オムカエ

オープニング

●深夜二時のゲーム配信
「こんばんわー！ゲーム実況者のキョウでーす！」
　爽やかな男性の声のあとパソコンのモニターには白い文字でコメントが流れていく。
　加速していく来場者カウンターは彼の人気を物語っていた。
「えー皆様、配信に来てくれてありがとうございます！　今回はねぇ」
　キョウが操作を行うとタイトル画面が表示された。
『オムカエ』
　黒の背景で赤い文字のみのそれはフリーホラーゲームなのだという。

「このオムカエってゲーム。まだクリアした人がいないんだって！　難しすぎるのか怖すぎるのかわかんないけど……そしてちょっと怖い噂があるのね」
　勿体ぶるキョウに視聴者は何々？　とお決まりのコメントを返す。
「このゲームね……プレイした人が実際に『オムカエ』されちゃうんだって。だから一人もクリアした人が居ないんだって」
　わざとらしく声を潜めたキョウに「嘘乙」というコメントが流れる。えーひどーい！　などと笑い返しながらキョウは続けた。

「まぁ、さすがにそれは只の都市伝説だと思うけど。やっぱりホラーゲーム好きとしては見逃せないわけですよ！　と言う訳で早速プレイしていくよ！　えっとまず主人公の名前を俺と同じにして……」
　そしてキョウは『NEW　GAME』のボタンを押した。

●オムカエ
「お前さん達ゲーム好きかい？　俺はなんていうんだ、最近のゲームは酔っちまうから苦手なんだが……ああ、失敗しちまった」
　ゲームオーバーの文字が表示された画面から朧はあなた方の方を振り返った。
　それなりに、と返せばうんうんと朧は満足げに頷く。
「今回はとあるゲーム実況者……ああ、うん異世界ではゲームをプレイする様を動画にしたり配信する職業があるんだがね。そのお人を守ってほしいのさ」
　どうやら今回とあるゲーム実況者がプレイする予定のゲームは実際に人を襲うのだという。
　正しくはゲームを始めた時から現実とリンクが始まりゲームの中の悪霊がプレイした者を殺しに来るのだそうだ。
「ま、当然そんなの都市伝説だと思ってプレイして――クリアする前に殺されちまうんだ」
　朧は彼を守る方法は二つあるといった。
　一つはゲームの中のキャラクターとして登場し、主人公をサポートし悪霊から守る方法。
　もう一つは現実世界で彼に寄ってくる怪異を撃退する方法だ。
「どちらに参加しても大丈夫だ。実況者の部屋にはただ、実況者に怪しまれて実況者がゲームを中断したりしない様にだけ気を付けてくれ」
　この呪いから免れる方法は唯一つ、ゲームをクリアすることだけなのだから。

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第2章

第2章 第1節

●第二章
　大変お待たせしました。ゲームは中盤。
　今回も①と②のどちらかをお選びいただきご参加ください。
　複数人での参加も大歓迎です。
　その際は同行者様のお名前かタグを記載してください。

●敵
　蜘蛛女
　雲の体に髪の長い女の生首がついた怪異です。
　知能は低いですが動きが速く目に見えた者に突撃し糸で拘束してきます。
　キョウは常に実況を行っている為、ドアから漏れる光に反応している様です。現実世界の彼の居場所は常に把握しているでしょう。

●場所
　①
　主人公の家です。
　2Dドットですが精巧に作られています。
　②を再現しています。

　②
　キョウの家
　高級マンションの上層階です。
　ゲーム実況を撮る部屋は最奥にあります。
　玄関・手洗い場・風呂場・キッチン・リビング・寝室・実況部屋があります。

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第2章 第2節

「ギャグキャラは二度刺すっ！（自己紹介省略）」
　――あ、さっきの子！！
　驚きを隠せないキョウの声にふっふーんっと』ヨハナ・ゲールマン・ハラタは指で鼻を触る。
「戸惑ってるけどホントはちょっと嬉しいんでしょうっ！　ヨハナ気づいちゃってますからっ！　今回もあなたをお助け差し上げ……」
　瞬き数回、視線の先には口を開けて向かってくる蜘蛛女。
「ってすぐそばに怪異が来てらっしゃるっ！　間に合えうおおおおおおおおおおおっ！！」
　ヨハナが叫ぶ突如として謎の白い光に（以下省略
　――ええ……？　またQTE？
　唐突にサイドビュー視点のRPG戦闘画面に切り替わった。
　――なんで！？
「ふぅ……間に合いましたねっ！　ゲームジャンルが変わってしまえばすぐに襲われることもありませんっ！」
　――さっきも聞いたよソレ！
「ここは大人しく「逃げる」の選択肢を……ってしまったっ！アクティブターンバトルシステムを採用していたっ！」
　――なんなのこのゲーム！
　特異運命座標がそうだといえばそうなのです。
「NPC特有のオート戦闘めいた動きで引き留めているうちにお逃げくださいっ！」　
　――さっきからメタいよこの子！　でも助けてくれるなら味方、なんだよね？　ごめんね、ヨハナちゃん！
「あっ、そうだ！　今回は実績解除用のポップアップも用意しましたっ！」
　ティロンという音と画面左上にポップアップがあらわれる。
　――トロフィーあるの！？これ！！

成否

成功

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第2章 第3節

　そ扉の影から祝音・猫乃見・来探は顔を半分ほど出し、蜘蛛女を覗き込んだ。
「蜘蛛さんの体に、女の人の首……怖い……あの人も、ゲームに囚われたりしてるのかな」
　このゲームは『絶対にクリアできない』とされていた物だ。
　もしかしたら蜘蛛女もこの世界に囚われ、人を喰らい続けているのだろうか。自分が何者かも判らないままで。

「あの人……蜘蛛さんも癒したいとは思うけど、今はキョウさんの無事が第一だから……」
　うん、と頷き祝音は鞄から可愛らしいクマのぬいぐるみを取り出す。
（ごめんね……キョウさんを護る為に手伝って、ね）
　優しく撫でてから、祝音は蜘蛛女の前にぬいぐるみを滑り込ませた。
　視界に映った獲物に蜘蛛女の目が赤く輝き、白い糸を吐き出した。
　蚕の繭の様に真っ白に成り果てたぬいぐるみに心を痛めつつ、祝音は指を伸ばす。
　祝音の周囲からどす黒い怨念が次々浮かび上がり、蜘蛛女へと襲い掛かる。本能的に逃げようとした蜘蛛女を怨霊が喰らい、しかし役目を果たした後は淡く白い光に包まれ浄化されていった。
　白い光が全て消えた時、蜘蛛女も消えていた。

「さよなら、蜘蛛さん…ゲーム終わったら、浄化されるといいね……キョウさんの様子はどうかな……」
　物音を立てぬように気を付けながら、慎重にドアの隙間から中を覗く。
　顔こそ見えないが、楽しそうな声が聞こえてきた。

　僕が帰る時までは守りたい。
　祝音は暫くその背中を見続けていた。

成否

成功

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第2章 第4節

「レーさん旅人だから知ってるっきゅ。実況には取れ高？　っていう物が大事だって」
　愛くるしい海豹、レーゲン・グリュック・フルフトバーの口から取れ高なんて言葉が出てくるなど誰が思っただろうか、否、誰も思うまい。
　取れ高を気にするレーゲンがヒレをフリフリするとなんとも可愛らしい白いふわふわのベイビー海豹が「きゅー」と鳴きながら召喚された。
　――うわあああ！　なんで海豹いるのかわかんないけどかわいいい！
　キョウの黄色い声が上がりコメントも「もふもふ」「正義」など絶賛の言葉が飛び交っている。
「きゅー」
　すりすり、もふもふ。あむあむ甘噛み。
　これでもかという甘えん坊さんオンパレード。
　――ん゛っ゛。
　思わずキョウも悶えている。恐るべし殺人毛玉。
『寝室まで連れて行って欲しいっきゅ！』
　――いく～～！　行っちゃう～～！！
　デレデレしながら主人公、ことキョウは仔海豹を抱き上げ寝室へ向かう。
　その反対側でレーゲンは蜘蛛女を引き付けていた。
　何度か噛みつかれたのか白い毛皮にところどころ赤が混じり、彼を抱きかかえ走る獣人の少女、正しくはレーゲンが捜査しているのだがグリュックと共に走る。彼女の中に居るヴィントは無事だろうか。
　空から降り注ぐ天使の祝福でも追いつかなくなってきた。
　ぐあっと口を開けた蜘蛛女がトドメを刺しに来た。
　とびきり明るい声で仔海豹は別れを告げた。

『ありがとうっきゅ！バイバイっきゅ！』

成否

成功