PandoraPartyProject

シナリオ詳細

隣人を殺してください

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●殺したいほど憎いけど
 ハッシュ・パーカーは木造アパートに住んでいる。彼の日常は夜の21時に帰宅し、24時には眠りにつく。隣人はとても静かでむしろ、ハッシュの方が気を遣うくらいだった。ハッシュにとって、アパートは彼だけの城。城のなかでは、うるさい上司や気分屋の同僚に悩まされることはない。ただ、半年前に悪魔がやってきた。隣人の男。名前も知らない迷惑な男によって、ハッシュの地獄が始まった。隣人の男は朝の五時まで永遠と電話し、音楽は大音量。常にハッシュの睡眠を妨げている。

 男の笑い声が響くたびに、ハッシュは苛立ち、壁を何度も殴り付けた。元々、ハッシュは温厚な男だが寝不足によって仕事はミスばかり、常に苛立ってばかりだ。時折、情緒が不安定になり、泣き出しそうになることもある。管理会社に何度電話してもどんなに壁を殴り付けても隣人の騒音は止むことがない。
「だからね、僕が君に頼んでいるんだよ、彼の友人としてね」
 男は笑い、財産家のフィーネ・ルカーノ (p3n000079) を見下ろす。
「おかしいわね、あたくしは情報屋ではないのだけど?」
 フィーネは男と同じように笑った。此処は有名なカフェだ。フィーネはこの男、ジェロ・ライトという──きっと、偽名だろう。その男に呼び止められ、カフェで紅茶を飲んでいる。フィーネの隣にはボディーガードの男がジェロをじっと眺めている。
「知ってるよ、そんなこと。でも、君はサンドリヨンくんと仲が良いだろう? だから、君にお願いしているんだよ」
 ジェロは言った。
「彼に……? あたくしがなんて?」
 フィーネは目を細めた。この男は何を依頼するのだ。
「そうだね、隣人を殺してくれと」
「急に物騒な話だけど、隣人トラブルってそういうものよね」
「そうだね、それは仕方がないことだ。でも、ハッシュはとても優しくて彼自身が引っ越すべきだと思っているみたいだよ」
「あら。なら、それで解決なのでは?」
 席を立とうとするフィーネの手首を掴むジェロ。反応するボディーガードを一瞬で制し、フィーネはジェロの額に銃口を向ける。
「残念ね。この依頼消しとんでしまうけど?」
「あ! それは困るね、僕も」
 ジェロはパッと手を離し、けらけらと笑う。

●悪依頼
「で、僕が呼ばれたわけですね」
 『ロマンチストな情報屋』サンドリヨン・ブルー(p3n000034)は、ジェロと面倒そうな顔をしているフィーネを交互に見つめる。
「そうね」
 口数の少ないフィーネ。依頼人のジェロはにこにこしている。
「サンドリヨンさん! お願いします! 僕、親友のハッシュをこっそり救いたいんです!! だって、隣人がちょっと喋っただけで壁を狂ったように叩くってそんなの異常でしょう? 解放してあげようと思うんですよ、僕が!!」
「でも、殺す必要はありますか? ハッシュさんに内緒で隣人を殺すのでしょう?」
 サンドリヨンは尋ねる。一応、聞いておかなければならない。
「!! ありますよ、ハッシュが困ってるんですもん!! 人を殺すには充分過ぎませんか? でも、彼は優しくて僕が……この依頼をしたと知ったらぜったいに悲しむのでそこは内緒にしてください」
 ジェロは言った。
「そうですか……わかりました。ご希望はございますか?」
 サンドリヨンは言った。
「ええと、僕は数日間、ハッシュと一緒にホテルに泊まります。だから、ハッシュの部屋は空です。でも、他の部屋は勿論分からないしそもそも、木造アパートなのですぐに響いてしまいます。だから、あまり、音がしないように殺してくださいね。あ、そして、一番、大切なことなんですが、隣人のハッシュが疑われないようにちゃんと偽装してくださいよ。勿論、僕が依頼したこともバレないようにね?」
 ジェロは笑い、そうだと手を叩いた。
「今までの苦痛が報われるように殺してくださいね? 我慢の限界なんですから!」

GMコメント

 青砥です。今回の依頼は悪依頼です。有意義に隣人を殺してください。

●目的
 隣人を殺すこと。ちなみに皆さんは前もって、隣人や依頼人、依頼人の友人に接触することは出来ません。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●場所
 幻想の木造アパート築40年。殺害予定の隣人の部屋は103号室。1K。

●時刻
 好きな時間帯を選べます。昼間であればほとんどの住人が仕事でいないようです。夕方から夜にかけて住人が部屋に戻ってくるようです。

●隣人
 男性。名前など知りたくもない!!という理由から名前は不明となっております。夜も昼もアパートにいます。騒音を発する悪魔。音楽を大音量で聞く。朝まで電話したりと煩い。

●ハッシュ・パーカー
 男性。睡眠負債により、日々、イライラするようになる。隣人の騒音被害によって、隣人の物音が少しでもすれば壁をどんどんと何度も叩く。情緒不安定。遅刻や寝坊が増え、やる気も下がっている。

●ジェロ・ライト
 男性。ハッシュ・パーカーの親友らしい。邪魔なものは排除せよという考えの持ち主っぽい。

  • 隣人を殺してください完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月26日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)
悦楽種
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
観音打 至東(p3p008495)
鏡(p3p008705)
日暮 琴文美(p3p008781)
被虐の心得
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ

リプレイ

●何も知らない貴方へ
 誰かが地面に座り、祈っている。黒色の外套が揺れる。簡易的なお祈りセット。
「大いなる父よ、私達に悪事を裁く力をお与えください」
 顔は黒色の覆面で覆われ、右頬にはピンクの茨が描かれている。そう、その者は『悦楽種』メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)だ。彼女は立ち上がり、馬車を大胆に走らせる。
「向かうは死への旅、ですかしら?」

 訪問者はクリーム色の外観を見上げ、崩れたケーキを想像する。
「うっわ、ここが例のアパートだなァ。住民の質が悪そうじゃねェか」
 享楽的で華やかなる薔薇の香り。サングラスで目元を隠した『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)が笑う。
(過保護な依頼人もいたモンだなァ、引っ越せばいーものの。まーこれで金が貰えんのはありがたいケド)
「ことほぎの言う通り、想像以上のボロアパートだな。で、確かに此処の部屋に間違いないようだが……静かすぎる。本当にいるのか?」
 銀髪を揺らすのは狐耳と尻尾を持つ『戦神護剣』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)。水色の瞳をぎゅっと細め、緑色の扉を眺める。
「紫電さん、その心配はないようです」
 『悪徳貴族』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)が胡散臭い笑みを浮かべている。じわりと滲む愛嬌。スーツはその逞しい身体を隠してはくれない。その横にはウィルドが用意した馬車があった。
「どういうことだ?」
 アレンツァーは言った。
「部屋から匂うんですよ。この匂いはまさしく、ナポリタンでしょう。今、食べているようですよ。おや、粉チーズを追加しましたね」
 ウィルドは扉を指差す。猟犬のような嗅覚が最期の食事を言い当てる。
「ウィルド殿、流石でござるな。我々の不安を一瞬で払拭したで候。これで殺しに集中ござるヨ?」
 『破竜一番槍』観音打 至東(p3p008495)が快活に言う。和風メイド服が良く似合っている。
「そのようですねぇ。とーっても良かったですよ。これならサンドリヨン殿に素敵なご報告が出来ます」
 黒曜の二本角を持つ白い鬼人種、『被虐の心得』日暮 琴文美(p3p008781)が部屋の男を想像する。
「どんな風に調理されるのでしょうか? きっと美味しくなりますよ」
 鮮血に歪む男の顔。絶叫は甘美なスパイス。べったりと得物にこびりつく男の脂。早く、幸福な男に会いたいと思った。
「ご近所問題のお陰ですねぇ。わたくしには残念ながら縁のなかったお話なので共感しかねますが」
(そもそも、誰もわたくしの近所に住みたいとは思わないでしょうねぇ。そういえば、唯一近づいてきたのは、おバカな浪人でしたかねぇ……まぁ、殺しちゃいましたが)
 琴文美は懐かしむ。
「料理に例えるなんて素晴らしいじゃないですかぁ。お腹が空いてきましたよぉ」
 楽しそうに口を開いたのは鏡(p3p008705)だ。ハンバーグ? それとも、丸焼き? 岩塩包み焼き? ああ、本当に食べてしまいたくなる。
「いいですねぇ、殺し屋と料理人はオーダーに忠実という意味ではとても良く似ていますから」
 『青き砂彩』チェレンチィ(p3p008318)が無意識に左目の眼帯をするりと撫で、美しい青翼を春風に揺らす。
「今のところ、誰もいないようです」
 360度の視野がそれを誠にする。
「しかし、また同じような人が隣に越して来たら、また友人の為に依頼を出すんでしょうかねぇ? 依頼人は」
 チェレンチィは笑う。人にいつだって愚かだ。
「そうかもねぇ、自分の手を汚してでも友達の為にありたい人だもの。ただぁ、手を汚さない彼の友情は本物なのか、それとも」
 鏡は考え込む。まぁ、考えるフリだが。
「友情……彼は自分の為だけに友人を利用しているだけかもしれません、もっともらしい理由でね。まぁ、ボクには関係ないことですけども」
「そうでした、本当にどうでもいいことでしたねぇ。そういう人がいるから、私達は仕事ができるんですからぁ」
 笑う鏡。ふと、僅かに聞こえる金属音。
「開いたぞ」
 鍵穴の前のアレンツァー。
「仕事が早いですねぇ、鍵開けお見事です。大泥棒のようです」と鏡。
「そりゃあ、どうも。まぁ、分かりやすい構造だったからな。ドアチェーンもかかっていなかったし」
 アレンツァーは言いながら哀れな男を思った。此処に住まなければ死ぬことはなかった。
「とっとと殺るとするか」
 ことほぎがサングラスのブリッジを押し上げ、部屋の奥に消えていく。
「……」
 頷き合い、それを追う仲間達。扉の外には──
「良い天気だ」
「そうですね、公園でゆっくりしたくなりますよ」
 アレンツァーが目を細め、ウィルドが青空を見上げる。

●多くの侵入者が彼を見た
 薄暗い廊下の先にはガラス戸があった。
「汚くねェけど中狭いな! イヤ外観から予想できてたが!」
 ことほぎが苦笑する。流し台には汚れたフライパンやまな板、包丁が置いてあった。
「忽ち、廊下が無きに。これが1Kでござるね。こじんまりで良き良き。早速、プロの仕事を始める候。仕事にオーダーの多いのは辟易ござるけど楠切村正と拙者達なら可能ござるよ。すぐに遮断申す」
 半径20メートル以内の念話を遮断する至東。これで誰にも邪魔されない。
「お邪魔しますねぇ」
 廊下の端の大きなゴミ袋を避け、引き戸を引く鏡。
「わぁ、シックで素敵な部屋です」
 きょろきょろと部屋を見渡す鏡。夏色のラグマット、ホワイトのローテーブル、ブラックのソファ。青い瞳の若い男がスエット姿で出迎える。
「は? 誰だ、あんたら?」
「小奇麗で想像と違いますね」
 男に近づくチェレンチィ。両手には延長コード。
「小奇麗? あんた、何言ってんの? しかもさぁ、それ。俺の部屋から盗ったでしょ? そーいうの止めてくれない? 窃盗だよ、窃盗!」
 男は立ち上がり、チェレンチィを見下ろす。
「え? ああ、それはすみませんでした。でも返せないんですよ、残念ですが」
 チェレンチィは延長コードを男の鼻先に当て、一気に縛り上げる。ぽかんとする男。動けない。チェレンチィがぎゅうぎゅうに男を縛ったのだ。
「めっちゃ間抜け面じゃねェ?」
 手に持った煙管を男に突きつけ、ことほぎは笑う。刻み煙草を指で摘まみ、雁首に軽く押さえ入れる。男は黙ったまま、ことほぎを見つめている。
「熱心だなァ。照れちまうぜ!」
 吸い口を咥え、雁首から少し離し着火。熱いスープをゆっくりと楽しむようにことほぎは目を細めた。充満する煙。葉が燃えていく。
「で? お前が隠してる宝はどこにあるって? それと大声は絶対にだすなよ?」
 ことほぎは男の眼前に煙を吹き付ける。
「ん、んなもんねぇよ……し、知らねぇって」
 男は咳き込んだ。声は震え、困惑の表情を向ける。
「嘘はいけませんねぇ。切り刻まれたいですか? それとも刺突と斬撃の繰り返しがお好みでしょうか? さぁ、貴方はどんな殺され方をなさりたいですか?」
 琴文美が幻魔、複合暗器を鋼糸に変え詰め寄る。
「は、殺され……?」
「そうですよ。ああ、拷問器具の方がそそるでしょうか……ふふふ」
「やめろ、近づくな」
「ふーむ? 言わぬと申すか。大丈夫でござる、そんな声を出さなくとも」
 至東は母性1000%の笑みを男に向け、楠切村正『華耽』『月望』、妖刀を取り出す。美しい刃紋に浮かぶ花の香は弔歌。男は母性にとろけ、妖刀を恍惚な表情で見つめる。
「ああ、ママぁ!」
「大きな声を出さないでください、それが愛しいママの前でもねぇ?」
 鏡は男の頬を片手で掴み笑顔で凄む。
「気分を上げていきましょぉ? えーと、ボリュームはこれですかねぇ」
 鏡は小型の音楽プレーヤーを手に取り、ことほぎが猿轡を男にはめる。

「映画のBGMが流れ始めたな」
 大音量の音楽。気が付くアレンツァー。
「確か動物映画でしたよね」
 ウィルドが言う。
「ああ、名作だ」
「ええ、何度も観ました。話は変わりますが紫電さん」
「ん?」
「この依頼どう思います? 話を聞く限り、依頼人もまともではないご様子で」
「騒音バカと排除主義の狂人。所謂、偏った依頼だ。ただ、昔の天義や一部幻想貴族に比べたらまだぬるい方というのが気に食わない」
「はは、そうですよね。隣人を殺してほしいなんて純粋で子供のようなご依頼ですものね。ま、かくいう私は、面白そうなんで依頼を受けてしまったわけなのですがね」
 ウィルドは微笑み、広域俯瞰と超嗅覚でしっかりと見張っている。
「まったく、イかれてるのは依頼人か騒音バカのどっちだろうな」
 アレンツァーが溜め息を吐く。

●拷問のお時間
「じゃ、後はお任せします。あ、ここ座らせてもらいますねぇ」
 鏡がソファに座り足を組めば魅惑の足に誘われ、男が喉を鳴らす。
「こんな時でも男性なのですねぇ……それか鈍感でしょうか」
 琴文美の冷たい声にびくりとする男。琴文美は鋼糸を男の首に巻き付け、締め上げる。

 ──蛇のように巻き付いた糸は肉を斬り、脂を纏う

「嗚呼、嗚呼……肉が斬れる感触は堪りませんねぇ……貴方を直に感じる事が出来ます。気持ちが良いですよ」
 恍惚とする琴文美。ただ、殺すことはない。 
(仲間のプランに従いますとも今回は味方ですからね?)
 男は目を剥き、首からルビーの雫を垂らす。
「悲鳴を上げねぇってか。拷問の腕が鳴るなァ。おい、アンタ! 知らねぇって嘘吐いてんじゃねェだろうな?」
 ことほぎの言葉に男が首を左右に大きく振れば、煙管が男の頬を強く打つ。
「うっ……!?」
「じゃあ鍵の開け方は?」
(聞いてなかったのか……? こいつ、いかれてやがる……)
 ことほぎの言葉に男は息を呑み、理解する。
(サングラスで解らなかったがこいつ、極楽院じゃねえか。悪名女がどうしてこんなところに?)
「余所見ならば、観音打で左の指候」
 至東が妖刀を刃立て、透らせ、男の指をゆっくりと断っていく。

 ──切断面は飾られた絵よりも美しい

「これはなんであると知る? 言わぬと申すか?」
 至東は五本の指を男の前に並べ、左耳を笑顔で切り落とし、ゴミ箱に放り投げた。
「ああ、地図は何処ござる!」
 男は狂い、暴れている。涎の泡が顎を伝う。

 ──痛みは何故あるのでしょうか

「仲間を庇っているのですか?」
 チェレンチィはコンバットナイフと夜色の短刀を取り出し、男の右指を落としていく。
「Aは何処ですか?」
 五本の指が星のように散らばる。
「朝5時まで誰と電話してるのですか? ああ、起きてくださいよ」
 チェレンチィは気絶した男の肩を揺らす。縛られたままの皮膚は紫色から蒼白に変わり、男は悲鳴を上げる。
「答えないのですね……ま、良いです。ただ、こんなところでよく生活出来ますね」
 薄い壁には血痕が飛び散る。男は壁に身体を押し付け、助けてと怒鳴り始めた。
「失礼、うるさいの嫌いなんですよ、ボク」
 チェレンチィは男の額をナイフの柄で殴った。男は真横に倒れながら怒鳴り続けている。
「まだまだでござる。ウェットワークは、拙者、処女ではのうござるよ。懐かしいと思うくらい、離れてはおり申すけどね」
 至東が哀れみながら男の鼻を削ぎ落した。
(『暮六晩鐘』に居たままであれば。きっとわたしは、残り2百時間の拷問学講義も、受けていたことでしょうね)
 思い出す。至東は冷蔵庫にあった芋焼酎を、猿轡を外した男の口に注ぐ。
「最期の酩酊は極楽の証でござる」
 至東は男の右耳を斬り、フライパンでこんがり焼き、テーブルに置く。
「足の指もいただきますねぇ」
 琴文美の糸が食い込み、ぽろりと指が落ちた。それなのに──男は真っ白な顔で痛みに耐えている。
「強情すぎ。つーわけで監獄魔術の出番じゃん?」
 ことほぎは煙管を咥え──
「って、無理無理。オレの魔術は離れたトコからだかんな。まー近距離でどうにかするスベがないワケじゃねーけど」
 男の首を掴みバケツの底に顔を沈ませれば、男は生きたいと身体を動かす。
「ねぇ、こっち見てぇ」
 鏡が手を振れば、ことほぎが男の顔を持ち上げる。
「イケメン君ですねぇ。隣人君、ここに来る前にカメラ買ってきたんですよぉ。依頼人にお土産の一つでもあった方がイイかなぁって」
 鏡は残酷な言葉を吐いた。
「奪った指や耳、鼻を撮るのも良いですねぇ」
 琴文美は皿にパーツを置き始める。
「それはナイスアイディアですよぉ」
「壁の血痕も撮りますか?」
 チェレンチィの言葉にカメラを向ける鏡。そして、男を眺める。
「さ、お待たせしました。主役ですから笑ってください、にこーって出来ませんか?」
 自分の姿がぼんやりと映り、男は目を見開いた。
「ほら──『こう』するんですよぉ」
 笑っている。声も同じだった。でも、実際はどうでも良かった。驚いているはずなのに。春だからだろうか、とても眠い。
(一瞬、びっくりしてましたねぇ。クローンボイスで彼の声、ギフトで彼の姿を真似しただけですけど)
「イイ表情(かお)が撮れました。じゃあ、ウィルド君、お願いしますよぉ?」
「……? 隣人くんではなく鏡さんでしたか。危ないですね」
 ウィルドが本物を見つめる。
「おや、練達製の高級ドライヤーですか。これは実に使い勝手が良いです。こちらはゲーム用のパソコンですね。君は配信者か何かですかねぇ?」
 ウィルドはにっこりと微笑む。髪を乾かしてあげようか、なんてね。
「隣人くん、隣の部屋の住民はどうですか?」
 その質問をした瞬間、男の目に光が戻った。
「素敵な方でしょう?」
「かべ……叩き、やがる……」
「そうですか、それはご愁傷様です」
 ウィルドは男の左肩を労うように触れれば──男は唸り、ウィルドに飛び掛かった。緩んだ延長コードがラグマットに寝そべる。
「愚かな真似でしょうか」
 ウィルドは飛び退いた。途端に両腕はラグマットに落ち、両目は潰れ、男はタコのようにぐにゅぐにゅと崩れ落ちる。両足を深く斬られたのだ。男は震えている。泣いているように思えた。
「やるじゃん」
 ことほぎが笑う。腕の切断は琴文美。両目を潰したのはチェレンチィ。両足を斬ったのは至東だった。
「ここまでよく頑張りましたね」
 ウィルドは死にかけの男を何度も殴り付けた。肉が軋み骨が歪む。ウィルドは唇に飛び散った赤を舌で舐め、笑った。撲殺、シンプルな依頼にぴったりな殺し方だった。

 肉塊の男はビフテキに似ている。
「この財布と時計、ブランド品じゃねェ。アンタ、金持ちだなァ」
 ことほぎが財布と高級腕時計で懐をパンパンにさせ、踵を返した。
「あ、帰りますか? じゃ適当に彼の服を拝借してっと。あれ、服どこですか」
 ことほぎに視線を向け、鏡がギフトを解除する。瞬く間に顔や服が溶け崩れ、生まれた時の姿となる。勝負下着(セキガハラ)も勿論消えてしまう。
「鏡殿、ここに長袖とズボンがあります」
 琴文美が手渡し、嬉しそうに服を着る鏡。ウィルドは男を担ぎ浴室へと放り投げれば、チェレンチィが換気扇を回し本棚を荒らす。
「発見されやすいように音楽は消しておいた方がいいですかね?」
 チェレンチィは言う。
「それは名案申す」
 押し入れを荒らしていた至東が頷く。呆気なく音が消える。
「これからボクは強盗団が近くに潜んでいるらしい、そんな噂を流してこようと思います」
 チェレンチィは部屋を飛び出す。
「いってらっしゃい♪ うん、良い感じですねぇ、それではお邪魔しました」
 鏡が満足そうに部屋を見つめ、歩き出す。すぐに扉が閉まる音が聞こえた。

●二台の馬車
「彼の旅は終わったようですね、お疲れさまでした。どうぞ、こちらへ」
 メルトアイは言う。
「ありがとう。見張ってたけどもやっぱり昼間は人が少ないんだな。それに皆、無関心だ」
 アレンツァーが言う。
「そういうものなのですねぇ」
 琴文美が頷く。
「昔の繋がりとは違う気がしますね。さぁて、強盗っぽく逃走しますよ」
 メルトアイは乱暴に馬車を走らせる。
「私達も行きましょうか」
 ウィルドが馬車に誘う。
「ウィルド殿、できれば行き先は、広い風呂か泉のあるところがようござるなァ」
 至東が言う。
「オレも風呂がいいなァ」とことほぎ。
「仕事の後に一風呂浴びるなんて贅沢ですねぇ、コーヒー牛乳でも飲みましょうか」
 鏡が提案する。
「私も賛成ですよ。あとで皆さんと合流しましょう」
 ウィルドが目を細め、男の部屋で見つけたピエロの覆面を被る。
「皆さん、投げ出されないでくださいね」
 逃走するウィルド。メルトアイとは異なるルートで逃げ、上空から見下ろすような第二の視点を使う。
「これはこれは馬に乗った男がこちらに向かってきています。よく分かりませんが撒きましょう」
 ウィルドは瞬時に馬車を左に。それから、ローレット・イレギュラーズは合流し温泉宿に宿泊する。
 
 ──誰も彼らを捕まえることは出来ない

 荒々しく駆ける馬車が大勢の目撃者を作り出したとしても。そして、噂はすぐに巨大な怪物に変わる。強盗団は何処にもいないというのに。

 後日、ローレットにビデオテープが届けられた。ジェロだ。
「ありがとう、これでハッシュは解放されたよ。それにあの写真、エキサイティングで最高だよ! 見る度に至極、元気が出ますよ! 素晴らしい! 流石、イレギュラーズだ!」
「こんな素敵な事で貴方の気が収まるのなら……貴方のお仕事また引き受けてみたいものです」
 琴文美の呟きに皆が同意する。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 PM:13:26 ハッシュ・パーカーは管理会社に電話をする。
「もしもし、あの……隣人が殺されたようなので家賃を下げていただけますか?」

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