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シナリオ詳細

己が罪を識り、己が死を望み

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●耐えがたき罪の記憶
 殺風景な部屋の中に、ひっく、ひっくと幼い少女の嗚咽が響く。
(私は……何と言うことをしてしまったの……? 誰か、私を殺して……)
 耐えがたい罪の意識に苛まれながら、少女はベッドの上で布団にくるまりながら泣き続けた。

 その少女フィーアは、かつてアドラステイアの聖銃士だった。だが、近隣のスウィードへの攻撃に二度失敗し、イレギュラーズ達によって捕縛された。
 武装解除のために着けていた白い騎士鎧を脱がされた瞬間、アドラステイアでの洗脳が解けたフィーアの意識は、たくさんの犯した罪を己が罪として認識したのだ。
 キシェフを得るために、周囲の子供を密告し魔女裁判にかけさせたり、あるいは魔女裁判にかけられた子供を有罪として『疑雲の渓』へと突き落とすのは、日常の出来事となっていた。聖銃士になってからは、イーカタの町を人も建物も聖獣様によって跡形もなく焼き払った。また、聖獣様によってスウィードの人々を互いに狂わせ、争わせた。
 元々正義を重んじる天義国民としての教育を受けていたフィーアの心に、アドラステイアで洗脳されていた間の記憶は耐えがたい重みとなってのしかかった。
 フィーアは自らを断罪したかったが、出来なかった。せっかく捕えた聖銃士を自殺させないよう、刃物や鋭利な物、首を絞められる紐などは徹底して取り上げられていたからだ。
 故にフィーアは、監禁されている部屋で泣き暮らしながら、誰かに殺されることを望んでいた。

●下された奪還指令
 スウィードに二度目の攻撃を行うべく出撃した聖銃士フィーアが戻ってこない。これは、『ティーチャー』と呼ばれる大人にとって由々しき事態だった。フィーアの口から、アドラステイアについてどんな情報が漏れるかわかったものではない。
 故に『ティーチャー』は、フィーアの奪還、あるいは処分を決めて、一人の聖銃士を呼び出した。
「聖銃士フィーアが、どうやら捕縛されたようです。このまま、聖銃士フィーアを不心得者の元に置いておくわけにはいきません。
 貴方達は急ぎスウィードに向かい、聖銃士フィーアの身柄を奪還するのです。もし奪還が不可能なら――わかりますね?」
「はい、わかりました」
 黒いローブを被った聖銃士は『ティーチャー』の指示に素直に頷くと、鎧も身体も漆黒の六枚羽根の天使の如き聖獣を引き連れてスウィードへと向かった。

●聖銃士、襲来
 一方、アドラステイアが聖銃士奪還に動き出すことは、スウィード領主も予測し危惧していた。故にローレットへと依頼が飛んでおり、イレギュラーズが警備に当たっていた。
 イレギュラーズがスウィードに入って一日もしないうちに、傷だらけの伝令が聖銃士の襲来を告げる。
「聖銃士が、町の入口の衛兵を突破しました! もうすぐ、ここに来ると思われます!
 イレギュラーズの皆様、よろしくお願いします!」
 伝令はそこまで告げると、バタリと気を失って倒れた。イレギュラーズ達は伝令を安全な場所へ運ぶと同時に、聖銃士を迎え撃つ準備に入るのだった。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回は、アドラステイアのシナリオをお送りします。
 過去のシナリオで捕縛された聖銃士を奪還すべく、アドラステイアの別の聖銃士が動き出しました。
 迫り来る聖銃士から、元聖銃士フィーアの身柄を守って下さいますようお願い致します。

●成功条件
 フィーアを奪還もしくは殺害しようとする聖銃士から、フィーアを守り抜く。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 スウィード領主の館。時間は昼、天候は晴。
 玄関前の庭で迎え撃つか、館の中で迎え撃つかは選べます。
 館の前で迎え撃つなら、保護結界は必要でしょう。
 なお、フィーアがいる部屋は二階の一室ですが、聖銃士や聖獣が空を飛んでそこに直接行くことはないものとします(が、フィーアの所在がバレたらそこを攻撃される可能性はあります)。

●聖銃士
 黒いローブを纏った少年(?)です。魔法とそれに伴うBSでイレギュラーズ達を攻撃してきます。
 能力傾向としては、命中、攻撃力、生命力、特殊抵抗が高め。一方、回避、防御技術はかなり低くなっています。

・攻撃手段など
 火球 神/近~超/範 【鬼道】【火炎】【業炎】【炎獄】
 稲妻 神超貫 【鬼道】【痺れ】【ショック】【感電】
 吹雪 神自域 【鬼道】【識別】【凍結】【氷結】【氷漬】
 障壁 【付与】【副】
 精神無効
 
●聖獣
 聖銃士の引き連れている聖獣です。全身漆黒の六枚羽根の天使が漆黒の騎士鎧を着たような格好をしています。顔はのっぺらぼうです。
 能力傾向としては、命中、攻撃力、生命力、防御技術が高め。特殊抵抗はそこそこで、回避は低くなっています。
 また、EXA判定とは関係なしに確定で1ターンに2回行動し、うち1回を聖銃士を庇うことに費やします。

・攻撃手段など
 漆黒の剣 物至単 【邪道】【出血】【流血】
 薙ぎ払い 物至範 【邪道】【識別】【出血】
 闇の弾丸 神遠単 【邪道】【毒】【猛毒】
 精神無効
 【怒り】無効
 2回行動

●フィーア
 かつてアドラステイアの聖銃士でしたが、今では洗脳が解け、アドラステイアにいた間にした事への罪の意識に苦しんでいます。
 自ら死を望んでいるため、聖銃士が来たとわかれば、聖銃士に殺してもらおうとする危険があります。聖銃士に攻撃された場合、回避判定も防御技術判定も放棄して死のうとします。
 襲撃の間、彼女を如何するか(誰かに任せるなど)は考えておく必要があるでしょう。
 なお、罪の意識を和らげるなどの説得は現時点ではかなり困難で、皆さんが期待するであろう結果は(少なくともこのシナリオ中においては)まず出ないと考えて下さい。

●関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
 『惨劇もたらす金色の蓮』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4488
 『紅の雨』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5180

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • 己が罪を識り、己が死を望み完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月25日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
アト・サイン(p3p001394)
観光客
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)
血風妃
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
流星の狩人
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ

リプレイ

●フィーアを前に
「……何の、用ですか? 私を、断罪してくれるのですか?」
 普段接している相手とは全く異なるイレギュラーズ達の姿に、かつてアドラステイアの聖銃士であった少女フィーアはベッドの上からそう問うた。シン、とした沈んだ空気が、殺風景な部屋の中を支配する。

 アドラステイアからほど近くにある街スウィードは、二度聖獣の脅威にさらされた。その聖獣を連れ、督戦していた聖銃士がフィーアだった。洗脳が解けて己の罪を知ったフィーアが自らの死を望む一方で、スウィード領主はせっかく捕えた聖銃士を自殺させないように監禁しつつ、アドラステイアがフィーアの身柄を奪い返しに来るかも知れないと警戒し、ローレットに警備の依頼を出していた。
 依頼を達成するだけならわざわざフィーアに接触する必要もないのではあるが、アドラステイアの被害者でもある少女が己の過去に苦しみ死を望んでいるとなれば、生きる方向にその心を変えたいと思うのは人の情であろう。
 イレギュラーズ達はフィーアとの接触を望み、スウィード領主もその要望を受入れ、フィーアを監禁している部屋に通したのだった。
「――貴女の事情は聞きました。記憶を取り戻さねば、洗脳が解けなければ、未だ幸福であったかもしれません」
 ベッドの横でしゃがみこみ、フィーアと視線の高さを合わせた『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)が、ゆっくりと口を開いてフィーアに話しかけた。
「死ねば、確かに楽になれるのでしょう。ですが、それは逃げだ。
 貴女には、教えてもらわねばならぬことがたくさんある。あの都市のこと、あの薬のこと――だから私は、貴女が死ぬことを許さない。
 これは私のエゴです、私のエゴで貴方を苦しませます。だから、どうぞ恨んでください」
(――ああ。この人達も、この館の人達と同じように、私を死なせまいとするんだ)
 自分を断罪してくれるのではと言う微かな希望もあったが、死ぬことを許さないと言う正純の言葉に、フィーアは正純達を自分をこの部屋に監禁して死なせまいとするスウィード領主達と同じとみなした。
「そう――ですか。貴方も、私に生きて苦しめというのですね」
 フィーアは俯いて正純から視線を外すと、それだけを返した。そこには、相手を恨むような感情の強さは感じられなかった。
(これでいい――わけが無いですね。私は本当に、力不足だ)
 正純は、自らの言葉が上手く働かなかったらしいことに、心の中で臍を咬む。だがこれは正純に力が足りないと言うよりも、状況が悪すぎたと言うべきであろう。洗脳が解けたばかりの心に、自らが為したあまりにも多大な罪の記憶は重すぎたのだ。
 だからと言って、正純の無念が晴れるわけでもない。正純は無念を抱きつつも、仲間達に後を託すことにした。
(――「悪」が「生き続けること」を許せないお国柄ゆえ、なのでしょうか)
 フィーアがこうも己が死を望み続ける理由を、『血風妃』クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)はそう推察する。実際、その推察どおり、天義の国民性はフィーアに大きな影響を与えていた。
「――だって、それだけの大罪を犯しておいてさっさと死ぬなんて、虫が良過ぎますもの」
 自らの言葉に続くように紡がれたクシュリオーネの言葉に、フィーアはビクッと大きく身を震わせ、毛布に顔を埋めた。
「……ぅ、ぅ、うあぁっ……」
「そうやってこれから数十年、罪の意識に苦しみ続けるくらいでなければ、『貴女に殺された』人達が浮かばれないでしょう。
 そもそも『悪である貴女』に『裁きを下す権利』があると思いますか? それは貴女が『正義』だと思う者の権利です」
 聞きたくないと耳を塞ぎ嗚咽を漏らすフィーアに、クシュリオーネは続ける。その言葉は、フィーアが死を望む意志を挫かんとするがために放たれており、また厳しくとも正論ではあったが、少なくとも今のフィーアにとっては酷と言えた。

 フィーアの嗚咽が落ち着くまでじっと待ってから、『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)が様子を慎重に見定めながらに語りかける。
「――今の貴女に、私の言葉が届くのかは分からない。けど、生き残った以上は罪と向き合って、少しでも償う為に生きて」
 花丸の言葉を、フィーアはただ押し黙って聞いている。その罪の記憶と向き合いながら生きるのが苦しいのだ。だから死を望んでいるのだ。それなのに、如何してこの人達は生きることを強いるのか。
「安易に死のうなんて、きっと貴方の罪が……貴女が殺した人達が、貴女を許さない」
「…………」
 続く花丸の言葉もフィーアには聞こえこそしたものの、フィーアはただ力無く俯き続けるままだった。
「わたしから見れば聖銃士の子供達は被害者。なんとかして助けたいのに……なんでフィーアはあんな態度なの?」
 仲間達がフィーアに声をかける様子を離れて見ていた『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は、頑ななフィーアの態度に困惑していた。フィーアが死を望まずに、生を望むようになって欲しいとココロは願う。だが、仲間達が語りかけた結果を見るに、どんな言葉をかければいいのかがわからなかった。
「フィーアさんも難儀ですね。全部アドラステイアのせいにして開き直ればいいのに。ま、それが出来ないほど純粋なんでしょうけど……くくっ」
 ココロが漏らしたつぶやきに、『悪徳貴族』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)は喉を鳴らして笑いつつ、小声で独り言ちる。ウィルドの言は、フィーアが苦しむに至る理由を概ね言い当てていた。アドラステイアの洗脳のせいだから自分の罪ではないと割り切れれば、フィーアが死を望むほどに罪の意識に苦しむことはない。もっとも、それが出来ないからこそ、フィーアは罪の意識に苦しんでいるのだが。
(それにしても、相変わらずアドラステイアのやることは悪趣味ですね……私なら、もっと上手くガキどもを使いこなすんですけど)
 壁にもたれて腕を組み、そんなことを考えながらウィルドは目を瞑る。
 一方、フィーアが心を開くにはまだ時間が足りないのかと、ココロは項垂れた。

「――人を殺した罪がその身を苛む気持ちを、全く理解しないと言ったら嘘だ。
 痛いだろう。苦しいだろう。……抱えて生きるくらいなら、死んだ方がましだと思うだろう……私もだ」
 最後にフィーアに語りかけたのは、『芽吹きの心』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)だ。俯いていたフィーアは頭を上げると、ハッとした表情でシキの顔を見る。
 シキが示したのは、フィーアへの共感。処刑人と言う過去を持つが故に示せたそれは、洗脳が解けて以来フィーアが初めて示されたものだった。
 自分と同じ罪を、苦しさを抱いて、如何してこの人は生きていられるのだろう。そんな疑問が、フィーアの心に沸き起こる。
「それでも、それでもね――自分勝手に、自分のこと棚に上げて、君に『生きて』って言いたくなっちゃった。ごめんね」
 申し訳なさそうに告げるシキに、フィーアの心はさらに疑問に包まれる。自分を死なせまい、生かそうとする人は何人も見てきたが、謝りながらそれを告げるシキは、フィーアの目には奇異に映った。
「――――」
 微かに、フィーアの口が開きかける。が、戸惑いが、躊躇が、その続きを発することを許さなかった。

●聖銃士、襲来
「……本当に、お出ましになるとはねえ」
 領主の館の屋根でアドラステイア側の襲撃を警戒していた『日向の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は、制止する兵士達を蹴散らし真っ直ぐ館に向かってくる聖銃士と聖獣の姿を認めると、独り言ちた。
(洗脳した子供は使い捨てるのかと思ってたけど、奪還に躍起になるなんてよほど人手不足なのか、それともよっぽど知られちゃマズい事でもあんのか。
 ま、宗教団体なんてどこも似たり寄ったり……は言い過ぎかな)
 そんな思案をしながらも、ミヅハの身体は敵の襲来を仲間に知らせるべく、速やかに館の中へと戻っていた。ミヅハの報を受けたイレギュラーズ達は、速やかに迎撃の準備を整えていく。
 フィーアは自由にしておいては聖銃士の前に飛び出していく危険があると判断され、手足を縛り、猿轡を噛まして拘束することになった。その側には、監視のために領主自らがついている。

(よし、迎え撃つぞ。この庭そのものが、キルゾーンだ)
 館の玄関前に構築したバリケードの奥で、腕を組んで待ち叶えているのは『観光客』アト・サイン(p3p001394)だ。バリケードは館中のテーブルやソファ、食器棚やあるいは扉と言ったもので構築されており、そのバリケードや館の周囲には、有刺鉄線が張り巡らされていた。
 アトの「ちょいと屋敷中のもの、使わせてもらうよ! 弁償代はローレットのレオンにツケといてくれ!」との言葉に、それなりに善人ではある領主が苦笑いを交えながら応じた結果である。
 味方はバリケードの陰か、一階の窓の奥に隠れており、聖銃士から見ればアトしかその場にいないように見える。
「小賢しいことをするね……でも、そんな準備をすると言うことは、僕の狙いはわかっているんだよね。
 大人しく通してくれれば、怪我をしないですむんだけど」
「そう言われて、『はいそうですか』なんて答えるくらいなら、こんな面倒な準備はしない」
「そうだろうね……それじゃ、突破するまでだよ!」
 言葉を交わし合う間に、聖銃士もアトも攻撃の準備は整えていた。聖銃士の雷撃と聖獣の闇の弾丸がアトを襲うが、アトはバリケードに身を隠してやり過ごすと、すかさず『ゴンヒアリム傑作のSAA』を撃って反撃する。マグナム弾は聖銃士に直撃するかに見えたが、聖獣が盾となって受け止めた。
「聖獣は聖銃士の盾になるのですね……それなら!」
 まず倒すべきは聖獣とばかりに、一階の窓から姿を現したクシュリオーネが念じつつ聖獣の一点を指差し、指を振る。クシュリオーネの業の一つ、『Der Spaltener』だ。指差されていた一点の空間が、聖獣の身体ごと断裂された。突如避けた自らの身体に、聖獣は苦しそうに身体を反らせる。
「しっかしよぉ、今までの聖獣に比べりゃまだマシな外見だけど、なんであんな真っ黒で禍々しいんだ?
 製作者のシュミなんか、製法に問題外見あんのか……っと! 今はそれどころじゃねーな!」
 クシュリオーネとは別の一階の窓に身を隠していたミヅハは、騎士鎧を着た六枚羽根の、全身漆黒ののっぺらぼうの天使と言った聖獣の姿を目にして独り言ちた。
 だが、ミヅハは戦闘中だとすぐに思考を打ち切ると、『太陽弓 アルコ・デル・ソル』の弦を引き絞り、狙いを定める。同時に放たれた二本の矢は、聖獣ののっぺらぼうの頭部に深々と突き刺さった。聖獣は痛そうに、矢の刺さった部位を掌で押さえる。
「攻撃と守りとを両立させてくるとは、鬱陶しいですね────この祈り、明けの明星、まつろわぬ神に奉る」
 聖銃士の盾となりつつ攻撃もしてくる聖獣を厄介と見た正純は、バリケードの陰から姿を現すと、神弓『天星弓・星火燎原』の弦を引きながら天津甕星に祈りを捧げる。祈りに応えるかのように魔性が矢を包み込んだ。放たれたその矢は、騎士鎧もろとも聖獣の漆黒の身体を侵食しながら貫通し、穴を穿つ。あまりの苦痛に、聖獣はぶんぶんと前後に上半身を振って悶え苦しむ。
「まずは、ご挨拶だ……直撃させる!」
 続いてシキが、漆黒の大顎を召びつつバリケードの陰から飛び出した。シキによって放たれた大顎は、聖獣の横腹にガブリと食いつき深々と牙を突き立てた。紅い血が幾筋も、突き刺さった牙の痕からだらだらと流れ落ちていく。
 遠距離からの攻撃が終わると、花丸とウィルドがバリケードの陰から駆け出して、聖獣と聖銃士に肉薄した。
「その鎧、砕いてあげる! はああああっ!」
 裂帛の気合いを放つと共に、花丸は硬く傷だらけの拳を渾身の力を込めて、聖獣の騎士鎧に叩き付けた。拳を受けた部分が、瞬く間にバキバキバキ、と砕け散り穿たれる。騎士鎧を砕き貫通した拳は、聖獣の身体の奥深くに食い込んだ。聖獣はその一撃に、身体をくの字に折り曲げる。
(さて皆さん、攻撃は任せましたよ)
 ウィルドは、前進を阻む壁のように聖銃士と聖獣の前に立ちはだかった。聖銃士と聖獣の足を止めるのが、今回の戦闘におけるウィルドの役割だ。
「――よお、よく来たな哀れなクソガキ。俺と遊ぼうぜ?」
「くっ……邪魔だ、鬱陶しい! お前なんかと、遊んでる暇はない!」
 余裕の笑みを浮かべながら前を塞ぐウィルドに、聖銃士は苛つきを隠そうともせずに叫びながら返した。
(フィーアを、アドラステイアなんかに戻させない――!)
 今は死を望んでいても、いつか生を望むようになって欲しい。過去に苦しみ泣くのではなく、未来を信じて笑えるようになって欲しい。胸に膨らむ想いに動かされるように、ココロは付与術式を構築していった。付与術式は正純に、より強い一撃を放つ力を与えた。

●撃退、その後
 イレギュラーズVS聖銃士&聖獣の決着は、早々に決着した。任務達成は不可能と見た聖銃士が、早期の撤退を選択したからだ。
 アトのマグナム弾、ミヅハと正純の射る矢、クシュリオーネによる空間断裂、花丸の拳、シキの放つ黒き大顎が、瞬く間に聖獣を深く傷つけていく。一方で、聖銃士と聖獣はウィルドによって前進を阻まれ、最初の位置から動けなくなっていた。
 聖銃士は吹雪を吹かせ、聖獣は漆黒の剣を振り回してウィルドと花丸、そして接近してきたシキを排除せんとするが、回避に長けた花丸にはほぼ当てられず、守りに長けたウィルドにはまともに傷つけられないでいた。シキの受けた傷は、すかさずココロが癒やしていく。
 その状況で延々と戦い続けるほど、聖銃士も馬鹿ではなかった。このまま戦えば、任務の成功どころか聖獣を失ったり、果ては自分がフィーアと同じように虜囚となりかねないのは明らかだった。故に、聖獣にまだ余力がある内に、聖銃士達は逃走することにしたのだ。

 今回の聖銃士と聖獣を退け、その後もしばらくアドラステイアからの襲撃がないことを確認したイレギュラーズ達は、スウィードから引き上げた。
 フィーアは拘束を解かれた後、その理由を問うてアドラステイアから聖銃士がフィーアを奪還しに来ていたことを聞かされると、酷く悔しがり、悲しんだ。だからこそ、フィーアを拘束したイレギュラーズ達の判断は間違ってなかったとも言えるのだが。
 その後のフィーアは、イレギュラーズ達に対しては無反応を貫いた。だが、シキにだけは微かにではあるが反応する様子を見せた。
 ともかく、依頼自体は成功してフィーアの身柄自体は守り抜けたのだが、語りかけてみてもフィーアに生きる意志を与えられなかったと言う点で――元より、それは極めて難しいことではあるのだが――帰途に着くイレギュラーズ達の足取りは、軽いものとはならなかった。

成否

成功

MVP

ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ

状態異常

なし

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんのおかげで、フィーアは聖銃士の襲撃から守られました。
 MVPは、聖銃士と聖獣双方の前進を阻害し食い止めたウィルドさんにお送りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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