして寛治が集めた勇者候補生達だ。
「領主であるにもかかわらず、領内の魔物を放置するとは怪しからんことである。
 この勇者候補生らと共に儂直々に討伐してくれる故、そこを退くが良い!」
 片方の集団を率いる壮年の貴族、ロシーニ・クブッケ領主オブト・ロイ・クブッケは、声も高らかにもう一方の集団にいるウィルヘルミナに告げた。この場にウィルヘルミナがいるとは、何と好都合か。オブトは自身の幸運に気分が高揚するのを感じていた。
 この場で憎き善人面の小娘を殺し、鬱憤を晴らせるとは――。
 オブトにとってマナリスの森の魔物退治は名目でしかなく、本命はバシータ領内に侵攻してウィルヘルミナを襲撃・殺害することだったのだ。
 ウィルヘルミナの代理だと言わんばかりに、寛治が前にずいと進み出てオブトに応える。
「クライアントの意向は、貴方方にお帰り願うことです。それに何より――」
 少しの間を置いて、寛治が続けた。
「ビジネスを抜きにしても、魔種の好きにさせるわけにはいきません」
「ええい、洒落臭い! 勇者の魔物討伐を邪魔する奴らを、蹴散らせぇ!」
「おおーっ!」
 きっぱりと告げる寛治に、これ以上の問答は不要とオブトは号令をかけ、偽勇者達が呼応する。
「皆さん、いいですか。ここで負けたら、私達は偽勇者の烙印を押されてしまいます。
 ですが、勝てばブレイブメダリオンを得られるのです。
 魔種の擁立した偽勇者など、蹴散らしてしまいましょう!」
「おおーっ」
 一方、ウィルヘルミナ側の勇者候補生達も、寛治の鼓舞に気勢を上げた。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回は新田さんのアフターアクションから、全体依頼<フィンブルの春>の内の1本をお送りします。
 私がウィルヘルミナ周りで運営してきたシナリオの敵役にして黒幕、悪徳貴族ロシーニ・クブッケ領主がとうとう自ら動き出しました。と言うか、新田さんのアフターアクションに動かされました(苦笑)
 マナリスの森の魔物討伐を名目にバシータへの侵攻を企ててウィルヘルミナを暗殺せんとする、オブトと偽勇者を退けて下さい。

●【重要】
 今回、処理としては勇者候補生VS偽勇者の戦況は魔種との戦いには影響しないとします。ですが、基本的には乱戦となるでしょう。
 範囲攻撃における【識別】の有無、【識別】が無い場合におけるフレンドリーファイアの判定については、今回は特に厳しくチェックしますのでご注意下さい(下手な【識別】無し攻撃によって、友軍である勇者候補生が不利になると言うことは十分あり得ます)。

●成功条件
 オブトと偽勇者を退ける(オブトと偽勇者の生死は不問)

●失敗条件
 ウィルヘルミナの死亡

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●ロケーション
 バシータとロシーニ・クブッケの領境です。広めの街道であり、街道から外れた場所も地形は平坦です。時間は昼間、天候は晴天。
 環境による戦闘へのペナルティーはありません。

●初期配置
 イレギュラーズとオブトの距離は最低40メートルとします。
 ウィルヘルミナと勇者候補生、偽勇者はそれぞれイレギュラーズ、オブトのすぐ後ろで横長の隊列を組んでいます。

●オブト・ロイ・クブッケ
 ウィルヘルミナの隣領、ロシーニ・クブッケの領主です。いわゆる悪徳貴族。属性は傲慢。
 魔種としての実力は不明ですが、全身鎧を着て剣を持っているところから、白兵戦闘は嗜んでいると見られます。

●偽勇者 ✕50
 オブトによって集められた偽勇者です。人員バランスは前衛多め、後衛少なめ。
 特にヒーラーが少なく、攻撃力に尖っています。
 勇者候補生達に何人の偽勇者を受け持たせるかをプレイングで決めることが出来ます(つまり、50人に満たない人数分は魔種と共にイレギュラーズと戦うことになります)。

●勇者候補生 ✕50
 新田さんが集めた勇者候補生です。配分は新田さんか新田さんに委任された人が決めることが出来ます。
 実力は概ね偽勇者と同程度か、わずかに優位なくらいです。
 特に指定が無い場合は、前衛後衛バランス良く、その中でもアタッカーとタンク、火力役とヒーラーのバランスも良い構成となります。
 指揮に関しても新田さんか新田さんに委任された人が行えます。特に指定が無ければ、ウィルヘルミナが担当してそれなりにいい感じに戦います。

●ウィルヘルミナ
 バシータ領主です。今回、新田さんにオブトらを阻止する依頼を出した依頼人でもあります。
 基本的に、イレギュラーズ達の指示に従って行動します。
 特に指示が無ければ、勇者候補生達を指揮しながら偽勇者達と戦います。
 元々軍人上がりでそれなりの実力はあり、偽勇者の一人二人程度なら余裕で相手出来るため、オブトから攻撃されない限り死亡はしないものとします。

●オブト関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
 『新婚夫婦を強奪せよ』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4478
 『<リーグルの唄>演目は奴隷オークション』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5265
 『<ヴァーリの裁決>馬に蹴られようとも、止めねばならぬ』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5424
 『<ヴァーリの裁決>人斬りは鮮血と殺戮を嗜む』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5425

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <フィンブルの春>イレギュラーズVS魔種領主、勇者候補生VS偽勇者Lv:20以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年04月27日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
黒鋼二刀
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
絶望を砕く者
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
アト・サイン(p3p001394)
観光客
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)
宝石の魔女
アクア・フィーリス(p3p006784)
憎悪の澱
クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)
血風妃
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
うそつき

リプレイ

●ここで、必ず!
「……たくさん人がいる。これ、みんな『勇者』?」
 敵味方合わせて百人にもなろうかと言う、勇者候補生と偽勇者達を見渡しながら、『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)は不思議そうにつぶやいた。こんなにも多くの人々が、勇者になりたいと願ってるのかと。
(――世界から『勇者』という役割を一方的に与えられた、わたしとは違うんだね)
 ルアナは元の世界で勇者として生まれ、数奇な人生を送ることになった。それだけに、こうも多くの者が勇者になりたいと願う、願えるのを、羨ましくさえ思う。
「魔種が勇者を率いるとは、これはこれで面白いかもしれませんね。いえ、滑稽とかそういことではなくそういうのも有りかなと。
 魔種に率いられる勇者。何だか、とても強そうで楽しいことになる気がしませんか?」
 『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は、自らが発した言葉の響きに、楽しそうな笑みを浮かべた。気に入らない相手を暴力で潰しにかかるようなこの一行が、どんな結末を迎えるのか楽しみで仕方ないのである。
「ニセモノの勇者なんて、いたんだ ……うん? でも何で、ニセモノ、なんだっけ? ……なんでも、いっか」
 『闇と炎』アクア・フィーリス(p3p006784)は不思議そうに首を傾げるが、その思案を打ち切った。偽勇者達が偽物である理由は何であれ、悪事を働くなら許しておかないだけのことだ。
「大丈夫……領主さんは、死なせない……その前に、そんな事する人を、殺す……! 私欲のために、平気で嘘をつくような奴は、生かしておけない……!」
 領主さんとは、『バシータ領主』ウィルヘルミナ=スマラクト=パラディース(p3n000144)のことだ。ウィルヘルミナとの仲が非常に険悪な魔種、ロシーニ・クブッケの領主オブト・ロイ・クブッケは、バシータの北端にある禁忌の森マナリスの魔物討伐を名目に、偽勇者を引き連れてバシータに押し入ろうとしていた。
 ある領主の領地に、要請もないのに別の領地の領主が兵を入れようとするなど常識的にあり得ぬ事である。ましてや、マナリスの森はバシータの鉄帝国境付近――つまり、ロシーニ・クブッケ側とは真逆にあるのだ。となればあまりにもオブトの行動は不自然であり、その目的がウィルヘルミナを襲撃し殺害することにあるのは、察しがついてもおかしくはなかった。
 そんな輩を許してはおけないと、理性の下に大人しい性格を保ちつつも、アクアは全身に闘志を漲らせた。
「良くも悪くも波紋の一端……と言うにはちと、事が大きすぎるな。クブッケ領主とやらには、ここいらで退場してもらおうかの、永遠にな」
 『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)の言う波紋とは、傭兵から奴隷商人が流入した事による『大奴隷市』を端緒とする、幻想で相次ぐ奴隷がらみの事件や魔物の襲撃のことだ。だがオブトのやっていることは、従えている人数は少ないとは言えれっきとした他領への侵攻であり、波紋の一端、で片付けるには事態が大きすぎた。そんな事態を引き起こしたオブトはここで討ってやろうと、クラウジアは自信満々に笑う。
(しかし……物語にでもなっていそうな弱きを助け強きを挫く、勧善懲悪構図じゃのう……)
 クラウジアの頭にはそんな考えも過ぎったが、かと言ってこの状況に胡座をかいているわけにもいかない。慢心していては、物語の様には行かず、脚を掬われることだってあるのだ。そんな事態を招かないようにと、クラウジアは笑みを浮かべたまま、内心で気を引き締めた。
(依頼はあくまで撃退ですが――ここで、オブトを始末します)
 眼鏡のフレームに指を当てクイッと押し上げながら、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は敵陣の真ん中に陣取るオブトを見据えた。そもそも魔種を生かしておく理由は無いし、さらに他のイレギュラーズ達に刺客を送った件も含めて様々な事件の黒幕となれば、禍根は断っておかねばならない。
 オブトをここで倒す気でいるのは、寛治だけではなかった。
「muuー? 領主の立場を使って、こっそり悪いことしようとしてたってことだよね? なんてことを……」
 予め他の仲間からオブトの起こした事件の経緯については聞いていた『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)だが、オブトの姿を見て改めてその事実を認識する。
「追い返すだけじゃまた同じことをたくらんできそうだし、たしかにここで倒さないとだめだね……。
 見るからに悪いやつって感じだし、勇者候補生やヴィルヘルミナがなにもされないように、ぼくがんばるよ!」
 小柄な身体に闘志を宿らせ、リュコスは意気込んだ。
(敵の首魁がわざわざ顔を出してくれるとはな。――まぁ、癌を切除するようなものだ。人斬りの一件やその他のことから、慈悲の一切もくれてやるものか)
 『死神二振』クロバ・フユツキ(p3p000145)はイレギュラーズや勇者候補生達の最前で、敵の最前中央にいるオブトと向かい合うように、腕を組みながら仁王立ちしていた。元々、オブトは悪事を働くにあたって自ら前に出てくることはなく、人を使って実行させるタイプである。クロバ自身も、オブトが仲間の領地に差し向けた魔種率いる人斬り集団と刃を交えていた。それだけに、オブトが自ら出撃しているこの状況は、悪事の黒幕を討つ好機と言えた。
 それにしても、幻想社会の病巣と言える腐敗貴族のオブトを討つのを癌の切除手術に例えるのは、言い得て妙であった。
(この手の悪党は手駒の残っている限り前に出て来ないものと思ってましたが……まあ、良い機会です。きっちり仕留めてしまいましょう)
 『血風妃』クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)は他の仲間達から離れて、両軍を横から眺められる位置に身を潜めていた。黒幕タイプの悪党であるオブトが表に姿を現したことは奇異に感じつつも、それだけに他の仲間達と同様に、今をオブトを討つ絶好の好機と捉えていた。
(それにしても……ふふ、楽しくなりそうです♪)
 オブト、そしてその後ろに居並ぶ偽勇者達を眺めながら、クシュリオーネは声を立てずに笑った。
「野戦かあ……得意分野じゃないんだけども」
 『観光客』アト・サイン(p3p001394)は頭をボリボリと掻きながら、ぼやいて見せた。だが、そうは言いつつもアトは勝つための準備をしっかりと整えている。
 アトが思い描いた戦術を元に、寛治に相談して集めてもらった勇者候補生の構成は、盾役三十、回復役十、遠距離火力役十となっている。盾役の列で受け止めた偽勇者達を、範囲攻撃で一網打尽にするのが狙いだ。
「これなら敵を圧殺できるだろうさ、勇者だ偽物だには興味はないが、『完封試合』は面白いだろう?」
「そうね、楽しみなのだわ」
 自信満々に笑みを浮かべるアトに、『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は頷きながら応じた。
(魔種の下で働くのだから、命など最初から惜しくはないでしょう? なら、ここで纏めて置いていって貰うのだわ)
 レジーナ自身は最初からオブトを全力で攻撃するつもりであり、わざわざ偽勇者を攻撃するつもりはないが、仮に偽勇者がオブトとの戦闘に割り込んでくるようであれば容赦なく範囲攻撃で一掃するつもりでいた。

●開戦!
「勇者の魔物討伐を邪魔する奴らを、蹴散らせぇ!」
「来るぞ、整然と後退しろ! 特に前衛、列は乱すなよ! 付け込まれるぞ」
 オブトが偽勇者達に進撃を命じると共に、ウィルヘルミナが勇者候補生達に後退を命じた。ウィルヘルミナの指揮は、事前にイレギュラーズ達と打ち合わせ決めておいた作戦どおりだ。
「突っ込むぞ! 皆、続いてくれ!」
 アトは自らの身体に英霊の魂を宿すと、瞬く間にオブトとの距離を詰めて斬りかかる。
「さて、お前は魔種だな? となれば勇者も領地も何も関係ない、生きているだけで害悪極まりないのだからね。滅びのアークの蒐集、ここで止めさせてもらう!」
「ぬうっ!?」
『風を纏いし波間に没したる国の剣』の刀身が、オブトに叩き付けられる。オブトの身体は全身鎧で守られているが、縮地でも使ったかのような速さを乗せた斬撃の衝撃までは殺しきれない。肩口に受けた痛烈な一撃に、オブトは顔を歪めた。
「人さまの領地に攻め込んでくるような人たちを、『勇者』とか言えないよ!」
 憤激と共に、ルアナもオブトへと突き進む。自身が勇者であるだけに、今回のオブトと偽勇者達のやり様は許せようものではなかった。
「貴方の相手はわたしだよ?暫くあそんで?」
「ええい、小癪な!」
 ルアナは、オブトをその場に縫い留めるべく前に立ち塞がった。ここでオブトを食い止めるのが、今回の戦闘におけるルアナの役割なのだ。憎悪するウィルヘルミナを前にして、ちょこまかと行く手を遮られたオブトは、苛ついたように吐き捨てた。
「いくよ! ええーい!」
「ぐっ……!」
 アトとルアナがオブトに接近したのを確認したリュコスは、二人に続いてオブトとの距離を一気に詰めると、太股を狙って蹴りを叩き込んだ。速度の乗った一撃は鎧の上からでもオブトに苦痛を与え、隙を作らせた。
「私欲の限りを尽くして民の命を弄んだ事、その命で贖え! 死神クロバ・フユツキ――出陣(で)るぞ!」
 クロバが、咆えながらオブトへと突き進む。その手にした『鬼哭・紅葉』と『GB・アストライア=ディザイア』の刀身がこれでもかと言わんばかりにオブトに叩き込まれていった。
「随分と金に任せてオーダーしたような鎧を着ているようだが、相手が悪かったな。俺の剣は最凶の邪剣使いにすら邪道と言われる程手癖が悪いんでね!」
「お、おのれえっ!」
 猛烈な勢いで振るわれる二刀に、オブトの鎧は少しずつ傷つき歪み、その顔には焦りの色が浮かび始めていた。
(思い知らせてやる! お前が得たのはウィルヘルミナを討つ”幸運”ではなく、お前自身を討つ”死神(ハードラック)”そのものだということを!)
 憤怒を宿したその形相には、鬼気迫るものがあった。
「下賎の者が、ようも儂の邪魔をしおって……小娘よりも先に、貴様らを殺してくれるわ!」
「ぐっ!」
 しかしオブトの方も、やられっぱなしではいない。手にしている剣で、クロバを袈裟に斬りつけた。ザックリと、クロバの身体に深い傷が刻まれる。
(皆さんの命を癒し守るのが、私の使命――!)
 その様を見た四音はすかさず、調和の力を癒やしの力に換えて、クロバを回復させる。だが、クロバの傷は完全には癒えなかった。それでも、ある程度は傷が塞がり、苦しげな表情も呼吸も幾分かは楽になったように見える。
「――助かる、四音」
 オブトと向き合ったまま、クロバは四音に礼を述べた。
「わざわざご足労いただき恐縮です、オブト様。葬儀の手配はお任せを」
「戯れ言を――ぐっ!」
 オブトの頭を狙い、寛治は黒いステッキ傘の先端を向ける。寛治からの殺気を感じたオブトが顔を寛治の方へ向けると同時に、仕込み銃であるステッキ傘から放たれた銃弾が、オブトの頭部に突き刺さる。常人なら即死の一撃だが、オブトは頭をふらつかせつつも立ち続けていた。
「流石に魔種、一筋縄ではいきませんか」
 だが、歴戦の寛治からすればこの程度は予想済みである。動じることなく、寛治は次の狙撃の準備に入った。
「我が名は、レジーナ・カームバンクル。青薔薇のタナトスの紋章と共に、冥土の土産に取っておきなさい」
 高らかにそう告げたレジーナは、やや距離を詰めながら、オブトの首を狙って暗器を放つ。暗器はチッとオブトの首筋を掠め、一筋の赤い血を流させた。
「何だ、この程度……ぬっ!? そう言うことか、貴様ぁ……!」
 大したことはない傷だと言わんばかりのオブトだったが、直後、首筋の傷を押さえて顔を歪ませる。暗器に塗られていた毒が、身体中を巡り始めたのだ。

 オブトがその場に押し止められてイレギュラーズ達と交戦しているうちに、偽勇者達は前進し、勇者候補生達は後退していた。しかし勇者候補生達の後退は二十メートルほどであり、偽勇者達に追いすがられてしまう。もっとも、これも作戦の内である。戦線は二つに分かれ、イレギュラーズ対オブト、勇者候補生対偽勇者と言う形になっていた。
 偽勇者達は勇者候補生の陣の中に食い込もうとするが、盾を持ち立ちはだかる前衛に防がれて、果たせないでいる。そこを狙って、勇者候補生達を支援するべく、アクア、クラウジア、クシュリオーネが範囲攻撃を仕掛けた。
「まとめて、蹴散らすの……!」
 アクアの背から、光の翼が顕現する。ばさりとその翼が羽ばたくと、光の羽根が舞い散った。羽根は光の刃となって、偽勇者達を傷つけていく。
「ぎゃあっ!」
「うわあっ!」
 傷を負い、血を流す偽勇者達が悲鳴をあげた。
「まだまだ、終わらぬぞ。こうじゃ」
 戦場を広く見渡せるように少しだけ高度を取ったクラウジアが、偽勇者達を見下ろしながら、アクアの攻撃に重ねるように邪悪を灼く裁きの光を偽勇者達に浴びせていく。
「うあっ!」
「ひいいっ!」
 身体を、とりわけ刻まれた傷を灼かれ、偽勇者達は悶え苦しむ。
「これで、倒れて下さいね」
「ぐあっ……!」
「ううっ……!」
 そこにクシュリオーネが降らせた鋼の雨が、偽勇者達を戦闘不能に追い込んだ。これまで受けた攻撃に加えて、幾多もの鋼の雨を受けては、偽勇者達は流石に耐えきれず、バタバタと倒れていった。

●劣勢~オブトの撤退
 勇者候補生対偽勇者の戦線は、イレギュラーズ達の援護もあって勇者候補生側が優勢だった。逆に、イレギュラーズ対オブトの方は、イレギュラーズの方が押されていた。特に、オブトに猛攻を仕掛けていたクロバと、オブトの敵意を引き付けていたルアナの傷は重い。
(何とか、皆がオブトを押さえてくれているうちに勝負を決めないと……!)
「ガキが……ちょこまかと……!」
 魔種の攻撃を食らえば、自分はひとたまりもないだろう。故に、味方が耐えきれるうちに決着を付けないと危ない。ヒットアンドアウェイを繰り返しながらオブトを攻撃していたリュコスは、背後からオブトに接近し、スピードを乗せた蹴りを叩き付けた。その衝撃に、オブトは身を仰け反らせる。
 このガキも鬱陶しい。だが、それよりも目の前の三匹だ。距離を取ったリュコスは追わずに、オブトはその場で剣を横薙ぎに振るった。
「かっ……は……」
「うっ……」
「くっ……」
 横薙ぎに振るわれた剛剣が、クロバとルアナ、アトに命中する。その一撃で、クロバの身体がぐらり、と崩れ落ちかけた。だが。
「……お前だけは、ここで……! おおおおおおっ!」
 『GB・アストライア=ディザイア』を杖代わりにして、クロバは身体を支えた。のみならず、咆哮を放ちながら二刀でオブトに斬りつける。オブトをここで倒すために、一撃でも多く――鬼神の如く二刀を振るい続けるクロバの頭には、もうそれしかなかった。
 オブトの鎧はこれまでの猛攻で至る所が歪み、貫かれて、傷ついていたが、クロバの攻撃はさらにオブトの鎧を、そしてその中身を、貫き斬り裂いていく。ボロボロになった鎧が、さらに紅く染まっていった。
(何方にも危機を迎えさせないと、決めましたのに……!)
(何という事じゃ……慢心したつもりは、ないのじゃがな)
 忸怩たる思いを抱えながらも、四音は天使の救済の如き音色を奏でた。同時にクラウジアも、四音に合わせて救済の音色を響かせ、クロバとルアナ、アトを癒やしていった。四音も、そして途中から回復に回ったクラウジアも、もちろん全力で癒やしを施している。そうでなければ、クロバだけでなくルアナも既に倒れていたはずだ。だが、魔種の一撃の威力が二人の癒やしを上回っていたと言うしかない。
「クソッ……やられた分は、やり返すぞ!」
「ぐっ……ふぅっ……」
 回避の技量に優れているアトの傷は、クロバやルアナほどには重くはない。だが、それでもオブトの攻撃を完全に避けきることは出来ないでいた。ならばその分を返すまでと、アトは英霊の魂を身に宿し、『風を纏いし波間に没したる国の剣』を突き出す。捨て身の刺突は、オブトの鎧の破損した部位を狙い過たずに通り抜け、ズッ、と鈍い衝撃を伝えながらオブトの身体を深々と貫いていった。鮮血が、刀身を流れて柄まで伝わっていく。
「……ここは、通さないよ。貴方は、ここで潰えるんだ!」
「うぐっ……本当に、小癪な娘だ!」
 そのためなら、自らの全てを賭けてみせる。それが、わたしの『勇気』だ――『霊樹の大剣』を大上段に振りかぶったルアナは、その意志を込めて大剣を全力で振り下ろす。その一撃はオブトの肩口に命中し、鎧を斬り裂きながら刀身を鎖骨の下まで食い込ませた。ぶしゅうっ、と鮮血が血のように噴き出てくる。
(如何にも、流れが良くないですね……ですが!)
「ぬうっ……またか!」
 オブトは確かに傷ついているのだが、未だ倒れる様子を見せない。一方味方はと言えば、クロバは既にパンドラを費やし、足止め役のルアナの傷も深い。だが、それでも何とかしてオブトはここで討たねばならない。オブトの心臓近く、鎧の破損部位に仕込み銃の照準を合わせた寛治は、一射、そしてすかさずまた一射と狙い撃った。この一度に二度の射撃は気力の消耗は激しいのだが、最早機会を選んで出し惜しみしている余裕は無い。
 二発の銃弾は、オブトの体内深くへと消えていった。ぷしゅうっ、と弾痕から血が飛び出してくる。オブトは苛ついた様子で、寛治を睨んだ。
「魔種に堕ちるなんて、領主の仕事は大変だったのかしら? それとも別の理由があるのかしらね」
「それを貴様ら如きに語る必要はないわ! ……うぐっ!」
 レジーナは問いかけながら、漆黒の大顎を召びだしオブトへと放つ。大顎は、問いへの回答を拒絶したオブトの脇腹に、ガブリと食いついた。牙が鎧を貫き、深々と中へと食い込んでいく。ボトボトと、穿たれた穴から血が滴り落ちていった。
「これ以上、みんなは……やらせないの……」
「待たせましたね、いきますよ!」
「うぐうううっ! ……おのれ! 有象無象が、ぞろぞろと!」
 勇者候補生の援護をしていたアクアとクシュリオーネは、偽勇者が半減したことと仲間達の戦況が良くないことから、オブトへの攻撃に行動を切り替えた。アクアはオブトの行動を阻害するべく敵に邪悪を潜り込ませる影の手を伸ばし、クシュリオーネは速射でオブトの頭を狙う。影の手のもたらす邪悪に精神を苛まれ、頭に銃弾を叩き込まれたオブトは、苦しげに頭を抱え込んだ。

 ――ウィルヘルミナや勇者候補生達は、クラウジア、アクア、クシュリオーネからの援護もあり、無事に偽勇者達を全滅させた。だが、イレギュラーズ達はオブトを倒すことは出来なかった。
 オブトにクロバ、ルアナが倒されると、寛治がオブトの敵意を引き受け、アトが足止め役となる。だが、寛治、リュコスがオブトの剣から放たれた衝撃波によって戦闘不能となり、オブトの足を止めていたアトも遂には力尽きた。しかし、その時点でオブトにも残るイレギュラーズを相手してまでウィルヘルミナを殺害する余力は残っておらず、悔しがりながらロシーニ・クブッケへと撤退する。
 一方、半数が倒れたイレギュラーズ達の側にも、オブトを追撃する余力はなかった。下手に追撃して被害を拡大すれば、ウィルヘルミナの身が危うくなる。依頼人であるウィルヘルミナを手にかけられるのは、絶対に避けねばならないことだった。そのため、イレギュラーズ達もオブトを討てなかった無念に歯噛みしながら、その撤退を見逃さざるを得なかった。

成否

成功

MVP

ルアナ・テルフォード(p3p000291)
絶望を砕く者

状態異常

クロバ・フユツキ(p3p000145)[重傷]
黒鋼二刀
ルアナ・テルフォード(p3p000291)[重傷]
絶望を砕く者
アト・サイン(p3p001394)[重傷]
観光客
新田 寛治(p3p005073)[重傷]
ファンドマネージャ
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)[重傷]
うそつき

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。激戦の結果、偽勇者は壊滅し、オブトはウィルヘルミナ殺害を諦めて撤退しました。依頼自体は成功です。オブト討伐に関しては、惜しかった、とだけ申し上げておきます。
 MVPは、ルアナさんにお送りします。被害がこれですんだのは、貴女の足止めがあればこそ、です。

 それでは、お疲れ様でした!

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